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主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1(1)麻布税務署長が平成19年6月27日付けで原告に対してした,原告の平
成16年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税の更正処分
のうち所得金額1億0978万8737円,納付すべき税額2333万62
00円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
(2)麻布税務署長が平成19年6月27日付けで原告に対してした,原告の平
成17年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税の更正処分
のうち所得金額6819万0506円,納付すべき税額1085万6900
円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
2国税不服審判所長が平成20年3月11日付けで原告に対してした,上記各
更正処分及び各過少申告加算税賦課決定処分に対する審査請求をいずれも棄却
する旨の裁決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,原告の平成16年1月1日から同年12月31日までの事
業年度(以下「平成16年12月期」という。)及び平成17年1月1日から
同年12月31日までの事業年度(以下「平成17年12月期」という。)の
法人税の確定申告において,法人税法(平成18年法律第10号による改正前
のもの。以下「法」という。)23条により益金の額に算入しないとされる関
係法人株式等に係る受取配当等の額を算出する過程で,同条4項2号により控
除すべきとされる負債利子の金額を算定する際に,配当等があった関係法人の
株式等の価格のみを掲記したところ,配当等の有無にかかわらず原告が保有す
る全ての関係法人株式等の価格を合計した額により算定すべきであるなどとし
て,法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を受けたことから,
上記各処分の取消しを求めるとともに,上記各処分に対する審査請求を棄却し
た裁決は公正な審理に基づかないものであるとして,併せてその取消しを求め
た事案である。
1法令等の内容
(1)法23条1項は,内国法人が受ける利益の配当の額(1号)その他同項各
号に掲げる金額(外国法人若しくは公益法人等又は人格のない社団等から受
ける1号に掲げるものを除く。以下「配当等の額」という。)のうち,関係
法人株式等に係る配当等の額は,その内国法人の各事業年度の所得の金額の
計算上,益金の額に算入しない旨定めている。
(2)法23条4項は,柱書きで,同条1項の場合において,同項の内国法人が
当該事業年度において支払う負債の利子があるときは,同項の規定により当
該事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入しない金額は,次に掲げる
金額の合計額とする旨定め,同項2号は,「その保有する関係法人株式等に
つき当該事業年度において受ける配当等の額の合計額から当該負債の利子の
額のうち当該関係法人株式等に係る部分の金額として政令で定めるところに
より計算した金額を控除した金額」と定めている。
(3)法23条5項は,同法1項及び4項に規定する関係法人株式等とは,内国
法人が他の内国法人(公益法人等及び人格のない社団等を除く。)の発行済
株式の総数又は出資金額(当該他の内国法人が有する自己の株式又は出資を
除く。)の100分の25以上に相当する数又は金額の株式又は出資を有す
る場合として政令で定める場合における当該他の内国法人の株式又は出資
(連結法人株式等を除く。)をいう旨定めている。
(4)法人税法施行令(平成18年政令第125号による改正前のもの。以下
「施行令」という。)22条2項は,法23条4項2号に規定する政令で定
めるところにより計算した金額は,以下のとおりとする旨定めている。(以
下,施行令22条2項の規定による計算方法を「総資産按分法」という。)
当該事業年度及び当該事業年度の前事業年度終了
の時における法23条4項に規定する関係法人株
当該事業年度において式等の帳簿価額の合計額(施行令22条2項2号)
支払う負債の利子の額×
の合計額当該事業年度及び当該事業年度の前事業年度の確
定した決算に基づく貸借対照表に計上されている
総資産の帳簿価額の合計額(同項1号)
