弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主         文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴人の当審での予備的請求に基づき
 (1) 被控訴人B1及び被控訴人B2は,控訴人に対し,それぞれ金59
57円ずつ及びこれに対する平成12年4月1日から支払済みまで年5分の割合に
よる金員を支払え。
 (2) 被控訴人Cは,控訴人に対し,金2万6940円及びこれに対する
平成12年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 (3) 被控訴人Dは,控訴人に対し,金1万4506円及びこれに対する
平成12年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 (4) 被控訴人Eは,控訴人に対し,金1万7614円及びこれに対する
平成12年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 (5) 控訴人の当審でのその余の予備的請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用の負担について
 (1) 原審での訴訟費用は控訴人の負担とする。
 (2) 当審での訴訟費用はこれを10分して,その7を控訴人の負担と
し,その余を被控訴人らの負担とする。
4 この判決は,主文2項(1)ないし(4)に限り,仮に執行することができ
る。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1控訴人
 (1) 本件控訴(主位的請求)に基づき
 ア 原判決を取り消す。
 イ 被控訴人B1及び被控訴人B2(以下「被控訴人B両名」という。)
は,控訴人に対し,6万4000円を支払え。
 ウ 被控訴人Cは,控訴人に対し,6万2350円を支払え。
 エ 被控訴人Dは,控訴人に対し,6万2350円を支払え。
 オ 被控訴人Eは,控訴人に対し,4万4800円を支払え。
(2) 当審で追加した予備的請求に基づき
ア 被控訴人B両名は,控訴人に対し,それぞれ7767円ずつ及びこれに
対する平成12年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
イ 被控訴人Cは,控訴人に対し,3万5120円及びこれに対する平成1
2年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 
ウ 被控訴人Dは,控訴人に対し,1万8911円及び及びこれに対する平
成12年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
エ 被控訴人Eは,控訴人に対し,2万2963円及び及びこれに対する平
成12年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  (3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
  (4) 仮執行宣言
2 被控訴人ら
(1) 本件控訴及び控訴人の当審での予備的請求をいずれも棄却する。
(2)当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。
第2 主位的請求に関する当事者の主張
1 控訴人(請求原因)
(1) 控訴人(自治会)の設立等
  控訴人は,兵庫県多可郡e町f山g番所在の通称「A別荘地」の第1分譲
地(以下「本件別荘地」という。)内の土地所有者を会員として,平成10年2月
22日に設立された自治会であり,いわゆる権利能力なき社団としての実態を備え
ている団体である。
(2) 本件規約の定め
  控訴人の自治会規約(以下「本件規約」という。)には,本件別荘地内の
