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裁判例


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       主   文
一 本件控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
       事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取消す。
2 高松市に対し、被控訴人Aは、金九五〇万円を、同B及び同Cは、各金四七五
万円をそれぞれ支払え。
3 被控訴人Dは、高松市に対し、金一九二六万円を支払え。
4 訴訟費用は、第一・二審とも被控訴人らの負担とする。
二 被控訴人ら
 主文と同旨
第二 事案の概要
一 原判決の引用
 原判決「事実」欄の「第二 事案の概要」の項に記載のとおりであるから、これ
を引用する。ただし、原判決四頁四行目の「被告D」の前に「同市長である」を付
加し、同六頁七行目の「支払命令」を「支出命令」と改める。
二 当審における控訴人の補足的主張
1 乙第六号証は、高松市が平成五年五月に、本件全集の購読を広く呼び掛けるた
めに作成して配布した広告であり、右広告において、亡Aは、本件全集発刊の趣旨
として、「高松市では高松市制一〇〇周年・菊池寛生誕一〇〇年を記念して、郷
土・高松が生んだ偉大な文化人で、現在の文壇の隆盛の礎を築いた菊池寛の業績を
称えるとともに、これを後世に残すため、菊池寛の著作を可能な限り収録した菊池
寛全集の発刊を次のとおり計画しています。」と述べている。右広告文からする
と、高松市は、菊池寛を偉大な文化人として顕彰するために本件全集を刊行したこ
とは明らかである。しかし、本件全集第一七巻に収録された「新日本外史」は、日
中戦争が四年目に入った昭和一五年三月に発行され、天孫降臨の神話にはじまり、
その子孫であるとされる代々の天皇の治世と、これを補佐した忠臣を顕彰するとい
う内容で貫かれた、皇国史観に基づくものである。また、同巻に収録された「二千
六百年私感」も同じく皇国史観に基づくもので、その末尾には、「昭和六年の満州
事変は、日本史が、漸く世界史の中で、これをリードしようとし始めたことを意味
している。満州の一角に上った現状打破の叫びは、一波万波を呼んで、イタリー、
ドイツの活躍となり、世界再編成の運動を捲き起こしているのは、周知の如くであ
る。----(中略)犠牲を踏み越え、踏み越え、われわれはこの空前の大事変を
乗り切らねばならぬ。嘗てわれわれの祖先が示したような、大勇猛進が、今ほど必
要とされている時代は、二千六百年を通じて、絶無なのである。」と結語されてい
る。また、同巻に収録された「事変と武士道精神」は、武士道と皇国史観、軍国主
義とを結びつける理論を展開し、天皇のために死ぬ覚悟を持てと煽動している。本
件全集第二〇巻の「西住戦車長伝」は、国民に対する戦意の高揚のほか、中国に対
する侵略戦争の実態を隠蔽し、好戦的な国民をつくり、戦車の重要性と忠君愛国に
徹した戦闘的で有能な指揮官の必要性を説いている。同巻の「満鉄外史」は、昭和
六年九月一八日の柳條湖の鉄道爆破は、北大営駐屯支那正規軍の公然たる行動であ
ったと明記しているが、同事件が関東軍の謀略であったことは、敗戦後、歴史上明
らかにされていることであるから、当時、事実に反することを国民に信じ込ませる
狙いを持つとともに、満州への侵略を合理化し、満州を拠点に大東亜共栄圏をつく
ることを日本民族の使命と位置づけることにあった。更に、本件全集第二三巻及び
第二四巻における「話の屑籠」「其心記」等は、軍事、政治、経済、文化、思想、
信仰等のあらゆる分野にわたって、皇国史観の浸透、軍国主義の強化、戦争遂行の
立場から書かれた文章が数多く収録され、その中には、小学校三、四年生に切腹の
作法を教えよというもの、戦争に関係のない文化生活、教養生活、趣味生活は中止
すべきであるというもの、今度の戦争に負けることは、どのような業病にかかるよ
りも不快であるというものなど、目を覆いたくなるものが含まれている。このよう
な第一七巻等に収録されている作品は、国民の思想動員に威力を発揮し、侵略戦争
の遂行に大きな役割を果たし、またそのために大きな犠牲を生むことになったので
あるから、菊池寛を「偉大な文化人」といえないことはもとより、たとえ、「偉大
な文豪」として顕彰したとしても、「偉大な文豪」ということもできず、このよう
な著作の刊行に公費を使用したのは違法である。
