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平成30年7月13日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成29年(ワ)第5273号特許権に基づく損害賠償請求権不存在確認等請求
事件
口頭弁論終結日平成30年5月30日
判決
当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり
主文
1本件訴えを却下する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
3原告アップルインコーポレイテッドのために,この判決に対
する控訴のための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1請求
被告らは,原告らによる別紙物件目録記載の各製品(以下「原告製品」とい
う。)の生産,譲渡,貸渡し,輸入又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡
若しくは貸渡しのための展示を含む。)につき,特許第4913343号の特
許権に基づく損害賠償請求権及び実施料請求権を有しないことを確認する。
第2事案の概要等
本件は,原告らが,被告らに対し,原告製品の生産,譲渡,貸渡し,輸入
又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡若しくは貸渡しのための展示を含
む。)につき,被告らが,原告らに対し,被告クアルコムインコーポレイテ
ッド(以下「被告クアルコム」という。)が保有する特許権の侵害に基づく
損害賠償請求権及び上記特許権に基づく実施料請求権を有しないことの確認
を求める事案である。
1前提事実(当事者間に争いのない事実及び掲記した証拠により認定できる事
実)
(1)当事者
ア原告ら
原告アップルインコーポレイテッド(以下「原告アップル」という。)
は,携帯通信機器,コンピュータ及び携帯音楽プレーヤー並びにこれらに
関連するソフトウェア等の設計,製造及び販売を業とするアメリカ合衆国
(以下「米国」という。)カリフォルニア州法に基づき設立された法人で
ある。
原告AppleJapan合同会社(以下「原告アップルジャパン」
という。)は,原告アップルの携帯通信機器等の販売及び輸入を業とする
合同会社である。
イ被告ら
被告クアルコムは,ワイヤレス通信機器等の設計及び販売を業とする米
国デラウェア州法に基づき設立された法人である。
被告クアルコムジャパン株式会社(以下「被告クアルコムジャパン」
という。)は,被告クアルコムのワイヤレス通信機器等の販売,輸入,
輸出等を業とする株式会社である。
被告クアルコムテクノロジーズインク(以下「被告QTI」とい
う。)は,被告クアルコムの製品等の営業,設計,研究,開発等を業と
する米国デラウェア州法に基づき設立された法人である。
被告クアルコムシーディーエムエーテクノロジーズアジア-パシフ
ィックピーティーイーエルティーディー(以下「被告QCTAP」と
いう。)は,ワイヤレス通信機器等の製造等を業とするシンガポール共
和国法に基づき設立された法人である。
(2)被告クアルコムの特許権
被告クアルコムは,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許
を「本件特許」という。)の特許権者である(甲1,2)。
特許番号:第4913343号
発明の名称:通信システムにおいて逆方向リンクでデータを伝送するた
めの方法及び装置
出願日:平成15年12月17日(特願2004-562265)
優先日:平成14年12月19日
優先権主張国:米国
登録日:平成24年1月27日
2争点
(1)国際裁判管轄の有無
(2)確認の利益の有無
(3)被告らの原告らに対する本件特許権侵害に基づく損害賠償請求権又は本件
特許権に基づく実施料請求権の有無
3争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)(国際裁判管轄の有無)について
〔原告らの主張〕
ア本件訴えは,原告らによる日本国内における原告製品の生産,譲渡等の
行為につき,被告らが原告らに対して本件特許権侵害に基づく損害賠償請
求権及び本件特許権に基づく実施料請求権を有しないことの確認を求める
訴えである。
これらの請求のうち,特許権侵害に基づく損害賠償請求権の不存在確認
の訴えの国際裁判管轄としては,不法行為地管轄(民訴法3条の3第8号)
がその管轄原因として認められるべきである。そして,損害賠償債務不存
