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平成26年10月29日判決言渡
平成23年(行ウ)第46号,第64号贈与税決定処分取消等請求事件(以下,
同第46号事件を「第1事件」と,同第64号事件を「第2事件」といい,これら
を併せて「両事件」という。)
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1第1事件関係
芝税務署長が原告P1に対し平成21年2月27日付けでした平成17年分
の贈与税の決定処分(以下「本件決定処分」という。)及び無申告加算税の賦
課決定処分(以下「原告P1賦課決定処分」といい,これと本件決定処分とを
併せて「本件決定処分等」という。)(ただし,いずれも,平成21年7月6日
付けでされた異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。
2第2事件関係
芝税務署長が原告P2に対し平成21年2月27日付けでした平成17年分
の贈与税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)のうち,課税価格30
億2520万円及び納付すべき税額6億0004万円を超える部分並びに過少
申告加算税の賦課決定処分(以下「原告P2賦課決定処分」といい,これと本
件更正処分とを併せて「本件更正処分等」といい,これと本件決定処分等とを
併せて「本件各処分」という。)(ただし,いずれも,平成21年7月6日付け
でされた異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。
第2事案の概要
第1事件は,P3株式会社(以下「P3」という。)の株主であり,P4合
名会社(以下「P4」という。)の社員である原告P1の母であるP5が,そ
の保有する有限会社P6(以下「P6」という。)の持分をP3及びP4に対
し譲渡したところ,芝税務署長が,その譲渡が時価より著しく低い価額の対価
でされたものであり,その譲渡によっていずれも同族会社であるP3の株式及
びP4の持分の価額が増加したことから,相続税法9条(平成19年法律第6
号による改正前のもの。以下同じ。)の規定によりその増加した部分に相当す
る金額を原告P1がP5から贈与により取得したものとみなされるとして,原
告P1に対し,本件決定処分等をしたことに関し,原告P1が,本件決定処分
等が違法であると主張して,本件決定処分等(ただし,いずれも,異議決定に
より一部取り消された後のもの)の取消しを求める事案である。
第2事件は,P3の株主であり,P4の社員であるとともに,原告P1の子
である原告P2が,原告P1から,P5のP3及びP4に対する上記の譲渡の
後にP4の持分及び現金を贈与により取得したことについて,贈与税の申告書
を提出したところ,芝税務署長が,同条の規定により,P5のP3及びP4に
対する上記の譲渡によって原告P2が原告P1と同様の利益の価額に相当する
金額をP5から贈与により取得したものとみなされる上,原告P1からの贈与
に係るP4の持分の価額が上記申告書に記載されたものより高額になるとして,
原告P2に対し,本件更正処分等をしたことに関し,原告P2が,本件更正処
分等が違法であると主張して,本件更正処分等(ただし,いずれも,異議決定
により一部取り消された後のもの)の取消しを求める事案である。
1関係法令等の定め
別紙1「関係法令の定め」に記載したとおりである(別紙1における略称
は,以下においても用いる。)。
2前提事実(後記(8)の事実のほかは,当事者間に争いがないか,当事者にお
いて争うことを明らかにしない事実である。なお,後記(8)の事実は当裁判所
に顕著である。以下,2記載の事実を「前提事実」という。)
(1)関係者等
ア原告P1
原告P1は,平成17年3月31日当時,P3,P4(平成18年7月
10日,P7株式会社に組織変更をした後,平成22年12月1日,P8
株式会社に商号を変更した。以下,時期を問わず「P4」という。)及び
P6の代表者であった。
原告P1の父は,P9(11代)であり,平成3年12月13日に死亡
した。
イ原告P2
原告P2は,原告P1の子である。
ウP5
P5は,P9の配偶者であり,原告P1の母であって,原告P2の祖母
である。
エP3
P3は,昭和22年に設立され,酒類食料品の卸売等を目的とする資本
金3億5000万円(平成17年3月31日付けで35億円に増資されて
いる。)の株式会社であり,同族会社に該当する。
同社の同日当時の発行済株式総数は700万株であり,このうち原告P
1が39万1150株,原告P2が5万株,P4が198万9100株,
P6が200万株を保有していた。
なお,P3の平成16年12月31日における従業員数は約1650人
であった。
オP4
P4は,大正7年に設立され,不動産賃貸を目的とする出資の価格の総
額が3000万円(60万口)の合名会社(当時)であり,同族会社に該
当し,同社の平成17年3月31日当時の社員及びその出資の価格等は,
原告P1が1990万円(39万8000口),原告P2が10万円(2
000口)及びP10が1000万円(20万口)であった。
P4の平成16年1月1日から同年12月31日までの事業年度におけ
る法人税の申告書及び決算書等によれば,同日における従業員数は4人,
同日以前1年間の取引金額は2億4602万6276円,同日における同
社の有する各資産を評価通達に定めるところにより評価した価額の合計額
のうちに占める株式及び出資の価額の合計額の割合は70パーセントであ
った。
カP6
P6は,平成2年6月8日に設立され,不動産賃貸を目的とする資本の
総額が1億円(10万口)の有限会社(当時)であり,同族会社に該当す
る。
P6の平成17年3月31日当時の社員並びにその出資の金額及び口数
(ただし,後記(2)のとおりP5が持分(以下,P6の持分を「本件P6
出資」という。)を譲渡する前のもの)は,P5が4799万5000円
(4万7995口)及び原告P1が5000円(5口)であったほか,P
3の取引先であるP11株式会社(以下「P11」という。),P12株式
会社(以下「P12」という。),P13株式会社(以下「P13」とい
う。),P14株式会社(以下「P14」という。),P15株式会社(以下
「P15」という。),P16株式会社(以下「P16」という。),P17
株式会社(以下「P17」という。),P18株式会社(以下「P18」と
いう。),P19株式会社(以下「P19」という。),P20株式会社(以
下「P20」という。),P21株式会社(以下「P21」という。),P2
2株式会社(以下「P22」という。)及びP23株式会社(以下「P2
3」という。)の各酒造メーカー等13社(以下,これら13社を併せて
「本件13社」という。)が各400万円(各4000口)であった。本
件13社の保有する本件P6出資は,いずれも,P9が平成3年12月5
日に1口当たり1000円で売却したものであった。
P6の平成16年1月1日から同年12月31日までの事業年度におけ
る法人税の申告書及び決算書等によれば,同日における従業員数は2人,
同日以前1年間の取引金額は4794万6720円であった。
(2)本件P6出資の譲渡等
アP5による譲渡
P5は,平成17年3月31日,P3に対し,本件P6出資のうち2万
4000口を代金9億4164万円(1口当たり3万9235円)で売却
した。
また,P5は,同日,P4に対し,本件P6出資のうち2万3995口
を代金9億4144万3825円(1口当たり3万9235円)で売却し
た。
(以下,上記のとおりのP5のP3及びP4に対する本件P6出資の売
却による譲渡を「本件各譲渡」という。)
イ本件13社による譲渡
本件13社は,平成17年8月25日,P6から,本件13社の保有す
る本件P6出資をP4に対し1口当たり5000円で譲渡するよう依頼さ
れ,同年10月から同年12月にかけて,P4に対し,それぞれ,本件P
6出資のうち4000口を代金2000万円(1口当たり5000円)で
売却した。
ウ本件各譲渡及び本件13社による譲渡の後のP6の社員並びに出資の金
額及び口数
P6の社員並びにその出資の金額及び口数は,本件各譲渡及び前記イの
本件13社による譲渡の結果,P3が2400万円(2万4000口),
P4が7599万5000円(7万5995口)及び原告P1が5000
円(5口)となった。
(3)原告P1によるP4の持分等の贈与
原告P1は,平成17年5月9日,原告P2に対し,出資の価格1290
万円に相当するP4の持分(25万8000口)を贈与するとともに(以下,
この贈与を「本件出資贈与」という。),現金6億円を贈与した(以下,この
贈与を「本件現金贈与」という。)。
(4)原告P2の贈与税の申告
原告P2は,原告P1からの本件出資贈与に係るP4の持分の価額を,同
社が評価通達189(2)の株式保有特定会社に該当するとして,同社の直前
期末(平成16年12月31日)現在の各資産及び負債を基に純資産価額を
算出した上で,総額24億2520万円(1口当たり9400円)と評価
し,これに本件現金贈与に係る現金6億円を加えた合計30億2520万円
を贈与により取得したとして,平成18年2月28日,平成17年分の贈与
税の申告書を芝税務署長に提出した。
なお,上記の申告書におけるP4の持分の価額の評価において,同社の保
有するP3の株式の価額については,同通達179(1)の類似業種比準価額
による1株当たり3503円との前提で保有株式数198万9410株を基
に算定され,P4がP5から平成17年3月31日に譲り受けた本件P6出
資2万3995口については,資産として計上されておらず,評価額の算定
に当たり考慮されていなかった。
(5)原告らに対する課税処分
ア芝税務署長は,平成21年2月27日付けで,原告P1に対し,別表1
の順号1の各欄に記載のとおり,本件決定処分等をした。
イ芝税務署長は,平成21年2月27日付けで,原告P2に対し,別表2
の順号2の各欄に記載のとおり,本件更正処分等をした。
(6)原告らによる異議申立て等
ア原告P1は,平成21年4月22日,芝税務署長に対し,本件決定処分
等を不服として異議申立てをしたところ,芝税務署長は,同年7月6日付
けで,原告P1に対し,別表1の順号3の各欄に記載のとおり,本件決定
処分等の一部を取り消す旨の決定をした。
イ原告P2は,平成21年4月22日,芝税務署長に対し,本件更正処分
等を不服として異議申立てをしたところ,芝税務署長は,同年7月6日付
けで,原告P2に対し,別表2の順号4の各欄に記載のとおり,本件更正
処分等の一部を取り消す旨の決定をした。
(7)原告らによる審査請求等
ア原告P1は,平成21年8月4日,国税不服審判所長に対し,前記(6)
アの決定を経た後の本件決定処分等になお不服があるとして,審査請求を
したが,国税不服審判所長は,平成22年7月26日付けで,審査請求を
棄却する旨の裁決をした。
イ原告P2は,平成21年8月4日,国税不服審判所長に対し,前記(6)
イの決定を経た後の本件更正処分等になお不服があるとして,審査請求を
したが,国税不服審判所長は,平成22年7月26日付けで,審査請求を
棄却する旨の裁決をした。
(8)原告らは,平成23年1月24日,両事件に係る訴えを提起した。
3本件各処分の根拠及び適法性に関する被告の主張
本件各処分の根拠及び適法性に関する被告の主張は,後記5に掲げるほか,
別紙2「本件各更正処分の根拠及び適法性」に記載のとおりである(別紙2に
おける略称は,以下においても用いる。)。
4争点
(1)本件各譲渡に関し原告らについて相続税法9条の規定を適用することが
できるか
(2)本件各譲渡は時価より著しく低い価額の対価でされたものか(本件各譲
渡に係る本件P6出資の時価はいくらか)
ア評価通達の定めによって評価した場合,本件各譲渡に係る本件P6出資
の1口当たりの価額はいくらか
イ本件各譲渡に係る本件P6出資の時価は本件13社が本件各譲渡後にP
4に対してした譲渡の対価の価額である1口当たり5000円であるとい
えるか
(3)原告らは本件各譲渡により相続税法9条に規定する「対価を支払わない
で,又は著しく低い価額の対価で利益を受けた」と認められるか,また,そ
のように認められる場合,当該利益の価額に相当する金額はいくらか
(4)本件出資贈与に係るP4の持分の価額はいくらか
(5)原告らについて,無申告加算税及び過少申告加算税を課されない正当な
理由があると認められるか
5争点に関する当事者の主張の要点
前記4に記載した各争点に関する被告の主張の要点は別紙3のとおりであり,
原告らの主張の要点は別紙4のとおりである(別紙3における略称は,以下に
おいても用いる)。
第3当裁判所の判断
1本件各譲渡に関し原告らについて相続税法9条の規定を適用することができ
るか(争点(1))について
(1)相続税法9条は,贈与契約の履行により取得したものとはいえないが,
関係する者の間の事情に照らし,実質的にみて,贈与があったのと同様の経
済的利益の移転の事実がある場合に,租税回避行為を防止するため,税負担
の公平の見地から,その取得した経済的利益を贈与により取得したものとみ
なして,贈与税を課税することとしたものであると考えられる。
そして,相続税法基本通達9-2は,相続税法9条の規定に該当する場合
を例示したものとして定められたものと解されるところ,同通達9-2(4)
の定めるように,同族会社に該当する会社に対する時価より著しく低い価額
の対価での財産の譲渡がされるときには,当該譲渡をした者と当該会社ひい
てはその株主又は社員との間にそのような譲渡がされるのに対応した相応の
特別の関係があることが一般であり,このことを踏まえると,当該譲渡によ
り譲渡を受けた当該会社の資産の価額が増加した場合には,当該会社の株主
又は社員は,その株式又は出資の価額が増加することにより,実質的にみて,
当該譲渡をした者から,その増加した部分に相当する金額を贈与により取得
したものとみることができるものと考えられる。そうすると,このような場
合には,同法9条に規定する「対価を支払わないで,又は著しく低い価額の
対価で利益を受けた」と認められるから,同通達9-2(4)の定めは,同法
9条の規定に該当する場合の例示として適当なものというべきである。
したがって,P5からP3及びP4に対してされた本件各譲渡が,時価よ
り著しく低い価額の対価でされたものであり,それによって,同族会社であ
るP3及びP4(前提事実(1)エ及びオ参照)の資産の価額が増加し,その
株式及び持分の価額が増加したとすれば,P3の株主であり,P4の社員で
ある原告らについて,同法9条の規定を適用することが許されるものと解さ
れる。
(2)原告らは,前記(1)と異なり,本件各譲渡に関して,原告らにつき相続税
法9条の規定は適用されず,相続税法基本通達9-2(4)は,同法9条の規
定に反し,違法であると主張する。そこで,この点に関する原告らの主張に
ついて検討する。
ア原告らは,相続税法9条の「当該利益を受けた者」とは,当該利益の
「対価」の支払義務を負っている者と解すべきであると主張する。
しかしながら,同条の「対価を支払わないで」利益を受けた者について,
その文理に照らし,原告らの主張するように限定して解すべき根拠は格別
見当たらないことからすれば,原告らの上記主張は採用し難いというべき
である。
イ原告らは,相続税法9条の規定は,「当該利益を受けさせた者」と「当
該利益を受けた者」との間に,「対立承継関係」の存する場合に限って適
用されるべきであると主張する。
(ア)しかしながら,相続税法9条の規定には,原告らの主張するように
限定して解すべき根拠となる文言は見当たらないし,前記(1)で述べた
同条の趣旨からすれば,「当該利益を受けさせた者」と「当該利益を受
けた者」を含む関係する者の間の事情に照らし,同条の掲げる者の間で
の直接的な利益の授受がなくとも,実質的にみて,贈与があったのと同
様の経済的利益の移転の事実がある場合には,同条の規定を適用するこ
とが許されると解するのが相当である。
(イ)なお,原告らは,個人が同族会社以外の法人にその資産を低額で譲
渡した場合にも,相続税法9条の規定が適用されることになる結論は不
当であり,このような不当な解釈が導かれる原因は,「当該利益を受け
させた者」と「当該利益を受けた者」との間に「対立承継関係」がなく
ても同条の規定の適用があるという解釈を採用することによるものであ
る旨の主張をする。しかしながら,同規定が同法4条から8条までの規
定を補充する性格のものであることは,その文理から明らかであること
に加え,前記(1)に述べた同法9条の規定の趣旨に照らせば,同規定に
ついては,原告らが前記ア又は(ア)で主張するような一定の状況におい
てには限られないが,関係する者の間に同法4条から8条までに規定す
る場合に類するような相応の事情があることを前提として,実質的にみ
て,贈与があったのと同様の経済的利益の移転の事実がある場合に適用
があるものと解され,原告が主張するように個人が同族会社以外の法人
に資産を低額で譲渡した場合につき当然にその適用があるものとは断じ
難く,原告らの上記主張は採用し難いというべきである。
ウ原告らは,同族会社が財産の低額譲渡を受けた場合における同社の株式
の含み益(評価益)は相続税法9条の「利益」には該当しないと主張する。
しかしながら,同条の規定に該当する場合を例示したものと解される相
続税法基本通達9-2(4)の趣旨とするところは,前記(1)に述べたとおり
であり,原告らの主張するように株式の含み益(評価益)一般について同
条の「利益」に該当すると定めたものとは解し難く,一般的に,同法にお
いて,個人が所有する資産の評価益に対して贈与税を課すことが予定され
ていないことと整合しないものではない。
したがって,原告らの上記主張は採用し難いというべきである。
エ原告らは,前記(1)のとおりに解釈すると,相続税法9条の規定の適用
範囲が著しく拡張され,納税者の予測可能性,法的安定性を害する危険性
がある旨の主張をする。しかしながら,相続税法基本通達9-2(4)の定
めが同法9条の規定に該当する場合の例示として適当なものであることは,
前記(1)のとおりであって,その内容も十分に具体的なものといえ,租税
法律主義にもとるものとは解されず,また,同条の規定の趣旨等について
前記(1)のとおりに解釈したとしても,同規定の適用があると考えられる
際の関係する者の間の事情に照らし,直ちに納税者の予測可能性,法的安
定性を害する危険性があるとは認められない。
オ争点(1)に関する原告らのその余の主張は,既に述べたところに照らし,
いずれも採用することができないものというべきである。
2本件各譲渡は時価より著しく低い価額の対価でされたものか(本件各譲渡に
係る本件P6出資の時価はいくらか)(争点(2))について
(1)はじめに
ア相続税法22条は,贈与により取得した財産の価額につき,特別の定め
のあるものを除くほか,当該財産の取得の時における時価によるべき旨を
定めているところ,ここにいう時価とは,当該財産の客観的な交換価値を
いうものと解される。
イところで,贈与税に係る課税実務においては,評価通達において,相続
により取得した財産についてと同様に,贈与により取得した財産の価額の
評価に関する一義的基準を定め,画一的な評価方式によって財産の価額を
評価することとされている。このような方法が採られているのは,贈与税
の課税対象である財産には多種多様なものがあり,その客観的な交換価値
が必ずしも一般的に確定されるものではないため,財産の客観的な交換価
値(時価)を上記のような画一的な評価方式によることなく個別事案ごと
に評価することにすると,その評価方式,基礎資料の選択の仕方等により
異なった金額が贈与に係る財産の「時価」として導かれる結果が生ずるこ
とを避け難く,また,課税庁の事務負担が過重なものとなり,課税事務の
効率的な処理が困難となるおそれもあることから,財産の価額をあらかじ
め定められた評価方式によって画一的に評価することとするのが相当であ
るとの理由に基づくものと解される。
ウそして,評価通達に定められた評価方式が当該財産の取得の時における
時価を算定するための手段として合理的なものであると認められる場合に
おいては,①前記イのような贈与税に係る課税実務は,納税者間の公平,
納税者の便宜,効率的な徴税といった租税法律関係の確定に際して求めら
れる種々の要請を満たし,国民の納税義務の適正な履行の確保(国税通則
法1条,相続税法1条参照)に資するものとして,同法22条の規定の許
容するところであると解され,②また,取引相場のない株式については,
反復継続的に取引がされず,客観的な市場価額が形成されることがないか
ら,合理的と考えられる評価方式によって時価を評価するほかないものと
いうべきところ,上記①において指摘した観点に照らせば,同通達の定め
る評価方式によって算定された金額をもってその「時価」であるものと評
価することもまた,同法22条の規定の許容するところであると解される。
さらに,上記の場合においては,同通達の定める評価方式が形式的に全
ての納税者に係る財産の価額の評価において用いられることによって,基
本的には租税負担の実質的な公平を実現することができるものと解される
のであって,同法22条の規定もいわゆる租税法の基本原則の1つである
租税平等主義を当然の前提としているものと考えられることに照らせば,
特段の事情があるとき(同通達6参照)を除き,特定の納税者あるいは特
定の相続財産についてのみ同通達の定める評価方式以外の評価方式によっ
てその価額を評価することは,たとえその評価方式によって算定された金
額がそれ自体では同法22条の定める時価として許容範囲内にあるといい
得るものであったとしても,租税平等主義に反するものとして許されない
ものというべきである。
他方,同通達の定める評価方式以外の評価方式によるべき特段の事情が
ある場合には,同通達の定める評価方式以外の評価方式によって評価され
たとしても,それが合理的なものであれば,租税平等主義に反するもので
はなく,適法なものと解するのが相当である。
エ本件では,本件各譲渡が時価より著しく低い価額の対価でされたもので
あるかどうかを判断する前提として,本件各譲渡に係る本件P6出資の時
価がいくらかが争われているところ,以下においては,まず,評価通達の
定めによって評価した場合の本件各譲渡に係る本件P6出資の1口当たり
の価額がいくらになるかを検討することとし(争点(2)ア),その検討をす
る中で,当事者の主張を踏まえ,同通達の定める評価方式が合理的なもの
といえるかどうか,また,同通達の定める評価方式以外の評価方式による
べき特段の事情があるかどうかについても必要に応じて判断することとし,
次いで,前記アからウまでに述べたところも踏まえて,本件各譲渡に係る
本件P6出資の時価は本件13社が本件各譲渡後にP4に対してした譲渡
の対価の価額である1口当たり5000円であるといえるかを判断するこ
ととする(争点(2)イ)。
(2)評価通達の定めによって評価した場合,本件各譲渡に係る本件P6出資
の1口当たりの価額はいくらか(争点(2)ア)について
アP6の設立から本件13社が本件P6出資をP4に譲渡するまでの事実
関係等
前提事実に証拠(後掲のもの)及び弁論の全趣旨を併せると,次の事実
が認められる。
(ア)P9は,平成2年6月8日,P3の株式200万株(P9が認識し
ていた1株当たりの時価は3200円であり,総額は64億円であっ
た。)と,土地及び建物(P9が認識していた時価は約13億2000
万円であった。)をP6を設立するに当たり現物出資し,上記土地及び
建物に付随するP9の借入金の債務4億円を同社に承継させた上,金員
4600万円を払い込み,同社の出資9万9995口(1口当たりの金
額は1000円である。)を取得した。また,原告P1は,金員500
0円を払い込み,同社の出資5口を取得した。
P6は,P3の株式200万株を,1株当たり25円,合計金額50
00万円という帳簿価額による現物出資として受け入れ,また,上記土
地及び建物を4億0399万5000円という帳簿価額による現物出資
として受け入れており,上記4600万円及び5000円の払込み及び
借入金の債務の承継と合わせて,資産の合計を5億円,負債の合計を4
億円,資本金を1億円とし,出資の口数を10万口として設立されたも
のである。
P6は,上記の現物出資に係る土地及び建物を賃貸することをその事
業の内容とし,少なくとも平成14年1月1日から平成17年12月3
1日までの間において,営業収入は上記の賃貸による家賃収入のみであ
った。
((ア)につき,甲6,7,乙6の1・2)
(イ)P9は,平成3年12月5日,P3の取引会社のうち,P3に対し
て長年にわたって酒類を卸してきた有力な取引先である本件13社に対
し,本件P6出資のうち各4000口(合計5万2000口,同社の総
出資口数の52パーセント相当)を1口当たりのいわゆる額面額である
1000円で売却した。その結果,P9の保有する本件P6出資の口数
は4万7995口となり,原告P1の保有する5口と併せて,P9及び
原告P1のP6における出資の割合は48パーセントとなった。(乙6
の1・2)
(ウ)本件13社各社がP9から本件P6出資を購入した経緯及び動機に
ついては,以下のとおりであった。
aP11
P3側からP11の秘書室に対して文書により依頼があり,同室か
ら担当部署にその案件が引き継がれた。P11は,P3が大事な得意
先であり,現在の関係を維持する必要があること,依頼を承諾するこ
とにより,今後の関係を強化することができること,P11を含めた
13社に同内容の依頼があると聞いていること,購入金額が400万
円であることから,本件P6出資を購入した。(甲55の2・3,乙
32の2)
bP12
P9と原告P1から当時のP12の社長に対して依頼があった。P
12は,P3がP12の最上の得意先であり,今後の取引上,依頼を
引き受けざるを得ず,相互に関係を強化したいという考えもあったこ
と,購入金額もさほど大きくないことから,本件P6出資を購入した。
(乙32の2,35の2)
cP13
原告P1から当時のP13の社長に対して直接に依頼があったほか,
文書による依頼があった。P13は,P6の資産状況について話を聞
くなどした上で,今後の強い取引関係というメリットを期待したこと,
購入金額が多額でないことから,本件P6出資を購入した。(甲50
の2,乙32の2,35の4)
dP14
P9又は原告P1から当時のP14の社長に対して直接に依頼があ
り,同社長から同社の担当部署に対して本件P6出資を購入する方向
で検討するよう指示があった。P14は,P3がP14の主要な得意
先であり,現在の関係を維持する必要があること,本件P6出資の購
入を承諾することにより,今後の取引先としての信頼関係を深められ
るとの期待があったこと,購入金額がさほど高額でもないこと,それ
なりの配当が得られるだろうと考えられたことから,本件P6出資を
購入した。(乙32の2,35の5)
eP15
P3側から当時のP15の社長に対して直接に依頼があった。P1
5は,P3が主要な得意先であり,関係強化のため,また,P15の
社長の意向により,本件P6出資を購入した。(乙32の2)
fP16
P3側からP16のP24支社に対して依頼があったほか,原告P
1から当時のP16の社長に対して会合の際に依頼があった。P16
は,P6の資産内容等について説明を受けるなどした上で,P3が主
要な得意先であり,現在の関係を維持する必要があり,更なる取引を
期待していたこと,安定した配当が得られるという期待があったこと
から,本件P6出資を購入した。(乙32の2,35の9)
gP17
P3側からP17のP25支社に対して依頼があり,同支社から同
社の本社に対して検討依頼があった。P17は,P3が主要な得意先
であり,現在の関係を維持する必要があること,購入金額がさほど高
額でもないこと,今後の取引の上で依頼を引き受けざるを得ないこと
から,本件P6出資を購入した。(甲43の3,乙32の2)
hP18
原告P1から当時のP18の社長に対して直接に依頼があり,同社
長から担当者に対して依頼を引き受けるよう指示があった。P18は,
P3が大事な得意先であり,今後の取引上協力せざるを得ないこと,
P6の安定社員となることで,同社と継続的かつ良好な取引関係を持
つことが期待できること,安定した配当を得ることを期待したこと,
購入金額がさほど高額でもないことから,本件P6出資を購入した。
(乙32の2,35の6)
iP19
P9又は原告P1から当時のP19の社長に対して口頭で直接に依
頼があった。P19は,P3が主要な得意先であり,現在の関係を維
持する必要があり,P3との長期にわたる安定的な取引を期待したこ
と,直接にP9又は原告P1から依頼があったこと,購入金額が40
0万円であること,配当を受けることが見込まれることから,本件P
6出資を購入した。(甲44の1から3まで,乙32の2,35の1
5)
jP20
P20が本件P6出資を購入したのはP3とP20とのトップ同士
で決定された事項であった。その理由は,P3がP20の主要な取引
先であり,今後の緊密な取引関係を維持する必要があること,既に同
様の依頼について,大手の酒造メーカー数社が応じていたこと,購入
金額が少額であることにあった。(甲45の3,乙32の2)
kP21
原告P1から当時のP21の社長に対して電話で依頼があり,同社
長の独断で本件P6出資の購入が決まった。その理由は,取引先とし
ての現在の関係を強化すること,購入金額が400万円と少額である
ことにあった。(乙32の2)
lP22(本件P6出資の購入当時の商号は,P26株式会社であっ
た。)
P3側からP22の社長宛てに書面による依頼があった。P22は,
主要取引先のP3からの依頼で,同社との関係をよくする考えがあっ
たこと,購入金額が400万円と安いこと,近い将来に配当が得られ
るようになるのではないかとの期待があったことから,本件P6出資
を購入した。(乙32の2,35の16)
mP23
原告P1から当時のP23の社長に対して直接に電話で安定社員と
なってほしい旨の依頼があった。P23は,有力な取引先であるP3
との関係強化が期待できること,配当又はキャピタルゲインが期待で
きること,購入金額に問題がないと判断したことから,本件P6出資
を購入した。(甲51の2,乙35の8)
(エ)P9は,前記(イ)のとおり本件P6出資を売却した8日後の平成3
年12月13日に死亡し,同人に係る相続が開始した。同人が保有して
いた本件P6出資4万7995口は,P5が取得した。(乙6の1)
また,P9の死亡後,原告P1は,P3,P4及びP6の代表者に就
任した(弁論の全趣旨)。
(オ)P9の相続人である原告P1及びP5ほか2名は,P9の死亡によ
って開始した相続に係る相続税の申告をするに当たり,同人の相続財産
のうち本件P6出資4万7995口の価額の評価について,P6の保有
する資産であるP3の株式200万株の価額を配当還元方式によって評
価し,かつ,現物出資された資産の時価と各資産の帳簿価額(現物出資
額)との評価差額に対しては51パーセントの法人税が課せられること
になるからこれを差し引いた上でP6の資産の価額を評価すべきである
として,法人税相当額をP6の資産額から控除した上で本件P6出資1
口当たりの単価を算出し,これに基づいて相続税額を算定して相続税の
申告をした。
これに対し,芝税務署長は,P6が保有するP3の株式200万株の
価額については,配当還元方式によってではなく類似業種比準方式によ
って評価すべきであり,また,現物出資された資産の帳簿価額と時価と
の評価差額に対して法人税が課せられるのは会社を清算する遠い将来の
ことであって,相続時において差し引かれるべき法人税額は微少なもの
にすぎず,法人税相当額をP6の資産額から控除する必要はなく,上記
相続税の申告額は過少であるとして,これについて更正処分をするとと
もに,過少申告加算税の賦課決定処分をした。
((オ)につき,乙6の1・2)
(カ)前記P9の相続人らは,芝税務署長に対し,前記(オ)の各処分は,
評価通達に違反し,P9の相続財産の評価を誤った違法があるとして,
前記(オ)の更正処分のうち申告額を超える部分及び前記(オ)の過少申告
加算税の賦課決定処分(いずれも,裁決により取り消された部分を除
く。)の取消しを求める訴えを提起した(先代相続税事件)。
先代相続税事件について,当庁平成12年(行ウ)第90号同16年
3月2日判決(乙6の1)は,上記各処分は適法であるとして,P9の
相続人らの請求をいずれも棄却し,その控訴審判決である東京高裁平成
16年(行コ)第123号同17年1月19日判決(乙6の2)も,上
記各処分は適法であるとして,P9の相続人らの控訴をいずれも棄却し,
同判決は確定した。
((カ)につき,乙6の1・2)
(キ)その後,平成17年3月31日,本件各譲渡がされ,また,同年1
0月から12月にかけて,本件13社は,いずれも,P4に対し,その
保有する本件P6出資の全部(各4000口)を代金2000万円(1
口当たり5000円)で売却した。
(ク)本件13社各社がP4に対し本件P6出資を売却するに先立って,
「有限会社P6代表取締役P1」名義により平成17年8月25日
付けで「出資者各位」宛てに作成された「有限会社P6の出資金買受の
件」と題する書面が,本件13社に対して送付された。
上記書面は,「ただ今,P27グループのガバナンスの見直しを行っ
ており,有限会社P6につきまして,P4合名会社(*1)にその出資
を集約する運びとなりました。」と記載された上,本件13社が保有す
る本件P6出資をP4が買い受けたいこと,「貴社におかれましては,
安定社員として当社の経営に何かとご協力下さり」,感謝していること,
代金を1口当たりの額面金額が1000円であるところ5000円とし
たいこと,これの算定根拠については,毎期5パーセントの配当を実施
していることを前提に配当還元方式により評価した価額である1口当た
り500円の10倍としたこと,本件P6出資1口当たりの「類似業種
の比準価額」が1406円であり,「簿価純資産価額」が3010円で
あること,「なお,税務上の問題ですが,非上場の有価証券につきまし
ても時価で売買することになりますが,第三者間の法人間の取引は経済
的合理性に基づいて相対で決めた金額が時価とな」ること,この案件の
問い合わせ先がP3の経理部副部長(P28)であることが記載され,
末尾に「*1P4合名会社:住所東京都渋谷区α×番9号代表者
P1」と記載されたものであり,「別紙Ⅰ」として,上記「類似業種の
比準価額」に係る「類似業種比準価額等の計算明細書」が添付され,ま
た,「別紙Ⅱ」として,P6の平成16年1月1日から同年12月31
日までの事業年度の決算報告書の貸借対照表と損益計算書が添付された
ものであった。
((ク)につき,甲14,乙8)
(ケ)本件13社各社が,前記(イ)のとおり本件P6出資を取得した後,
前記(キ)のとおり本件P6出資を譲渡するまでの間において,P6の社
員としてした行動等については,次のとおりである。
a東京国税局課税第一部資料調査第三課が本件13社に対する調査を
行った平成5年6月当時まで,本件13社は,いずれも,P6の社員
総会への出席をせず,白紙委任状を提出していた(乙32の1・2)。
b先代相続税事件において,原告P1を含むその事件の原告らから,
本件13社(ただし,P11を除く。)の従業員の作成した陳述書が
証拠として提出されたところ,その陳述書が作成された平成13年7
月ないし同年10月の当時まで,本件13社(ただし,P11を除
く。)は,いずれも,P6の社員総会における議案について,白紙委
任し,又は賛成する旨の委任状を提出していた(乙35の1から16
まで)。
c本件13社は,いずれも,平成17年3月25日に開催されたP6
の臨時社員総会について,受任者の氏名欄が白紙になっており,受任
者の権限として「平成17年3月25日開催の有限会社P6の臨時社
員総会に出席し,下記の議案につき,私の指示(○印で表示)に従っ
て,議決権を行使すること。但し,議案に対し賛否を明示していない
場合及び原案に対し修正案が提出された場合は,いづれも白紙委任し
ます。」と不動文字で記載された委任状に,議案(「社員持分譲渡承認
案」及び「有価証券売却承認案」)の賛否欄における各「賛」の字に
いずれも○印を表示した上で,記名押印して,P6に対して提出した
(乙7の1から13まで)。
イ本件各譲渡に係る本件P6出資が「同族株主以外の株主等が取得した株
式」又は「特定の評価会社の株式」に該当するか,また,それを前提に,
本件P6出資の価額をいかなる評価方式によって評価するか
(ア)評価通達178は,その本文において,取引相場のない株式の価額
について,評価会社の規模に応じて,同通達179に定める方法によっ
て評価する旨を定める一方,同通達178のただし書において,同族株
主以外の株主等が取得した株式又は特定の評価会社の株式の価額につい
て,例外的な方法によって評価する旨を定めている。
そして,上記例外的な方法によってその価額を評価する株式について,
同通達188は,上記「同族株主以外の株主等が取得した株式」の意義
を定めるとともに,その株式の価額を同通達188-2に定める方法
(配当還元方式。ただし,配当還元方式によって評価した金額が,同通
達179の定めにより評価するものとして計算した金額を超える場合に
は,その金額によるものとされる。)によって評価する旨を定めている。
また,同通達189は,上記「特定の評価会社の株式」の意義等を定め
るところ,そのうち,株式保有特定会社通達(評価通達189(2))は,
株式保有特定会社(同通達178に定める中会社及び小会社においては,
株式保有割合が50パーセント以上である評価会社)の株式の価額を同
通達189-3に定める方法(純資産価額方式。ただし,納税義務者の
選択により,「S1+S2」方式によることができるものとされる。)に
よって評価する旨を定めている。
このように,同通達は,評価しようとする株式が「同族株主以外の株
主等が取得した株式」や株式保有特定会社の株式に該当するかどうかに
よって,その価額の評価方式を異にする旨を定めており,有限会社の持
分の価額については,これらに準じて計算した額による旨を定めている
(同通達194)ので,本件P6出資がこれらに当たるかどうか等を検
討する。
(イ)本件各譲渡に係る本件P6出資が「同族株主以外の株主等が取得し
た株式」に該当するか(P3及びP4がP6の同族株主に該当するか)
a「同族株主以外の株主等が取得した株式」の意義について,評価通
達188(1)は,「同族株主のいる会社の株式のうち,同族株主以外の
株主の取得した株式」を掲げ,この場合における「同族株主」とは,
課税時期における評価会社の株主のうち,株主の1人及びその同族関
係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30パーセン
ト以上(その評価会社の株主のうち,株主の1人及びその同族関係者
の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数
が,その会社の議決権総数の50パーセント超である会社にあっては,
50パーセント超)である場合におけるその株主及びその同族関係者
をいう旨を定めている。したがって,本件各譲渡により本件P6出資
を取得したP3及びP4がP6の同族株主に該当するとすれば,上記
の譲渡に係る本件P6出資は同通達188(1)に掲げられた意義によ
る「同族株主以外の株主等が取得した株式」に該当しないことになる。
そして,上記「同族関係者」の意義について,同通達188(1)は,
法人税法施行令4条に規定する特殊の関係のある個人又は法人をいう
が,ただし,当該法人の判定については,同条2項中「株式の総数」
は「議決権の数」と,「発行済株式の総数」は「議決権総数」と,「数
の株式」は「数の議決権」と読み替えるものとする旨を定めている。
そこで,これらの定めを前提に,課税時期である本件各譲渡の時に
おいて,P3及びP4がP6の同族株主に該当するかどうかを検討す
ることとする。
bまず,前提事実(1)イのとおり,原告P2は,原告P1の子である
から,原告P1の同族関係者であるといえる(評価通達188(1),
法人税法施行令4条1項1号)。
次に,同(1)オのとおり,原告らは,P4に対する出資の価格の総
額である3000万円(60万口)のうち合計2000万円(40万
口)を保有していたから,P4は,原告らの同族関係者であるといえ
る(同通達188(1),法人税法施行令4条2項1号)。
cところで,前提事実(1)カのとおり,本件P6出資の口数の総数で
ある10万口のうち,原告P1は5口を保有していたところ,同(2)
アのとおり,P4は,本件各譲渡により,2万3995口を保有する
ことになった(合計2万4000口)。
他方,同(2)アのとおり,P3は,本件各譲渡により,本件P6出
資の2万4000口を保有することになったが,同(1)エのとおり,
P6は,P3の発行済株式総数700万株のうち200万株を保有し
ており,P3の総株主の議決権の4分の1を超える議決権を有するた
め,P3は,その保有するP6の持分についてその出資の口数に応じ
ての議決権を有しない(有限会社法41条,商法241条3項)。
そうすると,原告P1及びP4は,上記のP3の出資の口数に係る
ものを0として計算したP6の議決権総数7万6000(10万-2
万4000。評価通達188-4参照)のうち,2万4000の議決
権を有するから,原告P1及びP4の有するP6の議決権は,P6の
議決権総数の30パーセント以上であり(なお,前提事実(1)カのと
おり,当時のP6の他の社員は本件13社であり,P6においては,
議決権総数の50パーセントを超える議決権を有する社員及びその同
族関係者のグループはいなかった。),原告P1及びP4は,P6の同
族株主に該当する(同通達188(1))。
d(a)他方,前記cによれば,原告P1及びP4の有する議決権は,
P6の議決権総数の50パーセントを超えないから,評価通達18
8(1)を形式的に適用すると,P6は,原告P1及びP4の同族関
係者には該当しないことになる(法人税法施行令4条2項2号参
照)。
(b)しかしながら,前記ア(ア),(イ),(エ)及び(キ)のとおり,P
6は,その設立時にはP9及び原告P1が持分の全てを保有してい
たところ,P9から本件13社に対する本件P6持分の譲渡の後に
おいても,P9及び原告P1が,出資の口数の総数の過半数に極め
て近い48パーセントという高い比率の持分を保有していたもので
ある上,P9の死亡後は,原告P1の母であるP5が,P9の保有
していた本件P6出資を取得したほかは,本件各譲渡に至るまで,
P6の社員及び出資の口数には変更がなかった。そして,同(ウ)の
とおり,本件13社各社がP9から本件P6出資を購入した経緯及
び動機をみると,本件13社の中には,P9又は原告P1から直接
に依頼を受けたものもあるところ,本件13社は,いずれも,P3
側からの依頼を受け,P3との取引関係の強化又は維持を動機とし
て本件P6出資を購入したものであり,証拠(乙39から42まで)
によれば,現に,上記購入後,本件13社がP4に対して本件P6
出資を売却した平成17年当時までの間,P3は,本件13社にと
っての得意先又は主要な取引先であり続けたと認められる。また,
同(ケ)のとおり,本件13社は,P6の社員であった間,社員総会
への出席をせず,白紙委任し,又は賛成する旨の委任状を提出する
などしており,これらの事実からすると,P6の経営に関し,本件
13社は,他の社員でありP6の代表者である原告P1及び同じく
他の社員であり同原告の母であるP5(本件各譲渡後はP4)の意
向に反するような行動をとることは全くなかったと認められる。
以上の事実関係によれば,P6は,本件13社が社員であった間,
一貫して,原告P1及びその同族関係者(本件各譲渡まではP5
(評価通達188(1),法人税法施行令4条1項1号参照),本件各
譲渡後はP4)によって実質的に支配されていたと認められる。な
お,先代相続税事件において原告P1らが提出した本件13社の担
当者の陳述書(乙35の1から16まで)及び原告ら訴訟代理人に
よる担当者からの聴取書(甲43から55までの各1)の中には,
議案の内容によっては,社員総会に出席したり,議案に反対したり
することもあり得る旨の記載があり,P14及びP17の担当者
(証人P29及び同P30)も同旨の証言をするが,上記のとおり,
本件13社は既に本件P6出資を売却済みであるところ,それまで
に上記記載及び証言にあるような行動をとらなかったものであるこ
とも考慮すると,その記載及び証言は,いわゆる建前を述べたもの
であるといわざるを得ず,上記の認定を覆すものではない。
(c)前記(ア)のとおり,評価通達188及び同通達188-2は,
「同族株主以外の株主等が取得した株式」の価額について例外的な
方法である配当還元方式によって評価することとしたものであると
ころ,これは,いわゆる少数株主が取得した株式について,その株
主は単に配当を期待するにとどまるという実質のほか,評価手続の
簡便性をも考慮して,例外的な方法を採用したものである(乙2
3)。