土地所有者の共有地及び共有施設を維持管理するために要する費用(会費)とし
て,1区画当たり,本件別荘地内に土地のみを所有する者は年額2万8000円
を,土地及び建物を所有する者は年額4万円をそれぞれ控訴人に支払う旨の定めが
ある。
(3)被控訴人らの会員性
ア 被控訴人らは,控訴人の会員である。すなわち,被控訴人らは,いずれ
も,本件別荘地内の土地を所有する者であり,平成10年2月22日に開催された
控訴人の設立臨時総会に出席した。
イ被控訴人D及び被控訴人Cについて
 上記2名については,次の事実からも,控訴人の会員であることが明ら
かである。
(ア) 被控訴人C及び被控訴人Dの父bは,平成10年6月7日に開催さ
れた控訴人の第1回通常総会にも出席した。
(イ)bは,平成9年ころから,控訴人の設立準備に役員(副代表)とし
て積極的にかかわっていた。
ウ 仮に,被控訴人らが控訴人への入会手続を経ていないとしても,被控訴
人らは,被控訴人らが本件別荘地内で所有する共有地及び共有施設について,控訴
人による維持管理によって恩恵を受けているのであるから,控訴人の会員に準じた
地位にあり,信義則に照らし,本件規約に基づく会費支払義務を負うというべきで
ある。
(4)未払会費等の存在
  平成10年10月分から平成12年3月分までの被控訴人らの未払会費及
びこれに対する年5分の割合による遅延損害金は,以下のとおりである。
 ア 被控訴人B両名
未払会費6万円 遅延損害金4000円合計6万4000円
イ 被控訴人C
未払会費5万8500円 遅延損害金3850円合計6万2350円
ウ 被控訴人D
未払会費5万8500円 遅延損害金3850円合計6万2350円
エ  被控訴人E
未払会費4万2000円 遅延損害金2800円合計4万4800円
(5)結論
  よって,控訴人は,被控訴人らに対し,本件規約に基づき,上記各未払会
費及び各遅延損害金の支払を求める。
2 被控訴人ら(請求原因に対する認否)
(1) 請求原因のうち,控訴人が,いわゆる権利能力なき社団としての実態を備
えている団体であることは争わないが,その余は否認ないし争う。
 (2) 被控訴人らが控訴人の会員となったことはなく,会員でない被控訴人らが
本件規約に基づく会費支払義務を負う理由はない。
第3 予備的請求に関する当事者の主張
 1 控訴人(請求原因)
(1)被控訴人らの土地所有及び持分
  被控訴人らは,本件別荘地内の土地を所有している。また,本件別荘地内
には土地所有者全員の共有地(以下「共有地」という。)及び共有施設(以下「共
有施設」という。)があり,被控訴人らは,これらを以下の各持分割合で共有して
いる。
ア 被控訴人B両名 各3676分の23ずつ
イ 被控訴人C 1838分の52
ウ 被控訴人D 1838分の28
エ 被控訴人E 1838分の34
(2) 被控訴人らにも受益がある支出額
  控訴人は,本件別荘地内の管理等を行ってきた。被控訴人らは,本件別荘
地内の土地所有者であり,共有地及び共有施設の共有者であるから,控訴人の管理
行為等によって恩恵を受けており,被控訴人らの共有地及び共有施設の各持分に応
じて受益がある。
  控訴人が,平成10年10月1日から平成12年3月31日までの間に,
管理等により支出した管理等の費用(被控訴人らにも受益がある支出額)は,次の
とおり合計124万1388円である。
ア給水ポンプ等管理費用 90万円
  控訴人は,d電器(以下「d」という。)に対し,平成10年6月30
日ころ,報酬月額5万円で共有施設のうちの給水ポンプ及び防犯灯の保守点検等を
委託し,平成10年10月分から平成12年3月分の報酬として,合計90万円を
支払った。
イ電気代 14万8636円
  前記給水ポンプ及び防犯灯の電気代である。
ウ通信費 5万0220円
  控訴人は,会員に対し,定時総会の案内書等や議事録,「Aニュース」
(自治会報)を郵送している。これらの郵便物は,本件別荘地の土地所有者全員の
利益のために発信されているものであり,その費用については,被控訴人らも応分