在確認の訴えについて不法行為地管轄が認められるためには,特許権を保
有する被告が原告の行為によって特許権が侵害されて損害が生じたとの事
実関係を主張していることを主張立証すれば足りる。本件では,被告らは,
原告らによる日本国内における原告製品の生産,譲渡等の行為により本件
特許権が日本国内で侵害されて損害が生じたとの事実関係を主張している
から,日本の裁判所に管轄権が認められる。
本件訴えのうち,本件特許権に基づく実施料請求権の不存在確認請求は,
上記損害賠償請求権の不存在確認請求と予備的併合の関係にあり,両請求
は密接な関連があるので民訴法3条の6前段に基づき日本の裁判所に管轄
権が認められる。
イ被告クアルコム,被告QTI及び被告QCTAPは,いずれも被告クアル
コムジャパンを通じて日本において事業を行い,本件特許権に係る発明を日
本国内において実施しているので,被告らはいずれも「日本において事業を
行う者」に該当し,本件訴えは被告らの日本における業務に関するものであ
るといえるから,民訴法3条の3第5号により日本の裁判所に管轄権が認め
られる。
ウ被告らは,本件には民訴法3条の9の「特別の事情」があるとして本件訴
えを却下するように求めているが,本件訴えは日本の特許権の侵害に関する
訴えであること,本件特許権を対象とする当事者間の訴訟は本件のみである
こと,本件訴えを日本国外で訴訟提起したとしても管轄を否定される可能性
が高いこと,原告アップルと被告クアルコムとの間で実際に係属している米
国での訴訟においても,裁判所は本件特許権についての審理を行わないこと
を明らかにしていることなどに鑑みれば,本件訴えには同条の「特別の事情」
は存在しない。
〔被告らの主張〕
ア不法行為地管轄に関し,原告製品の生産,譲渡等の行為により本件特許権
が日本国内で侵害されて損害が生じたとの事実関係を被告らが主張したこと
はないので,特許権侵害に基づく損害賠償請求権の不存在確認の訴えについ
て日本の裁判所は管轄権を有しない。同訴えについて日本の裁判所が管轄権
を有しない以上,同訴えに係る請求権と客観的併合の関係にある本件特許権
に基づく実施料請求権の不存在確認請求に係る訴えについても,日本の裁判
所は管轄権を有しない。
イ被告クアルコム,被告QTI及び被告QCTAPはいずれも外国法人であ
り,主たる事務所又は営業所は日本国外にあるから,これらの被告に対する
訴えにつき,日本の裁判所に管轄権は認められない。被告クアルコムジャパ
ンについては,その主たる事務所が日本国内に存在するが,後記のとおり他
の被告らに対する訴えは確認の利益を欠き却下されるべきものである以上,
主観的併合による管轄(民訴法3条の6後段)も認められない。
ウ原告アップル及び被告クアルコムは,いずれも米国州法に基づき設立され
た米国法人であり,両社は,全世界における原告製品の生産,譲渡等をめぐ
り,各国において登録された被告保有の特許権の利用関係を含む両社の事業
上の関係全体について,米国において協議を行ってきた。また,米国におい
ては,原告アップルによって本件訴えと重複する内容の訴えが提起され,現
在,米国南カリフォルニア地区の連邦地方裁判所に係属中である。このよう
な状況において,原告らと被告らとの間の紛争のごく一部にすぎない本件訴
えについて,日本の裁判所が審理及び裁判を行うことは,当事者間の衡平を
害し,適正かつ迅速な審理の実現を妨げる結果となる。
以上を考慮すると,仮に,日本の裁判所が管轄権を有する場合であっても,
本件には,民訴法3条の9の「特別の事情」があり,本件訴えは却下される
べきである。
(2)争点(2)(確認の利益の有無)について
〔原告らの主張〕
ア消極的確認訴訟においては,①原告の法律上の地位に現に危険又は不安が
存在し,②その不安が被告に起因し,③確認判決がその不安の除去のために
必要かつ適切である場合に,確認の利益が認められる。本件においては,次
のとおり,被告らと原告らとの間に本件特許権に関する紛争が存在しており,
今後もその紛争が継続する相当の蓋然性が存在するので,被告らの行為によ
って原告の法律上の地位に危険又は不安があるということができる。この危
険又は不安の除去のためには確認判決が必要かつ適切であるから,本件訴え
には確認の利益がある。
イ被告らは,本件訴訟において,原告らに対し本件特許権侵害に基づく損害
賠償請求及び本件特許権に基づく実施料請求権を有するものではなく,これ
らの請求権を行使する意思もないと表明したと主張する。
しかし,これは一時的な表明にすぎず,基本的事実関係に変化がない限り,
口頭弁論終結後においても権利主張を行う意思がない旨を確定的に表明する
