弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成11年(ワ)第20820号 著作権侵害差止等請求事件,同12年(ワ)第14
077号 著作者人格権確認反訴請求事件
口頭弁論終結日 平成13年11月28日
              判       決
原告兼反訴被告     MRことM
       (以下「原告」という場合がある。)
訴訟代理人弁護士坂本誠一
同       内藤貞夫
訴訟復代理人弁護士長家広明
同       山田勝重
被告兼反訴原告      N
       (以下「被告」という場合がある。)
訴訟代理人弁護士福島啓充
同       成田吉道
同     星名 優
同            丸山和広
同大谷和彦
同大 谷 美紀子
              主       文
1 原告(反訴被告)の請求をいずれも棄却する。
2被告(反訴原告)が別紙作品目録記載の各映画の著作物につき著作者人格
権を有することを確認する。
3 訴訟費用は,本訴反訴ともに,原告(反訴被告)の負担とする。
事実及び理由
第1請求
〔本訴請求〕
1被告は,月刊誌財界展望及び朝日,毎日,讀賣,日本経済の各新聞誌上に別
紙記載のとおりの謝罪文を掲載せよ。
2被告は,別紙作品目録記載の各映画が被告の著作物であること,又はこれと
同旨の記事を書簡,新聞,雑誌,パンフレット若しくはインターネット上において
掲載し,頒布,販売,交付する等の方法によって流布してはならない。
〔反訴請求〕
  主文2項と同旨
第2事案の概要
〔本訴請求〕
原告は,別紙作品目録記載の各作品(以下「本件各著作物」といい,同目録
の番号1ないし8の各作品を「本件著作物1ないし8」という。)を著作し,本件
各著作物について著作者人格権を有するが,本件各著作物を著作したのは被告であ
ると述べた被告の行為は著作者人格権侵害又は名誉毀損行為に当たると主張して,
被告に対して謝罪文の掲載等を求めた。
〔反訴請求〕
被告は,本件各著作物を著作したと主張し,原告に対して著作者人格権を有
することの確認を求めた。
1 前提となる事実(証拠等を示した事実を除き,当事者間に争いがない。)
(1)当事者
原告は,著名な漫画作家であり,昭和29年以降,現在に至るまで,「男
おいどん」「銀河鉄道999」などの漫画,アニメーション(以下「アニメ」とい
う場合がある。)ほか数多くの漫画,アニメ作品を著作,発表している。
被告は,音楽,舞台・ショー製作,アニメ作品のプロデューサーであり,
アニメ作品「山ねずみロッキーチャック」「ワンサくん」などをプロデュースし
た。
(2) 本件各著作物
ア本件各著作物は,「宇宙戦艦ヤマト」の活躍をテーマとした一連のアニ
メ作品であって,本件著作物1,4及び7はテレビ用,本件著作物2,3,5,6
及び8は劇場用の作品であり,いずれも「映画の著作物」に当たる。その製作年月
日は,別紙作品目録記載のとおりである。
 本件著作物1は,昭和49年10月6日から同50年3月20日まで,
各週全26話,全国ネットでテレビ放映された。放映当時は,視聴率の低迷が続い
たが,その劇場版である本件著作物2は,昭和52年8月に劇場公開されて,観客
動員数230万人の大ヒットとなり,その後も,本件著作物3は,観客動員数40
0万人,興行収入43億円を記録し,アニメ史上最高の記録を打ち立てた。以後の
テレビシリーズも多くが平均視聴率が20パーセントを超え,劇場版もヒットし
て,人気アニメ作品となった(乙7)。
イ 本件各著作物のあらすじ等
(ア)本件著作物1
 全26話合計13時間(実写時間約9時間30分)に及ぶテレビ版で
ある。
 そのあらすじは,以下のとおりである。西暦2199年,地球は宇宙
の謎の星ガミラスから攻撃を受けて放射能に汚染され,絶滅の危機にあり,人類滅
亡まで364日しか残されていなかった。火星にイスカンダル星のスターシャか
ら,メッセージが届けられた。イスカンダル星まで,放射能除去装置を取りに来る
ようにという内容であった。そこで,戦艦大和を改造した「宇宙戦艦ヤマト」(以
下「ヤマト」ということがある。)が建造され,沖田十三艦長,古代進らを乗せた
ヤマトは人類を絶滅から救うべく14万8000光年先のイスカンダルへと旅立
つ。ヤマトは,ワープ航法を繰り返しながらイスカンダル星への航海を続け,ガミ
ラス軍と戦闘を交え,度重なる窮地を乗り超えて,ようやくイスカンダル星へ到着
し,放射能除去装置の部品と設計図を入手し,地球に帰還して,地球の平和を取り
戻す(甲5の1,25の1ないし7,乙2,3,18ないし20)。
(イ)本件著作物2
本件著作物2は,テレビ版である本件著作物1を基に,2時間10分
の劇場用に編集した劇場用映画である。ストーリーの基本的な部分は,本件著作物
1と同じであるが,結末部分のみは変更が施されている(甲5の2,28,乙4の
218頁,乙10の66ないし72頁,被告本人尋問の結果〔23頁〕)。
(ウ)本件著作物3
劇場用映画である。
 西暦2201年,地球はかつてのガミラスとの戦いの傷も癒え,大い
なる繁栄への道を歩んでいた。地球を危機から救ったヤマトも,今や廃棄処分とな
り,乗組員だった古代,島らも第一線から離れていた。ところが,古代のもとへ,
白色彗星帝国の脅威にさらされているテレザード星のテレサからSOSメッセージ
が届く。宇宙の平和を守るため,ヤマトは復活し,テレザード星を目指して発進
し,最強の敵白色彗星帝国との戦いを繰り広げる。ヤマトは,白色彗星帝国との戦
いに勝利を収めるが,古代進を乗せたまま,宇宙の彼方へと消えていく(甲5の
3,29,乙4,10の82頁以降)。
(エ)本件著作物4
本件著作物4は,本件著作物3をテレビシリーズ(拡大版,全26
話)にした作品である。その物語の基本的なストーリーは,本件著作物3と同じで
あるが,結末を変更し,超人類であるテレサによって,地球が救われ,ヤマトと主
人公は生き続ける(甲26,乙5の164頁,乙6の6,7頁)。
(オ)本件著作物5
劇場用映画である。
 西暦2201年,多大の犠牲を払い,白色彗星帝国との戦いに勝利を
収めたヤマトが,地球でその修復を終えようとした。古代進らの宿敵であり良きラ
イバルであるデスラーは,ガミラス帝国の再建と民族復興を懸け,母なる星ガミラ
ス星へと向かったところ,イスカンダル星とガミラス星は,黒色星団帝国の船団に
占領された。デスラーは敵艦隊と交戦するが,敵の一弾がガミラス星を破壊し,ガ
ミラス星は宇宙から消え去り,ガミラス星の双子星であったイスカンダルもそのバ
ランスを失って,軌道を外れ,宇宙を暴走し始める。ヤマトが,この危機を救うた
めに発進し,黒色星団帝国と戦い,イスカンダルを守る(甲5の5,30,乙5の
164頁ないし166頁)。
(カ)本件著作物6
劇場用映画である。
 西暦2202年,巨大なミサイル状の謎の物体が大宇宙のかなたから
太陽系に接近し,地球の首都郊外に軟着陸した。謎の物体の正体は,一発で全人類
を滅亡させる能力のある重核子爆弾であった。その爆発を防ぎ,地球の危機を救う
ため,ヤマトは40万光年のかなたに存在する暗黒星雲,その中にある敵本星テザ
リアムへと向かい,戦いを繰り広げて,勝利を収める。主人公の1人である森雪
は,ヤマトに同乗せず,地球に残るが,古代進と離れていても,2人が信じ合う姿
が描かれる(甲5の6,31,乙6)。
(キ)本件著作物7
テレビ用作品である。
 西暦2205年,銀河系の中心では,デスラー率いるガルマン・ガミ
ラス帝国とボラー連邦による激しい戦争が行われていた。ガルマン側の放った惑星
破壊ミサイルの流れ弾が,太陽を直撃し,太陽の核融合が異常増殖を始め,地球上
の生物が生存できる期間はわずかに1年を残すだけとなる。ヤマトは,この危機を
救うべく,人類が移住できる第2の地球を探す航海に出るが,ガミラスとボラー連
邦の戦いに巻き込まれる。ヤマトはデスラーを助け,ボラー連邦との戦いに勝利を
収めて,太陽増進を制御するハイドロコスモジェン砲を入手し,地球の危機を回避
する(甲5の7,29の1ないし7)。
(ク)本件著作物8
劇場用映画である。35㎜版と75㎜版とがあるが,75㎜版は,7
5㎜の大画面,6チャンネルのステレオ音響が使用され,アンコール版として製作
された。
 西暦2203年,銀河系では,異次元空間より突如出現した未知の銀
河星雲が銀河星雲と激突した。銀河系中心部では,次々と恒星同士が衝突,崩壊を
開始した。銀河系交叉のショックで,水の惑星アクエリアスがティンギル星を水没
させてしまう。ティンギル星から脱出したティンギル艦隊は,アクエリアスをコン
トロールして,地球を水没させ征服しようと画策する。沖田艦長,古代らを乗せた
ヤマトはティンギル軍との戦いを繰り広げ,最後に,沖田艦長を乗せたヤマトが自
爆して,ティンギル星による征服を阻止し,地球を救う(甲5の8,32,乙
7)。
(3)被告の行為等
ア雑誌「財界展望」(平成11年5月号)の「『宇宙戦艦ヤマト』の著作
権は誰のものか」と題する記事において,被告は訴外山本暎一に宛てて,以下のよ
うな手記を送った旨が記載されている。
 「MRが,原作,著作を名乗るなど,恥を知るものの振る舞い,とはと
ても考えられません。今,ここを先途と対外的に語られ,2001年にヤマト,復
活編を造る,自分に著作権がある,とは何を指して云われているのでしょう・・・
原作云々等と言っている時点では,可愛い冗談で済ませても,著作権,つまり,ヤ
マトを製作する権利を含めて,著作権があるという事は絶対許せない事です。これ
は私が許せない,という事だけではなく,参加した,スタッフの一員としても許せ
ぬ話しであります・・・企画書は私に帰属するものであり,これがすべての宇宙戦
艦ヤマトの源著作物,著作権のすべてはNに帰属している・・・」(甲3,明らか
な誤字も含めて原文のままである。)。
イ被告は,インターネット上でホームページを開設している。同ホームペ
ージには,以下のコメントが掲載されている(甲23)。
(ア) 被告の以下のコメント
 「私のようなタイプの制作(舞台,音楽含)現場出身の製作
者(ExecutiveProducer)は例が少なく,多くのプロデューサーは原作を映像化し
ている例が大半であります。私はこれを否定するものではなく,私の原作ありてと
いう例は作品歴にございます。しかし,どうやって自分の持ち味を出していくの
か!ということでその都度自分の体験で身につけたオリジナリティーを追求しまし
た。宇宙戦艦ヤマトは,その自分の20代~30代までの集大成であります。」
(イ) Y・S氏の以下のコメント
 「世間ではヤマトはM作品だと言われていますが,実はNPの作品で
あることを僕は知っています。・・・ヤマトの版権がM氏に移り,著作権表示が
「MR」と表示されるのに未だに違和感を感じます。・・・ヤマトはM氏の作品で
はないのです。氏の最近の映像作品を見る限りでは不安でたまりません。」
(ウ) Y・N氏の以下のコメント
