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平成28年11月2日判決言渡
平成28年(ネ)第2993号地位確認等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所
平成26年(ワ)第27214号,同第31727号)
主文
1原判決を取り消す。
2被控訴人らの控訴人に対する各主位的請求及び各予備的請求
をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,第1,2審を通じて,被控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
主文と同旨
第2事案の概要等
1事案の要旨
本件は,控訴人を定年により退職した後に,控訴人との間で期間の定めのあ
る労働契約(以下「有期労働契約」ともいう。)を締結して就労している従業
員(以下「有期契約労働者」という。)である被控訴人らが,控訴人と期間の
定めのない労働契約を締結している従業員(以下「無期契約労働者」という。)
との間に不合理な労働条件の相違が存在すると主張して,①主位的に,当該不
合理な労働条件の定めは労働契約法20条により無効であり,被控訴人らには
無期契約労働者に関する就業規則等の規定が適用されることになるとして,控
訴人に対し,当該就業規則等の規定が適用される労働契約上の地位に在ること
の確認を求めるとともに,その労働契約に基づき,当該就業規則等の規定によ
り支給されるべき賃金と実際に支給された賃金との差額及びこれに対する各
支払期日の翌日以降支払済みまで商事法定利率年6パーセントの割合による
遅延損害金の支払を求め,②予備的に,控訴人が上記労働条件の相違を生じる
ような嘱託社員就業規則を定め,被控訴人らとの間で有期労働契約(嘱託社員
労働契約)を締結し,当該就業規則の規定を適用して,本来支払うべき賃金を
支払わなかったことは,労働契約法20条に違反するとともに公序良俗に反し
て違法であるとして,控訴人に対し,民法709条に基づき,その差額に相当
する額の損害賠償金及びこれに対する各賃金の支払期日以降の民法所定の年
5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原判決は,被控訴人らの各主位的請求をいずれも認容したので,これを不服
とする控訴人が,原判決を取り消し,被控訴人らの各主位的請求及び各予備的
請求をいずれも棄却することを求めて,控訴した。
2前提事実並びに争点及び争点に関する当事者の主張
(1)前提事実並びに争点及び争点に関する当事者の主張は,下記(2)のとおり
原判決を補正し,下記(3)のとおり当事者双方の当審における各補充主張を
摘示するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2事案の概要」の1
ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2)原判決の補正
ア6頁14行目から15行目にかけての「出席率」を「出勤率」に改める。
イ14頁13行目の「28,」の次に,「原審控訴人代表者本人尋問の結
果」を加える。
ウ15頁20行目の「使用者」から同22行目の「との間に」までを「有
期契約労働者と無期契約労働者の間に」に改める。
(3)控訴人の当審における補充主張
ア労働契約法20条にいう労働条件の相違は,条文の文言どおり,「期間
の定めがあることにより」生じたものでなければならない。このことは,
労働契約法施行通達(平成24年8月10日付け基発0810第2号)が,
「…期間の定めがあることを理由とした不合理な労働条件の相違と認め
られる場合を禁止する…」としていること等からも明らかである。
控訴人は,正社員たる地位と,(高年齢者雇用安定法により義務付けら
れている)定年退職後の再雇用による嘱託者という地位の区別に基づいて,
労働条件(賃金)に区別を設けているものであり,期間の定めの有無によ
り労働条件の相違を設けているのではない。
イ労働契約法20条における①職務の内容,②職務の内容及び配置の変更
の範囲,並びに③その他の事情は,並列的なものであって,それらの間に
優劣又は主従の関係はない。
原判決は,短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律9条を引用し
