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平成26年10月30日判決言渡
平成26年(行コ)第64号所得税更正処分取消等請求控訴事件
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2茨木税務署長が平成23年2月25日付けでした平成19年分の所得税の更
正処分のうち,総所得金額376万8440円,納付すべき税額18万090
0円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
3茨木税務署長が平成23年2月25日付けでした平成20年分の所得税の更
正処分のうち,総所得金額442万0627円,納付すべき税額11万730
0円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
4茨木税務署長が平成23年2月25日付けでした平成21年分の所得税の更
正処分のうち,総所得金額446万7424円,納付すべき税額7万3100
円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
第2事案の概要
1事案の要旨
(1)本件は,相続によって取得した不動産を賃貸する控訴人が,平成19年分
から平成21年分までの所得税について,各年分の不動産所得の金額の計算
上,減価償却資産の耐用年数等に関する省令(以下「省令」という。)3条
1項2号ロ(ただし,同項は,平成19年分及び平成20年分については平
成20年財務省令第32号による改正前のものをいう。以下同じ。)の規定
により算出した耐用年数を基礎として計算した償却費を必要経費に算入して
確定申告をしたところ,茨木税務署長から,減価償却資産を相続によって取
得した場合には上記の耐用年数を基礎として償却費を計算することができ
ず,必要経費が過大であるなどとして,所得税の各更正処分(以下,併せて
「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下,
併せて「本件各賦課決定処分」といい,本件各更正処分と併せて「本件各更
正処分等」という。)を受けたことから,被控訴人に対し,本件各更正処分
の一部及び本件各賦課決定処分の各取消しを求めた事案である。
(2)原審は,本件各更正処分等はいずれも適法であるとして,控訴人の請求を
いずれも棄却したため,これを不服とする控訴人が控訴した。
2関係法令の定め,前提となる事実並びに本件各更正処分等の根拠及び適法性
に関する被控訴人の主張(ただし,後記争点に関するものを除く。)は,原判
決の「事実及び理由」の「第2事案の概要」の1及び2並びに別紙2(別表
1,2を含む。)(原判決3頁1行目から7頁3行目まで及び21頁2行目か
ら30頁末尾まで)に記載のとおりであるから,これらを引用する。
3争点及び当事者の主張
(1)本件の争点は,本件各更正処分等の適法性,具体的には次の2点である。
①控訴人が相続により取得した本件各減価償却資産に係る償却費の計算に
おいて,簡便法に基づき算出した耐用年数を用いることができないか(争
点1)。
②本件各更正処分等に理由附記の不備がないか(争点2)。
(2)争点に関する当事者の主張は,後記4のとおり当審における控訴人の補充
主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第2事案の概要」
の4の(1)及び(2)(原判決7頁13行目から13頁10行目まで)に記載の
とおりであるから,これを引用する。
4当審における控訴人の補充主張
(1)争点1(本件各減価償却資産の耐用年数)について
ア租税法律主義は,今日の複雑な経済社会において,各種の経済上の取引
や事実の租税効果について十分な法的安定性と予測可能性とを保障し得る
ような意味内容を与えられなければならないのであり,その内容の一つと
して課税要件明確主義がある。また,税法は,侵害規範(国民に負担を求
める規範)の代表的なものであり,法的安定性の要請が強く働くから,そ
の解釈,特に租税実体法の解釈は,文理解釈を基本として行われなければ
ならず(最高裁平成22年3月2日判決・民集64巻2号420頁参照),
みだりに拡張解釈や類推解釈を行うことは許されない。
そこで,省令3条1項の「取得」という文言についてみると,文理解釈
としては,「取得」とは「資産の所有権の移転」をいうものと解するのが
自然であるところ,民法上は「相続」もまた「資産の所有権の移転」が生
ずる場合の一つであるから,省令3条1項にいう「取得」には相続による
取得も当然に含まれるものと解すべきである。この点につき,千葉地裁平
成17年12月6日判決は,施行令120条1項1号にいう「取得」に相
