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平成29年(う)第1821号覚せい剤取締法違反被告事件
平成30年2月23日東京高等裁判所第3刑事部判決
主文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中90日を原判決の刑に算入する。
理由
本件控訴の趣意は,訴訟手続の法令違反,事実誤認及び量刑不当の主張である。
第1訴訟手続の法令違反の主張について
1原判決認定の犯罪事実とその認定に用いられた証拠
原判決認定の犯罪事実の要旨は,被告人が,平成29年6月2日頃,静岡県富士市
内の被告人方において,覚せい剤を自己の身体に注射して使用したというものであり,
原判決は,これを認定した証拠として,被告人の尿に関する鑑定書(原審甲5),被
告人の身体の注射痕に関する捜査報告書(原審甲7)等を挙げている。
2弁護人の主張
その骨子は,平成29年6月7日,捜査車両内において,男性警察官が,被告人に
対し,被告人の着衣及び所持品を捜索対象とする捜索差押許可状を示し,女性警察官
が,被告人の陰部付近と両足に着衣の上から触れるなどして捜索を実施したが,この
捜索は,成年の女子が立ち会っていない違法なものであり,この捜索手続の違法性は,
刑事訴訟法222条1項によって準用されている同法115条に反する重大なもので
あることなどからすると,引き続いて行われた警察署内での証拠収集活動で得られた
証拠に基づいた上記鑑定書や捜査報告書は,違法収集証拠として証拠能力がなく,そ
のような証拠によって本件犯罪事実を認定した原裁判所の訴訟手続には,判決に影響
を及ぼすことが明らかな法令違反があるというものである。
3当裁判所の判断
平成29年6月7日,捜査車両内において,被告人の着衣及び所持品を捜索対象と
する捜索差押許可状に基づいて行われた捜索の状況について,原審証拠によれば,成
人女性の立会がない状況で,男性警察官が被告人にその令状を示した上,女性警察官
が,被告人の陰部付近をズボンの上から確認し,その際にビニールに触れる音がした
ため,着衣の中を確認すると言ったところ,被告人がその女性警察官の手を振り払い,
何かを足の方に移動させて捜索を妨げる行為をしたため,さらに,その女性警察官が,
被告人の陰部付近及び両足を確認し,黄色の液体入りボトルを発見し,被告人が「中
身は尿だ」などと説明したことから,被告人を警察署に任意同行することになったこ
とが認められる。
女性の着衣を捜索対象とする捜索差押許可状に基づく捜索にも準用される刑事訴
訟法115条の趣旨は,捜査上の必要があって令状に基づいて行われるものである
とはいえ,捜索に乗じた不当な性的行為を防止するとともに,異性に身体を触れら
れることによる羞恥心,不快感等の軽減を図ることにあり,このような趣旨に照ら
すと,同条は,女性の身体に触れて捜索を実施する者が男性警察官である場合には
成人女性を立ち会わせなければならないとしているものと解され,本件のように,
女性の身体に触れて捜索を実施する者が女性警察官のみである場合には適用されず,
成人女性の立会は要しないと解される。したがって,女性警察官のみが被告人の身
体に触れて実施された上記捜索は適法である。
また,捜索の状況は上記のとおりであり,原審記録を検討しても,上記捜索を実施
する上でその場にいる必要のない男性警察官がいたとか,身体検査令状がなければで
きない捜索が行われたということはうかがわれない。
以上のことからすると,上記鑑定書や捜査報告書を収集した捜査過程に違法はなく,
これらの証拠に証拠能力を認めて取り調べた原裁判所の訴訟手続に法令違反はない。
第2事実誤認の主張について
1弁護人の主張
その骨子は,被告人が平成29年6月7日に警察署のトイレで排尿し,その尿を任
意提出したとされているが,被告人は,排尿の際,立会の女性警察官が男性警察官の
方を向いている隙に,水洗トイレの便器内の水をくんでコップに入れ,その水が入っ
たコップの中に排尿し,これを女性警察官に手渡したものであり,「被告人の尿」
(原審甲1)として任意提出された液体から覚せい剤の成分が検出されたとしても,
その成分が被告人の尿に由来するのか,便器内の液体に由来するのか分からないから,
上記鑑定書は,被告人が覚せい剤を使用したことの証拠にならず,犯罪の証明がない
ことになるのに,本件犯罪事実を認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明
らかな事実の誤認があるというのである。
2当裁判所の判断
被告人の警察官調書(原審乙2)等の原審証拠によれば,被告人は,警察署におい
て,女性警察官の立会で紙コップに自分の尿を採り,自分でその尿をボトルに移し替
えて封印をし,自分の尿を警察に提出したことが認められ,原審記録からは,被告人
が自分の尿を警察に提出するに当たり,便器内の水をくんで紙コップに入れたとの事
実は全くうかがわれないのであって,弁護人の主張は原審記録に現れている事実を援
用するものではないから,不適法である。
第3量刑不当の主張について
その骨子は,被告人を懲役2年8月に処し,その刑の一部である懲役4月の執行を
2年間猶予した原判決の量刑は重すぎて不当であるというのである。
本件は,上記のとおりの覚せい剤の自己使用の事案であるところ,原判決が量刑理
由として説示するところは相当であって,その結論も妥当である。
若干補足すると,被告人は,平成9年から平成15年までの間に覚せい剤取締法違
反の罪で3回懲役刑に処せられて服役を繰り返した後,平成21年に覚せい剤の自己
使用の罪で懲役2年2月に処せられ,平成24年にも覚せい剤の所持及び自己使用の
罪で懲役2年6月に処せられ,これらの刑でも服役したにもかかわらず,仮釈放後3
年2か月足らずで本件犯行に及んでいることからすると,覚せい剤に対する依存性は
相当に根深く,覚せい剤をやめるのは容易ではないのであって,厳しい非難は免れな
い。
このように本件犯情はかなり悪く,被告人の刑事責任は相当に重いにもかかわらず,
原判決は,被告人が薬物関係者と関わらないようにして覚せい剤を止めたいと述べ,
更生の意欲を示していること,交際相手が社会復帰後被告人を監督する意向を示して
いることなどの事情を考慮して,全部実刑とせずに,刑の一部の執行を猶予すること
にしたものであり,原判決の量刑は,その猶予期間を2年間とし,その猶予の期間中
保護観察に付した点を含め,相当なものとして支持できる。
そのほかに弁護人が指摘する点を踏まえて検討しても,結論は変わらない。
第4結論
よって,弁護人の控訴趣意はいずれも理由がないので,刑事訴訟法396条により
本件控訴を棄却する。刑法21条を適用して当審における未決勾留日数中90日を原
判決の刑に算入する。当審における訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を
適用して被告人に負担させない。
(裁判長裁判官秋葉康弘裁判官矢数昌雄裁判官來司直美)

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