 「私も最近のヤマト関連の画像や写真にMR・東北新社と書かれて
いるのはどうしても「何か違う」と思っている一人です。ヤマトの版権が法律上は
M&東北新社が移っているとはいえ,最近の昔ヤマトに関わっていた人たちの発言
にはあまりに酷すぎるものがあります。戦後まもなく,戦争中に使っていた教科書
の一部に墨を塗らせて使用させたと言うことがありましたが,彼らの言動はそれに
近い。M氏の漫画を繰り返し読んでくれば分かるように,テレビ・映画のヤマト
と,そのほかのM氏の漫画・テレビ作品には明らかなスタンス・視点の違いがあり
ます。それはやはり,N氏をはじめとするオフィス・アカデミーの面々の参加があ
ったからでしょう。それを無視し,無かったかのようにする風潮にはやはりどこか
疚しいものを感じざるを得ない。」
(エ) I氏の以下のコメント
 「私も,前々から訴えたかったことがあります,それはM氏が,あた
かも原作者であり,製作者であるような捉え方をしているメディアが多いと言うこ
とです。私は,そう言ったメディアに問いたい。『宇宙戦艦ヤマト』は,誰が企画
して,製作の陣頭指揮に立ったのか?この作品は,N氏が考え出し,スタッフを捜
し,製作したのではないでしょうか?そしてストーリーの性格上,魅力的な女性,
マニアックなメカを必要とし,M氏に声をかけたのではなかったのでしょうか?そ
れをあたかも,自分が『製作』したかのようにビデオのオープニングで『監督M
R』と表示するのはおかしいのではないでしょうか?更に言うなら,『2』『Ⅲ』
では,『私は,ヤマトが何処へ行くのかわからない』とかいうコメントを繰り返し
ていました。なのにもかかわらず,自分の著作権表示をしてビデオを売り,その利
益を得るというのは作り手として意に反することではないのでしょうか?確かに,
あれだけのSF設定を行ったことは認めますが,製作の総指揮にあたった方をない
がしろにし,ビデオやLDのスタッフクレジットに自分の名前を先頭に持って来る
というのは,不思議なことです。アニメーションに携わることが出来た
恩のある方のことを忘れてしまっています。(YAMATO2520の著作権まで
表示しているのもげせません)『宇宙戦艦ヤマト』に関してはM氏のオリジナルで
ないことを,広く一般の方に理解していただきたいと思います。『宇宙戦艦ヤマ
ト』の全ての作品はN氏の生き様であり,心の鏡なのですから。」
ウ被告は,平成11年8月3日付けで,当庁に対し,訴外株式会社バンダ
イ外2名を被告として,著作者人格権侵害を理由とする損害賠償請求訴訟を提起し
(平成11年(ワ)第17262号),同訴状の請求原因中において,被告が本件各
著作物の著作者である旨主張した(当裁判所に顕著である。)。
2争点
(1)本件各著作物の著作者について(著作権法16条)
(原告の主張)
ア以下のとおりの理由から,原告が,本件各著作物について,著作権法
(以下「法」という。)16条所定の「その映画の著作物の全体的形成に創作的に
寄与した者」に当たると解すべきである。
(ア)本件著作物1について
a全製作過程への関与
一般に,アニメ映画の製作過程は,おおむね,原作(案)→シノプ
シス・設定原画・キャラクター創作→シナリオ作成→絵コンテ作成→作画・背景作
成→セル画(カラー)作成→動画撮影→編集(アフレコ〔声優〕・効果音・音楽
〔主題歌・サントラ〕・原盤製作)→試写→修正→プリント(原盤)完成→配布→
試写会→上映という順序で進行する。
 原告は,本件著作物1の製作に当たって,総監督として,原作(原
案)の著作,キャラクターの創作,シノプシスの作成からはじまり,アニメ映画の
骨格である総設定(基本ストーリーの構築,登場人物・背景・構造物・色彩の設
定)を行い,以後のシナリオ作成から絵コンテ作成,色彩・作画・背景・セル画の
作成,動画撮影,音楽,編集,試写に至るまでの全過程を統轄し,細部にわたり製
作スタッフに対し,製作の助言指導や変更の指示指導を行って本件著作物1を完成
させた。
b総設定への関与
 前記のとおり,総設定は,基本ストーリーの構築,登場人物・背
景・構造物・色彩を確定する作業で,これなくしては映像が成立し得ないという意
味で,アニメ映画製作において最も重要な基本的作業である。とりわけ,本件著作
物1のように,原作漫画が存在せず,全く新たなオリジナルのアニメ作品を製作す
る場合には,未だ具体的に感知し得ない作品内容を視覚化・映像化して視聴者に伝
える必要があり,そのため,各パートで製作担当者に対し,作品の内容を感得させ
る必要がある。このような理由から,総設定は極めて重要である。
 アニメ映画の全体的形成に創作的に寄与した者が誰かを決定するに
当たっては,「総設定」を誰が行ったかにより判断すべきである。
 原告は,本件著作物1におけるストーリー,登場人物,ヤマト本体
その他のメカのデザインをはじめとするすべての創作を行った。具体的には,原告
は,機械的構造物,宇宙を第2の海とする自然現象の表現,色彩の指定,宇宙キ
ロ,宇宙ノット,次元波動理論,宇宙波動理論,宇宙波動理論に基づく波動砲,波
動エンジン等の創作のすべてを行った(このうち,波動理論は,原告が創作し,本
件著作物1の著作発表に先立つ昭和44年,SF史上初めて使用した。)。原告
は,登場人物について,「神秘的美女スターシャ」は原告の作品「セクサロイド」
の,「森雪」は原告の作品「男おいどん」の「中川さん」の,「佐渡酒造」は同作
品の「ラーメン屋主人」の各人物像を基に,「沖田艦長」は原告の父親をモデルと
して,それぞれ創作した。このように,原告は,アニメ映画において重要な「総設
定」を行った。
 これに対して,被告は,ただの1コマたりとも映像面で創作してい
ない。
c原作の創作
映画の著作物において,その原作に該当する小説,漫画の存在は重
要である。
 アニメ映画の全体的形成に創作的に寄与した者が誰かを決定するに
当たっては,登場人物やストーリーの展開に関する原作を誰が作成したかによるべ
きである。
被告は,昭和47年初めころ,原告に対して,本件著作物1の美術
監督兼デザインを依頼した。その際に,被告は,企画書(以下「本件企画書」とい
う,乙1)を示したが,およそストーリーの設定の体をなしていなかった。原告が
本件企画書について,「この企画では作品は作れない,過去の作品も凌駕できな
い」と異議を述べたところ,被告は,原告に対して,本件著作物1の製作に関して
監督を依頼した。そこで,原告は,本件企画書の内容をすべて切り捨てて,創作ノ
ート(甲15,50)及び第1企画書(甲16,51)を作成し,これらに基づい
て昭和49年9月27日付の確定稿を作成し,本番用の企画書とした。同企画書
は,昭和36年に,原告が著作公表した「電光オズマ」の「宇宙戦艦大和の巻」
(以下「大和作品」という。)を発展,昇華させたものである。すなわち,大和作
品と本件各著作物は,物語の基本構成,場所的・空間的設定(宇宙からの隕石〔遊
星〕爆弾の飛来を迎え撃つために大和〔ヤマト〕で宇宙へ出撃するという構成),
機械構造物(艦船デザイン),主要登場人物(ススム)の各点において共通する。
また,本件著作物1の第1話のあらすじは,西暦2199年,謎の星ガミラ
スから遊星爆弾による攻撃を受け,絶滅の危機に瀕していた地球に,イスカンダル
のスターシャからメッセージが届くというものであるが,これは,原告が作成した
「創作ノート」とあらすじが共通であり,また,その原案が大和作品であることも
明らかである。
 以上のとおり,本件著作物1の原作は原告が創作したのであるか
ら,本件著作物1の著作者も原告であるというべきである。
d被告の主張に対する原告の反論
被告は,本件企画書(乙1)をもって本件著作物1の原作であると
主張する。しかし,本件企画書は,およそストーリーの設定の体をなしていないの
みならず,同企画書は,本件著作物1のすべての登場人物の図柄を含んでいるわけ
ではないので,本件著作物1の原作とはいえない。
 また,被告は,本件著作物1の製作に関与した当時,原告がアニメ
製作の経験がないと主張する。しかし,原告は昭和18年ころから,アメリカのウ
ォールトディズニーのアニメに触発され,昭和34年ころには,アニメ製作のため
の撮影設備を設置するなどして,アニメ作品の製作について豊富な知識を有してい
た。
 原告は,被告が本件各著作物のプロデューサーとして資金集めや人
材集めの面において活躍した点を否定するものではないが,そのことだけでは,本
件著作物1を創作したことにはならない。
(イ)本件著作物2ないし8について
a 本件著作物2
 本件著作物2は,被告が原告に無断で本件著作物1を編集しただけ
の,いわゆる「焼き直し」であり,独自の創作性はない。本件著作物1の著作者は
原告であるから,本件著作物2の著作者も原告であると解すべきである。
b 本件著作物3
 原告は,総監督を担当するとともに,スタッフミーティング,各種
製作会議への参加,シナリオ風のシノプシスの作成,ラフデザインや戦闘・戦略演
出案の作成,結末部分を大幅にカットするなどの編集をし,特に,主人公の生死に
ついては被告と異なる提案をするなどして,その全体的形成に創作的に寄与した。
c 本件著作物4
 原告は,現場指揮の一切を被告からまかされ,主人公の生死につい
て,原告の意見が採用されるなど,原告がその全体的形成に創作的に寄与した。
d 本件著作物5
 原告は,スタッフタイトルに総設定,総監督と表示されているよう
に,美術設定デザインを含む総監督を担当することにより,その全体的形成に創作
的に寄与した。
e 本件著作物6
 原告は,監督を担当するとともに,原案を作成し,製作会議にも出
席した。また,美術設定においても「二重銀河」を創作した。このように,原告は
その全体的形成に創作的に寄与した。
f 本件著作物7
 原告が直接スタッフを指揮するという回数は次第に減少したが,設
定デザインについて,細かな指示をアシスタントを通じてスタッフにした。このよ
うに原告は,その全体的形成に創作的に寄与した。
g 本件著作物8
 原告は,製作スタッフが成熟したため細部までの監督を行う必要が
なくなったため,監修の立場に退いたが,その製作を全体的に指揮しており,スト
ーリーの展開(ヤマトの最期など),デザイン設定に意見を反映させたのであり,
その全体的形成に創作的に寄与した。
(被告の主張)
ア以下のとおりの理由から,被告が,本件各著作物について,法16条所
定の「その映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」に当たると解すべき
である。
(ア) 本件著作物1について
a本件著作物及び製作過程における特徴
(a) 被告は,スケールの大きな,宇宙を舞台にしたSF作品を作りた
いと考え,「巨大な戦艦が宇宙を飛ぶ」という発想を中心に構想を練り,昭和49
年3月ころ,本件著作物1について本件企画書(乙1)を作成した。その後,被告
は本件企画書を基にして,本件著作物1の製作を開始し,自らの構想をテレビアニ