2 本件全集の刊行が菊池寛の顕彰を目的とすることは、前記広告の記載内容に照
らして明らかであるが、更に、これを補強するものとして、亡Aが本件全集刊行の
予算案を高松市議会に提出した際に行った度重なる提案理由説明(乙一四)があ
る。これによれば、菊池寛の業績を後世に残すために本件全集を刊行するとの趣旨
が述べられ、研究目的という言葉は使用されておらず、また、乙第七号証の本件全
集の刊行の言葉によれば、亡Aは、戦時中の菊池寛のことをあれこれ言うなと非難
を封じ込め、菊池寛の顕彰一辺倒で本
件全集の刊行を企画したものと認められるから、本件全集の刊行目的は顕彰だけを
目的としていることは明らかであり、このような顕彰目的から第一七巻等の刊行に
公費を使用したのは違法である。
3 亡Aは、本件全集刊行の予算案を平成四年九月の高松市議会に提出した際、そ
の提案理由の説明として、「社会教育費では、菊池寛記念館の開館記念事業とし
て、本市が生んだ偉大な作家であり、文化人でもある菊池寛の文学的業績をたた
え、その著作を可能な限り収録した全集を発刊し、後世に残すために菊池寛全集発
刊準備費を措置するものでございます。」と述べている(乙一四)が、これを平易
にすると「偉大な作家であり、文化人でもある菊池寛の文学的業績を称え、後世に
残すために本件全集を発刊する。」ということになる。しかし、第一七巻等に収録
された作品は、既に主張したとおり、皇国史観に基づくもの、軍国主義と全体主義
を宣伝するもの、侵略戦争を美化するもの、国民の戦意昂揚をはかるもの、国民を
戦争に駆り立てるもののどれかに該当する。したがって、これら四巻について公費
を使用し、刊行責任者に市長の名を記し、高松市の名で刊行し、しかも、菊池寛の
業績を称え、作品を推奨して刊行することは、高松市がその作品の内容を肯定し、
支持することに通じることであって、これを不特定多数に頒布し、全国一〇八箇所
の図書館に配布して多くの人に供覧させる行為は、結果的には日本国憲法に違反す
る作品の宣伝を広く行うことに通じ、憲法九九条、一九条、二〇条及び憲法の前文
が掲げる国民主権主義、平和主義、基本的人権尊重主義に違反することは明らかで
ある。
第三 当裁判所の判断
 当裁判所も、控訴人の請求を棄却すべきであると考えるが、その理由は、次のと
おりである。なお、当裁判所は、控訴人の請求を検討する過程で菊池寛の著作や業
績に言及せざるを得ないが、これを推奨あるいは排斥する等の評価を目的とするも
のではない。
一 原判決の引用
 次に補正するほかは、原判決の「第三 争点に対する判断」の項に記載のとおり
であるから、これを引用する。
 原判決一九頁一〇行目から一一行目にかけての「昭和三一年に高松市中央公園に
菊池寛の銅像を、」を削除し、同頁末行の「同公園」を「高松市中央公園」と改
め、同二〇頁五行目の末尾に「なお、昭和三一年に高松市の肝入りで、高松市中央
公園に菊池寛の銅像が建立されたが、建立者は菊
池寛顕彰会となっている。」を付加し、同二二頁九行目の「議会において」の次に
「菊池寛を文豪と評価している」を付加し、同頁末行の「同様の要望がなされてお
り、」の次に「亡Aは、右議会において、高松市長として、菊池寛を郷土が生んだ
偉大な文化人であるとして答弁した。」を付加し、同二八頁九行目の「郷土の生ん
だ偉大な文豪」を削除し、同二九頁四行目の「偉大な文豪菊池寛の業績」を「菊池
寛を郷土の生んだ偉大な文化人あるいは文豪と評価してその業績」と改め、同三一
頁五行目の「軍国主義的内容が存在するからといって」の次に「(菊池寛の作品や
言動の中に、現行憲法下における価値観と合致しないものが一部含まれていること
は被控訴人らも認めている。)」を付加し、同三二頁六行目から七行目にかけての
「本件全集は、郷土の生んだ偉大な文豪菊池寛を顕彰する」を「本件全集は、高松
市出身の菊池寛を郷土の生んだ偉大な文化人あるいは文豪と評価して顕彰する」と
改め、同三五頁三行目の「郷土の生んだ偉大な文豪」を「高松市出身の」と改め
る。
二 当審における控訴人の補足的主張に対する判断
1 控訴人は、高松市が本件全集の購読を広く呼び掛けるために作成した広告(乙
六)の記載内容からすれば、菊池寛を「偉大な文化人」として顕彰するために本件
全集を刊行したことが明らかである旨主張する。確かに、右広告文には、高松が生
んだ偉大な文化人で、現在の文壇の隆盛の礎を築いた菊池寛の業績を称えるととも
に、これを後世に残すために、菊池寛全集の発刊を計画している旨の文言が記載さ
