弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人山口春一の上告理由第一点について。
 建設省主管の鏡川改修工事の施行に際し被上告人所有の土地の一部が河床として
国に買収されることが予定され、その補償金等の交付が予想されたので、上告人、
訴外D商工株式会社および訴外Eの三名の債権者は、右補償金の交付を機会に自己
の債権の確実な回収をはかろうと考えたが、本件物件の所有名義を被上告人名義に
とどめておいたのでは、その回収がはかれるかどうか懸念されたので、その確保の
方法として、本件物件の所有名義を被上告人から上告人ら三名の名義に移して置こ
うとの意図のもとに、昭和二九年五月一九日右三名と訴外株式会社F製紙所、被上
告人との間で本件契約が締結されるに至つたこと、および同年六月九日右当事者間
で契約の一部を修正したこと、その契約中には、上告人ら三名が本件物件の所有者
として前記補償金等を受け取り、その受領金額が上告人らの債権額合計三三四万九
八六三円を超えたときは、その超過分の金銭を被上告人に支払い、かつ本件物件を
被上告人に返還する旨を約した条項があること、Eが昭和二九年七月二〇日被上告
人に対し工場使用料名義をもつて毎月一万円ずつ交付することを約していたことな
ど、本件契約が締結されるに至つた事情、契約の内容、その後の経緯について原審
が適法に確定した事実関係のもとにおいては、昭和二九年五月一九日付の公正証書
に記載された本件契約は、債権担保の目的で締結された解除条件付代物弁済契約で
ある旨の原審の認定判断は、正当として是認することができる。また、被担保債権
についての原審の認定判断も相当であつて、原判決に所論の違法は認められない。
論旨は、右判断と異なる見解に立脚して、原判決の違法をいうものであつて、すべ
て採用することができない。
 同第二点について。
 被上告人、上告人らがあらかじめ訴外Gに対して支払を約した謝礼金なるものは、
解除条件の成就に先だち補償金中から優先控除して支払をする趣旨のものではなか
つた旨の原審の認定は、挙示の証拠関係に照らして首肯することができ、原判決に
所論の違法は認められない。したがつて、論旨は採用することができない。
 同第三点について。
 訴外H相互銀行に対して上告人が代位弁済した後のその弁済金に対する遅延損害
金は、本件補償金から当然に優先控除されることを予定されていたものではない旨
の原審の認定は、挙示の証拠関係に照らして首肯することができ、原判決に所論の
違法は認められない。したがつて、論旨は採用することができない。
 同第四点について。
 訴外銀行に対する所論の金利の支払が本件補償金取得のための必要経費として解
除条件の成就に先だち補償金から優先控除される趣旨であつたとは認められない旨
の原審の認定判断は、原審で取り調べた証拠関係に照らして首肯することができ、
原判決に所論の違法は認められない。したがつて、論旨は採用することができない。
 同第五点について。
 上告人が建物の収去移転に関して支出した所論の金員が補償金から当然に優先控
除されるべき程度の必要経費であるとは認められない旨の原審の認定判断は、原審
で取り調べた証拠関係に照らして首肯することができ、原判決に所論の違法は認め
られない。したがつて、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一

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