弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人山口与八郎の上告理由は末尾に添えた書面記載のとおりであり、これ
に対して当裁判所は次のように判断する。
 上告理由第一点について。
 論旨は、本件売渡計画は自創法二八条によつて定められたのであるが、この規定
は、昭和二五年政令二八八号自作農創設特別措置法及び農地調整法の適用を受ける
べき土地の譲渡に関する政令によつて廃止せられているというのである。
 しかし右の政令の趣旨は二五年七月三一日以降、新に、自創法による買収適地に
なつた農地牧野については、自創法による買収を行わず、また、政令施行(昭和二
五年九月一一日施行)後は同法二八条による買収を行わないで、政令の定める強制
譲渡の方法によることを定めたものである。本件農地の所有権は、右政令の施行前
である二五年六月一日附の政府の買取申入(八月三日交付)によつて、同法二八条
二項に従い国に帰属しているのであるから、本件に右政令の適用のないのは勿論で
ある。本来強制譲渡とは土地所有者の意思に反しても所有権を国の権力作用によつ
て移転せしめるのであるから、国の所有地について強制譲渡のあり得ないことはい
うまでもない。
 政令一条三項は、同法二八条による買取を行わないとのみ規定しているに対し、
同条四項は七月三〇日までに買収計画のあつたものについては買収すると規定して
いる。換言すれば四項の場合は七月三〇日までに買収計画の定められていないもの
については強制譲渡の方法によることにしたのである。論旨は、このことから、同
法二八条による買取もその農地の売渡の完了していない間に政令が施行されれば買
取の効力も失われ、強制譲渡の方法によるべきであるというのであるが、買収(買
取)と売渡とは別個の法律効果を持つ別個の行為であり、買取の効力を生じた後政
令が施行されたからと言つて、買取を停止しなければならない理由は全然存在しな
い。原判決は正当であつて論旨は理由がない。
 同第二点について。
 論旨は、本件売渡計画が上告人以外の者を相手方としていることを違法であると
主張し、この点に関する原判旨を非難するのである。しかしながら、買取農地の売
渡については、自創法一六条同施行令一七条のように売渡の相手方の順位を定めた
規定はなく、たゞ「遅滞なく、自作農として農業に精進する見込のある者に当該農
地を売り渡さなければならない。」と規定しているに過ぎない。このような条件に
該当する者が数名ある場合に、いずれの者に売り渡すかは農業委員会の自由な裁量
に委せられているものと解するを相当とする。もつとも原判決がいうように、農地
委員会が裁量権の行使を著しく誤つた場合には、違法の問題を生じ得るとしても、
本件の場合農地委員会が裁量権の行使を誤つているとする理由はない。上告人が五
十万円(山林家屋代を含めて)を支払つた事実があり、これを第三者に売渡すこと
はいかにも上告人に残酷に見えるけれども、このような場合に上告人に売渡さなけ
ればならないものとするならば、農地を買いたいと思う者は上告人同様の手段を講
じ、農地の売買を統制下におく趣旨は全く没却されるのみならず、農地の闇売買を
助長する結果になるであろう。それ故原判決には所論のような違法はなく論旨は理
由がない。
 よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、全裁判官一致の意見をもつて、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三

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