2争いのない事実等(証拠等により容易に認められる事実については,各項末
尾に証拠等を掲記した。)
(1)原告は,平成15年1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下
「平成15年12月期」という。),平成16年12月期及び平成17年1
2月期の各事業年度末において,法23条5項に規定される関係法人株式等
として,別表5記載のとおりの株式を保有していた。また,原告の平成15
年12月期ないし平成17年12月期の各確定した決算に基づく貸借対照表
に計上されている総資産の帳簿価格の合計額(金銭債権から控除する方法に
より当該貸借対照表上に計上されている貸倒引当金勘定の金額を控除する前
のもの,以下「総資産帳簿価格」という。)は,別表6記載のとおりであっ
た。(乙1の1ないし4,乙2の1,2,乙3の1,2,乙4,5)
(2)原告は,平成16年12月期において,A株式会社(以下「A」とい
う。)から4800万円の配当を受ける一方,負債利子として1億7625
万1066円を支払い,また,平成17年12月期において,Aから480
0万円の配当を受ける一方,負債利子として9700万4662円を支払っ
た。(乙4,5)
(3)原告は,Aからの配当につき法23条1項,4項2号に基づく受取配当等
の益金不算入額を算出するに当たり,施行令22条2項2号にいう「法第2
3条第4項に規定する関係法人株式等」の帳簿価格を,配当のあったAの株
式の帳簿価格である3000万円であるとした上,平成16年12月期及び
平成17年12月期の各事業年度の法人税について,別表1,2記載のとお
り確定申告をした。
(4)麻布税務署長は,上記各事業年度の法人税について,上記関係法人株式等
の帳簿価格として,原告の保有する全ての関係法人株式等の帳簿価格である
7億0750万円(平成15年12月期末)又は6億8300万円(平成1
6年12月期末,平成17年12月期末)とした上,別表1,2記載のとお
り各更正処分及び各過少申告加算税賦課決定処分をした(以下それぞれ「本
件各更正処分」「本件各賦課決定処分」といい,これらを併せて「本件各更
正処分等」という。)。(甲2,3)
(5)原告は,国税不服審判所長に対し,別表1,2記載のとおり審査請求をし
たが,国税不服審判所長は,別表1,2記載のとおりこれをいずれも棄却す
る旨の裁決をした(以下「本件裁決」という。)。
(6)被告が本訴において主張する本件各更正処分等の根拠及び適法性は,別紙
記載のとおりである。
3争点
(1)本件各更正処分等の適法性,すなわち「法第23条第4項に規定する関係
法人株式等」(施行令22条2項2号)とは,当該事業年度における配当等
の支払のあった関係法人株式等を指すのか,あるいは,配当等の有無にかか
わらず,当該法人が保有する全ての関係法人株式等を指すのか。
(2)本件各更正処分等は,法人税法130条の定める理由付記を欠く点で,違
法であるか。
(3)本件裁決は,国税不服審判所長が原告の重要な主張を取り上げず黙殺する
ことにより公正な審理を怠った点で,違法であるか。
4争点に関する当事者の主張
(1)法23条4項に規定する関係法人株式等とは,当該事業年度における配当
等の支払の有無にかかわらず,法人の保有する全ての関係法人株式等をいう
のか否かについて
(被告の主張)
ア施行令22条2項2号にいう「法第23条第4項に規定する関係法人株
式等」とは,法23条4項2号冒頭の「その保有する関係法人株式等」の
ことであるところ,その「関係法人株式等」について,法23条5項は,
内国法人が他の内国法人の発行済株式の総数又は出資金額の100分の2
5以上に相当する数又は金額の株式又は出資を有する場合として政令で定
める場合における当該他の内国法人の株式又は出資をいう旨定め,これを
受けた施行令22条の2第1項1号及び同条4項は,当該株式又は出資を
当該事業年度終了の日以前6か月以上引き続き有している場合と規定して
おり,所有する株式等の割合及び保有期間によって関係法人株式等に該当
するか否かが定まるものとし,配当等の支払のあることは何ら要件として
いないから,法23条4項2号冒頭の「その保有する関係法人株式等」及
び施行令22条2項2号の「法第23条第4項に規定する関係法人株式
等」は,いずれも配当等の支払の有無にかかわらず,当該法人の保有する
全ての関係法人株式等を指すものと解すべきである。
イ施行令22条2項の規定による総資産按分法は,昭和33年度の税制改
正により導入されたいわゆる資産按分方式,すなわち,「大蔵省令の定め
るところにより,法人の当該事業年度において支払う利子の額に,その有