そして,前記aのとおり,特定の株主等が評価会社において同通
達188(1)の「同族株主」に該当するかどうかを判定するに当た
っては,株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の割合をみ
る必要があるところ,同定めにおいて,上記「同族関係者」に該当
するための要件の一つとして,法人税法上の同族会社の意義につき
定める法人税法施行令4条2項が,判定会社株主等の1人又はこれ
と特殊の関係のある個人等が他の会社の50パーセントを超える議
決権を有することを定めている例によるものとしているのは,ある
株主等(及びその同族関係者である個人等)が他の会社を支配して
いる場合には,その会社も同族関係者とし,その同族関係者たる会
社を含めて,当該株主等が,評価会社について単に配当を期待する
にとどまる少数株主といえるかどうかを判定するべきであるという
趣旨に出たものであると考えられる。
そうすると,本件における原告P1及びP4とP6との関係のよ
うに,前者が後者を実質的に支配する関係にある場合において,同
通達188(1)及び同令4条2項を形式的に適用することは,結局
のところ,上記のとおりの同通達188及び同通達188-2の趣
旨にもとるものというべきであって,上記の場合には,後者を前者
の同族関係者とみることとするのが相当であり,その点において,
同通達の定める評価方式以外の評価方式によるべき特段の事情があ
るというべきである。
(d)以上のとおり,本件各譲渡の時において,原告P1及びその同
族関係者であるP4は,P6を実質的に支配していることから,P
6は,原告P1及びP4の同族関係者に該当するというべきである。
e次に,前提事実(1)エのとおり,P3の発行済株式総数700万株
のうち,原告P1が39万1150株,原告P2が5万株,P4が1
98万9100株,P6が200万株を保有しており,原告P1及び
その同族関係者(前記bからdまでのとおり,原告P2,P4及びP
6はいずれも原告P1の同族関係者である。)の保有する株式数の合
計は443万0250株となる。
そうすると,原告P1及びその同族関係者の有するP3の議決権の
合計数は,P3の議決権総数の50パーセントを超えるから,P3は,
原告P1の同族関係者に当たる(評価通達188(1),法人税法施行
令4条2項3号)。
fそして,前記cからeまでによれば,原告P1及びその同族関係者
であるP3及びP4の有するP6の議決権数の合計数は同社の議決権
総数の30パーセント以上であるから,原告P1及びP4にとどまら
ず,P3もP6の同族株主に当たる(評価通達188(1))。
したがって,本件各譲渡によりP3及びP4が取得した本件P6出
資は,いずれも,評価通達188(1)に掲げられた意義による「同族
株主以外の株主等が取得した株式」に該当しないことになる。
g以上のほか,本件各譲渡によりP3及びP4のいずれが取得したも
のについても,本件P6出資が「同族株主以外の株主等が取得した株
式」に該当する旨の主張立証はない。したがって,本件各譲渡に係る
本件P6出資の価額は,P3及びP4のいずれが取得したものについ
ても,評価通達188-2に定める方法によって評価されるものでは
ない。
h原告らは,P3がP6の同族株主に該当しないと主張し,本件各譲
渡によりP3が取得した本件P6出資が「同族株主以外の株主等が取
得した株式」に該当することを前提に,本件各譲渡に係る本件P6出
資の価額を配当還元方式によって評価すべきである旨の主張をするが,
以上に述べたところからすれば,これを採用することはできない。
(ウ)P6が株式保有特定会社に該当するか
a前提事実(1)カのとおり,P6は不動産賃貸を目的とする資本の総
額が1億円の会社であり,平成16年1月1日から同年12月31日
までの事業年度における法人税の申告書及び決算書等によれば,同日
における従業員数は2人,同日以前1年間の取引金額は4794万6
720円であったことからすると,本件各譲渡の時において,P6は,
評価通達178の定める小会社に該当すると認められる。そうすると,
課税時期である本件各譲渡の時においてP6の株式保有割合が50パ
ーセント以上であると,P6は株式保有特定会社に該当することにな
る(株式保有特定会社通達(評価通達189(2)))。
bそして,P6が株式保有特定会社に該当するかどうかを判断するた
めには,前提事実(1)エのとおり,P6はP3の株式200万株を保
有していたことから,その価額が問題となる。
(a)前提事実(1)エのとおり,P3の平成16年12月31日におけ
る従業員数が約1650人であったことからすると,本件各譲渡の
時において,P3は,評価通達178の定める大会社に該当すると
認められる。
(b)前記(イ)dのとおり,P6は原告P1の同族関係者に該当する
ところ,同eに摘示した原告P1及びその同族関係者の有するP3
の議決権の合計数は,P3の議決権総数の50パーセントを超える
から,原告P1の同族関係者であるP6は,P3の同族株主に当た
る(評価通達188(1))。
したがって,P6の保有するP3の株式の価額は,「同族株主以
外の株主の取得した株式」の価額の評価について同通達188-2
に定める評価方式(配当還元方式)によって評価されるものではな
い(同通達188)。
原告らは,P6がP3の同族株主に該当しないと主張し,P6の
保有するP3の株式が「同族株主以外の株主等が取得した株式」に
該当することを前提に,P3の株式の価額を配当還元方式によって
評価すべきである旨の主張をするが,以上に述べたところからすれ
ば,これを採用することはできない。
(c)以上のほか,P6の保有するP3の株式の価額について,例外
的な方法によって評価すべきであることを基礎付ける事実の主張立
証はない。
したがって,P6の保有するP3の株式の価額は,大会社の株式
の価額の原則的な評価方式である類似業種比準方式によって評価す
るのが相当である(評価通達179(1))。
(d)そして,本件各譲渡の時における類似業種比準方式で評価した
場合のP3の株式1株当たりの価額は,被告別表1の第3表のとお
り,4047円(同表の㉙欄)であったと認められる(この算定の
基となった金額等の数値は,当事者間に争いがない。なお,同表に
よる計算の過程に誤りは見当たらない。)。そうすると,P6が保有
していたP3の株式200万株の価額は,80億9400万円(1
株当たり4047円×200万株)となる。
cまた,P3の株式以外にP6の有する各資産について,評価通達に
定めるところにより評価した価額の合計額は,1億3095万800
0円であった(当事者間に争いがない。)。
d以上によれば,P6の株式保有割合は,98.4パーセント(80
億9400万円÷(80億9400万円+1億3095万8000円)
=0.984)であり,50パーセント以上であることは明らかであ
るから,本件各譲渡の時においてP6は株式保有特定会社に該当する。
(エ)本件P6出資の価額の評価について株式保有特定会社通達を適用す
べきか
a前記(ア)のとおり,株式保有特定会社通達は,株式保有特定会社の
株式の価額について,評価通達189-3に定める例外的な方式によ
って評価することとしたものであるところ,これは,資産構成が類似
業種比準方式における類似業種の株価の計算における基準となる上場
会社である標本会社(同通達182ほか。乙14)に比して著しく株
式等に偏っている評価会社の株式の価額は,その保有する株式等の価
額に依存する割合が高いものと考えられるため,原則的評価方式(類
似業種比準方式又は同方式による評価額が考慮され得る方式。同通達
179参照)によっては適正な株式の価額の評価を行い難く,原則的
評価方式による評価額と適正な時価との間に開差が生ずることとなり,
このような開差がこれを利用したいわゆる租税回避行為の原因ともな
っているため,課税の公平の観点から,そのような開差の是正及び株
式の価額の評価の一層の適正化を図ることを目的として,同通達の平
成2年の改正により,特別な評価方式によって評価すべき旨の定めが
置かれるに至ったものであると認められる(甲22から25まで,2
8,34から40まで,乙19)。
そして,株式保有特定会社通達及び株式保有特定会社の株式の価額
の評価方式について定める評価通達189-3は,資産構成が類似業
種比準方式における標本会社に比して著しく株式等に偏っている評価
会社の株式の価額の評価について,このような評価会社の株式の価額
はその保有する株式等の価額に依存する割合が一般に高いものと考え
られることを考慮した上で,①当該会社の有する資産の価値を的確に
反映し得る評価方式である純資産価額方式又は②株式保有特定会社の
事業の実態を株式の価額の評価に反映させるために部分的に類似業種
比準方式を取り入れた評価方式である「S1+S2」方式によるべき
こととしたものであって,前記(1)イにおいて述べた種々の要請に応
えつつ合理的かつ実態に即した評価を行うための株式の価額の評価方
式として,合理的なものであるというべきである。
b原告らは,一般に,株式保有特定会社通達を適用すべきかどうかを
判断するに当たり,いわゆる租税回避行為ないしその弊害の有無を考
慮要素とすべきである旨の主張をする。しかしながら,その主張に沿
うような評価通達の定めは見当たらない上,資産構成が類似業種比準
方式における標本会社に比して著しく株式等に偏っている評価会社に
ついて,原則的評価方式によっては適正な株式の価額の評価を行い難
いことは,いわゆる租税回避行為ないしその弊害がある場合と否とで
異なるところはないと考えられる。
また,前記(ウ)のとおり,本件各譲渡の時においてP6の株式保有
割合は98パーセントを超えており,P6の資産構成が類似業種比準
方式における標本会社に比して著しく株式等に偏っていることは明ら
かであるから,本件P6出資の価額の評価に当たり,その適正化を図
るために,株式保有特定会社通達を適用することは,その趣旨にかな
うものというべきである。
一件記録によっても,以上のほか,P6について,株式保有特定会
社に該当するにもかかわらず,本件P6出資の価額の評価に当たり,
株式保有特定会社通達を適用せず,評価通達の定める評価方式以外の
評価方式によるべき特段の事情の存在を認めることはできない。
c以上によれば,本件各譲渡に係る本件P6出資の価額の評価につい
ては株式保有特定会社通達を適用すべきであり,本件P6出資の価額
を評価するに当たっては,評価通達189-3に定める方式,すなわ
ち,純資産価額方式又は「S1+S2」方式によることとするのが相
当である。
ウ本件P6出資の価額を評価するに当たり,評価通達185のただし書を
適用すべきか
(ア)評価通達185のただし書は,株式の取得者とその同族関係者の有
する議決権の割合が50パーセント以下の場合に,その株式を純資産価
額方式により評価するときは,純資産価額方式により計算した1株当た
りの純資産価額の80パーセントに相当する金額によって評価すること
としている。
これは,小会社における同族株主による会社経営の実態は,個人事業
者の場合と実質的にはほとんど変わることがないものが多いが,小会社
の中には複数の同族株主のグループにより会社経営を行っているものが
あり,このような小会社では,単独のグループの保有する株式数だけで
は会社を完全に支配することはできないという実態が認められるため,
このような実態に即したものとする必要があることから,単独のグルー
プの保有する株式数によって会社支配を行っている場合の支配力との較
差を考慮して,株式の取得者とその同族関係者の有する議決権の割合が
50パーセント以下の場合に,純資産価額方式により評価するときは,
20パーセントの評価減を行うこととしたものである(乙31)。
(イ)前記イ(ウ)aに述べたとおり,本件各譲渡の時において,P6は,
評価通達178の定める小会社に該当し,また,同(エ)cのとおり,本
件各譲渡に係る本件P6出資の価額を評価するに当たっては,純資産価
額方式又は「S1+S2」方式によることとするのが相当であるところ,
同(イ)cのとおり,原告P1と本件各譲渡により本件P6出資を取得し
たその同族関係者であるP3及びP4とは,P6の議決権総数7万60
00のうち2万4000の議決権を有するのみであって,その有する議
決権は,P6の議決権総数の50パーセント以下であった。そうすると,
本件各譲渡に係る本件P6出資の価額の評価について,同通達185の
ただし書を形式的に適用するとすれば,純資産価額方式によって評価す
るときには,20パーセントの評価減を行うこととなる。
(ウ)しかしながら,前記イ(イ)d(b)に述べたとおり,P6は,本件1
3社が社員であった間,一貫して,原告P1及びその同族関係者によっ
て実質的に支配されていたと認められるのであって,このような事情が
ある場合に,単独のグループの保有する株式数だけでは会社を完全に支
配することができないといえる場合に評価減を行うものとした評価通達
185のただし書を適用することは,その定めを設けた趣旨にもとると
いうべきであって,その点において,同通達の定める評価方式以外の評
価方式によるべき特段の事情があるというべきである。
(エ)なお,原告らは,評価通達185のただし書の適用に際して,本件
13社による「経営の意図」というような主観的な要素を考慮するべき
でない旨の主張をする。しかしながら,前記(ウ)の判断は,原告P1及
びその同族関係者がP6を実質的に支配していたという事情を基にした
ものであって,本件13社の主観的な認識等から直ちに上記の判断をし
たものではないから,上記原告らの主張は前提を欠くものというべきで
ある。また,原告らの主張が,上記のようなP6に対する支配に係る事
情の認定をするに当たり,前記イ(イ)d(b)に述べたような本件13社
を含めた関係者らの主観的な認識等を考慮すべきでないという趣旨であ
れば,そのような主張には理由がないというべきである。
(オ)以上によれば,原告P1の同族関係者であるP3及びP4が本件各
譲渡により取得した本件P6出資の価額について純資産価額方式によっ
て評価する場合,評価通達185のただし書を適用すべきではないから,
その定めによって20パーセントの評価減を行うことはできない。
エ評価通達の定めによって評価した場合の本件各譲渡に係る本件P6出資
の1口当たりの価額
以上のとおり,本件各譲渡に係る本件P6出資の価額については,純資
産価額方式又は「S1+S2」方式によって評価することとするのが相当
であり,かつ,純資産価額方式による場合に評価通達185のただし書に
よる評価減を行うことはできない。そこで,上記の各評価方式によって,
本件各譲渡の時における本件P6出資の価額の評価額を検討する。
まず,純資産価額方式によると,被告別表2の第5表のとおり,本件P
6出資の価額は1口当たり8万1204円(同表の⑪欄)と評価される
(この算定の基となった資産及び負債の各科目の評価額及び帳簿価額は,
資産の部の投資有価証券の評価額を除き争いがなく,資産の部の投資有価
証券の評価額は,前記イ(ウ)b(d)において認定したP6が保有するP3
の株式200万株の価額の評価額(80億9400万円)と同額である。
なお,同表による計算の過程に誤りは見当たらない。)。
次に,「S1+S2」方式によると,同別表の第7表及び第8表のとお
り,本件P6出資の価額は1口当たり8万1204円(同別表の第8表の
㉖欄)と評価される(この算定の基となった金額等の数値は,第5表の金
額が転記されたもの(上記純資産価額方式による評価において認定済み)
を除き,争いがないか,当事者において争うことを明らかにしない。なお,
上記のとおり改めるほか,同別表の第7表及び第8表による計算の過程に
誤りは見当たらない。)。
そうすると,純資産価額方式及び「S1+S2」方式のいずれによって
も,本件各譲渡に係る本件P6出資の1口当たりの価額は同額であり,同
通達の定めによって評価した場合の本件各譲渡に係る本件P6出資の1口
当たりの価額は,被告別表2の第6表のとおり,8万1204円(同表の
⑤欄)であるといえる。
そして,以上に検討したほかに,同通達の定めの合理性を疑わせるよう
な事情の主張立証はない。したがって,本件P6出資の本件各譲渡の時に
おける時価は,特段の事情がない限り,1口当たり8万1204円という
べきである。
(3)本件各譲渡に係る本件P6出資の時価は本件13社が本件各譲渡後にP
4に対してした譲渡の対価の価額である1口当たり5000円であるといえ
るか(争点(2)イ)について
ア前記(1)アに述べたとおり,相続税法22条にいう時価とは,贈与によ
り取得した財産のその取得の時における客観的な交換価値をいうものと解
されるところ,原告らは,本件各譲渡に係る本件P6出資について,本件
13社各社がその後にP4に対してこれを売却した際の代金に相当する1
口当たり5000円が時価に当たると主張する。
イこの点,前提事実(2)イのとおり,本件13社各社は,本件各譲渡がさ
れたのと同年である平成17年に,それぞれがP4に対して本件P6出資
を売却する旨の売買契約を締結したものであり,また,本件証拠上,本件
13社の全体又はその一部が相互に意思を通じて代金額を調整したような
事実を認めることはできない。
しかしながら,前記(2)ア(イ),(ウ),(キ)及び(ク)のとおり,本件1
3社各社とP4との間の上記の各売買契約は,P3に対して長年にわたっ
て酒類を卸してきて同社を有力な取引先とする本件13社が,平成3年当
時,P3側からの依頼を受け(中には,P9や原告P1から直接に依頼を
受けたものもあった。),P3との取引関係の強化又は維持を動機として,
同時期にP9から購入した本件P6出資について,平成17年の本件各譲
渡の後に至り,その購入先であったP9の子である原告P1が代表者を務
める(前提事実(1)ア参照)P6の名義で,従前「安定社員として」P6
の経営に「協力」してきた「出資者各位」に当たる本件13社に対し,
「P27グループのガバナンスの見直し」を行っている中でP6の出資を
P4に「集約する運びとな」ったことを理由に,原告P1の同族関係者で
あったP3が関与する中で,P4への売却が依頼されたのに応じて,締結
されることとなったものである上,売却した際の代金は,本件13社が本
件P6出資を購入した際の代金は1口当たり1000円であったのに対し,
購入時の5倍である1口当たり5000円としたい旨のP6からの依頼に
応じて,そのとおりの代金とされたものである。
以上のような本件13社による本件P6出資の購入及び売却の経緯等か
らすると,本件各譲渡の後にされた上記の各売却の際の対価の価額をもっ
て,反復継続的な取引がされることにより形成される市場価格などと同視
することは困難であるというほかない。
ウまた,原告らは,本件13社が,P4に対する本件P6出資の譲渡に当
たり,対価の価額等について十分に検討した上で,合理的な経営判断とし
て譲渡に応じたものであると主張するところ,証拠(甲43の1・2・4,
44の1・2・4,45の1・2・4,46の1・2・5・6,47の1
・2・5,48の1から3まで,49の1・2・4,50の1・2,51
の1・2,52の1・2,53の1から3まで,54の1・2,55の1
・2・8,乙18,証人P29,同P30)によれば,本件13社の中に
は,P4に対する本件P6出資の売却に当たり,過去の配当実績や,P6
からの売却依頼に係る書面(甲14,乙8)に添付された類似業種比準金
額及び簿価純資産価額の算定根拠等に加え,いわゆる税務リスクを踏まえ
て,売却代金が合理的なものか検討したものがあるほか,本件13社は,
いずれも,関係部署等による検討,協議,稟議,決裁又は決議等を経て,
売却の依頼に応じたと認められる。
しかしながら,本件P6出資の本件各譲渡の時における客観的な交換価
値について検討するに当たっては,前記イに述べた事情をも踏まえて評価
すべきであり,これを踏まえると,本件13社が本件各譲渡の後にされた
P6からの依頼を契機とする本件P6出資の譲渡に当たり譲渡の対価の価
額等について十分に検討していたとしても(ただし,これらの検討等を通
じ,本件P6出資が既に平成17年3月31日の時点において本件各譲渡
により対価の価額を1口当たり3万9235円として譲渡されていたこと
が認識されていたことを認めるに足りる証拠はない。),そのことをもって,
本件13社による売買代金に相当する1口当たり5000円について,本
件P6出資の本件各譲渡の時における客観的な交換価値であることを根拠
付けるものとみることはできないというべきである。
エ以上によれば,本件P6出資の本件各譲渡の時における客観的な交換価
値が1口当たり5000円であるということはできず,この点に関する原
告らの主張を基に,本件P6出資の本件各譲渡の時における時価の評価に
ついて,評価通達の定める評価方式以外の評価方式によるべき特段の事情
があるということもできない。
(4)本件各譲渡は時価より著しく低い価額の対価でされたものか(本件各譲
渡に係る本件P6出資の時価はいくらか)(争点(2))についてのまとめ
前記(2)及び(3)によれば,本件P6出資の本件各譲渡の時における時価は,
評価通達の定めによって評価した1口当たりの価額である8万1204円と
いうべきである。
そうすると,本件各譲渡により,P5は,P3に対し,本件P6出資2万
4000口を,時価19億4889万6000円(1口当たり8万1204
円×2万4000口)のところ,9億4164万円(1口当たり3万923
5円×2万4000口)で譲渡し,また,P4に対し,本件P6出資2万3
995口を,時価19億4848万9980円(1口当たり8万1204円
×2万3995口)のところ,9億4144万3825円(1口当たり3万
9235円×2万3995口)で譲渡したものであって,本件各譲渡につい
ては,時価より著しく低い価額の対価でされたものであると認められる。
3原告らは本件各譲渡により相続税法9条に規定する「対価を支払わないで,
又は著しく低い価額の対価で利益を受けた」と認められるか,また,そのよう
に認められる場合,当該利益の価額に相当する金額はいくらか(争点(3))に
ついて
(1)はじめに
前記2に述べたとおり,本件各譲渡については,時価より著しく低い価額
の対価でされたものであると認められるところ,前記1に述べたとおり,こ
れにより,P3及びP4の資産が増加し,その株式及び持分の価額が増加し
たとすれば,P3の株主であり,P4の社員である原告らについて,相続税
法9条の規定を適用することが許されるものというべきである。
そこで,以下においては,本件各譲渡によって,P3の株式及びP4の持
分のそれぞれについて,その価額が増加したかを検討し,これによって同条
に規定する「対価を支払わないで,又は著しく低い価額の対価で利益を受け
た」と認められるかを判断した上,そのように認められる場合,原告らが得
た利益の価額に相当する金額はいくらかを検討することとする。
(2)P3の株式の価額の増加について
前提事実(1)エのとおり,本件各譲渡の時において,原告P1はP3の株
式を39万1150株,原告P2はP3の株式を5万株保有していた。そし
て,前記2(2)イ(ウ)bのとおり,P3の株式の価額は類似業種比準方式に
よって評価することになる。
その上で,本件各譲渡によるP3の株式の価額の増加額については,被告
の主張するとおり,①直前期末において本件各譲渡があったものと仮定して
計算した類似業種比準価額から,②直前期末において本件各譲渡がなかった
ものとして計算した類似業種比準価額を控除した金額によることが相当であ
る。
ア直前期末において本件各譲渡がなかったものとして計算したP3の株式
1株当たりの価額の評価額
直前期末において本件各譲渡がなかったものとして計算したP3の株式
の1株当たりの類似業種比準価額は,被告別表1の第3表のとおり,40
47円(同表の㉙欄)と認められる(この金額は,前記2(2)イ(ウ)b(d)
で認定した金額と同額である。)。
イ直前期末において本件各譲渡があったものとして計算したP3の株式1
株当たりの価額の評価額
直前期末において本件各譲渡があったものと仮定した場合の類似業種比
準価額の計算は,被告の主張するとおり,評価通達180の定める算式の
Ⓓの金額を修正することにより行うのが相当であり,その金額は,直前期
末において本件各譲渡がなかったものとして計算した類似業種比準価額の
計算上のⒹの金額の計算の基とした純資産価額に,本件各譲渡により取得
した財産の時価に相当する金額から本件各譲渡に係る対価の価額を控除し
た金額(本件各譲渡について課されるべき法人税等の額を控除した金額)
を加算した金額を直前期末現在の発行済株式数で除して計算した1株当た
りの金額によるものとし,この場合における本件各譲渡により取得した財
産の時価は,法人税の税務計算上の価額によるのが相当である。
ところで,弁論の全趣旨によれば,P3の平成17年1月1日から同年
12月31日までの事業年度における法人税について,日本橋税務署長は,
P5から受けた本件P6出資2万4000口の譲渡について,その対価の
額が1口当たり8万1177円と評価された時価に比して低く,その差額
に相当する受贈益につき益金の額への計上漏れがあるとして,法人税の更
正処分をしたことが認められ,その事実によれば,本件P6出資の1口当
たりの法人税の税務計算上の価額は,8万1177円と認められる。
そして,これに基づき,被告別表3の第2表のとおり,直前期末におい
て本件各譲渡がなかったものとして計算した類似業種比準価額の計算上の
Ⓓの金額の計算の基とした純資産価額を修正する計算を行い,これを用い
て(同別表の第1表の⑲欄参照),直前期末において本件各譲渡があった
ものと仮定して計算した1株当たりの類似業種比準価額を算定すると,同
表のとおり(ただし,同表の⑱欄の直前々期欄を488億7522万40
00円,同表の⑲欄の直前々期欄を492億3006万5000円と改め
る。),4058円(㉙欄)となる(なお,同別表の第1表及び第2表によ
る計算の過程に誤りは見当たらない。)。
ウ原告らの保有するP3の株式1株当たりの価額の増加額及び原告らが受
けた利益の価額に相当する金額
以上によれば,本件各譲渡による原告らの保有するP3の株式1株当た
りの価額の増加額は,前記イの金額4058円から前記アの金額4047
円を控除した差額である1株当たり11円となる。
そして,これに原告らの保有する株式数を乗じて計算すると,原告P1
につき430万2650円(1株当たり11円×39万1150株),原
告P2につき55万円(1株当たり11円×5万株)が,原告らそれぞれ
が受けた利益の価額に相当する金額となる。
(3)P4の持分の価額の増加について
前提事実(1)オのとおり,本件各譲渡の時において,原告P1はP4の持
分を39万8000口(出資の価格1990万円),原告P2はP4の持分
を2000口(出資の価格10万円)保有していた。そして,P4の持分の
価額の評価方式についてみるに,P4は,前提事実(1)オのとおり,平成1
6年12月31日における従業員数が4人であり,不動産賃貸を目的とし,
同日以前1年間の取引金額が2億4602万6276円であったことからす
ると,本件各譲渡の時において,評価通達178の定める中会社に該当する
と認められ,また,前提事実(1)オのとおり,平成16年12月31日にお
ける同社が所有する各資産を同通達に定めるところにより評価した価額の合
計額のうちに占める株式及び出資の価額の合計額の割合は70パーセントで
あったこと及び弁論の全趣旨によれば,本件各譲渡の時において,株式保有
特定会社通達に定める株式保有特定会社に該当すると認められるから,P4
の持分の価額は,純資産価額方式又は「S1+S2」方式によって評価する
ことになる(なお,原告らは,本件出資贈与に係るP4の持分の価額の評価
に当たり同通達を適用すべきでないと主張するが(原告らの主張の要点(別
紙4)の4参照),同通達及び株式保有特定会社の株式の価額の評価方式に
ついて定める評価通達189-3が合理的なものであることは前記2(2)イ
(エ)aのとおりであり,また,本件証拠上,本件各譲渡の時におけるP4の
持分の価額の評価に当たり株式保有特定会社通達を適用せず,評価通達の定
める評価方式以外の評価方式によるべき特段の事情の存在を認めることはで
きない。)。
ア本件各譲渡がされる前のP4の持分1口当たりの価額の評価額
弁論の全趣旨によれば,P4は,課税時期(平成17年3月31日)に
仮決算を行っていないところ,課税時期における同社の資産及び負債の金
額は明確でなく,また,同社の直前期末から課税時期までの間の資産及び
負債について著しい増減がなく,純資産価額方式による評価額の計算に影
響が少ないと認められることから,本件各譲渡がされる前の同社の持分1
口当たりの価額の評価額の算定に当たっては,評価明細書通達に基づき,
直前期末における各資産及び各負債を基にして算出するのが相当である。
そうすると,本件各譲渡がされる前のP4の持分1口当たりの価額の評
価額は,被告別表4の第5表から第8表までのとおり,9589円(同別
表の第6表の⑤欄)となる(この算定の基となった金額等の数値は,同別
表の第5表における資産の部の有価証券の価額の基となったP3の株式の
1株当たりの価額(同表の(注)2参照。この金額は,前記2(2)イ(ウ)
b(d)で認定した金額と同額である。)を除き,争いがないか,当事者にお
いて争うことを明らかにしない。なお,同別表の第5表から第8表までに
よる計算の過程に誤りは見当たらない。)。
イ本件各譲渡がされた後のP4の持分1口当たりの価額の評価額
(ア)本件各譲渡がされた後のP4の持分1口当たりの純資産価額(相続
税評価額)の計算上,本件各譲渡がされる前と比較して,資産の部の有
価証券は,19億4848万9980円(本件P6出資1口当たりの時
価8万1204円×2万3995口)増加する。
また,弁論の全趣旨によれば,P4は,P5からの本件P6出資の購
入のための資金を銀行からの借入金により調達しており,同借入金は,
P4において短期借入金として経理処理されていると認められることか
ら,本件各譲渡がされた後,P4の負債の部の短期借入金は,本件各譲
渡がされる前と比較して,9億4144万3825円(本件P6出資の
1口当たりの売買代金額3万9235円×2万3995口)増加する。
さらに,法人が時価に比し著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受け
た場合には,時価と対価との差額に相当する含み益(受贈益)が生じ,
当該受贈益は法人税の課税対象となることから,本件各譲渡がされた後,
P4の負債の部の未払法人税等は,本件各譲渡がされる前と比較して,
19億4784万2115円(本件P6出資の1口当たりの法人税の税
務計算上の価額8万1177円(前記(2)イ)×2万3995口)から
本件P6出資の対価の価額9億4144万3825円(本件P6出資の
1口当たりの売買代金額3万9235円×2万3995口)を控除した
金額に42パーセントを乗じた4億2268万7281円の法人税等相
当額が増加することになる。
(イ)前記(ア)に述べたところを踏まえ,本件各譲渡がされた後のP4の
持分1口当たりの価額の評価額を算定すると,被告別表5の第2表,第
4表から第7表までのとおり(ただし,同別表の第2表の類似業種を不
動産業とするものについての比準割合の計算中の○D/D欄を8.96,
㉕欄を4.68,㉗欄を1937円50銭,㉘欄を1937円,㉙欄を
1887円,同別表の第5表の①欄を1887円,同別表の第6表の類
似業種を不動産業とするものについての比準割合の計算中の(⑰)/D
欄を2.35,㉓欄を2.97,㉕欄を1229円50銭,㉖欄を12
29円,㉗欄を1179円,同別表の第7表の⑫欄を1179円と改め
る。),1万0562円(同別表の第5表の⑤欄)となる(この算定の基
となった金額等の数値は,被告別表4に用いたものと同じもの及び前記
(ア)に述べたところを踏まえて修正したものを除き,争いがないか,当
事者において争うことを明らかにしない。なお,上記のとおり改めるほ
か,被告別表5の第2表,第4表から第7表までによる計算の過程に誤
りは見当たらない。)。
ウ原告らの保有するP4の持分1口当たりの価額の増加額及び原告らが受
けた利益の価額に相当する金額
以上によれば,本件各譲渡による原告らの保有するP4の持分の価額の
増加額は,前記イの金額1万0562円から前記アの金額9589円を控
除した差額である1口当たり973円となる。
そして,これに原告らの保有する持分の口数を乗じて計算すると,原告
P1につき3億8725万4000円(1口当たり973円×39万80
00口),原告P2につき194万6000円(1口当たり973円×2
000口)が,原告らそれぞれが受けた利益の価額に相当する金額となる。
(4)原告らは本件各譲渡により相続税法9条に規定する「対価を支払わない
で,又は著しく低い価額の対価で利益を受けた」と認められるか,また,そ
のように認められる場合,当該利益の価額に相当する金額はいくらか(争点
(3))についてのまとめ
以上のとおり,時価よりも著しく低い価額の対価でされた本件各譲渡によ
って,原告らは,それぞれ保有するP3の株式及びP4の持分の価額が,原
告P1につき合計3億9155万6650円(430万2650円(前記
(2)ウ)+3億8725万4000円(前記(3)ウ)),原告P2につき合計2
49万6000円(55万円(前記(2)ウ)+194万6000円(前記(3)
ウ))増加していることから,本件各譲渡により,原告らは,相続税法9条
に規定する「対価を支払わないで,又は著しく低い価額の対価で利益を受け
た」と認められ,その利益の価額に相当する金額は,原告らについてそれぞ
れ上記のとおりの金額と認められる。
4本件出資贈与に係るP4の持分の価額はいくらか(争点(4))について
(1)本件出資贈与に係るP4の持分の価額の評価方式について
本件出資贈与に係るP4の持分の価額の評価方式については,P4は,前
提事実(1)オのとおり,平成16年12月31日における従業員数が4人で
あり,不動産賃貸を目的とし,同日以前1年間の取引金額が2億4602万
6276円であったことからすると,本件出資贈与の時において,評価通達
178の定める中会社に該当すると認められ,また,前提事実(1)オのとお
り,平成16年12月31日における同社が有する各資産を同通達に定める
ところにより評価した価額の合計額のうちに占める株式及び出資の価額の合
計額の割合は70パーセントであったことに加え,本件各譲渡があったこと
及び弁論の全趣旨によれば,本件出資贈与の時において,株式保有特定会社
通達に定める株式保有特定会社に該当すると認められるから,本件出資贈与
の時におけるP4の持分の価額は,純資産価額方式又は「S1+S2」方式
によって評価することとなる(なお,P4について同通達を適用すべきこと
は,前記3(3)に述べたとおりである。)。
(2)本件出資贈与に係るP4の持分の価額の評価をするに当たって考慮すべ
き本件P6出資の価額の評価について
前提事実(2)アのとおり,P4は,本件各譲渡により,本件P6出資2万
3995口を購入していることから,本件出資贈与に係るP4の持分の価額
の評価をするに当たっては,上記のようにP4が取得した本件P6出資の価
額の評価額を考慮することとなる。
そして,前記2(2)のとおり,本件各譲渡の時におけるP4が取得した本
件P6出資の価額については,純資産価額方式又は「S1+S2」方式によ
って評価することとするのが相当であり,かつ,純資産価額方式によって評
価する場合に評価通達185のただし書による評価減を行うことはできない
ところ,前記2(2)に述べたところ及び本件各譲渡と本件出資贈与との時期
が近接していることによれば,本件出資贈与の時におけるP4が保有する本
件P6出資の価額についても,同様に評価するのが相当である。
そうすると,被告別表6の第4表から第8表までのとおり,本件P6出資
の価額は,本件出資贈与の時において,1口当たり7万4241円(同別表
の第6表の⑤欄)と評価される(この算定の基となった金額等の数値は,同
別表の第5表の資産の部の投資有価証券(相続税評価額)を除き,争いがな
いか,当事者において争うことを明らかにしない。そして,上記投資有価証
券(相続税評価額)については,平成17年4月26日にP6は同じく原告
P1の同族関係者に該当するP4に対してP3の株式25万株を譲渡するこ
とにより保有する株式数が175万株となったところ(前提事実(1)エ,証
拠(甲11の1(20頁),乙3(2枚目))及び弁論の全趣旨),本件出資
贈与の時におけるP6が保有するP3の株式1株当たりの価額の評価額は4
047円であること(前記2(2)イ(ウ)bに述べたところによれば,上記の
譲渡の前後を通じ,本件各譲渡の時の評価額と同額と認められる。)により,
70億8225万円と認められる。なお,上記のとおり改めるほか,同別表
の第4表から第8表までによる計算の過程に誤りは見当たらない。)。
(3)本件出資贈与に係るP4の持分の価額について
前記(1)及び(2)を踏まえると,被告別表7の第5表から第8表までのとお
り,本件出資贈与に係るP4の持分の価額は,1口当たり1万0731円
(同別表の第6表の⑤欄)と評価される(この算定の基となった金額等の数
値は,同別表の第5表の資産の部の有価証券(相続税評価額)の算出根拠を
記載した同表の(注)2の「課税時期におけるP4の所有するP3株式の数」
及び「P6の出資の1口当たりの価額」を除き,争いがないか,当事者にお
いて争うことを明らかにしない。そして,上記「課税時期におけるP4の所
有するP3株式の数」については,前提事実(1)エ及び証拠(乙3(2枚目))
により,223万9100株と認められ,上記「P6の出資の1口当たりの
価額」については,前記(2)のとおり,7万4241円と認められる。なお,
被告別表7の第5表から第8表までによる計算の過程に誤りは見当たらな
い。)。
前提事実(3)のとおり,原告P2が本件出資贈与により取得したP4の持
分は25万8000口(出資の価格1290万円)であるから,本件出資贈
与に係るP4の持分の価額は,合計27億6859万8000円(1口当た
り1万0731円×25万8000口)となる。
5本件決定処分及び本件更正処分の適法性について
これまで判示してきたところ及び弁論の全趣旨によれば,原告P1の平成1
7年分の贈与税の課税価格及び納付すべき税額は,別紙2「本件各処分の根拠
及び適法性」の1(1)に記載のとおりであり,同(2)に記載のとおり,本件決定
処分は適法である。また,同様に,原告P2の平成17年分の贈与税の課税価
格及び納付すべき税額は,上記別紙の2(1)に記載のとおりであり,同(2)に記
載のとおり,本件更正処分は適法である。
6原告らについて,無申告加算税及び過少申告加算税を課されない正当な理由
があると認められるか(争点(5))について
(1)通則法65条4項は,更正等に基づき納付すべき税額の計算の基礎とな
った事実のうちにその更正等の前の税額の計算の基礎とされていなかったこ
とについて正当な理由があると認められるものがある場合には,納付すべき
税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として計算し
た金額を控除して,過少申告加算税の金額を計算する旨を定めているところ,
同項の「正当な理由があると認められる」場合とは,真に納税者の責めに帰
することのできない客観的な事情があり,当初から適法に申告し納税した納
税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに,過少申告による
納税義務違反の発生を防止し,適正な申告納税の実現を図り,もって納税の
実を挙げようとする行政上の措置である過少申告加算税の趣旨に照らしても,
なお,納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をい
うものと解するのが相当である(前掲最高裁平成18年4月20日第一小法
廷判決,前掲最高裁平成18年4月25日第三小法廷判決参照)。
また,同法66条1項ただし書は,期限内申告書の提出がなかったことに
ついて正当な理由があると認められる場合には,当該納税者に対し,無申告
加算税を課さない旨を定めているところ,上記の「正当な理由があると認め
られる」場合についても,過少申告加算税について述べたところと同様に解
するのが相当である。
(2)これを本件についてみると,これまで述べてきたところによれば,原告
らは,相続税法や評価通達などの関係法令等について,処分行政庁の解釈
(当裁判所もこれを正当と解するものである。)と異なる解釈を採り,また,
P6に対する原告P1及びその同族関係者による実質的な支配の有無や,本
件13社がP4に対して売却した本件P6出資の価額が客観的な交換価値と
いえるか否かなどに係る事実関係を誤認し,又はその評価を誤ったこと(な
お,これらは,いずれも,原告らの指摘する事務運営指針(原告らの主張の
要点(別紙4)の5(3)ア参照。乙36)における「税法の解釈に関し申告
書提出後新たに法令解釈が明確化された」場合であるとはいえない。)によ
り,平成17年分の贈与税について,原告P1において申告書の提出をせず,
原告P2において前提事実(4)のとおりの申告書の提出をするにとどまった
ものと認められる。
そうすると,平成17年分の贈与税について,原告P1が申告書の提出を
せず,原告P2が前提事実(4)のとおりの申告書の提出をするにとどまった
ことについては,真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情が
あり,無申告加算税及び過少申告加算税の趣旨に照らしても,なお,納税者
にこれらを賦課することが不当又は酷になる場合に当たるということはでき
ず,通則法65条4項及び同条66条1項ただし書にいう「正当な理由があ
ると認められる」場合とはいえないというべきである。
7原告P1賦課決定処分及び原告P2賦課決定処分の適法性について
これまで判示してきたところ及び弁論の全趣旨によれば,原告P1賦課決定
処分の適法性については,別紙2「本件各処分の根拠及び適法性」の1(3)の
とおりであり,また,原告P2賦課決定処分の適法性については,上記別紙の
2(3)のとおりであり,原告P1賦課決定処分及び原告P2賦課決定処分はい
ずれも適法である。
8結論
以上の次第で,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却する。
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官八木一洋
裁判官品川英基
裁判官大竹敬人
(別紙1)
関係法令等の定め
1相続税法
(1)9条
相続税法9条は,その本文で,同法4条から8条までに規定する場合を除
くほか,対価を支払わないで,又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場
合においては,当該利益を受けた時において,当該利益を受けた者が,当該
利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額(対価の支払があっ
た場合には,その価額を控除した金額)を当該利益を受けさせた者から贈与
により取得したものとみなす旨を定めている。
(2)22条
相続税法22条は,同法第3章で特別の定めのあるものを除くほか,相続,
遺贈又は贈与により取得した財産の価額は,当該財産の取得の時における時
価により,当該財産の価額から控除すべき債務の金額は,その時の現況によ
る旨を定めている。
2商法241条3項(平成17年法律第87号による改正前のもの。以下同
じ。)及び有限会社法41条(平成17年法律第87号による廃止前のもの。
以下同じ。)
(1)商法241条3項は,会社,親会社及び子会社又は子会社が他の株式会
社の総株主の議決権の4分の1を超える議決権又は他の有限会社の総社員の
議決権の4分の1を超える議決権を有する場合においては,その株式会社又
は有限会社はその有する会社又は親会社の株式については議決権を有しない
旨を定めている。
(2)有限会社法41条は,商法241条3項の規定は有限会社の社員総会に
これを準用する旨を定めている。
3法人税法施行令(ただし,平成18年政令第125号による改正前のもの。
以下同じ。)4条
(1)法人税法施行令4条1項は,そのいわゆる柱書きにおいて,法人税法2
条10号(同族会社の意義)に規定する政令で定める特殊の関係のある個人
は,同令4条1項各号に掲げる者とする旨を定め,同項1号は,株主等の親
族を掲げている。
(2)法人税法施行令4条2項は,そのいわゆる柱書きにおいて,法人税法2
条10号に規定する政令で定める特殊の関係のある法人は,同令4条2項各
号に掲げる会社とする旨を定め,同項1号から3号までは,次のアからウま
でのとおり掲げている。
ア1号
同族会社であるかどうかを判定しようとする会社の株主等(当該会社が
自己の株式又は出資を有する場合の当該会社を除く。以下,法人税法施行
令4条2項及び3項において「判定会社株主等」という。なお,同令にお