れている。しかし、菊池寛の生涯は、小説等の執筆活動に限られず、雑誌の発刊、
芥川賞及び直木賞の創設、映画の制作、幅広い趣味の分野での活動等が公知の事実
であるところから、その諸活動を通観して、菊池寛を「偉大な文化人」あるいは
「偉大な文豪」とみる評価もありうるのであり(もとより、「偉大な文化人」ある
いは「偉大な文豪」とみない評価もありうる。)、右広告文に「偉大な文化人」と
記載したことが当然に誤りであるということはできない。
 控訴人は、第一七巻等に収録された作品が皇国史観の浸透、軍国主義の強化、戦
争の遂行を美化ないし鼓舞する立場から書かれたもので、国民の思想動員に威力を
発揮し、侵略戦争の遂行に大きな役割を果たし、またそのために大きな犠牲を生む
ことになったのであるから、「偉大な文化人」といえない
ことはもとより、「偉大な文豪」ということもできず、このような著作の刊行に公
費を使用したのは違法である旨主張する。確かに、控訴人の指摘する作品は、皇国
史観の浸透、軍国主義の強化、戦争の遂行を美化ないし鼓舞する立場から書かれた
ものとみることもでき、このようなみかたからすれば、菊池寛の右作品を、国民の
思想動員に威力を発揮し、侵略戦争の遂行に寄与し、またそのために大きな犠牲を
生むことになったと評価することも可能である。しかし、評価される人間の複雑、
多様性、評価する側の立場や認識の相違を考慮すると、高松市が本件全集を発刊す
るに当たり、菊池寛の生涯にわたる幅広い諸活動を通観して、菊池寛を「偉大な文
化人」あるいは「偉大な文豪」と評価することが許されないとまでは考えられな
い。第一七巻等に収録された作品は、右のように軍国主義的なものとして厳しく評
価されるが(菊池寛の作品の一部に現行憲法下の価値観と合致しないものがあるこ
とは被控訴人らも認めるところである。)本件全集の一部として第一七巻等の発刊
がなされたことからして、これの公費による刊行が違法であるということはできな
い。
2 控訴人は、本件全集が菊池寛の顕彰のみを目的として刊行されたものであり、
戦争に協力した菊池寛を顕彰する目的で、第一七巻等の刊行に公費を使用したのは
違法である旨主張する。
 確かに、前記広告文や亡Aが本件全集刊行の予算案を高松市議会に提出した際に
行った度重なる提案理由説明(乙一四)によれば、菊池寛の業績を後世に残すため
に本件全集を刊行するとの趣旨が述べられていることが認められる。しかし、引用
認定事実及び引用判断のとおり、高松市は、昭和二三年に没し故人となって久しい
菊池寛の業績を顕彰するとともに、菊池寛を見直して全国的により多くの関心を集
め、また菊池寛研究に活用できる基礎資料としても提供し、我が国文芸の発展に資
することを目的として、本件全集を発刊したものである。したがって、本件全集を
構成する第一七巻等の刊行に公費を使用したことが違法であるということはできな
い。
3 控訴人は、高松市が菊池寛を偉大な作家であり、文化人でもあるとしてその文
学的業績を称え、後世に残すために本件全集を発刊したが、第一七巻等に収録され
た作品は、皇国史観に基づくもの、軍国主義と全体主義を宣伝するもの、侵略戦争
を美化するもの、国民の戦意昂揚をはかるもの、国民
を戦争に駆り立てるもののどれかに該当し、このような内容の四巻について公費を
使用し、刊行責任者に市長の名を記し、高松市の名で刊行することは、その作品の
内容を支持し、推奨することに通じ、日本国憲法九九条、一九条、二〇条及び憲法
の前文に違反する旨主張する。
 しかし、控訴人が当審で提出するものを含めた全証拠によっても、高松市が第一
七巻等を含む本件全集を発刊することによって、菊池寛の作品を軍国主義、全体主
義、侵略戦争の美化及び国民の戦意昂揚をなす立場から推奨していると認めるに足
りない。第一七巻等に収録された作品は菊池寛の全集を刊行するとの目的から収録
されたもので、その作品の内容を支持し、推奨するために掲載されたものでないこ
とは、前記引用判断で示した本件全集の発刊目的及び既に判示したところから明ら
かである。控訴人の右主張は、採用できない。
第四 結論
 よって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がない
からいずれも棄却することとし、控訴費用の負担につき、民事訴訟法六七条一項、
六一条を各適用して、主文のとおり判決する。
高松高等裁判所第四部
裁判長裁判官 井土正明
裁判官 溝淵勝
裁判官 杉江佳治

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