する総資産の帳簿価額のうちに株式等の帳簿価格の割合を乗じて計算」す
る方法(昭和33年政令第70号による改正後の法人税施行規則18条の
5ただし書き)が受け継がれ現在に至ったものであるところ,資産按分方
式は,配当を受けるための元本である株式等を取得するための負債の利子
は,たとえ無配期間中に支払ったものであっても,その後の配当を受ける
ための費用であり,その事業年度の損金に算入すべきではないと考えられ
ることから採られた措置であって,今日の企業経営,会計処理の実情に即
して合理性を有するとされており,総資産按分法はこの資産按分方式の考
え方を踏襲するもので合理性を有するものである。
(原告の主張)
ア法23条4項2号冒頭の「その保有する関係法人株式等」が,配当等の
支払の有無にかかわらずその保有する全ての関係法人株式等を意味するか
否かは,法文上明らかなものとはいえない。むしろ,法23条4項は冒頭
で,「第1項の場合において」と規定しているところ,法23条1項は
「関係法人株式等に係る配当等の額は益金の額に算入しない」と規定して,
配当がない場合について一切触れていないのであるから,「第1項の場
合」とは,関係法人株式等に配当がある場合のことであり,法23条4項
2号冒頭の「その保有する関係法人株式等」は,第1項の場合に関連して
保有する関係法人株式等,すなわち配当のある関係法人株式等を指すと解
するのが,文脈上自然である。
イ法23条の立法趣旨は,関係法人からの配当については,益金不算入と
することにより原則として二重課税を排除するが,負債利子のある場合は,
立法政策上の配慮から,配当を得るために取得した元本,すなわち配当の
ある関係法人株式の負担すべき負債利子を,益金不算入の受取配当額から
控除することにより,限定的に二重課税するというものであるところ,被
告の主張はかかる立法趣旨を逸脱するものである。
ウ配当のない株式の負債利子額と配当とは,本来,費用と収益の対応関係
がないのであるから,被告の主張は,費用収益対応の原則を全く無視した
筋の通らないものである。
(2)本件各更正処分等の理由付記について
(原告の主張)
本件各更正処分等においては,更正の理由として,法人税法基本通達3−
2−8の考え方が正しいものであることを前提とした上で,原告の所得金額
等の計算に誤りがあると述べるのみで,原告が求めていた基本通達3−2−
8の考え方自体についての法令根拠を述べておらず,課税処分手続として違
法である。
(被告の主張)
本件各更正処分では,理由として,B株式会社及びC株式会社の株式は関
係法人株式等に該当するので,これらの株式に係る帳簿価格を関係法人株式
等の帳簿価格に加算して受取配当等の益金不算入額を計算したことを示し,
処分行政庁の判断過程を省略することなく記載しているのであり,処分行政
庁の判断の慎重,合理性の確保という点でも,不服申立ての便宜の要請から
みても,更正の理由の付記に不備があるとはいえない。
(3)本件裁決の適法性について
(原告の主張)
原告は,国税不服審判所に提出した平成19年8月22日付け「反論書」
において,東京国税局による税務調査時に法人税基本通達3−2−8の法令
に基づく根拠説明として提示された質疑事例(甲1)に関し,その法令上の
根拠を明らかにするよう主張した。
また,原告は,同年10月5日付け再反論書において,処分行政庁が意見
書で引用した文献(甲8)で,配当等の額から控除すべき負債利子額の計算
式において,分子は配当等の基因となる株式であることを明示しているから,
配当とは関係ない株式が含まれないことが明らかであるとの主張をした。
これらはいずれも,審理上重要な事項であるにもかかわらず,国税不服審
判所長は原告の主張を正面から取り上げず黙殺しており,本件裁決は公正な
審理に基づかないものとして,違法である。
(被告の主張)
審査請求手続においては,当該処分の要件事実に係る事実上又は法律上の
争点について,調査及び審理が的確にされていれば,審理不尽の違法がある
ことにならないし,当該具体的事案の解決に必要な要件事実に係る事実上又
は法律上の争点について裁決書において明らかにされていれば,理由不備の
違法があることにはならないところ,本件裁決においては,結論に至る判断
過程に審理不尽や理由の不備はない。
第3争点に対する判断
1争点(1)(法23条4項に規定する関係法人株式等とは,当該事業年度にお
ける配当等の支払の有無にかかわらず,法人の保有する全ての関係法人株式等
をいうのか否か)について
(1)法23条4項2号が控除対象金額として定める「当該負債の利子の額のう
ち当該関係法人株式等に係る部分の金額として政令で定めるところにより計
算した金額」という文言中の「当該関係法人株式等」とは,文理上,同号の
