弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決のうち、被上告人が昭和五八年道委不第一号、第二号及び昭和五
九年道委不第五号不当労働行為救済申立事件につき昭和六二年二月二七日付けでし
た命令の主文第二項後段に関する部分を破棄し、第一審判決主文第一項のうち右部
分を取り消す。
     上告人日高乳業株式会社の本件訴えのうち、被上告人のした右命令の主
文第二項後段の取消しを求める訴えを却下する。
     上告人らのその余の上告をいずれも棄却する。
     訴訟の総費用及び被上告補助参加人ネッスル日本労働組合の参加によっ
て生じた訴訟の総費用は上告人らの負担とし、被上告補助参加人ネッスル日本労働
組合日高支部の参加によって生じた訴訟の総費用は同支部の負担とする。
         理    由
 上告代理人中筋一朗、同益田哲生、同中町誠の上告理由第四点及び第五点につい

 一 原審の適法に確定した事実関係によれば、ネッスル日本労働組合日高支部
(以下「日高支部」という。)は、昭和五八年に被上告人労働委員会から労働組合
法に適合する旨の証明を受け、法人登記をして法人格を取得したものであるとこ
ろ、昭和六二年三月六日ころ最後に残っていた三名の組合員が脱退をした結果、組
合員が一人もいなくなっただけではなく、同年四月には上告人日高乳業株式会社
(以下「上告人日高乳業」という。)が日高工場の営業施設を第三者に譲渡したこ
とにより、日高工場において被上告補助参加人ネッスル日本労働組合の組合員が労
務に従事する可能性が当面失われたため、自然消滅したというべきであるが、その
清算が結了したとは認められないというのである。
 原審は、右事実関係の下において、本件救済命令主文第二項のうち、日高支部に
所属する組合員の給与から昭和五六年六月以降昭和五九年六月までの間に控除した
組合費相当額及びこれに対する控除した日から支払済みに至るまでの年五パーセン
トの割合による金員を日高支部に支払わなければならないと命じた部分は、日高支
部が清算の目的の範囲内において存続している以上、なお有効性を失わないと判断
し、その取消しを求める訴えが適法であるとの前提に立って、右部分に係る上告人
日高乳業の請求を棄却した第一審判決を是認した。
 二 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は次のと
おりである。
 救済命令で使用者に対し労働組合への金員の支払が命ぜられた場合において、そ
の支払を受けるべき労働組合が自然消滅するなどして労働組合としての活動をする
団体としては存続しないこととなったときは、使用者に対する右救済命令の拘束力
は失われたものというべきであり、このことは、右労働組合の法人格が清算法人と
して存続していても同様である。けだし、使用者に対し労働組合への金員の支払を
命ずる救済命令は、その支払をさせることにより、不当労働行為によって生じた侵
害状態を是正し、不当労働行為がなかったと同様の状態を回復しようとするもので
あるところ、その労働組合が組合活動をする団体としては存続しなくなっている以
上、清算法人として存続している労働組合に対し、使用者にその支払を履行させて
も、もはや侵害状態が是正される余地はなく、その履行は救済の手段方法としての
意味を失ったというべきであるし、また、これを救済命令の履行の相手方の存否と
いう観点からみても、右のような救済命令は、使用者に国に対する公法上の義務を
負担させるものであって、これに対応した使用者に対する請求権を労働組合に取得
させるものではないのであるから、右支払を受けることが清算の目的の範囲に属す
るということはできず、組合活動をする団体ではなくなった清算法人である労働組
合は、もはやこれを受ける適格を失っているといわなければならないからである。
 これを本件についてみると、組合員が一人もいなくなったことなどにより日高支
部が自然消滅したことは、原審の適法に確定するところであるから、上告人日高乳
業に対し控除組合費相当額等の日高支部への支払を命じた本件救済命令の前記部分
は、既にその拘束力が失われているものというべきである。そうすると、上告人日
高乳業がその取消しを求める法律上の利益は失われたというべきであって、右部分
の取消しを求める訴えは却下すべきこととなる。
 以上によれば、原審の前記判断は、法令の解釈適用を誤ったものであり、右違法
が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、上告理由第四点の論旨は
理由がある。したがって、原判決は、右の部分につき破棄を免れず、同第五点につ
いて判断するまでもなく、上告人日高乳業の請求を棄却した第一審判決を取り消
し、この部分に係る訴えを却下すべきである。
 同第六点について
 本件救済命令の主文第四項は、上告人らに対し、「陳謝文」の表題の下に、団体
交渉拒否、組合費控除及びその返還拒否並びに支配介入の言動の具体的事実と「こ
れらはいずれも北海道地方労働委員会によって、不当労働行為であると認定されま
した。ここに深く陳謝致しますとともに、今後このような行為を繰り返さないこと
を誓います。」との旨の文言を白色木板に墨書して掲示することを命じているとこ
ろ、右命令は、被上告人によって上告人らの行為が不当労働行為と認定されたこと
を関係者に周知徹底させ、同種行為の再発を抑制しようとする趣旨のものであると
みられる。掲示を命じられた文書中の表現には所論も指摘するとおり措辞適切を欠
く点があるといわざるを得ないが、右命令は、全体として、その摘示に係る上告人
らの行為が不当労働行為に該当すると認定されたこと及び将来上告人らにおいて同
種行為を繰り返さない旨を表示させる趣旨に出たものとみるべきである(最高裁昭
和六三年(行ツ)第一〇二号平成二年三月六日第三小法廷判決・裁判集民事一五九
号二二九頁、最高裁昭和六三年(行ツ)第一四〇号平成三年二月二二日第二小法廷
判決・裁判集民事一六二号一二三頁参照)。そうすると、右命令が、上告人らに対
し、特定の思想、見解を受容することを強制するものであるとか、陳謝の意思表明
を強制するものであるとの見解を前提とする憲法一九条、一二条違反の主張は、そ
の前提を欠くというべきである。また、原審の適法に確定した事実関係の下におい
ては、上告人らに対し、連名の文書を上告人ネスレ日本株式会社の正面玄関の見や
すい場所に掲示することを命じた点を含め、右命令が労働委員会の裁量権の範囲を
超えるものとはいえず、右命令部分を適法とした原審の判断は、正当として是認す
ることができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 同第一点ないし第三点及び第七点について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属す
る事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものであっ
て、採用することができない。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八四
条、九六条、九四条、八九条、九二条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    三   好       達
            裁判官    大   堀   誠   一
            裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    高   橋   久   子

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