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平成11年(行ケ)第160号 審決取消請求事件
     判    決
 原 告       ドクトル・インジェニエール・ハー・ツェー・エフ・ポル
シェ・アクチェンゲゼルシャフト
 代表者       【A】
 訴訟代理人弁護士  加藤義明、鹿野直子、弁理士 【B】
 被 告       特許庁長官 【C】
 指定代理人     【D】、【E】、【F】、【G】
     主    文
 特許庁が平成10年審判第8761号事件について平成11年1月22日にした
審決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 主文第1項同旨の判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 原告は、名称を「車両のオートマチック伝動装置用回路装置」とする発明(本願
発明)につき、1988年9月29日にドイツ連邦共和国においてした特許出願に
基づく優先権を主張して、平成1年9月29日特許出願(特願平1-252489
号)をしたところ、平成10年2月5日付の拒絶査定があったので、平成10年6
月8日審判の請求をし、平成10年審判第8761号事件として審理された結果、
平成11年1月22日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、
その謄本は平成11年2月8日原告に送達された。なお、出訴期間として90日が
附加された。
 2 本願発明の要旨(特許請求の範囲の請求項1に記載のもの。本判決におい
て、特許請求の範囲に「切り替え」とあるのは、表記の統一上「切り換え」との表
記に改めた。)
 電子制御装置によって制御される、車両のオートマチック伝動装置用の回路装置
であって、
 選択レバーを有し、該選択レバーを第1の切換路内で旋回することによって、自
動的に切り換えられる種々のギヤ変速段をあらかじめ選択することができ、
 前記選択レバー(1)は横路(12)を介して第2の切換路(13)に切り換え
ることができ、
 該第2の切換路(13)は前記第1の切換路(2)に対して平行であり、
 選択レバー(1)を第2の切換路(13)内で旋回することによって伝動装置の
前進変速段(1,2,3,4)がマニュアルで切換可能である、車両のオートマチ
ック伝動装置用の回路装置において、
 制御装置(11)が設けられており、
 該制御装置は、センサ(14)により制御される切換ユニット(23,24)を
有し、
 前記センサ(14)は、第1の切換路(2)から第2の切換路(13)への切換
を検出し、
 前記切換ユニットによって、選択レバー(1)が第1の切換路(2)から第2の
切換路(13)にシフトされる際、その時点で投入されているギヤ変速段(k)が
少なくとも次の条件が満たされるときそのまま維持される、すなわち、
 駆動内燃機関(18)の回転数(nmot)が上側限界回転数(nmax)を未
だ上回っていないか、または
 下側限界回転数(nmin)を未だ下回っていないか、または
 第2切換路(13)内で選択レバー(1)が未だ旋回されないとき、そのまま維
持される、ことを特徴とする、車両のオートマチック伝動装置用の回路装置。
 3 審決の理由の要点
 (1) 本願発明の要旨
 前項のとおりと認める。
 (2) 引用例記載の発明
 これに対して、原査定において平成9年1月8日付けで通知した拒絶の理由で引
用した、本件出願前の頒布刊行物である「自動車技術」Vol.41,No.2,(1987
年2月1日、社団法人自動車技術会発行)の255頁~264頁(引用例イ)に
は、本願発明と同一の技術分野に属するものと認められる車両の自動変速装置用の
回路装置が記載されており、特にその262頁左欄11行~16行及び図5,図1
0に、以下の事項が記載されている。
(構成要件の名称は、対応の明らかなものについては本願発明の構成要件の名称に
読み替え、必要に応じて引用例イに記載の発明の構成要件の名称あるいは符号、図
番をかっこ内に記載する。)
「電子制御装置によって制御される、車両のオートマチック伝動装置用の回路装置
(図5参照。)であって、
 選択レバー(図5,図10参照。)を有し、該選択レバーを第1の切換路内で旋
回することによって、自動的に切り換えられる種々のギヤ変速段をあらかじめ選択
することができ、
 前記選択レバーは第2の切換路に切り換えることができ、
 該第2の切換路は前記第1の切換路に対して直角であり(図5,図10参
照。)、
 選択レバーを第2の切換路内で旋回することによって伝動装置の前進変速段がマ
ニュアルで切換可能である、車両のオートマチック伝動装置用の回路装置におい
て、
 制御装置(図5の駆動系コンピュータ参照。)が設けられており、
 該制御装置は、切換ユニット(図5のギヤ制御、クラッチ制御参照。)を有し、
 前記切換ユニットによって、選択レバーが第1の切換路から第2の切換路にシフ
トされる際、その時点で投入されているギヤ変速段がそのまま維持される、すなわ
ち、