いて,「株主等」とは,株主又は合名会社,合資会社若しくは有限会社の
社員その他法人の出資者をいう(同令1条,法人税法(ただし,平成18
年法律第10号による改正前のもの)2条14号)。)の1人(個人である
判定会社株主等については,その1人及びこれと同令4条1項に規定する
特殊の関係のある個人。以下同条2項において同じ。)が有する他の会社
の株式の総数又は出資の金額の合計額が当該他の会社の発行済株式の総数
又は出資金額(その有する自己の株式又は出資を除く。同項2号及び3号
において同じ。)の100分の50を超える数の株式又は出資の金額に相
当する場合における当該他の会社
イ2号
判定会社株主等の1人及びこれと法人税法施行令4条2項1号に規定す
る特殊の関係のある会社が有する他の会社の株式の総数又は出資の金額の
合計額が当該他の会社の発行済株式の総数又は出資金額の100分の50
を超える数の株式又は出資の金額に相当する場合における当該他の会社
ウ3号
判定会社株主等の1人及びこれと法人税法施行令4条2項1号及び2号
に規定する特殊の関係のある会社が有する他の会社の株式の総数又は出資
の金額の合計額が当該他の会社の発行済株式の総数又は出資金額の100
分の50を超える数の株式又は出資の金額に相当する場合における当該他
の会社
(3)法人税法施行令4条3項は,同一の個人又は法人(人格のない社団等を
含む。以下同じ。)と同条2項に規定する特殊の関係のある2以上の会社が,
判定会社株主等である場合には,その2以上の会社は,相互に同項に規定す
る特殊の関係のある会社であるものとみなす旨を定めている。
4相続税法基本通達(昭和34年1月28日付け直資10(例規)国税庁長官
通達。乙27)9-2
相続税法基本通達9-2は,同族会社(法人税法2条10号に規定する同族
会社をいう。以下同じ。)の株式又は出資の価額が,例えば,同通達9-2の
(1)から(4)までに掲げる場合に該当して増加したときにおいては,その株主又
は社員が当該株式又は出資の価額のうち増加した部分に相当する金額を,それ
ぞれ上記の(1)から(4)までに掲げる者から贈与によって取得したものとして取
り扱うものとする旨を定め,その(4)は,「会社に対し時価より著しく低い価額
の対価で財産の譲渡をした場合」につき「当該財産の譲渡をした者」を掲げて
いる。
5財産評価基本通達(昭和39年4月25日付け直資56・直審(資)17
(例規)国税庁長官通達。ただし,平成18年10月27日付け課評2-27
・課資2-8・課審6-10による改正前のもの。乙6の1,14,30,弁
論の全趣旨。以下「評価通達」という。)
評価通達1は,財産の評価について定めるところ,その(2)は,財産の価額
は,時価によるものとし,時価とは,課税時期(相続、遺贈若しくは贈与によ
り財産を取得した日若しくは相続税法の規定により相続,遺贈若しくは贈与に
より取得したものとみなされた財産のその取得の日又は地価税法2条4号に規
定する課税時期をいう。以下同じ。)において,それぞれの財産の現況に応じ,
不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められ
る価額をいい,その価額は,同通達の定めによって評価した価額による旨を定
めている。もっとも,同通達6は,同通達の定めによって評価することが著し
く不適当と認められる財産の価額は,国税庁長官の指示を受けて評価する旨を
定めている。
その上で,同通達は,取引相場のない株式(上場株式及び気配相場等のある
株式以外の株式をいう(同通達168(3))。以下同じ。)の評価方法について,
次の(1)から(10)までのとおりの定めを置いている。なお,同通達194は,
合名会社,合資会社又は有限会社に対する出資の価額は,同通達178から1
93-2までの定めに準じて計算した価額によって評価する旨を定めている。
(1)評価通達178
評価通達178は,その本文において,取引相場のない株式の価額は,評
価しようとするその株式の発行会社(以下「評価会社」という。)が次の表
に定める大会社,中会社又は小会社のいずれに該当するかに応じて,それぞ
れ同通達179の定める方法によって評価する旨を定め,同通達178のた
だし書において,同族株主(同通達188(1)に定める同族株主をいう。)以
外の株主等が取得した株式又は特定の評価会社の株式の価額は,それぞれ同
通達188又は189の定めによって評価する旨を定めている。



区分の内容
総資産価額(帳簿価額
によって計算した金
額)及び従業員数
直前期末以
前1年間に
おける取引
分金額



従業員数が
100人以上
の会社又は
右のいずれ
か1に該当
する会社
卸売業20億円以上(従業員数
が50人以下の会社を
除く。)
80億円以上
小売・サー
ビス業
10億円以上(従業員数
が50人以下の会社を
除く。)
20億円以上
卸売業,小
売・サービ
ス業以外
10億円以上(従業員数
が50人以下の会社を
除く。)
20億円以上



従業員数が
100人未満
の会社で右
のいずれか
1に該当す
る会社(大
会社に該当
する場合を
除く。)
卸売業7000万円以上(従業員
数が5人以下の会社を
除く。)
2億円以上
80億円未満
小売・サー
ビス業
4000万円以上(従業員
数が5人以下の会社を
除く。)
6000万円以
上20億円未

卸売業,小
売・サービ
ス業以外
5000万円以上(従業員
数が5人以下の会社を
除く。)
8000万円以
上20億円未



従業員数が
100人未満
の会社で右
のいずれに
卸売業7000万円未満又は従業
員数が5人以下
2億円未満
小売・サー
ビス業
4000万円未満又は従業
員数が5人以下
6000万円未

社も該当する
会社
卸売業,小
売・サービ
ス業以外
5000万円未満又は従業
員数が5人以下
8000万円未

上の表の「総資産価額(帳簿価額によって計算した金額)及び従業員数」
及び「直前期末以前1年間における取引金額」は,それぞれ次のアからウに
より,「卸売業」,「小売・サービス業」又は「卸売業,小売・サービス業以
外」の判定は次のエによる。
ア「総資産価額(帳簿価額によって計算した金額)」は,課税時期の直前
に終了した事業年度の末日(以下「直前期末」という。)における評価会
社の各資産の帳簿価額の合計額とする。
イ「従業員数」は,直前期末以前1年間においてその期間継続して評価会
社に勤務していた従業員(就業規則等で定められた1週間当たりの労働時
間が30時間未満である従業員を除く。以下,評価通達178において
「継続勤務従業員」という。)の数に,直前期末以前1年間において評価
会社に勤務していた従業員(継続勤務従業員を除く。)のその1年間にお
ける労働時間の合計時間数を従業員1人当たり年間平均労働時間数で除し
て求めた数を加算した数とする。この場合における従業員1人当たり年間
平均労働時間数は,1800時間とする。
ウ「直前期末以前1年間における取引金額」は,その期間における評価会
社の目的とする事業に係る収入金額(金融業・証券業については収入利息
及び収入手数料)とする。
エ評価会社が「卸売業」,「小売・サービス業」又は「卸売業,小売・サー
ビス業以外」のいずれの業種に該当するかは,前記ウの直前期末以前1年
間における取引金額(以下,評価通達178及び同通達181-2におい
て「取引金額」という。)に基づいて判定し,当該取引金額のうちに2以
上の業種に係る取引金額が含まれている場合には,それらの取引金額のう
ち最も多い取引金額に係る業種によって判定する。
(2)評価通達179
評価通達179は,同通達178の区分において大会社,中会社及び小会
社とされた評価会社の株式で,そのただし書の「同族株主以外の株主等が取
得した株式又は特定の評価会社の株式」以外の株式の価額は,次のアからウ
までによる旨を定めている。
ア大会社の株式(評価通達179(1))
大会社の株式の価額は,類似業種比準価額によって評価する(以下,こ
の評価方式を「類似業種比準方式」という。)。ただし,納税義務者の選択
により,1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額。
以下「純資産価額(相続税評価額)」という。)によって評価する(以下,
この評価方式を「純資産価額方式」という。)ことができる。
イ中会社の株式(評価通達179(2))
中会社の株式の価額は,次の算式により計算した金額によって評価する。
ただし,納税義務者の選択により,算式中の類似業種比準価額を1株当た
りの純資産価額(相続税評価額)によって計算することができる。
(算式)
類似業種比準価額×L+1株当たりの純資産価額(相続税評価額)×
(1-L)
上記算式中の「L」は,評価会社の評価通達178に定める課税時期の
直前期末における総資産価額(帳簿価額によって計算した金額)及び従業
員数又は直前期末以前1年間における取引金額に応じて,それぞれ同通達
179(2)イ及びロに掲げる割合のうちいずれか大きい方の割合とする。
ウ小会社の株式(評価通達179(3))
小会社の株式の価額は,純資産価額方式によって評価する。ただし,納
税義務者の選択により,Lを0.50として前記イの算式により計算した
金額によって評価することができる。
(3)評価通達180
評価通達180は,同通達179の類似業種比準価額は,類似業種の株価
並びに1株当たりの配当金額,年利益金額及び純資産価額(帳簿価額によっ
て計算した金額。以下「純資産価額(帳簿価額)」という。)を基とし,次の
算式によって計算した金額とし,この場合において,評価会社の直前期末に
おける資本金額を直前期末における発行済株式数で除した金額(以下「1株
当たりの資本金の額」という。)が50円以外の金額であるときは,その計
算した金額に,1株当たりの資本金の額の50円に対する倍数を乗じて計算
した金額とする旨を定めている。
(算式)
ア上記算式中の「A」,「」,「」,「」,「B」,「C」及び「D」は,そ
れぞれ次による。
「A」=類似業種の株価
「」=評価会社の直前期末における1株当たりの配当金額
「」=評価会社の直前期末以前1年間における1株当たりの利益金額
「」=評価会社の直前期末における1株当たりの純資産価額(帳簿価
額)
「B」=課税時期の属する年の類似業種の1株当たりの配当金額
「C」=課税時期の属する年の類似業種の1株当たりの年利益金額
「D」=課税時期の属する年の類似業種の1株当たりの純資産価額(帳
簿価額)
A×





×3+



×0.7
イ上記算式中の「0.7」は,評価通達178に定める中会社の株式を評
価する場合には「0.6」,同通達178に定める小会社の株式を評価す
る場合には「0.5」とする。
ウ上記算式中のの金額が0の場合には,分母の「5」は「3」とする。
(4)評価通達185
評価通達185は,その本文において,同通達179にいう1株当たりの
純資産価額(相続税評価額)は,課税時期における各資産を同通達に定める
ところにより評価した価額の合計額から課税時期における各負債の金額の合
計額及び同通達186-2により計算した評価差額に対する法人税額等に相
当する金額(以下「法人税額等相当額」という。)を控除した金額を課税時
期における発行済株式数(商法241条2項に規定する自己の株式(以下
「自己株式」という。)を有する場合には,当該自己株式の数を控除した株
式数によるものとする。同通達186-3において同じ。)で除して計算し
た金額とする旨を定め,同通達185のただし書において,同通達179の
中会社の株式の価額の評価で用いる算式(前記(2)イ参照)及び小会社の株
式の価額の評価で用いる1株当たりの純資産価額(相続税評価額)について
は,株式の取得者とその同族関係者(同通達188(1)に定める同族関係者
をいう。)の有する議決権の合計数が評価会社の議決権総数の50パーセン
ト以下である場合においては,同通達185の本文により計算した1株当た
りの純資産価額(相続税評価額)に100分の80を乗じて計算した金額と
する旨を定めている。
(5)評価通達186-3
評価通達186-3は,その注書きにおいて,評価会社の所有する資産に
取引相場のない株式があるときの当該株式の1株当たりの純資産価額(相続
税評価額)の計算に当たっては,同通達186-2の定めにより計算した評
価差額に対する法人税額等相当額を控除しないのであるから留意する旨を定
めている。
(6)評価通達188
ア評価通達188のいわゆる柱書きは,同通達178の「同族株主以外の
株主等が取得した株式」は,同通達188(1)から(4)までのいずれかに該
当する株式をいい,その株式の価額は,同通達188-2の定めによる旨
を定めている。
イ評価通達188(1)は,「同族株主のいる会社の株式のうち、同族株主以
外の株主の取得した株式」を掲げ,この場合における「同族株主」とは,
課税時期における評価会社の株主のうち,株主の1人及びその同族関係者
(法人税法施行令4条に規定する特殊の関係のある個人又は法人をいう。
ただし,当該法人の判定については,同条2項中「株式の総数」は「議決
権の数」と,「発行済株式の総数」は「議決権総数」と,「数の株式」は
「数の議決権」と読み替えるものとする。以下同じ。)の有する議決権の
合計数がその会社の議決権総数の30パーセント以上(その評価会社の株
主のうち,株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も
多いグループの有する議決権の合計数が,その会社の議決権総数の50パ
ーセント超である会社にあっては,50パーセント超)である場合におけ
るその株主及びその同族関係者をいう旨を定めている。
ウ評価通達188(2)は,「中心的な同族株主のいる会社の株主のうち,中
心的な同族株主以外の同族株主で,その者の株式取得後の議決権の数がそ
の会社の議決権総数の5%未満であるもの(課税時期において評価会社の
役員(社長,理事長並びに法人税法施行令第71条第1項第1号及び第3
号に掲げる者をいう。以下同通達188において同じ。)である者及び課
税時期の翌日から法定申告期限までの間に役員となる者を除く。)の取得
した株式」を掲げ,この場合における「中心的な同族株主」とは,課税時
期において同族株主の1人並びにその株主の配偶者,直系血族,兄弟姉妹
及び1親等の姻族(これらの者の同族関係者である会社のうち,これらの
者が有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25パーセント以上
である会社を含む。)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の
25パーセント以上である場合におけるその株主をいう旨を定めている。
(7)評価通達188-2
評価通達188-2は,その本文において,同通達188の株式の価額は,
その株式に係る年配当金額(同通達183(1)に定める1株当たりの配当金
額をいう。ただし,その金額が2円50銭未満のもの及び無配のものにあっ
ては2円50銭とする。)を基として,次の算式により計算した金額によっ
て評価する(以下,この評価方式を「配当還元方式」という。)旨を定め,
そのただし書において,その金額がその株式を同通達179の定めにより評
価するものとして計算した金額を超える場合には,同通達179の定めによ
り計算した金額によって評価する旨を定めている。
その株式に係る年配当金額
×
その株式の1株当たりの資本金の額
10%50円
(8)評価通達188-4
評価通達188-4は,同通達188(1)から(4)までにおいて,評価会社
の株主のうちに商法241条3項の規定により評価会社の株式につき議決権
を有しないこととされる会社があるときは,当該会社の有する評価会社の議
決権の数は0として計算した議決権の数をもって評価会社の議決権総数とな
ることに留意し,評価会社の株主の同族関係者に該当するかどうかを判定す
るときにおいても,また同様となる旨を定めている。
(9)評価通達189
ア評価通達189のいわゆる柱書きは,同通達178の「特定の評価会社
の株式」とは,評価会社の資産の保有状況,営業の状態等に応じて定めた
同通達189(1)から(6)までの評価会社の株式をいい,その株式の価額は,
同(1)から(6)までの区分に従い,それぞれに掲げるところによる旨を定め
ている。
イ評価通達189(2)(以下「株式保有特定会社通達」という。)は,課税
時期において評価会社の有する各資産を同通達に定めるところにより評価
した価額の合計額のうちに占める株式及び出資の価額の合計額の割合(以
下「株式保有割合」という。)が25パーセント以上(同通達178に定
める中会社及び小会社については,50パーセント以上)である評価会社
(以下「株式保有特定会社」という。)の株式の価額は,同通達189-
3の定めによる旨を定めている。
(10)評価通達189-3
評価通達189-3は,その本文において,株式保有特定会社の株式の価
額は,同通達185の本文の定めにより計算した1株当たりの純資産価額方
式によって評価し,この場合における当該1株当たりの純資産価額(相続税
評価額)は,当該株式の取得者とその同族関係者の有する当該株式に係る議
決権の合計数が株式保有特定会社の同通達185のただし書に定める議決権
総数の50パーセント以下であるときには,上記により計算した1株当たり
の純資産価額(相続税評価額)を基に同通達185のただし書の定めにより
計算した金額とする旨を定め,また,同通達189-3のただし書において,
株式保有特定会社の株式の価額は,納税義務者の選択により,同通達189
-3(1)に定める「S1の金額」(後記ア)と同(2)に定める「S2の金額」
(後記イ)との合計額によって評価する(以下,この方式を「「S1+S2」
方式」という。)ことができる旨などを定めている。
アS1の金額(評価通達189-3(1))
S1の金額は,株式保有特定会社の株式の価額を評価通達178本文,
179から184まで,185本文,186及び186-2の定めに準じ
て計算した金額とする。ただし,評価会社の株式が同通達189(1)の
「比準要素数1の会社の株式」の要件(同通達189(1)の括弧書の要件
を除く。)にも該当する場合には,大会社,中会社又は小会社の区分に関
わらず,同通達189-2の定め(本文の括弧書き,ただし書の括弧書き
及びなお書きを除く。)に準じて計算した金額とする。これらの場合にお
いて,同通達180に定める算式及び同通達185本文に定める1株当た
りの純資産価額(相続税評価額)は,それぞれ次による。
(ア)評価通達180に定める算式は,次の算式による。
上記算式の適用に当たっては,次による。
a上記算式中,「A」,「○B」,「○C」,「○D」,「B」,「C」及び「D」は,
評価通達180の定めにより,「○b」,「○c」及び「○d」は,それぞれ
次による。
「○b」=同通達183(1)に定める評価会社の「1株当たりの配当金
額」に,直前期末以前2年間の受取配当金額(法人から受ける利
益の配当及び剰余金の分配(出資に係るものに限る。)をいう。
以下同じ。)の合計額と直前期末以前2年間の営業利益の金額の
合計額(当該営業利益の金額に受取配当金額が含まれている場合
には,当該受取配当金額の合計額を控除した金額)との合計額の
うちに占める当該受取配当金額の合計額の割合(当該割合が1を
超える場合には1を限度とする。以下「受取配当金収受割合」と
いう。)を乗じて計算した金額
「○c」=同通達183(2)に定める評価会社の「1株当たりの利益金
額」に受取配当金収受割合を乗じて計算した金額
「○d」=次の①及び②に掲げる金額の合計額(上記計算式中の「○D」
を限度とする。
①同通達183(3)に定める評価会社の「1株当たりの純資産価
額(帳簿価額によって計算した金額)」に,同通達178(1)に定
める総資産価額(帳簿価額によって計算した金額)のうちに占め
る株式及び出資の帳簿価額の合計額の割合を乗じて計算した金額
②直前期末における法人税法2条18号に規定する利益積立金額
に相当する金額を直前期末における発行済株式数(1株当たりの
資本金の額が50円以外の金額である場合には,直前期末におけ
る資本金額を50円で除して計算した数によるものとする。)で
除して求めた金額に受取配当金収受割合を乗じて計算した金額
(利益積立金額に相当する金額が負数である場合には,0とす
る。)
b上記算式中の「0.7」は,中会社の株式を評価する場合には「0.
6」,小会社の株式を評価する場合には「0.5」とする。
c上記算式中の○Cの金額が0の場合には,分母の「5」は「3」とす
る。
(イ)評価通達185本文に定める1株当たりの純資産価額(相続税評価
額)は,同通達185本文及び186-2の「各資産」を「各資産から
株式及び出資を除いた各資産」と読み替えて計算した金額とする。
イS2の金額
S2の金額は,評価通達189(2)の「株式等の価額の合計額(相続税
評価額によって計算した金額)」からその計算の基とした株式等の帳簿価
額の合計額を控除した場合において残額があるときは,当該株式等の価額
の合計額(相続税評価額によって計算した金額)から当該残額に同通達1
86-2に定める割合を乗じて計算した金額を控除し,当該控除後の金額
を課税時期における株式保有特定会社の発行済株式数(自己株式を有する
場合には,当該自己株式の数を控除した株式数をいう。以下同通達189
-3において同じ。)で除して計算した金額とする。この場合において当
該残額がないときは,当該株式等の価額の合計額(相続税評価額によって
計算した金額)を課税時期における株式保有特定会社の発行済株式数で除
して計算した金額とする。
6相続税及び贈与税における取引相場のない株式等の評価明細書の様式及び記
載方法等について(平成2年12月27日付け直評23・直資2-293国税
庁長官通達。ただし,平成18年12月22日課評2-31・課資2-10・
課審6-14による改正前のもの。乙16。以下「評価明細書通達」という。)
評価明細書通達は,取引相場のない株式の価額の評価を行う場合の評価明細
書の様式及び記載方法等を定めているところ,同通達の「取引相場のない株式
等の評価明細書の記載方法等」の「第5表1株当たりの純資産価額(相続税
評価額)の計算明細書」の2(4)は,1株当たりの純資産価額(相続税評価額)
の計算は,評価会社が課税時期において仮決算を行っていないため,課税時期
における資産及び負債の金額が明確でない場合において,直前期末から課税時
期までの間に資産及び負債について著しく増減がないため評価額の計算に影響
が少ないと認められるときは,課税時期における各資産及び各負債の金額は,
直前期末の資産及び負債の課税時期の相続税評価額や直前期末の資産及び負債
の帳簿価格を基に算定しても差し支えないと定めている。
7法人税基本通達(昭和44年5月1日付け直審(法)25(例規)国税庁長
官通達。ただし,平成17年12月26日課法2-14,課審5-212によ
る改正前のもの。乙28。以下「法人税基本通達」という。)9-1-14
法人税基本通達9-1-14は,法人が,上場有価証券等以外の株式につい
て法人税法33条2項の規定を適用する場合において,事業年度終了の時にお
ける当該株式の価額につき評価通達178から189-7までの例によって算
定した価額によっているときは,課税上弊害がない限り,次の(1)から(3)まで
によることを条件としてこれを認めると定めている。
(1)当該株式の価額につき評価通達179の例により算定する場合(同通達
189-3(1)において同通達179に準じて算定する場合を含む。)におい
て,当該法人が当該株式の発行会社にとって同通達188(2)に定める「中
心的な同族株主」に該当するときは,当該発行会社は常に同通達178に定
める「小会社」に該当するものとしてその例によること。
(2)当該株式の発行会社が土地(土地の上に存する権利を含む。)又は証券取
引所に上場されている有価証券を有しているときは,評価通達185の本文
に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)」の計算に当たり,こ
れらの資産については当該事業年度終了の時における価額によること。
(3)評価通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価
額)」の計算に当たり,同通達186-2により計算した評価差額に対する
法人税額等に相当する金額は控除しないこと。
以上
(別紙2)
本件各処分の根拠及び適法性
1本件決定処分等
(1)課税価格及び納付すべき税額
原告P1の平成17年分の贈与税の課税価格及び納付すべき税額は,次の
とおりである。
ア課税価格3億9155万6650円
当該金額は,本件各譲渡により,原告P1が対価を支払わないで利益を
受けたことから,相続税法9条の規定により原告P1がP5から贈与によ
り取得したものとみなされた利益の額(原告P1が保有するP3の株式に
係る利益の額430万2650円及びP4の持分に係る利益の額3億87
25万4000円の合計額)である。
イ納付すべき税額1億9297万8000円
当該金額は,前記アの課税価格から,相続税法21条の5及び租税特別
措置法70条の2(平成21年法律第61号による改正前のもの。以下同
じ。)に規定する贈与税の基礎控除額110万円を控除した後の金額(た
だし,国税通則法(以下「通則法」という。)118条1項の規定により
1000円未満の端数金額を切り捨てた後のもの)に,相続税法21条の
7に規定する贈与税の税率を適用して算出した金額である。
(2)本件決定処分の適法性
原告P1の納付すべき税額は,前記(1)イで述べたとおり,1億9297
万8000円であるところ,本件決定処分(ただし,平成21年7月6日付
けでされた異議決定により一部取り消された後のもの。以下同じ。)におけ
る原告P1の納付すべき税額1億8860万3500円は,上記1億929
7万8000円を下回るから,その範囲内で行われた本件決定処分は適法で
ある。
(3)原告P1賦課決定処分の根拠及び適法性
前記(2)のとおり,本件決定処分は適法であるところ,原告P1は,平成
17年分の贈与税について,法定申告期限内に申告書を提出しておらず,ま
た,原告P1が上記期限内に申告書を提出しなかったことについて,通則法
66条1項ただし書に規定する「正当な理由」も見当たらない。
したがって,本件決定処分により原告P1が納付すべき税額(ただし,同
法118条3項の規定により1万円未満の端数金額を切り捨てた後のもの)
である1億8860万円に,同法66条1項の規定に基づき,100分の1
5の割合を乗じて算出した金額は,2829万円となるところ,原告P1賦
課決定処分(ただし,平成21年7月6日付けでされた異議決定により一部
取り消された後のもの。以下同じ。)による無申告加算税の金額は,上記2
829万円と同額であるから,原告P1賦課決定処分は適法である。
2本件更正処分等
(1)課税価格及び納付すべき税額
原告P2の平成17年分の贈与税の課税価格及び納付すべき税額は,次の
とおりである。
ア課税価格33億7109万4000円
当該金額は,①本件各譲渡により,原告P2が対価を支払わないで利益
を受けたことから,相続税法9条の規定により原告P2がP5から贈与に
より取得したものとみなされた利益の額249万6000円(原告P2が
保有するP3の株式に係る利益の額55万円及びP4の持分に係る利益の
額194万6000円の合計額),②本件出資贈与の価額27億6859
万8000円及び③本件現金贈与に係る現金6億円をそれぞれ合計した金
額である。
イ納付すべき税額6億6885万9200円
原告P2は,原告P1からの平成17年分の贈与について相続税法21
条の9に規定する相続時精算課税を選択する旨の届出書を芝税務署長に提
出しているところ,当該金額は,①前記アの課税価格33億7109万4
000円のうち,本件各譲渡により原告P2が受けた利益の額249万6
000円について,当該金額から暦年課税に係る相続税法21条の5及び
租税特別措置法70条の2に規定する贈与税の基礎控除額110万円を控
除した後の金額に,相続税法21条の7に規定する贈与税の税率を適用し
て算出した金額13万9600円並びに②前記アの課税価格33億710
9万4000円のうち,上記①の249万6000円を控除した金額33
億6859万8000円から,同法21条の12に規定する相続時精算課
税に係る特別控除額2500万円を控除した後の金額に,同法21条の1
3に規定する贈与税の税率20パーセントを適用して算出した金額6億6
871万9600円の合計額である。
(2)本件更正処分の適法性
原告P2の納付すべき税額は,前記(1)イで述べたとおり,6億6885
万9200円であるところ,本件更正処分(ただし,平成21年7月6日付
けでされた異議決定により一部取り消された後のもの。以下同じ。)におけ
る原告P2の納付すべき税額6億6467万0400円は,上記6億688
5万9200円を下回るから,その範囲内で行われた本件更正処分は適法で
ある。
(3)原告P2賦課決定処分の根拠及び適法性
前記(2)のとおり,本件更正処分は適法であるところ,原告P2は,本件
更正処分により新たに納付すべき税額の計算の基礎となった事実に,本件更
正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて,通則法65
条4項に規定する「正当な理由」も見当たらない。
したがって,本件更正処分により原告P2が納付すべき税額(ただし,通
則法118条3項の規定により1万円未満の端数金額を切り捨てた後のもの)
である6463万円に,同法65条1項の規定に基づき,100分の10の
割合を乗じて計算した金額は,646万3000円となるところ,原告P2
賦課決定処分(ただし,平成21年7月6日付け異議決定により一部取り
消された後のもの。以下同じ。)による過少申告加算税の金額は,上記64
6万3000円と同額であるから,原告P2賦課決定処分は適法である。
以上
(別紙3)
被告の主張の要点
1本件各譲渡に関し原告らについて相続税法9条の規定を適用することができ
るか(争点(1))について
(1)相続税法9条の趣旨及び同条に係る課税実務上の取扱い
ア相続税法9条の規定は,私法上の贈与契約によって財産を取得したので
はないが,贈与と同じような実質を有する場合に,贈与の意思がなければ
贈与税を課税することができないとするならば,課税の公平を失すること
になるので,この不合理を補うために,実質的に対価を支払わないで経済
的利益を受けた場合においては,贈与契約の有無にかかわらず,これを贈
与により取得したものとみなし,課税財産として贈与税を課税することと
したものである。したがって,同条にいう「対価を支払わないで…利益を
受けた場合」に該当するか否かについては,経済的利益の享受があったか
否かにより判定されるべきものである。
イ上記の相続税法9条の趣旨を踏まえ,課税実務上は,同族会社の株式又
は出資の価額が,会社に対し時価より著しく低い価額の対価で財産の譲渡
をしたこと(以下,時価より著しく低い価額の対価で財産の譲渡をするこ
とを「財産の低額譲渡」ということがある。)により増加したときは,財
産の譲渡があった時に,その株主又は社員が当該株式又は出資の価額のう
ち増加した部分に相当する金額を,当該財産の譲渡をした者から贈与によ
って取得したものと取り扱われている(相続税法基本通達9-2(4))。
これは,相続税法9条にいう「利益を受けた場合」には,様々な態様が
考えられるところであるが,比較的定型的な態様で,取扱いを特定してお
く必要がある場合についての取扱いを定めたものであり,同族会社に対し
財産の低額譲渡があった場合には,それだけ会社の含み資産は増加し,そ
の会社の株式又は出資の価額が値上がりし,その会社の株主又は社員が利
益を受けることになることから定められたものである。すなわち,当該取
扱いは,同族会社の株式又は出資の含み益を通じて個人間で財産の移転を
図る場合の贈与税の課税の取扱いを定めたものである。
(2)原告らの主張について
ア原告らの主張の要点(別紙4)の1(1)アについて
原告らが主張する「受けた「利益」に対し法的に「対価」を支払うべき
義務を負う者」とは,いかなる者をいうのか判然としないが,原告らが主
張する相続税法9条の文理解釈からは,「当該利益を受けた者」につき,
法的に対価を支払うべき義務を負う者に限定すべき理由はない。
また,同条の「対価を支払わないで…利益を受けた場合」に該当するか
否かについては,実質的にみて,対価の支払がなく,利益を受けた者の財
産(積極財産)の増加又は債務(消極財産)の減少等の経済的利益の享受
があったか否かにより判定されるべきものであり,原告らの述べる法的な
支払義務の有無とは何ら関係がない。
このことは,同条の「対価を支払わないで…利益を受けた場合」が,常
に「利益を受けた者」と「利益を受けさせた者」の2当事者間においての
み生じるものではなく,本件のような「利益を受けた者」と「利益を受け
させた者」の間に同族会社等を介しての3以上の当事者が関係して生じ得
ることからも,当然というべきである。
イ原告らの主張の要点(別紙4)の1(1)イについて
(ア)相続税法9条の趣旨は,法律的には贈与によって取得したものとは
いえないが,実質的にみて,贈与を受けたのと同様の経済的利益を享受
している事実がある場合に,税負担の公平の見地から,その取得した経
済的利益を贈与によって取得したものとみなして贈与税を課税すること
にあり,この趣旨に照らせば,同条は,正に結果的に利益を受けさせた
者と利益を受けた者が存在すれば適用される規定であり,また,裁判例
においても「対立承継関係」に限定して適用されるものとは判示されて
いない。
したがって,同条は,「利益を受けさせた者」と「利益を受けた者」
の間で,利益を受けさせ,受けたという関係の存在する場合に限定して
適用されるべきものではない。
なお,本件は,原告らが述べるような「何の関係もない」当事者間に
おいて,「偶然の事情により」,「経済的利益」の移転があった場合では
ない。
(イ)被告は,個人が同族会社以外の法人に資産を低額で譲渡した場合に,
当該法人の株主は,当該個人から経済的利益の享受を受けたとして,相
続税法9条が適用される旨主張した事実はない。
なお,念のために述べると,相続税法基本通達9-2は,財産の無償
提供などの事由により,株式又は出資の価額が増加するのは,同族会社
に限られたことではないが,その利益を受けた者は,同法9条の「利益
を受けさせた者から贈与により取得した者とみなす」旨の規定との関係
で,利益を受けさせることについての積極的な行為を判定することが必
要であることから,同族会社の行為計算を否認することができるものと
する同法64条の規定を前提として,同族会社の株式又は出資の価額が
増加した場合に限定しているものと解されている。本件では,P3及び
P4が,同族会社に該当することは明らかであるから,本件は,原告ら
の述べるような「個人が同族会社以外の法人(例えば,上場会社)にそ
の資産を低額で譲渡した場合」には当たらない。
ウ原告らの主張の要点(別紙4)の1(1)ウについて
同族会社が財産の低額譲渡を受けた場合に同社の株主等に生じる利益
は,保有する株式等が会社の通常の営業活動や保有資産のキャピタル・ゲ
インにより値上がりしたことに伴う価値の増加益ではなく(他社の株式を
時価よりも低額で譲り受けることが会社の通常の営業活動であるという前
提は,一般的には,およそ想定できない。),資産が時価よりも低い価額に
より会社に移転する等の一定の行為によって生じた保有する株式の経済価
値の増加益にほかならず,相続税法9条は,上記のような保有する株式の
経済価値の増加益に着目して,実質的にみて,贈与を受けたのと同様の経
済的利益を享受している事実がある場合に,税負担の公平の見地から,そ
の取得した経済的利益を贈与によって取得したものとみなして贈与税を課
税することとしたものである。
したがって,本件各譲渡により原告らに生じた保有資産の経済価値の増
加益について相続税法9条の規定を適用して行われた本件各処分は,所有
する株式等が会社の通常の営業活動や保有資産のキャピタル・ゲインによ
り値上がりしたことに伴う価値の増加益に課税するものではないから,こ
の点に関する原告らの主張は失当である。
なお,P5は,時価よりも低い価額の対価で本件P6出資を譲渡するこ
とにより,実質的には,時価との差額に相当する利益が同族会社であるP
3及びP4に生じ,原告らの保有するP3及びP4の株式及び持分の増加
益として原告らに増加益が生じたものであり,P5のP3及びP4に対す
る本件P6出資の譲渡は,将来,P5において相続が開始した際,原告ら
が負担するであろう相続税の負担軽減を図るものとも評価できるものであ
り,かかる事例に同条が適用されないとすれば,同条の趣旨を没却する結
果を招来することは明らかである。
エ原告らの主張の要点(別紙4)の1(3)アについて
相続税法9条は,飽くまでも特定の納税者の行為による租税回避や相続
税の負担軽減を図ることの防止のために適用することが予定されているの
であり,一般の納税者の予測可能性及び法的安定性を著しく害するもので
ないことは明らかである。
さらに,租税法の対象とする社会経済上の事象は千差万別であり,その
態様も日日に生成,発展,変化している事情の下ではそれらの一切を法律
により一義的に規定し尽くすことは困難であるから,租税法においては既
定の法概念にとらわれずに社会経済の実態に即応する用語を使用すること
も避けられないといわなければならず,租税法の公共性と公平負担の原
則,それに由来する実質課税の原則も基本原理として看過することはでき
ない。租税法の解釈はこれら諸原則を踏まえた上での総合的理解でなけれ
ばならないから,租税法規が単に抽象的であるとの理由で租税法律主義に
反するものということはできず,上記各諸原則に則り法規の目的を把握
し,文言にとらわれることなく,その経済的,実質的意義を考慮し,か
つ,立法技術をも勘案しながらその意図するところを合理的・客観的に解
釈し,その法規が租税の種類,課税の根拠・要件を定めた規定として一般
的に是認し得るものであれば,租税法律主義に反しないものというべきで
ある。
したがって,この点に関する原告らの主張は失当である。
オ原告らの主張の要点(別紙4)の1(3)イについて
相続税法5条から9条までは,法律的には贈与により取得した財産でな
くても,実質的に贈与により取得したと同様の経済的効果が生ずる場合に
は,税負担の公平の見地からその取得した財産等を贈与により取得したも
のとみなす旨の規定であるところ,このみなし規定については,同法5条
から8条までにおいて,個別的に規定されている一方,同法9条において
は,一般的に,対価を支払わないで,又は著しく低い価額の対価で利益を
受けた場合について規定されている。これは,同条は,実質的に贈与によ
り取得したと同様の経済的効果が生ずる場合に,同法5条から8条までに
よれば贈与により取得したものとみなされない場合,つまり同法5条から
8条までによっては,贈与税の課税対象とならない場合について,包括的
に課税漏れを防止するために規定されたものであるから,同法5条から8
条までと同法9条では,その制定趣旨が異なることは明らかである。これ
は,同条が,「第5条から前条まで…に規定する場合を除くほか」と規定
していることから明らかである。
カ原告らの主張の要点(別紙4)の1(3)ウについて
同族会社が財産の低額譲渡を受けたことにより同社の株式を1株保有す
る少数株主の株式の価額が増加した場合には,相続税法9条の課税の対象
となる(相続税法基本通達9-2(4))ものの,同族会社において1株の
み保有する株主の株式は,一般的には,配当還元方式(評価通達178,
188及び188-2)により評価され,同族会社が財産の低額譲渡を受
けたことにより株式の価額が増加するとは考え難いから,このような場
合,通常,相続税法基本通達9-2は適用されない。
なお,本件は,原告らのいう同族会社の株式を1株保有するにすぎない
少数株主の事例とは明らかに前提が異なる。
2本件各譲渡は時価より著しく低い価額の対価でされたものか(本件各譲渡に
係る本件P6出資の時価はいくらか)(争点(2))について
(1)評価通達の定めによって評価した場合,本件各譲渡に係る本件P6出資
の1口当たりの価額はいくらか(争点(2)ア)について
ア被告の主張の概要
(ア)本件各譲渡が時価よりも著しく低い価額の対価で行われたものか否
かを判断するためには,本件各譲渡の時点における本件P6出資の時価
を算出する必要があるところ,本件P6出資のような取引相場のない株
式の評価方法については,評価通達178が当該株式の原則的評価方式
を定めるとともに,そのただし書において,同族株主以外の株主等が取
得した株式又は特定の評価会社の株式に係る特例的な評価方法を定めて
いる。そして,同通達178における「同族株主」について,同通達1
88(1)が「課税時期における評価会社の株主のうち,株主の1人及び
その同族関係者(括弧内省略)の有する議決権の合計数がその会社の議
決権総数の30パーセント以上(括弧内省略)である場合におけるその
株主及びその同族関係者をいう」旨を定めている。
(イ)そこで,本件P6出資の評価に当たり,P6における「同族株主」
についてみると,同社の社員のうち原告P1,P3及びP4のP1一族
グループは,評価通達188(1)に定める「株主の1人及びその同族関
係者」に該当するところ,当該P1一族グループは,P6の議決権総数
の30パーセント以上である31.57パーセント(原告P1,P3
(ただし,議決権は零とする。)及びP4が有するP6に対する出資に
係る議決権数の合計2万4000個を同社の議決権総数である7万60
00個で除したもの)を有していたのであるから,当該P1一族グルー
プは,同通達188(1)に定める「同族株主」に該当することとなる。
(ウ)前記(イ)の「同族株主」の判定結果のとおり,本件各譲渡により,
同族株主であるP3及びP4が本件P6出資を譲り受けたことに加え,
P6の従業員数などの事実からすると,同社は,評価通達178に定め
る小会社に該当し,かつ,株式保有割合が50パーセント以上であるた
め,株式保有特定会社通達に定める株式保有特定会社に該当する。
したがって,本件P6出資は,評価通達189-3の定めに基づき,
純資産価額方式又は「S1+S2」方式により評価することとなる。
(エ)なお,純資産価額方式による評価方法を定める評価通達185のた
だし書は,小会社における同族株主による会社経営の実態は,個人事業
者の場合と実質的にほとんど変わることがないものが多いが,小会社の
中には,複数の同族関係者グループにより会社経営を行っているものが
あり,このような小会社では,一の同族関係者グループの所有株式数だ
けでは会社を完全に支配できない場合もあることから,単独の同族株主
グループの所有株式数によって会社支配を行っている場合の支配力との
較差を考慮して,議決権の合計数が評価会社の議決権総数の50パーセ
ント以下である同族株主グループに属する株主の取得株式を純資産価額
方式により評価する場合には,20パーセントの評価減を行うこととし
ているものであり,同族以外の株主が存在していたとしても,それが名
目的存在にすぎず,特定の一族が実質的に会社を支配しているような場
合にまで適用すべきものではない。
これを本件についてみると,前記(イ)のとおり,P5が本件各譲渡を
した日(平成17年3月31日)におけるP3及びP4とその同族関係
者が有するP6の議決権割合は31.57パーセントであり,原告P1
らは,形式的には議決権割合50パーセント以下の同族株主グループに
該当するものの,原告P1とその同族関係者たるP4以外に議決権を有
する社員である本件13社は,各社員がそれぞれ個々に独立した法人で
あり,各社員ごとに,僅か5.26パーセントずつの議決権割合を有し
ているにすぎず,①本件13社が本件P6出資を保有していた間,P6
の社員総会等への出席は一度もなく,白紙委任状又は議決案に全て賛成
する趣旨の委任状を提出していることなどからすれば,本件13社が本
件P6出資を保有していたのは,全国にネットワークを有し,食品・酒
類卸売業界の首位に立つP3との関係強化のためであり,不動産賃貸業
を営むP6の経営に参画することを目的とした取得ではなかったものと
認められ,また,②P6の社員には,P3及びP4の同族関係者(同通
達188(1)参照)以外の同族関係者グループは存在しないから,P3
及びP4とその同族関係者が,P6を実質的に支配していたというべき
である。このことは,P9を被相続人とする相続税に関する課税処分に
ついて争われた事件(東京高裁平成16年(行コ)第123号同17年
1月19日判決(乙6の2)。以下,審級を問わず「先代相続税事件」
という。)においても同様に認定されている(なお,P6の経営支配に
関する状況は,上記高裁判決における認定と本件とで変化がなく,P9
の相続が開始した日以後,本件各譲渡がされた平成17年3月31日ま
での間,P6の出資者の構成に変更はない。)。
そうすると,本件13社は名目的存在にすぎず,何ら実権を有しない
ものであって,正にP1一族がP6を実質的に支配していると認められ
るのであるから,本件P6出資を評価するに当たり,同通達185のた
