弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原決定中抗告人の申立を却下した部分を取り消す。
     設立者Aの設立に係る三重県度会郡a町bc番地ミマスボー株式会社内
財団法人清水育英会の資産の処分に関する規定および残余財産の処分に関する規定
を別紙一のとおり定める。
         理    由
 抗告代理人は、主文同旨の裁判を求め、その理由とするところは、別紙二および
三記載のとおりである。これに対する当裁判所の判断は次のと痴りである。
 一 本件記録によれば、Aは昭和三一年一月一三日公証人Bに対し遺言公正証書
の作成を嘱託し、右遺言において財団法人清水育英会を設立することとし、その寄
付行為を定めたこと、右寄付行為によれば右清水育英会は寄付行為の財産を基金と
して教育に関する寄付をなすことを以てその目的とし、事務所を度会郡a町bc番
地三桝紡績株式会社内におき、A所有の右会社株式三〇万四七六五株(一株額面五
〇円)を基本資産としこれから生ずる配当金を前記目的達成のため使用し、法人の
存続期間は予め定めないが前記基本資産は事情のいかんを問わずこれを処分できな
いものと定められていたこと、しかるに、右Aはその生前で右公正証書遺言の後で
ある昭和三一年一二月二五日財団法人三桝育英会設立の寄付行為をなしその設立手
続をなしたが財団設立にいたらずして死亡したため、Aの次男Cにおいて遺言執行
者Dらを相手どり右遺言が生前処分により取り消されたことを前提とする遺言執行
者不存在確認訴訟を提起したが、右Cの請求は名古屋高等裁判所の控訴審において
棄却され、最高裁判所もまたAの生前処分たる三桝育英会の寄付行為によつて前記
遺言が取り消されたものとはみなされないとの見地に立ち右控訴審判決を支持した
こと(最高裁判所昭和四〇年(オ)第七〇六号、同四三年一二月二四日言渡判
決)、その結果右Dが前記公正証書遺言による財団法人清水育英会の設立準備委員
長として右財団の設立手続を遂行中であること、しかるところ、右財団のごときい
わゆる育英奨学法人の設立についてはその許可の事務の衝に当る主務官庁は文部省
であるが、同省においては従来より「文部大臣の所管に属する民法三四条の法人の
設立および監督に関する規程」を制定し育英奨学法人の設立許可につき行政指導を
なし来たり、これに伴い育英奨学法人たる財団法人の寄付行為についてもひな型
(作成例)を定め、該作成例に合致しない寄付行為をもつてする設立許可申請は容
易に認容されないこと、しかして、文部省の定めた寄付行為作成例中には資産の処
分に関し「基本財産は処分しまたは担保に供してはならない。ただし、この法人の
事業遂行上やむを得ない理由があるときは、理事会の決議を経、かつ、文部大臣の
承認を受けてその一部に限り処分し、または担保に供することができる。」との規
定が、また、残余財産の処分に関しては「この法人の解散にともなう残余財産は、
理事全員の同意を経、かつ、文部大臣の許可を受けて、国もしくは地方公共団体ま
たはこの法人の目的に類似の目的を有する公益法人に寄付するものとする。」との
規定がそれぞれおかれていること、以上の各事実を認定することができる。
 二 抗告人の本件申請の要旨は、「亡Aの遺言公正証書による財団法人清水育英
会の寄付行為中には法人の資産に関し前段認定のごとき簡単な定めしかなされてい
ないが、右程度の規定では主務官庁たる文部省の要求する作成例に基づく寄付行為
の基準に適合せず、設立許可を得ることも覚束ないので、資産の処分および残余財
産の処分に関し申請の趣旨記載のとおりの規定をおくため民法四〇条の規定に基づ
く補完を求める。」というのである。
 およそ、財団法人の設立者は寄付行為をもつて、(一)目的、(二)名称、
(三)事務所、(四)資産に関する規定、(五)理事の任免に関する規定を定める
ことを要するところ、右設立者が法人の名称、事務所または理事任免の方法を定め
ずして死亡したときは、裁判所は、利害関係人または検察官の請求によりこれを補
完する権限を有するものである(民法四〇条)。この民法四〇条の規定の立言によ
れば、資産に関する規定については裁判所は全く補完の権限を有しないかのように
みえる。しかし、右法条が目的および資産に関する規定を挙示しなかつたのは、財
団法人においてその目的およびこれにいかなる資産を帰属せしめるべきかは、設立
のため確定することを要する最小限度の事項であつて、この二点についてはもつば