 第2切換路内で選択レバーが未だ旋回されないとき、そのまま維持される、車両
のオートマチック伝動装置用の回路装置。」
 (3) 本願発明と引用例イ記載の発明の対比
 本願発明と引用例イ記載の発明とを比較してみると、両者は以下の3点において
相違し、その他は一致している。
 A 本願発明においては、「選択レバー(1)は横路(12)を介して第2の切
換路(13)に切り換えることができ、該第2の切換路(13)は第1の切換路
(2)に対して平行」であるのに対し、
 引用例イ記載の発明においては、その図5,図10からみて「選択レバーは第2
の切換路に切り換えることができ、該第2の切換路は前記第1の切換路に対して直
角」である点。(相違点A)
 B 本願発明においては、「制御装置は、センサ(14)により制御される切換
ユニット(23,24)を有し、センサ(14)は、第1の切換路(2)から第2
の切換路(13)への切換を検出する」のに対し、
 引用例記載の発明においては、切換を検出するセンサについては明示の記載がな
く、「制御装置は、切換ユニットを有する」ものである点。(相違点B)
 C 本願発明においては、切換ユニットによって、選択レバー(1)が第1の切
換路(2)から第2の切換路(13)にシフトされる際、その時点で投入されてい
るギヤ変速段(k)がそのまま維持される条件を、少なくとも次の条件、
「駆動内燃機関(18)の回転数(nmot)が上側限界回転数(nmax)を未
だ上回っていないか、または下側限界回転数(nmin)を未だ下回っていない
か、または第2切換路(13)内で選択レバー(1)が未だ旋回されないとき」が
満たされるとき、としているのに対し、
 引用例イ記載の発明においては、引用例イの262頁左欄11行~14行の
「「D」位置から「HOLD」位置にすると「D」位置の時のギヤが保持され、こ
の位置にてレバーを「UP」方向又は「DOWN」方向に押すごとに一段ずつ「シ
フトアップ」又は「シフトダウン」される。」という記載からみて、対応する条件
が、「第2切換路内で選択レバーが未だ旋回されないとき」である点。(相違点
C)
 (4) 相違点Aについての審決の判断
 原査定において平成9年1月8日付けで通知した拒絶の理由で引用し、本件に係
る特許出願前に頒布された刊行物である特開昭60-252853号公報(引用例
ロ)には、その第8図(b)に、本願発明と同一の技術分野に属するものと認めら
れる車両の自動変速装置用の選択レバー102が第1の切換路と第2の切換路とが
横路を介して切り換えることができ、かつ、第1の切換路と第2の切換路が平行で
ある選択レバー102の切換路が記載されている。
 そして、オートマチック伝動装置においてマニュアルでも変速可能とする課題の
共通性からみて、引用例イに記載された車両のオートマチック伝動装置用の互いに
直角である第1の切換路と第2の切換路に代えて、引用例ロ記載の互いに平行な切
換路及び横路を採用することは、単なる選択事項であり、当業者において困難はな
い。
 (5) 相違点Bについての審決の判断
 引用例イには、明文の記載として選択レバーの第1の切換路と第2の切換路との
切り換えを検出するセンサはないが、引用例イの262頁左欄11行~14行に
は、「「D」位置から「HOLD」位置にすると「D」位置の時のギヤが保持さ
れ、この位置にてレバーを「UP」方向又は「DOWN」方向に押すごとに一段ず
つ「シフトアップ」又は「シフトダウン」される。」
と記載されている。
 この記載からみると、セレクトレバーを「D」位置から「HOLD」位置にする
と「D」位置の時のギヤ、すなわち、セレクトレバーの動作前に使用されていた1
速ないし最高段速のギヤのいずれかがそのまま保持されることは明らかである。
 そして、セレクトレバーを「HOLD」位置に動作させたとき、その時点(レバ
ーを「UP」方向又は「DOWN」方向に押さない時点)で使用されていたギヤが
保持されるのであるから、そのためには、
「セレクトレバーを「HOLD」位置に動作させたことを検知するセンサー。」
が必要であることは当業者において明らかである。
 したがって、相違点Bは、引用例イ記載の発明において必須の構成で、かつ、自
明の構成でもあるセンサーを本願発明において明記したものにすぎず、当業者が容
易に想到可能な記載上の相違にすぎない。
 (6) 相違点Cについての審決の判断
 相違点Cに係る、
「選択レバー(1)が第1の切換路(2)から第2の切換路(13)にシフトされ
る際、その時点で投入されているギヤ変速段(k)がそのまま維持される条件」
として、
「駆動内燃機関(18)の回転数(nmot)が上側限界回転数(nmax)を未
だ上回っていないか、または
 下側限界回転数(nmin)を未だ下回っていないか、」
を条件とする点は、課題としては内燃機関の過大回転あるいは過小回転による支障
をなくするために通常実施される周知のものである。(自動変速モードではある
が、引用例ロの4頁左下欄~右下欄における記載(イ)(ロ)(ハ)参照。)
 そして、引用例ロの8頁左下欄~右下欄に強制シフト(本願発明の第2の切換路
におけるシフトに相当。)のときの制御として、概略次の事項が記載されている。