ものではない。被告らが,原告らに対して,例えば,①本件の訴訟物である
損害賠償請求権等を口頭弁論終結後も行使しない旨を記載した書面を裁判所
に提出する,②両当事者間でその旨の合意書を締結する,③本件訴えに係る
請求を認諾するなどの方法によりその意思を表明しない限り,原告らの法律
上の地位に関する現実の危険又は不安は解消されない。
ウ被告クアルコムは,原告アップルとのライセンス交渉において,次のとお
り,原告製品が同被告の保有する特許権を侵害する旨の主張をしてきた。
(ア)被告クアルコムと原告アップルは,平成26年頃以降,同被告が保有す
る,本件特許権を含む3G/UMTS規格及び4G/LTE規格(以下
「本件通信規格」という。
)に関する全世界的な必須宣言特許に関するライ
センス交渉(以下「本件ライセンス交渉」という。
)を継続している(甲
8)

(イ)被告クアルコムは,平成28年2月17日,本件通信規格に準拠してい
る原告アップルの製品は,同被告が保有する同規格に関する多数の必須宣
言特許を侵害していると主張した(甲10)
。そして,被告クアルコムは,
同年3月18日,その根拠資料として,同被告が保有する必須宣言特許を
ほぼ完全に網羅する約2000頁に及ぶ特許リスト(本件特許権を含む。

を提示した(甲7)

(ウ)被告クアルコムは,平成28年6月12日,原告アップルに対するレタ
ー(甲6)において,ライセンスがなければ同原告の製品が多くの被告ク
アルコムの特許を侵害しているなどと主張した。
(エ)被告クアルコムは,平成28年7月15日,原告アップルに対し,その
保有する3G及び4Gに係る中国以外の全世界の特許権につき,ポートフ
ォリオを一括してライセンスを提供する意思がある旨を表明するとともに
(甲15)
,自社の保有する必須宣言特許の一部のクレームチャートを提示
した。
(オ)以上のとおり,被告クアルコムは,原告製品の日本国内での販売により,
本件特許権が日本国内で侵害されていると主張している。
エ被告らは,被告クアルコムが原告製品の製造受託業者(Contract
Manufacturer。以下「CM」という。
)に対してその保有する特許権(本件
特許権を含む。
)についてライセンス(以下「CMライセンス」という。
)を
供与しているところ,本件ライセンス交渉は,CMライセンスに代えて,同
被告が原告アップルに対し直接ライセンスを付与することを前提とした交渉
であったと主張する。
この点,被告クアルコムは,平成28年頃までは,原告アップルに対し,
CMライセンスは,同被告が保有するほぼ全ての特許ポートフォリオを対象
としていると表明していた。このため,原告アップルは,CMライセンスが
有効に存続する限りは,被告クアルコムが原告らに対して特許権侵害訴訟を
提起することはないと考えてきた。
しかし,その後,被告クアルコムは,CMライセンスはそれまで表明して
いたものよりも限られたものであると主張するに至った(甲32)
。原告ア
ップルは,本件ライセンス交渉の過程において,被告クアルコムに対しCM
ライセンスの対象範囲の確認を求めたが,同被告はこれにも応じようとしな
かった(甲11,32)
。このように,被告クアルコムは,本件ライセンス
交渉中,CMライセンスの対象特許の範囲を明確にすることなく,上記ウの
とおり,同被告の保有する特許権を原告らが侵害していると主張しているの
であり,原告らは,被告らによる特許権侵害に基づく権利行使の現実的な危
険にさらされている状況にある。
また,被告クアルコムは,原告アップルとの間で係属しているドイツのマ
ンハイム地方裁判所の訴訟において,CMライセンス契約上の再交渉義務を
履行していないことを自認している。また,台湾の競争当局である公平交易
委員会(以下「TFTC」という。
)は,平成29年10月20日,被告ク
アルコムらが台湾の競争法に違反する行為を行っていると認定し,被告クア
ルコムに対し,是正措置として,CMライセンス契約についてライセンス条
件の再交渉を行うように命じた(甲35,36)
。これを受けて,各CMは,
現在,被告クアルコムとの間で再交渉を行っている。このように,現時点に
おけるCMライセンスの有効性及びその内容については疑義がある。
オ被告クアルコムは,次のとおり,外国において係属中の訴えにおいても特
許権侵害の主張をしている。
被告クアルコムは,本件特許の米国対応特許に関し,原告アップルが提起
した米国における債務不存在等の確認を求める訴訟において,
「係争性」を争
っていない。また,被告クアルコムは,同訴訟において,原告アップルに提
示した必須宣言特許ポートフォリオ(本件特許権を含む。
)のライセンス案が