の負担をすべきである。
エ事務用品費 1302円
  上記郵送の際の封筒代であり,ウと同様,被控訴人らも負担すべきであ
る。
オ除草費等 10万6630円
  控訴人は,定期的に,本件別荘地内の除草作業及び側溝等のヘドロや土
砂の除去作業を業者に依頼している。
カ井戸蓋製作費 3万円
  共有施設である上水用井戸に小石や泥が投入されたため,控訴人は,そ
の対策として,新しい井戸蓋の製作とその設置を注文した。
キ 水質検査費 4600円
前記上水用井戸の水質を検査した際の費用である。
(3) 被控訴人らの利得金額
  上記被控訴人らにも受益がある支出額合計124万1388円に,被控訴
人らの各持分割合(前記(1)のアないしエのとおり)を乗じて算出した被控訴人らの
利得金額は,次のとおりである。
ア 被控訴人B両名   各7767円ずつ
イ 被控訴人C     3万5120円
ウ 被控訴人D    1万8911円
エ 被控訴人E     2万2963円
(4) 結論
    よって,控訴人は,被控訴人らに対し,不当利得に基づき,前記(3)の
アないしエ記載の利得金,及びこれらに対する受益後の日である平成12年4月1
日から支払済みまで年5分の割合による各遅延損害金の支払を求める。
 2 被控訴人ら(請求原因に対する認否及び抗弁)
(1) 認 否
ア 請求原因(1)(被控訴人らの土地所有及び持分)は認める。
 イ 請求原因(2)(被控訴人らにも受益がある支出額)について
(ア) 同ア(給水ポンプ等管理費用)について
 従前,本件別荘地の管理人であったcは,共有施設の保守管理のほか
本件別荘地内の見回りや除草作業も行っていたが,dの業務内容は共有施設の保守
管理のみであり,月額5万円の報酬は高額に過ぎる。
 (イ) 同イ(電気代)について
   被控訴人らにも受益のある支出であることは認める。
 (ウ) 同ウ及びエ(通信費及び事務用品費)について
   これらは,いずれも控訴人自治会内の私的な費用であるから,被控訴
人らに受益はない。
 (エ) 同オ(除草費等)について
  被控訴人らの所有地は除草の対象から除外されているから,被控訴人
らに受益はない。
(オ) 同カ(井戸蓋製作費)について
   井戸蓋設置の必要は認められず,被控訴人らに受益はない。
 (カ) 同キ(水質検査費)について
   被控訴人らにも受益のある支出であることは認める。
ウ 請求原因(3)(被控訴人らの利得金額)は争う。
  (2) 抗弁(請求原因(2)の認定額からの控除)
 次の金額(cからの引継金等)は,請求原因(2)(被控訴人らにも受益があ
る支出額)の認定額から控除されるべきである。
ア管理費の引継ぎ
  控訴人は,平成10年2月ころ,cから,次のとおり,同人が本件別荘
地の各所有者から支払を受けていた管理費(既収管理費)の残金及び未収管理費債
権合計75万9580円を引き継ぎ,その後,同未収管理費債権のうち相当額を回
収した。
(ア)  既収管理費残金 34万9580円
(イ) 引継ぎ当時の未収管理費債権 41万円
イ敷地料の引継ぎ
  控訴人は,cが関西電力から支払を受けた共有地の敷地料(平成10年
2月1日から平成12年3月31日までの分)10万7030円を,cから引き継
いだ。
 3 控訴人(抗弁に対する認否及び再抗弁)
(1)認 否
ア 抗弁アの管理費の引継ぎ(ただし,未収管理費債権については,控訴人
が現実に回収した分),抗弁イの敷地料の引継ぎについて,請求原因(2)(被控訴人
らにも受益がある支出額)の認定額から控除すること自体については,争わない。
イ 未収管理費債権のうち控訴人が現実に回収したのは合計32万円であ
る。
  (2) 再抗弁(抗弁の認定額からの控除)
 控訴人は,平成10年2月1日から同年9月30日までの間に,別途本件
別荘地内の管理等の費用を支出しており,同費用は,被控訴人らに受益があるか
ら,抗弁(請求原因(2)の認定額からの控除)の認定額から控除されるべきである。
同費用の具体的な内容は,以下のとおりである。