「(3)シフトアップするとエンジン回転数が・・・アイドリング回転数以下にな
るかどうかを判定する。・・・」、
「(4)現ギヤ段からシフトダウンするとオーバーレブするかどうか判定す
る。・・・オーバーレブするときには次の判定に移る。」、
「(5)オーバーレブするとタイマーが作動を開始する・・・タイマーを1秒程度
作動させ、その1秒間のみシフトダウンする。・・・」
旨の記載があり、引用例ロ記載の発明においても、過大回転あるいは過小回転によ
る支障をなくするよう、本願発明と同じ条件のとき、ギヤ変速段がそのまま維持す
るか、タイマーで短時間のみ変速するように制御している。
 そして、過大回転となるときに、引用例ロ記載の発明のようにタイマーによる制
御を行わず、単にシフトダウンを行わないようにすることは、単なる構成の一部削
除(タイマーで短時間のみ変速するような制御を行わないこと。)により容易にで
きる設計変更である。
 よって、相違点Cは引用例ロ記載の発明から容易に想到し得る程度の設計変更で
ある。
 (7) 審決のむすび
 以上のとおりであるから、本願発明は、引用例イ及び引用例ロに記載された発明
に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条
2項の規定により特許を受けることができない。
第3 原告主張の審決取消事由
 1 取消事由1(相違点Aの判断の誤り)
 (1) 引用例イの切換路(別紙図面2(引用例イ)参照)には、第1切換路から第
2の切換路へ明確に分離している本願発明の横路に相当する部分が存在せず、例え
ばHOLDの位置からドライブDの位置に切り換えようとするとき誤ってニュート
ラルのNの位置に切り換えられる可能性があり、自動車の惰性による走行状態とな
り自動車は急速に速度低下し、後続車による追突の危険が生ずるおそれがある。
 これに対して本願発明では、選択レバー1を第2の切換路から第1の切換路に切
り換える場合、横路により規制されてドライブDの位置にしか入らず、ニュートラ
ルの位置Nに入る誤操作は絶対生じない(別紙図面1(本願発明)参照)。
 (2) 引用例ロの第8図(b)(別紙図面3(引用例ロ)参照)と、シフトアップ
ポジションやシフトダウンポジションで自動変速レバーから手を離せば自動的にば
ね力によりドライブポジションに復帰するとの記載(引用例ロ5頁左下欄10~1
5行)からみて、引用例ロ記載の発明では、ドライブポジションDの黒点位置とシ
フトアップ、ダウンポジションの黒点とを結ぶ直線に沿って切換運動が行われると
みるのが最も合理的であるから、自動変速レバーの切換路はV字形の切換路とな
る。
 そして、シフトアップもシフトダウンもDのときから1段だけしか行えず、V字
形の路をとるから、D⇔SHIFT UP,D⇔SHIFT DOWNの2つの切
換路があるとみることもでき、かつ、両切換路はN⇔D切換路とは平行でない。
 したがって、引用例イのドライビングポジションDのところに引用例ロの横倒し
T字形開口部を連接させた場合にはHOLD位置をとれなくなり、また、移動経路
はDを底としたV字状になりシフトアップ、ダウンを連続して行うことができない
方式であって、単にドライビングポジションの時のギヤ段より一段だけギヤ段を上
げるか下げることができるものが得られるにすぎない。
 (3) 以上のとおり、審決は、相違点Aについて判断するに当たり、引用例ロの技
術内容を誤認し、その結果、本願発明と引用例イとの間の相違点Aに関する判断を
誤ったものである。
 2 取消事由2(相違点Bの判断の誤り)
 (1) 引用例イのうち審決引用の262頁左欄11行~14行に記載された動作を
実現するためには、引用例イについて、「セレクトレバーを「HOLD」位置に動
作させたことを検知するセンサーが必要である」とはいえず、このセンサーが必要
であることは当業者において明らかであるとした審決の判断は誤りである。
 すなわち、セレクトレバーと連動して回転するディスクカムを設けディスクカム
の作動突起の形状としてD位置に来たときスイッチをオンにしHOLD位置まで、
そのオンの状態を保つよう突起幅を選べば、D位置からHOLD位置に移動させた
ことを検知するセンサは必要としない。そして、引用例イの同頁左欄36~37行
の「尚、「R」「N」「D」「HOLD」のレバー位置検出には数本のスライド式
接点によるパラレル信号を用い、」との記載からすると、引用例イにおいては、上
記のようなスイッチを意図しているものであることは明らかである。
 しかも、HOLD位置にセンサを設けたとしても、第1の切換路から第2の切換
路への切換を検出することはできない。すなわち、それは、セレクトレバーを第1
の切換路から第2の切換路へ切り換えて、HOLD位置に来たのか、SHIFTU
P位置からHOLD位置に戻って来たのか、SHIFTDOWN位置からHOLD
位置に戻って来たのか、一義的に決定できないからである。
 さらに、引用例イに記載のところによれば、HOLD位置でD位置のギヤが保持
されるだけであるが、本願発明においては、ニュートラル中央位置(HOLD)で
