弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
一 本件控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
       事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人東京拘置所長(以下「被控訴人所長」という。)が、平成九年四月八
日、Aから控訴人に対する現金一〇〇〇円の郵送差入れ(以下「本件差入れ」とい
う。)についてした差入許可取消処分(以下「本件差入許可取消処分」という。)
を取り消す。
3 被控訴人国は、控訴人に対し、金五万円及びこれに対する平成九年四月九日か
ら支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。
二 被控訴人ら
 主文同旨
第二 事案の概要
 争いのない事実等、争点及び当事者の主張など事案の概要は、次のとおり付加す
るほかは、原判決の「事実及び理由」中「第二事案の概要」欄記載のとおりである
から、これを引用する。
一 控訴人の当審における主張
1 監獄法五三条一項の差入許可は、外部から在監者に対する金品授受の一般的禁
止を特定の場合に解除し、人が他人との間で金品を授受する本来の自由を回復する
処分である。そして、差入申請と差入れ(差入対象物授受行為)は、法律上別個の
行為であり、差入屋を通じて行う弁当の差入れ等の例からしても、差入申請は、そ
の対象物を添付して行うことを法律上要するものではないことが明らかである。
 したがって、本件差入許可取消処分の取消判決が確定した場合には、本件差入れ
を許可する処分の効力が回復し、その結果、Aが本件差入れに係る現金一〇〇〇円
を控訴人に差し入れる行為(差入対象物授受行為)は、新たな差入申請ではなく、
右許可処分により回復された自由の行使に当たるので、被控訴人所長は、これを拒
む権限を有しないと解すべきである。
 したがって、控訴人は、本件差入れに係る現金がAの手元にある場合において
も、本件差入許可取消処分の取消しを求める訴えの利益を有する。
 また、本件差入れに係る現金一〇〇〇円は、平成一一年一月二一日Aから被控訴
人所長に返送されており、現在同所長が占有しているのであるから、この点から考
えても、訴えの利益が肯定されるべきである。
2 控訴人は、本件差入許可取消処分及び本件差入れに係る現金一〇〇〇円の返戻
行為により、適法に取得した右現金の占有を失い、以下の損害を受けたが、右損害
を慰籍するに
は金五万円の損害賠償が認められるべきである。
(一) 右現金を使用する利益の享受を妨害された。そして、一〇〇〇円は、収入
の乏しい控訴人にとっては、決して少ない額ではなく、これを使用できなかったこ
とにより受けた精神的、身体的苦痛について相当の賠償がされるべきである。
(二) Aとの心情の交流による精神的利益の享受を妨害された。たとえ、右現金
の差入れの事実を知ったとしても、これを占有、使用し、かつ、差入れの事実を直
接感じることができる本件封筒を占有できなければ、本件差入れに託されたAの愛
情を味わう精神的利益を完全に享受することはできない。
(三) 右現金の占有を回復するため、本件差入許可取消処分の取消訴訟を提起
し、追行して権利回復をせざるを得なくなったところ、これを弁護士に依頼すれば
少なくともその費用が二〇万円は下らないのであるから、控訴人は右費用相当額の
経済的価値を有する仕事をせざるを得なくなったのであるから、右二〇万円を損害
に含めるのが相当である。
二 控訴人の主張に対する被控訴人らの認否
一 1、2は争う。
 なお、Aは、平成一一年一月二一日、被控訴人所長に対し現金三〇〇〇円を送付
したが、右送付された現金三〇〇〇円と本件差入れに係る現金一〇〇〇円との関係
は不明である。
 そして、被控訴人所長は、同月二九日、右現金三〇〇〇円を現金書留郵便をもっ
て金品返戻通知書を添えてA宛に返送したところ、同年二月一日、当該現金書留郵
便が開封されないまま返送されたので、被控訴人らは、同年三月三一日、当該現金
三〇〇〇円を民法四九四条の規定に基づき、同人を被供託者として前橋地方法務局
に供託する手続をしており、現在、右現金三〇〇〇円は、東京拘置所に保管されて
いない。
 また、Aは、控訴人と外部交通を原則として認めない相手方に当たるので、控訴
人は、本件差入れに係る現金一〇〇〇円を法律上受け取り得ない地位にあり、右現
金一〇〇〇円の占有を失ったとしても、その法的利益は侵害されない。
第三 当裁判所の判断
一 当裁判所も、控訴人の本件訴えのうち、被控訴人所長に対する訴えは不適法で
あり、被控訴人国に対する訴えに係る請求は理由がないと判断するが、その理由