続による承継取得が含まれるかが争われた事案において,これを肯定する
判断をしており,この判断は控訴審,上告審においても維持されている。
しかも,上記の事件においては,被控訴人(国)自身も,同号にいう「取
得」には相続による承継取得が含まれると主張していたのである。これら
の判断及び主張は,本件で問題とされている省令3条1項の「取得」の解
釈についても同様に当てはまる。
控訴人は,本件各減価償却資産の償却費を計上するに際し,法49条2
項,施行令129条及び省令3条1項の規定を確認し,これらの規定の文
言に沿って,耐用年数を算定の上,償却費を計算したのである。控訴人に
限らず,納税者(及びその税務代理人である税理士)は,法規の文言に則
って税負担を把握し,納税義務を履行するのであるから,それにもかかわ
らず,税務当局が法規の文言を無視した解釈をすることは,課税要件明確
主義に反し,納税者から税負担の予測可能性を奪う結果を招くものであっ
て,許されない。
イ減価償却の意義や,法60条1項,施行令126条2項及び省令1条の
各規定は,法60条1項所定の相続等による取得者に耐用年数が引き継が
れることの根拠となるものではない。
(ア)まず,減価償却とは,長期間にわたって収益を生み出す源泉である
減価償却資産の取得に要した費用の総額(取得価額)を,費用収益対応
の原則により,予定された期間(耐用年数)に配分する会計技術である
が,こうした減価償却の意義から導かれるのは,単に減価償却費の算定
に当たって取得価額,耐用年数,償却方法といった事項が必要とされる
ということにとどまるのであり,施行令126条2項が耐用年数の引継
ぎを予定しているかどうかは,減価償却の意義とは無関係である。
(イ)また,法60条1項は,譲渡所得等の増加益に対する課税の繰延べ,
すなわち,相続等による資産の移転について,相続等の時点(資産移転
時)における課税を繰り延べることを定めたものであるが,この規定に
基づいて取得価額の引継ぎによる課税の繰延べがされる場合であって
も,基本的には相続等を含む2つの譲渡があるという原則を崩すべきも
のではなく,それを前提として,取得価額の引継ぎによる課税の繰延べ
を前提とした譲渡所得課税が行われるべきものである(最高裁平成17
年2月1日判決・判時1893号17頁参照)。
一般に賃貸建物を有償で譲り受けた場合,譲受人は,不動産所得を計
算するに当たり,譲渡人の行ってきた減価償却を引き継ぐ必要はなく,
譲受価額等を自己の取得価額として,法令の範囲内で減価償却を自由に
行うことができるのが原則である。これに対し,法60条1項各号に掲
げる事由により取得した減価償却資産についてだけは,取得価額を引き
継ぐこととされているが,これは,あくまでも所得税法制の例外を定め
たものであるから,このような例外規定をみだりに拡張して解釈するこ
とは許されない。なお,そもそも本件で問題となっている不動産所得に
ついては,法60条1項の適用対象外であり,同項による取得価額の引
継ぎによる課税の繰延べの制度とは元来無縁のものである。
(ウ)次に,施行令126条2項が規定しているのは,相続人は,被相続
人の取得価額と,被相続人が適法に減価償却をしてきた場合の相続時に
おける未償却残高を引き継いで減価償却を始めなければならないという
ことである(なお,正確にいえば,未償却残高については引継ぎの対象
でなく,取得価額と償却限度額が引き継がれる結果として一致するにす
ぎない。)。この規定は,相続人の減価償却の計算の基となる取得価額
が相続時の時価となってしまうことを防ぐために設けられたものであ
り,その趣旨は,被相続人の減価償却費累計額と相続人の減価償却可能
額の合計が被相続人の取得価額を超えないようにすることにある。この
趣旨からすると,相続人には取得価額と未償却残高さえ引き継がれれば
よいのであって,償却期間と耐用年数まで引き継がれる必要はない。す
なわち,償却期間と耐用年数については,原則どおり,取得時において,
法が定める償却期間と耐用年数によって計算されることになる。この点
に関し,施行令126条2項の規定を根拠に,取得者が引き続き当該資
産を所有していたものとして取り扱うことは,法60条1項の規定にも,
上記最高裁判所の判決の趣旨にも整合しない。
また,施行令126条2項の「取得価額」という文言を「取得価額並
びに耐用年数及び残存期間」と解釈することは,課税要件明確主義や税
法の拡張解釈・類推解釈禁止の原則に反し,一般国民が一読して具体的
な税額計算ができることが求められる施行令の趣旨に照らしても許され
ない。
さらに,施行令の規定ぶりを見ても,126条から128条までは全
て取得価額に関する規定であって,耐用年数や残存価額という用語が一
切出て来ないのに対し,129条,130条は耐用年数,償却率,残存
価額に関する規定であって,取得価額という用語は一切出て来ない。こ