メとして実現するために必要なスタッフの人選をした。
(b) 本件著作物1の製作は,おおむね,原案の作成,シノプシスの作
成,SF原案の作成,SFの設定,プロットの作成,戦闘戦略案の作成,設定デザ
イン,美術ボード等の作成,イメージスケッチの作成,音楽の作成,シナリオの作
成,画コンテの作成,アフレコ(アフターレコーディング)台本の作成,アフレ
コ,特殊効果,原画の作成,動画・彩色・背景・仕上げ等,撮影,編集,音響,ダ
ビング等の各過程からなり,それぞれの担当者が,各パートを分担して具体的な作
業を行った。被告は,一貫したイメージを維持するために,本件著作物1の全体の
製作について,全責任を負い,全体形成のために具体的な指示を出し,修正等を施
して,最終的な決定を行った。
(c) 本件著作物1はテレビシリーズであったため,1週間ごと新しい
作品を完成させなければならないという制約があった。放映の数か月前から製作を
開始し,作業班を4班に分けて常時4本の作品を同時並行で製作していた。
 被告は,このような制約の中で,各話をそれぞれ1つの作品とし
て完成し,かつ,その全体を1つの作品として完成させるために,製作現場に常駐
し,決定権を持って,各種会議,打合せを主催して,各話の各製作パートの担当者
に対して製作方針等を徹底し,被告の感性に沿って具体的な指示を出して,作品全
体を統一したテーマに仕上げていった。
(d) また,本件著作物1は,視覚化された原作に相当するものが存在
しない状態から新たにオリジナル作品として製作されたのであり,未だ具体的に感
知し得ない作品の内容を視覚化・映像化して視聴者に伝える必要があった。被告
は,当該作品において伝えるべき思想内容を,的確に視聴者に伝えるための工夫を
凝らした。すなわち,被告は,各製作パートの担当者が,作品のイメージを視覚的
に感得できるように,各製作作業に即して作品の内容,製作方針等を伝え,具体的
な指示を出して,当該作品全体を統一されたテーマに仕上げた。被告は,本件著作
物1の製作に当たり,「ジェネラル・プロデューサー」として,「企画・原案・製
作・総指揮」を担当し,製作に必要なすべての情報を集め,自ら指示を出し最終的
な決定をする「プロデューサー・システム」を採用した。
(e) 本件著作物1の特徴は,アニメ作品として,「緊迫感」「使命
感」「スケールの大きさ」「エンターテイメント性」「人間ドラマ」を追求した点
にあり,また,被告の独特の感性に基づき,「映像,音楽,ドラマ」の三位一体を
追求した点にある。被告は,このような観点から,従来のアニメ作品には見られな
い「新鮮な映像」,「ドラマチックなストーリー展開」,「登場人物の的確な演技
とセリフ」及びこれまで単なるBGMとして軽視されていた「音楽」を徹底的に充
実させた。
b被告の寄与
被告は,以下のとおり,全製作過程において具体的な関与をした。
(a) 「基本設定書」の作成
 被告は,毎週1話ずつの作品において,各エピソードを作品全体
のどの部分に盛り込み,いかに演出するかについて,統一性を持たせるという観点
から,基本設定書を作成して各話の内容を決定して,具体的な指示をした。
(b) シナリオの作成
 被告は,シナリオ作成の担当者がシナリオを作成するに際して,
具体的に指示し,最終的に決定した。
(c) 登場人物等の設定
 被告は,登場人物等を設定するための会議を主催し,具体的な指
示を出し,最終的な決定をした。これに対して,原告が行ったのは一部の登場人物
のデザインの作成にすぎない。登場人物のデザイン作成については,訴外岡迫亘
弘,訴外芦田豊雄,訴外白土武らも行っている。
(d) 絵コンテの作成
 被告は,シナリオ決定後,絵コンテ作成の担当者が,被告の演出
方針に沿って絵コンテを作成するに当たり,具体的な指示を出し,最終決定をし
た。確かに,原告は一部の絵コンテの作成に関与したことがあったが,石黒昇が担
当して,カット割り等を構成し直している。
(e) 作画
 被告は,絵コンテ完成後,これを基に,各作画担当者(アニメー
ター)が作画作業をするに当たり,各登場人物の動きや心理状況や音楽との間合い
等細部に至るまで指示を出し,最終決定をしている。これに対して,原告は,作画
につき何ら関与していない。
(f) 撮影・現像・オールラッシュ試写
 被告は,作画の後,セル画を載せて1コマ1コマを映画用フィル
ムに撮影し,これを現像・プリントしてフィルム(ラッシュフィルム)を作成し,
これを絵コンテに従ってカット順に並べ換えて棒つなぎにして(オールラッシ
ュ),その試写をした際に,これに立ち会って,出来映えを確認し,修正やリテー
クの指示をした。これに対して,原告は,オールラッシュ試写に立ち会いすらして
いない。
(g) 編集
 被告は,オールラッシュ試写の後の編集作業について,具体的な
指示を出し,最終決定をした。これに対して,原告は,編集作業に立ち会いすらし
ていない。
(h) 録音
 被告は,録音作業における声優のセリフ録音(アフレコ),効果
音と音楽のミックスに際しても,具体的な指示を出して,最終的な決定を行った。
 以上によれば,被告は,作品を通して視聴者に被告の思想や感情を
伝える意図で,本件著作物1の製作のあらゆる過程に関与し,製作の担当者に対し
て各製作作業に即した具体的な指示を出し,最終的な決定を行っているのであるか
ら,本件著作物1の全体的形成に創作的に寄与した者といえる。
c原告の主張に対する被告の反論
(a)原作について
① 原告は,創作ノートが本件著作物1の原作に当たると主張す
る。
 しかし,本件著作物1の原作は,被告が作成した「本件企画
書」(乙1)及びこれを基にして作られた「宇宙戦艦ヤマト・設定ストーリー 第
一稿ないし第三稿」(乙31の1ないし3)である。原告が作成した「創作ノー
ト」の記載内容は,「本件企画書」,製作方針についての「プロデューサ・メッセ
ージ」(乙21)及び上記「設定ストーリー」に既に記載された内容に依拠したも
のである。また,原告が本件著作物1の製作に関与し始めたのは,昭和49年4月
以降であり,創作ノートの記載内容からすれば,同年5月21日以降に作成された
ものというべきである。
② 原告は,「第1企画書」が本件著作物1の原作に当たると主張
する。
 しかし,「第1企画書」も,目次頁に,「1974.9.27
 MATSUMOTO」と記載されているように,その作成年月日は同日であっ
て,本件著作物1の原作ではあり得ない。本番用最終稿(甲17)なるものも,番
組放映の直前に作成されたものであり,到底原作とはいえない。
③ 原告は,「電光オズマ」の大和作品が,本件著作物1の原作
(案)である旨主張する。
 しかし,両作品はストーリーが全く異なり,また,同作品にお
ける「宇宙戦艦大和」はロケットの形をしており,「宇宙戦艦ヤマト」とは全く類
似性がない。
(b) 原告の役割について
 被告は,本件著作物1の一部の登場人物のデザイン,メカ設定等
の美術面について,原告に依頼した。原告が,このような作業を担当しただけで
は,原告がその全体的形成に創作的に寄与したということは到底できない。
 原告は,自ら絵コンテを作成したと主張するが,原告が担当した
のは,全26話中8話のみであり,しかも,いずれも石黒昇と共同で担当したにす
ぎない。さらに,原告が関与した絵コンテは,すべて石黒昇においてカット割りを
構成し直すなどの詳細な手直しが行われている。絵コンテについての原告の主張
は,誇張されている。
(c) その他
 原告が主張の根拠とする「宇宙戦艦ヤマト」の「波動砲」につい
ても,そもそも「創作ノート」には記載されていない。これに対して,被告は,本
件企画書において,「波動砲」に関して「空間波動砲」との名称を用いて使用して
いる。
(イ) 本件著作物2ないし8について
 本件著作物2ないし8についても,本件著作物1と同様,被告が作品
全体についての一貫したイメージを持って製作の全体を指揮・監督したから,それ
らの全体的形成に創作的に寄与したといえる。
 原告は,本件著作物2は本件著作物1の「焼き直し」であるから,本
件著作物1の著作者である原告が本件著作物2の著作者になると主張する。しか
し,原告は,本件著作物2の製作には一切関与していないので,原告の同主張は失
当である。
(2)著作者人格権侵害行為及び名誉毀損行為の有無
(原告の主張)
原告は,前記1(3)記載の被告の行為等により,本件各著作物の著作者とし
ての権利及び社会的信用を害され,名誉声望を著しく害され,多大の精神的苦痛を
受けた。被告の行為は,著作者人格権侵害及び名誉毀損を構成する。
(被告の反論)
原告の主張は争う。
第3 争点に対する判断
1本件著作物1の著作者について
(1)被告の寄与の程度
ア 事実認定
 本件著作物1の製作について,被告の寄与の程度について検討する。
証拠(甲18,19,34ないし38,41,45,乙1ないし3,9
ないし20,23,25ないし29,31の1ないし3,32ないし35,原告,
被告各本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおりの事実が認めら
れる。
(ア) 本件著作物1製作の契機及び本件企画書の作成
 被告は,昭和48年4月から同年9月まで,アニメ作品「ワンサく
ん」を製作し,同作品はテレビ放映された。被告は,同作品の放映が終了した昭和
48年9月ころから,山本暎一とともに,次のアニメ作品の準備を開始した。
 被告は,ハイラインの著作「地球脱出-メトセラの子ら」における,
「地球の危機的状況から脱出して宇宙に移住の地を求める」話(SF版ノアの箱
舟)に刺激されたこと,自らプロデューサーを担当したアニメ作品「ワンサくん」
で,映像と音楽を融合させる試みをしたことなどから,次のアニメ作品について,
映像,音楽及び人間ドラマを融合させた,宇宙を舞台にした冒険アクションSF娯
楽大作を製作しようとした。被告は,SF「アステロイド6」の著者である豊田有
恒の参加を得て,同人において,SFの設定やアイデアプロットを作成した。さら
に,被告は,ブレーンスタッフとして,石津嵐(SF),藤川桂介(脚本),斉藤
和明(イラスト),槻間八郎(美術)らの参加を得て,被告を中心に,企画段階で
のメインスタッフによるブレーン・ストーミングのための会議を開き,仮称「アス
テロイド・シップ」の企画作業を進行させた。
 企画の具体的な進行について,被告は,すべての会議を主催して,自
ら,骨格となる具体的な方針,ストーリー及びアイデア等を提示し,また,スタッ
フが着想したアイデアを取捨選択し,SF設定,SFアイデア,エピソード及び銀
河系の模式図(ドラマの舞台となる銀河系宇宙の図を資料に基づいて描いたもの)
などを具体化した。被告は,豊田の原案のうち,敵役を「コンピュータ」から「ラ
ジェンドラ星人」(後のガミラス星人)に,作品の中心となる「アステロイド・シ
ップ」を「戦艦大和」に由来する「宇宙戦艦ヤマト」に(なお,当初の段階では,