冒頭の「その保有する関係法人株式等」を指すことは明らかであり,また,
上記の法23条4項2号の「政令で定めるところにより」という規定を受け
て施行令22条2項2号が定める「法第23条第4項に規定する関係法人株
式等……の帳簿価格の合計額」という文言中の「関係法人株式等」とは,同
様に,文理上,法23条4項2号冒頭の「その保有する関係法人株式等」を
指すこともまた明らかである。
そして,法23条5項は,前項に規定する「関係法人株式等」とは,内国
法人が他の内国法人の発行済株式の総数又は出資金額の100分の25以上
に相当する数又は金額の株式又は出資を有する場合として政令で定める場合
における当該他の内国法人の株式又は出資をいう旨定めており,また,これ
を受けた施行令22条の2第1項1号及び同条4項は,当該株式又は出資を
当該事業年度終了の日以前6か月以上引き続き有している場合と規定してお
り,これらの規定によれば,「関係法人株式等」に該当するか否かは,所有
する株式等の割合及び保有期間によって定まるものとするにとどまり,「関
係法人株式等」に該当するための要件として,配当等の支払のあることは何
ら要件として規定していない。
そうすると,法23条4項2号冒頭の「その保有する関係法人株式等」と
は,配当等の支払の有無にかかわらず,当該法人の保有する関係法人株式等
の全てをいうと解すべきであり,当該事業年度に配当等の支払のなかった関
係法人株式等であっても,施行令22条2項2号の「法第23条第4項に規
定する関係法人株式等」に該当すると解するのが,文言解釈上当然の帰結で
あるといわざるを得ない。
これに対し原告は,法23条4項は冒頭で,「第1項の場合において」と
規定しているところ,法23条1項は配当がない場合について一切触れてい
ないのであるから,法23条4項2号冒頭の「その保有する関係法人株式
等」は,第1項の場合に関連して保有する関係法人株式等,すなわち「配当
等のある関係法人株式等」のみを指すと解するのが,文脈上自然であると主
張する。
しかしながら,法23条1項は,内国法人が,各事業年度において保有す
る関係法人株式等のうち,その一部について配当等を受け,その余について
配当等を受けない場合においても適用されるものであることは明らかである
から,法23条1項は,配当がない関係法人株式等が存する場合も当然に前
提としているものと解される。むしろ,法23条を全体としてみれば,同条
1項は,益金の額に算入しない配当等の範囲と割合を規定するにとどまり,
配当等の額から控除されることになる負債の利子の金額やその算出方法は,
専ら同条4項及び施行令22条2項によって規定されていることは明らかで
あるから,法23条4項における「第1項の場合において」とは,文言どお
り,配当等の額を益金に算入しない場合を意味するにとどまると解するのが
自然であり,原告の主張するように,法23条4項の「第1項の場合におい
て」という文言によって,「その保有する関係法人株式等」が「配当等のあ
るもの」に限定されていると読むのが文脈上自然であるとはいえず,原告の
上記主張は理由がない。
(2)次に,制度の趣旨から実質的に考えてみるに,受取配当等の益金不算入に
当たり負債の利子の額を控除する趣旨は,負債によって株式等を取得してい
る場合に,その株式等から生じる配当等の額を益金に算入しないとする一方
で,負債の利子の額について損金への算入を認めることとすると,法人税が
課税されない収益の額に対応する費用の額が,法人税が課税される収益の額
から控除されることとなって,二重課税の調整という受取配当等の益金不算
入制度の趣旨を超えて,かえって租税負担の公平を害する結果となることか
ら,配当等の額について課税所得計算から除外すると同時に,その負債の利
子の額についても損金算入を認めないこととしたものであると解される。
そして,負債によって取得した株式等について,ある事業年度にたまたま
配当等がされないからといって,その株式等の取得に係る負債の利子の額が,
当該法人にとって,法人税が課税される収益の額に対応する費用の額になる
ということはあり得ないのであり,むしろそのような負債の利子は,その後
も含めた配当を受けるための費用としての性質を有するというべきであるか
ら,仮に無配の場合であっても当該事業年度の損金の額として認めないこと
とするのが,費用収益対応の原則にも合致するというべきである。
この点について原告は,法23条の立法趣旨は,関係法人からの配当を益
金不算入とすることにより原則として二重課税を排除するが,負債利子のあ
る場合は,立法政策上の配慮から,配当を得るために取得した元本,すなわ
