弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を罰金30万円に処する。
その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算し
た期間被告人を労役場に留置する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,AがB高速道路における自動車運転処罰法違反等で逮捕されたと報道
されていた事件に関し,C株式会社の名誉を毀損するかもしれないことを認識しな
がら,あえて,平成29年10月11日午前7時52分頃,埼玉県川越市(以下省
略)の被告人方において,パーソナルコンピュータを使用して,インターネットを
介し,不特定多数の者が閲覧可能なインターネット上の掲示板である「5ちゃんね
る」内の「【B夫婦死亡事故】A容疑者、『なぜPAから追いかけていった?』との
質問に『やっぱこっちもカチンとくるけん』★13」と題するスレッドに「Aの親っ
てD区で建設会社社長してるってマジ?息子逮捕で会社を守るために社員からアル
バイトに降格したの?」との内容の投稿番号を引用した上で「これ?違うかな。」と
いう文章に続けて「C株式会社〒(郵便番号省略)福岡県北九州市D区(以下
省略)(電話番号省略)」等の会社情報が記載されたホームページのURLを投稿
し,あたかも,同社がAの父親が経営する会社であり,Aの勤務先であるかのよう
な事実を掲載し,これをインターネットを利用する北九州市D区(以下省略)の同
社で勤務するEら不特定多数の者に閲覧可能な状態にさせ,もって,公然と事実を
摘示し,同社の名誉を毀損した。
(事実認定の補足説明)
1弁護人は,①被告人による判示の行為は名誉毀損罪の構成要件に該当せず,②
名誉毀損罪の故意も欠けるから,被告人は無罪である旨主張し,被告人もこれに
沿う供述をする。
しかしながら,当裁判所は,関係証拠に照らし判示の事実を認定したので,そ
の理由を補足して説明する。
2名誉毀損罪の構成要件該当性について
⑴前提事実
関係証拠によれば,次の事実が認められる。
ア平成29年10月10日,Aなる人物(以下「別件被疑者」という。)が,
B高速道路において,家族が乗っていた車の進路をふさいで停止させ,大型
トラックによる追突事故を誘発させて死傷事故を起こしたとして逮捕され,
同日以降,新聞等で広くその旨報道がなされた。
イ同月11日,インターネット上の掲示板である「5ちゃんねる」(以下「本
件掲示板」という。)の「ニュース速報+」というカテゴリ内に,「【B夫婦死
亡事故】A容疑者、『なぜPAから追いかけていった?』との質問に『やっぱ
こっちもカチンとくるけん』★13」と題するスレッド(以下「本件スレッド」
という。)が作成された。
本件スレッドは,匿名での投稿が可能であり,各投稿が投稿の順に番号を
付して上から表示されるようになっていて,不特定多数の者が閲覧可能であ
った。
ウ同日,氏名不詳者が,本件スレッドに,匿名で,投稿番号793として,
「Aの親ってD区で建設会社社長してるってマジ?息子逮捕で会社を守るた
めに社員からアルバイトに降格したの?」という投稿をした(以下「793
番の投稿」という。)。
エ同日,被告人は,本件スレッドに,冒頭「>>793」と記載した上,「これ?