て,上記①及び②が不合理性の判断の重要な要素であると解釈している。
しかし,同法を参酌するのであれば,短時間労働者の待遇についての原則
的規定である8条を引用すべきであるところ,同条は,短時間労働者及び
通常の労働者の各待遇の相違は,それぞれの業務の内容及び当該業務に伴
う責任の程度,当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮
して,不合理と認められるものであってはならないとしており,これは,
労働契約法20条にならって新設された規定である。原判決の上記解釈は,
労働契約法に,短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律9条に沿っ
た新しい条文を付け加えるものであり,法解釈の範囲を逸脱している。
ウ本件は,高年齢者雇用安定法に基づく高年齢者の雇用確保措置が問題と
なっている事案であり,そのことの特殊性が「その他の事情」として考慮
されるべきである。すなわち,控訴人にとって定年退職者の再雇用が義務
的なものであること,定年退職者の職務を変更しないことはその者らにと
って有利であり,むしろ当然であって合理性を基礎付けること,高年齢雇
用継続給付という,高年齢者の継続雇用を支援する制度があること等の事
情がある。
そして,社会的事実としても,定年後の継続雇用においては,職務の内
容等に変更がなくても賃金が減額されることがほとんどである。
賃金額の相違の程度も,労働契約法20条の不合理性の判断において考
慮すべきである。そして,本件有期労働契約の賃金の減額幅は,同業他社
の賃金水準等を考慮すると合理性がある。
エ労働契約法20条は,均衡待遇(均等待遇ではない)の考え方に立って,
有期契約労働者の「公正な待遇」を図るものであって,同一労働同一賃金
の原則を前提としたものではない(およそ実定法上同原則を定めた規定は
ない。)。すなわち,同一の職務内容でも,賃金をより低くすることが不
合理とされない場合があることを前提としている。
そのことからは,労働契約法20条の「不合理と認められる」とは,「均
衡待遇の趣旨から容認できない程度に公正さを欠く労働条件の相違」又は
「法的に否認すべき内容ないし程度で不公正に低いもの」と認められるこ
とを必要とするというべきである。
そして,前記の諸事情からは,本件の有期労働契約の労働条件が不合理
であるとは認められない。
(4)被控訴人らの当審における補充主張
ア労働契約法20条の「期間の定めがあることにより」とは,期間の定め
があること(有期労働契約であること)と労働条件の相違との間に,一定
の因果関係が存在することを要件とすることを定めたものであり,期間の
定めがあることと明らかに関係のない相違を排除する趣旨にすぎない。
なお,控訴人が指摘する労働契約法施行通達自体が,定年後の継続雇用
に同法20条が適用されることを想定している。
イ労働契約法20条の①職務の内容,②職務の内容及び配置の変更の範囲,
並びに③その他の事情について,①と②が特に重要な考慮要素である旨判
示した原判決の判断は,同条の解釈として妥当である。
まず,一般に,「その他の」の前に現れる語は,後に出てくる語の例示
であり,特に例示された事項が重要であるとの解釈には合理性がある。
また,賃金が労働者にとって特に重要な労働条件であることは明らかで
ある。
そして,有期契約労働者と無期契約労働者の間で,前記①及び②が同一
であるのに,労働条件の相違が契約自由の原則の下で違法とされてこなか
ったため,労働契約法20条が定められたことに鑑みれば,前記①及び②
が同一である以上,特に重要な賃金額に相違を設けることは,その程度に
関わらず,これを正当とすべき特段の事情がない限り不合理であるとすべ
きである。
なお,労働契約法20条と,短時間労働者の雇用管理の改善等に関する
法律9条とは異質の規定ではなく,前者の解釈において後者を参酌するこ
とに問題はない。
ウ高年齢者雇用確保措置としての有期労働契約と一般の有期労働契約の
間に一定の相違があるとしても,それが賃金の相違の合理性を説明できる
ものであるかどうか不明である。控訴人が提出する証拠(乙33,34)
によっても,定年後の継続雇用で,職務内容等が変わらないのに賃金水準
を下げることが企業全般で広く行われているとは認められない。
また,控訴人は,定年後の継続雇用で約3割も賃金を切り下げることに
ついて,世間一般の賃金水準との比較等について述べるのみで,控訴人自