のように,施行令は,取得価額に関するものとその余の耐用年数等に関
するものとを完全に区分して規定しているのであり,取得価額について
規定した施行令126条2項だけを取り出して,この規定だけは耐用年
数等に関する規定でもあると解釈することには無理がある。
(エ)省令1条は,資産の区分に応じて一律に法定耐用年数を定めただけ
であり,法定耐用年数よりも短い年数で償却が終わることを禁止する規
定ではない。したがって,省令3条1項を相続により取得した資産に適
用した結果,当該資産について,施行令130条によることなく法定耐
用年数より短い年数で償却が終わったとしても,省令1条の趣旨に反す
ることにはならない。
ウこのように,省令3条1項にいう「取得」に相続による取得が含まれる
ことは解釈上明らかであり,他方,この解釈を否定すべき根拠は見出せな
いから,相続により取得した減価償却資産に省令3条1項を適用すること
は何ら妨げられない。
(2)争点2(理由附記の不備)について
更正処分の理由は処分の具体的な根拠を明らかにするものであり,理由附
記の程度については,処分の名宛人がその記載自体から更正処分の根拠を知
り,不服申立てをすべきか否かを判断し得る程度のものである必要がある。
ところが,本件各更正処分においては,相続により本件マンション等を取得
した場合には取得価額及び取得時期を亡夫であるAからそのまま引き継ぐこ
とになる旨,及び本件マンション等は中古資産の取得に該当しないため,省
令3条1項に規定する簡便法により算定した耐用年数を使用して減価償却費
の計算を行うことはできない旨の結論が示されているのみであり,耐用年数
の引継ぎやその根拠規定等に関する理由は一切記載されていない。この程度
の記載では,控訴人が処分の具体的な根拠を知ることは到底できないのであ
り,理由附記がされているとはいえない。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,本件各更正処分等はいずれも適法なものであって,控訴人の請
求はいずれも理由がなく,これらを棄却するのが相当であると判断する。その
理由は,以下のとおりである。
2争点1(本件各減価償却資産の耐用年数)について
(1)施行令126条2項の趣旨について
ア前記関係法令の定め(原判決の引用部分)のとおり,減価償却資産の償
却費の計算の基礎となる取得価額については,法49条2項の委任を受け
た施行令126条1項が,原則として資産の種類に応じた所定の金額とす
るものとしているが,同条2項は,法60条1項各号に掲げる事由(相続
等)により取得した減価償却資産の上記取得価額について,当該減価償却
資産を取得した者が引き続き所有していたものとみなした場合における当
該減価償却資産の取得価額に相当する金額とするものとしている。他方に
おいて,施行令126条2項は,法60条1項所定の相続等により取得し
た減価償却資産の耐用年数,経過年数及び未償却残高をどのように算定す
るか等については,直接規定していない。
イそこでまず,減価償却の意義についてみると,減価償却は,長期間にわ
たって収益を生み出す源泉である減価償却資産の取得に要した費用の総額
(取得価額)を,費用収益対応の原則により,予定された資産の利用期間
(耐用年数)に配分する会計技術であり,減価償却の主たる目的は,減価
償却資産の取得価額を資産の利用期間に配分することを通じて,各期間の
利益を適切に算定することにある。そして,ある時点で減価償却資産が取
得されると,当該減価償却資産の取得価額が決まるとともに,当該取得価
額を費用として配分する利用期間である耐用年数が予定されることにな
る。したがって,減価償却の制度上,取得価額と耐用年数とは切り離して
考えることのできない要素であるということができる。
ウ次に,法60条1項は,同項所定の相続等によって取得した資産を譲渡
した場合における譲渡所得の金額の計算については,その者が引き続き当
該資産を所有していたものとみなす旨規定している。この規定は,同項所
定の相続等においては,その時点では資産の増加益が具体的に顕在化しな
いため,相続等による取得者が当該資産を譲渡する時点まで課税を繰り延
べることとしたものであり,この規定により,取得者の譲渡所得の金額を
計算する際には,前所有者が当該資産を取得するのに要した費用が取得者
に引き継がれ,課税を繰り延べられた前所有者の資産の保有期間に係る増
加益も含めて取得者に課税されるとともに,前所有者の資産の取得時期も
引き継がれる結果,資産の保有期間についても前所有者と取得者の保有期
間が通算されることになる(最高裁平成17年2月1日第三小法廷判決・
裁判集民事216号279頁)。
そして,譲渡所得の金額は,その年中の総収入金額から当該所得の基因
となった資産の取得費等を控除した金額とされているところ,当該資産が