だし書を形式的,画一的に適用することは,その趣旨に反するため,こ
れによらないことが正当と是認されるような特別の事情があるというべ
きであるから,本件各譲渡においては,同通達185のただし書は適用
されず,本件P6出資の評価額の計算上,純資産価額について80パー
セント相当額で評価すべきではない。
(オ)ところで,P6は,本件各譲渡の時において,P3の株式を200
万株所有していた。
そして,前記(エ)のとおり,P3及びP4とその同族関係者である原
告らは,P6を実質的に支配していたことから,P6は,原告らにとっ
て,評価通達188(1)に定める同族関係者であったと認められる。そ
して,P6は,原告らとともにP3の筆頭株主グループに属し,かつ,
同グループの有する議決権の合計数がP3の議決権総数に占める割合
は,本件各譲渡の時において,50パーセントを超えている。
以上のことから,P3は,同通達188(1)における「同族株主のい
る会社」に該当し,また,P6は,P3の「同族株主」に該当する。
したがって,P6の保有するP3の株式の評価額は,同通達178に
定める区分に従って,同通達179の定めにより算定することとなる。
そして,P3の本件各譲渡の直前期末以前1年間における従業員数は
約1650人であるから,P3は,同通達178に定める「大会社」に
該当することから,P3の株式の評価額は,同通達179により,類似
業種比準方式によって算定することとなる。
そこで,本件各譲渡の時におけるP3の株式の1株当たりの価額を,
類似業種比準方式により評価すると,被告別表1のとおり,4047円
(同別表の第3表の㉙欄)となる。
(カ)以上のことを踏まえ,本件各譲渡の時における本件P6出資の1口
当たりの価額を算定すると,被告別表2のとおり,1口当たり8万12
04円(同別表の第6表の⑤欄)となる。
イP3及びP4が,原告P1との関係で同族関係者に該当し,P6におけ
る「同族株主」に該当すること(前記ア(イ)関係)
(ア)まず,原告P1は,P6の出資者であるP4の出資の50パーセン
ト超である66.33パーセントを保有していた。それゆえ,P4は,
原告P1との関係において法人税法施行令4条2項1号に規定する特殊
の関係のある法人に該当することから,本件P6出資の評価上,同族関
係者に該当する。
(イ)次に,P3についてみると,P6が原告P1との関係で特殊の関係
のある会社であったことについては,原告P1,P3及びP4らP1一
族がP6を実質的に支配していたと認められる状況によって判断される
(後記カ参照)ところ,本件各譲渡の時において,原告P1,原告P1
と特殊の関係のある個人(原告P2,P31(原告P1の3親等の血
族)及びP32(原告P1の4親等の親族)並びに原告P1と特殊の関
係のある法人(P4及びP6)が,P3の発行済株式総数の50パーセ
ントを超える72.09パーセントを有していた。それゆえ,P3は,
原告P1との関係において法人税法施行令4条2項3号に規定する特殊
の関係のある法人に該当することから,本件P6出資の評価上,同族関
係者に該当する。
(ウ)以上のとおり,P6における原告P1,P3及びP4のP1一族グ
ループは,評価通達188(1)に定める「株主の1人及びその同族関係
者」に該当するところ,当該P1一族グループは,P6の議決権総数の
30パーセント以上である31.57パーセントを有していたのである
から,当該P1一族グループは,同通達188(1)の本文に定める「同
族株主」に該当することになる。
ウP6について株式保有特定会社通達を適用すべきこと(前記ア(ウ)関
係)
(ア)確かに,株式保有特定会社通達が定められた当時は,日本経済はい
わゆるバブル経済期にあり,その経済情勢を背景に,原告らの摘示する
ような一部の上場企業オーナーによる行き過ぎた節税策が横行してお
り,これに対処することもその定められた理由の一つではあった。
しかし,株式保有特定会社通達は,ある種の財産(例えば土地,株
式)については,その財産についての評価額と実際の取引価額との間に
開差を生じさせることにより,同開差を利用した租税回避行為の原因に
もなっていることに鑑み,課税の公平の観点から,そのような開差の是
正とともに,より株式取引の実態に適合するように評価の一層の適正化
を図る目的で,平成2年8月3日付けで評価通達の一部改正が行われ,
評価会社の資産の保有状況,営業の状態等が一般の会社と異なる株式保
有特定会社,土地保有特定会社等の株式については,「特定の評価会社
の株式」として特別な評価方法により評価することとし,その具体的な
評価方法の一つとして定められたものである。そして,株式保有特定会
社のような,会社の総資産のうちに占める各資産の保有状況が,類似業
種比準方式(標本会社である上場会社に匹敵するような会社の株式につ
いて適用される評価方法)における標本会社である上場会社に比べて著
しく株式等に偏った会社の株式については,一般の評価会社に適用され
る同方式により株価の算定を行うことは,同方式を適用すべき前提条件
を欠くものと認められるため,適正な評価を期し難いことから,会社の
株式等の保有状況の実態を踏まえて,株式等の保有割合の基準により
「株式保有特定会社の株式」についての評価が定められたのである。
このように,株式保有特定会社通達は,行き過ぎた節税策の防止のみ
を趣旨・目的として定められたものではない。
なお,この点につき,上記平成2年の評価通達の改正に携わったP3
3元国税庁直税部資産評価企画官(以下「P33企画官」という。)も,
「それ(租税負担の回避)を防止するために特定の評価会社の株式の評
価方法を定めたわけではなく,あくまでも,評価の適正化を図るために
特定の評価会社の株式の評価方法を定めたにすぎない(括弧内省略)。
したがって,同通達に定める特定の評価会社に該当すれば,当該会社の
設立や経営実態において租税回避の意図があろうがなかろうが,その会
社の株式については,評価適正化を図るために類似業種比準方式の適用
が制限されることになる。」として,株式保有特定会社の株式の評価方
法については,租税負担の回避を防止するために定められたものではな
いと明確に述べている。
(イ)a原告らは,法人税基本通達の前文を根拠に,評価通達は個々の実
態に沿った適用・運用がなされるべきものである旨主張するが,前記
(ア)のとおり,本件P6出資について株式保有特定会社通達を適用し
て評価することが,正に個々の実態に沿った評価通達の適用・運用と
いうべきであるから,原告らの上記主張は,株式保有特定会社通達の
趣旨を正解しないものであって失当である。
また,法人税基本通達は法人税法の適用を統一的に行っていくため
に各条文の解釈を定める趣旨のものであるところ,評価通達は,相続
税法22条の「時価」の適正な算定に当たり,評価の具体的方法を定
め内部的な取扱いを統一するとともに,これを公開し納税者の申告・
納税の便宜に供するためのものであって,両者はそれぞれ,その制定
の趣旨が異なる別個のものであるから,法人税基本通達の前文を根拠
に評価通達の解釈適用を論難すること自体,当を得たものとはいえな
い。
なお,付言すれば,評価通達6において,「この通達の定めによっ
て評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は,国税庁長
官の指示を受けて評価する。」と定められていることからも分かるよ
うに,評価通達自体が個々の財産の実態に即した評価がなされるよう
配慮されて定められたものであるところ,被告は,上記の定めを踏ま
えて,本件P6出資の評価については株式保有特定会社通達を適用し
て評価することが本件P6出資の取引実態に沿った評価であると判断
したものである。
したがって,仮に原告らの上記主張を考慮したとしても,被告によ
る本件P6出資の評価は,評価通達の形式的解釈によるものではない
ことから,原告らの上記主張は失当である。
bさらに,原告らは,株式保有特定会社通達と同様,バブル経済期の
相続税の節税策に対処することを目的として制定された租税特別措置
法69条の4(ただし,平成8年法律第17号による改正前のもの。
以下「旧租税特別措置法69条の4」という。)の適用が否定された
裁判例を引用して,評価通達について個々の実態に沿った適用・運用
をなすべきである旨主張している。
しかし,前記(ア)のとおり,本件P6出資について株式保有特定会
社通達を適用して評価することが,正に個々の実態に沿った評価通達
の適用・運用というべきであり,時価の解釈として相当であるという
べきであるから,原告らの上記主張はその前提において失当である。
なお,旧租税特別措置法69条の4は,立法当時においては,土地
の相続税評価額と実勢価額とのかい離に着目した相続税の負担回避行
為の横行という実態に対応するため,地価の上昇・下落のいかんを問
わず取得価額に基づき課税することが課税価格の客観性等の観点から
適当であり,合理性を有するものであったところ,その後,その適用
件数が大幅に減少するなどして特例措置の存在意義は失われたことに
加え,土地の相続税評価の適正化を始め,評価の指針となる地価公示
価格制度の充実が図られたこともあいまって,平成8年税制改正にお
いて廃止されるに至ったものである。なお,原告らが摘示する裁判例
も旧租税特別措置法69条の4の立法目的が正当であり,それ自体が
合理性を欠くものでないことを認めている。
したがって,旧租税特別措置法69条の4の廃止は,株式保有特定
会社通達の合理性を否定する事情とは認められないから,原告らの主
張は失当である。
また,株式保有特定会社通達と旧租税特別措置法69条の4は,そ
の趣旨,制定された背景事情が全く異なるものであって,その適用・
運用の方法も当然に異なるものである。
したがって,原告らが引用する裁判例は,本件P6出資の評価に係
る原告らの上記主張の根拠とはなり得ない。
c取引相場のない株式の評価に用いられる類似業種比準方式(評価通
達180)は,評価会社の保有資産を時価評価することなく株式の価
額を評価するものであり,その比準要素の1つである純資産価額(帳
簿価額)には株式等の含み益が反映されていないことから,保有資産
が著しく株式等に偏った会社にあっては,納税者が租税回避を意図し
た行為に及ぶか否かに関係なく,同通達179に定める会社の規模区
分に応じた原則的評価方式(類似業種比準方式等)によったのでは,
同方式による評価額と適正な評価額(時価)との間に看過できない開
差が生じることとなる。このため,平成2年の同通達の改正は,課税
の公平の観点から,かかる事態を回避し,適正な時価評価を行うこと
を目的として行われたものである。
すなわち,前記(ア)のような開差が租税回避行為に利用されるケー
スがあったことは,平成2年の同通達の改正のきっかけではあったも
のの,これを防止することを主たる目的としたものではなく,同改正
は,飽くまで,適正な時価評価の観点から,合理性を有する一律の基
準により株式保有特定会社の株式と判定された株式について,特別な
評価方式により評価することとしたものである。
このように,株式保有特定会社の株式に係る評価方法(株式保有特
定会社通達及び評価通達189-3)が定められた趣旨は,飽くまで
株式取引等の実態に鑑み,株式及び出資の評価の適正化を図ることに
あり,租税回避行為の防止を主たる目的とするものではないから,租
税回避の意図の有無のみをもって,株式保有特定会社通達の適否を決
すべきとするかのような原告らの主張は失当である。
エ評価通達に定める評価方式によらないことが正当と認められる特別な事
情がある場合について(前記ア(エ)及び(オ)関係)
相続,遺贈又は贈与により取得した財産の価額について,相続税法22
条は,同法第3章において特別の定めのあるものを除き,当該財産の取得
の時における時価により評価する旨規定している。ここにいう時価とは,
課税時期において,それぞれの財産の現況に応じ,不特定多数の当事者間
で自由な取引が行われるとした場合に通常成立すると認められる価額,す
なわち,客観的な交換価値をいうものと解される。
ところで,相続税及び贈与税の課税対象となる財産は多種多様であり,
客観的な交換価値が必ずしも一義的に明確に確定されるものではないこと
から,課税実務上は,評価通達に定められた画一的な評価方式により財産
を評価することとされている。これは,相続及び贈与財産の客観的な交換
価値を個別に評価する方法を採ると,その評価方式,基礎資料の選択の仕
方等により異なった評価額が生じることを避け難く,また,回帰的かつ大
量に発生する課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあることなどか
ら,あらかじめ定められた評価方式により画一的に評価する方が,納税者
間の公平,納税者の便宜,徴税費用の節減という見地からみて合理的であ
るという理由に基づくものと解される。かかる同通達の趣旨からすれば,
同通達に定められた評価方式を画一的に適用するという形式的な平等を貫
くことによって,かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが
明らかであるなど同通達に定める評価方式によらないことが正当と是認さ
れるような特別な事情がある場合には,他の合理的な方法により評価をす
ることが許されるものと解される。
このことは,同通達自体も,同通達6において,「この通達の定めによ
って評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は,国税庁長官
の指示を受けて評価する。」と定めていることからも明らかである。
したがって,かかる特別な事情がある場合には,同通達に定める評価方
式によることなく,その財産の価額に影響を及ぼすべき全ての事情を考慮
しつつ(同通達1(3)),同法22条に規定する「時価」を算定すべきこと
となる。
本件においても,後記オ及びカのとおり,評価通達に定める評価方式を
画一的に適用した場合,租税負担の実質的公平を損なうことが明らかであ
るから,同通達に定める評価方式によらないことが正当と認められる特別
な事情があるというべきである。
オ評価通達185のただし書について,その定める評価方式によらないこ
とが正当と認められる特別な事情があること(前記ア(エ)関係)
(ア)本件13社は,P6の平成17年3月25日開催の臨時社員総会で
委任状(乙7の1から13まで)を提出しているところ,当該委任状は,
いずれもその表題及び本件13社の各社の所有出資口数の記載の直下の
第1文において「私は()を代理人と定め,下記の権限を委任しま
す。」との同一の文言が記載され,委任状中の受任者の氏名欄が白紙
(空白)になっていることから,本件13社が提出した上記委任状は,
白紙委任状に該当する。
また,本件13社の上記委任状の内容をみると,いずれも提示された
議案に賛成する旨に「○」が付けられており,議案に対して賛否を明示
していない場合や原案に対して修正案が提出された場合には白紙委任す
る旨記載されている。かかる文言からは,本件13社が独自の意思に基
づいて議決権を行使する意図は全くうかがえない。結局のところ,本件
13社が提出した上記委任状の実質的な内容からすれば,本件13社が,
P6の臨時社員総会において,独自の意思に基づき議決権を行使してい
たとは認められず,P6の経営に参加する意思はなかったことが明らか
というべきであり(なお,本件13社の上記議決権行使に係る意思表示
の内容及び原告らが摘示する本件13社に対する税務調査に係る調査報
告書における担当者の回答内容からすれば,本件13社は,P6の社員
総会において,独自の意思に基づき議決権を行使した事実は認められず,
本件13社は,P6の経営に参加する積極的な意思を有していなかった
とみるのが自然である。),P6を実質的に支配するP1一族による経営
に対し,本件13社は何ら異議を差し挟まない旨の意思表示をしたもの
にすぎないと認められるのである。
そして,本件13社が本件P6出資を保有していた間,社員総会等へ
の出席は一度もなく,白紙委任状又は議決案に全て賛成する趣旨の委任
状を提出していたことなども併せ考慮すれば,本件13社が本件P6出
資を保有しているのは,食品・酒類卸業の首位に立ち有力な取引先であ
るP3との関係強化のためのものであり,P6の経営に参画することを
目的とした取得ではなかったものと認められる。
(イ)aP6の設立(平成2年6月)から本件13社が本件P6出資をP
4に譲渡するまで(平成17年10月)の経緯は,次のとおりである。
(a)P9は,平成2年6月8日,P3の株式200万株(1株当た
りの時価3200円,総額64億円)と,土地及び建物(時価約1
3億2000万円)をP6を設立すると同時に同社に対して現物出
資し,借入金4億円を同社に承継し,金員4600万円を払い込み,
同社の出資9万9995口(1口当たりの額面額1000円)を取
得した。また,原告P1は,金員5000円を払い込み,同社の出
資5口を取得した。
P6は,P3の株式200万株を,1株当たり25円,合計金額
5000万円で受け入れ,また,上記土地建物を4億0399万5
000円で受け入れており,上記4600万円及び5000円の払
込み及び借入金の承継と合わせて,資産の合計を5億円,負債の合
計を4億円,資本金を1億円とし,出資口数を10万口として設立
された。
(b)P9は,平成3年12月5日に,P3の取引会社のうちの有力
な取引先である本件13社に対し,本件P6出資のうち各4000
口(合計5万2000口,P6の総出資口数の52パーセント相当)
を1口当たり額面額で一斉に売却した結果,P9の有する本件P6
出資の口数は4万7995口となり,原告P1の有する5口と併せ
てP1一族の同社に対する出資割合は48パーセントとなった。
(c)P9が前記(b)の譲渡をした8日後(平成3年12月13日),
P9は死亡し,同人に係る相続が開始した。
P9に係る相続税の申告において,本件P6出資4万7995口
については,評価通達185に定める純資産価額方式(会社が保有
する総資産の相続税評価額から負債及び同通達186-2の評価差
額に対する法人税等相当額を控除した額)により評価された。その
際,前記(b)の譲渡により,P3の株主である原告P1及びその同
族関係者が本件P6出資の50パーセント以上を保有しないことと
なったため,P6は,P3の同族株主であるP1一族との関係にお
いて,同通達188に定める法人税法施行令4条に規定する特殊の
関係のある同族関係者に該当しなくなったことから,P6が保有す
るP3の株式200万株は,評価通達188-2の配当還元方式に
より評価された。
これに対し,課税庁は,本件P6出資を純資産価額方式によって
評価しつつも,P6が保有するP3の株式を同通達179(1)に定
める類似業種比準方式により評価し,かつ,評価差額に対する法人
税等相当額の控除を認めずに評価するなどして相続税の更正処分等
を行った。
(d)その後,前記(c)のP9に係る相続税の更正処分等に係る取消訴
訟(先代相続税事件)が提起され,同訴訟において,本件P6出資
及びP6が有するP3の株式の評価等が争われた。
前掲東京高裁平成17年1月19日判決の原審判決である東京地
裁平成12年(行ウ)第90号同16年3月2日判決(乙6の1)
において,裁判所は,原告P1らは,P6の50パーセント以上の
出資割合を有していなくても,なお同社を実効的に支配し得る地位
にあり,同社はP3の同族株主であるP4,原告P1らとの関係に
おいて,特殊の関係のある法人に当たり,その同族関係者としてP
3の同族株主に当たることが認められるとして,P6が保有するP
3の株式の評価は原則的評価方式である類似業種比準方式によるべ
きであると判断した。
また,上記東京地裁判決において,裁判所は,P9の相続の発生
直前にP6を設立し,同社に対し,総額64億円に相当するP3の
株式を僅か5000万円で,また,時価13億円を超える土地建物
を僅か約4億円でそれぞれ出資するという明らかに経済的合理性を
欠く現物出資がされたという一連の行為は,評価通達185を利用
して,意図的に多額の評価差益を作出した上,これに対する法人税
額等控除を行うことによって相続税額の負担を軽減させようと画策
したものと評価されてもやむを得ないとして,本件P6出資の評価
において,同通達186-2に定める評価差額に対する法人税額等
相当額を控除すべきでないとした。
さらに,裁判所は,P3の同族株主たる原告P1及びその同族関
係者が保有する本件P6出資の出資口数が48パーセントであると
しても,実質的に,P6の支配権は,原告P1らの手中にあるとし
て,同通達189-2に定める減額(1株当たり純資産価額の10
0分の20の減額)を認めなかった。そして,控訴審(前掲東京高
裁平成17年1月19日判決)においても上記判断は維持され,同
判決は確定した。
(e)P9に係る相続税についての上記判決の確定後の平成17年3
月31日,P5は,P3及びP4に対し,本件P6出資を譲渡した
(本件各譲渡)。
また,同年10月から12月までに,本件13社は,P6から
「ガバナンスの見直し」のためとする本件P6出資をP4に集約す
る旨の要請を受けて,各社の保有する本件P6出資の全部(各40
00口)をP4に譲渡した。
bP6の設立から本件各譲渡及び本件13社による本件P6出資のP
4に対する譲渡までの経緯をみると,P1一族は,P9の相続開始の
直前において,同人に係る相続税額の圧縮を企図して,P6を設立し,
同社に対し明らかに経済的合理性を欠く現物出資をしたり,本件13
社に本件P6出資を売却するなどしたが,それにもかかわらず,これ
ら一連の行為に基づく株式及び出資の評価が相続税額の負担を軽減さ
せようと画策したものと評価され,課税処分及び先代相続税事件にお
いて否認されたため,もはや本件13社が本件P6出資を保有する状
態を維持する必要性がなくなったことから,P4は支配株主である原
告らの意向を受けて,本件13社からその有する本件P6出資を買い
受けたにすぎないものと認められる。
そして,本件におけるP4による本件13社の有する本件P6出資
の買取りは,正にP1一族がP6の企業支配を強化する,すなわちガ
バナンスの強化にほかならない。そして,P1一族のそのような目的
達成のために,本件13社の全社がごく短期間にほぼ一斉に買取要請
に応諾した,すなわちP1一族が容易に本件P6出資の買戻しをする
ことができたこと自体,P1一族がP6を実質的には支配していたこ
との証左というべきである。
(ウ)a本件13社のうち12社の本件P6出資の取得に係る業務の担当
者らの答述内容(乙32の1・2)等によれば,次の各事実が認めら
れる。
(a)各社が本件P6出資を取得した経緯及び目的は,各社にとって
主要な取引先であるP3との将来にわたる良好な取引関係を維持,
継続するため,P1一族からのP6への出資要請をP1一族から提
示されたとおりの数量,単価等の条件で受諾したものである。
(b)本件13社のうちの8社は,本件P6出資の取得に当たりP6
の資産内容について十分な検討をしていなかった。
(c)本件13社のうちの4社は,本件P6出資の取得は「預け金」
又は「販売協力金」的なものと考えており,出資先への投資や経営
参加を目的とした出資とは認識していない。
(d)本件13社のうちの4社は,P6の経営に参画する意思を有し
ていないことを明言している。
(e)本件13社各社は,本件P6出資を保有していた間,社員総会
等へ出席したことは一度もなく,白紙委任状又は議決案に全て賛成
する趣旨の委任状を提出している。
(f)本件各譲渡をした日と同年中である平成17年10月から12
月までにおいて,本件13社の全ての会社が,P3側からの要請に
従い,本件P6出資を要請された価額で,要請された譲渡先である
P4へ譲渡し,その結果,P1一族が,P6の議決権の100パー
セントを保有することとなった。
b以上の各事実からすれば,本件13社各社が,P6の出資を取得し
たのは,P1一族によるP3の支配を望むP9の意向に沿うことによ
り,将来にわたって,P3との良好な取引関係を維持,継続するため
であったと認められる。
そうすると,本件13社各社が,P6の経営やP3の経営に介入す
るような行動をとることによって,P3との取引関係を悪化させ,自
身の経営に悪影響を生じさせるような行動をとること自体がおよそ想
定し難い上,本件13社各社は,互いに競業関係に立つ企業であるか
ら,これらが結託して,P6の経営権をP1一族から奪い取るという
ような事態も想定できないところである。
そして,これらの点を総合すると,各社ごとに僅か5.26パーセ
ントの議決権割合のみを有する本件13社以外の出資の議決権数は,
原告P1及びP4が全て保有していたことからすれば,同人らのP6
に係る議決権割合が,形式上50パーセント以下にとどまっていたと
しても,P6は,原告P1及びP4によって完全に掌握されていたの
であって,P1一族はP6を実質的に支配していたことは明らかであ
る。
この点,P1一族がP6を実質的に支配していたことは,P6が本
件13社宛てに発出した本件P6出資の買受依頼文書に,「ただ今,
P27グループのガバナンスの見直しを行」い(「ガバナンス」とは,
「統治・統制すること」を指す。),「有限会社P6につきまして,P
4合名会社にその出資を集約する運びとなりました。」と記載されて
いることからも明らかである。
c以上の各事実に,前記ア(エ)で述べた評価通達185のただし書の
趣旨を併せ鑑みれば,本件P6出資については,同通達185のただ
し書を適用する前提(一の同族株主グループでは会社を完全支配でき
ない場合を考慮した一定の評価減)を欠いており,このことは,評価
通達に定める評価方式によらないことが正当と是認されるような特別
の事情があるというべきであるから,本件各譲渡における本件P6出
資の評価において,同通達185のただし書に基づき当該出資に係る
純資産価額の80パーセント相当額で評価することは相当ではない。
(エ)本件13社が,P1一族からの本件P6出資の譲渡依頼に対し,提
示された算出根拠を含めた価額が適正か否かにつき,特段,独自に検討
することなく受け入れたものであることは,後記(2)ウのとおりである。
(オ)原告らは,本件と先代相続税事件は,P9の相続が問題となったも
のであるから,明らかに前提となる事実が相違する旨主張する。
しかし,本件各処分と先代相続税事件は,課税原因となる法律行為等
の時期及び内容が相違するものの,P6に対するP1一族の支配状況は,
本件13社が本件P6出資を取得した当時から本件P6出資を売却した
時までの間における本件13社のP6の社員総会における議決権行使の
状況等によれば,P6とP3の株式持合いにより,P3の有する本件P
6出資の議決権に関する点を除き,P9の相続開始時以降,一貫して何
ら変化がなかったというべきである。
また,原告らは,先代相続税事件は,相続開始直前における譲渡であ
ったことに特殊性が認められた事案であることを,殊更,強調するが,
同事件の東京地裁判決及び東京高裁判決をみても,原告らが指摘するよ
うな特殊性が認定され,それが判決の判断に影響したことはうかがわれ
ない。
したがって,原告らの上記主張は失当である。
(カ)原告らは,評価通達185のただし書の適用の有無の判断に当たり,
明文に定めのない「経営の意図」や「経営に参加する積極的な意思」な
どという主観的要素ないし不明確な基準により判断すべきではないと主
張する。
しかし,被告は,P6に対する支配力の観点から本件P6出資の評価
における同通達185のただし書の適用の有無を検討しているのであっ
て,原告らが主張するような「経営の意図」や「経営に参加する積極的
な意思」の有無により同通達185のただし書の適用の有無を判断した
ものではない。
(キ)原告らが根拠とする本件13社に対する聴取の結果(甲43から5
5までの各1。原告らの主張の要点(別紙2)の2(1)エ(オ)a)につ
いては,いずれも両事件に係る訴えが提起された後に聴取書が作成され
たものであり,本件13社と原告らを含むP1一族とは密接な利害関係
があることからすれば,上記聴取の結果に係る各担当者の回答内容は,
全面的に信用し難いものである。
この点をおくとしても,原告らが引用する各担当者の回答内容は,い
ずれも会社法の規定に基づく議決権行使などの可能性が形式上残ってい
ることを述べたものにすぎず,また,上記聴取書にはP6の株主として
の議決権行使に係る具体的な検討資料も添付されていないことからすれ
ば,原告らが引用する各担当者の回答をもってしても,本件13社がP
6の経営に参加する意図を有していたなどとは到底認められるものでは
ない。
カP6の保有するP3の株式の評価額は類似業種比準方式により算定すべ
きであること(評価通達188(1)及び188-2について,同通達の定
める評価方式によらないことが正当と認められる特別な事情があること。
前記ア(オ)関係)
(ア)a評価通達は,評価会社が大会社の場合においては,上場会社や気
配相場等のある株式の発行会社に匹敵するような規模の会社であるこ
とに鑑み,その株式が通常取引されるとすれば,上場株式や気配相場
等のある株式の取引価格に準じた価額が付されることが想定されるこ
とから,原則として,現実に流通市場において価格形成が行われてい
る株式の価額に比準して評価する類似業種比準方式により評価するも
のとしている(同通達178及び179)。
類似業種比準方式は,大会社の株式の評価上原則的な評価方式であ
り,現実に取引が行われている上場会社の株価に比準した株式の評価
額が得られる点において合理的な手法といえ,非上場株式の算定手法
として最も適切な評価方法であるといえる。
そして,同通達は,上記の原則的な株式評価手法の例外として,同
族株主以外の株主等(同通達188)が取得した評価会社の株式につ
いては,例外的な評価方法(配当還元方式)によって評価することを
定めている(同通達188-2)。その趣旨は,一般的に非上場のい
わゆる同族会社においては,会社経営等について同族株主以外の株主
の意向が反映されることはなく,同族株主以外の株主が当該会社の株
式を保有する目的は,会社経営に関わりをもったり,株価の上昇によ
るキャピタルゲイン等の投機的あるいは投資的動機によるものではな
く,当該会社との安定的な取引関係の維持,継続を図ること等数値的
に表すことのできない無形の利益を期待して,いわば取引上の付き合
いで株式保有をする場合が多く,その株式を保有する株主にとっては,
当面,配当を受領するということ以外に直接の経済的利益を享受する
ことがないという実態を考慮した特別の例外的措置であると認められ
る。
そして,評価会社に対する直接の支配力を有しているか否かという
点において,同族株主とそれ以外の株主とでは,その保有する当該株
式の実質的な価値に大きな差異があるといえるから,同通達は,同族
株主以外の株主の保有する株式の評価については,類似業種比準方式
よりも安価に算定される配当還元方式を採用することにしたのであっ
て,そのような差異を設けることには合理性がある。
このように,配当還元方式は,評価会社の経営に関して実効支配力
のない同族株主以外の株主の保有する株式に限って例外的に適用され
るものであって,かかる実効支配力を有する同族株主の保有する株式
について適用されるものではない。
したがって,評価会社の経営に対して実効支配力を有する同族株主
の保有する株式は,大会社の株式の評価上原則的な評価方式である類
似業種比準方式により評価すべきこととなる。
b前記ア(エ)及びオのとおり,P1一族は,形式的にはP6の50パ
ーセント超の議決権割合を有していないものの,実質的にP6を支配
しているものと認められる。
この点,仮に,P3の株主構成につき,P6の有するP3の株式の
議決権数を原告らP1一族が構成する株主グループの有する議決権数
に含めず,P6が,同族株主以外の株主に当たるとすれば,P1一族
とその支配するP6によってその過半数の議決権を有して実効支配し
得るP3の株式の評価について,支配力のない株主の保有する株式に
限って例外的に適用されるべき配当還元方式によることとなる。
しかし,このことは,前記aで述べた評価通達が配当還元方式を定
めた趣旨に背理し,同通達に定められた評価方式を画一的に適用する
ことが著しく不適当と認められる特別の事情に当たるものと認められ
る。
したがって,P3の株式の評価上の区分の判定において,P6はP
3の同族株主であるP4,原告P1らP1一族との関係において,特
殊の関係のある法人に当たり,実質的にその同族関係者(同通達18
8(1))と認めるのが相当である。
そうすると,P6を含む原告らP1一族は,P3の株主グループの
うち,最多数の議決権数(504万6400個)を有する株主グルー
プを構成し,かつ,同グループの有する議決権数がP3の議決権総数
(700万個)に占める割合は,本件各譲渡の日において,50パー
セントを超えることとなるから,P6は,P3において,同族株主以
外の株主には当たらず,P6の保有するP3の株式の評価額は,同通
達178に定める大会社の株式の原則的評価方式である類似業種比準
方式(同通達179(1))によって算定すべきこととなる。
(イ)また,本件各譲渡に際してP3の経理部に所属するP28が作成し
た平成17年3月時点における本件P6出資の価額についての報告書
(乙24)によれば,本件P6出資の評価に当たり,P6が保有するP
3の株式は,類似業種比準方式により評価されており,本件P6出資の
譲受者であるP3及びP4においては,上記報告書に記載された価額で
本件P6出資の買取りを受諾する旨の発議について稟議され,同発議は
経営幹部らの承認を得ている。そして,実際に本件各譲渡においては,
上記報告書に記載された本件P6出資の価額により譲渡がなされている。
このように,P3内部の関係者においてさえ,P6がP1一族の同族関
係者に該当することを前提に,P6が保有するP3株式を取引相場のな
い株式の原則的評価方式である類似業種比準方式により評価していたの
であり,上記各稟議につき代表取締役兼社長(P3)ないし代表社員
(P4)たる原告P1及び社員(P4)たる原告P2が異議なく承認し
ていることからすれば,原告ら自身も,P6が原告P1らの同族関係者
ではなくP3の「同族株主以外の株主」に該当するなどとは認識してい
なかったことが明らかである。
(2)本件各譲渡に係る本件P6出資の時価は本件13社が本件各譲渡後にP
4に対してした譲渡の対価の価額である1口当たり5000円であるといえ
るか(争点(2)イ)について
ア本件13社の本件P6出資の取得及び売却の経緯等
(ア)本件13社は,P3と長年密接な取引関係にある企業であり,本件
13社が本件P6出資を取得した理由は,少額な不動産収入のみを収入
源とするにすぎないP6に投機的価値を認めたものではなく,将来にわ
たってP1一族によるP3の支配を望むP9の意向に沿うことにより,
P3との良好な取引関係を継続するためにすぎなかった。
(イ)本件13社が本件P6出資を取得した日(平成3年12月5日)と
同日付けのP6の定款変更において,本件P6出資の譲渡を制限する旨
の規定が設けられ,P9と原告P1の意思に反した本件P6出資の譲渡
がなし得なくなり,原告らを含むP1一族によりP6を支配できる態勢
が将来にわたって安定したものとなった。
したがって,本件13社がP6やP3の経営に介入し,P3との取引
関係を悪化させるような行動をとることや,互いに競業関係に立つ企業
同士である本件13社が互いに結託し,P6の経営権をP1一族から奪
い取るというような事態はおよそ想定できないところであり,本件13
社が合計52パーセントの本件P6出資を保有しているとしても,それ
によって原告らP1一族がP6を支配している事実に何ら影響を及ぼさ
ないものであって,実質的には,同社の支配権は原告らを含むP1一族
にあった。
(ウ)P4は,酒造メーカーである本件13社が酒類を卸している業界首
位の食品・酒類卸企業であるP3のグループ会社であるところ,本件1
3社のうちP14及びP11の調査担当税務職員に対する応接者は,各
社が本件P6出資をP4に売却した理由は,原告らP1一族が実質的に
支配するP6からの依頼を受け,前記(イ)のとおり,取引先であるP2
7グループとの取引関係の維持を考慮して,これに協力したにすぎない
と回答しており(乙18),かかる回答内容からすると,本件13社の
うち上記2社を除く他の11社の本件P6出資の売却の理由もこれと同
様と推認される。なお,本件13社が保有していた本件P6出資につい
ては,P6から売却の依頼がされた平成17年8月25日から,いずれ
も2ないし4か月以内という極めて短期間に売買契約が締結された。
(エ)本件13社は,本件P6出資の売却に際し,P6から提示された買
取価額をそのまま受諾して譲渡した。また,P6から本件13社に送付
された本件P6出資をP4が買い受けることを要請する依頼文書(甲1
4,乙8)は,買主であるP4からではなく,P6からの依頼であり,
さらに,本件P6出資の買受けに関する問い合わせ先として,当該取引
に係る当事者ではないP3の経理部の副部長名が記載されているなど,
P27グループ全体での取引であると認められる。
(オ)株式会社P34が毎年行っている卸売業調査によれば,P3は,卸
売業界(食品)トップの企業であり,また,株式会社P35が発行して
いる「○」及び株式会社P36が発行している「○」に掲載されている
企業情報によると,本件13社は,P3に対し酒類を卸している主要な
酒類製造業者であると認められる。
この点,本件13社のうちP14及びP17についてみても,両社の
有価証券報告書によると,①P14の各期の資産における売掛金のうち,
P3に係る売掛金の占める割合の平均は約5.72パーセント,②P1
7の各期の資産における受取手形及び売掛金のうち,P3に係る受取手
形及び売掛金の占める割合の平均は,受取手形につき約25.15パー
セント,売掛金につき約7.47パーセントであり,両社の売掛金等に
占めるP3に係る売掛金等の割合は小さくない。
そうすると,本件13社が本件P6出資を取得してから譲渡するまで
の間におけるP3と本件13社との関係は,本件13社が本件P6出資
を取得した以降においても,卸売業界トップの企業と,そのトップ企業
に対し酒類を卸している主要な酒類製造業者という密接な関係が継続し
ていたといえる。
イ本件P6出資の譲渡価額が時価に比べて著しく低額であること
特別な利害関係のない第三者間における売買価額であっても,その取引
事情,背景によって,必ずしも適正な売買価格と認められるものではない
ところ,本件13社とP4との間に資本関係や人的関係がないことは否定
しないとしても,本件P6出資の譲渡に当たり,一方当事者の主観的事情
のみによって左右されない真に相互に独立した当事者であったか否かは,
単に両当事者間の資本関係及び人的関係の有無のみにより判断するのは相
当ではなく,本件P6出資の取得及び売却の経緯並びに売却に応じた背景
事情等を総合勘案して判断すべきである。
本件においては,前記アのとおり,本件13社各社が本件P6出資を取
得した理由は,将来にわたってP1一族によるP3の支配を望むP9の意
向に沿うことにより,P3との良好な取引関係を継続するためであり,本
件13社が本件P6出資を取得した後においてもP6の実質的な支配権は
依然として原告らを含むP1一族にあったものであって,本件P6出資の
売却も,P6からの売却依頼を受け,これに協力して,依頼された価額で,
P3のグループ会社でありP6が買受先に指定したP4に対して譲渡した
にすぎないものであり,これらの本件P6出資の取得及び売却の経緯並び
に売却に応じた背景事情等を総合勘案すれば,本件13社各社とP4との
本件P6出資の売買における関係は,相互に独立した当事者同士の関係で
あるといえないことは明らかである。
そして,取引相場のない株式については,そもそも上場株式のように大
量かつ反復継続的な取引は予定されておらず,また,取引事例が存在する
としても,その数が僅かにとどまるにすぎない場合には,当事者間の主観
的事情に影響されたものでないことをうかがわせる特段の事情がない限り,
当該実例価額は,売買当事者間の主観的事情を離れた当該株式の客観的交
換価値を反映したものとは評価できないというべきである。この点,原告
らが本件P6出資の時価であると主張する本件13社による本件P6出資
の譲渡価額(1口当たり5000円)は,特定の取引関係者間という極め
て閉鎖的な取引における価額であり,また,同価額は,平成17年8月2
5日付けで,P6の代表取締役である原告P1から本件13社に宛てた本
件P6出資買受けに係る依頼文書(甲14,乙8)において,一括して一
方的に提示された価額であり,実質的な取引事例としては1事例であるに
すぎず,本件13社がこれに応じたのは,P3及びそのグループ会社との
良好な取引関係を継続するという特別の動機を有していたからにほかなら
ない。
したがって,本件13社による本件P6出資の譲渡価額(1口当たり5
000円)は,資産の時価,すなわち不特定多数の当事者間で自由な取引
が行われた場合に通常成立する価額(客観的な交換価値)とは到底認めら
れず,本件P6出資の時価は,前記(1)で述べたとおり,1口当たり8万
1204円であると認めるのが相当であるから,上記本件P6出資の譲渡
価額(1口当たり5000円)は,時価に比べて著しく低額であることは
明らかであり,およそ原告らが主張するような「本件P6出資持分の客観
的交換価値を正当に評価した上で成立した適正な売買実例に当たる」もの
ではない。
ウ本件13社は,本件P6出資の譲渡価額が適正な時価であるか否かの判
断に当たり,時価を算出するなどの独自の検討を行ったとは認められない
こと
(ア)本件13社に対する税務調査の結果をまとめた各調査報告書の内容
として,原告らが摘示する部分(原告の主張の要点(別紙4)の2(2)
ウ(ア))からみても,各社が,本件P6出資を譲渡するに当たり,P6
が,本件13社各社宛に平成17年8月25日付けの「有限会社P6の
出資金買受の件」(甲14,乙8の1枚目)により要請した1口当たり
の買取価格5000円の算定根拠が,「配当還元方式ですと1口500
円となり,その10倍と致しました。」と記載されており,この算定根
拠の適否,すなわち,配当還元方式による評価額500円及び買取価格
をそれの10倍とすることの適否そのものについて,検討した事実は認
められず,各社は,P6からの本件P6出資の譲渡依頼に対し,提示さ
れた価額(1口当たり5000円)が適正か否かにつき,独自に特段の
検討をすることなく,受け入れたものと認められる。
(イ)原告ら訴訟代理人が本件13社の各担当者から聴取した結果をとり
まとめたとする聴取書(甲43から55までの各1)は,いずれも両事
件に係る訴えが提起された後に作成されたものであり,また,本件13
社と原告らを含むP1一族とは密接な利害関係があり,本件13社は原
告らに有利な回答をすることはあっても不利な回答をするとは考え難い
ことからすれば,原告ら訴訟代理人が作成した上記の聴取書における回
答内容については,虚偽の内容を報告する動機のない利害中立な調査担
当者が作成した調査報告書との比較において,一層慎重に吟味されなけ
ればならず,全面的に信用し難いというべきである。
この点をおくとしても,次に述べるとおり,上記の聴取書の内容を踏
まえてもなお,本件13社においては,本件P6出資を譲渡するに当た
り,P6が本件13社各社に宛てた平成17年8月25日付けの「有限
会社P6の出資金買受の件」(甲14,乙8の1枚目)により要請した
1口当たりの買取価格5000円の算定根拠のみならず,参考として記
載されている類似業種比準価額(1406円)及び簿価純資産価額(3
010円)について具体的に検討した事実は認められず,本件13社は,
P6からの本件P6出資の譲渡依頼に対し,提示された価額(1口当た
り5000円)が適正か否かにつき,いずれも独自に特段の検討をする
ことなく,受け入れたものと認められる。
aP11
P11の担当者は,譲渡価額の検討に関し,「P3さんからは評価
額も提示されていたようですし(乙17の8),それ以上に時価純資
産価額の算定までは行わなかったということです。」(甲55の1)と
述べている。
また,甲55の2から10までの各書証において,P11が,独自
に本件P6出資の時価を算出するなど,P6から提示された譲渡価額
が適正な時価であるとの判断に至った具体的な検討内容が記載されて
いる箇所は見当たらない。
このように,P11の担当者は,譲渡価額について検討した旨述べ
ているものの,当該検討内容を明らかにする具体的資料の提出がない
ことからすれば,同社は,本件P6出資の譲渡に当たり,譲渡価額の
算出根拠の適否を含めた価額の妥当性を検証するなど,独自に特段の
検討を行ったとは認められない。
bP12
P12の担当者は,譲渡価額の検討に関し,「P3さんから参考価
格を示してもらったうえで,買取金額の提案を受けていますので,こ
れらの価格を検討し,稟議決裁の手続きを経て,譲渡に応じました。」
(甲47の1)と述べている。
しかしながら,甲47の2から5までの各書証において,P12が,
独自に本件P6出資の時価を算出するなど,P6から提示された譲渡
価額が適正な時価であるとの判断に至った具体的な検討内容が記載さ