体の事情に即して具体的に説明することをしていない。控訴人は,賃金抑
制の手段として定年後の継続雇用を選択したものであって,そうすると,
一般の有期労働契約と異ならず,本件について特殊な事情などない。
エ賃金を構成する個々の手当についてみると,控訴人における職務給は,
従業員が乗務する車両の種類や大きさにより要求される運転技量や責任
が異なるため,それら車両の種類や大きさに応じて支払われるものである
から,同一の車両に乗務し,同じ業務をする以上,等しく支払われるべき
ものであるのに,被控訴人らには支払われていない。
また,役付手当は,実質的には年功給又は勤続給的な性格のものである
にもかかわらず,被控訴人Aは定年前には支払われていたのに,定年後は
支払われていない。
精勤手当,住宅手当,家族手当,賞与についても,それぞれの趣旨から
は,定年後再雇用者である被控訴人らにも支払われるべきである。
以上のとおり,被控訴人らに対する賃金を減額したこと自体及びその減
額幅に合理性がないだけでなく,賃金を構成する個々の諸手当についても,
それらの趣旨からは,不支給に合理性があるとは認められない。
第3当裁判所の判断
1当裁判所は,被控訴人らの控訴人に対する各主位的請求及び各予備的請求は
いずれも理由がないものと判断する。その理由は,下記のとおりである(当審
における当事者の各補充主張に対する判断を含む。)。
2争点1(労働契約法20条違反の有無)について
(1)本件の有期労働契約は,期間の定めのある労働契約であるところ,その内
容である賃金の定め(前提事実(3)ウ(エ)の定めをいう。以下同じ。)は,正
社員(控訴人との間で期間の定めのない労働契約を締結している撒車等の乗
務員)の労働契約の内容である賃金の定め(前提事実(2)アからシまでの定
めをいう。以下同じ。)と相違しているから(以下,この相違を「本件相違」
という。),本件の有期労働契約には,労働契約法20条の規定が適用され
ることになる。
(2)アこの点,控訴人は,本件の有期労働契約の内容である労働条件は,定年
退職後の労働契約として新たに設定したものであり,定年後再雇用である
ことを理由に正社員との間で労働条件の相違を設けているのであって,期
間の定めがあることを理由として労働条件の相違を設けているわけでは
ないから,本件の有期労働契約に労働契約法20条の規定は適用されない
旨主張する。
イしかしながら,労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者
の間の労働条件の相違が不合理なものであることを禁止する趣旨の規定
であると解されるところ,同条の「期間の定めがあることにより」という
文言は,有期契約労働者の労働条件が無期契約労働者の労働条件と相違す
るというだけで,当然に同条の規定が適用されることにはならず,当該有
期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件の相違が,期間の定めの有
無に関連して生じたものであることを要するという趣旨であると解する
のが相当であるが,他方において,このことを超えて,同条の適用範囲に
ついて,使用者が専ら期間の定めの有無を理由として労働条件の相違を設
けた場合に限定して解すべき根拠は乏しい。
現実に,我が国における有期労働契約は,雇用者側からは,賃金節約や
労働力の需要変動等に基づく雇用調整を弾力的に行うこと等を目的とし
て締結されることが多く,被用者側からは,勤務時間,勤務地ないし責任
の度合い等について自己の家庭状況等に合った働き方ができるという観
点や,専門分野の知識経験等特別の資質等を生かすという観点から選択さ
れることがあるものである(甲31,32)。そして,雇用者が,賃金節
約や雇用調整の弾力性を図るために締結した有期労働契約について,事案
の内容次第で労働契約法20条が適用されることは論をまたないところ
である。
しかるところ,本件において,有期契約労働者である嘱託社員の労働条
件は,再雇用者採用条件によるものとして運用されており,無期契約労働
者である正社員の労働条件に関しては,正社員就業規則及び賃金規定が一
律に適用されているのであって,有期契約労働者である嘱託社員と無期契
約労働者である正社員の間には,賃金の定めについて,その地位の区別に
基づく定型的な労働条件の相違があり,これにより被控訴人らの賃金が定
年時のものより減額されていることからは,控訴人が,高年齢者雇用安定
法が定める選択肢の1つとして,被控訴人らと有期労働契約を締結したの