FRAND宣言に適合することの確認や,仮にFRAND宣言に適合しない
とする場合のFRAND条件によるロイヤリティの確認を求めている(甲1
6,17,33)
。被告クアルコムがこのような確認請求をすることは,その
前提として,原告アップルが本件特許権を含む必須宣言特許全てを侵害して
いると主張していることにほかならない。
また,被告クアルコムは,以前,中国において,携帯通信端末メーカーで
あるMeizuTechnologyCo.,Ltd.(以下「メイズ社」という。
)を被告として,
本件特許の中国対応特許に係る特許権の侵害訴訟を提起している。
カ上記のとおり,被告クアルコムと原告アップルとの間には本件特許権に関
する紛争が存在しているところ,被告QTIは,事実上,特許ライセンシン
グ事業を含む被告クアルコムの製品及びサービスに関する事業の全てを行っ
ている。被告QCTAP及び被告クアルコムジャパンは,被告クアルコムの
製品の販売等を通じて特許に係る実施料の徴収を行っている。このように,
被告QTI,被告QCTAP及び被告クアルコムジャパンは,被告クアルコ
ムと一体となってライセンス料請求を行っているのであるから,本件特許権
が侵害された場合には,侵害者に対して,ライセンス料債権が侵害されたと
して,自ら又は本件特許権侵害に基づく権利を代位行使し,ライセンス料相
当額の支払を求める現実の危険がある。
したがって,被告クアルコムだけではなく,被告QTI,被告QCTAP
及び被告クアルコムジャパンと原告らとの間にも本件特許権に関する紛争が
存在している。
キ以上によれば,本件訴えについては確認の利益があるというべきである。
〔被告らの主張〕
ア被告クアルコムは,CMに対し,同被告が保有する特許の一部についてC
Mライセンスを付与している。CMライセンスの対象には本件特許権も含ま
れており,原告らはCMから原告製品全ての供給を受けているのであるから,
被告らは,原告らによる原告製品の生産,譲渡等につき,本件特許権侵害に
基づく損害賠償請求権及び本件特許権に基づく実施料請求権を有するもので
はない。また,被告クアルコムは原告アップルとの間で,CMとの間のCM
ライセンス契約を解除することができないとの合意をしているから,上記の
事実関係が変化する客観的な可能性は乏しい。
イそして,被告らは,本件訴訟において,原告らによる原告製品の生産,譲
渡等につき,本件特許権侵害に基づく損害賠償請求権及び本件特許権に基づ
く実施料請求権を行使する意思がない旨を表明している。
ウ原告らは,本件ライセンス交渉において,被告クアルコムが,原告アップ
ルに対し,原告製品が本件特許権を含む被告クアルコムの保有する多くの特
許権を侵害していると主張したと指摘する。
しかし,本件ライセンス交渉は,CMライセンスに依拠することに代えて,
被告クアルコムが原告アップルに対して直接ライセンスを付与することを目
的とする交渉であり,同被告は,CMライセンスが存在するにもかかわらず
原告製品が本件特許権を含む同被告が保有する特許権を侵害していると主張
した事実はない。まして,被告クアルコムが本件特許権やその対応特許を具
体的に挙げて侵害の主張をしたことはない。
エ原告らは,被告クアルコムが,中国において,メイズ社を被告として,本
件特許の中国対応特許に係る特許権の侵害訴訟を提起したと主張する。
しかし,メイズ社に対する訴えは,同社がCMライセンスを有するCMか
ら製品の供給を受けているという事情もないのに,被告クアルコムからライ
センスを受けることなく同被告が保有する特許の実施品を販売したことから
提起したものであり,本件とは事情が異なる。
また,原告らは,原告アップルが米国において提起した債務不存在確認訴
訟において,被告クアルコムが係争性を争っていないと主張する。
しかし,本件訴訟における確認の対象は,本件特許権に基づく損害賠償請
求権及び実施料請求権という最終的な法的権利の不存在であるのに対し,米
国訴訟における確認の対象は,対象となる特許が原告アップルの使用する規
格に必須のものではないため特許権侵害の事実がないこと,対象となる特許
が無効であることなどであり,CMライセンスの有無を考慮する必要はない。
確認の対象の違いに応じ,確認判決を基礎付ける係争性も異なるのであるか
ら,被告クアルコムが米国訴訟において係争性を争っていないことは,本件
訴えにおける確認の利益を基礎付けるものではない。
オ被告QTI,被告QCTAP及び被告クアルコムジャパンは,いずれも本
件特許権の特許権者ではないし,ライセンス料を請求する権利も有していな
いから,同被告らに対する請求が確認の利益を欠くことは明らかである。
カ以上によれば,本件訴えは確認の利益を欠く。