宇宙戦艦「コスモ」とか「イカルス」とされていた。),その乗組員を全員日本人
に,変更した。
 被告らは,昭和49年3月ころ,このような作業を経て,本件企画書
(乙1)を作成した。
 なお,同月ころ,本件著作物1における登場人物の図柄を完成させる
には至らなかった。すなわち,被告は,登場人物の図柄作成について,芳谷ケイジ
に協力を依頼したが,同人から断られたため,暫定的に山本暎一,斉藤和明及び槻
間八郎が,図柄を描いていた。
 被告は,本件企画書を持ち込んで,よみうりテレビと交渉した結果,
同局において,昭和49年10月6日から,週1回全39回(39話)を放映する
ことが決まった。
(イ) 本件企画書の概要
 本件企画書におけるストーリーの概要は,以下のとおりである。
 21世紀初頭,地球は地球への移住を意図した異星人(ラジェンドラ
星人)からの攻撃により放射能で汚染され,人類は地下都市に避難して生活してい
た。地中の大気汚染が進み,異星人は地球への攻撃を止め,人類は一応安堵した
が,地上の放射能が地下都市を浸蝕するまで1年を残すのみとなり,人類は滅亡の
危機に瀕した。そのとき,宇宙の遙か彼方にあるイスカンダル星から,イスカンダ
ル星には放射能除去装置が存在するとの情報がもたらされた。そこで人類は,地球
滅亡までに残された1年以内に,地球から2万光年の彼方にあるイスカンダル星ま
での距離を往復し,放射能除去装置を入手するため,「宇宙戦艦ヤマト」を建造
し,ヤマトに地球の運命を託した。そしてヤマトは,114人の乗組員を乗せて,
地球から旅立った。地球滅亡まであと365日が残されていた。
 ヤマトは,宇宙空間ではワープ航法によって1回に100光年を飛行
する。1日に2回のワープ航法が可能なため,1日に200光年を進む。往復4万
光年を飛行するのに200日,イスカンダル星での滞在,アクシデントの解決のた
めの日数を加えて300日がヤマトの航行日数になった。
 冥王星に置かれた異星人の無人観測所が,ヤマトの出航をキャッチ
し,ヤマト打倒の指示が発せられた。ヤマトは,執拗に攻撃する異星人と戦い続
け,想像を絶する宇宙の難所や乗組員の内紛にも苦しめられ,乗組員の多くが戦死
した。
 絶望的に遅れたスケジュールで,ヤマトはようやくイスカンダル星に
たどり着いた。放射能除去法を示す設計図だけを入手し,ヤマトの艦内で組み立て
ながら帰還することとした。
 地球へ帰還しようとするヤマトにラジェンドラ星人が攻撃する。ヤマ
ト側は,異星人は放射能がなければ生存できないことを突き止め,放射能除去装置
を完成して,使用に成功した。364日目,ヤマトはようやく地球に帰還し,地球
は熱狂した。生還したのは,主人公ただ一人であった。
 本件企画書には,登場人物(キャラクター)の性格付け,人物像,図
柄等が示されている他,企画意図,製作仕様,エピソード,ヤマトの詳細な説明等
が記載されている。
(ウ) 本件企画書と本件著作物1との比較
a 本件企画書と本件著作物1とは,基本的なテーマ設定について,
「異星人からの攻撃により,地球は放射能で汚染され,人類滅亡まであと1年が残
され,この危機を救うため,放射能除去装置を求めて,戦艦『大和』を改造した
『宇宙戦艦ヤマト』が,遥か離れた星『イスカンダル』を目指して,若者を乗せて
旅立つ」という点で共通する。
b 本件企画書と本件著作物1とは,ストーリー全体の流れ及び配され
たエピソードについて,①異星人からの攻撃により,地球は放射能で汚染され,汚
染が地下にまで浸透し,地下都市を築いて生き延びていた地球人の滅亡まであと1
年を残すまでとなること,火星にイスカンダル星からの飛行物体が飛来し,イスカ
ンダル星に放射能除去装置があるとの情報が伝えられたこと,地球人が,宇宙船
(戦艦)ヤマトに乗り込み,ワープ航法を用いながら,遙かイスカンダル目指し旅
立つということ等のプロットが配されていること,②イスカンダル星で,放射能を
消去する装置の設計図を入手し,帰途艦内で組み立てること,物欲に目がくらんだ
一部乗組員が反乱を起こすこと,地球へと迫ったヤマトの前に,敵が最後に立ちふ
さがり,最後のクライマックスを迎えること,③ヤマトの女性乗組員が放射能消去
装置が未完成であるのにかかわらず,身を挺して同装置を稼働させ,ヤマトは戦い
に勝利を収めるが,女性乗組員も死亡する(本件著作物1では,後に蘇生する。)
こと,④最後に地球が救われることなどの点で共通する。
c 本件企画書と本件著作物1とは,話題に盛り込まれたアイデアにつ
いて,①「ヤマトのワープ機能(光速を越えるための跳躍航法)」(4話),②
「ヤマトの最終兵器,空間波動砲(波動砲)」(5話ほか)③「アステロイド・ベ
ルト」(9話ほか)④「サルガッソー海」(15話)などが配されている点,⑤各
回のテレビ放映の最後に,「人類滅亡まであと○○日」というテロップが流される
点等で共通する。
(エ)製作体制の確立,スタッフの選定
 被告は,ジェネラル・プロデューサーに就任して,製作に関して決定
権限を一元化する体制を整え,被告の企画方針を実現するためのスタッフを選定す
ることにした。
 すなわち,①アニメ製作においては,シナリオ,絵コンテ,作画,撮
影,編集,録音及び試写等の各製作パートに分担する必要があること,②本件著作
物1は,視覚化された原作は存在しなかったこと,③本件著作物1は,各話完結で
なく,全体として1つのストーリーからなり,しかも,ドラマ,映像及び音楽の3
要素を融合させた作品を目指していたため,作品全体のイメージを統一する必要が
あったこと,④1週ごとに放映されるテレビシリーズであるため,作画部門を4班
に分けて,同時進行させる体制を採る必要があったこと等の事情から,被告は,自
身が製作のすべてに関与し,全体的な観点から具体的な指示,決定を行うべく,す
べての決定権限を集中させる体制を採った。そして,被告は,練馬区桜台にスタジ
オを借り,常駐して製作を続けることにした。
被告は,ドラマ,映像,音楽の3要素の融合という企画方針を実現で
きるように,主要なスタッフの人選をした。すなわち,①ジェネラル・プロデュー
サー(スタッフタイトルは「企画・原案・原作・総指揮」とされた。)として被告
自身を,②監督として山本暎一を,③映像に関しては,チーフディレクターとして
石黒昇を,背景監督として槻間八郎を,作画監督として岡迫亘弘(総作画監督),
芦田豊雄,白土武,小泉謙三を,その下に作画作業班を置き,④音響に関しては,
音響監督として田代敦巳を,音楽担当として宮川泰を,効果(効果音)担当として
柏原満を,それぞれ起用した。
(オ) 原告の起用
製作を開始した後の昭和49年4月ころ,宇宙空間などの色彩を的確
に表現できるスタッフが必要となった。被告は,①原告の「アナクロ的なメカニッ
クデザイン(アナログ的計器類)」や「女性像」が本件著作物1のイメージに合致
すること,②野崎欣宏が原告を推薦したことから,原告に対して,メカニックデザ
インやキャラクター設定をはじめとする「美術・設定デザイン」の担当を依頼し,
原告はこれを承諾した。
 昭和49年6月末以降,監督の山本暎一が海外ロケに出かけるため,
本件著作物1の製作に関与できなくなった。山本は,既に,「鉄腕アトム」や「ジ
ャングル大帝」等のテレビアニメを製作し,アニメ界で実績があったため,山本が
欠けることはテレビ局との関係でも支障が生じた。被告は,原告が,アニメ製作に
ついての実績はないが,有名な漫画家であり,作品に話題性を与える効果が期待さ
れたため,原告に対して,監督の就任を依頼した。原告は,連載漫画を多数引き受
けていたことや,アニメへの初参加で監督を務めるのは能力を超えることを理由に
固辞したが,被告や山本暎一からの説得を受けて監督を引き受けた。このような事
情から,被告は,実際には,プロデューサー兼監督として,自ら指揮して,本件著
作物の製作を進めることにした。
(カ)基本設定書等の作成
被告は,一連のストーリーを大別し,「ヤマト出発シリーズ」「太陽
圏突破シリーズ」「銀河突破シリーズ」「バラン植民地解放シリーズ」「マゼラン
基地撃破シリーズ」「イスカンダル発見シリーズ」「ガミラス攻略シリーズ」「イ
スカンダル到達シリーズ」及び「地球帰還」の9つに分け,山本暎一,藤川桂介の
協力を得て,「宇宙戦艦ヤマト自体チャームポイント」「宇宙戦艦ヤマト戦闘史」
「ガミラスの指揮官」「宇宙戦艦ヤマトの航海予定」「宇宙戦艦ヤマト艦長の病状
と艦内の空気」「古代進の境遇」及び「島大介の境遇」に関する設定対比表を作成
した(乙3の620ないし623頁)。
 また,被告は,山本暎一の協力を得て,ドラマ全体の起承転結を明確
にし,各話におけるプロットを盛り込んだ「各話別基本設定書」を作成した(乙3
の624ないし636頁)。
 被告は,同設定書を基礎に,被告のアイデアを説明した上,脚本,設
定,デザイン,美術等の担当者に具体的な作業内容を指示した。
(キ) シナリオの作成
 被告は,シリーズ全体のシナリオ作成に当たり,脚本家,SF作家等
との間でブレーンストーミングを行い,「銀河系の中心に行くのではなく,銀河系
の外に旅立つ,壮大な話にしたい」「相手方のラジェンドラ(イスカンダル)は二
重連星とする」「異星人側もヒューマノイドタイプとする」「敵,大敵は,ナチス
ドイツを想定し,かつ,第二次世界大戦の連合軍ヨーロッパ侵攻作戦を下敷きに考
える」「戦略,戦闘に太平洋戦争,ミッドウェイ,レイテ等の海戦の戦略を参考に
する」など具体的な指示を出して,シナリオ作成作業を進めた。そして,被告の作
成した前記「各話別基本設定書」を踏まえて,藤川桂介において,「宇宙戦艦ヤマ
ト設定ストーリー(全3稿)」(乙31の1ないし3)を作成し,これらに基づい
て,藤川,田村丸及び山本が脚本を作成することとした。被告は,シナリオ作成を
依頼するに当たって,「主人公たちの成長」や「ライバル関係」や「食事をすると
いった日常的な情景」をドラマに入れて,視聴者が登場人物に共感を持つような作
品にするよう,留意事項を挙げ,できあがったシナリオについて何回か修正を加え
た上,被告においてシナリオを確定した。
(ク) 設定デザイン,美術,キャラクターデザイン
 被告は,絵コンテ作業の前提となる,設定デザイン,美術,キャラク
ターデザインの作成作業について,詳細な具体的指示を与え,被告においてデザイ
ン等を確定した。
a 設定デザイン
 「設定デザイン」のうちには,主要なものとして「場の設定」があ
る。すなわち,舞台となる惑星の「場の設定」として,「惑星全景」「惑星4分の
1」「列島レベル」「都市レベル」「主要な都市建造物」「基地」「メカニッ
ク」,「基地の内部」がある。
 設定デザインは,従来は美術監督の担当分野であったが,被告は,
設定デザイン部門を独立させ,設定したデザインを美術部門の「カラーボード」
(通称「美術ボード」と呼ばれた。)「背景」の原図としてそのまま活用できるよ
うに組織編成をした。
 被告は,デザイン担当と入念に打ち合わせをした上で,各場面の