 ア 平成10年2月1日から同年3月31日まで 合計12万9653円
  (ア) 電気代 1万0571円
  (イ) 通信費 2万3570円
  (ウ) 広告費 1万5000円
(エ) 事務用品代 3万8804円
(オ) 会議室代 3万9041円
(カ) 雑費 2667円
   イ 平成10年4月1日から同年9月30日まで 合計64万5732円
    (ア) 管理費 20万円
(イ) 電気代 4万3846円
(ウ) 通信費 1万9360円
(エ) 事務用品代 4351円
(オ) 定時総会会場使用料,茶菓子代 6988円
(カ) 井戸まわりフェンス設置代 31万2388円
(キ) ポンプ移設工事代 3万7800円
(ク) 看板製作費 2万1000円
 4 被控訴人ら(再抗弁に対する認否)
 (1) 再抗弁ア(ア)(電気代)及び同イ(イ)(電気代)が被控訴人らにも受益の
ある支出であることは認めるが,その余は被控訴人らに受益がない。
(2) 控訴人が再抗弁で主張する項目のうち,被控訴人らに受益がある支出につ
いては,抗弁記載の金額から控除すること自体については,争わない。
理由
第1 証拠関係
  以下,原審において提出された書証については,次のとおり摘示する。
1 原審平成12年(ハ)第85号事件の甲号証を甲A,乙号証を乙Aとする。
 2 同第86号事件の甲号証を甲B,乙号証を乙Bとする。
 3 同第87号事件の甲号証を甲C,乙号証を乙Cとする。
 4 同第90号事件の甲号証を甲D,乙号証を乙Dとする。
 5 書証番号の前にアルファベットを付していないものについては,原審全事件
の当該番号の書証を摘示したものとする。
第2 主位的請求について
 1 前提事実
  証拠(甲1・2,6ないし10)及び弁論の全趣旨によれば,請求原因(1)
(控訴人〔自治会〕の設立)及び同(2)(本件規約の定め)が認められる。
 2 請求原因(3)(被控訴人らの会員性)の検討
(1) 事実の認定
  前記1の前提事実に,証拠(甲A15,甲A28,甲A34,甲A40,
甲A41の1ないし4,乙A6,乙A17,乙B10,乙C17,乙D16,原審
における控訴人代表者本人a,当審における証人a,証人b)によれば,次の各事
実が認められる。
ア 本件別荘地においては,当初,cが管理人となり,各土地所有者から管
理報酬として土地1区画当たり年額5万円の支払を受けて本件別荘地内の管理行為
等を行っていた。
  しかし,平成9年ころから,cの管理行為等に不満を抱いた土地所有者
らの間で,cとの管理委託関係を解消し,土地所有者で本件別荘地を共同管理をす
ることを目的とする自治会を設立することが計画された。自治会の設立準備のた
め,「自治会設立準備委員会」が組織され,被控訴人Dの父bは,同委員会の副代
表者に選任されてこれに加わっていた。
イ 自治会設立準備委員会の構成員らは,本件別荘地の全土地所有者に対し
て招集の通知を送付した上,平成10年2月22日,自治会設立臨時総会(以下
「設立総会」という。)を開催し,同総会における賛成多数によって,控訴人(自
治会)が設立された。
  なお,cは,設立総会の場で,平成10年1月末日限りで,本件別荘地
の全土地所有者との関係で管理人を辞任する旨の意思を表明した。
ウ 被控訴人らは,上記通知を受けて設立総会に出席した(被控訴人Dにつ
いてはbが代理出席した。)が,cが管理人を辞任することや,自治会を設立する
ことに反対の意思を有していたことから,設立総会における議決にはいずれも賛成
しなかった。
エ平成12年6月4日改正前の本件規約では,控訴人に入会しようとする
者は,入会申込書を提出しなければならない旨規定されているが(同規約第7条・
甲1),被控訴人らは,いずれも控訴人に同入会申込書を提出していない。
オ控訴人は,平成10年6月7日,第1回通常総会(以下「第1回総会」
という。)を開催し,同総会には,b及び被控訴人Cが出席した。
(2) 検 討
ア 当裁判所の判断
上記(1)の認定によれば,被控訴人らは,設立総会には出席したものの,
