弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人敗訴の部分を破棄し、第一審判決中上告人敗訴の部分を
     取り消す。
     被上告人の本訴請求を棄却する。
     訴訟費用は、各審を通じ、被上告人の負担とする。
         理    由
 上告指定代理人加藤宏名義の上告理由第一点について、
 所論は、執行吏が債務者所有の有体動産の仮差押をした上これを第三者をして保
管させた場合に右有体動産を監視注意すべきその職務上の義務とはこれを点検する
義務をいうのであつて仮差押債権者の申立をまつて始めて生ずるものと解すべきで
あるから、債権者の申立がない以上、執行吏が仮差押動産を点検しなかつたからと
いつて、当該執行吏に過失があつたとはいえないというが、所論の場合における執
行吏の右職務上の注意義務とは、仮差押債権者の申立の有無に拘わらず執行吏の占
有機関たるその第三者をしてその有体動産が滅失毀損することなく適当な状態で保
管させるよう適時適当の方法で監視注意する義務をいうのであつて、必ずしも、有
体動産を自ら点検する義務だけに限られるものではない。所論の原判決の判示もこ
の趣旨に出でたものと解される。従つて、執行吏の右職務上の義務が仮差押物件を
点検する義務に限られることを前提とする所論は理由がない。
 そして、原判決が確定したところによれば、判示山口地方裁判所岩国支部執行吏
Eが、判示仮差押決定に基づき、債権者Fの委任により、債務者たる被上告会社(
原告)に対する執行として、債務者所有の岩国市所在の判示有体動産の仮差押をし
た上、昭和二六年五月二九日、債権者の代理人堀口弁護士の申出により、同弁護士
にこれを向執行吏所属裁判所の管轄区域外である広島市a町所在訴外株式会社G商
事において保管させることとし、よつて同弁護士は、即日右仮差押物件を右株式会
社G商事に運搬し、同所でこれを保管していたが、同執行吏は同所での保官当初か
ら同所に赴いてこれを点検したことがなく、それが如何なる方法、状態で保管され
ているかについて監視注意したこともなく、その施した仮差押の表示が脱落したま
ま、これを放置していたというのである。右各事実によれば、同執行吏は右仮差押
の執行について用うべき前段説示の意味における職務上の注意義務に違反したもの
といわねばならない。
 けれども、本件仮差押物件がかような状態にあつた間に、訴外H、Iが、共謀の
上、本件仮差押を解除させようと企て、Hにおいて本件物件を所有者である被上告
会社よりHに売渡した旨の内容虚偽の売渡証並びにHが本件物件の引渡を受けたと
きは直ちにこれを被上告会社に引き渡す旨の内容虚偽の念書を作成し、Hがあたか
も本件物件の所有者であるものの如く装い、仮差押債権者Fを被告として山口地方
裁判所に本件物件につき第三者異議の訴を提起し、右虚偽の売渡証を示したため、
債権者Fは、本件物件がHの所有であつたものと誤信し、Hの所有権を認め、本件
仮差押の解放を約する示談書を作成し、Hは同年一二月二六日第三者異議の訴を取
下げ、次で債権者Fは右執行吏に対し仮差押執行解放申請書を提出するに至つた、
という経過の後、Hは、本件物件を保管中の訴外G商事に赴き、右示談書を示して
示談成立したものの如く告げ、同会社から本件仮差押物件の引渡を受け、被上告会
社に無断でこれを第三者に売却して引渡した結果、本件物件はその第三者より更に
他人に順次引き渡され、現在の占有者及びその所在場所も明らかでなく、被上告会
社は本件物件の引渡を受けることが不能となつたという原判示事実関係のもとでは、
本件物件の右滅失は右執行吏の前記職務上の注意義務違背その他原判決の過失によ
り通常生ずる損害とはいえないから、右過失と右滅失との間には相当因果関係がな
いものといわねばならない。してみれば、この点に関しては、原判決の判断は当を
えず、この誤りが原判決主文に影響を及ぼすこともちろんであるから、論旨は理由
があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。
そして、原審の確定した事実によれば、被上告人の本訴請求は棄却すべきものであ
るから、当裁判所は、民訴四〇七条、四〇八条により、原判決を破棄して自判すべ
きものとし、訴訟費用の負担について同九六条、九五条、八九条を適用のうえ、裁
判官全員一致の意見をもつて、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    横   田   正   俊

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