「設定デザイン」「その切り返し」「三面図」等のラフを仕上げ,被告において原
案を確定した。
b 美術等
 美術スタッフが打合せを行い,場面設定の要所を指定した上で色彩
を施して,ミニボードを作成する作業がある。被告は,担当者に対して,シーンの
色彩イメージについての指示を出し,最終的に確定した。原告は,登場人物,メカ
の色彩の指定を行ったが,いずれも最終的には,被告が決定した。
 また,様々なドラマが展開される「大場設」(大きな場面設定),
「宇宙空間各種」「敵方の惑星」「大要塞」等については,被告の指示に基づいて
大きな「美術ボード」が作成され,これを美術スタッフ全員で見てイメージを統一
するという方法が採られた。
 このように,美術については,被告の発想とデザインコンセプトに
従ってラフを起こし,被告が最終的に決定した。
c 登場人物,メカニック
 登場人物については,被告と総作画監督である岡迫亘弘が,登場人
物の性格付け(キャラクター設定)を行い,これに基づいて,岡迫が「古代進」
「真田志郎」「古代守」「デスラー総統」を,岡迫と芦田豊雄が共同で「島大介」
を,原告,岡迫及び芦田が共同して,「沖田十三」「森雪」を,原告が「スターシ
ャ」「アナライザー」及び「佐渡酒造」を,それぞれデザインし,クリーンアップ
作業を経て完成した後,被告が原案を確定した。
また,「宇宙戦艦ヤマト」本体のデザインについては,原告が担当
した。被告は,原告に対して,①実物の戦艦大和を基礎に,原形を崩さずに使用す
ること,②横向きのシルエットについては,艦橋,砲塔,イカリ及びカタパルトに
至るまで,実物の戦艦大和と同型とすること,③本件企画書にある断面図における
イラストを出来る限り使用すること等のデザインコンセプトを明確に指示し,被告
が原案を確定した。
(ケ) 絵コンテ
 前記の確定したシナリオに基づいて,映像化するための絵コンテ作業
について,被告は,単独で,あるいは舛田利雄映画監督や山本暎一らと共に,絵コ
ンテ担当者に対し,個別に指示説明をして,作成させた。その際,1つの絵コンテ
について複数の絵コンテ案を作成させ,一番良いものを採用するという方法を採っ
た。
 絵コンテ作業は,演出,カメラワーク,カット割り,それぞれのカッ
トの秒数(尺数)の決定(秒割り),音楽の入る位置,全体尺(長さ)を考慮に入
れなければならず,何度も変更(リテーク)の指示を出した上で,被告において,
最終的に絵コンテを決定した。
(コ)作画
 作画作業は,①アニメーター(作画担当者)による,カットの基本と
なる画面の構成(レイアウト),登場人物等のポーズや表情の描画(原画),原画
と原画の間をつなぐ絵の描画(動画),②背景美術の担当者(背景マン)による背
景の描画,③これらの全体が絵コンテの演出方針どおりであるかのチェック(演出
チェック),④完成された動画を透明なセル板にトレースして,指定された色を塗
られる作業(セル画)の各作業からなる。
 被告は,チーフアニメーションディレクターと演出方針の打合せ,及
び総作画監督,作画監督,主原画家,美術監督,美術設定デザイナー等の担当者と
打合せを行った後に,各スタッフが打合せの結果に基づいて作画作業を行った。ま
た,被告は,原画担当スタッフとチーフディレクターとの間で行われる「作画打合
せ」にも必ず立ち会い,ドラマ上の重要なカット,「心情芝居」「人情」「男女の
機微」「戦闘」「戦略」「戦術」の設定など重要なカットやシーンについては,自
ら直接,担当者に対して指示をした。さらに,被告は,各アニメーターが分担した
各部分の相互の関連などについて,アニメーターに説明し,詳細な指示を与えた。
被告は,仕上がった背景やセル画のうち,重要なものについて,自らチェックし,
作画を確定した。
(サ) 撮影・現像・オールラッシュ試写
 作画段階で描かれた「背景」に「セル画」を重ねて,1コマごと撮影
して,これを現像・プリントして「フィルム」(ラッシュフィルム)を作成し,こ
れを絵コンテに従ってカット順に並べ換えて,棒つなぎにして「オールラッシュ」
を完成させて,各製作パートの責任者が参加してオールラッシュ試写を行い,各作
業の出来具合をチェックする。 被告は,試写に欠かさず立ち会って,自己が指示
したとおりにオールラッシュが仕上がっているか否かを確認し,自己の感性やイメ
ージに沿わない部分については修正させた。
(シ) 編集
 オールラッシュ試写後の作業として編集がある。編集作業は,映像の
流れにメリハリやテンポをつけたり,各登場人物等の動きとセリフや効果音・音楽
との調整を図ったり,オールラッシュフィルムを放映時間の長さに合わせたりする
目的で,カットを削除,付加したり,また,オープニング,エンディングを付けた
り,CMを挿入する場所を指定したりする作業である。被告は,編集作業につい
て,具体的な指示を出し,放映用の作品の映像部分を完成させた。
(ス) 音楽,録音(アフレコ)
まず,オープニング及びエンディングに流される主題歌の作詞作曲
は,絵コンテの作業と並行して行われた。
 被告は,企画意図や作品のイメージを具体的詳細に伝えた上で,阿久
悠に作詞を,宮川泰に作曲を依頼した。
例えば,主題歌の作曲について,被告は,あらかじめ宮川に脚本を示
し,作品の製作意図を理解してもらい,被告の音楽設計に関する基本方針を示した
上で,これらに基づいて主題曲の作曲を依頼した。そして,被告は,絵コンテ作業
の進行にあわせて,各場面における情景や登場人物の心情等を,美術ボードを示す
などしながら,ストーリーを丁寧に説明し,これから完成する映像の最終イメージ
を伝えて,主題曲の作曲を完成させた。
編集によって映像部分を完成させた後の製作作業として,音楽,声優
のセリフ及び効果音を加えてミックスダビングを行う作業がある。
録音作業は,63人からなるシンフォニックオーケストラの演奏によ
って各種パターンを録音したが,被告は,自ら録音作業にも関与した。
 BGM(背景音楽)について,被告は,音響監督である田代敦巳と打
合せを行って,弦楽器を多く取り入れたシンフォニックでスケール感のある曲を用
いることとした。そして,このような方針に沿って,宮川が,各場面でどのような
曲が必要かについて,被告からの詳細な注文を受けて,100曲を超える曲を作曲
し,田代において,これらを整理して保管し,アフレコの過程で,これらの曲から
選定して使用した。
 このように,音響作業については,形式的には,田代が決定権限を有
していたが,実際には,被告は,自らの感性に沿って,意見を出したり,決定した
りする例が数多くあった。
イ被告の寄与に関する結論
以上の事実を総合すると,被告は,本件著作物1について,本件企画書
の作成から,映画の完成に至るまでの全製作過程に関与し,具体的かつ詳細な指示
をして,最終決定をしているのであって,本件著作物の全体的形成に創作的に寄与
したといえる。
(2) 原告の寄与の程度
ア 事実認定
 本件著作物1の製作について,原告の寄与の有無及び程度について検討
する。
 前掲各証拠及び甲2,14,17,35ないし38,41,45,5
2,56,57,59並びに弁論の全趣旨によれば,以下のとおりの事実が認めら
れ,これを覆すに足りる証拠はない。
(ア) 原告の参加の時期
 本件著作物1の本件企画書を作成していた段階では,原告は製作に全
く関与していなかった。被告は,製作を開始した後,著名な漫画家である原告に対
して「美術・設定デザイン」の担当を依頼した。その後,当初監督に就任していた
山本暎一が,海外ロケーション等の日程の都合上,製作に関与できなくなったた
め,作品の話題性を高めるために,原告に対して監督を依頼したが,実質的な監督
は,被告が担当した。
(イ) 原告の関与の程度
 原告は,第1話から第3話までについては,時間的な余裕があったた
め,構成シナリオ,設定の打合せ等に参加したが,その後は,各話の設定デザイン
の作業等に追われて,スタジオでの打合せにはほとんど参加しなくなった。
 原告は,本件著作物1の製作に関与した昭和49年4月ころから最終
回の放映された昭和50年3月30日までの間,各月ないし隔週で,20を超える
漫画作品の連載を担当していたため,本件著作物1の製作に関して,スタジオに赴
き,他のスタッフに詳細な指示を与えることはなかった。原告は,26話での打ち
切りが決まった時期以降は,スタジオに赴くこともなく,専ら,自宅において設定
デザインに関する作業をすることが多くなった(乙15,23)。
(ウ) 設定デザイン,美術,キャラクターデザイン
設定デザインについては,原告が,その一部(背景,敵方の異星人の
居住する星及び基地,メカニック等のデザイン)を担当した。しかし,原告が作成
したデザインは,すべて,被告が作成した「設定対比表」「各話別基本設定書」に
基づいて行い,かつ,被告が最終的なデザインを決定した。
 原告がデザインした登場人物のうち,被告がそのまま採用したのは,
「スターシャ」「アナライザー」及び「佐渡酒造」のみであった。その他の登場人
物,すなわち「森雪」や「沖田十三艦長」などについては,原告が原案を作成した
が,ドラマ全体のイメージに沿った劇画的なものにするべく,岡迫総作画監督がリ
ライトの指示を出し,被告が最終的に決定した。
 原告は「宇宙戦艦ヤマト」本体のデザインを担当したが,「デザイン
コンセプト」は被告の指示に基づいて行い,かつ,被告が最終的な決定をした。
原告は,登場人物,機械的構造物の色彩指定などをしたが,いずれも
被告の決定を経ていた。
(エ) 絵コンテ
絵コンテについて,原告は,戦闘シーン等や第1話の絵コンテの中の
一部のみを担当し,演出の石黒昇が修正するという共同作業で進められた。しか
も,このような形式で,原告が絵コンテに関与したのは全26話中8話だけであっ
た。
(オ) 音楽
 作曲について,原告は,宮川泰に主題曲に関する意見を述べたことも
あったが,ドラマの基本的なイメージを伝えて,指示をしたのは被告であり,最終
的に決定したのも被告であった。
第3話の最終場面,すなわち,宇宙戦艦ヤマトが主砲で,超大型ミサ
イルを撃破した後,黒煙と炎の中からヤマトが出現し,一気に上昇するシーンで,
被告と田代敦巳音響監督が,宮川泰の作曲したエレクトリックギターを多用したB
GMを用いる方針を立てたことに対し,原告が「トッテンチャカポコは困る」とし
て,エレクトリックギターの使用に異議を唱えたが,結局,被告は,自らの意見に
沿って,同曲を採用した(乙12)。
また,被告は「軍艦マーチ」を用いることを発案した際,原告を含め
た多数のスタッフから異議が述べられたため,第1話では採用を見送ったが,結
局,第2話で,被告は同曲を採用した。
(カ)その他
 原告は,作画打合せ,オールラッシュ試写,編集作業には関与してい
ない(乙9及び15)。その他の製作過程について,原告が積極的に関与したこと
はない。
(カ)事後の事情
後記2に認定するとおり,原告は,本件著作物2の製作には一切関与