(3)争点(3)(被告らの原告らに対する本件特許権侵害に基づく損害賠償請求権
又は本件特許権に基づく実施料請求権の有無)について
〔被告らの主張〕
前記のとおり,被告らは,原告らによる原告製品の生産,譲渡等につき,本
件特許権侵害に基づく損害賠償請求権及び本件特許権に基づく実施料請求権を
有していない。
〔原告らの主張〕
原告製品は3G/UMTS規格に準拠した製品であるところ,同規格は,本
件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項9の「前記プロセッサは,現
行のデータ伝送速度から限られた量だけ低下するように制約されている新たな
データ速度を決定するように構成されており」との構成及び請求項26の「前
記制限を行うデータ速度は,現行データ伝送速度及びスティッキーレートのう
ちのいずれか速い方の速度と等しい速度に設定されるランプアップに基づいて
制限されるデータ速度を含む,装置」との構成を必須としない。このため,原
告製品は本件特許に係る発明の技術的範囲に属さず,原告らが原告製品を生産,
譲渡等する行為は本件特許権を侵害しない。
また,本件特許権は,被告らが原告製品の製造を行うCMに対してチップセ
ットを販売したことによって消尽した。仮に本件特許権が消尽しないとしても,
被告らがCMから原告製品の最終価格に基づき算定されたライセンス料を収受
していることからすれば,被告らは,原告らに対し,本件特許権につき,黙示
のライセンスを付与したと評価できる。CMによるライセンス料の支払は,原
告らによる被告らに対する間接的なライセンス料の支払にほかならないから,
被告らは,原告らに対し,更なるライセンス料の支払を求めることは許されな
い。
したがって,被告らは,原告らに対し,本件特許権侵害に基づく損害賠償請
求権及び本件特許権に基づく実施料請求権を有しない。
また,仮に被告らが原告らに対して上記各権利を有するとしても,被告ク
アルコムは,本件特許権につきFRAND宣言をしており,FRAND宣言を
した特許権者はFRAND条件でのライセンス料相当額を超える額を請求する
ことはできないから,被告らは,原告らに対し,少なくともFRAND条件で
のライセンス料相当額を超える損害賠償請求権及び実施料請求権を有しない。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前提事実に加え,当事者間に争いのない事実,証拠(後記文中及び末尾掲記
の各証拠)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)被告クアルコムは,同社が保有する特許権の一部(本件特許権を含む。)
につき,原告製品のCM(製造受託業者)である4社(以下「CM4社」と
いうことがある。)に対し,原告製品の生産,譲渡等に関しライセンス(C
Mライセンス)を付与しており,原告らは,CM4社から,全ての原告製品
の供給を受けている。(乙4,弁論の全趣旨)
(2)原告アップルと被告クアルコムは,平成26年頃,同被告が保有する本件
通信規格に関する全世界的な必須宣言特許ポートフォリオについて,同原告
が同被告から直接ライセンスの付与を受けることを目的とした交渉(本件ラ
イセンス交渉)を開始した。
本件ライセンス交渉の経過は,次のとおりである。
ア原告アップル担当者は,被告クアルコム担当者に対し,以下の内容を含
む平成28年2月5日付けレター(甲9)を送付した。
(ア)●(省略)●
(イ)●(省略)●
(ウ)●(省略)●
(エ)●(省略)●
イ被告クアルコム担当者は,原告アップル担当者に対し,以下の内容を含
む平成28年2月17日付けレター(甲10)を送付した。
(ア)●(省略)●
(イ)●(省略)●
(ウ)●(省略)●
ウ被告クアルコム担当者は,原告アップル担当者に対し,平成28年3月
18日付けで,被告クアルコムがETSIに開示した多数の特許が記載さ
れた一覧表を送付し,同一覧表のうち,原告製品が実施していない特許が
あれば知らせるよう求めた(甲7)。同一覧表には,本件特許の米国又は
中国対応特許の「付与/公開/出願番号」,「名称」,「要約」,「規格
公開」及び「地理的範囲」が記載されており,本件特許権の特許番号
(「日本:4913343」)も掲載されている(甲7の2頁目)。
エ原告アップル担当者は,被告クアルコム担当者に対し,以下の内容を含
む平成28年4月18日付けレター(甲11)を送付した。
(ア)●(省略)●
(イ)●(省略)●
オ被告クアルコム担当者は,原告アップル担当者に対し,以下の内容を含
む平成28年6月12日付けレター(甲6)を送付した。