控訴人の設立趣旨には反対の意思を有していたため,設立総会において,議決には
いずれも賛成しなかった上,入会のために必要な手続であった入会申込書の提出も
しなかったのであるから,被控訴人らが同日控訴人に入会したとは認められず,そ
の他,被控訴人らが控訴人(自治会)に入会の意思を表明したことを認めるに足り
る証拠はない。
   よって,被控訴人らが控訴人に入会したとは認められない。
イ 上記判断に反する控訴人主張の検討
  (ア) 控訴人は,被控訴人D及び被控訴人Cについては,父bないし被控
訴人C本人が第1回総会にも出席したこと,被控訴人Dについては,控訴人設立前
から,bが控訴人の自治会設立準備委員会に役員として参加していたことを理由
に,上記2名は控訴人の会員であったことが明らかである旨主張する。
  (イ) しかし,証拠(甲A34,甲C17,証人b)によれば,bは,控
訴人の設立準備の経過の中で,cへの対応等に関して,他の役員らとの間で意見が
対立していたこと,前記認定のとおり,設立総会当日においては,bも,他の被控
訴人らと同様に,総会の議決には賛成しなかったことが認められ,これらの事実か
らすれば,bは,控訴人の設立準備にはかかわっていたものの,遅くとも設立総会
時には,控訴人の設立趣旨に反対の意思を有し,控訴人関係者に対しても,控訴人
に入会しない旨の意思を明示ないし黙示に表明していたというべきである。
  (ウ) また,証拠(乙C8,証人b)によれば,b及び被控訴人Cが第1
回総会に出席したのは,控訴人に入会する意思がないにもかかわらず,総会の通知
が送付されてきたので,改めて控訴人に入会する意思がないことを伝えることが目
的であったこと,総会の場においても,bが控訴人(自治会)には入会しない旨の
発言をしていることが認められ,これらの事実からすると,同人らが控訴人の会員
であることを前提として第1回総会に出席したものとは評価することができない。
  (エ) 以上によれば,被控訴人D及び被控訴人Cについては,第1回総会
への出席や自治会設立準備への関与の事実が認められるとしても,これらの事情は
前記アの判断を左右するものではなく,控訴人の前記(ア)の主張は採用できない。
  ウ まとめ
     そうすると,被控訴人らは,控訴人の会員であったとは認められないか
ら,本件規約に基づく会費の支払義務を負う余地はない。
 3 小 括
   以上によれば,控訴人の主位的請求は理由がない。
第3 予備的請求について
 1前提事実
  (1) 請求原因(1)(被控訴人らの土地所有及び持分)は,当事者間に争いがな
い。
  (2) そして,証拠(甲8)及び弁論の全趣旨によると,本件別荘地内の土地所
有者らが本件別荘地内に所有する土地の面積は,同所有者らが共有地及び共有施設
上に有する持分割合とほぼ比例する関係にあることが認められる。
2 請求原因(2)(被控訴人らにも受益がある支出額)の検討
(1)同ア(ポンプ等管理費用)について
ア 証拠(甲A16の1ないし18,甲A28,当審における証人a)によ
れば,控訴人は,dに対し,平成10年6月30日ころ,報酬月額5万円で共有施
設である給水ポンプ及び防犯灯等の保守点検を委託したこと(以下「本件管理契
約」という。),控訴人は,dに対し,平成10年10月分から平成12年3月分
の報酬として,合計90万円を支払ったことが認められる。
  これらの保守点検は,共有施設に関するものであり,給水ポンプは,2
4時間稼働し,これによって本件別荘地内の各戸に給水されており,各戸の浄化槽
の排水としても使用されていること(弁論の全趣旨)からすれば,これらの施設に
関する管理業務は,本件別荘地の全土地所有者の利益となる性質のものということ
ができる。
  したがって,本件管理契約に基づく費用は,被控訴人らにも受益がある
というべきである。
イ これに対し,控訴人らは,その管理業務の内容に照らして,本件管理契
約の報酬額は高額に過ぎると主張する。
  しかし,控訴人がdに対して支払っている報酬額は,前記のとおり月額