は,賃金節約や雇用調整を弾力的に図る目的もあるものと認められる(甲
7,乙4,25等)。よって,当該労働条件の相違(本件相違)が期間の
定めの有無に関連して生じたものであることは明らかというべきである。
ウしたがって,この点に関する控訴人の主張を採用することはできない。
(3)そこで,本件相違が不合理と認められるものであるか否かを次に検討する。
ア労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件
の相違が不合理と認められるか否かの考慮要素として,①職務の内容,②
当該職務の内容及び配置の変更の範囲のほか,③その他の事情を掲げてお
り,その他の事情として考慮すべきことについて,上記①及び②を例示す
るほかに特段の制限を設けていないから,労働条件の相違が不合理である
か否かについては,上記①及び②に関連する諸事情を幅広く総合的に考慮
して判断すべきものと解される。
イ本件において,嘱託社員である被控訴人らと正社員の間には,業務の内
容及び当該業務に伴う責任の程度に差異がなく(前提事実(5)オ),控訴
人が業務の都合により勤務場所や業務の内容を変更することがある点で
も両者の間に差異はないから(同(5)エ),有期契約労働者である被控訴
人らの職務の内容(上記①)並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲
(上記②)は,無期契約労働者である正社員とおおむね同じであると認め
られる。また,被控訴人らの職務内容に照らし,定年の前後においてその
職務遂行能力について有意の差が直ちに生じているとは考えにくく,実際
にもそのような差が生じていることや,雇用期間中にそのような有意の差
が生じると推測すべき事情を認めるに足りる証拠もないから,職務の内容
(上記①)に準ずるような事情の相違もない。
ウそこで,前記③のその他の事情について検討する。
(ア)本件の有期労働契約は,控訴人が高年齢者雇用安定法により義務付け
られている高年齢者雇用確保措置の選択肢の1つとして,控訴人を定年
により退職した被控訴人らと控訴人の間で締結された労働契約である。
高年齢者雇用安定法は,高年齢者雇用確保措置として,定年後の継続
雇用制度の導入のほかに,定年の年齢の引上げと定年の定めの廃止を定
めているが,実際に企業で採用されているのは継続雇用制度の導入が最
も多いと認められる(乙34)。すなわち,控訴人が定年退職者に対す
る雇用確保措置として選択した継続雇用たる有期労働契約は,社会一般
で広く行われているものである。
(イ)従業員が定年退職後も引き続いて雇用されるに当たり,その賃金が引
き下げられるのが通例であることは,公知の事実であるといって差し支
えない(なお,甲35,乙35参照)。そして,このことについては,
我が国において,安定的雇用及び年功的処遇を維持しつつ賃金コストを
一定限度に抑制するために不可欠の制度として,期間の定めのない労働
契約及び定年制が広く採用されてきた一方で,平均寿命の延伸,年金制
度改革等に伴って定年到達者の雇用確保の必要性が高まったことを背
景に,高年齢者雇用安定法が改正され,同法所定の定年の下限である6
0歳を超えた高年齢者の雇用確保措置が,ごく一部の例外を除き,全事
業者に対し段階的に義務付けられてきたこと,他方,企業においては,
定年到達者の雇用を義務付けられることによる賃金コストの無制限な
増大を回避して,定年到達者の雇用のみならず,若年層を含めた労働者
全体の安定的雇用を実現する必要があること,定年になった者に対して
は,一定の要件を満たせば在職老齢年金制度(乙49,50)や,60
歳以降に賃金が一定割合以上低下した場合にその減額の程度を緩和す
る制度(高年齢雇用継続給付)があること,さらに,定年後の継続雇用
制度は,法的には,それまでの雇用関係を消滅させて,退職金を支給し
た上で,新規の雇用契約を締結するものであることを考慮すると,定年
後継続雇用者の賃金を定年時より引き下げることそれ自体が不合理で
あるということはできない。
なお,この点について,社会の実相として,60歳の定年後に継続雇
用の措置が採られることが多く,その際60歳までの処遇と比べて低い
処遇になることが一般化していることについては,様々な事情を考慮す
れば,一般的には合理的なものと考えられるとの見解が公的に示されて
いるところである(甲35)。
(ウ)次に,控訴人が属する運輸業を含めて,定年後の継続雇用制度の導入