れている箇所は見当たらない。
このように,P12の担当者は,譲渡価額について検討した旨述べ
ているものの,当該検討内容を明らかにする具体的資料の提出がない
ことからすれば,同社は,本件P6出資の譲渡に当たり,譲渡価額の
算出根拠の適否を含めた価額の妥当性を検証するなど,独自に特段の
検討を行ったとは認められない。
cP13
P13の担当者は,譲渡価額の検討に関し,「決算報告書が毎期送
付されてきますので,それを読まないということは決してありません。
この意味では,譲渡に際しましても,検討はしました。ただし,詳細
な時価評価となりますと,決算書から知り得る範囲内でしか現実に
「できない」ということであり,この意味では検討したことがないと
いうことになります。本件出資持分の譲渡に際し,提示された500
0円という額は,決算書の財産状態が大きく変わっているわけではな
いのに,当初1000円で取得したものが,14年で5倍ということ
になるので,当社にとっては経済的合理性のある価格であるという検
討はしました。」(甲50の1)と述べている。
しかしながら,甲50の2・3の各書証において,P13が,独自
に本件P6出資の時価を算出するなど,P6から提示された譲渡価額
が適正な時価であるとの判断に至った具体的な検討内容が記載されて
いる箇所は見当たらない。
このように,P13の担当者は,譲渡価額について検討した旨述べ
ているものの,当該検討の内容を明らかにする具体的資料の提出がな
いことからすれば,同社は,本件P6出資の譲渡に当たり,譲渡価額
の算出根拠の適否を含めた価額の妥当性を検証するなど,独自に特段
の検討を行ったとは認められない。
dP14
P14の担当者は,譲渡価額の検討に関し,「今回の出資持分譲渡
につきましては,P3さんから提示された計算書がありましたので,
それをベースに社内で協議をしました。その結果,5000円という
価格は適正な価額であるという判断をして決裁(乙18の2)をしま
した。」(甲53の1)と述べている。
しかしながら,甲53の2・3の各書証において,P14が,独自
に本件P6出資の時価を算出するなど,P6から提示された譲渡価額
が適正な時価であるとの判断に至った具体的な検討内容が記載されて
いる箇所は見当たらない。
このように,P14の担当者は,譲渡価額について検討した旨述べ
ているものの,当該検討内容を明らかにする具体的資料の提出がない
ことからすれば,同社は,本件P6出資の譲渡に当たり,譲渡価額の
算出根拠の適否を含めた価額の妥当性を検証するなど,独自に特段の
検討を行ったとは認められない。
eP15
P15の担当者は,譲渡価額に関し,「聴取には私共が応じました
が,本件出資持分を取得した平成3年当時も,譲渡した平成17年当
時も,その意思決定に直接携わっておりませんので,当時のことはわ
からないということをお話しました。」(甲46の1)と述べるにとど
まり,その余においても譲渡価額の検討に関する明確な回答を行って
いない。
また,甲46の2から6までの各書証において,P15が,独自に
本件P6出資の時価を算出するなど,P6から提示された譲渡価額が
適正な時価であるとの判断に至った具体的な検討内容が記載されてい
る箇所は見当たらない。
このように,P15の担当者は,譲渡価額の検討に関する明確な回
答を行っておらず,さらには,当該検討に関する具体的資料の提出が
ないことからすれば,同社は,本件P6出資の譲渡に当たり,譲渡価
額の算出根拠の適否を含めた価額の妥当性を検証するなど,独自に特
段の検討を行ったとは認められない。
fP16
P16の担当者は,譲渡価額に関し,「本件出資持分の譲渡の経緯
等については,前述のとおり,私たちは詳しいことは分かりません。」
(甲54の1)と述べるにとどまり,譲渡価額の検討に関する明確な
回答を行っていない。
また,甲54の2から4までの各書証において,P16が,独自に
本件P6出資の時価を算出するなど,P6から提示された譲渡価額が
適正な時価であるとの判断に至った具体的な検討内容が記載されてい
る箇所は見当たらない。
このように,P16の担当者は,譲渡価額の検討に関する明確な回
答を行っておらず,さらには,当該検討内容に関する具体的資料の提
出がないことからすれば,同社は,本件P6出資の譲渡に当たり,譲
渡価額の算出根拠の適否を含めた価額の妥当性を検証するなど,独自
に特段の検討を行ったとは認められない。
gP17
P17の担当者は,譲渡価額の検討に関し,「譲渡価格については
「P3さんから評価した書類もあるので,金額には従った(あまり疑
問はなかった)」のではなく,類似業種比準価格や純資産価格といっ
た根拠も示していただいていますし,当社としても金額の適正はきち
んと検討したうえでこの価格は妥当だという判断をしています。」(甲
43の1)と述べている。
しかしながら,甲43の2から4までの各書証において,P17が,
独自に本件P6出資の時価を算出するなど,P6から提示された譲渡
価額が適正な時価であるとの判断に至った具体的な検討内容が記載さ
れている箇所は見当たらない。
このように,P17の担当者は,譲渡価額について検討した旨述べ
ているものの,当該検討内容を明らかにする具体的資料の提出がない
ことに加え,当該聴取書において,「第三者の評価機関に価格の算定
を依頼したということまではしていないと言ったことがこう書かれて
いるように思います。」(甲43の1)と述べていることからすれば,
同社は,本件P6出資の譲渡に当たり,譲渡価額の算出根拠の適否を
含めた価額の妥当性を検証するなど,独自に特段の検討を行ったとは
認められない。
hP18
P18の担当者は,譲渡価額の検討に関し,「P3さんから送られ
てきた買受の申出(乙27の2)に評価の計算書が添付されていまし
たし,買受価格が当初の出資額の5倍となっていることから,費用や
時間をかけて再評価をすることはしませんでした。」(甲52の1)と
述べている。
しかしながら,甲52の2・3の各書証において,P18が,独自
に本件P6出資の時価を算出するなど,P6から提示された譲渡価額
が適正な時価であるとの判断に至った具体的な検討内容が記載されて
いる箇所は見当たらない。
このように,P18の担当者は,譲渡価額について検討した旨述べ
ているものの,当該検討内容を明らかにする具体的資料の提出がない
ことからすれば,同社は,本件P6出資の譲渡に当たり,譲渡価額の
算出根拠の適否を含めた価額の妥当性を検証するなど,独自に特段の
検討を行ったとは認められない。
iP19
P19の担当者は,譲渡価額の検討に関し,「当社は税務リスクも
含めて譲渡価格の適正を検討したうえで妥当だと判断したのです。当
社側で検討することなく,P3さんからの言い値で譲渡することはあ
り得ません」(甲44の1)などと述べている。
しかしながら,甲44の2から4までの各書証において,P19が,
独自に本件P6出資の時価を算出するなど,P6から提示された譲渡
価額が適正な時価であるとの判断に至った具体的な検討内容が記載さ
れている箇所は見当たらない。
このように,P19の担当者は,譲渡価額について検討した旨述べ
ているものの,当該検討内容を明らかにする具体的資料の提出がない
ことからすれば,同社は,本件P6出資の譲渡に当たり,譲渡価額の
算出根拠の適否を含めた価額の妥当性を検証するなど,独自に特段の
検討を行ったとは認められない。
jP20
P20の担当者は,本件譲渡価額の検討に関し,「譲渡価格につい
ては,P3さんから送付されてきた資料に基づいて社内で検討してお
ります。」(甲45の1)と述べている。
しかしながら,甲45の2から4までの各書証において,P20が,
独自に本件P6出資の時価を算出するなど,P6から提示された譲渡
価額が適正な時価であるとの判断に至った具体的な検討内容が記載さ
れている箇所は見当たらない。
このように,P20の担当者は,譲渡価額が適正な価額であるか否
かを検討した旨述べているものの,当該検討内容を明らかにする具体
的資料の提出がないことからすれば,同社は,本件P6出資の譲渡に
当たり,譲渡価額の算出根拠の適否を含めた価額の妥当性を検証する
など,独自に特段の検討を行ったとは認められない。
kP21
P21の担当者は,譲渡価額の検討に関し,「本件では,P3さん
から本件出資持分の評価に関する根拠資料をいただいており,基本的
にはいただいた資料を信用して,譲渡価額の適否の判断をしておりま
す。」(甲48の1)と述べている。
しかしながら,甲48の2・3の各書証において,P21が,独自
に本件P6出資の時価を算出するなど,P6から提示された譲渡価額
が適正な時価であるとの判断に至った具体的な検討内容が記載されて
いる箇所は見当たらない。
このように,P21の担当者は,譲渡価額について検討した旨述べ
ているものの,当該検討内容を明らかにする具体的な資料の提出がな
いことからすれば,同社は,本件P6出資の譲渡に当たり,譲渡価額
の算出根拠の適否を含めた価額の妥当性を検証するなど,独自に特段
の検討を行ったとは認められない。
lP22
P22の担当者は,譲渡価額の検討に関し,「譲渡価格については,
P3さんから送付されてきた資料に基づいて社内で検討しております。
類似業種比準価格や純資産価格との比較で1口5000円という提示
であったので,当社では適正価格と判断して譲渡に応じています。」
(甲49の1)と述べている。
しかしながら,甲49の2から4までの各書証において,P22が,
独自に本件P6出資の時価を算出するなど,P6から提示された譲渡
価額が適正な時価であるとの判断に至った具体的な検討内容が記載さ
れている箇所は見当たらない。
このように,P22の担当者は,譲渡価額について検討した旨述べ
ているものの,当該検討内容を明らかにする具体的資料の提出がない
ことからすれば,同社は,本件P6出資の譲渡に当たり,譲渡価額の
算出根拠の適否を含めた価額の妥当性を検証するなど,独自に特段の
検討を行ったとは認められない。
mP23
P23の担当者は,譲渡価額の検討に関し,「調査報告書の3枚目
の4つ目の質問に対する回答として「この規模でしたら,評価額を検
討することはありません。」と記載されています。この発言自体はし
たかもしれませんが,その趣旨は,P3さんから送られてきた資料の
裏付け調査をしたり,追加的に当社で検討資料を作成したりするとい
うことはない」(甲51の1),「本件では,P3さんから純資産価額,
配当還元,類似業種比準価額といった資料をもらっていますし,当社
の簿価と比較して譲渡損益がどうなるかという確認をしております。」
(甲51の1)と述べている。
しかしながら,甲51の2から4までの各書証において,P23が,
独自に本件P6出資の時価を算出するなど,P6から提示された譲渡
価額が適正な時価であるとの判断に至った具体的な検討内容が記載さ
れている箇所は見当たらない。
このように,P23の担当者は,譲渡価額について検討した旨述べ
ているものの,当該検討内容を明らかにする具体的資料の提出がない
ことからすれば,同社は,本件P6出資の譲渡に当たり,譲渡価額の
算出根拠の適否を含めた価額の妥当性を検証するなど,独自に特段の
検討を行ったとは認められない。
(ウ)なお,原告らは,本件13社が本件P6出資の譲渡価額の決定に当
たり,P6の各資産債務を時価評価するためには多大なコスト及び時間
の負担を余儀なくされることを,自らが主張する本件P6出資の時価
(1口当たり5000円)の根拠の一つとするようである。
しかしながら,本件で問題となっているのは,P5がP3及びP4に
対して譲渡した本件P6出資の譲渡価額が,譲渡時点(平成17年3月
31日)における当該出資の時価よりも著しく低い価額であるか否かで
あるところ,本件13社が,P4に対し,各社が所有していた本件P6
出資を譲渡したのは,同年10月4日から同年12月6日までの間であ
る。
つまり,本件で問題となっているのは,飽くまでも同年3月31日の
時点における本件P6出資の時価なのであるから,その時価の判断に当
たり,その後(同年10月4日から同年12月6日までの間)に行われ
た本件P6出資の譲渡価額が直接の根拠とはなり得ない。
したがって,本件13社がP6の各資産債務を時価評価するためには
多大なコスト及び時間の負担を余儀なくされるか否かということは,同
年3月31日の時点における本件P6出資の時価の判断要素とはなり得
ないのである。
エ原告らの主張がP5の税務申告の内容と矛盾すること
仮に,1口当たり5000円が,本件P6出資の客観的な交換価値(時
価)であるとする原告らの主張によれば,P5は,本件各譲渡により,本
件P6出資を時価よりはるかに高額である1口当たり3万9235円で譲
渡したことになる。
これによれば,P5は,本件P6出資の実際の売買価額と時価との差額,
すなわち,16億4310万8825円(本件P6出資1口当たりの売買
価格3万9235円と原告ら主張による本件P6出資1口当たりの価額5
000円との差額3万4235円に,4万7995口(P3に対し譲渡し
た口数2万4000口及びP4に譲渡した口数2万3995口の合計)を
乗じた金額)について,法人であるP3及びP4から贈与を受けたものと
して,所得税法上,一時所得(所得税法34条1項,所得税基本通達(平
成16年12月16日課個2-23ほか3課による改正前のもの)34-
1(5))として申告すべきであるところ,P5が,そのような内容の税務
申告をした事実はない。
したがって,原告らの上記主張は,P5の税務申告の内容と矛盾するも
のである。
オ本件13社に対して寄附金の認定課税を行わないことについて
本件で問題となっているのは,P5が,平成17年3月31日,P3及
びP4に対し,P5が保有していた本件P6出資を,時価よりも著しく低
い価額で譲渡したか否か,また,当該譲渡により,原告らが相続税法9条
に規定する「対価を支払わないで利益を受けた場合」に該当するか否かで
ある。つまり,本件13社に対して寄附金の認定課税を行わないからとい
って,原告らに対する課税が正しく行われている限り,原告らを不当に不
利益に取り扱うものではないから,本件13社に対して寄附金の認定課税
を行うか否かは,本件各処分の適法性に何ら影響を与えるものではない。
(3)本件各譲渡は時価より著しく低い価額の対価でされたものか(本件各譲
渡に係る本件P6出資の時価はいくらか)(争点(2))についてのまとめ
前記(1)及び(2)によれば,P5は,平成17年3月31日,P3に対し,
本件P6出資2万4000口を時価19億4889万6000円(1口当た
り8万1204円×2万4000口)のところ,9億4164万円(1口当
たり3万9235円×2万4000口)で譲渡し,また,P5は,同日,P
4に対し,本件P6出資2万3995口を時価19億4848万9980円
(1口当たり8万1204円×2万3995口)のところ,9億4144万
3825円(1口当たり3万9235円×2万3995口)で譲渡している。
以上のことからすると,本件各譲渡は,時価より著しく低い価額の対価で
の譲渡であると優に認められる。
3原告らは本件各譲渡により相続税法9条に規定する「対価を支払わないで,
又は著しく低い価額の対価で利益を受けた」と認められるか,また,そのよう
に認められる場合,当該利益の価額に相当する金額はいくらか(争点(3))に
ついて
(1)前記1のとおり,課税実務上,相続税法9条の趣旨を踏まえ,同族会社
に対し時価よりも著しく低い価額の対価で財産の譲渡がされたことにより,
当該会社の株式又は出資の価額が増加した場合において,当該株式又は出資
の価額のうち増加した部分に相当する金額(利益)については,当該会社の
株主又は社員が同条に規定する「利益を受けた場合」に該当し,当該経済的
利益について,当該財産の譲渡をした者から贈与によって取得したものとみ
なされるところ,前記2のとおり,本件各譲渡は,時価よりも著しく低い価
額の対価で行われたものと認められるから,次に,本件各譲渡によって,P
3の株式及びP4の持分の価額が増加し,その株主又は社員である原告らが
同条に規定する「対価を支払わないで(中略)利益を受けた」か否かを検討
することになる。
(2)P3の株式の価額の増加について
本件各譲渡の時において,原告P1はP3の株式を39万1150株保有
し,原告P2はP3の株式を5万株保有していたところ,P3の株式は,前
記2(1)ア(オ)と同様の理由により,類似業種比準方式により評価すること
になる。
そして,この場合の増加額は,①直前期末において財産の低額譲受があっ
たものと仮定して計算した類似業種比準価額から,②直前期末において財産
の低額譲受がなかったものとして計算した類似業種比準価額を控除した金額
によることが相当である。
ア直前期末において本件各譲渡がなかったものとして計算したP3の株式
1株当たりの評価額
直前期末において本件各譲渡がなかったものとして計算したP3の株式
の1株当たりの類似業種比準価額は,被告別表1のとおり,4047円
(同別表の第3表の㉙欄)となる。
イ直前期末において本件各譲渡が行われたものとして計算したP3の株式
1株当たりの評価額
(ア)直前期末において財産の低額譲渡があったものと仮定した場合の類
似業種比準価額計算上の及びは,直前期末において財産の低額譲渡
がなかったものとして計算した類似業種比準価額計算上の価額に相当す
る金額による。
したがって,直前期末において財産の低額譲渡があったものと仮定し
た場合の類似業種比準価額計算上の及び(被告別表3の第1表の
及び欄のとおり)と直前期末において財産の低額譲渡がなかったもの
として計算した類似業種比準価額計算上の及び(被告別表1の第3
表の及び欄のとおり)は,同額となる。
(イ)直前期末において財産の低額譲渡があったものと仮定した場合の類
似業種比準価額計算上のⒹの金額は,直前期末において財産の低額譲渡
がなかったものとして計算した類似業種比準価額計算上のⒹの金額の計
算の基とした純資産価額に,財産の低額譲渡により取得した財産の時価
に相当する金額から財産の低額譲渡に係る対価の額を控除した金額(そ
の財産の低額譲渡について課されるべき法人税等の額を控除した金額)
を加算した金額を直前期末現在の発行済株式数で除して計算した1株当
たりの金額による。この場合における財産の低額譲渡を受けたことによ
り取得した財産の時価は,法人税の税務計算上の価額による(法人税基
本通達9-1-14は,上場有価証券等以外の株式について,評価損を
計上する場合の期末時価の算定に係る定めであるが,関係会社間等にお
いて株式の売買を行う場合の適正取引価額の算定に当たっても準用され
るものと解される。)。
ところで,P3の平成17年1月1日から同年12月31日までの事
業年度における法人税について,日本橋税務署長は,P5からの本件P
6出資2万4000口の譲受けにより,1口当たり8万1177円と評
価された時価より低額で取得しており,その差額が受贈益の計上漏れで
あるとして,法人税の更正処分をしている。
したがって,本件P6出資の1口当たりの法人税の税務計算上の価額
は,8万1177円となる。
(ウ)そして,これに基づき,被告別表3の第2表のとおり,直前期末に
おいて財産の低額譲渡がなかったものとして計算した類似業種比準価額
計算上のⒹの金額の計算の基とした純資産価額の修正計算を行い,直前
期末において財産の低額譲渡があったものと仮定して計算した1株当た
りの類似業種比準価額を算定すると,同別表の第1表のとおり,405
8円(同表の㉙欄)となる。
ウ原告らの保有するP3の株式1株当たりの増加額及び原告らが受けた利
益の額
本件各譲渡による原告らの保有するP3の株式の増加額は,前記イ(ウ)
の金額4058円から前記アの金額4047円を控除した差額である1株
当たり11円となる。
そして,これに原告ら各人の保有する株式数を乗じて計算した結果,原
告P1につき430万2650円(39万1150株×11円),原告P
2につき55万円(5万株×11円)が,原告ら各人が受けた利益の額と
なる。
(3)P4の持分の価額の増加について
ア本件各譲渡が行われる前のP4の持分1口当たりの評価額
P4は,本件各譲渡の時において,評価通達178に定める中会社に該
当し,かつ,株式保有割合が50パーセント以上であるため,株式保有特
定会社通達に定める株式保有特定会社に該当する。したがって,P4の持
分は,純資産価額方式又は「S1+S2」方式により評価することになる。
そして,本件各譲渡が行われる前のP4の持分1口当たりの評価額の算
定に当たっては,課税時期(平成17年3月31日)に仮決算を行ってい
ないところ,課税時期における同社の資産及び負債の金額は明瞭でなく,
また,P4の直前期末から課税時期までの間の資産及び負債について著し
い増減がなく評価額の計算に影響が少ないと認められることから,評価明
細書通達に基づき,直前期末における各資産及び各負債を基にして算出し
た結果,本件各譲渡が行われる前のP4の持分1口当たりの評価額は,被
告別表4のとおり,9589円(同別表の第8表の㉗欄)となる。
なお,同別表の第5表におけるP4の持分1口当たりの純資産価額(相
続税評価額)の計算上,資産の部の有価証券の価額92億6920万20
00円については,同表の注書2のとおり,直前期末においてP4の保有
する上場株式の価額12億1806万0637円に,直前期末においてP
4の保有するP3の株式の価額80億5114万2270円(本件P6出
資の譲受前のP3の株式1株当たりの価額4047円(被告別表1の第3
表の㉙欄)に,直前期末においてP4の保有するP3の株式の数198万
9410株を乗じた金額)を加えたものである(ただし,評価明細書通達
第5表の1の定めに基づき1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)。
イ本件各譲渡が行われた後のP4の持分1口当たりの評価額
本件各譲渡が行われた後のP4の持分の価額を算出するに当たっても,
P4は,株式保有特定会社通達に定める株式保有特定会社に該当し,純資
産価額方式又は「S1+S2」方式により評価することとなる。
そして,P4の持分1口当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算上,
本件各譲渡が行われる前と比較して,資産の部の有価証券は19億484
8万9000円(8万1204円(本件P6出資1口当たりの価格)×2
万3995株。ただし,評価明細書通達第5表の1の定めに基づき100
0円未満の端数を切り捨てた後のもの)増加する。
また,P4は,P5からの本件P6出資の購入資金を銀行からの借入金
により調達しており,同借入金は,P4において短期借入金として経理処
理されていることから,本件各譲渡が行われた後,P4の負債の部の短期
借入金は,本件各譲渡が行われる前と比較して,9億4144万3000
円(3万9235円(本件P6出資の譲受価格)×2万3995口。ただ
し,同通達第5表の1の定めに基づき1000円未満の端数を切り捨てた
後のもの)増加する。
さらに,法人が時価に比し著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた
場合には,時価と対価との差額に相当する含み益(受贈益)が生じ,当該
受贈益は法人税の課税対象となることから,本件各譲渡が行われた後,P
4の負債の部の未払法人税等は,本件各譲渡が行われる前と比較して,1
9億4784万2115円(前記(2)イ(イ)の8万1177円(本件P6
出資の1口当たりの法人税の税務計算上の価額×2万3995口)から本
件P6出資の対価の額9億4144万3825円(3万9235円(本件
P6出資の譲受価格)×2万3995口)を控除した金額に42パーセン
トを乗じた4億2268万7281円の法人税等相当額が増加することに
なる。
これらを踏まえ,本件各譲渡が行われた後のP4の持分1口当たりの評
価額を算定すると,被告別表5のとおり,その価額は,1万0562円
(同別表の第5表の⑤欄)となる。
ウ原告らの保有するP4の持分1口当たりの増加額及び原告らが受けた利
益の額
本件各譲渡が行われる前のP4の持分1口当たりの評価額は,前記アの
とおり9589円であり,また,本件各譲渡が行われた後のP4の持分1
口当たりの評価額は,前記イのとおり1万0562円であることから,本
件各譲渡が行われたことにより,P4の持分は1口当たり973円増加し
た。
そして,これに原告ら各人の保有する出資の口数を乗じて計算した結果,
原告P1につき3億8725万4000円(39万8000口×973
円),原告P2につき194万6000円(2000口×973円)が,
原告ら各人が受けた利益の額となる。
(4)以上のとおり,本件各譲渡は,時価よりも著しく低い価額の対価で行わ
れており,その結果,原告らが保有するP3の株式及びP4の持分の評価額
が,原告P1につき合計3億9155万6650円,原告P2につき合計2
49万6000円それぞれ増加していることから,本件各譲渡により,原告
らは相続税法9条に規定する「対価を支払わないで(中略)利益を受けた」
と認められ,その利益の価額は原告らについてそれぞれ上記のとおりの額と
認められる。
4本件出資贈与に係るP4の持分の価額はいくらか(争点(4))について
P4は,本件出資贈与の時である平成17年5月9日において,評価通達1
78に定める中会社に該当し,かつ株式保有割合が50パーセント以上である
ので,株式保有特定会社通達に定める株式保有特定会社に該当する。それゆえ,
P4の持分は,純資産価額方式又は「S1+S2」方式により評価することと
なる。
ところで,原告P2は,本件出資贈与の時におけるP4の持分の評価額を算
出するに当たり,P4の保有するP3の株式の評価額を1株当たり3503円,
また,P4の保有するP3の株式数を198万9410株としている。しかし
ながら,当該評価額の算出に当たって用いるべきP3の株式の評価額は,P3
の直前期末の帳簿価額等に基づき算出した1株当たり4047円(被告別表1
の第3表の㉙欄)であり,また,本件出資贈与の時におけるP4が所有するP
3の株式数は,223万9100株である。
加えて,P4は,同年3月31日に本件P6出資2万3995口を購入して
いることから,本件出資贈与の時におけるP4の持分1口当たりの価額の算出
に当たり本件P6出資を考慮した結果,本件出資贈与の時におけるP4の有す
る本件P6出資の価額は,被告別表6のとおり,7万4241円(同別表の第
6表の⑤欄)となる。
以上を踏まえ,P4の持分について課税時期の直前である平成17年4月3
0日現在において同社が行った仮決算に基づき各資産及び各負債の相続税評価
額及び帳簿価額を計算すると,本件出資贈与に係るP4の持分1口当たりの価
額は,被告別表7のとおり,1万0731円(同別表の第6表の⑤欄)となる
から,当該1口当たりの金額に原告P2が贈与を受けた出資口数25万800
0口を乗じた金額27億6859万8000円が,本件出資贈与の時における
P4の持分の時価,つまり,原告P2が原告P1から贈与を受けたP4の持分
の評価額である。
5原告らについて,無申告加算税及び過少申告加算税を課されない正当な理由
があると認められるか(争点(5))について
(1)過少申告加算税は,過少申告による納税義務違反の事実があれば,原則
としてその違反者に対し課されるものであり,これによって,当初から適法
に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るととも
に,過少申告による納税義務違反の発生を防止し,適正な申告納税の実現を
図り,もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。そして,過少
申告加算税の上記趣旨に照らせば,通則法65条4項にいう「正当な理由が
あると認められる」場合については,その制度の趣旨にのっとって厳格に解
すべきものであり,真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情
があり,上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしても,なお,納税者に
過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解する
のが相当である(最高裁平成17年(行ヒ)第9号同18年4月20日第一
小法廷判決・民集60巻4号1611頁,最高裁平成16年(行ヒ)第86
号,第87号同18年4月25日第三小法廷判決・民集60巻4号1728
頁)。
したがって,単に納税者の法の不知や誤解に基づく場合は,上記「正当な
理由があると認められる」場合に該当しない。
なお,無申告加算税についても,過少申告加算税と同様に,期限内申告書
の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合には同加
算税は課されないところ(同法66条1項ただし書),この「正当な理由」
の意義についても,過少申告加算税の場合と同様であると考えられる(最高
裁昭和37年(オ)第790号同39年2月18日第三小法廷判決・訟務月
報10巻4号653頁)。
(2)本件においては,本件P6出資の評価額あるいはその前提となるP3の
株式の評価額が問題とされているが,被告は,評価通達を形式的に適用する
と,実質的に相続税負担の公平が害されるため,同通達の定める評価方法に
よらないことが正当として是認されるような特別な事情があるとして,本件
P6出資につき同通達に定める方法を形式的に適用せずに評価して原告P1
賦課決定処分及び原告P2賦課決定処分をしたものであるところ,これらの
各処分におけるこのような時価の算定方法が適法であることは,前記2(1)
において述べたとおりである。
そもそも,同通達に,同通達6の定めがあることからみても,仮に同通達
を形式的に適用して贈与税額を算出し申告したとしても,これがそのまま是
認されるものではないことは同通達が予定しているというべきであるから,
そもそも贈与税の申告をしなかった原告P1はもとより,同通達を形式的に
適用の上贈与税の申告に及んだ原告P2についても,それらの行為が「真に
やむを得ない理由」によるものであったとは認められない。
(3)通則法65条4項に規定する正当な理由があると認められる事実の例示
として,原告らの引用する事務運営指針(平成12年7月3日課資2-26
4,課料3-12,査察1-28)「相続税,贈与税の過少申告加算税及び
無申告加算税の取扱いについて」(乙36)は,「税法の解釈に関し申告書提
出後新たに法令解釈が明確化されたため,その法令解釈と納税者(括弧内省
略)の解釈とが異なることとなった場合において,その納税者の解釈につい
て相当の理由があると認められること。」を挙げる。
この記載からも明らかなとおり,原告らの引用する上記事務運営指針の定
めは「税法の解釈に関し申告書提出後新たに法令解釈が明確化された」こと
がその前提となっているところ,本件決定処分及び本件更正処分は,①P5
が本件P6出資をP3及びP4に対し著しく低い価額で譲渡したことにより,
P3及びP4の株主又は社員である原告らは,その所有するP3の株式及び
P4の持分の価額が増加し,相続税法9条に規定する「対価を支払わないで
(中略)利益を受けた場合」に該当すること,並びに②本件出資贈与に係る
P4の持分の価額に評価の誤りがあることから行われたものであって,「税
法の解釈に関し申告書提出後新たな法令解釈が明確化された」ことにより行
われたものではないことは明らかである。
(4)原告らは,本件において評価通達6を適用して評価するのであれば,「国
税庁長官の指示を受けて評価」したことを明らかにすべきであると主張する。
しかし,同通達6は,同通達の定めによって評価することが著しく不適当
と認められる財産の価額は,国税庁長官の指示を受けて評価する旨規定して
いるが,そもそも「国税庁長官の指示」は行政組織内部における指示,監督
に関するものであり,この規定に反したとしても,そのことが直ちに国民の
権利,利益に不利益を与えるものとはいえないから,その指示の有無によっ
て課税処分の効力が影響を受けるものと解することはできない。
(5)したがって,原告P1において贈与税の申告がなかったこと及び原告P
2において贈与税の申告が過少になったことについて,通則法66条1項た
だし書及び同法65条4項に定める正当な理由があるとはいえず,原告P1
賦課決定処分及び原告P2賦課決定処分が,いずれも違法であるとの原告ら
の主張は理由がない。
以上
(別紙4)
原告らの主張の要点
1本件各譲渡に関し原告らについて相続税法9条の規定を適用することができ
るか(争点(1))について
(1)相続税法9条の適用要件
そもそも通達は租税法の法源ではなく,被告の主張する「課税実務」,す
なわち相続税法基本通達9-2(4)は当然に本件各処分の根拠となり得るも
のではなく,「通達の内容が法の正しい解釈に合致するものである」場合に
限って,本件各処分の根拠となり得るのである(最高裁昭和30年(オ)第
862号同33年3月28日第二小法廷判決・民集12巻4号624頁)。
そこで,まず,相続税法9条の適用要件を検討し,同通達9-2(4)の適
法性を検討する。
ア相続税法9条の「当該利益を受けた者」の意義
(ア)相続税法9条の文理解釈
租税法は侵害規範であり,法的安定性の要請が強く働くから,その解
釈は原則として文理解釈によるべきであり,みだりに拡張解釈や類推解
釈を行うことは許されない(最高裁平成19年(行ヒ)第105号同2
2年3月2日第三小法廷判決・民集64巻2号420頁,最高裁平成2
0年(行ヒ)第139号同23年2月18日第二小法廷判決・裁判集民
事236号71頁参照)。
相続税法9条は,「対価を支払わないで」という文言と,「著しく低い
価額の対価で」という文言が「又は」という接続詞で結ばれ,ともに,
「利益を受けた場合においては」に係り,「当該利益を受けた時におい
て,当該利益を受けた者が」と続いている。
したがって,同条の「当該利益を受けた者」は,①「対価を支払わな
いで」利益を受けた者と,②「著しく低い価額の対価で」利益を受けた
者を意味する。
この「対価」とは,それを支払う義務を負っている者が相手方に対し
てある給付の代償として支払うものを意味すると解するのが,その文理
から自然に導き出される解釈である。
また,同条の規定する「著しく低い価額の対価」とは,(高くも低く
もない)「適正な価額の対価」が想定し得ることを前提としており,「著
しく低い価額の対価で」利益を受けた者とは,本来,「適正な価額の対
価」を支払うべきであるのに,「著しく低い価額の対価で」利益を受け
た者を意味すると解するのが,文理に照らし自然である。
とすれば,この「著しく低い価額の対価で」利益を受けた者は,その
受けた「利益」に対し,法的に「対価」を支払うべき義務を負う者,つ
まり,「対価」の支払義務者を意味していると解すべきである。なぜな
らば,仮に当該者が「対価」の支払義務を負っていないとすると,その
「対価」の価額の高低が問題となる余地はないからである。
とすれば,この「著しく低い価額の対価で」利益を受けた者と「又は」
という接続詞で並列された「対価を支払わないで」利益を受けた者も,
同じく,当該者が,当該「対価」の支払義務を負っている者であること
を前提としていると解すべきである。
(イ)相続税法7条の文言との比較
相続税法7条は,財産の低額譲渡の場合を規定しているが,同条の
「当該財産の譲渡を受けた者」が,「著しく低い価額の対価で譲渡を受
けた」者であることは争いがなく,当該者は,当該「対価」の支払義務
を負う者である。
とすれば,「著しく低い価額の対価」により受けた対象が「利益(同
法9条)」か「財産の譲渡(同法7条)」かによって,当該「利益」を受
けた者と当該「財産の譲渡」を受けた者の主体が異なる解釈が正しいと
は到底思われない。
したがって,同法9条の「当該利益を受けた者」も,当該利益の「対
価」の支払義務を負う者を意味すると解すべきである。
(ウ)小括
以上のとおり,相続税法9条の「当該利益を受けた者」とは,当該
「対価」の支払義務を負っている者と解すべきである。
イ相続税法9条は「利益を受けさせた者」と「利益を受けた者」との間に
利益の授受がある場合に限って適用されること
(ア)相続税法9条の「当該利益を受けさせた者」と「当該利益を受けた
者」とは,当該利益について何らかの「対立承継関係」にあることを前
提としていると解するのが自然である。この両者間に何らの直接的な関
係(それは必ずしも法的関係には限らないとしても)も存しないのに,
当該者をそれぞれ「当該利益を受けさせた者」及び「当該利益を受けた
者」と解することは,同条の文言から著しくかい離するといわざるを得
ず,何の関係もないAとBとの間に偶然の事情により「経済的利益」の
移転があった場合にも同条が適用されることになってしまい,不合理で
あることは明らかである。
つまり,同条は,「当該利益を受けさせた者」と「当該利益を受けた
者」との間に,利益を受けさせ,受けたという関係の存する場合(利益
の授受がある場合),換言すれば,両者の間に「対立承継関係」の存す
る場合に限って適用されるべきと解する。
(イ)被告の主張によれば,個人が同族会社以外の法人(例えば,上場会
社)にその資産を低額で譲渡した場合にも,同法人の株主は当該個人か
ら「経済的利益の享受」を受けたことになり,相続税法9条が適用され
ることになるが,かかる結論が不当であることは明らかである。このよ
うな不当な解釈が導かれる原因は,被告が同条の「当該利益を受けさせ
た者」と「当該利益を受けた者」という文言の解釈をないがしろにし,
両者の間に「対立承継関係」がなくても同条の適用があるという文言上
不自然な解釈を採用していることに帰着するのである。
この点について,被告は,同条を適用するためには「積極的な行為」
の判定が必要であると主張するが(被告の主張の要点(別紙3)の1
(2)イ(イ)),その主張は,二者の間に「経済的利益の享受」がありさえ
すれば同条は適用されるとする被告の主張と一致していないと思われる
し,仮に同条の適用のためには「積極的な行為」を要すると解する被告
の立場に立てば,何らの「積極的な行為」の存在も認められない本件に
おいては,なおさら同条の適用は否定されるものと思われる。
それをさておいても,同条の文言からは,同条が同法64条の規定を
前提としているとの解釈は全く読み取ることはできないし,そもそも同
条は,相続税又は贈与税について同族会社等の株主等のいわゆる租税回
避行為を是正し,税務署長に対して相続税又は贈与税の更正,決定を行
うに際し当該同族会社等の行為又は計算を否認し独自にこれらの課税価
格を計算することができる権限を認めたものであると説明されているの
であり,同法9条とはその趣旨を異にしている。同法64条は,同法9
条とは若干の関係はあるにしても,この場合には同族会社等の行為計算
そのものが否認されることにはならないので,直接には関係がないもの
と考えられる。したがって,同法9条が同法64条の規定を前提として
いるという被告の主張は失当である。
ウ同族会社が財産の低額譲渡を受けた場合に同社の株主等が受ける利益
(含み益)は相続税法9条の定める「利益」に該当しないこと
(ア)株式等の含み益の増加は相続税法9条の「利益」には該当しないこ

同族会社が財産の低額譲渡を受けた場合に同社の株主等に「利益」が
生じるとすると,それは保有する株式等の含み益,すなわち評価益にす
ぎない。そして,以下の理由から,かかる「評価益」に贈与税を課すこ
とは妥当ではない。
aかかる「評価益」は,財産の低額譲渡をした個人から株主等に移動
したものではないこと
例えば,個人甲が同族会社(A社)に財産の低額譲渡をした場合を
想定すると,A社の株主乙の株式に生じた評価益は,どのような形で
あれ,個人甲からの経済的な利益が移転したことを原因として生じた
ものではない。
つまり,乙の保有する株式の評価益は,A社の資産や収益の増加に
伴って,A社の株価が上昇したことによる株主としての「反射的な効
果」であり,このことと個人甲が財産の低額譲渡によりA社に受贈益
を与えたこととは,別個の独立した事柄である。
b相続税法では,個人が所有する資産の評価益に対して贈与税を課す
ことを予定していないこと
そもそも,相続税法では,個人が所有する資産に評価益が生じても,
それだけの理由で贈与税を課税されることはない。
評価益が,相続税法基本通達9-2が掲げた場合に基因するもので
あれ,その他の原因によるものであれ,それが株式の評価益にすぎな
い場合は,みなし贈与として贈与税を課税される理由はない。
c個人より会社へ利益が移転する場合
個人と会社の取引によって,会社に利益が移動する場合は,相続税
法基本通達9-2で明記された場合に限らない。例えば,A不動産会
社が個人丙に土地を高額で売りつけて利益を得た場合も,同通達9-
2の理論によれば,A社の株主乙は丙よりみなし贈与を受けたことに
なるはずであるが,同通達9-2は,このような場合はみなし贈与に
なるとは明記していない。また,A社が別の法人Bから低額で資産の
譲渡を受けた場合,この場合でも,同通達9-2の理論によれば,株
主乙は法人Bより利益を受けたことになるが,このような場合に,株
主乙が法人Bから贈与を受けたものとして,一時所得が課税されるこ
とはない。このことは,上記のいずれの場合も,譲渡した者から株主
に経済的利益の移動がないからにほかならない。
これに対しては,被告は,相続税法基本通達9-2(1)から(4)まで
の場合は,例示であり,これらに当たらない場合であっても,相続税
法9条の適用はあり得ると主張することが考えられる。
しかし,かかる解釈は,同条の適用範囲を著しく広いものとするば
かりか,普通の納税者が同条の文言を読んで直ちに読み取ることので
きない場合にまで同条の適用の余地を認めるものであり,納税者の予
測可能性を害すること甚だしく,失当である。
d被告の主張の要点(別紙3)の1(2)ウについて
被告の主張によると,他社の株式を低額で譲り受けた場合であって
も,それが「通常の営業活動」として行われた場合は,それによる評
価益は相続税法9条の「利益」に該当せず,「通常の営業活動」では
ない「一定の行為」により行われた場合には,同条の「利益」に該当
するということになるのであろうが,かかる区別をすることはできず,
その区別に何らの合理性もないことから,納税者の予測可能性及び租
税負担の公平を著しく害することは明らかである。
なお,P5及び原告らに,「相続税の負担軽減を図る」意図などな
く,仮に将来,P5に係る相続の負担軽減が結果として生じたとして
も,それはたまたま原告P1がP5の法定相続人であったからにすぎ
ず,本件のようなケースにおいて一般的に同条を適用すべきとする被
告の立場からの反論とはなり得ない。また,本件各譲渡の時点では,
原告P2はP5の法定相続人ですらなく,原告らがP5の相続人にな
るか否かも不確定であり,この点でも被告の主張は失当である。
(イ)小括
以上のとおり,同族会社が財産の低額譲渡を受けた場合における同会
社の株主等の株式の含み益(評価益)は,相続税法9条の「利益」には
該当しない。
したがって,かかる「利益」に対して同条の適用を肯定する被告の主
張は失当である。
(2)あてはめ
仮に本件各譲渡の対価が本件P6出資の時価よりも著しく低い価額であっ
たとしても,原告らは,P5から本件P6出資を譲り受けた者ではなく,本
件各譲渡の買主であるP3及びP4の株主及び社員にすぎない。
したがって,原告らは,本件各譲渡の当事者ではなく,①同譲渡の対価の
支払義務を負っているものではないから,相続税法9条の「当該利益を受け
た者」に該当せず,②訴外P5との間に「対立承継関係」がないから,この
点でも同条の「当該利益を受けた者」に該当せず,また,③本件各譲渡によ
る反射的な効果として増加した原告らの保有する株式等の価値の増加(含み
益)は同条の「利益」に該当しない。
したがって,本件各譲渡に関して,原告らに同条は適用されない。
そして,原告らのような同族会社の株主に対しても同条の適用があるとす
る相続税法基本通達9-2(4)は,同法9条に反し,違法である。
(3)その他被告の解釈が失当である理由
ア被告の解釈によると,相続税法9条の適用範囲が著しく拡張され,納税
者の予測可能性,法的安定性を害する危険性があること
そもそも,同族会社が財産の低額譲渡を受けた場合の同社の株主等に相
続税法9条が適用されるとは,その文言を世間一般の人が読んで到底読み
取ることのできるものではなく,また,かかる解釈が許容されてしまえば,
「当該利益を受けた者」の範囲は更に拡張される危険性もあり,納税者の
予測可能性を害し,法的安定性を害すること甚だしい。
この点,同法は,「贈与により取得したものとみなす」ものを,同法4
条から8条までにおいて個別的に規定している(いわゆるみなし贈与規
定)。
被告が主張するように,相続税法基本通達9-2(2)のような場合が
「比較的定型的な態様で,取扱いを特定しておく必要がある場合」であれ
ば,かかる場合についても同法,せめて相続税法施行令により規定してお
くべきであって,このように世間一般の人が同法9条の規定を読んで,到
底読み取ることのできない本件のようなケースを租税法の法源ではない通