ら設立者の意思に委ねらるべく、余人の介入することが許されないことによるもの
である。されば、ひとしく資産に関する規定というも、設立者が未決定のまま死亡
するにおいては財団の設立を不可能加ならしめる程本質的重要な事項と、しからざ
る付随的事項とを区別することが可能であり、後者については補完を許してもなん
ら差支えがないばかりか、<要旨>むしろ設立者の遺志を無に帰さざる所以となるの
である。再書すれば、民法四〇条は、資産に関する規定であれば悉く裁判所
による補完を許さないとの趣旨に解すべきではなく、設立者自身でなければ決定を
なし得ない事項(例えば、設立者所有財産のうちいかなる物件いくばくの金額をも
つて財団の基本財産に充てるかの決定のごときは補完を許さない。)に関しないも
のは、名称、事務所等に準じ利害関係人らの請求により裁判所においてこれを補完
することを許しているものと解するのが相当である。
 かかる観点に立つて本件を見るに、まず、資産の処分に関する規定としては、遺
言による寄付行為中に「基本財産は事情のいかんを問わずこれを処分できない」と
定められているのに対し、抗告人は、「基本財産は処分しまたは担保に供してはな
らない。但し、この法人の事業遂行上やむを得ない理由あるときは、理事会の議決
を経、かつ、三重県教育委員会の承認を受けてその一部に限り処分し、または担保
に供することができる」との条項をもつてこれにかえる(但し書および担保に関す
る点の新設追加)ことを求めているものであるが、かかる基本財産の処分の制限に
関する条項のごときは、資産に関する規定ではあつても、前述した意味における付
随的の規定であり、設立者の起草した条項にして不完全であるときは、民法四〇条
によりこれが補完を裁判所に請求し得るものと解するのが相当である。もつとも、
設立者Aの作成に係る前記規定は「事情のいかんを問わず」基本財産の処分を禁ず
る旨の表現をとつているので補完の結果が同人の意思に反することにならないか否
かは検討の要がある。しかしながら、Aの真意とするところも、通常の事態の下に
おいて基本財産の処分を禁ずるにあると解せられるのであつて、事業遂行上万やむ
を得ない理由あるときに理事会の決議および主務官庁の承認を受けてする一部の処
分までも禁止する趣旨ではないことは容易に理解し得るのである(かかる絶対的禁
止は時に財団自体の破滅をも招きかねず、きわめて不合理である。)から、右規定
に抗告人申請のごとき但し書を追加(補完)することは何らAの意思に反するとこ
ろはないと考えられるのである。基本財産は右但し書所定の場合以外に担保に供し
てはならないとする趣旨の追加(補完)もこれと同様Aの意思に反するところはな
いというべきである。よつて、抗告人の右資産の処分に関する規定の補完の申請
は、これを正当と認むべきものである。
 次に、残余財産の処分に関する規定としては、遺言による寄付行為中には何らの
定がなく、これに対し抗告人は、「この法人(財団法人清水育英会)の解散に伴う
残余財産は理事全員の同意を経、かつ、三重県教育委員会の許可を受けて国もしく
は地方公共団体又はこの法人の目的に類似の目的を有する公共法人に寄付するもの
とする」との条項を新設補完することを求めているのである。しかるところ、かか
る残余財産の処分に関する規定は、資産に関する規定ではあるが、補完に親しむ付
随的事項に関する規定と解すべきことは多言を要しない。のみならず、民法七二条
二項・三項が、寄付行為中に財団の残余財産の帰属権利者を指定せず、またはこれ
を指定する方法の定がない場合において、抗告人主張の右条項と同様の手続による
同趣旨の処分方法を規定していることに鑑みれば、Aが遺言中において残余財産の
処分について何ら言及しなかつた本件においては、抗告人主張の右条項を寄付行為
中に新設補完することはむしろ適切な措置であるということができよう。よつて、
抗告人の右残余財産の処分に関する規定の補完の申請もこれを正当と認むべきもの
である。
 三 以上説示のとおりであるから、原決定中抗告人の申立を却下した部分を取り
消すこととし、主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 宮本聖司 裁判官 吉川清 裁判官 川端浩)
別 紙 一
<記載内容は末尾1添付>
別 紙 二
<記載内容は末尾2添付>
別 紙 三
<記載内容は末尾3添付>

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