減価償却資産である場合には,上記の取得費の計算において,その資産の
取得に要した金額等から償却費の累積額等を控除することになるが(法3
8条2項),この償却費の累積額等は,法49条1項の規定(不動産所得
等の金額の計算上,償却費として必要経費に算入される金額を定めたもの)
による方法を基礎として計算することとされている。
上記のように,法60条1項により,資産を取得するのに要した費用及
び資産の取得時期が前所有者から取得者に引き継がれることに照らせば,
法38条2項により資産の取得費から控除される償却費の累積額等を,法
49条1項による償却費の計算方法を基礎として計算するに当たっても,
取得者が引き続き当該資産を所有していたものとして取り扱うのが整合的
であると考えられる。そして,法60条1項の解釈上,前所有者の資産の
取得価額のみならず,取得時期も取得者に引き継がれる結果,資産の保有
期間についても前所有者と取得者の保有期間が通算されることになるとさ
れていることに照らせば,施行令126条2項は,単に取得価額が取得者
に引き継がれることのみを規定したにとどまるものではなく,償却費の算
定に当たっての要素である耐用年数についても併せて引き継がれることを
当然の前提とした規定であると解するのが相当である。
また,先に述べた減価償却の趣旨・目的に照らすと,施行令126条2
項の趣旨は,前所有者の取得価額を取得者が引き継ぐことにより,前所有
者による資産の利用期間と取得者による資産の利用期間を通じて減価償却
資産の取得価額を適切に配分することにあると考えられるところ,法60
条1項所定の相続等により取得した減価償却資産について,前所有者の取
得価額は取得者に引き継がれるが,耐用年数は引き継がれないとすると,
施行令126条2項の上記趣旨にそぐわない結果となり,相当でないとい
うべきである。
エ上記イ,ウで述べた減価償却の意義,法60条1項及び施行令126条
2項の趣旨等を考慮すると,施行令126条2項は,法60条1項所定の
相続等により取得した減価償却資産については,前所有者の取得価額のみ
ならず,耐用年数,経過年数及び未償却残高についても,前所有者から取
得者に引き継がれることを予定しているものと解するのが相当である。
(2)法60条1項所定の相続等により取得した減価償却資産に関する省令3
条1項の適用について
省令1条は,資産の区分に応じて一律の法定耐用年数を定めているところ,
省令3条1項は,個人において使用された減価償却資産を取得してこれを個
人の業務の用に供した場合における当該資産の耐用年数については,省令1
条の定める法定耐用年数によらずに,当該資産の残りの使用可能期間を見積
もることが可能な場合にはその使用可能期間の年数により,上記使用可能期
間を見積もることが困難な場合には簡便法により算出した年数によることが
できる旨定めている。この省令3条1項の規定は,省令1条が新品の減価償
却資産に対応する耐用年数に関する規定であると解されるのに対し,既に使
用や時間の経過によって価値が減少している中古資産を取得した場合には,
新品と同じ耐用年数を用いることは不合理であり,また,中古資産によって
経過年数もさまざまであるため一律の耐用年数を設定することにも無理があ
ることから,新品を前提とした法定耐用年数によらずに,中古資産に対応す
る短縮された耐用年数の算定方法を特に定めたものであると解することがで
きる。
このような省令3条1項の規定の趣旨からすれば,同項は,中古資産を取
得した時点における取得価額を当該取得後における使用可能期間等に償却費
として配分するために設けられた規定であると解するのが相当である。これ
に対し,法60条1項所定の相続等により取得した減価償却資産については,
取得者は前所有者の新品としての取得価額を引き継ぐことになり,この取得
価額に対して省令1条の定める法定耐用年数が適用されるのであって,相続
等による取得の時点で取得価額が発生することはないから,省令3条1項の
規定を適用する余地はないものというべきである。
(3)以上によれば,法60条1項所定の相続等により取得した減価償却資産に
ついては,前所有者の取得価額のみならず耐用年数も取得者に引き継がれ,
省令3条1項の規定が適用される余地はないと解するのが相当である。
(4)これを本件についてみると,前記前提となる事実(原判決の引用部分)の
とおり,控訴人は,相続により本件各減価償却資産を取得したところ,前所
有者であるAは,本件各減価償却資産をいずれも新品として取得し,それぞ
れ法定耐用年数を適用していることが明らかである。そうすると,控訴人に
よる本件各減価償却資産の取得については,上記の法定耐用年数が控訴人に
引き継がれ,省令3条1項の規定は適用されないというべきである。
よって,控訴人は,これらの償却費の計算において,簡便法に基づいて算