の状況についてみると,独立行政法人労働政策研究・研修機構の平成2
6年5月付けの「高年齢社員や有期契約社員の法改正後の活用状況に関
する調査」結果(乙33,34)によれば,企業全体の傾向として,継
続雇用制度を採用する会社が多く,その多数が,定年前後で継続雇用者
の業務内容並びに勤務の日数及び時間を変更せず,継続雇用者に定年前
と同じ業務に従事させながら,定年前に比べて賃金を引き下げているこ
とが認められる。
被控訴人の属する業種(運輸業)又は規模の企業についてみても,定
年到達後の継続雇用者の仕事内容,所属部署並びに勤務の日数及び時間
については「定年到達時と同じ仕事内容」とするものが87.5パーセ
ントであり(運輸業の平均),「定年到達時点と同じ部署及び勤務場所」
とするものが90パーセント超(従業員数が50人~100人未満の企
業の平均)であり,「フルタイム(日数も時間も定年前から変わらない)」
とするものが84.6パーセントである(運輸業の平均)。他方,年間
給与に関しては,定年到達時の水準(手当や賞与等を含む。)を100
とした場合の継続雇用者の水準(該当者の平均)についての回答結果は,
平均値が68.3,中央値が70.0(なお,従業員数が50人から1
00人未満の企業の平均値は,70.4である。)であって,大幅に引
き下げられていることが認められる。
したがって,控訴人が属する業種又は規模の企業を含めて,定年の前
後で職務の内容(上記①)並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲
(上記②)が変わらないまま相当程度賃金を引き下げることは,広く行
われているところであると認められる。
(エ)控訴人において,被控訴人ら有期労働契約者と無期契約労働者の間で
労働条件に差(本件相違)があることが,不合理と認められるものであ
るか否かを検討する。
控訴人における正社員の賃金体系は,基本給に年功的要素が取り入れ
られているものの,そのほかの賃金項目については,基本給の違いが金
額に反映されることとなる超勤手当を別にすれば,勤続年数や年齢によ
る違いがなく,基本給が最も低くなる在籍1年目で20歳以下の従業員
(在籍給8万9100円,年齢給ゼロ円)と,基本給が最も高くなる在
籍41年目以上で50歳以上の従業員(在籍給12万1100円,年齢
給6000円)の間の賃金水準の相違は,月例賃金が3万8000円,
賞与(基本給の5か月分)が19万円(3万8000円×5か月)であ
り,年間64万6000円程度である。
他方,本件請求に係る期間について,被控訴人らが正社員であったと
した場合に支給されるべき賃金と被控訴人らに実際に支給された賃金
の差額は,原判決別紙2から4まで(請求債権目録)に記載のとおりで
あり,被控訴人らに対する賃金の引下げ幅は,超勤手当を考慮しなくと
も,年間64万6000円を大幅に上回るものである。
しかし,控訴人は,被控訴人らを含めた定年後再雇用者の賃金につい
て,定年前の79パーセント程度になるように設計しており,現実に,
定年1年前の年収と比較すると,被控訴人Aについて約24パーセント
の減,被控訴人Bについて約22パーセントの減,被控訴人Cについて
約20パーセントの減となっており(なお,本件の当事者ではないが,
Dについて23ないし24パーセントの減,Eについて15ないし16
パーセントの減である。),控訴人の想定と大差なく,かつ,前記のと
おり控訴人の属する規模の企業の平均の減額率をかなり下回っている
(乙47,48,51,原審被控訴人代表者本人)。このことと,控訴
人は,本業である運輸業については,収支が大幅な赤字となっていると
推認できること(乙5ないし7)を併せ考慮すると,年収ベースで2割
前後賃金が減額になっていることが直ちに不合理であるとは認められ
ない。
(オ)被控訴人らは,個々の労働条件,具体的には賃金構成の各項目につい
て,その相違が不合理であるか否かが判断されるべきものであると主張
する。
しかし,前記のとおり,もともと定年後の継続雇用制度における有期
労働契約では,職務内容等が同一で,その変更の範囲が同一であっても,
定年前に比較して一定程度賃金額が減額されることは一般的であり,そ
のことは社会的にも容認されていると考えられること,控訴人が,①無
期契約労働者の能率給に対応するものとして有期契約労働者には歩合
給を設け,その支給割合を能率給より高くしていること,②無事故手当
を無期契約労働者より増額して支払ったことがあること,③老齢厚生年