ち配当のある関係法人株式の負担すべき負債利子を,益金不算入の受取配当
額から控除することにより,限定的に二重課税するというものであるところ,
被告の主張はかかる立法趣旨を逸脱するものであると主張する。
しかし,法23条のもととなった昭和25年法律第72号による改正後の
旧法人税法(昭和22年法律第28号)9条の6第1項は,「法人が各事業
年度において内国法人から利益の配当又は剰余金の分配を受けた場合におい
て……当該利益の配当又は剰余金の分配に因り受けた金額(その元本たる株
式又は出資を取得するために要した負債の利子があるときは,その利子の額
を控除した金額)は……益金に算入しない」と定めるに留まり,控除する負
債の利子の額の計算方法について法令上具体的な規定がなく,証拠(甲15,
乙6,13)によれば,専ら通達によって,配当等の計算期間に対応する期
間のその元本たる株式等を取得するために要した負債の利子とする取扱い等
がされていたが,このような取扱いは,利益の配当等から控除される利子が
有配期間に対応する期間の利子に限られ,既往の無配期間中の利子が計算外
に置かれている点で不備がある等の問題点が指摘されていたことが認められ
る。このようなことから,旧法人税法9条の6第1項は,昭和33年法律第
40号により,控除すべき利子の額を「命令の定めるところにより計算した
利子の額」とする規定に改められ,これを受けた昭和33年政令第70号に
よる改正後の法人税法施行規則(昭和22年勅令第111号)18条の5の
本文において,「法人が内国法人に係る株式……で当該事業年度において受
ける利益の配当……の元本たるものを取得した日から当該事業年度終了の日
に最も近い日において当該利益の配当等に因り受けた金額の計算の基礎とな
った期間の末日までの期間内に支払う……負債の利子の額の合計額…から,
当該事業年度前の各事業年度において法第9条の6第1項の規定により控除
された負債の利子の額の合計額を控除した金額とする」(いわゆる紐付計算
方式)と規定するとともに,ただし書きで,本文の適用が困難な場合には,
「大蔵省令の定めるところにより,法人の当該事業年度において支払う利子
の額に,その有する総資産の帳簿価格のうちに株式等の帳簿価額の占める割
合を乗じて計算した金額によるものとする」と定め,さらに昭和33年大蔵
省令第34号による改正後の法人税法施行細則(昭和22年大蔵省令第30
号)2条の5において,「法人の当該事業年度において支払う利子……の額
……に当該法人の有する総資産の帳簿価額……のうちに内国法人……に係る
株式及び出資の帳簿価額の占める割合を乗じて計算した金額」と規定した
(いわゆる資産按分方式)ことから,利益の配当等の額から無配期間に対応
する利子の額も控除されることが法令上明らかにされたものである。そして,
証拠(乙6,7)によれば,昭和33年当時から,資産按分方式は,制度的
には一応例外規定とされているが,実際の運用上は原則的規定となることが
予想されていたところ,実際に紐付計算方式により負債利子を計算すること
は特別の場合以外は不可能に近く,この方法によっている法人もほとんどな
かったこと等から,昭和40年の税制改正の際に,資産按分方式を簡素化し
た総資産按分法に一本化されたことが認められる。
以上のとおり,昭和25年当時,配当等の金額から控除すべき負債利子の
額として,無配期間に対応する期間の利子の額が含まれるか否かについて,
法令上明らかでなかったところ,昭和33年に無配期間に対応する期間の利
子の額を含む趣旨であることが法令上明らかにされ,その趣旨が法23条に
承継されたというべきであって,原告の主張はかかる改正経緯を正解しない
独自の見解といわざるを得ず,採用できない。
(3)このほか原告は,配当のない株式の負債利子額と配当とは,本来,費用と
収益の対応関係がないから,被告の主張は費用収益対応の原則に反する旨を
主張するが,前記(2)のとおり,無配期間に対応する期間の負債利子の額は,
そもそも法人税が課税される収益の額に対応する費用の額とは到底いえない
のであるから,これを益金不算入額からの控除額に含めず,法人税が課税さ
れる収益の額に対応する費用の額とするならばかえって費用収益対応の原則
に著しく反する結果を招来することになるといわざるを得ない。
また,原告は,昭和40年改正後,旧法人税法施行規則18条の5の本文
とただし書きといった規定がないにもかかわらず,控除される負債利子に配
当のない株式に係るものを含めるのは,政令が受けた委任の範囲を超えてす
る解釈であって違法であるとも主張するが,既に検討したとおり,法23条
は,関係法人株式等に当たるか否かについて配当の有無を要件としていない