出した耐用年数を用いることはできない。
(5)控訴人の主張に対する判断
ア控訴人は,省令3条1項の「取得」の文理解釈としては,「資産の所有
権の移転」をいうものと解するのが自然であり,相続による取得も当然に
含まれるものと解すべきであるところ,こうした文理解釈を超えてみだり
に拡張解釈や類推解釈を行うことは,租税法律主義ないし課税要件明確主
義に反し,納税者から税負担の予測可能性を奪う結果となるから許されな
い,また,施行令120条1項1号にいう「取得」については,相続によ
る取得が含まれるとする判決が確定している上,被控訴人(国)自身も,
同号にいう「取得」に相続による取得が含まれると主張していた旨主張す
る。
しかしながら,税法の解釈に当たっても,常に規定上の文言のみにとら
われた文理解釈しか許されないわけではなく,当該法条の趣旨・目的等に
沿ってそこで用いられている文言を合理的に解釈することが相当というべ
きであるところ,既に説示したとおり,施行令126条2項が,法60条
1項所定の相続等により取得した減価償却資産については,取得価額のみ
ならず,耐用年数,経過年数及び未償却残高についても引き継がれること
を予定しているものと解されることや,省令3条1項の趣旨に照らしても,
法60条1項所定の相続等により取得した減価償却資産については,省令
3条1項の規定が適用される余地がないことに照らせば,同項の「取得」
に法60条1項所定の相続等が含まれないことは明らかというべきであ
り,こうした解釈は,省令3条1項の趣旨・目的等に照らして合理的なも
のということができる。したがって,こうした解釈が租税法律主義ないし
課税要件明確主義に反するとか,許されない拡張解釈や類推解釈に当たる
などということはできない。また,施行令120条1項1号にいう「取得」
に相続等による取得が含まれ,前所有者の選択した当該減価償却資産の償
却方法が相続等による取得者に当然に引き継がれるものではない(同号所
定の償却方法によることになる)としても,この取扱いは減価償却資産の
償却方法に関するものであり,同号をこのように解釈することと,減価償
却資産の償却方法とは性質を異にする減価償却資産の耐用年数に関し前記
のように解することとが矛盾するということはできない。
よって,控訴人の上記主張は採用することができない。
イ控訴人は,法60条1項に基づいて課税の繰延べがされる場合であって
も,同項所定の相続等を含む2つの譲渡があるという原則は崩すべきでな
く,同項所定の相続等により取得した減価償却資産について取得価額を引
き継ぐこととされているのは例外を定めたものであるから,これを拡張し
て解釈すべきではない,施行令126条2項の「取得価額」に耐用年数等
も含めて解釈することは課税要件明確主義等に反して許されないし,施行
令の規定ぶりに照らしても無理があると主張する。
しかしながら,施行令126条2項が取得価額のみならず耐用年数につ
いても取得者に引き継がれることを当然の前提とした規定であると解され
ることは,既に説示したとおりであるところ,こうした解釈は,減価償却
の制度上,取得価額と耐用年数とは切り離して考えることのできない要素
であることや,法60条1項との解釈の整合性,施行令126条2項の趣
旨等に照らして合理的な解釈であるということができ,課税要件明確主義
等に反するものとは認められない。また,法60条1項が例外を定めたも
のであることや,控訴人の主張する施行令の規定ぶり等を考慮しても,前
記のように解釈することが合理性に欠けるものであるとまでいうことはで
きない。
よって,控訴人の上記主張も採用することができない。
ウその他,控訴人が主張する諸点を考慮しても,前記判断が左右されるも
のではない。
3争点2(理由附記の不備)について
この点に関する判断は,原判決の「事実及び理由」の「第3当裁判所の判
断」の2(原判決16頁21行目から18頁12行目まで)に記載のとおりで
あるから,これを引用する。
4本件各更正処分等の適法性について
以上に説示したところ及び弁論の全趣旨によれば,原判決別紙2に記載のと
おり,本件各更正処分等の根拠及び適法性を認めることができる。
第4結論
以上のとおり,被控訴人による本件各更正処分等にはいずれも違法と評価す
べき事由は認められず,控訴人の請求はいずれも理由がないから,これらを棄
却すべきところ,これと同旨の原判決は相当であり,本件控訴は理由がないか
らこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第13民事部
裁判長裁判官石井寛明
裁判官栩木純一
裁判官神山隆一は,転補のため,署名押印することができない。
裁判長裁判官石井寛明

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