達により,同条の適用対象とすることは許されない。
同条の「その他の利益の享受」というような概括条項は,租税法律主義
の要請に反するという批判もある。課税要件明確主義の要請からも,同条
は,法的安定性,納税者の予測可能性を害することのないよう,その適用
範囲については合理的かつ限定的に解釈されるべきである。
イ相続税法9条の適用は経済的利益の享受があったか否かにより判定され
るべきとする被告の主張は誤っていること
被告は,相続税法9条にいう「「対価を支払わないで…利益を受けた場
合」に該当するか否かについては,経済的利益の享受があったか否かによ
り判定されるべきものである」と主張する。
しかし,そもそもかかる被告の主張は,相続税法基本通達9-2(4)の
定める「要件」(「同族会社の株式・・・増加したとき」)さえも不要とす
るものであり,自らの主張の間に矛盾抵触が生じている。
それをさておいても,かかる被告の主張によれば,要するに,AとBと
いう異なる法的主体の間に,何らかの「経済的利益の享受」が存しさえす
れば,同法9条が適用されるということになり,同条の「対価を支払わな
いで,又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合」の文言はほとんど
その実質的な意義を失い,事実上空文化するに等しく,同条の法解釈を放
棄したものといっても過言ではない。
仮に,被告が主張するように,異なる2者の法主体間に「経済的利益の
享受」が存すれば同条が適用されるとすると,同法が,同法5条から8条
までにおいて,「みなし贈与財産」を個別に規定している意味も全く失わ
れてしまう(同法9条のみが存すれば事足りてしまう。)。かかる解釈が誤
っていることは明らかである。
ウ被告の主張は同族会社の株主等に著しい不利益を及ぼすこと
同族会社の株主といっても,同族関係者等の同族判定株主(いわゆる大
株主)から少数株主まで,その実態は様々である。
しかし,被告の主張によると,例えば,同族会社の判定の対象とならな
い少数株主(例えば,たまたま1株所有していた株主)についても,上記
通達が適用されることになるが,その場合,当該株主は,当該低額の価額
による財産の譲渡の事実自体を全く知り得ない場合であっても,相続税法
9条により贈与税が課され,さらに無申告加算税・過少申告加算税等が課
される可能性がある。
贈与税が申告納税制度を採用していることからも,かかる課税は,当該
株主にとって不意打ちともいい得るものであり,極めて不当な課税である。
かかる結果を招来する被告の主張は失当である。
2本件各譲渡は時価より著しく低い価額の対価でされたものか(本件各譲渡に
係る本件P6出資の時価はいくらか)(争点(2))について
(1)評価通達の定めによって評価した場合,本件各譲渡に係る本件P6出資
の1口当たりの価額はいくらか(争点(2)ア)について
ア原告らの主張の概要
(ア)P6の出資者別の株主区分と評価方式(P5からP3への本件P6
出資の譲渡における本件P6出資の評価等)
評価通達188(1)は,法人税法施行令4条の規定を読み替えて,あ
る法人が株主の1人の同族関係者に該当するか否かは,当該法人の議決
権総数に占める割合が50パーセント超であるか否かによって判定する
(同通達188(1)及び同令4条2項及び3項)。この点,P6は,原告
P1及びその同族関係者であるP4によって,議決権総数の31.57
パーセントしか保有されておらず,50パーセントを超えないことから,
P6は原告P1の同族関係者に該当しない(同条2項各号非該当)。
したがって,P6において,その議決権総数の30パーセントを超え
る同族株主グループは,原告P1とその同族関係者であるP4だけであ
る。また,P6の議決権を有しないP3もP6の同族株主に該当しない。
したがって,同通達に従えば,P5からP3への本件P6出資の譲渡
における評価方式は,配当還元方式となる(同通達188(1),188
-2)。
具体的には,次の算式のとおり,P3が譲り受けた本件P6出資1口
当たりの価額は500円となる(詳細は原告別表1のとおり)。
(算式)
2円50銭(①)/10%×1000円(②)/50円
=500円
(①は,年配当金額÷1株当たりの資本金額を50円とした場合の
発行済株式数(次式のとおり)
5,000千円÷(100,000千円÷50円)=2円50銭)
(②は,本件P6出資1口当たりの資本金の額=直前期末の資本
金額÷直前期末の発行済株式数(次式のとおり)
100,000千円÷10万株=1,000円)
また,P5からP4への本件P6出資の譲渡における評価方式は,中
心的な同族株主が取得したものであるから,原則的な評価方式によるこ
ととなり(同族株主であっても,中心的な同族株主以外の同族株主につ
いては,保有する議決権割合等によって評価方式が異なる場合がある
(同通達188(2))。本件においては,原告P1及びP4が,P6の中
心的な同族株主に該当することについては,争いがないものと考える。),
評価会社であるP6の状況により判断することとなる。
(イ)P3の株主別の株主区分と評価方式等(P5からP4への本件P6
出資の譲渡における本件P6出資の評価)
P5からP4への本件P6出資の譲渡における評価をするに当たり,
P6が保有するP3の株式の評価については,P6が,P3との関係で,
いかなる株主区分となるかが問題となる。
この点,前記(ア)のとおり,P6は原告らの同族関係者に該当しない
から,P3もまた原告らの同族関係者に該当しない。すなわち,同社に
おいて,原告P1の同族関係者グループは,原告P1,P31,P32,
原告P2及びP4によって構成され,P3の議決権総数の50パーセン
トを超えない43.5パーセントの議決権の割合しか保有していないか
ら,同社は,原告らの同族関係者に該当しない(法人税法施行令4条2
項各号非該当)。
また,P6は,単独でP3の議決権総数の30パーセントを保有して
いないから,単独でも同社の同族株主に該当せず,同社における同族株
主以外の株主に該当する(評価通達188(1))。
したがって,同通達に従えば,P6が保有するP3の株式の評価は,
配当還元方式によるべきこととなる。
具体的には,次の算式のとおり,本件各譲渡の時におけるP3の株式
1株当たりの価額は50円となる(詳細は原告別表2のとおり)。
(算式)
5円(①)/10%×50円(②)/50円=50円
(①は,年配当金額÷1株当たりの資本金額を50円とした場合の
発行済株式数(次式のとおり)
35,000千円÷(350,000千円÷50円)=5円)
(②は,P3株式1株当たりの資本金の額(次式のとおり)
350,000千円÷700万株=50円)
その結果,P6の総資産のうちに株式等の占める割合は,43.2
9パーセントにすぎず,50パーセント未満となるから,同社は,株
式保有特定会社通達が定める株式保有特定会社に該当しない。また,
同族株主の評価方法について,評価通達189(1)及び(3)から(6)ま
でが定める他の特例的な評価方式により評価すべき事情のいずれにも
該当しない。したがって,P6の同族株主であるP4がP5から譲り
受けた本件P6出資の評価方式については,同通達178によってP
6は小会社に該当することから,同通達179(3)に基づき,純資産
価額方式又は類似業種比準方式と純資産価額方式の折衷方式により評
価すべきこととなる。
そして,P4はP6の議決権総数の50パーセント超を保有してい
ないから,純資産価額方式により評価した額から20パーセント減額
した額と,当該純資産価額方式により評価した額と類似業種比準方式
により評価した額の折衷方式により評価した額のいずれか有利な方法
によるべきこととなり,次の算式のとおり,P4が譲り受けた本件P
6出資1口当たりの価額は1011円となる(詳細は原告別表3のと
おり)。
(算式)
本件各譲渡時の本件P6出資1口当たりの純資産価額×80%
1264円×80%=1011円
イP3は,原告らの同族関係者に該当せず,P6における「同族株主」に
該当しないこと
P3はどの株主グループにも50パーセントを超える議決権を保有され
ていない(同社における原告P1の同族関係者は,原告P2,P31,P
32及びP4のみであり,原告P1及びその同族関係者は,P3の議決権
割合の50パーセント以下である43.50パーセントしか保有していな
い。)ことから,P3は同社のいずれの株主についても,法人税法施行令
4条2項各号及び同条3項に該当せず,したがって,原告らの同族関係者
に該当しない。
なお,P3の株主であるP6が,原告P1の同族関係者に該当すれば,
P6を含む原告P1の同族株主グループが,P3の発行済み株式総数の5
0パーセントを超える72.07パーセントを保有することになるが,後
記オのとおり,P6は原告らの同族関係者に該当しない。
にもかかわらず,被告は,何ら理由を明らかにすることなく,漫然とP
3をP1一族グループ(原告P1,P3,P4)に含め,P3が,原告ら
の同族関係者であり,したがって,P6の同族株主であると主張するもの
であり,失当である。
ウ本件に株式保有特定会社通達を形式的に当てはめることは,その制定の
趣旨からしても,また,結果の妥当性からしても,許されるべきではない
こと
(ア)a平成2年8月に発せられた株式保有特定会社通達の趣旨目的は,
いわゆるバブル景気によって,日本では投機熱が加速し,特に株と土
地への投機が盛んになったところ,その当時の過大な相続税の負担に
耐えかねた大量の上場企業の株式を保有する一部の上場企業のオーナ
ーらによる行き過ぎた節税策を排除することにあった。その節税策と
は,おおむね次のような手続により株式をオーナーから持株会社へ移
転して,相続税の評価額を圧縮しようとするものであった。
(a)大量の上場株式を保有するオーナー株主が自己の保有する株式
を購入する持株会社(A法人)を設立する。
A法人は,株式購入資金を金融機関からの融資により調達し,オ
ーナー株主が市場に放出した株式を市場価格により購入する。
オーナー株主の当該株式の譲渡に係る所得税は源泉分離課税を選
択して,その譲渡収入の1パーセントで完結させる。
A法人は,株式の譲渡により多額の収入を得たオーナー株主から
の増資申込みを受けて金融機関からの借入金を返済する。
(b)次に,オーナー株主はA法人とは別法人のB法人を設立し,B
法人はオーナー株主からA法人への株式の移動が完了した後にA法
人を吸収合併して消滅させる。
B法人はA法人からの受入れ資産の額を時価以下の金額で受け入
れ,資本金を1億円以上(大会社)とする。
このようにして,オーナー株主は上場株式をB法人に保有させ,
B法人を通じて上場株式を間接保有し,当該上場株式の価額はB法
人株式の価額である類似業種比準価額にすり替わることによって,
評価額の引下げが達成される。
b株式保有特定会社通達が発せられた翌日である平成2年8月4日,
各報道機関は一斉にこれを取り上げたのであるが,行政庁内部の命令
にしかすぎない通達の改正に対してこれほどの報道がなされることは
極めて異例であった。
そして,その報道内容の一部は,P37新聞(甲34)が「株操作
の相続税圧縮時価算定で封じ込め国税庁新通達」,P38新聞
(甲35)が「“非上場株利用節税”に歯止め相続評価を変更国
税庁通達」,P39新聞(甲22)が「上場企業オーナーの相続税対
策株評価適正化で歯止め国税庁」,P40新聞(甲36)が「企
業オーナーの相続・贈与税非上場会社に株式を移し評価額を圧縮
「節税マジック」歯止め国税庁が来月から最高でも半分に」,P
41新聞(甲37)が「上場企業オーナーの節税策相続税減らしに
歯止め国税庁株式評価方式を改訂」というもので,「非上場会社
の資産が極端に株などに偏っている場合,これまでの評価方法を改め,
会社資産の時価を基準に株価を算定することにしており,これが実施
されると,一部のオーナーが行っていたような1%以下への極端な資
産圧縮は不可能になる。このほか改正通達は,土地資産の評価額圧縮
策などについても対策を講じ,税制の盲点を突いた「資産節税」の抜
け道封じに国税当局が強い姿勢で望むことを明確にしている。」(甲3
4),「上場企業のオーナーらが,関連の非上場会社を設立して持ち株
を移し,自社株の代わりに関連会社株を持つ方法で相続税減らしを図
るケースが増えているため国税庁は3日,株の持ち替えで相続・贈与
税評価額を極端に圧縮できない措置を盛り込む長官通達を出した。
(中略)大量の上場株を持つ企業創業者やその一族たちの中には,名
目的な非上場会社を設立して上場株を移動。さらに孫会社を設立する
など株移動の操作を繰り返したり,合併や減資の複雑な方法で評価額
を本来の市場価格の1%以下に圧縮したケースもあったという。上場
株を非上場株に持ち替えることで,上場企業への支配力を維持しなが
ら大幅な節税策を図っていた。」(甲22),「上場企業のオーナーらが
相続税や贈与税を“節税”するため,株式の評価が低く算定される非
上場会社を設立し,そこに自社持ち株を移転させるケースが目立って
いることから国税庁は3日,従来の課税評価方式を改め,実際の純資
産に基づいた方式にすることを決めた。(中略)非上場会社の株式評
価は,時価より低く抑えることができるという現行相続税法の死角を
ついた節税策だったが,通達で一定の歯止めがかかった。」(甲36)
というものであった。
そもそも,この通達改正は,当時の実務家の間では,早い時期から
噂されていたものであるが,それは,平成2年7月24日付けのP3
7新聞により,「上場企業オーナーの「株マジック」相続税評価方
法の見直し急務「株マジック」,とでも言えばいいのだろうか。上
場企業のオーナー経営者らが,個人で持っていた自社株を非上場会社
に移して相続税評価額の大幅圧縮を図っている実態が明らかになった。
昨年4月から今年5月までの約1年間で80社,移された上場株は時
価で9700億円分に上っており,「課税の極端な不公平を招く」と
の批判が強い。現行の評価方法の不備を突いたものであり,一刻も早
い手直しの必要に迫られている。」との報道(甲38)からもみてと
れる。
すなわち,株式保有特定会社通達は,上場企業のオーナーらによる
行き過ぎた節税策を排除するために導入されたものであって,それを
超える趣旨のものではない。
c前記bの報道後,株式保有特定会社通達の立案担当者であり,国税
庁資産評価企画官であったP33企画官は,「通達改正の趣旨は「最
近における株式取引等の実態にかんがみ,株式及び出資の評価の適正
化を図る必要があるため,それらの評価方法の一部を改めた」という
ことを書いてありますが,あくまでも評価の適正化を図ろうとするも
ので,特別の政策目的のために今回の通達改正に踏み切ったわけでも
ありません。(中略)今回の通達改正は,政策的に節税策を封じよう
というのが狙いというよりも今の評価額は,法律上の「時価」の解釈
として妥当とされている“客観的な交換価値”から遊離しているので,
その遊離の幅をできるだけ狭めていって,評価の適正化を図ろうとい
うことになります。結果的には,そういう開差を利用した節税策がな
かなかやりにくくなろうかと思います。」と述べていた(甲39)。
P33企画官のこの説明を読む限りにおいては,株式保有特定会社
通達は行き過ぎた節税策の防止のみを趣旨・目的として定められたも
のではないとする被告の主張と一致するところである。
しかし,P33企画官は,退官後,株式保有特定会社通達の制定当
時を振り返り,「株式保有特定会社・土地保有特定会社の評価会社の
取扱いは,平成2年8月の通達改正で設けられたわけです。それぞれ
の趣旨は,類似業種比準方式の悪用を避ける,類似業種比準方式を適
用するにはふさわしくない評価会社を抽出して,その評価会社に応じ
た評価方法,原則的には純資産価額方式で評価するという方法を採り
入れ,類似業種を悪用した評価額の引下げを封じるというものです。
封じるということは,評価の適正化によってそういう方法を封じるこ
とを考えて作り出された評価方式であるということです。」「株式保有
特定会社の問題から検討したいと思います。株式保有特定会社は,か
つては持株会社という言われ方をされてきました。これは,知る人ぞ
知ると言いますか,資産税を得意とする専門家の間では,この方法が
資産家の財産保全のために最も役立つ,節税方法に最も役立つ方法で
あると言われてきました。恐らく,これは戦後ずっとこの方式で密か
に進められてきたのではなかろうかと思います。そのことが,バブル
を境に,多くの節税本等によって紹介されたことから,あっという間
に広まり,その結果,いろいろと社会問題が提起されるようにもなっ
てきました。当時,P37新聞等は「株式のマジック」という表題で,
1000億円の上場株式が持株会社に移行することによって評価額が
5億円に圧縮できるというセンセーショナルな報道をしました。そう
いう社会的問題を踏まえながら,この種の評価方式が平成2年8月に
改められたわけです。」とその趣旨・狙いを述べている。
この「類似業種比準方式の悪用を避ける」,「類似業種比準方式を悪
用した評価額の引下げを封じる」,「封じるということは,評価の適正
化によってそういう方法を封じることを考えて作り出された評価方式
である」,「社会的問題を踏まえながら,この種の評価方式が平成2年
8月に改められた」というP33企画官の発言こそが正に株式保有特
定会社通達の本質を突くものであって,株式保有特定会社通達はあく
までも類似業種比準方式を悪用して株式の評価額を圧縮し相続税回避
を行う上場企業オーナーらを対象に定められたものであると解するの
が相当である。P33企画官が「評価の適正化」と述べるのもそのこ
とであって,時価1000億円の上場株式を,ある法形式を用いるこ
とによって評価5億円の非上場株式に化体させることなく,それは1
000億円の価値ある非上場株式としての適正な評価に修正をすると
いうことである。
(イ)a評価通達は,解釈通達ではなく,「適用通達」又は「認定通達」
の性質をもっており,事実の認定は,事案ごとに個別に行われるべき
であるし,また,同通達を形式的,画一的に適用することが同通達の
趣旨に反する場合には,同通達を適用することは許されないというべ
きであるから,本件P6出資の本件各譲渡の時における評価をするに
際しても,取引の趣旨及び目的,加えて個々の事情を総合考慮してな
されるべきであって,それらを捨象して,当時の社会背景を奇貨とし
て行き過ぎた節税を規制する目的で導入された株式保有特定会社通達
を本件各譲渡に機械的に適用することは,前提として失当であるとい
わざるを得ず,また,その妥当性についてはいまだ何の立証もなされ
ていないというべきである。
bところで,株式保有特定会社通達には,「租税回避を目的として」
などといった文言は存在しない。したがって,租税回避の有無を同通
達の適用の考慮要素とすることについては,通達の文言を離れて新た
に独自の要件を付加するものになるのではないかという疑問も生ずる
ところである。
しかしながら,前記aのとおり,評価通達は,解釈通達ではなく,
「適用通達」又は「認定通達」の性質をもっており,事実の認定は,
事案ごとに個別に行われるべき作用であるから,当該通達のそもそも
の目的が租税回避行為を封じ込めるためのものであり,被告も自認す
るとおり,財産についての評価額と実際の取引価額との間の開差が租
税回避行為に利用されるケースがあったことが評価通達の改正の契機
になったことからすれば,当該通達の適用に当たって評価会社にその
ような意図があったか否かや,租税回避行為の弊害の有無につき考慮
するのは妥当かつ当然のことである。これは,評価通達6の定めにあ
るとおり,いかなる場合であっても同通達が適用されることにならな
いことに鑑みても,租税回避の有無を株式保有特定会社通達の適用の
考慮要素とすることは,新たに独自の要件を付加するものではないと
いうべきである。
(ウ)法令や通達の制定当時にはそれに合理的な理由があったとしても,
常にそれが適用されるわけではなく,時代の変化やその法令や通達その
ものの趣旨目的から逸脱するような場合には,適用すべきではない。
株式保有特定会社通達と同様,バブル経済の時期の相続税の節税策に
対処することを目的とされたものとして,旧租税特別措置法69条の4
があり,その適用の是非をめぐって争われたのが,大阪地裁平成6年
(行ウ)第79号同7年10月17日判決・行裁例集46巻10・11
号942頁であるが,この判決は,たとえその法律が合理的な立法政策
により制定されたものであっても,時代の変化やその法律そのものの目
的から逸脱するような場合には,適用すべきではないとしているのであ
る。立法府において制定された法律においてさえその適用を制限される
場合があるのであるから,単なる行政庁内部の規律であって租税法の法
源ですらない通達にあっては,よりその適用について,個々の事案の実
態に即した厳格性が求められることはいうまでもない。
(エ)他方,本件の取引についてみた場合,平成17年初頭から開始され
たP4による本件P6出資の買取りは,創業300年を目前に控えたP
27グループのガバナンスの見直しの一環としてなされたものであって,
その取引方法並びに買取価格などについても,本件13社は,飽くまで
もP4とは別個の独立した法人として,その合理的な経営判断の下に決
定しているのであるし,また,購入側であるP4,売却側である本件1
3社のいずれにおいても,本件の取引を奇貨として税負担を軽減する目
的などは認められないことは明らかである。
(オ)a法人税基本通達の前文のとおり,①通達の具体的な運用に当たっ
ては,法令の規定の趣旨,制度の背景のみならず条理,社会通念をも
勘案しつつ,個々の具体的事案に妥当する処理が図られなくてはなら
ないし,②いやしくも,通達の規定の部分的字句について形式的解釈
に固執し,全体の趣旨から逸脱した運用を行ったり,通達中に例示が
ないとか通達に規定されていないとかの理由だけで法令の規定の趣旨
や社会通念等に即しない解釈におちいったりすることのないように留
意しなければならないのであるが,そうであるにもかかわらず,それ
らについて一切考慮することなく,本件におけるP6のように,通常
の売買行為等によって株式保有特定会社に該当してしまった評価会社
にも株式保有特定会社通達を機械的又は形式的に適用することは,そ
もそもその趣旨に反するばかりか,適用結果の妥当性の観点からみて
も著しく不合理な結果を招来することは明らかであるから,本件各処
分は違法である(なお,P4の持分の評価における同通達の適用に関
しても,上記のとおりであるから,これを適用してP4の持分を評価
することも不当である。)。
b被告は,法人税基本通達と評価通達はそれぞれ,その制定の趣旨が
異なる別個のものであるから,法人税基本通達の前文を根拠に評価通
達の解釈適用を論難することは当を得ないと主張する。
しかしながら,本件P6出資の評価に当たり法人税基本通達に依拠
したのはそもそも被告である。もし同通達に依拠して本件P6出資を
評価するというのであれば,当然の前提として,その前文の趣旨に従
うべきである。
なお,被告の依拠した同通達9-1-14は,評価損の計上を行う
場合の算定方法を定めたものであって,第三者間における売買取引の
時価を算定するためのものではないところ,当該通達に依拠すること
自体違法であるといわざるを得ず,また,被告は,本件P6出資が取
引された事情など何ら考慮することなく,ただ同通達9-1-14の
定めにより株式保有特定会社通達を機械的に当てはめており,これら
の点においても被告の主張は失当である。
(カ)以上によると,評価通達に従えば,同族株主であるP4(前記アの
とおり,P3はP6の同族株主に当たらない。)が保有する本件P6出
資の評価については,株式保有特定会社通達を適用することができず,
評価通達178によりP6が小会社に分類され,同通達179(3)に基
づく原則的評価方式(Lの割合を0.50とした類似業種比準方式と純
資産価額方式の折衷方式又は純資産価額方式)によって評価すべきであ
る。
エ評価通達185のただし書を適用すべきでない「特別の事情」があると
する被告の主張について
(ア)被告は,評価通達185のただし書の趣旨を持ち出すことで,その
定める「議決権総数の50パーセント以下」という基準を死文化させ,
他の株主グループに会社経営を行う意図があるか否かというような主観
的要素を実質的な判断基準として用いるべきである旨主張する。
しかし,同通達が同通達185のただし書を設けて,50パーセント
という基準を明確に定めている以上,この適用に際して,「経営の意図
があったか否か」とか「経営に参加する積極的な意思」があったか否か
というような極めて不明確で曖昧な出資者の主観的な認識を考慮するこ
とは,およそ困難であり,誤りというほかない(法の根拠にも欠けてい
る。)。そもそも,一般的に,企業が他の企業に対する出資を行っている
場合に,「経営の意図」なるものをみた上で議決権を判定することはな
い。そして,本件においては,本件13社が現に合計52パーセントの
出資持分を有していた以上,外部から判定することが困難な「経営の意
図」という主観的要素で,同通達の適用の有無を決めることは,失当と
いうべきである。なお,同通達185のただし書は,議決権割合が50
パーセント以下であるか否かによって,20パーセントの評価減を認め
るか否かを判定する旨定めている以上,この判定においては,上記規定
に定められた明確な基準によって判定すべきであり,被告が主張するよ
うな「経営の意図」という明文になく,かつ,主観的で曖昧な要素をこ
の判定に用いることは誤りである。。
のみならず,被告が主張する同通達185のただし書の趣旨は,正に
本件に妥当するものであり,この点においても誤っている。なぜならば,
本件各譲渡が行われるまで,本件13社が合計で52パーセントの出資
持分を有していた以上,法律上,原告P1らのみで議決を通すことはで
きず,常に他の出資者である本件13社の賛同を得なければならないと
いう経営状態になっており(本件13社の総議決権割合は,68.43
パーセントに及んでいたから,原告P1の同族関係者は,P6の重要事
項を決する特別決議を通すための議決権もなければ,逆に,特別決議を
否決するための議決権も有していなかったことになる。),これは正に
「複数の同族株主グループにより会社経営を行っているものがあり,こ
のような小会社では,一の同族株主グループの所有株式数だけでは会社
を完全に支配できない」という実態が認められるといえるからである。
この点について,被告は,本件13社には会社経営の意図がなかったな
どと主張するが,失当である。なぜならば,本件13社は現にP6に対
して出資をしていた以上,法的に(議決権を通じて)会社経営を行う権
限を有しており,かつ,これを拘束するような特約(議決権に関する特
約)は一切存在していなかったのだから,本件13社なくして「会社を
完全に支配できない」という実態があったといえるからである。
(イ)評価通達185のただし書を適用すべきでない「特別の事情」につ
いて立証責任を負っているのは被告である(最高裁昭和36年(オ)第
1214号同38年3月3日第三小法廷判決・訟務月報9巻5号668
頁参照)。
この点に関する被告の主張は,要するに,本件13社は,実質的には
議決権等をもたない名目的な出資者にすぎず,P27グループのかいら
いにすぎないというものである。
また,その根拠としては,P6に出資をしていた本件13社は,①P
27グループとの関係強化のために出資をしたにすぎず,②P6の社員
総会において出席せず,白紙委任状を提出していただけであるという2
つがあるのみである。
(ウ)aしかしながら,①については,出資をした経緯が取引先において
関係強化を目的としたものであることは一般にごく普通にあることで
ある。
②については,社員として社員総会に出席するか否か,白紙に委任
状又は議決案に賛成する委任状を提出するか否かは,出資者である社
員の自由に属することであるから,そのことを理由に出資先の経営に
参画する意図を論ずることはそもそも誤りである上,本件においては,
本件13社がP6の社員総会で提出した各「委任状」(乙7の1から
13まで)は,いずれも議案の「賛」に「○」が記載されており,明
確な議決権行使がなされており,そもそも,本件13社は議案につい
て白紙で委任をしてはいない。もっとも,同委任状には「原案に対し
修正案が提出された場合は,…白紙委任します。」という定型文があ
るため,この限度で白紙委任的な委任をしたと読み取る余地があり得
るかもしれず,また,同委任状は,受任者の氏名欄が空白になってい
るため,白紙委任状に当たるのかもしれないが,そうだとしても,実
際に本件13社のような大手酒造メーカー等が,出資先の会社の株主
総会(社員総会)にわざわざ出席することは通常少ないであろう(日
本の企業が他の企業の出資持分を有する場合,社員総会(株主総会)
に出席しなければならない理由などなく,実際には委任状を通じて議
決権行使を行うことで,当該出資先に対する経営権(共益権)を行使
すると考えることが,旧商法から現行の会社法に至るまでの一貫した
出資持分に対する考え方にも沿う。)し,取引先に対して出資をした
法人(のみならず,そうでなく出資をした法人であっても同様であ
る。)が,社員総会や株主総会に出席せずに,配当も問題なく得られ,
特段の重要議案がなく,特に経営上重要な判断を迫られる議案がある
場合でない限りにおいて,白紙委任状を提出することは,出資者とし
てごく普通にあることであるところ,だからといって,当該出資先の
経営に参画する意図がないということはできないはずである。
こうした議決権行使の態様をもって,当該出資先に対する経営に参
画する意図を放棄しているというのであれば,およそほとんど他社に
出資をしている企業に同じことが当てはまることになってしまう。そ
して,被告の主張によれば,それをもって当該出資先は実質支配をさ
れていると評価されることになるが,実際には,そのような評価はな
されていない。
議決権の行使について,P6に対する本件13社の出資は名義のみ
で,実質は原告らが有しているとか,その議決権が名目上のものであ
り,行使できないというのでない限り,本件13社の出資や議決権が
否定されるものではない。本件13社は,実際にも毎期の社員総会に
おいて,各社の社内ルールに従う方法で,議決権を行使しており,い
わば安定株主(安定的な出資者)であり,その結果が原告らの意向に
沿うものであったとしても,同族関係者を含め48パーセントの持分
しか保有していない原告P1に経営権があるわけではなく,原告P1
及びP4がP6を支配しているなどとはいえないことは明らかである。
例えば,本件13社がP6に出資するに当たり,同社の経営に関し
て議決権を実質的に行使(反対の態度をとるなど)することは一切し
ないといった特約をあらかじめ書面で明確に交わしているなどの事情
があるのであればともかく,結果としてこれまで議案に対して反対を
することはなかったという事実は,経営の根幹に影響を与えるような
重要な議案が提出された際にも白紙委任状等の提出で済ませて反対の
意思表示を行わないという保証をする事情には全くならない。
また,本件13社は,後記(エ)のとおり,実際には,被告が主張す
るような態度で議決権行使をしていたのではなく,個々の議案をみた
上で,委任状を提出して賛成するか,場合によっては出席をし,さら
には反対をするか否かを検討していた。なお,修正案が提出された場
合について白紙委任になっているとの指摘も被告からなされているが,
そのような記載は委任状の一般的な記載であるのみならず,本件13
社が出資をしていた間の社員総会において,修正案が提出されたこと
は1度もない。
したがって,この点に関する被告の主張は,要するに,ごく普通の
ことを行っていたにすぎない本件13社を殊更(原告らに対する偏見
と課税を正当化するために)特別視することで,本来,租税公平主義
(平等原則)からすれば,形式的に画一処理がされなければならない
評価通達の規定について,強引に「特別の事情」があるとして,平等
であるべき取扱いを排除しようとするものにすぎず,「特別の事情」
について具体的な主張及び立証がないばかりか,主張自体が失当とい
うべきであり,理由がない。
b先代相続税事件の東京地裁平成16年3月2日判決(乙6の1)及
び東京高裁平成17年1月19日判決(乙6の2)は,飽くまで別事
件の裁判例にすぎず(先代相続税事件は,相続における課税の場面が
問題になったものであるのに対して,本件は出資持分の譲渡という売
買取引の場面が問題になっているのみならず,先代相続税事件は,相
続開始の直前である8日前の譲渡であったことに特殊性が認められた
事案であり,本件においてはそのような特殊性もなく,本件各譲渡に
より,社員構成について本件とは事案が異なっている。また,先代相
続税事件は,評価通達185のただし書の適用が問題(争点)になっ
た事案ではないばかりか,問題とされた取引をみても,本件13社が
株式を取得した時点であり,そこで取得した株式を譲渡した時点が問
題となっている本件とは,そもそも,取引の場面も異なっている。そ
して,先代相続税事件において,同通達185を適用しなくてもよい
とされた理由は,「評価通達185が存在することを利用して,意図
的に多額の評価差益を作出した上,これに対する法人税額控除を行う
ことによって相続税額の負担を軽減させようと画策したものと評価さ
れてもやむを得ない」というものであったのに対して,本件において,
同通達185のただし書に定められている20パーセントの評価減の
存在を利用して,相続税額の負担を軽減させようと画策したような事
情は全く存在していない。さらに,本件は,先代相続税事件における
争点である同通達185が定める法人税額等控除の適用の有無ではな
く,同通達185のただし書の適用が問題とされており,争点(問題
になっている適用条文)も異なる。),最高裁判決でもないことから,
本件に適用又は援用されるべきものではない。そもそも,上記各判決
は,現実に52パーセントの株式を本件13社に保有されている状態
であるにもかかわらず,取引先だから経営を支配しようと企てること
はあり得ないとする抽象論を展開するのみで,画一的に適用して処理
すべき課税を減少させる通達の定めを除外するものであり,誤りであ
る。のみならず,本件における出資持分の譲渡については,その譲渡
の際において本件13社がそれぞれ検討した内容や,P6に対する出
資についての認識などについて,上記各判決後に課税庁において実際
に行われた調査があり,その結果もあるにもかかわらず,これらにつ
いては処分行政庁が異なることを理由に提出を拒否し,それより前に
あった裁判例を援用すべきだとする被告の主張は失当というべきであ
る。
なお,被告は,準備書面(3)において,「本件各処分当時,本件13
社のうち,P14及びP11を除く他の11社に対する聴取調査」を
全く行っていなかったことを自認している。このように,本件で問題
とされている譲渡は13社あるにもかかわらず,そのうち,僅か2社
に対してしか調査を行っていないという事実は,処分行政庁が,事案
が全く異なる本件を先代相続税事件と全く同じであると安易に考えて
いた証左といえる。
c被告の主張の要点(別紙3)の2(1)オ(ウ)aの(a)から(c)までの
各事実については,本件が,本件13社によるP6の出資の取得の場
面ではなく,取得後の譲渡の場面であることを何ら考慮せずに,先代
相続税事件での主張をそのまま引用するもので,本件において評価通
達185のただし書を適用しない根拠にはなっておらず,これを適用
しない「特別の事情」にはならないというべきである。
d被告は,「本件13社各社は,互いに競業関係に立つ企業であるか
ら,これらが結託して,P6の経営権をP1一族から奪い取るという
ような事態も想定できない」と主張するが,このような事情が,何ゆ
えに評価通達185のただし書の適用要件を明らかに満たしている本
件において,その適用を排除できるのか定かではない。
(エ)a本件13社に対する税務調査の結果をまとめた各調査報告書(原
告ら訴訟代理人が別件の審査請求の際に東京国税不服審判所で閲覧し
たもの)には,以下のような記載があることが明らかになっている。
(a)P11
P11の担当者は,以下の旨を回答しており,議案の内容をチェ
ックした上で議決権行使をしていたことがうかがえる。また,よほ
どの案件の議案であれば,総会に出席をし,反対をする可能性もあ
ったことが示唆されている。
「総会については,よほどの案件の議案なら出席することもある
と思います。」(平成21年12月2日付けの調査報告書)
「業務が忙しくて出席できないのであり,出席しないというスタ
ンスであるわけではない。」(同)
(b)P13
P13の担当者は,以下の旨を回答しているが,議案の内容をチ
ェックした上で議決権行使をしていたことがうかがえる。また,議
案の内容などに特段の事由があれば,反対をする可能性もあったこ
とが示唆されている。
「総会に出席するかしないかについては機械的に決まっていて,
いままで特段の事由があったことはありませんし,出席の議案はす
べて賛同しています。」(平成22年1月25日付けの調査報告書)
(c)P14
P14の担当者は,以下の旨を回答しており,議案の内容をチェ
ックした上で議決権行使をしていたことがうかがえる。また,議案
によっては反対をする可能性もあったことが示唆されている。
「社員総会は,内容によっては出席したいということもあると思
いますが,利益処分案については基本的に異議は申し立てません。」
(平成21年12月1日付けの調査報告書)
(d)P15
P15の担当者は,以下の旨を回答しており,議案の内容をチェ
ックした上で議決権行使をしていたことがうかがえる。また,議案
の内容に問題があれば反対をする可能性もあったことが示唆されて
いる。
「総会については他の会社も含めて出席していません。」(平成2
1年12月21日付け調査報告書)
「スケジュールとの兼ね合いもありますが,何も問題なければ,
賛同するということで終わっています。」(同)
(e)P16
P16の担当者は,以下の旨を回答しているが,議案の内容をチ
ェックした上で議決権行使をしていたことがうかがえる。また,議
案の内容に特別な議論があれば,反対をする可能性もあったことが
示唆されている。
「総会については白紙委任ということになっています。議案につ
いても,利益処分案だけだったので,特別な議論はありませんでし
た。したがって,社員総会には出席していません。」(平成22年1
月25日付けの調査報告書)
(f)P17
P17の担当者は,以下の旨を回答しており,毎年出席をするか
しないか,委任状で議案について一任するか否かについてチェック
をした上で,議決権行使をしていたことがうかがえる。
「(保有する株式や出資の)総会については,出席することもあ
ると思うが,しないほうが多いと思う。P3の件で出席したことが
あるかはわからない。」(平成21年12月11日付けの調査報告書)
「総会等の案内がきたらそれぞれの部署に実際にこのような案が
きているということで,回付して,議決権の行使について一任する
ということであれば,委任状に印をつけて送付する。出席するとい
うことであれば,出席してもらうということで営業担当者が所属の
部署で判断する。」(同)
(g)P19
P19の担当者は,以下の旨を回答しており,議案の内容をチェ
ックした上で議決権行使をしていたことがうかがえる。また,議案
の内容によっては反対をする可能性もあったことが示唆されている。
「社員総会については,突飛な決議が行われていない限り,その
ままどうぞということになっていると思う。」(平成21年12月9
日付けの調査報告書)
(h)P20
P20の担当者は,以下の旨を回答しており,議案の内容をチェ
ックした上で議決権行使をしていたことがうかがえる。また,議案
の内容に疑義がある場合には反対をする可能性もあったことが示唆
されている。
「社員総会に出席したことはないと思う。決議案に疑義がない限
りは,案に賛成しています。(社内で)事前に決裁はします。」(平
成21年12月21日付け調査報告書)
(i)P22
P22の担当者は,以下の旨を回答しており,本件に限らず,出
資先の会社の総会には出席をしておらず,委任状によって議決権行
使をしていることが分かる。そして,出席をせずに委任状で議決権
を行使しているからといって,重要な議案がある場合にまで賛成す
るか否かは回答されていない。よって,少なくとも他の出資先と同
じ認識で出資を行い,議決権行使をしていたことが分かる。
「総会には出席していない。●とかの上場会社の株式ももってい
ますが,上場会社でもわざわざ株主総会に出席することはありませ
ん。」(平成21年12月21日付けの調査報告書)
b以上の各調査報告書にある記載内容は,課税庁が自ら行った調査の
結果をまとめたものであり,聴取者の署名押印がある答述書ではない
ため,その信用性については別途検証する必要がある。
しかしながら,他方で少なくとも前記aに列挙した記述のうち,課
税庁に不利益な内容については,実際に両事件に係る訴えにおいても
被告から証拠としての提出がなされていないことにも鑑みれば,その
ような回答がなされた可能性が高いと考えられる。
そうであれば,本件13社は,議案について検討した上で議決権を
行使していた会社の方が多いのであって,議案の内容によっては反対
する可能性があった会社の方が圧倒的に多かったといえる。少なくと
も,本件13社に,「独自の意思に基づいて議決権を行使する意図は
全くうかがえない」というような状況ではなかったことが明らかであ
る。
(オ)a原告ら訴訟代理人は,本件13社に対し,P6の経営参画につい
て,聴取を行っており,その結果(甲43から55までの各1)は以
下のとおりである。
(a)P11
P11の担当者は,P6の社員総会への出席及び経営参画につい
て,以下のとおり,回答している(甲55の1)。
「(1)社員総会への出席について
P6社の社員総会に限らず,株主総会や社員総会への「出欠」の
判断についての決裁基準は現時点でありません。当時もなかったと
思います。
(2)委任状の賛否について
他の保有する非上場会社も含め,議案への賛否など「委任状の提
出」に関して,内規はなく,ケースバイケースでの対応となります。
通常の決算承認と配当決議でしたら,一般的に稟議はありません。
株主総会の召集通知で内容を確認し問題がないと考えられる場合は,
営業担当の判断で賛成の委任状を提出ということもあります。
しかし,たとえば会社分割とかM&A,第三者割当など株式価値
に影響を与える議案があれば,稟議書を作成し,判断を仰ぐことに
なると思います。単純にお金の動きだけの判断ではありません。
後者の場合,議案に対して反対の意思表示をすることもあると思
います。
(3)決算報告書の検証と経営参画について
社員総会の資料として送付される決算報告書の検証について,P
42は,「詳しいことまで追いかけていません。」,「経営に関しても,
一切関与したことはありません。」と回答しています(調査報告書
(乙17)4枚目3行目)。
出資先会社の決算が赤字であるからといって,すぐに保有を見直
しということにはなりませんし,自らが直接経営に関与する目的で
保有しているものでもありませんが,社員総会の議案に反対しない
としても,決算報告書の内容は当然に確認します。P6社の場合は,
価格の妥当性に問題があると考えなかったため,株主の立場として
議案に賛成し,その結果,経営に直接関与しなかっただけだと思わ
れ,何があっても関与しないというのではありません。出資者です
から,出資者としての権利は当然に行使します。
したがって,結果として,直接関与していないから経営参画がな
いとは言えないと思います。これは,他の非上場会社についても同
様です。」
(b)P12
P12の担当者は,P6の社員総会への出席について,以下のと
おり,回答している(甲47の1)。
「P6の社員総会には出席せずに委任状を返しています。委任状
への捺印は本社でしか行えないので,送付されてきた委任状は一度
本社に送られ,総合管理部で内容をチェックして,特に問題がなけ
れば部長が押印します。この手続きは,P3さんだけではなく,当
社が出資している他の出資先についても同様です。P3さんを含め
他の出資先についても,議案に異議を述べることは,基本的にあり
ません。株主総会や社員総会に当社の営業担当者が出席しているケ
ースもありますが,それは基本的に先方から出てほしい,顔を出し
てほしいといわれているからということだと思います。
もちろん,どのような議案であっても賛成するということではな
く,当社の債権保全のために必要がある場合などには反対の意思表
示をすることもあります。いわゆる安定株主という形でP6に関与
してきたという認識でおります。」
(c)P13
P13の担当者は,P6の経営参画について,以下のとおり,回
答している(甲50の1)。
「【問】社員総会議案に対する賛同の委任状の提出と経営参画の
認識について
【答】経営参画の認識につきまして,調査報告書(乙25)では,
「一切ありません。出資については単体の事項であり,普段は営業
がP3さんとお酒の取引をしているというだけの認識です」との回
答となっておりますが,私の回答とニュアンスが異なります。
当社は,取引先及びその関係会社等に対する出資に限らず,上場
会社の場合も含め,保有する有価証券について,当社は安定株主で
