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平成26年2月13日判決言渡
平成25年(ネ)第10081号特許権使用差止等請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成22年(ワ)第42609号)
口頭弁論終結日平成26年1月14日
判決
控訴人大昌建設株式会社
訴訟代理人弁護士原田活也
被控訴人ノーベル技研工業株式会社
被控訴人北都建機サービス株式会社
上記2名訴訟代理人弁護士勝又祐一
同高橋敬一郎
補佐人弁理士神保欣正
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1控訴人
(1)原判決を取り消す。
(2)被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して2000万円及びこれに対する
平成22年12月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
(4)仮執行宣言
2被控訴人ら
主文同旨
第2事案の概要
1本件は,被控訴人北都建機サービス株式会社(以下「被控訴人北都」とい
う。)が製造し,被控訴人ノーベル技研工業株式会社(以下「被控訴人ノーベ
ル」という。)が使用していた原判決別紙「被告らイ号物件説明書」記載の法
面用加工機械(以下「イ号物件」という。)は,控訴人代表者A(以下「A」
という。)が有していた,発明の名称を「法面等の加工機械」とする特許権
(特許第2128294号。以下「本件特許権」という。)の特許請求の範囲
の請求項2記載の発明(以下「本件発明」という。)の技術的範囲に属してお
り,被控訴人らによる上記機械の製造,使用は本件特許権を侵害すると主張し
て,Aから本件特許権侵害に基づく損害賠償請求権を譲り受けたと主張する控
訴人が,被控訴人らに対し,不法行為に基づき,損害賠償を請求した事案であ
る。原審は,イ号物件は,本件発明の技術的範囲に属しないとして,控訴人の
請求をいずれも棄却したため,控訴人が上記の裁判を求めて控訴した。
2前提となる事実,主な争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり原
判決を補正するほかは,原判決「事実及び理由」の第2の2及び3並びに第3
記載のとおりであるから,これを引用する(以下,原判決を引用する場合は,
「原告」を「控訴人」と,「被告」を「被控訴人」と,それぞれ読み替え
る。)。
(1)原判決3頁5行目の「その請求項2の発明(以下「本件発明」とい
う。)の特許請求の範囲」を「その請求項2の記載」と改める。
(2)原判決5頁11行目冒頭から同頁20行目末尾までを次のとおり改め
る。
「(4)無効審判及び審決取消訴訟の経緯
ア被控訴人ノーベルは,平成23年2月8日,本件特許権の請求項2
について,明確性違反(特許法36条6項2号違反)及び進歩性違反
(同法29条2項違反)を無効理由として,特許無効審判を請求した
(無効2011-800022。甲8。以下「本件無効審判」とい
う。)。これに対して,Aは,同年4月26日,訂正請求をした(甲
6。以下「本件訂正」という。)。
特許庁は,平成23年11月1日,本件訂正を認めた上,被控訴人
ノーベルの請求は成り立たないとの審決をした(甲8。以下「本件審
決」という。)。
イ被控訴人ノーベルは,本件審決について,明確性の要件に係る判断
の誤り及び容易想到性に係る判断の誤りを取消事由として,審決取消
訴訟を提起した(知財高裁平成23年(行ケ)第10409号。乙1
9。以下「本件審決取消訴訟」という。)。
知的財産高等裁判所は,平成24年8月8日,被控訴人ノーベルの
請求を棄却する旨の判決をし(乙19。以下「別件判決」とい
う。),同判決は確定した(弁論の全趣旨)。」
(3)原判決5頁23ないし24行目の「満了したため,」の次に「原審にお
いて,」を加える。
⑷原判決6頁9行目の「(原告の主張)」の次に,改行の上,「〔主位的主
張〕」を加える。
⑸原判決7頁8行目冒頭から同頁9行目末尾までを次のとおり改める。
「すなわち,構成要件Hの「上方が拡開する状態で張設された一対のワイ
ヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチ」とは,その文理を素直に解釈
する限り,逆ハの字のワイヤーを巻き取る作業を行うものであれば足り,
逆ハの字のワイヤーを巻き取るのに適した構造を有するものであることま
では要求していない。」
