弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が、昭和五七年五月八日、別紙物件目録記載の不動産(以下、本件不動産
という。)に対する昭和五七年度の固定資産税及び都市計画税について、原告を納
税義務者としてした賦課決定を取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 原告の請求の原因
1 原告に対する被告の課税処分
被告は、昭和五七年五月八日、本件不動産に対する昭和五七年度の固定資産税及び
都市計画税について、原告を納税義務者として、合計六六万三三〇〇円を賦課する
旨の賦課決定(以下、本件決定という)をした。
2 本件決定の違法事由
地方税法三四三条二項、七〇二条二項は、登記された家屋の所有者とは建物登記簿
に所有者として登記されている者をいうと規定し、いわゆる表見主義を原則として
いるが、本件決定は、本件不動産について、浦和地方裁判所越谷支部がなした処分
禁止の仮処分決定を登記するために昭和四九年一一月七日職権で原告名義の所有権
保存登記がなされ、昭和五七年一月一〇現在もその旨の登記がなされていることに
基づき、原告を昭和五七年度の固定資産税及び都市計画税の納税義務者たる所有者
と認定して行なわれたものであり、右のように単に訴訟法上の理由により職権で仮
の所有権者を定めたにすぎないような場合には、右表見主義は適用されないと解す
べきであるから、被告が、原告が登記簿上の所有名義人であることのみをもつて、
原告を固定資産税及び都市計画税の納税義務者たる所有者と認定したことは違法で
あり、したがつて、右認定を前提としてなされた本件決定も違法である。
よつて、本件決定の取消しを求める。
二 被告の請求の原因に対する認否及び主張
(認否)
1 請求の原因一の事実は認める。
2 同二の事実のうち、本件決定が、本件不動産について、処分禁止の仮処分決定
を登記するため職権で原告名義の所有権保存登記がなされ、昭和五七年一月一日現
在もその旨の登記がなされていることに基づき、原告を昭和五七年度の固定資産税
及び都市計画税の納税義務者たる所有者と認定して行なわれたものであることは認
めるが、その余は争う。
(主張)
1 前記のとおり、本件不動産について、昭和五七年一月一日現在原告が建物登記
簿に所有者として登記されていたので、地方税法三四三条、七〇二条、三五九条に
基づき、原告を昭和五七年度の固定資産税及び都市計画税の納税義務者と認定し
て、本件決定をしたものであり、したがつて、本件決定は適法である。
2 地方税法三四三条二項(同法七〇二条二項により都市計画税の場合にも適用さ
れる。)は、登記された不動産の固定資産税の賦課についていわゆる表見主義の原
則を採用しており、登記簿に所有者として登記されている者は、真正の所有者であ
るか否かを問わず、納税義務者たる所有者として扱われ固定資産税を課されること
になる。したがつて、納税義務者を決定するにあたり問題となるのは登記名義人が
誰であるかであり、その登記の経由された原因、経過は全く問題ではない。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 請求の原因一の事実及び同二の事実のうち、本件決定が、本件不動産につい
て、処分禁止の仮処分決定を登記するために職権で原告名義の所有権保存登記がな
され、昭和五七年一月一日現在もその旨の登記がなされていたため、原告を昭和五
七年度の固定資産税及び都市計画税の納税義務者たる所有者と認定して行なわれた
ものであることは当事者間に争いがない。
二 原告は、処分禁止の仮処分決定を登記するために職権でなされた原告名義の所
有権保存登記に基づき、原告をその登記簿上の所有名義人であることのみをもつて
固定資産税及び都市計画税の納税義務者たる所有者と認定したことが違法であると
主張するので、以下、この点につき判断する。
1 地方税法三四三条二項(同法七〇二条二項により、都市計画税の納税義務者の
決定についても、本項が適用される。)は、登記された不動産の固定資産税の賦課
についていわゆる表見主義の原則を採用し、不動産登記簿に所有者として登記され
ている者を固定資産税の納税義務者たる所有者として扱うものとしており、その者
が真実の所有者であるか否かを問わず固定資産税を賦課されることになる。
地方税法が、右のようないわゆる表見主義の原則を採用したのは、もつぱら課税技
術上の要請に基づくもので、すなわち、もし、あくまで真実の所有者に課税しなけ
ればならないとすると、課税団体が複雑多岐にわたる民事上の法律関係を遂一検討
せざるをえなくなるばかりか、当該不動産の所有関係をめぐる民事裁判が長期化し
たりするなど容易に真実の所有者を発見できない場合も考えられ、短期間に多数の
賦課処分を行なわなければならない課税事務の遂行に支障を生ずるからである。
2 ところで、前記の必要性から採用された表見主義は、本件のように、処分禁止
の仮処分決定を登記するために職権で所有権保存登記がなされた場合にも全く同様
の理由から適用されるべきであつて、その例外を認めるべき理由は何ら存しない。
そればかりか、処分禁止の仮処分決定がなされてその旨の登記が経由された場合に
は、所有関係をめぐる民事裁判が係属していることが通常であるから、容易に真実
の所有者を発見できないことが多いと考えられるのであつて、まさに右のいわゆる
表見主義の原則がより一層強く適用される場合であるといわなければならない。
したがつて、たとえ、処分禁止の仮処分決定を登記するために職権でなされた所有
権保存登記であつても、右登記上所有者とされている者は、固定資産税の納税義務
者たる所有者として扱われ、同税を賦課されることになるのである(なお、都市計
画税についても、地方税法七〇二条二項により、同様に納税義務者たる所有者とし
て扱われる。)。
三 以上によれば、原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴
訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文の
とおり判決する。
(裁判官 手代木 進 山崎 潮 田村 眞)
別紙物件目録(省略)

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