あると考えております。したがいまして,営業上,何ら問題がなけ
れば,機械的に賛同し,委任状を提出するということです。
しかし,調査報告書(乙25)の直前の回答でも「今までに特段
の事由があったことはありませんし」と前提を述べているとおり,
それらが当社の資産である以上,議決権の行使時あるいはそれ以前
に,何らかのリスクが生じたケースにおいては,出資者としての権
利を行使することは当然ですし,実際にも行使しております。具体
的には,保有株式等について,その発行会社の倒産リスクの情報が
入った場合,重要財産の処分,役員の選任に関する問題など,時期
を間違えれば,その投資が回収不能となる場合もあります。このよ
うな場合は,総務課の分掌から外れ,営業の担当部署や経理等その
ときの事情に合わせた合議体で判断していくことになります。緊急
性により前後するかもしれませんが社長の確認もとります。
つまり,上記の調査報告書の回答は,このような事情が存しない
場合の取扱いであり,何か事が生じた場合には,全く異なるという
ことです。金銭を支出し,出資者となっている以上,その権利を行
使しないことはあり得ません。出資者としての権利は当然に行使し
ているのであり,それを放棄しているようなことはありません。本
件出資持分については,問題がないから議決権に賛同する委任状を
提出していただけです。」
(d)P14
P14の担当者は,P6の経営参画について,以下のとおり,回
答している(甲53の1)。
「社員総会には出席をしていなかったかもしれませんが,当社は
P6の出資者ですから当然に議案の内容についてチェックをしたう
えで判断をしています。無条件でということは絶対にありません。
ただ,実際に行われていた議案の内容が,配当,取締役選任,決算
書の承認といったことでしたので,特に異議を申し立てるような内
容ではなかったというだけです。配当については調査報告書でも回
答しているように,チェックをしています。結果として,P6社で
はむちゃな議案が出されることはなかったので,異議を申し立てる
ことはなかったというだけです。たとえば,競合大手の酒造メーカ
ーさんと何かをするとか,重要な取引を行うとかそういった当社に
とって不利益なことになるようなものがあれば,白紙委任というこ
とにはなりません。
また,P3さんは取引先ですので,その意味で大切ですけれども,
当社は他にも多くの取引先があり,P3さんだけが特別ということ
はありません。もしP3さんだけが特別だと国税の方が考えられて
いたのだとしたら,それは大きな事実誤認であり,ありえないこと
です。あくまでP3さんは,たくさんある大手の取引先の1社であ
り,他社とで差をつけて考えることはありません。ですから,議決
権の行使については他社の株式を持っていれば同様に,当社に不利
益な議案がなければ白紙で委任することになります。
調査報告書の3枚目には「経営に参画しているわけではありませ
ん」と書かれており,この部分にマーカーがぬられていますが,当
社は全くP6社の経営に参画する意図がないという意味ではありま
せん。あくまで積極的に経営に参画しようという意図があったわけ
ではないという意味です。ものいう株主のいうように,なんでもか
んでも駄目だしをして議案を通さないとか,そういうことはしてい
ないということです。配当もきちんとみていますし,会社のお金を
使って出資をしている以上,会社財産を棄損するわけにはいきませ
んから当然にチェックはしています。当社としてはそれはP3さん
に限らず,株式を所有している他の会社さんに対しても同様のスタ
ンスをとっています。」
(e)P15
P15の担当者は,P6の経営参画について,以下のとおり,回
答している(甲46の1)。
「【問】本件では,譲渡対価の額以外に,経営参画の有無が問題
となっています。毎期の社員総会には委任状を提出されていたとの
ことですが,委任状の提出までの手続きについて教えてください。
【答】P3さんの出資に限らず,総会資料の書面は総務に届きま
す。総務は資料を受領すると,営業の担当者に問い合わせ,営業が
出席を求めれば,営業に資料を渡しますし,営業が出席しない場合
は,総務部長が判断し,最終的には委任状の提出について社長の決
裁を受けます。
【問】委任状の提出は出資者の権利として行っているのであり,
白紙委任しているわけではないということでしょうか。
【答】そうです。」
(f)P16
P16の担当者は,P6社の経営参画について,以下のとおり,
回答している(甲54の1)。
「当社は,P6社の社員総会には白紙委任状を提出するだけで,
社員総会に出席しておりませんでした。議案自体も利益処分案ぐら
いだったと聞いております。仮に,利益処分案以外の重大な議案が
提出されていたとしたら,当社がどう対応していたかは分かりませ
ん。
調査報告書の2枚目に「社員としてP6さんの経営について検討
したことはありますか。」という質問に対し,「社員という立場で,
経営に参加している認識もありません。」という回答が記載されて
います。
この反面調査の際,当社は,「社員」のことを「従業員」という
意味と誤解して,従業員という立場でP6社の経営に参加している
認識はないという趣旨で答えました。
また,上記の回答に続けて「敢えて決算報告書の内容を分析した
こともありません。」という記載があります。これは,同決算報告
書の内容を詳しく「分析」したことはないということであり,毎期
送付されてくる決算報告書の内容は拝見していました。しかし,決
算書を見ているとはいっても利益が出ているか否かをチェックして
いたぐらいで他の事項には目が行っていなかったと思われます。」
(g)P17
P17の担当者は,P6の経営参画について,以下のとおり,回
答している(甲43の1)。
「P6に限らず,招集通知があっても出資先の総会には基本的に
は出席しないことが多いです。P6が特別ではなく他社も同じです。
ただし,会社にとってマイナスの影響がある決議事項があれば,出
資者として慎重な検討をしなければなりません。たとえば,バブル
崩壊後には解散であるとか,減損などもありましたから,そのよう
な大きな影響がありそうなときには,総会に出席したこともありま
す。また,減資とか第三者割当増資など当社の保有する株式等の価
値に影響を与える議案であれば,当然,総会に出席したり,議案に
反対するなどの議決権を行使することもあり得ます。P6社の場合
も同じです。ただ,出資をしていた間にそういった重要な影響があ
る決議事項がなかったというだけです。」
(h)P18
P18の担当者は,P6の経営参画について,以下のとおり,回
答している(甲52の1)。
「【問】社員総会に出席したことはなく,委任状を送付している
とのことですが,課税庁はこのことをもって,経営に参画していな
いと主張しています。
【答】平成3年から10年までは私は担当ではありませんでした
ので,総会に出席していたかどうかわかりませんが,平成11年以
降は出席しておりません。しかし,出資している他の会社も含め,
総会に毎回出席することは原則としてありません。議案に賛成の意
思表示をした委任状の提出が出資者としての正当な行為ですから,
これが経営に参画していないということにはならず,むしろ委任状
の送付が経営に参画していることだと思います。委任状の提出に際
しては,役員会の決議事項ではありませんが,役員に諮って社長決
裁を得て行っています。
【問】委任状に機械的に賛成の意思表示をしているというわけで
はないということですか。
【答】当然です。毎期,決算書が送られてきますので,その内容
と議案を見て,通常の動きであれば委任状を提出します。しかし,
特別のことや重要事項があったときは,総会に出席するか,事前に
会社に電話連絡してお話をうかがったりすることになります。その
結果,総会に出席することもありますし,また,議案に反対するこ
ともあります。
【問】特別のことや重要事項とは具体的にどういうことでしょう
か。P6についても総会に出席したり,電話したりすることになり
ましたか。
【答】たとえば,減資や営業譲渡という場合などです。P3さん
の場合もそうしたと思います。」
(i)P19
P19の担当者は,P6の経営参画について,以下のとおり,回
答している(甲44の1)。
「【問】本件ではP6社への貴社の経営参画の意図も争われてい
ます。この点についてどのように考えますか。
【答】そもそも持分4%では経営に参加できるとは思えませんし,
P3さんの場合はメーカーがみんなで参加しているということが大
事です。
【問】社員総会の議案に対し,白紙委任状が提出されていますが,
これはP3さんの場合だけでしょうか。
【答】P3さんだけではなく,当社は電鉄など上場株式も保有し
ていますが,ほとんどすべてが白紙委任状の提出となっています。
【問】そのような白紙委任状はどのような議案に対してもそうさ
れるのでしょうか。
【答】たとえば,解散,営業譲渡,財産の寄付などの議案が上程
されたら,意見をいうことになるはずです。どのような議案でも白
紙委任にするということでは決してありません。
【問】国側は白紙委任状の提出をもって,経営参画の意思がない
と認定しています。
【答】委任状を提出しているのですから,いわゆる名義貸しとい
う意味とは全く異なります。委任状の提出以外にも,配当も受領し
ていますし,実際に金銭を出資していたのですから,出資者として
の権利は行使していました。もし,営業譲渡や解散など重要な事項
が決議事項になったときには,当然ながら財務担当者にあげて検討
することになりますし,おかしいことがあれば営業担当者におかし
いということになります。」
(j)P20
P20の担当者は,P6の社員総会への出席について,以下のと
おり,回答している(甲45の1)。
「当社はおよそ50社に出資しており,半数以上は非上場会社だ
と思います。これらの会社の株主総会や社員総会についても基本的
には出席しておりません。経営状況が危ないというようなことがあ
れば営業担当者が出席したいと申し出るケースもありますが,稀な
ケースといえると思います。通常は,議決権行使書をチェックして,
議案の内容を検討して,委任状を出すということになります。議案
について,反対の意思表示をすることは基本的にはありません。
本件でも,P6社の社員総会には出席していませんが,P6社か
らは配当もいただいており,財務状況も問題がなく,毎期の議案に
も問題視するようなものはありませんでしたので,こういう会社で
あれば,P6社に限らずどこの会社であっても白紙委任状を出し,
あえて出席まではしないでしょう。もちろん,必要な検討をしたう
えで当社の判断として委任状を出すということで,そういう形で出
資者としての権利行使をしているという認識です。」
(k)P21
P21の担当者は,P6の経営参画について,以下のとおり,回
答している(甲48の1)。
「さらに,調査報告書3枚目の1つ目の質問に対する回答として
「どちらかというと配当を受領するための株主的なイメージです。
経営に口出しする必要もなく,いい出資先だということです」と記
載されていますが,配当をいただいていてきっちり経営されている
ので,十分利益出しているので内容に問題はないと思っているとい
う趣旨で回答したものです。経営に対して何も言わないという意味
ではありません。
同様に,調査報告書4枚目の3つ目の質問に対する回答として,
「(経営に参画しているという認識は)ありませんでした」と記載
されていますが,この趣旨は,ただの株主で経営に入り込むという
ことはないというイメージで,経営に問題はないという判断があっ
て口を出す必要がないということを言っているにすぎません。」
(l)P22
P22の担当者は,P6の社員総会への出席について,以下のと
おり,回答している(甲49の1)。
「当社は,現在,上場・非上場を併せて30社弱に対して出資し
ておりますが,P6社に限らず,出資先の株主総会や社員総会に出
席するということは,まずありません。また,出席する場合であっ
ても出席しない場合であってもすべて白紙委任状を出しています。
よほどのことがない限り,議案について反対の議決権行使をすると
いうことはないと思います。」
(m)P23
P23の担当者は,P6の社員総会への出席について,以下のと
おり,回答している(甲51の1)。
「P6の社員総会には出席していませんが,これは当社が出資し
ている他の出資先の株主総会や社員総会についてもいえることで,
P3さんの関係先だから出席しなかったというものではありません。
本件の場合で言えば,P6という名前からも分かるように不動産関
係の事業をやられていて,毎期配当もいただいているし,決算書を
見ても堅実に経営されているのだろうということがわかっていまし
たから,P6の経営に対して当社が口を出す必要を感じなかったと
いうことです。仮に会社を解散するとか,当社に非常に不利益を及
ぼすような議案が上程されるような場合でない限り,株主総会や社
員総会には出席しないことが通常です。」
b以上のとおり,本件13社は,P6に対して行っていた出資につい
ては,他社に対する出資と同様に行っていたものであり,社員総会で
の議案等について,何らチェックもすることなく,白紙委任状を提出
し続けていたということではない。本件13社は,そのほとんどが,
経営に影響を及ぼすような重要な議案があれば,出席をし,又は反対
の意思表示をした可能性も示唆しており,原告P1及びP3の関係者
の言いなりなどではなく,独立した第三者(出資者)として,P6の
社員総会における議案などについて検討を行うなど出資者としての共
益権をまっとうに行使していた。よって,本件13社は名目的な存在
にすぎず,何ら実権を有していないとか,本件13社に経営に参加す
る意図が全くなかったとする被告の主張は,事実誤認である。
したがって,このように誤認した事実を基に,原告P1の同族関係
者によって「実質的な支配」があったとする(そして,それを理由に
評価通達185のただし書の適用を排除できるとする)被告の主張に
は,理由がないことが明らかである。
cこの点について,被告は,「P6の株主としての議決権行使に係る
具体的な検討資料も添付されていない」などと指摘する。しかし,被
告と異なり,原告らには法律が定める質問検査権があるわけではなく,
企業の内部資料の提出まで簡単に求められるものではない。そもそも,
本件13社は,日本を代表する酒造メーカーであるばかりか,日本を
代表する上場企業(大企業)も多数含まれている。こうした多数の株
主を擁しコンプライアンスの要請が高度な企業の担当者が,出資先の
議決権行使に当たり,何もチェックもせずに白紙委任をすることなど
通常考えることができないし,仮に重要な議案が提出されることがあ
ったとすれば,それに対して無条件に賛成をしたと断ずることなど,
およそできないことである。
また,被告は,「いずれも両事件に係る訴えが提起された後に聴取
書が作成されたものであ」る「から」,「各担当者の回答内容は,全面
的に信用し難いものである」などと主張する。しかし,通常の訴訟に
おいても,訴訟が提起されて当該訴訟において問題にされているから
こそ,重要な関係者の供述(陳述)や回答を聴取して証拠化するもの
である。「両事件に係る訴えが提起された後に作成された」ことから
何ゆえ「全面的に信用し難いもの」になるのか理解し難い主張といわ
ざるを得ない。
同様に,被告は,「本件13社と原告らを含むP1一族とは密接な
利害関係があること」も,「全面的に信用し難い」理由として指摘を
するが,これも誤りである。本件13社は,上記のとおり,日本を代
表する酒造メーカーであり,日本を代表する上場企業(大企業)も多
数含まれている。こうした企業の担当者は,法令遵守(コンプライア
ンス)が強く要請され,徹底した管理がなされているものであり,仮
に何らかの利害関係がある場合であっても,虚偽の回答をすることは
およそあり得ないことである。そもそも,本件13社は,独立した経
営基盤をもつ企業であり(かつ,大企業が多い),P3との取引なく
して経営が成り立たないような会社ではない。酒類における卸売業者
については,P3の他に大手卸売業者も複数存在しており,かつ,地
方ごとに有力な卸売業者も存在している。したがって,酒造メーカー
としては,売上げが業界トップである卸売業者に拘泥しなければなら
ない理由はなく,他の卸売業者に切り替えることは酒造メーカーの自
由な判断でいつでも行うことができる状況にあった。そのようにして
取引関係を切られる可能性があるのはむしろ卸売業者であるP3の側
であった。このような関係の下で,取引先に出資持分を取得してもら
うことは,取引先であるから出資持分を取得したという側面が仮にあ
ったとしても,ことさら「密接な」「関係」があると考えることは,
およそ困難である。この点において,被告が両事件に係る訴えで何の
裏付けもなく「P1一族」との「密接な利害関係」といった暗示を込
めた言葉を使っていることは,本件の事実を正確に把握する際に,誤
導を引き起こすおそれがある極めて失当な主張というほかない。
(カ)P9についての相続に関する課税処分及び先代相続税事件において
否認されたために本件P6出資の本件13社からの譲受けがなされたと
する被告の主張は,何ら証拠に基づかない憶測にすぎない。本件P6出
資の本件13社からの譲受けは,ガバナンスの見直しのために行われた
ものにすぎない。
そもそも,一般論としては,日本を代表する大手酒造メーカー等の本
件13社が,他社の言いなりになって,譲渡をするか否か,その価額が
適正か否かを判断するはずなどない。
実際にも,本件13社は,そのほとんどが,価額が適正か否かについ
て検討をした上で,適正であると判断したため譲渡に応じたものであり,
中には酒造メーカー等の方から譲渡をしたいと考えていたときの提案で
あり応じた会社もあり,財産の低額譲渡に当たるか否かという税務リス
クまで検討した上で譲渡に応じたことが明らかな会社もある。
したがって,「本件13社の全社がごく短期間にほぼ一斉に買取要請
に応諾した,すなわちP1一族が容易に本件P6出資の買戻しをするこ
とができたこと自体,P1一族がP6を実質的には支配していたことの
証左というべきである」という被告の主張は,事実を全く無視した憶測
にすぎず,誤りである。
(キ)課税における法的安定性,納税者の予測可能性及び租税平等主義の
観点からすれば,納税者に課税上有利に働く通達の規定について「特別
な事情」を安易に認定して,当該通達の規定の適用を排除することは許
されるべきではなく,少なくとも,当該通達を適用しないと主張する課
税庁の側で,「租税負担の実質的公平を損なうことが明らかである」こ
と,すなわち,「評価通達に定める評価方式によらないことが正当と認
められる特別の事情があること」を立証しなければならないはずである。
通達に明確な定めがあるにもかかわらず,被告の主張のようなあいまい
な「実質的」な「支配」なるもので,その規定の適用の有無が左右され
る法の解釈及び適用は許されるものではない。
結局のところ,被告の主張は,「実質的」な「支配」という,あいま
いな事情が認定できさえすれば,本来は適用されるべき租税法規の規定
(本件においては評価通達185のただし書,さらには後記オで述べる
同通達188(1))の適用を除外することができるという主張であり,
裁量課税に等しい。
したがって,この点における被告の主張は,課税における法的安定性
及び納税者の予測可能性にも反することが明らかである。
(ク)さらに,これまで,経営参画の意図や,支配力の観点などという通
達の規定には全く記載のない「適用限定要件」を認めた事例は,被告が
強調する先代相続税事件以外には存在しない。ということは,先代相続
税事件を含め,P3(及びその関連する会社)に対してのみ,評価通達
について他の事例とは異なる不利益な取扱いをし,その適用を排除して
いるものということができる。このような取扱いは,納税者の公平な税
負担という観点から求められる租税平等主義(憲法84条,14条)に
違反することが明らかである。
(ケ)そうすると,本件P6出資の評価が配当還元方式によらないことと
なった場合でも,評価通達185のただし書の規定の適用を排除すべき
理由は存在しない。
オP6の保有するP3の株式の評価額を類似業種比準方式によって算定す
べきとする被告の主張について
(ア)P3は,P6によって,議決権総数の4分の1以上である28.5
7パーセントの株式を保有されているから,P6の議決権を有しておら
ず(有限会社法41条,商法241条3項),P6における同族関係者
グループは,原告P1とその同族関係者であるP4(P4は原告らによ
って66.67パーセントの持分を保有されているから,P4は原告P
1の同族関係者に該当する。)のみであり,当該グループが有する議決
権の割合はP6の議決権総数の31.57パーセントにすぎない(なお,
被告は,被告の準備書面(2)において初めて議決権割合を訂正しており,
本件各処分は,P3がP6の議決権を有していないことを考慮すること
なくされたことが明らかである。)。
そうすると,評価通達188(1)の定めによれば,P6は,原告P1
及びP4の同族株主グループによって議決権総数の50パーセントを超
えて株式を保有されていないから,同人らの同族関係者に該当しない。
そして,P3において,原告P1及びその同族関係者(上記のとおり,
P6は含まれない。)が有する議決権の数の割合は,議決権総数の30
パーセント以上である43.50パーセントであるから,P3は同族株
主のいる会社に該当し,P6は,P3における原告らの同族株主グルー
プに属さず,単独では議決権総数の30パーセント未満である28.5
7パーセントの株式を保有するのみであるから,P6はP3の同族株主
に該当せず,同族株主以外の株主に該当する。したがって,P6が保有
するP3の株式の評価額は,同通達179に基づく類似業種比準方式で
はなく,同通達178のただし書及び同通達188-2に基づき,配当
還元方式により算定すべきである。
(イ)被告は,原告P1とP4が,議決権総数の3分の1にも満たないわ
ずか31.57パーセントを保有しているにすぎないP6について,原
告らが実質的に支配していたとして,特別な事情があるから,同社が保
有するP3の株式を配当還元方式ではなく,類似業種比準方式により評
価すべきであると主張する。
しかし,P6において議決権のないP3がP6を支配することはでき
ないから,P6が,原告P1及びP4によって,議決権総数の30パー
セント以上の議決権を有されることにより,一定程度は支配されるとし
ても,原告P1の同族関係者たり得ないP6が,なぜP3を含む「P1
一族グループ」により実質的に支配されることになり,P6がP3の
「同族株主」になるのか,全く根拠が示されていない。被告の上記主張
は,前記エでも述べたとおり,原告らがP6を「実質的に支配している
こと」について,具体的な主張及び立証がないばかりか,主張自体が失
当というべきであり,原告らがP6を支配していない以上,被告の主張
する評価通達に定められた評価方式を画一的に適用することが著しく不
適当と認められる特別の事情はない。
そもそも,支配関係についてはその事実認定が極めて困難であること
から,評価通達は,法人税法施行令4条2項各号によって,確固たる支
配関係のある場合として,同族関係者の判定を議決権総数の50パーセ
ント超か否かにより判定し,その上で,株主の1人及びその同族関係者
により構成される同族株主グループが議決権総数の30パーセント以上
の割合を有する場合には,一定程度の支配関係がある場合とみなして,
その同族株主が有する株式等について,原則的な評価方式である類似業
種比準方式等を適用することとしているのであり,総会への欠席や白紙
委任状等の提出から同族関係者の判定をするというのであれば,同通達
にその旨を定めた上で,適用すればよいにもかかわらず,安易に総会へ
の欠席等により「実質的な支配による同族関係者の判定」が認められる
とすると,「同族関係者」の判断基準が,課税庁に必要以上に裁量を認
めるものとなり,一方,納税者にとっては不明確で予測可能性のないも
のとなる。このような不明確かつ予測不能な基準をもって「同族関係者」
ひいては「同族株主」の判定を行い,当該判定に基づき,株式の評価方
法を決定することは,公正な取引市場における取引がなく,時価の算定
が極めて困難である取引相場のない株式について,画一的な基準で評価
方式を定めることとした同通達の趣旨にも反し,法的安定性を著しく害
することになる。
そうであるからこそ,同通達188(1)が,画一的に同族関係者をそ
の保有する議決権の数の割合を基準として判定することとしているので
あり,そのような同通達に合理性があることは多くの裁判例が認めると
ころであり,課税実務上も定着していることからすれば,被告の上記主
張が失当であることは明らかである。なお,通達の定めを納税者の予測
可能性の観点から文言どおりに解釈して適用すべきことを判示した裁判
例もある。
被告の主張は,端的には,「同族関係者」の判定に当たっては,賛成
の議決権しか行使しない者が有する議決権の数は,議決権の総数に加え
ずに判定をするということに等しく,会社法,同令及び同通達の規定並
びにその趣旨を否定するものであり,失当である。
したがって,同通達188(1)の定めによらず,「実質的な支配」をも
って,同族関係者及び同族株主の判定をし,P6が保有するP3の株式
を類似業種比準方式によって評価するとした被告の主張には合理的な理
由がない。
(ウ)なお,確かに,P3の従業員であるP28による報告書(乙24)
においては,P6がP3の同族株主であることを前提に評価がされてい
るが,だからといって,被告が自ら発した通達に反し,「同族株主」及
び「同族株主のいる会社」の判断基準を変更し,課税処分を行ってよい
というものでないことは当然である。
(2)本件各譲渡に係る本件P6出資の時価は本件13社が本件各譲渡後にP
4に対してした譲渡の対価の価額である1口当たり5000円であるといえ
るか(争点(2)イ)について
ア原告らの主張の概要
(ア)市場価格のない株式等の時価の算定方法
a時価とは,客観的な交換価値をいい,それは,評価時点において,
不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常成立する価
額をいう。本件でも,そのような意味での本件P6出資の時価が探求
されなければならない。
b活発な取引の行われる上場株式等の市場価格は,完全競争市場価格
に近似する価格であることから,一般に不特定多数の当事者間で成立
する価格といえる。一方,本件のような市場価格のない株式等の場合,
上記の意味における市場は存在しないものの,現実に売買が行われ,
そこで成立した価額が,当該株式等の客観的交換価値を適正に評価し
て決定されたと認められる限り,当該売買取引において成立した価額
は時価を表すものと考えることができる。したがって,市場価格のな
い株式等の時価を算定するに当たり,現実に行われた売買取引で成立
した価額を用いることは,時価評価の有力な手法の1つであり,裁判
例においても合理的な評価方法であると認められているものである。
(イ)本件P6出資をめぐる売買実例の存在及びその適正性
a本件P6出資については,平成17年10月から同年12月にかけ
て,本件13社からそれぞれ,各4000口を各2000万円(1口
当たり5000円)でP4に譲渡されている。後記bのとおり,1口
当たり5000円という価格は,我が国でも著名な複数の企業が,そ
の価額を適正に評価した上で成立した金額であり,本件13社との間
で行われた売買が適正な売買実例であることに疑いはない。
b本件P6出資に係る売買契約の相手方である本件13社は,いずれ
も著名な企業である。そして,本件13社と本件P6出資の購入者で
あるP4との間には,資本関係は全くなく,同族関係にもなく,役員
の兼任といった事実もない。したがって,本件13社とP4との間に
は何ら支配・被支配関係がなく,互いに独立の立場にあることは明ら
かである上,本件13社は,相互に市場において競合・競争する関係
にある。
また,本件13社においては,平成17年8月25日付けで,P6
からの「有限会社P6出資金買受の件」(甲14,乙8)と題する書
面の送付を受け,各社で必要な検討及び稟議等を経て,1口当たり5
000円で譲渡することをそれぞれ意思決定したものである。当該書
面においては,売買単価につき,「(1口当たり5000円の)算定根
拠ですが,毎期5%の配当を実施しておりまして,配当還元方式です
と1口500円となり,その10倍と致しました。参考ですが,類似
業種比準価額は1,406円(別紙Ⅰ),簿価純資産価額は3,01
0円(別紙Ⅱ)となっておりますので詳細は,別紙をご参照ください。
なお,税務上の問題ですが,非上場の有価証券につきましても時価で
売買することになりますが,第三者の法人間の取引は経済的合理性に
基づいて相対で決めた金額が時価となります。なにとぞ,ご検討のう
えご承諾下さいます様,お願い申し上げます。」と記載されている。
このように,本件13社は,それぞれ,過去の配当実績,書面に添
付された類似業種比準価額及び簿価純資産価額の算定根拠を検討した
上で,1口当たり5000円が適正な時価であると考えたからこそ,
譲渡に応じたものである。
なお,本件各譲渡は平成17年3月31日に行われたものであるが,
当該譲渡の時点から上記の本件13社による譲渡の時点までに,P6
の財産の状況,経営成績及び事業の見通し等に大きな変動はない。
原告らが主張する売買実例は,以上のような過程を経て成立したも
のであり,これら13社もの相互に独立した当事者間において行われ
た売買が,本件P6出資の客観的交換価値を正当に評価した上で成立
した適正な売買実例に当たることは明らかである。
(ウ)また,前記(1)のとおり,本件P6出資の時価を評価通達に従って
算定した場合,P3に対して譲渡されたものは1口当たり500円,P
4に対して譲渡されたものは1口当たり1011円と算定されることに
なり,本件13社との売買実例に基づく譲渡価額(1口当たり5000
円)は,これらよりもむしろ高額であるとも考えられるから,売買実例
額を適正な時価とする原告らの主張が正しいことが裏付けられる。
イ被告の主張の要点(別紙3)の2(2)アの事情について
(ア)本件13社が,仮に「P3との良好な取引関係を継続する」目的で
本件P6出資を取得したものであるとしても,そもそも取得に引き続く
売却が一連の取引として当初から予定されていたような例外的な場合を
除き,取得時の事情が売却時の売買実例の適正性に影響を与えることは
ないというべきである。また,仮に「P3との良好な取引関係を継続す
る」目的が本件P6出資を取得する動機となっていたとしても,取引関
係の維持のために取引先に出資することは一般的に行われていることで
あり,売買実例の適正性を否定する特殊事情とは到底いい得ない。譲渡
制限に係る定款変更が行われたとの事実についても同様である。
すなわち,我が国では,非上場有価証券の多くに譲渡制限が付されて
いることは周知の事実であり,本件P6出資が原告らの株主グループと
は外部の本件13社により保有されたことを契機に,同出資について譲
渡制限を付することは,何ら特別なことではない。また,同様に,取引
関係の強化を目的として取引先の株式等を保有することは,上場会社を
含め,一般に行われていることであり,本件13社が「P3との良好な
取引関係を継続する」ことを目的として本件P6出資を取得したもので
あるとしても,そのような事情が売買実例の適正性を否定する要素とな
ることはないというべきである。
そもそも,非上場株式・出資持分の譲渡の受け皿となるのは,親族や
取引先であるのが通例であって,取引関係が存在するとの一点をもって
本件13社が原告らの言いなりになって譲渡に応じたと考えたのでは,
非上場株式・出資持分について売買実例に基づく価額が適正と判断され
る余地はないことになろう。
(イ)後記ウのとおり,本件13社は,それぞれ,過去の配当実績,書面
(甲14,乙8)に添付された類似業種比準価額及び簿価純資産価額の
算定根拠を検討した上で,1口当たり5000円が適正な時価であると
判断し,譲渡に応じたものである。この点については,少なくとも,被
告の主張のごとく,本件13社のうちたった2社の報告の一部の記載
(乙18)を根拠として,「他の11社の本件P6出資の売却の理由も
これと同様と推認」することは許されない(なお,乙18の作成者は税
務署職員であり,その内容は税務調査を担当した職員の陳述書である。
これは,反対尋問を経ておらず,被告側の立場にある職員が,両事件に
係る訴えの提起から約11か月後に作成したものであり,その信用性は
極めて低い。また,乙18に添付された別紙1は,聴取書とは作成時期
の異なる別の書面であるが,当該別紙については作成者及び作成日付の
記載がなく,作成者の署名押印もない上,その記載内容についてP14
及びP11への確認はなされていないことから,同様に信用性は極めて
低いと考えるべきである。乙18の信用性をおくとしても,それの別紙
1の記載の中には,むしろ原告らの主張を裏付ける回答内容が散見され
る。)。
また,被告は,本件13社による本件P6出資の譲渡が,P6からの
売却の依頼から「極めて短期間」に行われた点をも指摘する。しかし,
そもそも売却の依頼から売買契約まで2ないし4か月の期間があったこ
とが「極めて短期間」であると評価することには疑問がある。保有する
有価証券等を売却するか否かということを決定するのに,上記の考慮期
間はむしろ極めて妥当な期間であると考えられる。
さらに,被告は,本件P6出資の譲渡を依頼する文書(甲14,乙8)
が,買主ではないP6の名義であること,問い合わせ先としてP3の経
理部副部長名が記載されていることを挙げて,本件13社からの本件P
6出資の買受けが「P27グループ全体での取引であると認められる」
と主張するが(なお,「P27グループ」なるグループがいかなる関係
及び当事者を指すのか不明である。),ここでの問題は,上記の買受けの
当事者であるP4と本件13社が相互に独立した当事者間といえるかど
うかであり,本件13社が原告らの同族関係者でないことは明らかであ
るから,被告の上記主張は全く失当というほかない。
(ウ)被告は,「○」や「○」といった情報誌において,「得意先」や「仕
入先」と記載されていることやP14及びP17の有する売掛金等の総
額に占めるP3に対する売掛金等の残高の割合が「小さくない」ことか
ら,本件13社が「主要な」取引先であると主張する。
資本関係や人的関係を殊更に軽視して取引に係る背景事情等のみから
第三者性を判断することの不当性をおくとしても,上記のような情報誌
において取引先である旨の記載があるからといって「主要な」取引先で
あると結論するのは短絡的にすぎるし,また,取引に係る債権残高が
「小さくない」という程度で本件13社が独立した当事者であることを
否定されることが不当であることは明らかである。そもそも,主要な取
引先であるかどうかということと,独立した第三者であるかどうかとい
うこととは直接の関係がない。また,「主要な」取引先であるかどうか
は,曖昧で不明確な基準であり,被告の恣意的な課税を抑止する観点か
らも認められるべきではないし,どの程度の取引規模であれば第三者性
が否定されるのかを納税者として把握することができず,結果的に曖昧
で不明確な基準に基づく恣意的な課税とのそしりを免れないこととなろ
う。なお,被告は,本件13社の取引全体に占めるP3との取引の割合
を示すことによって,本件13社にとってP3が主要な取引先であるか
どうかを立証することを意図していると推察するが,売掛金や受取手形
の残高は,単に一時点における残高を示すにすぎず,ある期間を通じて
の取引規模の大小を示すものではないことを付言しておく。
ウ本件13社は,譲渡価額等について十分に検討した上で,合理的な経営
判断として譲渡に応じたものであること
(ア)本件13社に対する税務調査の結果をまとめた各調査報告書には,
要旨,以下のとおりの記載がある。
aP11
P11の担当者は,以下の旨を回答しており,同社が譲渡価額につ
いて適正かどうかを自ら判断した上で譲渡に応じたこと,価額によっ
ては反対をした可能性もあったことがわかる。
「買戻しについては,資料や計算書から1口5000円なら,まっ
たく低廉でもない。見合い相当の金額で買い戻してくださいというこ
とだったので,応じた。」(平成21年12月2日付けの調査報告書)
「簿価に対して2000万円ということなので反対する理由はなか
った。額面より低ければ,せめて額面でという話にはなると思いま
す。」(同)
以上の検討に基づき,平成17年10月13日,同社は本件P6出
資を総額2000万円(1口当たり5000円)で譲渡した(乙9の
1)。
bP13
P13の担当者は,以下の旨を回答しており,同社が譲渡価額につ
いて適正かどうかを自ら判断した上で譲渡に応じたこと,価額によっ
ては反対をした可能性もあったことがわかる。
「1000円で購入し5000円という高倍率で譲渡したわけです
から,額的にも合理性があった譲渡だと認識しています。」(平成22
年1月25日付けの調査報告書)
以上の検討に基づき,平成17年10月5日,同社は本件P6出資
を総額2000万円(1口当たり5000円)で譲渡した(乙9の
3)。
cP14
P14の担当者は,以下の旨を回答しており,同社のほうで譲渡を
しようと考えていたところに提案があったため,応じたものであった
ことが分かる。
「所有していた株式について処分を進めていたところに,P3さん
から買い戻しの依頼があった。こちらとしては,会社に譲渡制限を外
すことや買い戻し先の紹介を依頼していたので(本件P6出資の場合
も)断る理由はなく応じた。P3さんからの話は,渡りに船だった。」
(平成21年12月1日付けの調査報告書)
以上の検討に基づき,平成17年10月17日,P14は本件P6
出資を総額2000万円(1口当たり5000円)で譲渡した(乙9
の4)。
dP15
P15の担当者は,以下の旨を回答しており,同社が譲渡価額につ
いて適正かどうかを自ら判断した上で譲渡に応じたこと,価額によっ
ては反対をした可能性もあったことがわかる。
「売買価額は,取得価額の5倍なので,売ってもいいかなというこ
とだったと思う。低いということであれば,検討したかもしれません。
少しはもうかったという感覚だったと思います。」(平成21年12月
21日付け調査報告書)
以上の検討に基づき,平成17年10月4日,同社は本件P6出資
を総額2000万円(1口当たり5000円)で譲渡した(乙9の
5)。
eP16
P16の担当者は,以下の旨を回答しており,同社のほうで譲渡を
しようと考えていたところに提案があったため,応じたものであった
ことがわかる。
「400万(1000円)が2000万(5000円)で,合理性
があると考えた。」(平成22年1月25日付けの調査報告書)
「1000円より低い価額だった場合には,会社の状況による。な
んともいえない。」(同)
以上の検討に基づき,平成17年10月4日,同社は本件P6出資
を総額2000万円(1口当たり5000円)で譲渡した(乙9の
6)。
fP17
P17の売却当時の担当者は,以下の旨を回答しており,同社が譲
渡価額について適正かどうかを自ら判断した上で譲渡に応じたこと,
価額によっては反対をした可能性もあったことが分かる。
「P3からの申し出があったとしても,譲渡価額が適正かどうかは
判断する必要がある。P3でもすべて引き受けることではない。別段
不利益でなかったので,適正な価額での売却だと判断した。」(平成2
1年12月11日付けの調査報告書)
「譲渡価額も,類似業種比準価額,簿価純資産価額が示され,それ
に対し5000円であることから,妥当な価額であると判断した。1
000円以下でも,ある程度合理的根拠があれば,そのような結論
(譲渡)もあったかもしれない。」(同)
以上の検討に基づき,平成17年10月11日,P17は本件P6
出資を総額2000万円(1口当たり5000円)で譲渡した(乙9
の7)。
gP18
P18の担当者は,以下の旨を回答しており,同社のほうで譲渡を
しようと考えていたところに提案があったため,応じたものであった
ことがわかる。
「価額については取得価額の5倍なので応じたという記憶。」(平成
22年1月25日付けの調査報告書)
「当社は,この時期に全社的な出資の見直しを行っていた時期であ
り,P3に限らず出資を回収する方針で動いていた。そのときに依頼
があり,当社としては断る理由はないことから譲渡に応じた。」(同)
以上の検討に基づき,平成17年10月5日,P18は本件P6出
資を総額2000万円(1口当たり5000円)で譲渡した(乙9の
8)。
hP19
P19の担当者は,以下の旨を回答しており,同社が,譲渡価額に
ついて,税法上の財産の低額譲渡に該当しないかも含めて適正かどう
かを自ら判断した上で譲渡に応じたこと,価額によっては反対をした
可能性もあったことが分かる。
「専門的な部署に話をもっていき,配当を毎期5%いただいており,
5000円で買い戻しとの提案なので価額に問題はないと判断された
ので応じた。」(平成21年12月9日付けの調査報告書)
「著しく低い価額であれば税務的には寄附金とか受贈益ということ
がでてくると思いますが,著しく低い価額ではないと判断したのだと
思います。」(同)
以上の検討に基づき,平成17年12月6日,同社は本件P6出資
を総額2000万円(1口当たり5000円)で譲渡した(乙9の
9)。
iP20
P20の担当者は,以下の旨を回答しており,同社が譲渡価額につ
いて適正かどうかを自ら判断した上で譲渡に応じたこと,価額によっ
ては反対をした可能性もあったことがわかる。
「譲渡価額は,譲受価額が1000円なんで,それ以上の条件なら
譲渡してもよいという考えである。」(平成21年12月21日付けの
調査報告書)
以上の検討に基づき,平成17年10月4日,同社は本件P6出資
を総額2000万円(1口当たり5000円)で譲渡した(乙9の1
0)。
jP21
P21の担当者は,以下の旨を回答しており,同社が譲渡価額につ
いて適正かどうかを自ら判断した上で譲渡に応じたこと,価額によっ
ては反対をした可能性もあったことがわかる。
「簿価1000円が5000円なので,いい額だと思った。評価額
の記載もあったので,特に不利な条件でないので,申し出に応じた。
いい価額なので売ったらと私は伝えた。会社の方針としても売りたい
ということだった。」(平成21年12月21日付けの調査報告書)
以上の検討に基づき,平成17年11月9日,同社は本件P6出資
を総額2000万円(1口当たり5000円)で譲渡した(乙9の1
1)。
kP22
P22の担当者は,以下の旨を回答しており,同社が譲渡価額につ
いて適正かどうかを自ら判断した上で譲渡に応じたこと,価額によっ
ては反対をした可能性もあったことがわかる。
「配当還元価額より低ければ検討したが,5000円は譲渡しても
文句はいえない。」(平成21年12月21日付けの調査報告書)
「売買価額と買入価額を差し引きし,プラスになっていれば損はな
いという判断だった。」(同)
以上の検討に基づき,平成17年10月5日,同社は本件P6出資
を総額2000万円(1口当たり5000円)で譲渡した(乙9の1
2)。
lP23
P23の担当者は,以下の旨を回答しており,同社が譲渡価額につ
いて適正かどうかを自ら判断した上で譲渡に応じたこと,価額によっ
ては反対をした可能性もあったことがわかる。
「通常であれば,下がっているのが一般的ですが,価額が上がって
いたので,●にも通しやすいと思いました。帳簿価額が上回っていれ
ば応じた。」(平成22年1月25日付けの調査報告書)
以上の検討に基づき,平成17年10月5日,同社は本件P6出資
を総額2000万円(1口当たり5000円)で譲渡した(乙9の1
3)。
(イ)原告ら訴訟代理人は,本件13社に対し,本件P6出資の譲渡につ
いて,聴取を行っており,その結果は以下のとおりである(なお,聴取
内容を記載した聴取書(甲43から55までの各1)は,いずれも,原
告ら訴訟代理人がとりまとめ,本件13社の担当者がその内容について
誤りのないことを確認したものである。)。
aP11
P11の担当者は,主として以下のとおり回答しており,同社がP
4とは独立した当事者としての立場で,譲渡価額について十分に検討
し,合理的な経営判断として譲渡に応じたことを明らかにしている
(甲55の1)。
「通常は,提示されたままの金額で,即,了解ということはありえ
ません。適正な価格であるかについては,少なくとも簿価純資産額は
検討します。本件では,時価が5000円より高額であったという指
摘を受けているようですが,P3さんからは評価額も提示されていた
ようですし(乙17の8),それ以上に時価純資産価額の算定までは
行わなかったということです。どこまで評価をするかは案件によると
思います。・・・取引先だからといって,相手先の言いなりではない
ということは,会社である以上当然です。」
「譲渡価格につきましては,譲渡事業年度の監査法人による監査に
おいても,その後の税務調査においても全く問題とされたことはあり
ませんでした。」
bP12
P12の担当者は,主として以下のとおり回答しており,同社がP
4とは独立した当事者としての立場で,譲渡価額について十分に検討
し,合理的な経営判断として譲渡に応じたことを明らかにしている