⑹原判決7頁9行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「〔予備的主張〕
⑸仮に,イ号物件のウインチ6aが車体の回動機構側(後方)に取り付
けられていることをもって構成要件Hの「前記車体あるいはベース板の
一方・・・に・・・取付けられた一対のウインチ」に該当しないという
のであれば,控訴人は,予備的に,イ号物件のウインチ6bが構成要件
Hの「前記車体あるいはベース板の一方・・・に・・・取付けられた一
対のウインチ」に該当すると主張する。
そして,イ号物件のウインチ6bは,車体の枢支機構側(前方)の両
端部に互いに距離を置いて取り付けられた一対のウインチであって,車
体を支持し,かつ逆ハの字のワイヤーをそれぞれ巻き取る作業を行うも
のであるから,イ号物件は構成要件Hを充足する。
被控訴人らは,イ号物件のウインチ6bは,昇降用のワイヤーをより
長く収納可能にするための補助的なものであると主張する。しかし,補
助的であれ,逆ハの字のワイヤーを巻き取る作業を行うウインチである
ことに変わりはない。したがって,被控訴人らの主張は理由がない。」
⑺原判決7頁10行目末尾に,改行の上,「〔主位的主張について〕」を加
える。
⑻原判決8頁11行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「〔予備的主張について〕
(4)アイ号物件のウインチ6に配置されている前側ドラム6bは,昇降
用のワイヤーをより長く収納可能にするための補助的なものであり,
構成要件Hの「ウインチ」には該当しない。構成要件Hの「ウイン
チ」とは,「上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれ
ぞれを巻き取る一対のウインチ」であるから,「一対のワイヤー」を
「巻き取る」ものでなければならない。イ号物件の前側ドラム6b
は,巻き取り機能を有しないから,構成要件Hの「ウインチ」には当
たらない。
イ被控訴人らは,原審において,イ号物件において構成要件Hの「ウ
インチ」に相当するものは6aであると主張し(平成25年2月18
日付け「被告ら第9準備書面」参照),これに対して控訴人は,何ら
の異議も述べず,構成要件Hの「ウインチ」に相当するものは後側ド
ラム6aであると主張していたことからすると,控訴人は,前側ドラ
ム6bが構成要件Hの「ウインチ」に当たらないことを認めていたも
のと考えられる。
したがって,控訴人の予備的主張は,民事訴訟上の信義則あるいは
禁反言に反するものとして,又は,時機に後れた攻撃防御方法として
却下されるべきである。」
第3当裁判所の判断
当裁判所も,イ号物件は,本件発明の構成要件Hを充足せず,本件発明の技
術的範囲に属しないから,控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断す
る。その理由は,次のとおりである。
1本件発明について
証拠(甲1,6)によれば,本件発明は,概要次のとおりのものであること
が認められる(括弧内は,甲6(訂正請求書)添付の訂正明細書の段落番号を
示す。)。
本件発明は,急勾配の地形部分に法面を形成したり,アースアンカー孔を形
成したりする場合等に使用される法面等の加工機械に関するものである(【0
001】)。従来,高くて急勾配の地形部分に法面を形成する場合,全面にわ
たってブルトーザーやバックホウ等の土木機械の投入が不可能であるため,土
木機械での作業が不可能な部分を安全ロープを使用した人の手作業によって,
該部の土砂等の切取り,掘削等の作業を行なっていたために(【000
2】),作業効率が悪く,危険な作業であるとともに,工期が長くなり,コス
ト高になるという欠点があった(【0003】)。また,従来,高くて急勾配
の法面にアースアンカー孔を形成する場合,法面に足場を組立て,該足場上に
ボーリングマシンを設置して行なっていたが(【0002】),足場を組立て
なければならず,作業効率が悪く,時間がかかるとともに,コスト高になると
いう欠点があった(【0003】)。本件発明は,以上のような従来の欠点に
鑑み,高くて急勾配の地形部分でも作業者がほぼ水平状態で操作できる機械を
用いて土砂等の切取り,掘削等の作業や,アースアンカー孔の形成作業を安全
に効率よく,短時間に行なうことができる法面等の加工機械を提供することを
目的として(【0004】),請求項2記載の構成としたものであり,中でも
「車体あるいはベース板の一方の両側部に互いに距離を置いて取付けられた一
対のウインチであって,該車体を支持し,かつ上方が拡開する状態で張設され