のであるから,施行令22条2項の「法23条4項に規定する関係法人株式
等」に配当のないものを含める解釈が法による委任の範囲を超えたものであ
るとはいえない。
(4)以上のとおり,施行令22条2項の「法23条4項に規定する関係法人株
式等」とは,当該事業年度における配当等の支払の有無にかかわらず,法人
の保有する全ての関係法人株式等をいうと解するのが相当であり,争点(1)
に関する被告の主張は理由がある。
2争点(2)(本件各更正処分等の理由付記)について
そもそも法130条2項が更正通知書に更正の理由を付記しなければならな
いと規定しているのは,更正処分庁の判断の慎重,合理性を担保してその恣意
を抑制するとともに,更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与え
る趣旨に出たものというべきであり,帳簿書類の記載自体を否認することなし
に更正をする場合においては,更正通知書の更正の理由が,更正の根拠を上記
の更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的
を充足する程度に具体的に明示するものである限り,法の要求する更正理由の
付記として欠けるところはないと解される(最高裁判所昭和60年4月23日
第三小法廷判決・民集39巻3号850頁参照)。
そこで検討するに,証拠(甲2,3)及び弁論の全趣旨によれば,本件各更
正処分等に係る法人税額等の更正通知書及び加算税の賦課決定通知書には,更
正の理由として,原告が保有しているB株式会社及びC株式会社の各株式が
「関係法人株式等」に該当すること,前期末及び当期末の関係法人株式等の帳
簿価額の計算上,これらの株式の帳簿価額が含まれていないのでそれぞれ加算
したこと等が記載された上,関係法人株式等の正当な帳簿価額,受取配当等の
益金不算入額を再計算した結果等が記載されていることが認められる。そして,
前記争いのない事実等(第2の2(1)ないし(3))記載のとおり,原告は,法2
3条5項に規定される関係法人株式等として,別表5記載のとおりA,B株式
会社及びC株式会社の各株式を保有していることを前提とした上で,法23条
1項,4項2号に基づく受取配当等の益金不算入額を算定するに当たって,施
行令22条2項2号の掲げる「法第23条第4項に規定する関係法人株式等」
の帳簿価額を,配当のあったAの株式の帳簿価額のみとしたものであることが
認められる。そうすると,本件各更正処分等の理由は,原告に対し,本件各更
正処分等の法律上及び事実上の根拠を具体的に示したものであるということが
できる。
そして,本件各更正処分等の理由には,原告の主張する法人税法基本通達3
−2−8の根拠は明記されていないものの,前記1で検討したとおり,施行令
22条2項の「法第23条第4項に規定する関係法人株式等」とは,法23条
4項2号冒頭の「その保有する関係法人株式等」のことを意味し,配当等の支
払のあることを要件としていないことは文理上明らかであるから,同通達はそ
のことを留意的に定めたものにすぎず,上記理由の記載もこのことを当然の前
提としたものと解することができる。
したがって,上記理由の記載は,麻布税務署長の判断過程を省略することな
しに記載したものということができ,更正行政庁の恣意抑制及び不服申立ての
便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示したものと
して,法130条2項の要求する更正理由の付記として欠けるところはないと
いうべきであり,ほかに本件各更正処分等に理由付記の不備があり違法である
ことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,争点(2)に関する原告の主張は,理由がない。
3以上のとおりであり他に,本件各更正処分を違法とすべき事情は見出し難く,
これらはいずれも適法である。
また,本件各賦課決定処分についても,本件各更正処分により新たに納付す
べき税額の計算の基礎となった事実のうちに,更正前の税額の計算の基礎とさ
れていなかったことについて,国税通則法(以下「通則法」という。)65条
4項の定める正当な理由があると認められるものがあると認めるべき証拠はな
く,このほか本件各賦課決定処分を違法とすべき事情は見出し難いのであって,
これらもいずれも適法である。
4争点(3)(本件裁決の適法性)について
原告は,本件裁決に係る裁決書の理由において,原告の主張が正面から取り
上げられていないことから,本件裁決が公正な審理に基づかないものである旨
を主張する。
しかしながら,証拠(甲4ないし7)及び弁論の全趣旨によれば,原告の不
