弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決を破棄する。
     被上告人の控訴を棄却する。
     控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人藤本文夫の上告理由について
 一 原審の認定した事実関係は、次のとおりである。すなわち、(一) 上告人A
1(明治三四年五月二二日生)と同A2(大正三年六月一八日生)の夫婦は、田畑
約一ヘクタールを所有する専業農家であるが、実子がなかつたところから、農業の
承継と祭祀の承継を目的として、仲人を介して知つた被上告人(昭和二三年三月二
〇日生)を養子にすることとし、昭和四九年頃から同居を始め、昭和五〇年四月一
七日養子縁組の届出をした。(二) 被上告人は、当時会社に勤務していたが、勤務
の合間や休日を利用して農業を手伝い、農繁期には会社を休んで農作業に従事する
ことを了承していた。(三) 被上告人は、縁組当初は努めて農業を手伝い、給料の
中から月二、三万円(ボーナス期には五万円ないし七万円)を生活費として上告人
らに渡し、上告人らも被上告人に対して気を遣うなどして、双方が養親子関係の円
満な維持継続に努力していたので、その生活は平穏に過ぎていたが、上告人らが、
農作業が近隣農家に遅れることを嫌つて、被上告人に対し農作業の手伝いを求めた
とき、被上告人がその勤務の都合ですぐにこれに応じられなかつたこともあつて、
次第に上告人らの不満がつのり、農作業中粗野な言葉で被上告人を叱責することも
重なり、これに対し被上告人も粗野な言葉を使つたり、暴言を吐くようになつた。
(四) また、被上告人は、昭和五四年一月一九日、上告人らの反対を押し切つて、
土地建物を投資の目的で購入し、このことも上告人らにわだかまりを残した。(五)
 そして、昭和五六年一二月二七日には、仕事のことで意見があわなかつたことか
ら、上告人A1からつかみかかられた被上告人が、同上告人を押し倒したり、上告
人A2に対しても空の牛乳びんを投げつけたり、足蹴にしたことがあり、また、上
告人A1が被上告人の悪口を他人に言い触らすことを阻止する趣旨で、自転車を使
用させないために、タイヤの空気を抜いたこともあつた。(六) このようなことか
ら、上告人らは昭和五七年三月二六日家庭裁判所に離縁調停の申立てをしたが、被
上告人が出頭しなかつたため、調停不成立に終わつたところから、同年六月二二日
本件訴えを提起するに至つた。(七) 上告人らは、同年四月、被上告人の帰宅が遅
いとして、鍵を掛けて家に入れないようにしたり(このため、被上告人は、ガラス
を破つて鍵をあけた。)、その後、被上告人の居室の畳をあげ、電燈線を切つたり、
親子電話を取り外すなどの行為に及び、更に同年一一月には上告人A1所有名義の
不動産をことごとく遠縁の者の名義に移転登記するなどしており、これに対し、被
上告人も、「年をとつたらみじめな目にあわす」などの言葉を口にしたり、いやが
らせの言動をしたこともあつた。
 原審は、以上のような認定事実に基づき、次のように判断している。すなわち、
(一) 上告人らは、主として被上告人の農作業の手伝い方に不満をつのらせ、時に
は粗野な言葉で叱責し、これに反発する被上告人の言動等に急速に将来の不安を覚
え、一途に離縁を思い立ち、離縁調停、本訴提起に至つたのであるが、上告人らは、
被上告人が会社に勤務しつつ農作業に従事することを了解していたのであるから、
勤務の都合で多少農作業の手伝いに遅れることも大目にみるべきであり、被上告人
の言動や暴行も、上告人らの粗野あるいは無理解な叱責に触発され、これに反発し
て行われたものと推認され、暴行も一時的偶発的であつて、一般の親子関係でもし
ばしばみられるところであり、上告人らが高齢であるところから将来に対する著し
い不安を覚え、懐疑を持つたことは理解できなくはないが、上告人らにおいても、
右の諸点を省み、被上告人との話合い等による関係改善の余地がなかつたとはいえ
ず、したがつて、離縁調停の申立て、本訴提起に至るまでは、必ずしも上告人らと
被上告人との養親子関係が極度に破壊され、将来の和合、正常円満な養親子関係維
持の見込みがなかつたものということは困難である。(二) もつとも、上告人らは、
右調停申立て、本訴提起後被上告人を追い出すための極端ないやがらせ行為に出て
おり、本件養親子関係を一段と悪化させるもので、現時点においては、本件縁組の
修復は困難であるとみえないではないが、右いやがらせ行為は上告人側からほぼ一
方的に加えられているものであつて、これに対し被上告人は、いやがらせの言動も
したものの、基本的には上告人らとの養親子関係を望み、将来の和合を望んでいる
のであるから、なお本件縁組を継続し難い事由があるとするのも相当でない。(三)
 仮に上告人らのこれらの行為と被上告人の反発を考慮して、本件縁組を継続し難
い事由があるとしても、上告人らがいやがらせ行為をほぼ一方的に増大させて縁組
の破壊をもたらしたというべきであるから、上告人らの本件離縁請求を認めるのは
相当でない。