違うかな。」という文章を記載し,更に続けて,ホームページのURLを記載
した投稿をし(以下「本件投稿」という。),これを不特定多数の者が閲覧可
能な状態にした。
なお,上記URLは,これをクリックすると,C株式会社(以下「被害会
社」という。)の会社情報として,その所在地や電話番号のほか,建設,建築
業等を営んでいる旨記載がされたホームページが表示されるものであった。
オ同日以降,被害会社は,別件被疑者とは全く関係がないにもかかわらず,
同人と関係があることを前提とした苦情の電話や無言電話が殺到したことで,
一時休業を余儀なくされたほか,同社代表取締役は,取引先や従業員等に対
し,同社が別件被疑者とは無関係である旨の説明を要する事態となった。
⑵本件投稿が公然と事実を摘示したものといえるか否かについて
ア前記事実関係を基に検討すると,本件投稿は,前記⑴エのとおり,冒頭に
「>>793」と記載したものであるところ,その体裁からして,本件投稿を閲覧
した者は,通常,本件投稿を793番の投稿に対する返信と捉えるであろう
ことが認められ,実際,本件投稿を見た者の中に,本件投稿の記載から,本
件投稿が793番の投稿に対する返信であると理解した者の存在が裏付けら
れている。そして,本件投稿の「これ?違うかな。」という記載のみでは本件
投稿の意味をにわかに理解できないことに加えて,本件スレッドは不特定多
数の者が閲覧可能であり,本件投稿の閲覧者において容易に793番の投稿
を見ることができたことも併せ考えると,本件投稿の閲覧者は,本件投稿と
793番の投稿を併せて読むことが通常想定されるというべきである。そし
て,本件投稿の閲覧者において,本件投稿と793番の投稿を併せて読んだ
場合,両者の記載内容に照らし,本件投稿に記載されたURLによって表示
される被害会社が,793番の投稿でいう別件被疑者の父親が経営する会社
であり,別件被疑者の勤務先等である可能性があると容易に理解するものと
認められる。
そうすると,被告人は,本件投稿により,被害会社が別件被疑者の父親が
経営する会社であり,別件被疑者の勤務先等である可能性があるかのような
具体的な事実を摘示し,かつ,これを不特定多数の者が閲覧可能な状態に置
いたといえ,公然と事実を摘示したものと認められる。
イこれに対し,弁護人は,そもそも本件投稿と793番の投稿の各内容を
併せて見るべきではないという趣旨の主張をする。
しかしながら,前記のとおり,本件投稿が793番の投稿に対する返信
と捉えられること等からすると,本件投稿の閲覧者は,その内容を理解し
ようと793番の投稿内容も見た上で本件投稿を読むのが通常といえ,弁
護人の上記主張は,むしろ不自然な読み方を前提にするもので,採用でき
ない。
また,弁護人は,本件投稿がされた媒体が匿名掲示板であることに加え,
本件投稿の体裁が疑問符を付け,確認を求めるものであることなどからす
ると,本件投稿の内容はその真偽について疑いをもって見られるようなも
のであるから,そもそも事実の摘示があったとは評価できない旨主張する。
確かに,匿名掲示板では,一定の虚偽事実が投稿されることは周知の事
実といえる。しかしながら,他方で,投稿された内容はすべからく虚偽事
実との認識まで広く共有されているとは考えにくく,結局のところ,閲覧
者は,その媒体の性質を踏まえつつ,その投稿の内容等に則して,真偽の
可能性について判断を行っているものと解される。そうしたところ,本件
投稿は,弁護人が指摘するとおり,疑問符を用い,「違うかな。」と記載し
て断定的な表現をしてはいないものの,その記載上,793番の投稿の内
容自体には疑問を呈することなく,記載した経緯についての説明や何らの
留保を付さないまま,793番の投稿内容を前提に,それに沿った被害会
社の情報を記載しているのであるから,本件投稿の閲覧者において,被害
会社が793番の投稿でいう別件被疑者の父親が経営する会社であり,別
件被疑者の勤務先等である可能性がおよそないものと理解するとは考え
難い。現に,本件投稿を閲覧した者の中には,本件投稿を元にして,更に
本件投稿と同種とうかがわれる内容を投稿した者がおり,そのような情報
が順次拡散した結果,被害会社が前記2⑴オのとおりの対応を余儀なくさ
れる結果となっていることも併せ鑑みれば,弁護人指摘の点により,本件