5万円(年額60万円)であるところ,従前,土地所有者らがcに対して支払って
いた管理報酬の年額合計は,180万円ないし200万円であり(甲A28,当審
における証人a),cが共有施設の管理のほか本件別荘地内の見回り等を行ってい
たことを考慮しても,dに対する報酬額は,cに対する報酬と比較して格段に低額
であるといえる。
  また,管理業務の内容等についてみても,dは,本件管理契約に基づ
き,週1回の定期点検を行っているほか,本件別荘地の利用者から個別に依頼を受
けた場合などには,その都度本件別荘地に赴いてポンプ等を点検して対応するな
ど,本件管理契約に基づく業務を適正に履行していることが認められ(甲A17の
1ないし3,甲A28,35,当審における証人a),dが電気等に関する資格を
有していること(当審における証人a)をも考え併せると,dの管理業務の内容や
質が,上記報酬額との関係において特に問題があるともいえない。
  以上に照らすと,dに対する報酬額は,その管理業務の内容やcに対す
る管理報酬との比較に照らして,特に高額であるとはいえず,相当な金額であると
認められるから,被控訴人らの上記主張は採用できない。
  よって,dに対して支払った管理報酬の合計90万円全額について,被
控訴人らに受益のある費用であると認められる。
(2)同イ(電気代)について
証拠(甲A18の1ないし7,当審における証人a)によれば,上記電気
代14万8636円は,給水ポンプの稼働及び防犯灯の点灯によって生じた電気代
であり,いずれも本件別荘地の全土地所有者にとって利益となる性質のものである
から,被控訴人らに受益のある費用と認められる。
(3)同ウ及びエ(通信費及び事務用品費)について
  証拠(甲A19の1ないし12,甲A20の1・2,甲A28,当審にお
ける証人a)によれば,上記費用は,いずれも自治会内部の会計報告や総会開催に
関する費用であって,控訴人の自治会運営上生じたものにすぎず,控訴人の会員以
外の者にとって直接の利益となる費用とはいえない。
  よって,上記費用については被控訴人らに受益がないというべきである。
(4)同オ(除草費等)について
  証拠(甲A25,甲A26の1ないし8・11ないし14,当審における
証人a)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人は,定期的に,業者に委託して除草作
業及び側溝等のヘドロ・土砂の除去作業を行ったこと,平成10年10月から平成
12年3月までの間に行った上記作業の費用は10万6630円であること,除草
作業が行われた箇所は,別紙図面の緑色部分であり,青斜線部分の被控訴人らの個
人所有地は除草の対象から除外されていること,側溝等のヘドロ・土砂の除去作業
が行われた箇所は,別紙図面の桃色部分及び<×>印部分であることが認められる。
  そこで検討するに,上記除草作業の範囲には,控訴人会員の個人所有地が
相当の割合で含まれており,被控訴人らの個人所有地は除草の対象から除外されて
いることからすれば,控訴人会員の個人所有地についてなされた部分については被
控訴人らに受益があるとするのは相当でなく,被控訴人らの受益は,共有施設の周
辺においてなされた除草範囲の限度で認められるとするのが相当である。他方,側
溝等のヘドロ・土砂の除去作業については,共有施設に関してなされたものである
から,被控訴人らにも受益のあるものと認められる。
  以上を総合すると,上記除草費等10万6630円のうち被控訴人らに受
益があると認められる金額は,2万円の限度であるとするのが相当である。
(5)同カ(井戸蓋製作費)について
  上記井戸蓋は,共有施設である上水用井戸の中に雨水が混入したり小石や
泥等が投入されることを防止し,井戸水の安全を確保する目的で製作されたもので
あるから(甲A26の11・12・14,甲A28,当審における証人a),その
費用3万円(甲A22)は,その性質上,被控訴人らにも受益があると認められ
る。