(甲47の1)。
「当社では取引先から出資の要請や株式取得の要請があった場合に
は,よほど当社にとってマイナスになるということがなければ応じて
います・・・それはP3さんに限らず他の取引先に関しても同じなの
で,P6出資の取得に際しても数ある出資要請の中のひとつ,という
位置付けであったと思います。」
「本件では,P3さんから参考価格を示してもらったうえで,買取
金額の提案を受けていますので,これらの価格を検討し,稟議決裁の
手続きを経て,譲渡に応じました。また,取得価額との比較,特に簿
価を下回るかどうかという点は必ず確認しております。仮に,参考価
格がなかった場合には,P3さんにお願いして何らかの根拠を示して
もらうことになると思いますし,そうしていただけなければ稟議書を
起案することもできません。1口5000円で譲渡したということは,
役員会においてその金額は適正であるという判断に至ったものと考え
ています。」
「調査報告書3枚目の1つ目の質問に対する回答で,簿価を「たと
え下回ったとしても譲渡に応じたと思います。」という記載も,価格
の根拠資料を拝見して,当社が納得した場合には,そういうこともあ
りうるということで,P3さんの関係であることを考慮して,特別扱
いをするという意味ではありません。そもそも,P3さんに限らず,
そういうことはできません。確かにP3さんのシェアは大きいですが,
それは主として営業の窓口の問題で,管理部としては多くの取引先の
中の1社という意識が強いかと思います。したがって,本件出資持分
が仮にP3さんの関係先でなかったとしても,当社の判断結果はまっ
たく同じになると思います。」
「本件出資持分譲渡後にも当社に対して税務調査が入っていると思
いますし,会計監査も毎期受けておりますが,1口5000円という
譲渡価格について何らかの指摘を受けたという事実はございません。」
cP13
P13の担当者は,主として以下のとおり回答しており,同社がP
4とは独立した当事者としての立場で,譲渡価額について十分に検討
し,合理的な経営判断として譲渡に応じたことを明らかにしている
(甲50の1)。
「【問】譲渡時の価格について
【答】譲渡時の出資持分の評価額についても,調査報告書(乙25)
では,「他社も含めて評価額については検討したことがありません」
との回答となっておりますが,この点も回答の際の「検討」のニュア
ンスが伝わっていないように思います。
決算報告書が毎期送付されてきますので,それを読まないというこ
とは決してありません。この意味では,譲渡に際しましても,検討は
しました。ただし,詳細な時価評価となりますと,決算書から知り得
る範囲内でしか現実に「できない」ということであり,この意味では
検討したことがないということになります。
本件出資持分の譲渡に際し,提示された5000円という額は,決
算書の財産状態が大きく変わっているわけではないのに,当初100
0円で取得したものが,14年で5倍ということになるので,当社に
とっては経済的合理性のある価格であるという検討はしました。P3
さんからの提示額に対し,全く検討せずに言い値に応じた,P3さん
の言いなりだったというわけではありません。」
dP14
P14の担当者は,主として以下のとおり回答しており,同社がP
4とは独立した当事者としての立場で,譲渡価額について十分に検討
し,合理的な経営判断として譲渡に応じたことを明らかにしている
(甲53の1)。
「今回の出資持分譲渡につきましては,P3さんから提示された計
算書がありましたので,それをベースに社内で協議をしました。その
結果,5000円という価格は適正な価格であるという判断をして決
裁(乙18の2)をしました。もしP3さんから安い価格での提案が
あった場合や何の根拠もなく価格が提示されてきたような場合には,
当然価格の根拠を問い合わせすることになりますし,その価格が安す
ぎるということであれば時価で買って欲しいということはいいます・
・・。
調査報告書の3枚目に,「1000円でも買い戻しましたか」とい
う質問があり,「そういう判断もあったと思います」と回答したこと
になっていますが,これは少なくとも譲渡して損は出せないという意
味です・・・P3さんから提示された金額を鵜呑みにして当社が応じ
るなどということはしません。」
「決裁申請にあるとおり,社内で協議した上で5000円は適正価
格だと決定していますとしかお答えしようがありません。非上場株式
のため,これより高い値段になると判断する情報は全く持っておらず,
従って寄付をしたという認識も当然持っておりません。」
eP15
P15の担当者は,主として以下のとおり回答しており,同社がP
4とは独立した当事者としての立場で,譲渡価額について十分に検討
し,合理的な経営判断として譲渡に応じたことを明らかにしている
(甲46の1)。
「調査報告書の3枚目の下から2番目の質問に対する回答の部分
(譲渡価額5000円についての検討部分)です。私は,「ルール」
という言葉を使用したかどうかはっきりと覚えていませんが,この場
合のルールは「価格の適正性の判断」という意味だと思います。」
fP16
P16の担当者は,主として以下のとおり回答しており,同社がP
4とは独立した当事者としての立場で,譲渡価額について十分に検討
し,合理的な経営判断として譲渡に応じたことを明らかにしている
(甲54の1)。
「通常の株式の売買の場合と同様に考えれば,平成3年というバブ
ル期に400万円で購入したものが13年後に2000万円で売却で
きるのですから,利益が出て,経済合理性のある取引だったと思いま
す。バブル期に購入したものですから,その後に価値が下がって,例
えば取得価額の400万円以下となっても,資産が塩漬けになるより
は現金化できるほうがいいと考えることもあり得ます。」
gP17
P17の担当者は,主として以下のとおり回答しており,同社がP
4とは独立した当事者としての立場で,譲渡価額について十分に検討
し,合理的な経営判断として譲渡に応じたことを明らかにしている
(甲43の1)。
「譲渡価格については「P3さんから評価した書類もあるので,金
額には従った(あまり疑問はなかった)」のではなく,類似業種価格
や純資産価格といった根拠も示していただいていますし,当社として
も金額の適正はきちんと検討したうえでこの価格は妥当だという判断
をしています。P3さんの言うことだから従ったという表現には違和
感があります。」
「調査報告書の4枚目の上から2つ目の「(答)」の8行目に「業界
ナンバーワンのP3さんからの要請に応じ」という記載がありますが,
そのようなことはいっていないと思います。もしそういった言葉を使
っていたとしても,意味が違います。業界ナンバーワンということで
はなく,当社にとって重要な顧客の1社であるという意味です。そし
て当社の顧客のなかでP3さんが特別ということではありません。」
「当社では株式の売買については稟議事項ですので,取得のときも
売却のときも稟議にかけることになります。投資案件は社長まで上が
ります。本件出資持分の譲渡について当社は適正な価格であると判断
をしました。先方からも資料の提示をしていただいていますし,取得
価格を上回る金額での売却でもあったからです。もしこの価格が安す
ぎるということであれば当社としては寄付金ということになるのでし
ょうが,寄附金課税のリスクがあるとは考えませんでした。」
「稟議書(乙16の5)にあるように,価格の妥当性については検
討をしています。特に2枚目の「決裁・審査欄」に多くの社内の人間
の名前が挙げられているように,関係者全員が価格も含めて確認をし
ているわけです。そのなかで当然に税務リスクがあればそれについて
も指摘がなされることになります。」
「反面調査を受けたときにも寄附金の指摘や「価格が安かった」と
いった指摘はされませんでした。当社は2年から3年に1度,税務調
査を受けていますが,株式や出資持分の譲渡について,税務当局から
低廉譲渡ではないかと指摘を受け,詳細を調査されることがあります。
今回のP3さんの譲渡についてはそういった指摘はいっさいありませ
んでした。」
hP18
P18の担当者は,主として以下のとおり回答しており,同社がP
4とは独立した当事者としての立場で,譲渡価額について十分に検討
し,合理的な経営判断として譲渡に応じたことを明らかにしている
(甲52の1)。
「【問】国側は,本件出資持分の譲渡対価が低すぎるとして,貴社
からの受贈益を認定し,課税処分をしました。1口5000円という
価格は,時価より安いとお考えですか。
【答】もし今回の譲渡対価が低いというのでしたら,当社にも寄附
金認定されるはずですが,されていませんし,当社は取引上の供応な
どで取引をしたということもありません。1口5000円が適正な対
価だと考えました。加えて,(P6社の財産構成がほとんど変わって
いない)平成3年当時に1口1000円で当社が取得した際に,受贈
益を認定されていませんし,それが14年で5倍になったのですから,
寄附金認定される税務リスクは全く考えていませんでした。」
iP19
P19の担当者は,主として以下のとおり回答しており,同社がP
4とは独立した当事者としての立場で,譲渡価額について十分に検討
し,合理的な経営判断として譲渡に応じたことを明らかにしている
(甲44の1)。
「【問】本件では,1口5000円という価格も低額譲渡でP8社
に受贈益が課されています。
【答】この点は,お話を伺ったときから疑問に思っています。当社
はこの反面調査を受けたとき,ちょうど当社に対する税務調査が行わ
れていました。調査担当者は反面調査が行われたことを知っていまし
たから,同じ出資について,P3さんが受贈益でしたら,当社が寄附
金となってもおかしくないはずですが,そのような指摘は一切ありま
せんでした。結果として,1つの取引おいて,2つの時価が存在する
ことになり,おかしいと思います。」
「【問】P3さんから提案された1口5000円で譲渡の合意をし
たのは,P3さんからいうとおりに決めたということなのですか。
【答】・・・言い値で決めたといわれるのは,極めて心外です。当
社は税務リスクも含めて譲渡価格の適正を検討したうえで妥当だと判
断したのです。当社側で検討することなく,P3さんからの言い値で
譲渡することはあり得ません。」
「【問】貴社ではP6出資持分の譲渡に際して,寄附金と認定され
ることを考慮されましたか。
【答】寄附金として認定されるリスクについては当然検討していま
す。検討したうえでそのようなリスクはない適正価格での売買になる
という認識でした・・・当社としても譲渡対価の適正性の判断は必ず
します・・・。」
jP20
P20の担当者は,主として以下のとおり回答しており,同社がP
4とは独立した当事者としての立場で,譲渡価額について十分に検討
し,合理的な経営判断として譲渡に応じたことを明らかにしている
(甲45の1)。
「調査報告書3枚目の7つ目の質問に対する回答として,取得価額
「以上の有利な条件であれば,手放してもよいということです。」,
「5000円がどうかについては・・・認識だけはしました。」と記
載されていますが,取得価額以上であればいくらでもよいということ
ではなく,価格の根拠資料を検討して合理的であればという前提で,
簿価以上ならば応じやすい,担当者レベルでは稟議書も書きやすいと
いうくらいのニュアンスでお話ししたと思います。当社は,通常知り
うる情報を入手して検討し,1口5000円という価格が適正である
と判断して譲渡に応じたということです。何も検討しないでP3さん
の言いなりであったかのように記載されておりますが,当社は,本件
の譲渡取引が,第三者間で行われた正当な取引と認識しております。」
「譲渡価格については,P3さんから送付されてきた資料に基づい
て社内で検討しております。添付されている当社作成の稟議書(乙2
0号証の3)では,関係部署が検討したことを示す決裁印があります。
具体的には,経理部と財務部では主に会計処理や税務上の問題の有無
について検討していますし,総務人事部では契約書の文言ですとかを
チェックすることになっております。
当社は上場していることもあり,不当・不正な取引を行うわけには
いきませんので,得意先であるからという理由で不当に高く買ったり,
安く売ったりすることはできません。前述のとおり,当社は本件譲渡
価格が第三者間で成立した適正価格であると認識しております。有限
責任監査法人P43の金商法及び会社法に基づく監査を受けており,
非常に細かく見ていただいていますが,監査上も特段の指摘はありま
せんでした。」
kP21
P21の担当者は,主として以下のとおり回答しており,同社がP
4とは独立した当事者としての立場で,譲渡価額について十分に検討
し,合理的な経営判断として譲渡に応じたことを明らかにしている
(甲48の1)。
「調査報告書3枚目2つ目の質問に対する回答で「特に検討はして
いません。」と記載されていますが,このような発言をしたという記
憶はありません。取締役会での説明も必要ですので,譲渡価額につい
てまったく検討しないということはありえないと思います。同様に,
3枚目の最後に「P3さんが評価額を算定して,それに対して500
0円であるから譲渡に応じたのですか」という質問があり,それに対
して「そういうことになります」との回答したことになっていますが,
単に向こうから言われたから応じたというものではありません。当社
で価格の妥当性について検討し,しかるべき手続きを経て応じたとい
うことですので,その意味でこの回答は正確な記載ではないと思いま
す。」
「調査報告書の4枚目の2つ目の質問に対する回答として「取得価
額より安くないので,応じたということです」と記載されていますが,
これも譲渡価格について検討した結果,1口5000円という金額が
妥当であると判断できていることが前提であって,キャピタルゲイン
が出れば価格はいくらでもいいという趣旨ではありません。」
「基本的には,時価よりも高く譲渡したと認識していました。」
「乙23号証の3として当社の取締役会議事録が添付されています
が,ここに当社の担当取締役であるP44が「税務上問題ない」こと
を説明した旨の記載があるとおり,当社は,会計上,税務上の問題が
ないことを検討・確認の上,P3さんからの申し出に応じたのです。
また,本件出資持分を譲渡するに際しては,当社と付き合いのある
公認会計士にも,P3さんからいただいた資料一式を見てもらったう
えで,譲渡価格の当否について検討してもらい,「問題ない。むしろ
高いくらいだ」というアドバイスをもらっていますし,本件出資持分
譲渡後に行われた税務調査でも,譲渡価格の適否について指摘を受け
たということもありません。」
「当社は,非上場の出資持分の時価を考えるにあたって,類似業種
比準価額を重視しますので,保有する土地や有価証券の時価評価がと
りわけ重要であるとまでは考えていない」
lP22
P22の担当者は,主として以下のとおり回答しており,同社がP
4とは独立した当事者としての立場で,譲渡価額について十分に検討
し,合理的な経営判断として譲渡に応じたことを明らかにしている
(甲49の1)。
「譲渡価格については,P3さんから送付されてきた資料に基づい
て社内で検討しております。類似業種比準価格や純資産価格との比較
で1口5000円という提示であったので,当社では適正価格と判断
して譲渡に応じています。」
「社内稟議においてもこの価格がおかしいという意見は出ませんで
したし,出資の譲渡ということで社長の決裁も仰いでいます。会計監
査人からも1口5000円という金額について疑義を挟まれたという
こともありませんでした。当社に対しては大体3年に1度のペースで
税務調査が入りますが,税務調査の際にもP6社出資の譲渡価格が安
すぎるというような指摘を受けたこともありません。」
「本件は,P3さんがNo1の得意先であるから1口5000円で
譲渡に応じたわけではなく,送っていただいた資料なども含めて検討
した上で,その価格に合理性があると当社が判断したから譲渡に応じ
たのです。そういう意味では,仮にP6社がP3さんの関係先でなく,
他の得意先であっても,1口5000円で譲渡に応じるとの当社の判
断は変わりないはずです。」
mP23
P23の担当者は,主として以下のとおり回答しており,同社がP
4とは独立した当事者としての立場で,譲渡価額について十分に検討
し,合理的な経営判断として譲渡に応じたことを明らかにしている
(甲51の1)。
「譲渡金額については,P3さんが得意先であるので,価格を吊り
上げて高く買い取ってもらおうとまでの気はありませんでした。価格
について根拠があって,納得できる価格であればいいというつもりで
いました」
「当社が買い戻しに応じた際には,純資産価額や類似業種の価格の
資料を見て検討していますが,このことが調査報告書からは抜け落ち
ているように思います。」
「調査報告書の3枚目の4つ目の質問に対する回答として「この規
模でしたら,評価額を検討することはありません。」と記載されてい
ます・・・,その趣旨は,P3さんから送られてきた資料の裏付け調
査をしたり,追加的に当社で検討資料を作成したりするということは
ないということであって・・・また,「検討するまでもない」,「従い
ましょう」についても同様で,P3さんから送られてきた貸借対照表
が正しいかどうかをチェックすることはしないということで,P6の
規模からいってもP3からもらった資料を信じましょうという趣旨で
発言したものです。」
「調査報告書3枚目6つ目の質問に対する回答として「第三者取引
といえない面もあると思っています。」という記載がありますが,こ
れも,そういう言葉は発しましたが,本件出資持分が非上場の出資持
分であり,P3さんと当社との間には取引関係があることから,受贈
益や寄付金といった課税リスクに配慮して,より慎重に行動しなけれ
ばならないという文脈で発言したのであります。」
「本件では,P3さんから純資産価額,配当還元,類似業種比準価
額といった資料をもらっていますし,当社の簿価と比較して譲渡損益
がどうなるかという確認をしております・・・先方から言われた金額
をそのまま鵜呑みにして譲渡に応じるということはしません。それは,
P3さんに限らずどこの出資先でも同じことです。」
「当社は,P3さんから頂いた資料を基に,しかるべき手続きにの
っとって譲渡に応じる判断をしました。調査報告書では,当社があま
り検討しないで応じたように書かれていますが,当社でも買い戻しに
応ずるか否かを取締役会に諮っておりますので,資料を検討しないと
取締役会で説明することができません。」(甲51の3)。
(ウ)本件13社が,P4とは独立した当事者としての立場で譲渡価額に
ついて十分に検討し,合理的な経営判断として譲渡に応じたことについ
ては,次のとおり,聴取書(甲43から55までの各1)以外の書証の
記載からも十分にうかがわれる。
aP11
P11が作成した「決裁書」(甲55の8)においては,「20,0
00,000円で売却することに伴い,16,000,000円の売
却益が発生します」との記載がされているとともに,経理,総務を含
めた関係各部署の決を経て譲渡が承認されている。
bP12
P12が作成した「有限会社P6の出資売却について」と題する書
面(甲47の5)においては,1口当たり5000円で譲渡すること
によって,1600万円の売却利益が見込めること,売却単価の根拠
が配当還元方式で算出される価格(1口当たり500円)の10倍で
あること,1口当たり5000円との売却価格は,類似業種比準価額
や簿価純資産価額により算出された金額を上回るものであることが記
載されている。
cP14
P14が作成した「決裁申請書」(甲53の3)においては,稟議
申請に先立ち経理部が経営企画部と協議したこと,1口当たり500
0円の売却価格が配当還元方式の10倍相当であり,かつ,参考価格
としての類似業種比準価額及び簿価純資産価額を上回るものであるこ
と,譲渡により1600万円の売却益が見込まれることが記載されて
いる。
同社において十分な検討がされたことは,P29の証人尋問におけ
る証言からも明らかである。
dP15
P15は1口5000円での売却の当否について取締役会という会
議体において審議・検討し,決定している(甲46の5,甲46の
6)。
eP17
P17が作成した「稟議○‘05-’06」と題する書面(甲4
3の4)においては,本件P6出資の売却によって「売却益」が「1
6,000千円」(「売却先・売却金額」欄)生じることが記載されて
おり,また,「(参考)」として「類似業種の比準価格」(ママ)(14
06円)及び「簿価純資産価格」(ママ)(3010円)が併記されて
いる。さらに,稟議起案部署(本社営業部)の見解として,「当社
購入価格及び簿価とも1口1,000円であり,1口5,000円の
買取価格は資金回収価格として適正価格と判断しました」(「経緯・売
却理由」欄)との記載がある。同社は,本件P6出資の売却が社長決
裁事項(「件名」欄)とされており,コンプライアンス部,法務,経
理を含む20名近くの担当者による決裁(「決裁・審査」欄)を経て,
最終的に,同社のトップマネジメントにより1口5000円という譲
渡価額が承認されていることから,同社が類似業種比準価額や簿価純
資産価額との比較検討,譲渡益の有無及びその金額を勘案して譲渡価
額の検討を行っていたことは明らかである。
以上に述べたところは,P30の証人尋問における証言からも明ら
かである。
fP19
P19が作成した「決定書」(甲44の4)によれば,稟議決裁に
先立ち法務や財務を含めた関係部署にて事前協議が行われており
(「事前協議」欄),これらの管理部を含めた決裁を得ている(「協議」
欄)。稟議承認に当たっては,P6の売上高,経常利益,当期利益の
金額や資本金の額のほか,1口5000円で譲渡した際に売却益が生
ずることやその金額が1600万円であること,参考価格としての類
似業種比準価額,簿価純資産価額,類似会社比準価額に照らして1口
5000円の譲渡価格がこれらの参考価格を上回るものであることが
明記されている。そして,このような検討の結果として当該稟議が承
認されていることからも,P19が売買価格について十分な検討を行
っていたことは明らかである。
gP20
P20が作成した「稟議書」(甲45の4)においては,1口当た
り5000円の売却価格が,毎期の配当の100倍に相当するもので
あること,類似業種比準価額や簿価純資産価額を上回るものであるこ
とに加え,売却した場合には1600万円もの売却益が見込めること
が記載されている。これらの情報を基に同社においては経営企画部,
財務部,経理部といった関係部署を含めた決裁を得ており,同社が売
買価格の適正性について十分な検討を行っていたことは明らかである。
hP21
P21が作成した「取締役会議事録」(甲48の3)の添付資料に
おいては,毎期の配当が額面金額の5パーセント(20万円)である
こと,1口当たり5000円で売却した場合,1600万円もの売却
益が計上されること,参考価格としての配当還元方式,類似業種比準
価額,簿価純資産価額のいずれに対しても1口当たり5000円の売
却価格が上回っていること,1口当たり5000円の根拠が配当還元
方式に基づく評価額の10倍であることが記載されている。また,税
務上の検討として,第三者の法人間の取引であること及び税務上問題
ないことが記載されており,これらの情報に基づき同社の役員全員が
1口当たり5000円で譲渡することを承認していることからも同社
が売買価格の適正性について十分な検討を行っていたことは明らかで
ある。
iP22
P22が作成した「稟議書」(甲49の4)においては,本件P6
出資の簿価が400万円であるのに対して1口5000円で売却すれ
ば2000万円になること,毎期5パーセントの配当があり,配当還
元方式による評価では1口500円になること,売却価格は配当還元
方式の10倍であることが記載されている。これらの情報に基づき,
同社においては,会長,社長以下のトップマネジメントをはじめ経理
部を含めた全社的な検討の結果,譲渡を承認しており,同社が売買価
格の適正性について十分な検討を行っていたことは明らかである。
(エ)前記(ア)から(ウ)までのとおり,本件13社は,それぞれ,過去の
配当実績,書面(甲14,乙8)に添付された類似業種比準価額及び簿
価純資産価額の算定根拠等を検討した上で,1口当たり5000円が適
正な時価であると判断し,本件P6出資の譲渡に応じたものであり,む
しろ本件13社のほうでも譲渡をしたいと考えていた会社があったこと
や,財産の低額譲渡に当たるか否かという税務リスクまで検討した上で
譲渡に応じた会社のあることもうかがわれる。
したがって,本件13社との間で合意された価額(1口当たり500
0円)が,「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常
成立する価額」に該当することは明らかである。
(オ)そもそも,売買実例に基づく評価が時価評価の一方法とされている
のは,市場性のない有価証券の時価を算定することが困難であることを
前提に,純然たる第三者間において,種々の経済性を考慮して定められ
た取引価額は,一般に合理性を有するものといえるから,通常は,これ
をもって適正な価額と認めるのが相当であるというところにある。
被告は,本件13社が,1口当たり5000円の算定根拠について検
討した事実は認められないと主張するが,類似業種比準価額や簿価純資
産価額と比較検討することや,取得価額との対比においては譲渡損益が
いくらになるかを試算することも,経済合理性の検討としては十分,か
つ,一般的な検討方法である。本件13社は,それぞれ,十分,かつ,
一般的な検討プロセスを経て各売買契約に合意しているのであり,これ
ら売買契約において成立した価額が「種々の経済性を考慮して定められ
た取引価額」に該当することは明らかである。本件13社とP4との間
には資本関係や人的関係はなく,本件13社とP4が「純然たる第三者」
の関係にあるとみるべきであるから,上記の規範にのっとり,本件13
社とP4との売買取引において合意された譲渡金額(1口当たり500
0円)は,「適正な金額」と認められるべきである。
また,被告は,時価評価に当たってP6の各資産及び負債を時価に基
づき評価することが必須の手続であるかのように主張するが,資産及び
負債の時価に基づく評価は,数ある評価方法のうちの1つにすぎず,常
に時価に基づく評価をしなければならないということではない。そのよ
うな資産及び負債に係る時価の情報は株主(社員)の権利として当然に
入手できる情報ではなく,仮に株主の側において資産及び負債の時価に
基づく評価を行うこととした場合には情報の入手可能性の点から実行に
は困難があるとともに,その実行には相当のコストが発生し,保有する
有価証券の価格によっては費用対効果を著しく阻害することがあるから
である。また,本件に即して付言すれば,P6はP3の株式を有してい
ることから,当該株式の時価に基づく評価をせざるを得ないことになる
が,その評価に当たっては多大なコストと時間を要するのみならず,株
主や出資持分権者の立場において入手できる資料の範囲には限界がある
(会社法433条参照)ことから,そのようなコストと時間をかけたと
しても結果が得られる保証はないのである。被告が主張するようにP6
の各資産及び負債を時価に基づき評価することが必須であるとすれば,
本件13社にとっては取得価額400万円の出資持分の売却に見合わな
い多大なコストと時間を負担することを余儀なくされるが,そのような
解釈が不当であることは明らかである(本件13社の経営陣の意思決定
により会社がそのようなコストを負担することは,むしろ取締役の善管
注意義務に違反するおそれすらある。)。
被告は,本件13社が譲渡価格の妥当性に関し「独自に特段の検討」
をする必要があることを前提として,そのような検討がなされていない
と述べるが,なぜ前記(ア)から(ウ)までにより看取できる検討では不足
であるのか,いかなる検討手段・検討方法をもって「独自に特段の検討」
をしたと評価されるものであるかについて全く理由を示しておらず,失
当である。
エ被告の主張の要点(別紙3)の2(2)イについて
本件13社による本件P6出資の譲渡がP6からの依頼を契機とするも
のであること,譲受人であるP4が本件13社の取引先であるP3のグル
ープ会社であること,本件13社が「P3及びそのグループ会社との良好
な取引関係を継続する」ことを目的として本件P6出資の譲渡に応じたこ
と等の事情は,売買実例の適正性とは全く無関係な事情である。原告P1
がP6の代表者を務めていることについても同様である。
被告は,本件P6出資の取得及び売却が,本件13社による「P9の意
向に沿うことにより,P3との良好な取引関係を継続する」という意図に
基づきなされたことを取引の経緯及び背景事情と主張しているようである
が,本件13社が上記の意図のみに基づいて取引を行ったとは限らないし,
そのような経緯及び背景事情により譲渡価額が不当にゆがめられた事実も
ない(なお,原告らは,本件13社が「P9の意向に沿うことにより,P
3との良好な取引関係を継続する」という意図を有していたことを認める
ものではない。)。市場価格のない有価証券について,人的関係も取引関係
もない第三者が取得者となることは通例ではなく,他方,法人税基本通達
4-1-15が,上場有価証券等以外の株式の評価について売買実例に基
づく評価方法を第一次的な評価方法と規定していることからすれば,売買
実例の適正性を検討する上で,売買当事者間に取引関係があることや当該
取引関係の維持に対する期待があったことといった事実のみから,ないし
はこれらの事実を偏重して判断することが不当であることは明らかである。
また,本件13社との各譲渡価額がP6社による依頼文書(甲14,乙
8)において一括して提示された価額であることも原告らの主張に対する
反論とはなり得ない。原告らは,本件13社がそれぞれ過去の配当実績,
書面(甲14,乙8)に添付された類似業種比準価額及び簿価純資産価額
の算定根拠を検討した上で,1口当たり5000円が適正な時価であると
判断し,譲渡に応じたことを主張しているのであり,ここには本件13社
のそれぞれの判断,意思決定が存在しているのである。
本件においては,売買当事者間に資本関係や人的関係がないこと(少な
くとも,当事者間に資本関係も人的関係もない場合には,特段の事情がな
い限り,相互に独立しているものと考えるべきであるし,このような客観
的な事情を殊更に軽視して,取引の経緯・背景事情のみから判断すること
は法的安定性を害する。)に加え,本件13社の間においても,支配・被
支配の関係はないのであるから,本件13社の判断,意思決定はそれぞれ
独立したものと考えなければならない(なお,本件P6出資を売却するに
際して,本件13社の間で意思を通じ合った事実は存在しない。)。このこ
とを考慮せず,単に価格の提示が同じ文書(甲14,乙8)に基づいて行
われたことのみから「実質的な取引事例としては1事例であるにすぎ」な
いとする被告の主張は暴論とのそしりを免れない。
本件13社がP3との取引関係の維持に配慮したため1口当たり500
0円での売却に応じたとの被告の主張は,P3が,本件13社との取引を
打ち切ったり取引量を減少させたりすることによって,本件13社に対し
て事業上の不利益を与えられるという力関係にあることを前提にした議論
であると推察される。しかし,P3は,古くから全国規模で酒類卸売販売
免許を保有していたことから本件13社を含む多数の酒造メーカー及び小
売業者と取引をしていたものの,平成17年当時,全国規模で酒類を取り
扱っていたのはP3だけでなく,株式会社P45やP46株式会社といっ
た業者もあったほか,地域ごとに大手の酒類卸売業者が存在していたので
ある。本件13社にとってはP3との取引を望まなければ他の卸ルートで
商品を流通させることは容易であったのであり,本件P6出資の売却に当
たって,たとえP3が1口当たり5000円という価格を提示したとして
も,これに従わなければならないような関係にはなかった。本件P6出資
を取得することや売却すること自体は,P3との取引関係が存在していた
ことが契機となっていたとしても,売却価格については本件13社の独自
の検討を経た上で合意されたものであり,多額の取引関係にあることを理
由として本件13社が独立した当事者の立場にないとする被告の主張は,
酒類流通業界の実態に沿わない不合理なものなのである。
オ被告の主張の要点(別紙3)の2(2)エについて
原告らは,本件13社とP4との各売買契約が,適正な売買実例に該当
する旨を主張しているものであり,上記売買契約の当事者ではないP5の
申告内容のいかんは,無関係な事情であって,このような無関係な事情を
根拠として上記売買実例の適正性を否定する被告の主張は理由がないとい
わざるを得ない。
なお,P5の申告に当たっては,同人に対する課税のリスクを最大限回
避することを重視した税務申告をせざるを得なかったことを付言しておく。
つまり,納税者は「時価」について独自の解釈を行った上で,それに基づ
いた評価を行うことができるが,現実の課税実務においては,財産の評価
について評価通達がもつ事実上の強制力と時価についての解釈の困難さか
ら,納税者側も納税申告においては同通達に依拠せざるを得ない実情があ
るため,P5もこれによって申告を行ったものである。したがって,原告
らの主張とP5の申告内容に矛盾はない。
カ被告の主張の要点(別紙3)の2(2)オについて
この点に関する被告の主張は,2つの点で誤りである。
1つ目の誤りは,譲渡人である本件13社に対しては寄附金課税を行う
べきであるにもかかわらず,譲受人の側に対してのみ時価より著しく低い
価額であるとのもとで課税を行ったのだとすれば,同じ取引であるにもか
かわらず,一方当事者に対してのみ異なる時価を認定した不当な課税処分
を行ったことになる。これは,租税平等主義に違反する取扱いである。こ
の点,仮に本件13社に対しては税務調査を行っていなかったというので
あればともかく,本件13社全社に反面調査を行い詳細な「調査報告書」
も作成していたのであるから(甲43から54まで(52を除く。)の各
2),そのような言い訳は成り立ち得ない。
2つ目の誤りは,むしろ本件13社については,取引価額(1株500
0円)を適正な時価であると判断していたはずであるということである。
したがって,譲渡人にとって適正な時価と認められた取引について,譲受
人の側だけにとっては著しく低い価額の取引だと考えることは誤りである。
この点で,本件との関係では,本件13社の譲渡事例が本件における適切
な売買実例になり,したがって,本件P6出資の時価は1口当たり500
0円であるという結論につながる。
もし,そうでないというのだとしても,いずれにしても,原告らとの関
係で「租税平等主義違反」の処分が行われたことが明らかである。
(3)本件各譲渡は時価より著しく低い価額の対価でされたものか(本件各譲
渡に係る本件P6出資の時価はいくらか)(争点(2))についてのまとめ
本件各譲渡の時における本件P6出資の時価は,前記(1)によれば,評価
通達の定めによって評価した場合,P3が譲り受けたものは1口当たり50
0円,P4が譲り受けたものは1口当たり1011円であり,前記(2)によ
れば,1口当たり5000円であって,本件各譲渡における譲渡価額(1口
当たり3万9235円)はこれらを下回らないから,本件各譲渡は時価より
著しく低い価額の対価で行われたものではない。
3原告らは本件各譲渡により相続税法9条に規定する「対価を支払わないで,
又は著しく低い価額の対価で利益を受けた」と認められるか,また,そのよう
に認められる場合,当該利益の価額に相当する金額はいくらか(争点(3))に
ついて
前記2のとおり,本件各譲渡は時価より著しく低い価額の対価で行われたも
のではないから,本件各譲渡により,P3及びP4は何らの経済的利益を受け
ておらず,したがって,その株主である原告らも利益を受けていない。
4本件出資贈与に係るP4の持分の価額はいくらか(争点(4))について
P4は原告らの同族関係者に該当することから,評価通達178の区分に従
い分類すると,同社は中会社に分類される。しかし,本件出資贈与の時におい
て,P4は,株式保有特定会社通達の株式保有特定会社に該当することから,
純資産価額方式又は「S1+S2方式」により評価すべきこととなる(ただし,
前記2(1)ウのとおり,P4の出資についても株式保有特定会社通達を適用す
べきでない。)。ただし,その際,P4が保有する本件P6出資の評価について
は,前記2(1)ア(イ)のとおり,P6はP3の同族株主以外の株主であるから,
P6が保有するP3の株式を配当還元方式により50円と評価した上で,類似
業種比準方式と純資産価額方式(ただし,20パーセント減額した後の額)の
折衷方式により評価すべきこととなる(詳細は原告別表4のとおり)。また,
P4が保有するP3の株式の評価については,P3は評価通達178の大会社
に該当し,特例的評価方式を適用すべき場合には該当しないことから,同通達
179(1)に基づき,類似業種比準方式により評価し,4047円となる(詳
細は原告別表5のとおり)。
その結果,原告P2が原告P1から贈与されたP4の持分1口当たりの評価
は,9091円となる(詳細は原告別表6のとおり)。そして,この9091
円に本件出資贈与に係るP4の口数(25万8000口)を乗じた23億45
47万8000円は,原告P2が行った贈与税の申告における評価額24億2
520万円(1口当たり9400円)を下回る。
5原告らについて,無申告加算税及び過少申告加算税を課されない正当な理由
があると認められるか(争点(5))について
(1)仮に,本件各譲渡の時における本件P6出資の時価が1口当たり8万1
204円であり,本件出資贈与の時におけるP4の持分の時価が1口当たり
1万0731円であるとした場合,当該時価の評価と本件各譲渡及び本件出
資贈与の時において原告らが評価した額との差額部分について,原告らが贈
与税の申告をしなかったことにつき,通則法66条1項ただし書及び同法6
5条4項に定める無申告加算税及び過少申告加算税を賦課すべきでない「正
当な理由があると認められる」場合に該当する。
(2)ここに,「正当な理由があると認められる」場合とは,「真に納税者の責
めに帰することのできない客観的な事情があり」,「過少申告加算税の趣旨に
照らしても,なお,納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷に
なる場合」と解される(前掲最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決,
前掲最高裁平成18年4月25日第三小法廷判決,最高裁平成17年(行ヒ)
第20号同18年10月24日第三小法廷判決・民集60巻8号3128
頁)。
これを本件についてみると,法人税基本通達9-1-13及び同9-1-
14により株式等の評価方法が定められているところ,被告は,売買実例に
よる評価を否認した上で,同通達が準用する評価通達の定めのうち,議決権
割合に基づく評価(配当還元方式)及びそれが認められる場合等の純資産価
額方式の20パーセント減について同通達によるべきでない特別の事情があ
るとして,評価に係る国税庁の公的見解である同通達と異なる方法により本
件P6出資等を評価するのであって,そのような評価方法を採用すべきこと
を納税者が予測して,贈与税の申告をすることはできず,納税者の責めに帰
することのできない客観的な事情がある。
(3)被告は,評価通達6の定めがあることからみても,仮に同通達を形式的
に適用して贈与税額を算出し申告したとしても,これがそのまま是認される
ものではないことは同通達が予定しているというべきであるとして,加算税
を課さない正当な理由があるとはいえないと主張する。
アこの点につき,国税庁は,通則法65条4項の正当な理由について,事
務運営指針(平成12年7月3日課資2-264,課料3-12,査察1
-28)「相続税,贈与税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いに
ついて」(乙36)において,「第1過少申告加算税の取扱い(過少申告
の場合における正当な理由があると認められる事実)」のうち「1納税
者の責めに帰すべき事由のない事実」として,「(1)税法の解釈に関し申
告書提出後新たに法令解釈が明確化されたため,その法令解釈と納税者
(相続人(受遺者を含む。)から遺産(債務及び葬式費用を含む。)の調査,
申告等を任せられた者又は受贈者から受贈財産(受贈財産に係る債務を含
む。)の調査,申告等を任せられた者を含む。以下同じ。)の解釈とが異な
ることとなった場合において,その納税者の解釈について相当の理由があ
ると認められること。(注)税法の不知若しくは誤解又は事実誤認に基づ
くものはこれに当たらない。」との事実を例示する。
このように,国税庁も,申告書提出後に,新たに法令解釈が明確化され
たことにより,当初申告時の解釈が異なることとなった場合で,納税者の
税法の不知等に基づくもの以外のものについては,加算税を賦課しない正
当な理由があると解している。
そもそも評価通達は,相続税法22条の「相続,遺贈又は贈与により取
得した財産の価額は,当該財産の取得の時における時価によ」るとの規定
を受け,「時価」の解釈及びその具体的算定方法に関する国税庁の公的見
解である。そして,同通達1(2)において,同法22条の「時価」の意義
を「課税時期(略)において,それぞれの財産の現況に応じ,不特定多数
の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額
をい」うと解した上で,「その価額は,この通達の定めによって評価した
価額による」と定めているのである。
被告も主張するとおり,同通達は,一方で「評価通達の定めによって評
価する」ことを求め(同通達1(2)),他方,「この通達の定めによって評
価することが著しく不適当と認められる財産の価額は国税庁長官の指示を
受けて評価する」(同通達6)としている。しかしながら,同通達6は,納
税者にとっていかなる場合が「この通達の定めによって評価することが著
しく不適当」となるのかについて,全く明らかにしていないこと,また,
同通達6が「国税庁長官の指示を受けて評価する」と定めていることから
すれば,極めて例外的なケースにしか適用されないものであることは明ら
かである。そのため,納税者が同通達の定めに従って,財産の評価をし,
その後に,課税庁が,たとえ国税庁長官の指示がなくても,同通達の定め
と異なる評価をした場合は,上記事務運営指針の税法解釈の変更に該当し,
同注書きの「税法の不知若しくは誤解又は事実誤認に基づくもの」に当た
らないことも明らかであるから,加算税を賦課しない正当な理由があると
いうべきである。
イまた,評価通達6は,同通達に基づく評価基準制度等による各財産の評
価額が著しく不適当と認められるときには,客観的交換価額(時価)に近
づけるために個別評価を行うという趣旨で設けられたものであり,評価基
準制度の補完措置であると解されている。
にもかかわらず,本件において同通達6を適用して,同通達と異なる評
価をするというのであれば,被告は同通達6に基づき「国税庁長官の指示
を受けて評価」したということを明らかにすべきであるが,本件において,
被告はそのような事実について何ら立証しておらず,同通達6を適用した
事実は認められないし,仮に国税庁長官の指示を受けて行った評価が適法
であるとしても,同通達に従って算出された評価額に達するまでの部分に
ついては,納税者には「正当な理由がある」ため,加算税を賦課すべきで
はない。
(4)そもそも,被告は,本件P6出資及びP4の持分の評価に際し,国税庁
が発する評価通達の定めのうち,議決権割合に基づく評価を看過し,あるい
は,恣意的に無視することにより,P6及びP3が原告らの同族関係者に該
当すると判定し,本件P6出資,P6が有するP3の株式,P4の持分及び
P4が有する本件P6出資並びにP3の株式の評価を行うものである。
しかしながら,国税庁が発する同通達は,本件のような議決権割合である
株主等をも想定して定めているはずであるところ,その定めによらない特別
な事情がある場合がどのような場合であるのか,納税者は予見することはで
きず,納税者の責めに帰すべき事情はない。
本件各譲渡及び本件出資贈与の時において,P5,P3,P4及び原告P
2は,その算定方法に誤りがあったものの(本件各譲渡において専門家は携
わっていない。),同通達に基づき評価し,当該評価が適正なものであること
を前提に,本件P6出資を売買し,又はP4の出資の贈与を受けたとして,
申告納税していたものであり,原告らが本件決定処分及び本件更正処分を受
けることなど到底予見できるものではなく,評価方法に関し原告らの責めに
帰すべき客観的な事情は存在せず,加算税制度の趣旨からしても,原告らに
対し,同通達と異なる評価をして贈与税を課した上で,加算税をも賦課する
ことは不当又は酷な処分であることは明らかである。
(5)したがって,これらの点からすれば原告らに加算税を賦課すべきでない
正当な理由があるというべきである。
以上

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