していないが,本件著作物2が大ヒットしたため,原告は,被告に対して本件著作
物2についても権利を主張した。昭和52年8月17日,原告と被告とは,本件著
作物2は,本件著作物1のフィルムを基にして新たに製作された作品である旨,原
告は「設定・デザイン」を担当したメインスタッフとして,本件著作物1により発
生している本件著作物2についての二次使用料1000万円(構成料・デザイン料
等)を被告から受ける旨合意した(乙10,32,被告本人尋問の結果)。しか
し,同契約は,本件著作物1について,原告が著作者であることを認めて,その二
次使用料の支払を受けるという趣旨を合意したものでないことは明らかである。
イ 原告の寄与に関する結論
 以上認定した事実によれば,原告は,本件著作物1の製作について,設
定デザイン,美術,キャラクターデザインの一部の作成に関与したけれども,原告
の関与は,被告の製作意図を忠実に反映したものであって,本件著作物の製作過程
を統轄し,細部に亘って製作スタッフに対し指示や指導をしたというものではない
から,原告は,本件著作物1の全体的形成に創作的に寄与したということはできな
い。
ウ原告の主張に対する判断
(ア)原告は,本件著作物1の製作過程において,①原告が,アニメ映画
製作において最も重要な作業というべき設定デザインを担当したこと,②原告が,
機械的構造物,宇宙空間を海にたとえた自然現象の表現,色彩の指定,宇宙キロ,
宇宙ノット,次元波動理論,宇宙波動理論,波動砲,波動エンジン等のアイデアを
提供したこと,③原告が,波動理論や登場人物を創作したこと,④これらが本件著
作物1の特徴となっていることなどを根拠に,原告が全体的形成に創作的に寄与し
た者である旨主張する。
 しかし,前記(2)において認定したとおり,原告の関与した作業内容
は,美術及び設定デザインの一部であって,ドラマ,映像及び音楽から構成される
本件著作物1の全体からみれば,部分的な行為にすぎないといえるから,原告がこ
れらの作業を担当したことによって,全体的形成に創作的に寄与したということは
できない。
確かに,アニメ映画においては,映像が作品の重要な特徴として認識
される面があることは否定できず,原告が,美術・設定デザインを担当し,「宇宙
戦艦ヤマト」や主要な登場人物のデザインを作成したために,本件著作物1の映像
や画面構成に原告の個性が発揮されているのは当然であるといえるが,そのことの
ゆえに,映画の著作物である本件著作物1を原告が著作したとはいえない。
(イ)原告は,創作ノートに基づく本番用企画書と題する書面等(甲1
7,50(15)及び51(16))を作成したことに照らすならば,原告が本件
著作物1の全体的形成に創作的に寄与したと解すべきである旨主張する。
 しかし,原作の上記主張は,以下のとおり失当である。
原告が記載した甲17,50(15)及び51(16)と本件著作物
1の製作への寄与との関連は必ずしも明らかでない。
まず,甲50(15)については,①原告が本件著作物1の製作に関
与したのは昭和49年4月ころであること,②甲50の1頁目には,5月21日と
日付が記載されているので,甲50のその他の部分が書かれたのは,同年5月21
日以降であると推認されること,②甲50は,原告が個人的に所有するノートに,
覚書の体裁で箇条書きで記載されたものであること,③甲50の内容は,被告が既
に作成し,原告に示した本件企画書(乙1)に記されているエピソードやアイデア
がそのまま書かれていること(乙11,23及び原告本人尋問の結果)等の事実を
総合すれば,甲50は,原告が自己の担当する設定・デザイン作業を進めるに当た
って,本件企画書に示されている企画方針を自分なりに咀嚼するため,あるいはア
イデアをまとめるため,個人的なメモとして記載したものと推認される。
 また,甲17については,①昭和49年9月27日付けで決定された
と記載されており,本件著作物1の第1回目の放映は同年10月6日であり,番組
放映の直前に原作が決定するとはおよそ考え難いこと,②甲17は,放映予定とし
て,「10月6日から日曜(よる)7:30」などと記載され(3丁),体裁や内
容からテレビ放送の宣伝のための広告媒体として作成されたものと推認されること
(乙17),③甲17には,本件著作物1には採用されなかったデザインや登場人
物のラフデザインが混在し,同年9月27日における決定稿としては不自然である
こと等の事実に照らすならば,甲17は,原告が本件著作物1の製作に寄与したこ
とを根拠付けるものとはいえない。
 さらに,甲51(16)については,大航路図,作戦区図標,ガミラ
ス星人脈図,外宇宙自然設定原図やキャラクターのラフデザインなどの設定・デザ
インの一部と絵コンテの一部が記載されているが,甲51には,1974.9.2
7と記載され,昭和49年9月27日ころ作成されたものと推認されることから,
本件著作物1の前記製作経緯に照らして,甲51は,原告が本件著作物1の製作に
寄与したことを根拠付けるものとはいえない。
 以上のとおりであり,甲17,50(15)及び51(16)は,い
ずれも,これらに基づいて,本件著作物1の製作が行われたものではないから(被
告本人尋問の結果)から,原告がこれらの書面を作成したことにより,本件著作物
1の全体的形成に創作的に寄与したということにはならない。
(ウ)原告は,昭和47年初めころ,原告は,被告が作成した企画書(甲
18ないし22)を示されたが,その内容はストーリー設定の体裁をなしていない
不十分なものであったため,原告の作成した甲17,50及び51を作成したと主
張する。
 しかし,原告の主張は,以下のとおり採用できない。
a 前記(1)認定の事実によれば,①被告は,昭和47年から昭和48年
にかけて,アニメ「海のトリトン」及び「ワンサくん」の製作に関与しており,そ
のころに,原告に本件著作物1の製作監督を申し入れたことはあり得ないこと(乙
23),②原告が本件著作物1の製作企画に関与したのが,同年4月ころであるこ
と等の事実からすれば,原告の主張を採用することはできない。また,上記認定の
事実からすれば,被告が参加を要請するに当たり,原告に示した企画のための書面
は,甲18ないし22ではなく,本件企画書(乙1)であったと認められる。
b 甲18は,本件企画書(乙1)を完成する以前に,被告らが,企画
の検討をしていたころ,藤川桂介によって書かれた検討用の資料であり(乙2
3),甲19は,「略台本の表紙」と登場キャラクターの名前だけが記載された資
料であり(乙23),甲20の「宇宙船艦イカルス(略台本)~宇宙の墓場サルガ
ッソの恐怖」は,本件企画の初期の段階に藤川桂介が習作として書いたもの(その
ために,題名も「宇宙船艦イカルス」とされたもの。なお,乙1の本件企画書の最
後に付録として綴じ込まれた「宇宙船艦ヤマト(略台本)~宇宙の墓場サルガッソ
の恐怖」と同一の内容である。)である。また,甲22は,その21頁に宇宙戦艦
ヤマトの本番用のデザインが描かれていること,23頁に美術担当スタッフとして
原告の名前が記載されていることからすると,原告が参加した以後に作成されたも
のと推認される。
 したがって,これらの資料は,その体裁,内容に照らすと,被告が
原告に対して「美術・設定デザイン」の担当を依頼する際に,提示したものとは考
えられない。なお,甲21は,本件企画書(乙1)の前半部分の「(1)企画意図」か
ら「(5)エピソード」までと同一のものであって,原告の著作物でないことは明らか
である。
(エ) 原告は,原告の作成した甲46ないし48が,本件著作物1の原作
に当たるから,本件著作物1は,原告が本件著作物1の全体的形成に創作的に寄与
した者であると主張する。
 しかし,以下のとおり,原告の主張は採用できない。すなわち,甲4
6ないし48は,「この作品(本件著作物1)をTV番組化すると同時に,マンガ
雑誌にも連載したい」との本件著作物1の企画方針(乙1)を受けて,原告が本件
著作物1の製作と並行し,あるいはそれ以後に連載したものであり,その内容もダ
イジェスト版にすぎないこと(甲46,47)に照らすならば,本件著作物1の原
作に当たると解する余地はない。
また,原告は,本件著作物1は,昭和36年(1961年)に原告が
著作公表した「電光オズマ」における「大和作品」を発展,昇華させたもので,同
作品における物語の基本構成,場所的・空間的設定,機械構造物及び主要登場人物
の各点において本件著作物1と共通する旨主張する。
 しかし,両作品の全体のストーリーは全く異なり,アイデアに共通性
があるだけであるから,そのことをもって,原告を本件著作物1の全体的形成に創
作的に寄与した者であるということはできない。
(3) 結論
以上によれば,本件著作物1の全体的形成に創作的に寄与したのは,専ら
被告であって,原告は部分的に関与したにすぎないから,本件著作物1の著作者
は,被告であって,原告ではない。
2本件著作物2の著作者について
(1)事実認定
 証拠(乙9,10)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ
る。
 本件著作物1のテレビ放映は,昭和49年10月6日から開始された。当
初全39話の予定であったが,被告らの期待に反して視聴率は低迷し,テレビ放映
は,全26話で打ち切られ,昭和50年3月に放映を終了した。
 被告としては,精魂込めて製作した「宇宙戦艦ヤマト」を不本意な形で終
了したことがあきらめられず,本件著作物1を劇場上映することを企画して,本件
著作物2の製作を開始することにした。
 そこで,昭和50年春から昭和52年春までの2年間,被告は,舛田利雄
及び山本暎一らの協力を得て,本件著作物1を編集し直し,結末について新たな創
作部分を加えて本件著作物2を完成させた。
 原告は,本件著作物2の製作には一切関与しなかった(当事者間に争いが
ない。)。
(2)判断
 以上によれば,本件著作物1の全体的形成に創作的に寄与したのは,被告
であり,原告は一切関与していないから,本件著作物2の著作者は被告であって,
原告ではないということができる。
 原告は,本件著作物2は本件著作物1の「焼き直し」であるから,本件著
作物1の著作者である原告は当然に本件著作物2の著作者であるかのような主張す
る。しかし,前記認定のとおり,本件著作物1の著作者は,被告である以上,原告
の主張は前提において失当である。
3 本件著作物3の著作者について
(1) 事実認定
 証拠(甲5の3,29,乙4,5,10)及び弁論の全趣旨によれば,以
下の事実が認められる。
ア 被告の寄与の程度
 本件著作物の製作について,被告は,企画,原案,制作(製作)及び総
指揮を担当した。
 被告は,製作の全過程にわたって関与し,製作を指揮した場合には,
「総指揮」のスタッフタイトルを付すことにしていた(この点は,本件著作物1,
2,5,6及び8も同様である。)
