弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人山内忠吉、同岡崎一夫、同増本一彦、同陶山圭之輔、同根本孔衛の上告趣
意(昭和四四年六月二五日付上告趣意書記載のもの。なお、その余の上告趣意補充
書は、いずれも趣意書差出期間経過後に提出されたものであり、これを審判の対象
としない。)第一点について。
 所論は、昭和四〇年法律第三三号による改正前の所得税法(以下、旧所得税法と
いう。)七〇条一〇号の罪の内容をなす同法六三条は、規定の意義が不明確であつ
て、憲法三一条に違反するものである旨主張する。
 しかし、第一、二審判決判示の本件事実関係は、被告人が所管川崎税務署長に提
出した昭和三七年分所得税確定申告書について、同税務署が検討した結果、その内
容に過少申告の疑いが認められたことから、その調査のため、同税務署所得税第二
課に所属し所得税の賦課徴収事務に従事する職員において、被告人に対し、売上帳、
仕入帳等の呈示を求めたというものであり、右職員の職務上の地位および行為が旧
所得税法六三条所定の各要件を具備するものであることは明らかであるから、旧所
得税法七〇条一〇号の刑罰規定の内容をなす同法六三条の規定は、それが本件に適
用される場合に、その内容になんら不明確な点は存しない。
 所論は、その前提を欠き、上告適法の理由にあたらない。
 同第二点について。
 所論のうち、憲法三五条違反をいう点は、旧所得税法七〇条一〇号、六三条の規
定が裁判所の令状なくして強制的に検査することを認めているのは違憲である旨の
主張である。
 たしかに、旧所得税法七〇条一〇号の規定する検査拒否に対する罰則は、同法六
三条所定の収税官吏による当該帳簿等の検査の受忍をその相手方に対して強制する
作用を伴なうものであるが、同法六三条所定の収税官吏の検査は、もつぱら、所得
税の公平確実な賦課徴収のために必要な資料を収集することを目的とする手続であ
つて、その性質上、刑事責任の追及を目的とする手続ではない、
 また、右検査の結果過少申告の事実が明らかとなり、ひいて所得税逋脱の事実の
発覚にもつながるという可能性が考えられないわけではないが、そうであるからと
いつて、右検査が、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく
作用を一般的に有するものと認めるべきことにはならない。けだし、この場合の検
査の範囲は、前記の目的のため必要な所得税に関する事項にかぎられており、また、
その検査は、同条各号に列挙されているように、所得税の賦課徴収手続上一定の関
係にある者につき、その者の事業に関する帳簿その他の物件のみを対象としている
のであつて、所得税の逋脱その他の刑事責任の嫌疑を基準に右の範囲が定められて
いるのではないからである。
 さらに、この場合の強制の態様は、収税官吏の検査を正当な理由がなく拒む者に
対し、同法七〇条所定の刑罰を加えることによつて、間接的心理的に右検査の受忍
を強制しようとするものであり、かつ、右の刑罰が行政上の義務違反に対する制裁
として必ずしも軽微なものとはいえないにしても、その作用する強制の度合いは、
それが検査の相手方の自由な意思をいちじるしく拘束して、実質上、直接的物理的
な強制と同視すべき程度にまで達しているものとは、いまだ認めがたいところであ
る。国家財政の基本となる徴税権の適正な運用を確保し、所得税の公平確実な賦課
徴収を図るという公益上の目的を実現するために収税官吏による実効性のある検査
制度が欠くべからざるものであることは、何人も否定しがたいものであるところ、
その目的、必要性にかんがみれば、右の程度の強制は、実効性確保の手段として、
あながち不均衡、不合理なものとはいえないのである。
 憲法三五条一項の規定は、本来、主として刑事責任追及の手続における強制につ
いて、それが司法権による事前の抑制の下におかれるべきことを保障した趣旨であ
るが、当該手続が刑事責任追及を目的とするものでないとの理由のみで、その手続
における一切の強制が当然に右規定による保障の枠外にあると判断することは相当
ではない。しかしながら、前に述べた諸点を総合して判断すれば、旧所得税法七〇
条一〇号、六三条に規定する検査は、あらかじめ裁判官の発する令状によることを
その一般的要件としないからといつて、これを憲法三五条の法意に反するものとす
ることはできず、前記規定を違憲であるとする所論は、理由がない。
 所論のうち、憲法三八条違反をいう点は、旧所得税法七〇条一〇号、一二号、六
三条の規定に基づく検査、質問の結果、所得税逋脱(旧所得税法六九条)の事実が