(ア)●(省略)●
(イ)●(省略)●
(ウ)●(省略)●
カ被告クアルコム担当者は,原告アップル担当者に対し,平成28年7月
15日付けレター(甲15)を送付した。同レターには,●(省略)●旨
の記載がある。
キ原告アップルは,被告クアルコムの上記提案をFRAND義務に違反す
るとして拒絶し,平成28年9月,同被告に対し,それぞれの携帯電話の
標準必須特許について相互ライセンスをすることを提案した(甲8)。
これに対し,被告クアルコム担当者は,原告アップル担当者に対して平
成28年10月12日付けレター(甲13)を送付し,●(省略)●など
と主張し,同原告の提案を拒絶した。(甲8)
ク被告クアルコムは,平成28年12月頃,原告アップルに対し,同被告
が保有する特許権の一部について,「クレームチャート一覧サンプル」を
提供した(甲14)。当該クレームチャート一覧サンプルには,本件特許
米国対応特許(特許番号7,095,725)が記載されている。
(3)被告クアルコムは,平成28年6月,中国において,携帯通信端末メーカ
ーであるメイズ社を被告として,本件特許に対応する中国特許に係る特許権
につき侵害訴訟を提起した(甲8)。
(4)原告アップルは,平成29年1月20日,被告クアルコムを被告として,
米国南カリフォルニア地区連邦地方裁判所に訴訟を提起した。
原告アップルは,上記訴訟において,被告クアルコムによるCMへの被告
クアルコム製ベースバンド・プロセッサ・チップセットの販売行為が,同チ
ップセットに包含される特許権に関する同被告の特許権を消尽させることの
確認,同被告が同原告に対し,合理的な実施料率及び合理的な条件による非
差別的なライセンスの申出をしていないことの確認,同原告が実施する被告
クアルコムが保有する特許について,合理的な実施料率を用いたFRAND
料率の設定等を求めた。
これに対し,被告クアルコムは,被告クアルコムが本件ライセンス交渉に
おいて原告アップルに示したライセンス提案がFRAND条件を充足してい
ることの確認等を求めた。(甲17,18,33,乙2)
(5)被告らは,本件訴訟において,被告クアルコムは,原告製品のCM4社に
対して本件特許権を含む特許権のライセンス(CMライセンス)を付与して
おり,原告アップルはCM4社から原告製品全ての供給を受けているから,
被告らは,原告らに対し,本件特許権侵害に基づく損害賠償請求権及び本件
特許権に基づく実施請求権を有するものではなく,行使する意思もない旨表
明している。
2争点(2)(確認の利益の有無)について
(1)確認の訴えは,現に,原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が
存在し,これを除去するため被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切
な場合に限り許されるものである(最高裁判所昭和27年(オ)第683号
同30年12月26日第三小法廷判決・民集9巻14号2082頁参照)。
(2)原告らは,本件訴えについて確認の利益がある根拠として,被告クアルコ
ムが,平成28年頃,本件ライセンス交渉において,原告アップルに対し,
原告製品が本件特許権を含む被告クアルコムの保有する多くの特許権を侵害
していると主張したとの事実を挙げる。
しかし,前記認定によると,本件ライセンス交渉は,原告アップルと被告
クアルコムとの間の「直接のライセンス」を目的とするもの(上記1(2)
ア),すなわち,原告製品の生産,譲渡等につき,被告クアルコムからライ
センスの供与を受けたCM4社から原告アップルが製品の供給を受けるとい
う取引形態を改め,被告クアルコムが原告アップルに対して直接のライセン
スを供与することを目的とするものであったと認めるのが相当である。
このような交渉の目的,経緯によれば,被告クアルコム担当者作成に係る
平成28年2月17日付けレター(甲10)や同年6月12日付けレター
(甲6)における原告製品が被告クアルコムの保有する多くの特許を侵害す
る旨の記載は,ライセンス供与の相手方をCMから原告アップルに切り替え
た場合に,ライセンスがなければ特許侵害となる特許権が多くあることから,
これらの特許権をライセンス供与の対象とすべきであるとの意見の表明にす
ぎないというべきである。そうすると,上記記載をもって,被告クアルコム
による本件特許権に基づく権利行使の現実的な危険があるということはでき
ない。
また,本件ライセンス交渉の過程において,被告クアルコムからライセン
スの供与を受けたCMから原告アップルが製品の供給を受けるという取引形