被告は,そのラストシーンにおいて,宇宙戦艦ヤマトが主人公の古代進
とともに,宇宙の彼方へと消えていくヤマトの最後を描くことを企画方針とした。
そこで,そのラストシーンから逆にドラマ全体のストーリーを作り上げ,これに合
わせて作品全体の基本テーマ,危機的状況の設定,音楽表現等を決めることとし
た。
 被告は,作品全体の基本的なテーマについて,主人公である古代進が愛
に生きようとしたことを契機に人類愛に目覚め,その愛に身を殉じさせるというス
トーリーにより,「宇宙の愛」及び「人間の愛」を描き,人は他人のために命を賭
けられるか,というテーマを設定した。
 被告は,「危機的状況」,「大敵」等については,①ハレー彗星からヒ
ントを得て,「地球に彗星が衝突した」という仮定から発想を展開して,人為的な
「白色彗星」を設定し,②SFの名作の1つである「宇宙都市シリーズ」中のイラ
ストである,ニューヨークの高層ビル街が宇宙に浮上するというイメージから,白
色彗星の中に「都市帝国」が存在するという設定をし,これを基に,設定デザイン
において,「都市帝国」,「巨大な内部構造」,「戦闘機能」及び大敵としての
「白色彗星帝国」を設定,創作した。被告は,ストーリーについて,白色彗星帝国
がもたらす危機を地球の危機だけとして捉えず,宇宙の危機として捉えて,ヤマト
が旅立つというものにした。
 被告は,音楽設計について,本件著作物1では,大編成のシンフォニッ
クオーケストラによるサウンドが採用されたのと趣向を変えて,パイプオルガンで
大敵を表現するなどの音楽表現上の工夫を凝らした。
そして,被告は,監督,脚本家,SF等アイデアブレーン,設定デザイ
ナーらと頻繁に打合せをして,前記基本方針を伝え,構成,脚本,設定デザイン,
美術,絵コンテ,作画,撮影,現像,オールラッシュ試写,編集,録音(アフレ
コ),ミックスダビングの各作業を順に進め,被告は,それぞれの作業結果につい
て,最終的に決定をした。これらの作業の手順は,本件著作物1の場合と同様であ
る。
 本件著作物3の製作には,300名(延べ人数900名)に及ぶ多数の
スタッフが参加した。被告は,スタッフの間で齟齬が生じないように,主要なパー
トに配置するスタッフの選定を気を配り,また,自らも,定期的にスタジオに入
り,常に状況を把握して,作業の各段階ごとに,指示,修正を出して,製作の全過
程で総指揮を執った。このように,被告は,本件著作物3の製作過程のすべてに関
わっていたため,スタッフタイトルも「製作・総指揮」とした。
イ原告の寄与の程度
原告は,監督,総設定及び原案を担当した(なお,舛田利雄も監督を担
当した。)。
 原告は,本件著作物3の具体的ストーリー,シナリオが形成されていく
過程で,独自のSF的アイデアを盛り込んで執筆したシナリオ風のシノプシス(M
プロット)を作成し,これが,その後のSF総設定案,戦闘戦略プランの基礎とさ
れた。
設定デザインについては,原告がラフ・アイデアを出し,これを受けて
辻忠直が地球,彗星及びテレザード星の舞台美術デザインを,湖川滋が主要登場人
物のキャラクターデザインを,スタジオぬえが地球防衛軍の艦隊メカデザインを,
原告自身が,敵側超巨大戦艦などのデザインを担当した。これらは,いずれも,企
画会議でまとめられた基本設定の方針に沿ってされた。
また,戦闘・戦略演出案については,超一流のSFアクション映画を提
供するという被告の意思に沿って,原告,勝間田道治,石黒昇,棚橋一徳らの演出
担当スタッフが作成した。もっとも,被告の要求が厳しすぎて,アニメーションと
しての表現の限界を超えるという部分については,簡略化が図られた部分も存在す
る。
本件著作物3の結末に関しては,原告は,主人公の古代進を生かすべき
であるとの意見を述べたが,被告は了承せず,結局,被告の企画方針,基本テーマ
に基づき,主人公を死なせるストーリーとされた。
 原告は,製作の過程で行われたスタッフミーティング,ブレーンストー
ミング,全体会議などにある程度は出席していたが,すべてに出席したのではな
い。
原告が本件著作物3のその他の製作過程(シナリオ及び絵コンテの作
成,作画作業,撮影・現像・オールラッシュ試写,編集及び録音)に関与したこと
を認めるに足りる証拠はない。
(2) 結論
以上認定した事実によれば,本件著作物3の全体的形成に関与したのは被
告であり,原告の関与は部分的なものにすぎないというべきである。本件著作物3
の著作者は被告であって,原告ではない。
4本件著作物4の著作者について
(1) 事実認定
証拠(甲5の5,30,乙5ないし7,被告本人尋問の結果)及び弁論の
全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
本件著作物4は本件著作物3の拡大版テレビシーズであり,全26話から
なる。
 本件著作物4における被告のスタッフタイトルは,企画,原案,製作とさ
れ,総指揮とされていない。しかし,本件著作物4は,本件著作物3において,既
に創作されたストーリープロットを用い,そのフィルムを一部利用して製作を進め
た経緯がある。また,本件著作物3の上映は,昭和53年8月5日であり,本件著
作物4の放映時期は同年10月14日ないし昭和54年4月7日であって,両著作
物がほぼ並行して製作され,本件著作物3の著作者としての被告の企画及び基本的
なテーマは,そのまま本件著作物4に反映されていた。
ところで,本件著作物4のストーリーについては,被告は,当初,本件著
作物3の結末と同様主人公を死なせるという結末を考えていた。しかし,その放映
が進むにつれ,視聴者から,主人公である古代進,森雪及び宇宙戦艦ヤマトを生か
すようにとの強い意見が寄せられた。被告は,視聴者の意見にも十分配慮し,原告
とも相談の上,「超人類であるテレサによって,ヤマト,ひいては地球が救われ
る」という結末を取り入れることを決定した。
他方,本件著作物4における原告のスタッフタイトルは,原案,原作,総
設定,監督であったが,本件著作物4の製作に独自に関与したことはなく,監修的
に関与したにすぎない。その他,本件著作物4の製作において,原告が具体的な関
与をしたことはない。
(2) 結論
以上の事実によれば,本件著作物3における被告の関与の程度,本件著作
物4の製作意図に照らすと,本件著作物4の全体的形成に関与したのは被告であっ
て,原告ではないと解すべきである。
5本件著作物5の著作者について
(1) 事実認定
証拠(甲5の5,30,乙5ないし7,10)及び弁論の全趣旨によれ
ば,以下の事実が認められる。
被告は,企画,原案,製作,総指揮を担当するとともに,初めて監督を務
めた。
 被告は,①本件著作物4がテレビ放映されたことを契機として,劇場版第
3作を製作するようファンからの強い要望が出されたこと,②本件著作物4におい
て,本件著作物3とストーリーの結末を変えたために,「ヤマト」のテーマ性が希
薄になったと考え,本来の人間ドラマに戻したいと臨んだこと等の理由から,劇場
版第3作を製作することを決意した。しかし,本件著作物3と本件著作物4の結末
が異なるため,この点の統一を図らずに,劇場版第3作を製作するとファンの期待
を裏切ることが予想されたので,本件著作物4のストーリーを受け継ぎながら,新
たな展開と整合を図るべく,劇場版第3作への足掛かりとなる作品を製作しようと
した。被告は,このような意図で本件著作物5を製作することにし,その基本テー
マを,より身近な愛を描くという観点から,デスラーのスターシャに寄せる愛,民
族の存亡を懸けて闘う愛を基本テーマとした。
 本件著作物5に関する製作の状況,被告の関与の程度は,本件著作物3の
場合と同様である。
本件著作物5のストーリー構成については,被告が口頭で話した内容に沿
って,山本英明が豊田有恒との打合せをしながらフィーチャープロットを作成し,
舛田利雄が山本暎一と相談して,構成案をまとめた。また,被告は,大敵として
「暗黒星団帝国」及び「巨大戦艦ゴルバ」の設定,敵方キャラクターの設定,スタ
ーシャの娘「サーシャ」の誕生等のストーリーを設定し,本件著作物5の原案を創
作した。
他方,原告は,形式的には,原作,設定及び監修を担当したが,当時,原
告自身が関与したアニメ作品「銀河鉄道999」の製作に携わり,本件著作物5の
製作への参加は十分にできなかった。
(2) 結論
 以上の事実によれば,本件著作物5の全体的形成に関与したのは被告であ
って,原告ではないと解すべきである。
6本件著作物6の著作者について
(1) 事実認定
証拠(甲5の6,31,乙5ないし7,10)及び弁論の全趣旨によれ
ば,以下の事実が認められる。
ア 被告の寄与の程度
被告は,企画,原作,製作,総指揮を担当した。
前記のとおり,本件著作物4は,本件著作物3と異なる結末を採用した
ために,人間ドラマを旨とする宇宙戦艦ヤマトシリーズ本来のテーマ性が希薄にな
ったこともあって,被告は,その反省を込めて,本件著作物6については,本件著
作物1の原点である人間ドラマに戻すという企画方針を決めた。そこで,被告は,
本件著作物6においては,愛をより具体的に語るという方針の下,地球の危機に対
して人類愛を強く全面に押し出し,愛がいかに大切であるかを基本テーマに据え
た。
 本件著作物6は,原告が設定した「二重銀河」のビジュアルイメージか
ら,ドラマの構成に進んだ点において特殊性があり,本件著作物1ないし5が,ド
ラマ構成の設定をした後に,作画を設定したのと製作過程が異なる。しかし,本件
著作物6に関する製作の状況,被告の関与の程度については,本件著作物3及び5
と同様である。
被告は,基本テーマに基づき,初めて,主人公森雪が古代進と共に宇宙
戦艦ヤマトに乗り込まないというドラマの構成を打ち出し,二重銀河の遙か彼方に
いる「宇宙戦艦ヤマト」と地球にいる「森雪」のドラマをカットバックさせること
で,2人の関係を描き,出来事を通して,「愛することは信じ合うことである」と
いう愛をテーマにしたドラマを構成した。また,原告が被告に対して,設定原案を
作らせてほしいと申し入れたことを受けて,被告と原告の共同原作という形にし,
原告が提出した設定原案に,被告が手を加えて1本の構成案にまとめ上げた。さら
に,本件著作物5で登場した「サーシャ」を主役として,「暗黒星団帝国」「敵方
のキャラクター」「メカニック」「人物」等を大敵として設定した。デザインの色
指定は,被告がほとんど一人でした。本件著作物6は,日本映画史上,初めて,映
画上映の途中に,ビスタビジョンからシネマスコープの画面のサイズを拡大した
り,未知なる銀河の場面を画面サイズを変化させて表現したり,敵方惑星が滅亡す
る場面において,若い美しい女性の顔を一瞬にして老婆の顔に変化させ,溶けて消
滅する象徴的なシーンを挿入するなど映像表現に創意工夫を凝らした。
イ原告の寄与の程度
原告は,監督,原作,総設定を担当した。
 原告は,本件著作物6では,初めて原案設定を担当したが,被告との共
同原作の形がとられ,最終的に被告の手が加わっている(この原告の構成原案〔設