は、引用例イとは異なり内燃機関の回転数が上側限界回転数を上回っていたり、及
び下側限界回転数を下回っていれば、D位置のギヤ段は保持されずシフトアップな
いしシフトダウンされるのである。
 (2) したがって、相違点Bにおける、本願発明の第1の切換路から第2の切換路
への切換を検出するセンサは、引用例イに記載のものから当業者が容易に想到可能
なものではなく、これを、当業者が容易に相当可能な記載上の相違にすぎないとし
た審決の判断は誤りである。
 3 取消事由3(相違点Cの判断の誤り)
 (1) 本願発明においては、切換ユニットにおいて選択レバーが第1の切換路から
第2の切換路にシフトされる際その時点で投入されているギヤ変速段が維持される
条件として、
 a.駆動内燃機関(18)の回転数(nmot)が上側限界回転数(nmax)を未
だ上回っていないか、
 b.下側限界回転数(nmin)を未だ下回っていないか、
 c.第2切換路(13)内で選択レバー(1)が未だ旋回されないとき、
を設定している。本願発明のこの条件は、選択レバーをHOLD位置にするとD位
置の時のギヤ段が保持されるのみである引用例イに記載のものの条件とは異なる。
 (2) また、本願発明では、a~cの条件が一つでも満たされないときにはギヤ変
速段の維持が行われず、切換が行われる。つまり、選択レバーが未旋回であって
も、
 ① 駆動内燃機関(18)の回転数(nmot)が上側限界回転数(nmax)を上
回っている場合、D位置のときのギヤ段が保持されず、
 ② 駆動内燃機関(18)の回転数(nmot)が下側限界回転数(nmin)を下
回っている場合も、D位置のギヤ段が保持されない。
 したがって、本願発明のこの条件は、ギヤ段が保持される引用例イ記載のものと
は異なるものである。
 (3) 引用例ロに記載の発明は、選択レバーが第1の切換路から第2の切換路にシ
フトされる瞬時投入されているギヤ変速段を維持しておく構成を具備しないもの、
すなわち、第2の切換路内で選択レバーを旋回しないときの位置を有しないもので
あり、本願発明のギヤ変速段を保持する条件は、引用例ロには記載されていない。
 また、引用例ロには、
「(2)自動変速レバー102がシフトアップポジションSHIFT UPに入っ
ているかシフトダウンポジションSHIFT DOWNに入っているかを判定す
る。シフトアップポジションに入っていれば次の(3)の判定に移り、シフトダウ
ンポジションに入っていれば後の(4)の判定に移る。」(8頁左下欄4行~9
行)、
と記載されているから、引用例ロに記載の発明では、自動変速レバー102が既に
シフトアップポジション、シフトダウンポジションに入った後に判断をしているこ
とが明らかである。
 したがって、引用例ロにおいては、選択レバーをシフトアップ、ダウンに切り換
えた後で、しかも現ギヤ段から1段シフトアップ、ダウンしたときのエンジン回転
数を判定に利用しているのであって、本願発明のように、現在投入されている変速
段において条件をチェックすることは行われていない。
 引用例ロに記載の発明から本願発明のチェック条件を導入することは、当業者が
容易に想到し得る程度の設計変更には当たらない。これに反する前提の下に相違点
Cについてした審決の判断は誤りである。
 (4) 被告提出の乙第1号証(特開昭63-219947号公報)及び乙第2号証
(特開昭62-37555号公報)に示すものは、そもそもHOLDレンジから出
発してシフトアップまたはシフトダウンの切換を行うために選択レバーを旋回する
構成のものではない。
 したがって、引用例イに記載のもののHOLD位置でD位置のときにある速度段
に固定保持し、そこから選択レバーをシフトアップ又はシフトダウンのため旋回す
る構成のものに、乙第1号証、乙第2号証に示されている構成を組み合わせるとい
う構想は当業者には生じない。ドライバーは選択レバーを介して変速段の切換によ
る直接介入制御により、過大回転を回避できるからである。
第4 審決取消事由に対する被告の反論
 1 取消事由1に対して
 (1) 引用例ロの第8図(b)によれば、二つの通路を切り換えることのできる通
路(車両進行方向からみて「横路」)が存在することが認められる。
 そして、レバーを案内したり誘導する溝は、レバーの溝を特定の範囲で規制する
ためのものであって、仮に溝の幅に遊びがあっても、その遊びによるレバーの動き
を以て通路や横路の形状とみることに合理性はなく、選択レバーがV字状の移動経
路を通るようなことは引用例ロに記載されているとはいえない。
 (2) 第2の切換路内の選択レバーの機能は、引用例イに記載されており、引用例
ロから引用した点は、審決が認定したとおり「・・・選択レバー102が第1の切
換路と第2の切換路とが横路を介して切り換えることができ、かつ、第1の切換路
と第2の切換路が平行である選択レバー102の切換路が記載されている。」点で
ある。
 そして、引用例イ記載の発明に引用例ロ記載の発明を適用すれば、通路の形状と
しては原告も認めるような形状となり、「・・・前記選択レバー(1)は横路(1
2)を介して第2の切換路(13)に切り換えることができ、該第2の切換路(1
