弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役六月及び罰金二万円に処する。
     右罰金を完納することができないときは、金二百五十円を一日に換算し
た期間、被告人を労役場に留置する。
     この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
     押収物件(長野地方裁判所岩村田支部昭和二十六年第三十四号の1、
2)は被害者Aに還付する。
         理    由
 弁護人畑和の控訴趣意は、末尾に添附した別紙記載のとおりであつて、これに対
する当裁判所の判断は、次のとおりである。
 論旨第二点について。
 (一) 原判示第一事実について。
 記録を調査するに、右事実が発覚するに至つたのは、司法警察員が、他の刑事事
件捜査のため、被告人方居<要旨>宅の家宅捜索を行つた際、たまたま、木作の証拠
物件が発見されたことに端を発していることは、所論のとおりであるが、し
かし、刑法第百四条所定の証憑湮滅罪が成立するために要する犯意としては、他人
の刑事被告事件に関する証憑を湮滅することの認識があれば足り、必ずしも、所論
のように、その人の利益不利益を図り、国家権力の捜査権、裁判権等を妨害する積
極的意思の存在を要件とするものではないと解されるばかりでなく、同条にいわゆ
る刑事被告事件とは、行為当時、現に裁判所に繋属する刑事訴訟事件はもち論将来
刑事訴訟事件として裁判所に繋属し得べきものをも包含するものというべく、又、
同条にいわゆる証憑とは、刑事事件が発生した場合に、捜査又は裁判に関係がある
と認められる一切の資料をいい、なお、その惰を知りながら、これらの資料を隠匿
してその出現を妨げるような行為は、同条にいわゆる証憑の湮滅に該当するものと
解すべきところ、原判決が、その判示第一事実について挙示する証拠をそう合する
ときは、原判決の認定しているとおり、被告人は、屑鉄商を営む著であるが、昭和
二十六年五月中旬ごろ自宅において、国家地方警察南佐久地区警察署勤務巡査Bよ
り、被告人方に屋根板用銅板を売りに来た者の有無を尋ねられた際、犯人不詳の屋
根板用銅板窃盗事件につき、警察署において捜査中であることを知つたにもかかわ
らず、その後、同月二十日ごろ被告人の妻Cが、Dから、屋根用銅板を買い受けて
自宅に保管していたことを発見し、その品が、右犯人不詳の盗品であることを察知
しながら、そのころより同年七月二十日までの間、肩書自宅にこれを隠匿していた
事実が認められるのであつて、被告人の以上の所為は、刑法第百四条所定の他人の
刑事被皆事件に関する証憑を湮滅した場合に該当するものと認められるばかりでな
く、記録を精査検討してみても、原判決の右認定が誤つているものとは考えられな
い。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 大塚今比古 判事 山田要冶 判事 中野次雄)

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