服の理由は要するに,本訴の争点(1)における原告の主張と同様,法23条4
項に規定する関係法人株式等とは,法人の保有する全ての関係法人株式等のう
ち,当該事業年度における配当等の支払のあったものに限られるとの解釈を前
提として,本件各更正処分等の違法をいうものであるところ,本件裁決書では,
原告のA,B株式会社及びC株式会社の各株式の保有状況,配当金の受取状況,
麻布税務署長の計算方法等の基礎事実を確定し,法23条4項に規定する関係
法人株式等の解釈に係る質疑事例(甲1)や財団法人大蔵財務協会発行の「昭
和40年改正税法のすべて」を斟酌した上で,受取配当等の益金不算入の制度
の趣旨及び受取配当等の額から負債の利子の額を控除する趣旨,昭和40年度
の税制改正の経緯,関係法令の規定振りから,法23条4項に規定する関係法
人株式等とは当該事業年度における配当等の支払のあったものに限られないと
の解釈を示していることが認められる。そして,同証拠及び弁論の全趣旨によ
れば,本件裁決書は,原告の法23条1項等の文言に基づく主張や,法人税法
基本通達3−2−8及び上記質疑事例の誤りをいう主張についても,負債の利
子の控除額の計算についての具体的な取扱いは施行令22条2項で規定されて
いることや,同通達及び上記質疑事例の内容が相当であることを説示した上で,
本件各更正処分等が適法であるとの判断が示されていることが認められる。
そうすると,本件裁決書では,原告の不服の事由に対応してその結論に到達
した過程が明らかとされていて,裁決機関の判断を慎重ならしめるとともに,
裁決が裁決機関の恣意に流れることのないように,その公正を保障するという
裁決書の理由附記(通則法101条,84条4,5項)の趣旨に欠けることは
ないというべきである。
このほか原告は,処分行政庁が意見書で引用した文献(甲8)の記載に基づ
く主張が黙殺されたなどと主張するが,同文献は課税庁の職務経験を有する税
理士らが個人として執筆したものであり,その記載内容がそのまま法令の解釈
に影響を与えるものではないから,それについて具体的な記載がなくとも結論
に到達した過程が不明となるものではなく,裁決書の理由附記の趣旨に欠ける
ことにならないことは明らかである。
以上のとおり,本件裁決書の理由附記に不備はないのであって,本件裁決が
理由を具体的に提示せず結論のみを断定的に述べたものであるとの原告の主張
は理由がないといわざるを得ず,他に本件裁決が公正な審理に基づかないもの
として違法であることを認めるに足りる証拠はなく,本件裁決は適法である。
第4結論
以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,訴
訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,
主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官定塚誠
裁判官中山雅之
裁判官佐々木健二
(別紙)
1本件各更正処分の根拠について
被告が本訴において主張する原告の平成16年12月期及び平成17年12
月期(以下,併せて「本件各事業年度」という。)の法人税に係る所得金額及
び納付すべき税額の計算根拠は,それぞれ以下に述べるとおりである。
(1)平成16年12月期
ア所得金額(別表3・順号⑤)1億2848万3942円
上記金額は,次の(ア)の金額に(イ)の金額を加算した金額である。
(ア)申告所得金額(別表3・順号①)1億0978万8737円
上記金額は,原告が麻布税務署長に対して平成17年3月28日に提
出した平成16年12月期の確定申告書(以下「平成16年12月期確
定申告書」という。)に記載された所得金額である。
(イ)受取配当等の益金不算入額の過大額(別表3・順号②)
1869万5205円
上記金額は,原告が平成16年12月期の法人税の確定申告において
受取配当等の益金不算入額として益金の額に算入しなかった金額471
5万6881円と法23条1項の規定に基づいて算出される受取配当等
の益金不算入額の金額2846万1676円との差額に相当する金額で
あり,原告の平成16年12月期の法人税の所得金額の計算上,益金の
額に算入すべきものである。
イ所得金額に対する法人税額(別表3・順号⑥)3854万4900円
上記金額は,上記アの所得金額(通則法118条1項の規定に基づき1
000円未満の端数金額を切り捨てた後のもの。以下同じ。)に法66条
(ただし,経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税
の負担軽減措置に関する法律16条1項を適用した後のもの。以下同