3)は前記第1の切換路(2)に対して平行であり、選択レバー(1)を第2の切
換路(13)内で旋回することによって伝動装置の前進変速段(1,2,3,4)
がマニュアルで切換可能である」という選択レバーの通路が容易に想到し得るもの
である。
 2 取消事由2に対して
 (1) 審決で適示した引用例イの記載(262頁左欄11~14行)からみると、
第1の切換路(R-N-Dの切換路)と第2の切換路(DOWN-HOLD-UP
の切換路)との切換時に、選択レバーが第2の切換路に移動されたことを検知する
ことが前提とされているから、当該「検知すること」は、本願発明における、「セ
ンサ(14)は、第1の切換路(2)から第2の切換路(13)への切換を検出
し、」(請求項1の記載)という構成に相当するものであり、センサーの設けられ
ている位置自体は明らかでなくても、少なくともセレクトレバーをHOLD位置に
動作させたことを検知することができるものである。
 そして、セレクトレバーをD位置からHOLD位置にすると、セレクトレバーの
動作前に使用されていた1速ないし最高段速のギヤのいずれかがそのまま保持され
ることは明らかである。
 3 取消事由3に対して
 (1) 審決は、本願発明の条件c(第2切換路(13)内で選択レバー(1)が未
だ旋回されないとき)は、根拠を挙げた上で引用例イに既に記載されていると認定
している。
 (2) 本願発明の条件aとbは、内燃機関に過大回転や過小回転が生じることを防
止するために設けられる周知の条件にすぎない。
 すなわち、この引用例ロ記載の周知の手段は自動変速モード(Dレンジ)におい
て適用されているが、本願発明においては第2の切換路13(手動で変速可能なモ
ードの切換路)における変速段において適用されている点で一応の相違があること
を認めた上で、内燃機関の破損を招く過大回転や内燃機関の停止を招く過小回転を
防止する制御を行うことは自動変速モードにおいては周知であるとしたものであ
る。
 そして、引用例ロには、手動で変速可能なモードにおいても、シフトアップ時や
シフトダウン時ではあるが、内燃機関の過大回転あるいは過小回転が生じないよう
制御する点が記載されているから、これを引用例イ記載の保持されたギヤ段(引用
例イ262頁左欄12行~15行の記載参照)に適用して、該保持されたギヤ段に
おいて内燃機関の破損や停止を防止する条件を定め、条件が満たされるとき(内燃
機関の過大回転や過小回転が生じないとき)には特段の制御をせずにそのままの変
速段を維持するようにし、条件が満たされないとき(内燃機関が過大回転あるいは
過小回転するとき)には内燃機関の破損や停止を防止するよう変速制御する程度の
ことは、内燃機関の破損や停止が望ましくないことが自明である点からみて、容易
に想到し得るとしたものである。
 (3) このように、審決は、引用例イ記載の発明には本願発明のギヤ変速段がその
まま維持される3つの条件がすべて記載されているわけではないことを認めた上
で、引用例イ記載の発明に引用例ロ記載の発明を適用することにより、本願発明の
ような3つの条件を規定することは、容易に想到できる程度のこととしたものであ
る。
 (4) 自動的に変速を行うDレンジにおいては、通常、内燃機関の過大回転や過小
回転による問題は自動的に回避できるものの、3速、2速、1速レンジに選択レバ
ーを旋回した場合には、すなわち、適宜の変速レンジのまま走行した場合には、内
燃機関の過大回転や過小回転による問題が生じ得ることは自明である。本願発明
も、選択レバ-が第1の切換路から第2の切換路にシフトされる際、その直前にD
レンジにおいて選択されていたギヤ段が維持されるものであり、そのような場合の
内燃機関の過大回転や過小回転に対する安全対策は、周知のものである。
 例えば、
 ① 乙第1号証(特開昭63-219947号公報)に、その出願時における従
来技術の説明として、「1速または2速のホールドレンジを選択した場合でも、車
速が所定値以上のときには強制的にアップシフト操作してエンジンの過回転を防止
するようにした装置が知られている。」が記載されており、
 ② 乙第2号証(特開昭62-37555号公報)に、「ホールドレンジにおい
て走行不能な車速に低下した場合にシフトダウンを行う手段を設けた自動トランス
ミッション」と記載されていることからも明らかである。
 (5) これらの点からみて、本願発明に係るa,bの条件のときにギヤ変速段を維
持し、条件が満たされなければギヤ変速段を維持しないようなことは課題としては
自明のものであるといえる。そしてその解決手段も周知であるから、「相違点Cは
引用例ロ記載の発明から容易に想到し得る程度の設計変更である。」とした審決の
判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
 1 相違点Bの判断について
 (1) 本願発明の特許請求の範囲請求項1の記載によれば、本願発明は、
 ① 第1の切換路が自動変速であり、第2の切換路は手動による前進変速段の切
換であること、
 ② センサが選択レバーの第1の切換路から第2の切換路への切換を検出するこ
と、