態を前提として,被告クアルコムが,原告アップルに対して特許権侵害に基
づく損害賠償請求権を有し,又はこれを行使する意思を有していることを表
明したと認めるに足りる証拠はない。
(3)ア原告らは,被告クアルコムがメイズ社に対して本件特許の中国対応特許
に係る特許権の侵害訴訟を提起したことを指摘する。
しかし,被告らは,被告クアルコムがメイズ社に対して訴えを提起した
のは,メイズ社が被告クアルコムからライセンスを受けずに同被告の保有
する特許の実施品を販売したからであると主張するところ,メイズ社と被
告クアルコム間のライセンス契約の存否も含め,同訴訟の基礎となる事実
関係は明らかではなく,上記訴えの提起をもって,原告らが被告らによる
権利行使の危険にさらされているということはできない。
イ原告らは,被告クアルコムは,米国での訴訟において,原告アップルに
提示した必須宣言特許ポートフォリオ(本件特許権を含む。)のライセン
ス案がFRAND宣言に適合すること等の確認を求めており,このような
確認請求をすることは,原告アップルが本件特許権を含む必須宣言特許全
てを侵害していると主張していることにほかならないと指摘する。
しかし,前記認定事実のとおり,米国での訴訟において,原告アップル
は,被告クアルコムは合理的な実施料率及び合理的な条件による非差別的
なライセンスの申出をしていないことの確認や,原告アップルが実施する
被告クアルコムが保有する特許のFRAND料率の設定等を求め,被告ク
アルコムはこの原告アップルの請求に対する反訴として,被告クアルコム
が本件ライセンス交渉において示したライセンス提案がFRAND宣言に
適合することなどの確認を求めているものである。このように,米国での
訴訟において,被告クアルコムは,本件特許に対応する米国特許侵害に基
づく損害賠償請求権を有することの確認を求めているものではないのであ
り,米国における上記確認請求をもって,同被告による権利行使の現実的
な危険があるということはできない。
また,原告らは,米国での上記訴訟において被告クアルコムが係争性を
争っていないと主張するが,本件訴えの請求の内容と上記訴訟における請
求の内容は異なるのであるから,同被告が米国における上記訴訟で係争性
を争っていないことをもって,本件訴えにおいて確認の利益があるという
ことはできない。
(4)前記1(1)のとおり,被告クアルコムと原告製品を供給しているCMとの
間のライセンス契約の対象には本件特許権も含まれており,CMライセンス
契約は現時点でも有効に存続しているものと認められ,これを覆すに足りる
証拠はない。そうすると,現時点において,被告らは,原告に対し,本件特
許権に基づく損害賠償請求権及び実施料請求権を有しないというべきであり,
被告らもこれを自認している。
これに対して,原告らは,被告クアルコムは本件ライセンス交渉において
CMライセンスの対象範囲を明確にせず,その主張を変遷させている上,同
被告がCMライセンス契約上の再交渉義務を履行していないことを自認して
いることや,TFTCの是正措置に基づきCMと再交渉中であることに照ら
すと,現時点におけるCMライセンスの有効性及びその内容について疑義が
あると主張する。
しかし,被告クアルコムは本件ライセンス交渉においてCMとのライセン
ス契約の内容や対象範囲を原告アップルに開示しなかったとしても,そのこ
とから直ちにCMとのライセンス契約の存否や有効性に疑義があるというこ
とはできない。また,同被告がCMライセンス契約上の再交渉義務を履行し
ていないことを自認しているとの事実やTFTCの是正措置に基づきCMと
再交渉中であるとの事実も,前記認定を左右するものではない。
(5)前記1(5)のとおり,被告らは,本件特許権がCMライセンス対象であるこ
とを認めた上で,このことを理由として,本件訴訟において,一貫して,原
告製品につき本件特許権侵害に基づく損害賠償請求権及び本件特許権に基づ
く実施料請求権を有しないことを表明している。
これに対し,原告らは,これは一時的な表明にすぎず,本件の訴訟物であ
る損害賠償請求権等を口頭弁論終結後も行使しない旨を記載した書面を裁判
所に提出するなどの方法によらないと,原告らの法律上の地位に関する現実
の危険又は不安は解消されないと主張するが,権利行使をしない旨の表明の
方法に特に限定はなく,原告らの主張するような方法によらなければならな
いとする理由はない。
(6)原告らは,被告QTI,被告QCTAP及び被告クアルコムジャパンは被
告クアルコムの製品等に関する事業や製品の販売を行っていることから被告
クアルコムと一体となって本件特許権を行使していると主張する。
しかし,本件特許権を有しない者がその実施品に関する事業等を行ってい