金の報酬比例部分が支給されない期間について調整給を支払ったこと
があるなど,正社員との賃金の差額を縮める努力をしたことに照らせば,
個別の諸手当の支給の趣旨を考慮しても,なお不支給や支給額が低いこ
とが不合理であるとは認められない。
(カ)正社員の場合には,勤続するにつれて基本給が増額され,3年以上勤
務すれば退職金が支給されるのに対し,嘱託社員の場合には,勤続して
も基本賃金その他の賃金の額に変動はなく,退職金が支給されることも
ないとしても,被控訴人らが一旦退職して退職金を受給していること,
その年齢等を考慮すると,本件の有期契約労働者が長期にわたり勤務を
続けることは予定されていないことを考慮すると,不合理性を基礎付け
るものとはいえない。
(キ)なお,前記のとおり,控訴人は,定年退職者を再雇用して正社員と同
じ業務に従事させる方が,新規に正社員を雇用するよりも賃金コストを
抑えることができるという意図を有していたと認められる。しかし,前
記のとおり,定年退職者の雇用確保措置として,継続雇用制度の導入を
選択することは高年齢者雇用安定法が認めるところであり,その場合に
職務内容やその変更の範囲等が同一であるとしても,賃金が下がること
は,広く行われていることであり,社会的にも容認されていると考えら
れるから,前記の控訴人の意図は,労働契約法20条にいう不合理性を
当然に基礎付けるものではない。そして,平均して2割強という賃金の
減額率が,不合理といえないことも前記のとおりである。
(ク)控訴人は,前記前提事実のとおり,平成24年3月以降,定年後再雇
用者の労働条件について本件組合との間で団体交渉を実施しており,そ
の過程で,定年後再雇用者の基本賃金の2万円の増額(前提事実(4)エ
(ウ)),無事故手当と基本賃金の改定(同(4)オ(ウ)),老齢厚生年金の
報酬比例部分の未支給期間について調整給の支給(同(4)カ(イ)),同調
整給の増額(同(4)カ(エ))等の労働条件の改善を実施してきたことが認
められる。これらの労働条件の改善は,いずれも,控訴人と本件組合が
合意したものではなく,控訴人が団体交渉において本件組合の主張や意
見を聞いた後に独自に決定して本件組合に通知したものであり,また,
控訴人は,本件組合が,定年後再雇用者の賃金水準について実質的な交
渉を行うために,現状と異なる賃金引下げ率による試算や経営資料の提
示等を繰り返し求めてきたのに対し,その要求に一切応じていない(同
(4)エ(イ),(エ))という事情はあるものの,控訴人と本件組合の間で,
定年後再雇用者の賃金水準等の労働条件に関する一定程度の協議が行
われ,控訴人が本件組合の主張や意見を聞いて一定の労働条件の改善を
実施したものとして,考慮すべき事情である。
(ケ)なお,控訴人は,控訴人の支給する賃金が同規模の同業他社と比較し
て高額であると主張する。しかし,控訴人が提出する証拠(乙32,9
6)によっても,業種による違いや勤務態様(労働時間等)の差が不明
であり,上記主張を直ちに採用することはできない。
(4)以上によれば,本件相違は,労働者の職務の内容,当該職務の内容及び配
置の変更の範囲その他の事情に照らして不合理なものであるということはで
きず,労働契約法20条に違反するとは認められない。
よって,その余の点について判断するまでもなく,被控訴人らの各主位的
請求はいずれも理由がない。
3争点3(不法行為の成否等)について
前記のとおり,控訴人が,被控訴人らと有期労働契約を締結し,定年前と同
一の職務に従事させながら,賃金額を20ないし24パーセント程度切り下げ
たことが社会的に相当性を欠くとはいえず,労働契約法又は公序(民法90条)
に反し違法であるとは認められない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,被控訴人らの各予備
的請求はいずれも理由がない。
第4結論
よって,控訴人の本件控訴に基づき,原判決を取り消して被控訴人らの控訴
人に対する各主位的請求及び各予備的請求をいずれも棄却することとして,主
文のとおり判決する。
東京高等裁判所第12民事部
裁判長裁判官杉原則彦
裁判官山口均
裁判官高瀬順久

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71期修習生 72期修習生 求人
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