弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人の上告趣旨は末尾添附別紙記載のとおりである。これに対する当裁判所の
判断は次のとおりである。
 一、上告理由第一点について。
 戦時罹災土地物件令第三条は、同条所定の期間借地権者の土地に対する使用収益
権を制限すると共に、その地代又は借賃の支払義務を免れしむるに止り、借地権自
体の譲渡を制限禁止する趣旨ではないと解すべきであるから、これと異る見解を前
提とする論旨は採用に値しない。
 一、同第二点について。
 原判決は、訴外Dが本件借地権を家督相続により訴外Eから承継したこと、昭和
二〇年一一月三〇日被上告人が、右借地権を賃貸人たる訴外株式会社F銀行G支店
信託部の承諾を得て右Dより譲受けたこと及び訴外会社が帳簿上の賃借人名義を右
Eから直接被上告人名義に変更したことを認定しているのであつて、原審挙示の証
拠上右事実が認められないことはなく、原審の右事実認定には所論のような違法は
認められない。
 一、同第三点について。
 所論原判示は、原判決理由の全体の趣旨よりして所論のような認定をしているも
のとは解せられない。論旨は原判示の誤解を前提とするものであつて採用に値しな
い。
 一、同第七点について。
 原判決は、上告人が昭和二二年二月一〇日本件信託解除により本件土地所有権を
取得し、同月二七日その旨の所有権移転登記がなされたこと及び被上告人が譲受け
た本件借地権については登記がなく又被上告人が本件地上に登記を経た建物を所有
してはいなかつたが、同年三月中上告人が被上告人の借地権を暗黙に承認した事実
を認定しているのであつて、右借地権の承認ありとするためには、必ずしも上告人
が被上告人の借地権につき対抗要件の存しないことを知つていたことを確定しなけ
ればならないものではなく、右認定には違法の点は認められない。論旨引用の大審
院判例は本件に適切でない。又右承認に関する上告人の錯誤の主張を排斥した原判
示に対する論旨は原判決の事実認定を非難するに帰し、上告理由として採用の限り
でない。されば上告人において一旦被上告人の賃借権を承認した以上もはや対抗要
件の欠缺を主張して被上告人の賃借権を否定することは許されないとした原判旨は
正当で論旨は理由がない。
 右の如く上告人が被上告人の賃借権を承認した事実が認められる以上論旨第四乃
至六点所論の点の如何に拘わらず原判決主文は十分維持されるから右各論旨は結局
理由なきに帰する。
  よつて民訴四〇一条、八九条、九五条に従い、裁判官全員一致の意見により主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
 裁判長裁判官長谷川太一郎は退官につき署名捺印することができない。
            裁判官    井   上       登

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