明らかになれば、税務職員は右の事実を告発できるのであり、右検査、質問は、刑
事訴追をうけるおそれのある事項につき供述を強要するもので違憲である旨の主張
である。
 しかし、同法七〇条一〇号、六三条に規定する検査が、もつぱら所得税の公平確
実な賦課徴収を目的とする手続であつて、刑事責任の追及を目的とする手続ではな
く、また、そのための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するもので
もないこと、および、このような検査制度に公益上の必要性と合理性の存すること
は、前示のとおりであり、これらの点については、同法七〇条一二号、六三条に規
定する質問も同様であると解すべきである。そして、憲法三八条一項の法意が、何
人も自己の刑事上の責任を問われるおそれのある事項について供述を強要されない
ことを保障したものであると解すべきことは、当裁判所大法廷の判例(昭和二七年
(あ)第八三八号同三二年二月二〇日判決・刑集一一巻二号八〇二頁)とするとこ
ろであるが、右規定による保障は、純然たる刑事手続においてばかりではなく、そ
れ以外の手続においても、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結
びつく作用を一般的に有する手続には、ひとしく及ぶものと解するのを相当とする。
しかし、旧所得税法七〇条一〇号、一二号、六三条の検査、質問の性質が上述のよ
うなものである以上、右各規定そのものが憲法三八条一項にいう「自己に不利益な
供述」を強要するものとすることはできず、この点の所論も理由がない。
 なお、憲法三五条、三八条一項に関して右に判示したところによつてみれば、右
各条項が刑事手続に関する規定であつて直ちに行政手続に適用されるものではない
旨の原判断は、右各条項についての解釈を誤つたものというほかはないのであるが、
旧所得税法七〇条一〇号、六三条の規定が、憲法三五条、三八条一項との関係にお
いて違憲とはいえないとする原判決の結論自体は正当であるから、この点の憲法解
釈の誤りが判決に影響を及ぼさないことは、明らかである。
 同第三点について。
 所論のうち、憲法一四条、一九条、二一条、一二条違反をいう点は、第一、二審
判決の判示にそわない事実関係を前提とする主張であつて、いずれも上告適法の理
由にあたらない。
 所論は、また、憲法二八条違反を主張するが、同条が、使用者対勤労者の関係に
たつ者の間において勤労者の団結権および団体行動権を保障した規定であると解す
べきことは、当裁判所大法廷の判例(昭和二二年(れ)第三一九号同二四年五月一
八日判決・刑集三巻六号七七二頁)とするところであつて、被告人の判示検査拒否
の所為が、右団体行動権の行使とは認められないとした原判断は相当であるから、
この点の所論は理由がない。
 同第四点および第五点について。
 所論は、憲法三五条違反をいうような点もあるが、実質はいずれも事実誤認また
は単なる法令違反の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。
 なお、記録を調べても、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない(原
判決中、第一審判決を破棄するにあたり適用した法条に「刑事訴訟法第三九七条、
第三八一条」とあるのは、「刑事訴訟法第三九七条、第三八〇条」の単なる誤記と
認める。)。
 よつて同法四一〇条一項但書、四一四条、三九六条により、裁判官全員一致の意
見で、主文のとおり判決する。
 検察官 横井大三、同木村喬行各公判出席
  昭和四七年一一月二二日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    石   田   和   外
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    色   川   幸 太 郎
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    村   上   朝   一
            裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    岡   原   昌   男
            裁判官    小   川   信   雄
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    坂   本   吉   勝

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