弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人関山忠光、同黒沢克連署の控訴趣意書記載のとおりで
あるから、これを引用する。
 所論は、まず、原判決の事実誤認を主張し、原判示A、BおよびCの三名は、い
ずれも麻薬中毒者ではなく、被告人は右三名の中毒症状を緩和するために、原判示
麻薬を施用したものではない、といらのである。よつて、当裁判所は記録を検討し
て次のとおり判断する。
 まず、被告人が右三名に対し原判示麻薬を施用した当時、右三名が麻薬中毒者で
あつたかどうかの点について審案するのに、次の事実が明らかである。すなわち、
Aは昭和三十五年右季肋部痛を訴え日立市D医院において鎮痛のため麻薬を施用し
たのを始めとして昭和三十六年四月より同年末まで年間十回、昭和三十七年には当
初毎月一回ないし三回、十一月よりは月七回、十二月は九回、昭和三十八年より昭
和四十年九月十九日まで、毎月、四、五日に一回の割合て麻薬を連続施用したもの
である。同人は覚せい剤中毒の経験があつて薬物に耽溺し易い性癖があり、覚せい
剤廃止後は酒に耽つて、前記腹部等疼痺に際し連続麻薬を施用したため薬物に対す
る嗜癖をもつに至り、昭和三十七年秋頃以降は身体的にも肉体的にも麻薬に対する
依存を生じ、これを抑制し得ない状態、すなわち麻薬中毒症に陥つたことが認めら
れる。同人には麻薬施用を必要とする疾病は何一つ存在しないのに、鎮痛のため当
初麻薬を施用しそれを無思慮に連用したため麻薬欲求に基く観念感覚として迎合的
疼痛を訴えたがそれは本来的な疾病に基くものではなく、麻薬施用に起因する精神
痛であつて、むしろ麻薬中毒症の現われとみるべきものであつた。次に、Bは昭和
二十五年に発病昭和二十六年水戸市E病院において診察の結果胆石病が証明され
た。同人も昭和三十三年六月と八月の二回にわたり鎮痛のため麻薬を施用したのを
始めとして、昭和三十四年には一月、三月、四月、十二月に合計十一回、昭和三十
五年には五月より十二月までの間に連続して計六十三回、昭和三十七年には一月よ
り七月まで計三十九回、昭和三十八年には二月より十二月まで計五十四回、昭和三
十九年より昭和四十年三月十六日まで毎月十数回麻薬を連続施用したものである。
同人には胆石病があつたため、一時的緊急の措置として麻薬の施用も許容し得ない
ものではなかつたけれども、麻薬施用は極めて短期間にそれに対する欲求を作り、
麻薬中毒を誘発する導因となるからその反覆施用は絶対に回避すべきところ、前記
の如くこれを反覆連用したため、昭和三十七年夏頃以降は、本来の疾病に基く疼痛
によるものではなく、麻薬に対する欲求として観念感覚としての精神痛を覚えるに
至り、麻薬に対する精神的、身体的依存を生じこれを自制することが極めて困難な
状態すなわち、麻薬中毒症に陥つた事実が認められる。次にCは、昭和三十六年腹
痛を訴えて麻薬を施用し始め同年十二月より昭和三十九年五月まで毎月数回麻薬を
連続施用し、殊に昭和三十八年には腸捻転のため二回開腹手術をうけその前後には
多量の麻薬を施用している。同人は右開腹手術の後腸管腹膜の癒着を生じ屡々腹痛
を訴えたが、その痛みはしくしく痛む程度のもので、その鎮痛のために麻薬を施用
する必要はなく、同人の場合も麻薬を施用する医学的理由は極めて薄弱であるのに
無思慮に麻薬を連続施用したため麻薬に対する精神的、身体的依存を生じこれを自
制することの極めて困難な状態すなわち麻薬中毒症をきたし、昭和三十九年春以降
麻薬を廃止したことにより右中毒症も解消した事実が認められる。すなわち、被告
人が右三名に対し原判示麻薬を施用した当時、右三名がそれぞれ麻薬中毒者であつ
た事実は明瞭である。
 次に被告人は右三名の麻薬中毒症状を緩和するために原判示麻薬を施用したもの
か否か、その犯意について審案する。まず、被告人はAについては胃潰瘍ないし胃
炎の疑いありと診断し、Bについては前記胆石症、Cに対しては腸捻転ないし、腸
管癒着等とそれぞれ診断したのであるが、右各疾病治療のため本件麻薬を使用した
ものではない。麻薬施用が右疾病治療に役立つものでないことは言うまでもなく、
鎮痛のため一時的緊急の措置としてその施用が許されても、これを連続施用するこ
とは臨床医学上許されないのであつて、その連続施用は極めて短期間にして麻薬中
毒症を招来するものであることは、麻薬施用をその業として認められている医師と
して当然理解すべきことであり、当然理解していたものと認められる。被告人は前
記A、Bらより麻薬の施用を求められて、麻薬の中毒になるから続けてはならない
趣旨の忠告を自らしており、同人らの来院をつとめて敬遠していた事実も明らかで
あつて、被告人は、前記三名が麻薬の連用によつて前記詳述のような麻薬中毒症に
陥り、その症状緩和のために、更に継続して麻薬の施用を要求するものであること
を知悉しながらこれを施用した事実を認め得るのである。
 <要旨>被告人は、昭和四十一年六月茨城県衛生部長の茨城県医師会長宛の「麻薬
中毒者の概念」と題する書面によつて麻薬中毒とは麻薬に対する精神的身体
的欲求を生じ、これを自制することが困難な状態すなわち「麻薬に対する精神的身
体的依存の状態」という広い概念であることを知つたが、それまでは、被告人が医
学学習以来理解していた麻薬中毒者とは耐薬性の上昇習慣性の固定、および禁断現
象の発現の三条件を充足したもの、という判断に基いて前記三名はいずれも麻薬中
毒者に該当しないものと判断していたと主張するけれども、右茨城県衛生部長の通
達は、当時茨城県下に開業する医師の間に、麻薬取締法違反の犯罪が多発したた
め、医師が麻薬中毒症という概念を曖昧にして、自ら麻薬事犯に陥ることのないよ
うこれを警告する意味をもつて、右概念を簡明に解示して同事犯の防遏を期したも
のであつて、麻薬中毒症という医学上の概念を拡張したり、縮少したりこれを変更
する趣旨のものでないことは、同通達中に明記するところによつても明らかであ
る。前記の如く被告人は端的に前記三名を中毒症状にあるものと判断していたこと
は明瞭であり、所論三条件を勘案してこれを中毒者に非ずと判断したという所論は
徒らな責任回避の弁疎にすぎないものと断じなければならない。
 (その余の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 関谷六郎 判事 内田武文 判事 小林宣雄)

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