ることから本件特許権自体や実施料請求権を保有又は行使しているというこ
とはできないし,被告QTI,被告QCTAP及び被告クアルコムジャパン
がそれらの権利を具体的に行使した事実を認めるに足りる証拠はない。した
がって,これらの被告らが本件特許権侵害に基づく損害賠償請求権及び本件
特許権に基づく実施料請求権を行使する具体的なおそれがあるとは認められ
ない。
(7)以上によれば,本件訴えのうち原告アップルの被告クアルコムに対する訴
え並びに原告アップルと被告QTI,被告QCTAP及び被告クアルコムジ
ャパンとの間の訴えは,確認の利益がない。
また,被告らが,原告アップルとは別に,原告アップルジャパンに対して,
本件特許権侵害に基づく損害賠償請求権及び本件特許権に基づく実施料請求
権を行使する具体的なおそれがあることを基礎づける事実の主張はなく,原
告アップルジャパンと被告らとの間の訴えについても,確認の利益は認めら
れない。
3結論
よって,その余の争点について判断するまでもなく,本件訴えは確認の利益を
欠き,不適法であるから,これを却下することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
佐藤達文
裁判官
遠山敦士
裁判官
今野智紀
別紙
当事者目録
原告アップルインコーポレイテッド
原告AppleJapan合同会社
上記二名訴訟代理人弁護士長沢幸男
矢倉千栄
稲瀬雄一
石原尚子
金子晋輔
雲居寛隆
仲野覚成
同訴訟代理人弁理士大塚康徳
同補佐人弁理士大塚康弘
江嶋清仁
前田浩次
吉田晴人
西守有人
被告クアルコムインコーポレイテッド
被告クアルコムテクノロジーズインク
被告クアルコムシディーエムエーテクノロジーズ
アジア-パシフィックピーティーイーエルティーディー
被告クアルコムジャパン株式会社
上記4名訴訟代理人弁護士城山康文
早田尚貴
岩瀬吉和
柴田義人
髙橋綾
村上遼
小島諒万
宗川帆南
同訴訟代理人弁理士市川祐輔
同補佐人弁理士市川英彦
別紙
物件目録
1iPhone7Plus32GB
2iPhone7Plus128GB
3iPhone7Plus256GB
4iPhone732GB
5iPhone7128GB
6iPhone7256GB
7iPhone6SPlus32GB
8iPhone6SPlus128GB
9iPhone6S32GB
10iPhone6S128GB
11iPhoneSE16GB
12iPhoneSE64GB
1312.9インチiPadProWi-Fi32GB
1412.9インチiPadProWi-Fi128GB
1512.9インチiPadProWi-Fi256GB
1612.9インチiPadProWi-Fi+Cellularモデル12
8GB
1712.9インチiPadProWi-Fi+Cellularモデル25
6GB
189.7インチiPadProWi-Fi32GB
199.7インチiPadProWi-Fi128GB
209.7インチiPadProWi-Fi256GB
219.7インチiPadProWi-Fi+Cellularモデル32
GB
229.7インチiPadProWi-Fi+Cellularモデル12
8GB
239.7インチiPadProWi-Fi+Cellularモデル25
6GB
24iPadAir2Wi-Fi32GB
25iPadAir2Wi-Fi64GB
26iPadAir2Wi-Fi128GB
27iPadAir2Wi-Fi+Cellularモデル32GB
28iPadAir2Wi-Fi+Cellularモデル128GB
29iPadAirWi-Fi16GB
30iPadAirWi-Fi32GB
31iPadmini4Wi-Fi32GB
32iPadmini4Wi-Fi128GB
33iPadmini4Wi-Fi+Cellularモデル32GB
34iPadmini4Wi-Fi+Cellularモデル128GB
35iPadmini3Wi-Fi16GB
36iPadmini3Wi-Fi64GB
37iPadmini2Wi-Fi16GB
38iPadmini2Wi-Fi32GB
39iPadmini2Wi-Fi+Cellularモデル32GB
以上

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◎事務所事件の共同受任可

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残り応募人数(2019年5月1日現在)
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