 ③ ギヤを維持するための3つの条件、
 a.駆動内燃機関(18)の回転数(nmot)が上側限界回転数(nmax)を未
だ上回っていないか、又は
 b.下側限界回転数(nmin)を未だ下回っていないか、又は
 c.第2切換路(13)内で選択レバー(1)がいまだ旋回されないとき、
の判断が、選択レバーが第1の切換路から第2の切換路にシフトされる際に行われ
るものであること、
 以上の構成を採用しているものであり、本願発明のセンサは、選択レバーの第1
の切換路から第2の切換路への切換を検出するものであることが明らかである。
 (2) これに対し、甲第5号証によれば、引用例イのセレクト(選択)レバーのH
OLD位置に至る動きとして、D→HOLD、HOLD→UP→HOLD、HOL
D→DOWN→HOLDの三種類の状況が考えられるが、いずれの状況において
も、HOLD位置では直前に選択されていたギヤ変速段を保持するだけで変わりは
ないから、引用例イにおいては、その三種類の区別を検出する必要がないことが自
明である。そして、甲第5号証(引用例イ)によれば、引用例イには、「尚、
「R」「N」「D」「HOLD」のレバー位置検出には数本のスライド式接点によ
るパラレル信号を用い、誤判定による誤作動の発生を防止している。」(262頁
36~38行)との記載があることが認められるから、選択レバーはHOLD位置
に存在するか否かを検出するセンサーであって、DからHOLDへの選択レバーの
移動を検出するセンサーではない。
 したがって、引用例イに記載の発明において「「セレクトレバーを「HOLD」
位置に動作させたことを検知するセンサー。」が必要であることは当業者において
明らかである。」とした、相違点Bの判断中の審決の認定は誤りである。
 (3) 以上の相違点Bに関する本願発明の構成と引用例イの記載から認められる技
術的事項とを対比すると、相違点Bは当業者が容易に想到可能な記載上の相違にす
ぎないと認めることはできず、「相違点Bは、引用例イ記載の発明において必須の
構成で、かつ、自明の構成でもあるセンサーを本願発明において明記したものにす
ぎず、当業者が容易に想到可能な記載上の相違にすぎない」とした審決の判断は誤
りである。
 (4) なお、本願発明の構成を別の視点からみて整理すると、本願発明は、
「選択レバーが第2の切換路で未旋回であっても、
 a′駆動内燃機関(18)の回転数(nmot)が上側限界回転数(nmax)を上
回っているか、又は、
 b′下側限界回転数(nmin)を下回っている場合は、
ギヤ変速段が切り換えられる、」
という構成を採用するものと解釈することができる。この点は原告が主張するとこ
ろであり、被告も、選択レバーが未旋回であってもギア変速段が切り換えられる場
合のあることについては争っていない。
 上記相違点Bに関する判断は、本願発明のこの解釈に基づけば理解しやすいし、
この解釈は、もとより、甲第2ないし第4号証(願書、平成9年8月22日付け及
び平成10年7月8日付け手続補正書)の本願明細書の記載と矛盾するものではな
い。そして、甲第4号証によれば、本願発明の平成10年7月8日付け手続補正書
に明細書の補正として
「 上記課題は本発明により、次のように構成して解決される。すなわち、制御装
置が設けられており、該制御装置は、センサにより制御される切換ユニットを有
し、前記センサは、第1の切換路から第2の切換路への切換を検出し、
 前記切換ユニットによって、選択レバーが第1の切換路から第2の切換路にシフ
トされる際、その時点で投入されているギア変速段が少なくとも次の条件が満たさ
れるときそのまま維持される、すなわち、
 駆動内燃機関の回転数が上側限界回転数を未だ上回っていないか、または
 下側限界回転数を未だ下回っていないか、または
 第2切換路内で選択レバーが未だ旋回されないとき、そのまま維持されるように
構成して解決される。
 このような構成を採用したことの利点は、運転者が選択レバーを一方の通路から
他方の通路に切り換え、未だ第2の通路内で旋回を行わずにシフトアップないしは
シフトダウンのタイミングを見計らっているときに不所望のギヤ切換が回避される
ことである。これにより運転者は、マニュアルギヤの車を操作しているのと同様の
操作感覚が得られる。」
との記載があることが認められる。この記載も併せ考慮すると、本願発明は、選択
レバーを第1の切換路から第2の切換路に切り換えた際、未旋回位置でギアシフト
が起こることを前提として、センサーにより制御される切換ユニットによって、原
則的にはギヤが維持され、ギアシフトが回避されるようにすることを本願発明の目
的としているものということができ、上記解釈による構成もその目的に沿うものと
して理解することができる。もっとも、この解釈は、本願明細書の記載から一目瞭
然に判明するとはいい難い点もあるので、別の機会に明細書の記載の補正がされる
ことが望ましい。
 2 相違点Cの判断について
 (1) 審決は、「相違点Cに係わる、・・・を条件とする点は、課題としては内燃
機関の過大回転あるいは過小回転による支障をなくするために通常実施される周知
のものである。(自動変速モードではあるが、引用例ロの4頁左下欄~右下欄にお