 二 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次の
とおりである。(一) まず、原審は、被上告人が上告人らに対して加えた暴行につ
いて、一時的偶発的であつて、一般の親子関係においてもしばしばみられるところ
である旨判断しているけれども、被上告人が、上告人らから粗野な言葉で叱責され
ることに反発してのこととはいえ、上告人らに対し粗野な言葉を使つたり、暴言さ
えも吐くようになつており、また、上告人らの反対にもかかわらず、自分の意思を
通して投資の目的で不動産を購入するに至つた等の事実があり、そのために上告人
らと被上告人との間にわだかまりや感情的な対立が累積し、高まつていたものと推
測される背景事情があるにもかかわらず、右暴行を単に一時的偶発的なものとみる
のは、あまりにも表面的な捉え方といわざるを得ない。のみならず、原審が右暴行
をもつて「一般の親子関係においてもしばしばみられるところである」としている
点については、八〇歳と六七歳の老父母に対して、三四歳にも達した子がこれを押
し倒したり、空の牛乳びんを投げつけ、あるいは足蹴にする等の暴力行為に及ぶこ
とが「一般の親子関係においてもしばしばみられるところ」とする事実認識の当否
はしばらく措くとしても、養親子関係における前記のような暴行の事実を実親子間
に起きた場合と同様に評価するのは相当でないのであつて、このような老齢の養父
母に対する暴行は、養親子関係を破綻に導く行為として重視されなければならない。
(二) また、原審は、被上告人が基本的には上告人らとの養親子関係を望み、将来
の和合を望んでいることを理由に、なお本件縁組を継続し難い事由があるとするの
は相当でないとしているけれども、被上告人が上告人らとの関係改善、和合のため
の何らかの真摯な努力をしたことは原審の認定しないところであるばかりでなく、
かえつて、原審の認定によれば、被上告人は、上告人らが申し立てた離縁調停の期
日に一度も出頭しなかつたというのであつて、果して被上告人が上告人らとの和合
の意思を有しているかどうか疑わしいばかりでなく、被上告人が上告人らとの養親
子関係を望み和合に努力すると述べているからといつて、そのことを過大に評価す
るのは相当でないというべきである。(三) つまるところ、上告人らと被上告人と
の養親子関係は、原判決の認定した事実関係のもとにおいても、上告人らの離縁調
停申立てないし本訴提起当時既にもはや回復し難いほどに冷却破綻していたものと
いうべきであつて、上告人らが離縁調停申立て、本訴提起後に行つた、原判決にい
う「極端ないやがらせ行為」は、被上告人との養親子関係が破綻したために、前記
のような高齢に達した上告人らが、被上告人との関係改善に絶望し、老い先短い将
来に不安を覚える余り、みずからの立場を守るためにした行為とみるのが相当であ
り、これをもつて本件縁組の破綻を招来した行為と評価するのは相当でなく、被上
告人において調停期日に出頭するなど関係改善のための真摯な努力をしなかつたこ
とや、被上告人の側からも「年をとつたらみじめな目にあわす」などのいやがらせ
の言動があることなどもあわせ考えると、「上告人らが右のようないやがらせ行為
をほぼ一方的に増大させた結果、本件縁組の破綻をもたらした」として一方的に非
難するのは相当でないというべきである。(四) したがつて原審が確定した事実関
係のもとにおいては、本件養親子関係の破綻をもたらした主たる責任が上告人ら、
被上告人のいずれにあるとも容易に決し難いのであつて、少なくとも縁組破綻の責
任がもつぱら又は主として上告人らにあるものとすることはできない。
 そうとすれば、上告人らと被上告人との本件養子縁組については、民法八一四条
一項三号にいう「縁組を継続し難い重大な事由」があるものと認めるのが相当であ
り、これに反し、「縁組を継続し難い重大な事由」が認められないとして、上告人
らの本件離縁請求を棄却すべきものとした原審の判断は、民法八一四条一項三号の
解釈適用を誤つた違法があるものといわざるを得ず、右違法が判決の結論に影響を
及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由がある。
 そして、原審の適法に確定した事実関係によれば、上告人らと被上告人との離縁
を求める本訴請求は理由があり、これを認容した第一審判決は相当であるから、右
第一審判決を取り消して上告人らの本訴請求を棄却した原判決を破棄し、被上告人
の控訴を棄却すべきである。
 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    藤   島       昭
            裁判官    木   下   忠   良
            裁判官    大   橋       進
            裁判官    牧       圭   次
            裁判官    島   谷   六   郎

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