た一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチ」を有する構成を採用
したことにより,自走することができない傾斜面部位において,一対のウイン
チを用いて車体を上下左右方向に移動させ,土砂等の切取り等の法面形成作業
を効率よく行なうことができるようになったものである(【0026】)。
2構成要件Hの「車体を支持し,かつ上方が拡開する状態で張設された一対の
ワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチ」の意味について
(1)証拠(甲6,8,乙19)によれば,次の事実が認められる。
ア本件無効審判の被請求人(本件特許権者)であるAは,本件訂正前の本
件特許の請求項2記載の「車体を支持するワイヤーを巻き取る一対のウイ
ンチ」の部分を,「車体を支持し,かつ上方が拡開する状態で張設された
一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチ」と減縮訂正するな
ど,本件訂正をした。
イ本件審決は,本件訂正を認めた上で,「車体を支持し,かつ上方が拡開
する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウイン
チ」との記載が不明確であるとする被控訴人ノーベルの主張について,同
記載は,「一対のウインチ」が「該車体を支持し,かつ上方が拡開する状
態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る」のに適した構造を
有しているという限度で理解でき,不明確であるとはいえないと判断し
た。
ウAは,本件審決取消訴訟において,本件審決の上記判断には誤りがある
とする被控訴人ノーベルの主張に対し,本件審決の上記判断部分を引用し
て,「本件発明の『車体を支持し,かつ上方が拡開する状態で張設された
一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチ』」との構成は,
『一対のウインチ』が『車体を支持し,かつ上方が拡開する状態で張設さ
れた一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る』のに適した構造を有している
という限度で理解することができるから,ウインチの向き等が具体的に定
められていないからといって,直ちに不明確であるということはできな
い。」と主張した(乙19・6頁24行目から7頁3行目)。
エ別件判決は,本件審決の上記判断には誤りがあるとする被控訴人ノーベ
ルの主張について,「「ウインチ」自体は周知の技術用語であり,ウイン
チによって「車体を支持し,かつ上方が拡開する状態で張設された一対の
ワイヤー」を巻き取る場合に,車体から斜めに延在するワイヤーをウイン
チが円滑に巻き取るためには,例えば,原告(本判決注・「被告」すなわ
ち「A」の誤りと認められる。)が指摘するように,車体に対して逆ハの
字状に配置するなど,ウインチが当該作業に適した構造を有すべきこと
は,当業者であれば,出願時の技術水準に照らして容易に理解することが
できる」と判示して,構成要件Hの「車体を支持し,かつ上方が拡開する
状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る」との記載が明確
でないということはできないと判断した。
(2)上記の経緯により,別件判決が確定し,被控訴人ノーベル主張の明確性
違反(特許法36条6項2号)の無効理由によっては本件特許を無効とする
ことができないとの本件審決の判断が確定したこと,及び控訴人も,本件訴
訟において,同無効理由に関し,構成要件Hについて,本件審決の上記⑴イ
の判断と同旨の主張をしていること(本判決が引用する原判決9頁19行目
冒頭から同21行目末尾まで参照)に照らすと,構成要件Hの「車体を支持
し,かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き
取る一対のウインチ」の解釈については,本件特許権者であったAが本件審
決取消訴訟において主張し,別件判決がこれに基づいて上記のとおり判示し
たように,ウインチ自体の構造として,「車体を支持し,かつ上方が拡開す
る状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る」のに適した構造
を有している,一対のウインチを意味するものと解するのが相当である。控
訴人は,構成要件Hの「一対のウインチ」については,逆ハの字のワイヤー