(6)同キ(水質検査費)について
  上記費用4600円も,前記(5)と同様,井戸水の安全確保の目的で支出し
た費用であるから(甲A23の1・2,甲A28,当審における証人a),被控訴
人らに受益があると認められる。
(7)まとめ
  以上の被控訴人らにも受益がある支出額を合計すると,110万3236
円となる。
  なお,被控訴人Eは,本件別荘地内の所有地上に建物を建築していない
が,本件別荘地内の土地所有者であり,共有地及び共有施設の共有者であって,他
の所有者と同様に本件別荘地内の施設を利用できる地位を有しているのであるか
ら,他の被控訴人らと同様に受益があると認められる。
 3 抗弁(請求原因(2)の認定額からの控除),再抗弁(抗弁の認定額からの控
除),請求原因(3)(被控訴人らの利得金額)の検討
  (1) 被控訴人及び控訴人の各主張について
 ア 被控訴人らの利得金額(請求原因(3))の算定について,当事者双方は,
次のとおり主張する。
  (ア) 被控訴人らは,控訴人がcからの引継金等について,請求原因(2)
(被控訴人らにも受益がある支出額)の認定額から控除すべきであると主張する
(抗弁)
  (イ) 他方,控訴人は,cからの引継金等を控除の対象とすること自体は
争わないが,本件不当利得返還請求の対象項目以外にも被控訴人らのために別途支
出した費用が存するから,これを抗弁の認定額から控除すべきであると主張する
(再抗弁)。
  (ウ) そして,被控訴人らも,被控訴人らに受益がある支出について,抗
弁の認定額から控除すること自体は争わない。
 イ そこで検討するに,当事者双方の主張は,いずれも本件不当利得とは別
個の項目についての実質的な精算を主張するものであるが,本件不当利得返還請求
が,本件別荘地内の土地所有者間における共益費用の精算という実質を有している
ことにかんがみ,当事者が主張する項目のうち両者間において公平の観点から精算
を行うのが相当と認められるものについては,当事者双方が主張する方法に従い,
これを被控訴人らの利得金額の算定において考慮するのが相当である。
 ウ そこで,以下,当事者双方が主張する項目のうち,精算の対象とするの
が相当な範囲をそれぞれ検討する。
  (2) 抗弁(請求原因(2)の認定額からの控除)について
   ア 控訴人が,平成10年2月ころ,cから,本件別荘地の土地所有者らか
ら支払を受けた管理費の残金34万9580円及び未収管理費債権41万円(いず
れも平成9年10月から平成10年9月までの分)を引き継ぎ,さらにその後,c
が関西電力から支払を受けていた敷地料10万7030円(平成10年2月から平
成12年3月までの分)を引き継いだことは,当事者間に争いがない。
   イ これらの引継金等は,いずれも本件別荘地の全土地所有者の利益のため
に使用すべきものであるから,被控訴人らの利得額の算定に当たり,精算の対象と
するのが相当である。
     ただし,未収管理費債権については,控訴人が現実に回収した限度で精
算の対象とするのが相当であるところ,控訴人は,同未収管理費債権のうち32万
円については,既に回収したことを認めており,控訴人が32万円を越えて回収し
ていることを認めるに足りる的確な証拠がない。そこで,未収管理費債権について
は,既に回収済みの32万円の限度で清算の対象と認める。
   ウ 以上の事実を基に,精算の対象となる金額を計算すると,次の項目を合
計した金額である77万6610円となる。それゆえ,この金額が,請求原因(2)
(被控訴人らにも受益がある支出額)の認定額からの控除額である。
(ア)既収管理費残金 34万9580円
(イ)未収管理費債権のうち控訴人が既に回収した金額 32万円
(ウ)関西電力からの敷地料 10万7030円
  (3) 再抗弁(抗弁の認定額からの控除)について
   ア 抗弁の認定額からの控除が認められる分
     控訴人が主張する費用のうち,次の項目(合計62万5605円)は,
共有地及び共有施設の管理等に関するものであり,被控訴人らに受益があると認め