定原案〕をもとに舛田利雄が作成し,さらに,これに被告が手を加えたものが,
「舛田利雄・N構成原案」であり,本件著作物6のストーリー展開の基礎となった
ものである。)。
設定デザインについては,原告がラフスケッチを出して,これに基づい
て,設定担当スタッフが設定作業を進めた。
 原告は,製作の過程で行われた会議などについては,わずかの回数では
あるが,出席していた。
原告が本件著作物6のその他の製作過程(シナリオ,絵コンテの作成,
作画,撮影・現像・オールラッシュ試写,編集及び録音)に関与したことを認める
に足りる証拠はない。
(2) 結論
以上認定した事実によれば,本件著作物6の全体的形成に創作的に寄与し
たのは被告であり,原告ではないと解すべきである。本件著作物6の著作者は被告
であって,原告であるということはできない。
7本件著作物7の著作者について
(1) 事実認定
証拠(甲5の7,27の7,68の1ないし3,乙5ないし7,10)及
び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 被告の寄与の程度
被告のスタッフタイトルは,企画,原案,製作,総指揮であった。
 前記のとおり,被告は,製作の全過程にわたって関与し,製作を指揮し
た場合に,総指揮のスタッフタイトルを付すことにしていた。
被告は,本件著作物4のテレビ放映後,劇場版第3作の製作に向けての
構想を練っていた。原告が提供したアイデアを劇場版第3作のために用いることに
し,被告が構想を練った原案に原告のアイデアを入れて,本件著作物7を製作する
こととした。
本件著作物7について,被告は,身近な人々が危険にさらされたとき,
ガンジーが採った人類愛と無抵抗主義で対処することができるかという問題を基本
のテーマに据えた。
本件著作物1などと同様に,被告が発想したイメージに基づいて,設定
担当者に対して詳細な指示を与えたり,決定をした。
イ 原告の寄与の程度
他方,原告のスタッフタイトルは,原案,原作,監督及び総設定である
(なお,山本暎一も監督であった。)。
 原告の本件著作物7に対する関与の程度は,必ずしも明らかではない
が,製作後に,原告が「パート3では,ヤマトが私の手の中から飛び立ってしま
い,スタッフの皆さんにおまかせした部分が多くて,」とか「でも,もし次を作る
事になるなら,私の自由にやらせてくれるということでなければ,参加したくない
です。そうでなければヤマトは,私の作品ではなくなってしまうと思うからで
す。」との発言内容に照らすならば,原告は本件著作物7の製作過程にはほとんど
関与していなかったと推認される。その他,原告が本件著作物7の製作過程に具体
的に関与したことを認めるに足りる証拠はない。
(2) 結論
上記認定した事実,及び,被告がこれまでの宇宙戦艦ヤマトシリーズにお
いて各作品を製作した経緯とをあわせ考慮すると,本件著作物7の全体的形成に寄
与したのは被告であって,原告ではないと解される。
8 本件著作物8の著作者について
(1) 事実認定
証拠(甲5の8,32,乙7,10)及び弁論の全趣旨によれば,以下の
事実が認められる。
ア 被告の寄与の程度
被告は,企画,原作,脚本,製作,総指揮及び監督を担当した。
 前記のとおり,被告は,製作の全過程にわたって関与し,製作を指揮し
た場合に,被告は総指揮のスタッフタイトルを付すことにしていた。
被告は,宇宙戦艦ヤマトが10周年を迎えるに当たって,一連のシリー
ズの完結編を作り,その中でヤマトの最期及び主人公である古代進と森雪の結末を
描くこと,ヤマトの最期の航海において,「艦であるヤマトが艦長によって司られ
航海する」という本来の姿に戻すべく,沖田十三艦長を復活させることなどを基本
的な企画方針として,製作することとした。
 本件著作物8の製作の進行状況と被告の関与の程度は,本件著作物3の
場合と全く変わりがない。
 被告は,地球に壊滅的な危機状況を起こす大敵「都市衛星ウルク」の設
定,宇宙の生命の誕生にまつわる,水の惑星「アクエリアス」伝説の設定をした。
被告は,本件著作物8における出来事の展開が一覧できるような構成年表を作成
し,また,山本英明が作成した粗いストーリー,諸設定,音響及び音楽の方針など
に基づき「N構成プロット」を作成し,シナリオ作成を進めた。
 主人公である古代進と森雪のラブシーンを描くこと及び本件著作物1で
死亡した沖田十三艦長を復活させることについては,被告とスタッフとの間で意見
が分かれたが,最終的に,被告が,これらのシーンを用いることを決定した。ま
た,被告は,撮影について,特殊撮影の手法を効果的に取り入れた。
ア 原告の寄与の程度
原告のスタッフタイトルは,原作,設定及び監修であったが,本件著作
物8の製作当時,原告はアニメ映画「1000年の女王」の製作に関与し,その後
さらに,アニメ映画「わが青春のアルカディア」の製作を控えて,多忙な時期であ
り,本件著作物8の製作には関与できなかった。 原告は,ヤマトの最期をどのよ
うに描くかについて,実物の戦艦ヤマトが沈んでいる九州坊ヶ崎沖を選択したいと
の意見を述べたが,被告はは同意見を採用しなかった。
(2) 結論
 以上の事実によれば,本件著作物8の全体的形成に関与したのは被告であ
って,原告ではないと解される。
9著作者人格権侵害行為及び名誉毀損行為の有無について
ア前記1ないし8認定の事実によれば,本件各著作物の著作者は被告であ
り,原告ではない。その余の点を判断するまでもなく,前記1(3)記載の被告の行為
等が,著作者人格権侵害及び名誉毀損を構成することはない。
イ のみならず,証拠(乙9,10)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実
が認められ,同事実を前提としても,原告の名誉を毀損する不法行為に該当すると
はいえない。すなわち,
(ア) 被告はその経営する事業に失敗し,平成9年破産宣告を受け,次い
で,覚せい剤取締法違反,銃砲刀剣類等所持法違反で逮捕され,東京拘置所に収容
された。平成11年には,被告は,下肢麻痺に罹患し,体調を悪化させている。
(イ) 原告は,本件各著作物が製作されてから,平成10年に至るまでの
間,本件各著作物について,自らが著作者であることを主張したことはなかった。
ところが,平成10年に至って,原告は,「新潮WEB」「サンケイWEB」上
で,「ヤマトのファンの皆さんご安心下さい。『破産』『逮捕』のNは『ヤマト』
とは無関係であり,すべての権利は,私--M-が持っておりますから-」という
趣旨のコメントを述べた。また,雑誌やその他のマスメディアにおいて,「ヤマ
ト」について原告が原作者であり,かつ,すべて原告が創作,設定したものである
との趣旨を述べ,平成12年には「新ヤマト」を製作公開すると発表した。
(ウ) これに対し,被告は,山本暎一に宛てて,「MRが,原作,著作を名
乗るなど,恥を知るものの振る舞い,とはとても考えられません。今,ここを先途
と対外的に語られ,2001年にヤマト,復活編を造る,自分に著作権がある,と
は何を指して云われているのでしょう・・・原作云々等と言っている時点では,可
愛い冗談で済ませても,著作権,つまり,ヤマトを製作する権利を含めて,著作権
があるという事は絶対許せない事です。これは私が許せない,という事だけではな
く,参加した,スタッフの一員としても許せぬ話しであります・・・企画書は私に
帰属するものであり,これがすべての宇宙戦艦ヤマトの源著作物,著作権のすべて
はNに帰属している」との手記を送った(同手記が掲載を前提としたものか否かは
明らかでない。)。
(エ) なお,被告は,被告本人尋問において,「私自身の不祥事によって
『宇宙戦艦ヤマト』のイメージを傷つけたことに関して,この法廷の場を借りて,
「ヤマト」のファンの方もおられるでしょうし,またMさんもそうでしょうし,そ
ういったことに関して深くおわび申し上げたいと。それと,もう1つは,「ヤマ
ト」のファンは決してこのような訴訟は好まないでしょう。早くきちんとした形を
もって,まあ,私自身も罪を償い,「ヤマト」のイメージのいい作品を作って,将
来またMさんと仕事ができる機会があればいいなというふうに思っています。それ
が私のメッセージです。」と供述している。
 以上認定した事実によれば,被告が山本暎一に宛てて手記を送付したこと
について,その背景事実,経緯,記載内容,記載の動機等に鑑みると,被告の同行
為が社会通念上,原告の名誉を毀損する不法行為に該当すると解することはできな
い。
10結論
 以上によれば,原告の請求はいずれも理由がなく,被告の請求は理由がある
ので,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官  飯村敏明
裁判官今井弘晃
裁判官  石村 智
作品目録
1 「宇宙戦艦ヤマト」TVシリーズ   (昭和49年10月6日製作)
2「宇宙戦艦ヤマト」劇場版      (昭和52年8月6日製作)
3「さらば宇宙戦艦ヤマト」      (昭和53年8月5日製作)
4 「宇宙戦艦ヤマト2」TVシリーズ  (昭和53年10月14日製作)
5 「宇宙戦艦ヤマト・新たなる旅立ち」 (昭和54年7月31日製作)
6「ヤマトよ永遠に」         (昭和55年8月2日製作)
7 「宇宙戦艦ヤマトⅢ」        (昭和55年10月11日製作)
8 「宇宙戦艦ヤマト・完結編35㎜」   (昭和58年3月19日製作)
  「宇宙戦艦ヤマト・完結編70㎜」   (昭和58年11月5日製作)
謝罪文
1 私は,財界展望(平成11年5月号)の「宇宙戦艦ヤマトの著作権は誰のもの
か」と題する記事,並びに「獄中からのメッセージ」「ヤマトファンからのメッセ
ージ」と題するインターネットのホームページに,別紙目録記載の作品群を含む一
連の「宇宙戦艦ヤマト」の(以下「ヤマト」という)の作品が,自己の著作物であ
り,且つ,MR氏がヤマトを創作したものではない旨の記事を掲載しました。
2 然しながら,右は事実に反しており,一連のヤマト作品群はすべてMR氏の創
作にかかる同氏の著作物であり,且つ,同氏が著作者であること,並びに私はヤマ
ト作品群の映像化にあたってプロデューサーとして関与したものであることを認
め,ここに文書をもって事実関係を確認するとともに,訂正させていただきます。
3 MR氏に対しては,今回の1の掲載記事等により,多大の御迷惑と精神的苦痛
を及ぼしたことにつき,ここに深くお詫び申し上げます。
4 また,今回の1の掲載記事等により,ヤマトに関連する出版その他関連業界に
対し,混乱と誤解を招き,多大の御迷惑をおかけしたことにつきましても,ここに
深くお詫び申し上げます。
   平成  年  月  日
                         N
 MR 殿

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