は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第三 争点に
対する判断」欄記載のとおりであるので、これを引用する。
(原判決の訂正)
1 原判決三三頁四行目冒頭
から六行目の「検討すべきものとしている。」までを「監獄法施行規則は、拘禁の
目的に反し又は監獄の規律を害する物の差し入れを禁止し(一四二条)、差し入れ
ることのできる物品の種類を定めた上(一四三条、一四四条)、差入許否の判断を
するについて、個々の差入物自体を検査すべき旨を定めている(一四七条)。」と
改める。
2 原判決三六頁五行目末尾の次に行を改めて次のように加える。
「控訴人は、差入屋による食事又は新聞等の差入れの場合にみられるように、差入
許可と現実の在監者への差入れという事実行為とは別であり、一旦差入許可がされ
た以上、事実行為としての差入れは自由にできると主張するが、差入屋の場合は、
その信用性を確認した上で定型的な差入物につき予め許可するものであり、本件の
ように一般の外部の者が物品を差し入れる場合とは異なるから、控訴人の主張は理
由がない。
 また、控訴人は、本件差入れに係る現金一〇〇〇円が、被控訴人所長に平成一一
年一月二一日返送され、現在被控訴人所長がこれを占有しているので、本件差入許
可取消処分の取消しを求める訴えの利益がある旨主張する。
 しかしながら、Aが同日現金一〇〇〇円を被控訴人所長に返送したとしても、こ
れは再度の差入れであって、控訴人の主張は採用できない。」
3 同三七頁一一行目冒頭から同四三頁二行目末尾までを次のとおり改める。
「財産権が侵害されたとして慰籍料を請求するためには、その財産が単なる経済的
価値を有するだけでなく、被害者にとり特別の精神的価値を有し、侵害行為によ
り、単に経済的損害を受けただけでなく、更にこれを金銭で慰籍すべき程度の精神
的な苦痛を被ったことを要する。そして、その精神的苦痛の有無及び程度は、社会
の合理的な一般人が、その立場におかれた場合を基準に判断すべきである。
控訴人は、本件差入れに係る現金一〇〇〇円を使用できなかったことにより精神的
苦痛を受けたと言うが、これは単に経済的損害に通常伴う感情に過ぎず、経済的損
害と同一視すべきものであって、慰籍料の対象となる損害ではない。
 次に、控訴人は、本件差入れに係る現金一〇〇〇円及び本件封筒は、控訴人にと
り、Aの愛情や尊敬の表現であり、これを得られなかったことにより、特別に重大
な精神的苦痛を被ったというが、控訴人が死刑確定者として収容されていることを
考慮しても、社会の合理的な一般人の基準からみて、これは単に同
女の好意による本件差入物を取得できなかったことに対する不満感に過ぎず、精神
的苦痛はないか、またはこれを金銭賠償で慰籍すべき程度の精神的苦痛ではないと
いうべきである。」
4 同四三頁三行目の「4」を「2」と、四四頁六行目の「5」を「3」とそれぞ
れ改める。
5 同四四頁二行目の「認められないことは、」を「認められないし、本件差入れ
に係る現金一〇〇〇円を使用して得ることができる精神的利益を剥奪されたことに
よる損害も認められないことは、」と改める。
6 同四四頁四行目の「原告に」を「控訴人に損害賠償により慰籍すべき」と改め
る。
7 同四四頁五行目末尾の次に行を改めて次のように加える。
「なお、控訴人は、本件差入許可取消処分の取消訴訟を提起し、追行することにつ
いてこれを弁護士に依頼した場合の費用相当額の損害を受けた旨主張するようであ
るが、控訴人が弁護士に右訴訟を依頼していないので、弁護士費用相当額の負担を
余儀なくされ、その費用相当額の損害を受けたとは認められない上、右訴訟が不適
法な訴えであることは、既に判示したとおりであるので、右訴訟の費用相当額が被
控訴人国の填補すべき損害に当たると解することもできないので、控訴人の右主張
は採用できない。
 そして、その他、控訴人に損害賠償により慰籍すべき損害が生じたとは認められ
ない。」
二 以上によれば、控訴人の本件訴えのうち、被控訴人所長に対する訴えは不適法
であり、被控訴人国に対する訴えに係る請求は理由がないので、被控訴人所長に対
する訴えを却下し、被控訴人国に対する訴えに係る請求を棄却した原判決は相当で
あるので、本件控訴をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政
事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第二民事部
裁判長裁判官 谷澤忠弘
裁判官 一宮和夫
裁判官 大竹たかし

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