を巻き取る作業を行うものであれば足り,逆ハの字のワイヤーを巻き取るの
に適した構造を有するものであることまでは要求していないと主張する。し
かし,控訴人の同主張は,本件訴訟における前記無効理由に対する控訴人自
身の主張とも矛盾するものであり,また,上記認定の本件無効審判と本件審
決取消訴訟における本件特許権者の主張の経過や別件判決の判断内容に照ら
して,到底採用することはできない。
3イ号物件について
(1)控訴人の主位的主張について
控訴人は,主位的主張として,イ号物件において構成要件Hの「ウイン
チ」に対応するのは後側ドラム6aであり,後側ドラム6aは「車体を支持
し,かつ,上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻
き取る一対のウインチ」に該当する旨主張する。しかし,原判決別紙「被告
らイ号物件説明書」によっても,イ号物件の後側ドラム6aは車体の両側面
と平行に配置されているだけであり,例えば,後側ドラム6aを車体に対し
て逆ハの字状に配置するなど,後側ドラム6aが,それ自体の構造として,
逆ハの字のワイヤーを巻き取るのに適した構造を有しているものと認めるこ
とはできない。したがって,イ号物件の後側ドラム6aは,「車体を支持
し,かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き
取る一対のウインチ」とはいえない。
控訴人は,イ号物件は車体前方にフェアリーダーを設置しているのである
から,「上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き
取る」のに適した構造であるといえると主張する。しかし,前記2のとお
り,「車体を支持し,かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤー
のそれぞれを巻き取る一対のウインチ」とは,ウインチ自体の構造として,
「車体を支持し,かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそ
れぞれを巻き取る」のに適した構造を有している,一対のウインチを意味す
ると解すべきである。イ号物件の後側ドラム6aは,上記のとおり,それ自
体の構造として,車体に対して逆ハの字状に配置するなど,ワイヤーを巻き
取るのに適した構造を有しているとは認められないのであるから,仮にイ号
物件が車体前方にフェアリーダーを設置していることにより,「上方が拡開
する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る」ことが可能で
あるとしても,これをもって,イ号物件が構成要件Hを充足するということ
はできない。
したがって,控訴人の主位的主張は理由がない。
(2)控訴人の予備的主張について
控訴人は,予備的主張として,イ号物件において構成要件Hの「ウイン
チ」に対応するのは前側ドラム6bであり,前側ドラム6bは「車体を支持
し,かつ,上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻
き取る一対のウインチ」に該当する旨主張する。
しかし,構成要件Hの「ウインチ」とは,「上方が拡開する状態で張設さ
れた一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチ」であるのに対
し,原判決別紙「被告らイ号物件説明書」の記載によれば,イ号物件におい
て,ワイヤーを「巻き取る」機能を有する「一対のウインチ」に当たるもの
は,後側ウインチ6aであることは明らかであり,前側ドラム6bは,後側
ドラム6aによって巻き取られるワイヤーをより長く巻き取ることを可能に
するための補助的なウインチにすぎず,構成要件Hの「ウインチ」にはそも
そも該当しない(控訴人自身も,原審において,後ろ側ドラム6aが構成要
件Hの「一対のウインチ」に当たると主張し,当審においてもこれを主位的
主張として維持しているものである。)。
したがって,控訴人の予備的主張は理由がない。
4まとめ
以上のとおり,イ号物件は,本件発明の技術的範囲に属しない。
第4結論
以上によれば,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却
することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官設樂一
裁判官西理香
裁判官田中正哉

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