投稿が,およそ信頼性の低い情報として受け取られるものとの疑いは存し
ないというべきである。
以上のとおり,弁護人の上記主張は,採用できない。
⑶本件投稿が被害会社の名誉を毀損するものか否かについて
ア前記のとおり,本件投稿は,被害会社が別件被疑者の父親が経営する会社
であり,別件被疑者の勤務先等であるかのような事実を摘示するものであり,
その閲覧者において,被害会社が,広く報道されている前記事故を引き起こ
した別件被疑者の勤務先等である可能性があると思わせ,ひいては,被害会
社がかかる犯罪者を輩出する不十分な指導や監督しかなし得ない会社である
などといったイメージを抱かせ,同社がこれまでに培ってきた信用や評判に
疑問や誤解を生じさせうるものというべきである。実際,前記のとおり,本
件投稿の後,本件投稿を元にして,本件投稿と同種とうかがわれる内容を投
稿した者がおり,そのような情報が順次拡散した結果,被害会社が前記2⑴
オのとおりの対応,とりわけ,取引先への説明等を余儀なくされる結果とな
っていることが認められ,このことは本件投稿が前記疑問や誤解を生じさせ
得ることの裏付けといえる。
以上によれば,本件投稿は,被害会社の名誉を毀損するものと認められる。
イこれに対し,弁護人は,本件投稿が,仮に別件被疑者が被害会社に勤務し
ているとの事実を摘示するものであるとしても,犯罪の被疑者がたまたま勤
めていた会社が被害会社であるという事実を示すに過ぎないから,被害会社
の社会的評価を害するものではない旨主張する。
しかしながら,本件における前記事情,とりわけ,被害会社が余儀なくさ
れた対応等に鑑みると,前記のとおり,本件投稿は,被害会社の名誉を毀損
するものと認めるのが相当であって,本件において,弁護人の上記主張を採
用することはできない。
3名誉毀損罪の故意の有無について
前記のとおり,被告人は,何らの留保を付さないまま793番の投稿の内容を
前提に,これに沿った被害会社の情報を投稿したことが認められるところ,本件
投稿の閲覧者は,793番の投稿を併せて読んだ上で,本件投稿に記載されたU
RLによって表示される被害会社が,793番の投稿でいう別件被疑者の父親が
経営する会社であり,別件被疑者の勤務先等である可能性があると理解するもの
と考えられ,本件投稿及び793番の投稿内容を認識している被告人においても,
当然,本件投稿の閲覧者がそのように理解する可能性があると認識したことが容
易に推認される。そして,793番の投稿等から別件被疑者ないしその勤務先等
に対する否定的評価の存在を把握し得ることに照らすと,上記認識を有する被告
人において,自らの判示の行為により被害会社の社会的評価が害される可能性を
認識したことも優に推認され,これについて否定する趣旨の被告人の供述は俄か
に信用することはできない。
以上によれば,被告人は,本件投稿により,被害会社の名誉を毀損するかもし
れないことを認識しながら,あえて本件投稿をしたと推認することができ,被告
人が少なくとも名誉毀損の未必的な故意をもって,本件投稿に及んだと認められ
る。被告人の供述を基に弁護人が種々主張するところを踏まえて検討しても,同
認定は揺らがない。
4以上の次第で,判示のとおり認定した。
(量刑の理由)
被告人による本件投稿は,インターネットを閲覧しうる不特定多数の者に対し,
被害会社の社会的評価を低下させる危険を生じさせる行為であり,実際に被害会社
に生じた事態を軽視することはできない。被害会社に与える影響に十分に思いを致
さなかった被告人の行動はあまりにも浅慮と言わざるを得ず,非難を免れない上,
現時点においても,本件についての被告人の受け止めは十分とはいえない。
もっとも,証拠上,被告人に被害会社の名誉を積極的に毀損する意図があったと
までは認められないこと,被害会社に実害が発生するまでには本件投稿以前の79
3番の投稿をした者や本件投稿後の第三者の行為が介在していること,被告人に前
科前歴がないことなどは考慮すべき事情といえる。
以上によれば,被告人に対しては,主文の罰金刑を科すのが相当である。
(求刑罰金30万円)
令和2年12月10日
福岡地方裁判所小倉支部第1刑事部
裁判長裁判官森喜史
裁判官内山香奈
裁判官葛󠄀西正成

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