じ。)に規定する税率を乗じて計算した金額である。
ウ法人税額から控除される所得税額(別表3・順号⑦)
960万0198円
上記金額は,法68条の規定により法人税額から控除される所得税額で
あり,原告が平成16年12月期確定申告書に記載した金額と同額である。
エ納付すべき法人税額(別表3・順号⑧)2894万4700円
上記金額は,前記イの金額から上記ウの金額を差し引いた金額(通則法
119条1項の規定に基づき100円未満の端数金額を切り捨てた後の金
額。以下同じ。)である。
オ確定申告に係る法人税額(別表3・順号⑨)2333万6200円
上記金額は,原告が平成16年12月期確定申告書に記載した法人税額
である。
カ差引納付すべき法人税額(別表3・順号⑩)560万8500円
上記金額は,前記エの金額から上記オの金額を差し引いた金額である。
(2)平成17年12月期
ア所得金額(別表4・順号⑦)7810万2982円
上記金額は,次の(ア)の金額に(イ)の金額を加算し,(ウ)の金額を控除し
た金額である。
(ア)申告所得金額(別表4・順号①)6819万0506円
上記金額は,原告が麻布税務署長に対して平成18年3月27日に提
出した平成17年12月期の法人税の確定申告書(以下「平成17年1
2月期確定申告書」という。)に記載された所得金額である。
(イ)受取配当等の益金不算入額の過大額(別表4・順号②)
1170万7176円
上記金額は,原告が平成17年12月期の法人税の確定申告において
受取配当等の益金不算入額として益金の額に算入しなかった金額474
6万2121円と法23条1項の規定に基づいて算出される受取配当等
の益金不算入額の金額3575万4945円との差額に相当する金額で
あり,原告の平成17年12月期の所得金額の計算上,益金の額に算入
すべきものである。
(ウ)事業税の損金算入額(別表4・順号④)179万4700円
上記金額は,平成16年12月期更正処分に伴い増加した所得金額に
対応する事業税の認容額である。
イ所得金額に対する法人税額(別表4・順号⑧)2343万0600円
上記金額は,上記アの所得金額に法66条に規定する税率を乗じて計算
した金額である。
ウ法人税額から控除される所得税額(別表4・順号⑨)
960万0072円
上記金額は,法68条の規定により法人税額から控除される所得税額で
あり,原告が平成17年12月期確定申告書に記載した金額と同額である。
エ納付すべき法人税額(別表4・順号⑩)1383万0500円
上記金額は,前記イの金額から上記ウの金額を差し引いた金額である。
オ確定申告に係る法人税額(別表4・順号⑪)1085万6900円
上記金額は,原告が平成17年12月期確定申告書に記載した法人税額
である。
カ差引納付すべき法人税額(別表4・順号⑫)297万3600円
上記金額は,前記エの金額から上記オの金額を差し引いた金額である。
2本件各更正処分の適法性について
被告が,本訴において主張する原告の本件各事業年度における法人税に係る
所得金額及び納付すべき税額は,上記1のとおりであり,これらは本件各更正
処分における所得金額及び納付すべき税額と同額であるから,本件各更正処分
はいずれも適法である。
3本件各賦課決定処分の根拠及び適法性について
(1)本件各賦課決定処分の根拠
上記2で述べたとおり,本件各更正処分はいずれも適法であるところ,本
件各更正処分により新たに納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうち,
本件各更正処分前における税額の計算の基礎とされなかったことについて,
通則法65条4項の「正当な理由」があるとは認められない。
したがって,本件各事業年度の法人税に係る過少申告加算税の額は,次の
とおりとなる。
ア平成16年12月期
平成16年12月期更正処分により増加した差引納付すべき税額560
万円(通則法118条3項の規定に基づき1万円未満の端数を切り捨てた
後のもの。以下同じ。)に100分の10(通則法65条1項の割合)を
乗じて算出した金額56万円となる。
イ平成17年12月期
平成17年12月期更正処分により増加した差引納付すべき税額297
万円に100分の10(通則法65条1項の割合)を乗じて算出した金額
29万7000円となる。
(2)本件各賦課決定処分の適法性
被告が,本訴において主張する原告の本件各事業年度における過少申告加
算税の額は,上記(1)のとおりであり,これらは本件各賦課決定処分におけ
る過少申告加算税の額と同額であるから,本件各賦課決定処分はいずれも適
法である。

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