ける記載(イ)(ロ)(ハ)参照。)」と認定している。
 (2) 甲第6号証(引用例ロ)によれば、引用例ロの特許請求の範囲の(1)には、
「(イ)自動変速レバーからのドライブポジション信号が、運転状況に応じた最適
な前進ギヤ段に入れてオートドライブにするような指令である場合には、その時点
のエンジン回転数が、エンジン回転数とアクセル開度の関係から求まる低域回転数
と高域回転数との間の回転数である常用回転数領域内に入るか否かを判定し、常用
回転数領域内であれば現ギヤ段を保持するようにクラッチ自動制御装置及びトラン
スミッション切換装置を制御し、常用回転数領域外であればエンジン回転数が常用
回転数領域内になるようなギヤ段のうちの高位のギヤ段を選出し、この選出したギ
ヤ段ヘギヤ切換を行うようにクラッチ自動制御装置及びトランスミッション切換装
置を制御し、
(ロ)自動変速レバーからのドライブポジション信号が、現ギヤ段に対して強制的
にギヤ段を上げるような指令である場合には、ギヤ段を上げた場合にエンジン回転
数がアイドリング回転数より小さくならないことを条件に、ギア段を上げるようク
ラッチ自動制御装置及びトランスミッション切換装置を制御し、
(ハ)自動変速レバーからのドライブポジション信号が、現ギヤ段に対して強制的
にギヤ段を下げるような指令である場合には、ギヤ段を下げた場合にエンジン回転
数が過回転にならないことを条件に、ギヤ段を下げるようクラッチ自動制御装置及
びトランスミッション切換装置を制御することを特徴とする自動変速システム。」
と記載されていることが認められる。
 (3) そして、この記載から、常用回転数領域に入っていれば内燃機関の破損や停
止を招くことがないということはいえるとしても、常用回転数の上限と下限が内燃
機関の破損や停止を招く回転数と同じ回転数であると認めるのは困難である。
 上記(イ)の記載によれば、引用例ロに記載の発明においてオートドライブ(自
動変速)において実現されているのは、常用回転数領域内に入るか否かの判定と常
用回転数に入るようにする制御にとどまるから、引用例ロの上記記載から、被告の
主張するように「内燃機関の破損を招く過大回転や内燃機関の停止を招く過小回転
を防止する制御を行うこと」は自動変速モードにおいては周知である、と認めるこ
とはできない。
 (4) また、上記(ロ)、(ハ)の記載は手動によるギヤの強制切換についての説
明であるから、(ロ)と(ハ)の記載から、内燃機関の破損を招く過大回転や内燃
機関の停止を招く過小回転を防止する制御を行うことは「自動変速モードにおいて
は周知である。」と認めることもできない。
 (5) 前記1(1)でみたとおり、本願発明は、ギヤを維持するために、a.駆動内
燃機関(18)の回転数(nmot)が上側限界回転数(nmax)を未だ上回ってい
ないこと、b.下側限界回転数(nmin)を未だ下回っていないことを条件として
挙げている。
 審決が相違点Cについて判断した説示からすると、審決は、過大回転をオーバー
レブ回転数以上と、過小回転をアイドリング回転数以下との意味で理解して、審決
が認定した引用例ロの(3)、(4)の記載、すなわち、
「(3)シフトアップするとエンジン回転数が・・・アイドリング回転数以下にな
るかどうかを判定する。・・・
(4)現ギヤ段からシフトダウンするとオーバーレブするかどうか判定す
る。・・・オーバーレブするときには次の判定に移る。」
との記載の構成が、本願発明のa、bと同じ条件であると認定しているものと理解
される。
 しかしながら、甲第6号証(引用例ロ)によれば、引用例ロの記載「(3)~
(5)」の前の8頁左下欄2~9行に、
「(1)車速が3㎞/h以上で強制シフト変更の指示があったときにこのサブルー
チンに入る。
 (2)自動変速レバー102がシフトアップポジションSHIFT UPに入っ
ているかシフトダウンポジションSHIFT DOWNに入っているかを判定す
る。シフトアップポジションに入っていれば次の(3)の判定に移り、シフトダウ
ンポジションに入っていれば後の(4)の判定に移る。」
と記載されていることが認められる。この記載によれば、審決が認定した引用例ロ
の(3)、(4)の判定は、自動変速レバーが既にシフトアップポジションあるい
はシフトダウンポジションに入った後(すなわち強制シフトアップあるいはダウン
の指令が出された後)にされるものであることが明らかである。
 (6) これに対し、本願発明では、条件a~cの判断は選択レバーが第1の切換路
から第2の切換路にシフトされる際に行われるものであることは前示のとおりであ
るから、いまだ強制シフトアップ、ダウンの指令は出されておらず、強制シフトア
ップ、ダウンの指令が出された後にされる引用例ロの判定(3)、(4)の条件
が、本願発明の上記a、bと同じ条件であるということはできない。
 すなわち、本願発明では、第1の切換路から第2の切換路への切換えを検出する
センサにより制御される切換ユニットによって条件a、b、cが判断されるもので
あり、その判断結果により選択レバーは未旋回の状態(条件c)をとることができ