られるから(甲A35,以下に掲記の各証拠,弁論の全趣旨),精算の対象とする
のが相当である。
    (ア) 電気代(再抗弁ア(ア)) 1万0571円(甲A30)
(イ) 管理費(再抗弁イ(ア)) 20万円(甲A16の1)
(ウ) 電気代(再抗弁イ(イ)) 4万3846円(甲A36の1ないし
4)
(エ) 井戸まわりフェンス設置代(再抗弁イ(カ))31万2388円
  (甲A26の3・4,同31の1・2,同36の3・4)
(オ) ポンプ移設工事代(再抗弁イ(キ)) 3万7800円
                    (甲A32の1・2)
    (カ) 看板製作費(再抗弁イ(ク)) 2万1000円
                   (甲A26の1・2,同33)
   イ 抗弁の認定額からの控除が認められない分
     控訴人は,通信費(再抗弁ア(イ),同イ(ウ)),広告費(再抗弁ア
(ウ)),事務用品代(再抗弁ア(エ),同イ(エ)),会議室代(再抗弁ア(オ)),定
時総会会場使用料,茶菓子代(再抗弁イ(オ)),雑費(再抗弁ア(カ))を精算の対
象項目として主張するが,これらは,いずれも,控訴人(自治会)の運営上生じた
費用にすぎず(甲A35),控訴人の会員以外の者の利益になる性質のものとはい
えない。
したがって,上記各費用については,抗弁の認定額からの控除が認めら
れない。
  (4) 請求原因(3)(被控訴人らの利得金額)について
   ア 本件別荘地内の全土地所有者の清算後の受益総額
     以上によれば,本件別荘地内の全土地所有者の清算後の受益総額は,請
求原因(2)の認定額110万3236円から,抗弁の認定額77万6610円と再抗
弁の認定額62万5605円の差額である15万1005円を控除した金額であ
り,次のとおり95万2231円となる。
〔請求原因(2)の認定額〕 〔抗弁の認定額〕 〔再抗弁の認定額〕
   110万3236円-(77万6610円-62万5605円)
                          =95万2231円
  イ 被控訴人らの利得金額
    被控訴人らの利得金額は,上記本件別荘地内の全土地所有者の清算後の
受益総額である95万2231円に,被控訴人らの共有地及び共有施設の各持分割
合を乗じた額とするのが相当である。そして,被控訴人らの各持分割合が請求原
因(1)のアないしエ記載のとおりであることは,当事者間に争いがないから,これに
従って各利得金額を計算すると,次のとおりとなる。
   (ア) 被控訴人B両名(一人当たり)
   95万2231円×23/3676=5957円
    (イ) 被控訴人C
   95万2231円×52/1838=2万6940円
 (ウ) 被控訴人D
   95万2231円×28/1838=1万4506円
 (エ) 被控訴人E
   95万2231円×34/1838=1万7614円
4 小 括
 よって,控訴人の予備的請求は,被控訴人らに対し,上記3(4)イの(ア)ない
し(エ)記載の各不当利得金,及びこれに対する受益後の日である平成12年4月1
日から支払済みまで年5分の割合による各遅延損害金の支払を求める限度で理由が
ある。
第4 結 論
 1 以上によれば,控訴人の主位的請求はいずれも理由がなく,これを棄却した
原判決は正当であり,本件控訴はいずれも理由がないので棄却する。
 2 次に,控訴人の当審での予備的請求は,上記第3の3(4)イの(ア)ないし(エ)
記載の各不当利得金及びその遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので,こ
れを認容し,その余は理由がないので棄却する。
 3 よって,主文のとおり判決する。
    神戸地方裁判所第2民事部
   裁判長裁判官   紙浦健二
   裁判官今中秀雄
   裁判官五十嵐 章 裕

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