弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人坂牛直太郎、同臼居直道の上告理由第一点および第二点について。
 原審の適法に確定した事実関係によれば、訴外D興業株式会社(以下単にD興業
という。)と上告人との間の売買契約は、上告人と訴外株式会社E商店(以下単に
E商店という。)との間の売買契約を履行するために、また、後者は、E商店と被
上告人との間の売買契約を履行するために、それぞれ締結されたものであつて、右
各売買契約の目的物たる鋼材の品種、数量、その引渡期限および引渡場所は同一に
定められていたというのであるから、右各売買契約のうちD興業と上告人との間の
売買契約の目的物が特定するときは、その余の売買契約の目的物も、それと同時に
かつ当然に特定するに至るものと解すべきである。そして、D興業と上告人との間
の売買契約の目的物は、D興業が、訴外F運輸株式会社および同G通運株式会社を
介して、右契約により定められた品種、数量の本件鋼材をその引渡場所たる室蘭市
所在訴外H鉄筋株式会社(以下単にH鉄筋という。)の土場まで運送、搬入し、H
鉄筋がこれを受領しうべき状態においたときに、特定するに至つたものであること
は、原審の判示するとおりであり、また、上告人も争わないところである。
 ところで、およそ不特定物の売買においては、特段の事情のないかぎり、その目
的物が特定すると同時に、当然にその目的物の所有権は売主から買主に移転するも
のと解するのが相当である(当裁判所昭和三一年(オ)第二五二号同三五年六月二
四日第二小法廷判決、民集一四巻八号一五二八頁参照。)から、前記各売買契約の
目的物たる本件鋼材の所有権は、D興業と上告人との間の売買契約の目的物が前記
のように特定し、それに伴い、その余の売買契約の目的物も特定するに至ると同時
に、当然に、D興業から上告人およびE商店を経由して被上告人に移転したものと
いうべきである。そして、この結論は、H鉄筋がその後主観的にだれのために右鋼
材を受領したかによつては、何らの影響も受けないものと解すべきである。
 したがつて、本件鋼材の所有権が昭和三九年五月二二日当時すでに被上告人に移
転していたことを前提として、上告人の本訴請求を排斥した原審の判断は正当であ
つて、原判決に所論の違法は認められない。論旨は、ひつきよう、独自の見解を主
張し、または、原判決を正解しないで、これを非難するものにすぎず、採用するこ
とができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠

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