るので、条件判断時には強制シフトアップあるいはダウンの指令は出されていな
い。そして、その指令が出されない以上、第2の切換路では強制シフトアップある
いは強制シフトダウンは実行されないから、「シフトアップすると・・・」、「シ
フトダウンすると・・・」というギヤシフトを仮定して、アイドリング回転数以下
になるかオーバーレブする回転数になるかの判断は、選択レバーが未旋回の状態お
いては必要がないものである。
 また、条件判断の後直ちに強制シフトアップ、ダウンが実行されるとは限らない
し、未旋回の間に内燃機関の回転数や車の走行速度は変化するので、本願発明の切
換ユニットによりなされた内燃機関回転数についての判断が、強制シフトアップや
ダウンの実行指令が出たとき(選択レバーが未旋回位置から旋回された時)におい
て、アイドリング回転数以下になるかオーバーレブする回転数になるかの判断とし
て、そのまま利用することができるものではないというべきである。
 (7) したがって、引用例ロの(3)、(4)が本願発明の上記a、bと同じ条件
であると認めることはできない。審決は、そのことを前提として、「相違点Cは引
用例ロ記載の発明から容易に想到し得る程度の設計変更である」と判断したもので
あって、この判断は誤った前提によったものであり、誤りである。
 (8) 被告は、引用例ロには、手動で変速可能なモードにおいても、シフトアップ
時やシフトダウン時ではあるが、内燃機関の過大回転あるいは過小回転が生じない
よう制御する点が記載されているから、これを引用例イ記載のHOLDの位置で保
持されたギヤ段に適用して、保持されたギヤ段において内燃機関の破損や停止を防
止する条件を定め、条件が満たされるとき(内燃機関の過大回転や過小回転が生じ
ないとき)には特段の制御をせずにそのままの変速段を維持するようにし、条件が
満たされないとき(内燃機関が過大回転あるいは過小回転するとき)には内燃機関
の破損や停止を防止するよう変速制御する程度のことは、内燃機関の破損や停止が
望ましくないことが自明である点からみて、相違点Cの点の本願発明の構成は容易
に想到し得ると主張する。
 しかしながら、引用例イにおいてHOLD位置はギヤを保持するだけであり、ま
た、もともとギヤの手動切換を意図しているから、HOLD位置で内燃機関が過大
回転あるいは過小回転となっても運転者の意志により強制シフトアップやシフトダ
ウンができ、引用例イに記載の発明においては、未旋回であっても限界回転数と比
較して自動的にギヤ切換を行うという発想がないことは明らかである。
 次に、引用例ロ記載の発明においてはHOLD位置がないから、被告主張のよう
に引用例イ記載の発明におけるHOLD位置及びギヤ維持機能と引用例ロ記載の発
明における技術を組み合わせたとしても、HOLD位置の機能として、引用例イに
記載のHOLD位置における機能以上のものは得られないというべきである。
 そして、引用例イ記載の発明においては、HOLD位置のほかに引用例ロと同様
の手動による強制シフトアップポジション(UP位置)と強制シフトダウンポジシ
ョン(DOWN位置)を有するので、仮に、審決認定の引用例ロにおける条件
(3)や(4)とその後の制御を引用例イに記載の発明に適用しようとすれば、こ
れをUP位置、DOWN位置に設けることが当業者にとって容易に想到し得ること
と解されるのであり、それを避けて、HOLD位置の機能として組み込むことは困
難であると認められる。
 (9) 被告は、変速レンジを固定して走行した場合には、内燃機関の過大回転や過
小回転による問題が生じ得るのは自明のことであり、本願発明も、選択レバーが第
1の切換路から第2の切換路にシフトされる際、その時点で投入されているギヤ変
速段が維持される、すなわち、その直前にDレンジにおいて選択されていたギヤ段
が維持されるものであり、そのような場合の内燃機関の過大回転や過小回転に対す
る安全対策は、乙第1号証(特開昭63-219947号公報)及び第2号証(特
開昭62-37555号公報)に記載されているように周知の技術である、と主張
する。
 しかしながら、被告が主張する周知技術は変速レンジを固定して走行することを
前提としたものであって、引用例ロ記載の発明と異なるものであり、仮に被告主張
の周知技術を採用すれば、引用例ロ記載の技術は不要となるものと認められる。し
たがって、被告主張の周知技術は、「相違点Cは引用例ロ記載の発明から容易に想
到し得る程度の設計変更である。」とした審決の判断の裏付けとなるものではな
い。
 (10) 以上のとおりであり、相違点Cについてした審決の判断は誤りである。
第6 結論
 以上のとおり、原告主張の審決取消事由2、3は理由があり、その余の取消事由
について判断するまでもなく原告の請求は認容されるべきである。
(平成12年9月12日口頭弁論終結)
 東京高等裁判所第18民事部
     裁判長裁判官   永   井   紀   昭
        裁判官   塩   月   秀   平
        裁判官   橋   本   英   史
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