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裁判例


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○ 主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の申立
一 原告
被告が原告の昭和四四年四月一日から昭和四五年三月三一日までの事業年度(以下
第六期という。)並びに昭和四五年四月一日から昭和四六年三月三一日までの事業
年度(以下第七期という。)の各法人事業税につき昭和四七年五月三一日付でした
各更正処分(以下右両処分を併せて本件更正処分という。)を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 原告の請求原因
1 原告は、病院・診療所を開設している財団法人であるが、昭和四五年六月一日
第六期の法人事業税について、課税標準を欠損金二、九四七、四一九円、税額を〇
円とする確定申告をし、また、昭和四六年五月三一日第七期の法人事業税について
課税標準を欠損金五、四七一、八五九円、税額を〇円とする確定申告をしたとこ
ろ、被告は昭和四七年五月三一日付をもつて右確定申告にかかる第六期の課税標準
を欠損金五八八、二八〇円、第七期の課税標準を欠損金八一七、四三七円とする本
件更正処分をした。
2 原告は、本件更正処分に対し昭和四七年一〇月九日東京都知事に審査請求をし
たが、同知事は昭和四八年六月二二日付で右請求を棄却する裁決をし、その裁決書
謄本を同年六月二六日原告に送達してきた。
3 被告の本件更正処分は、地方税法七二条の一四第一項但し書に、健康保険法等
の規定に基づく「医療につき支払を受けた金額は、益金の額に算入せず、また、当
該給付又は助産若しくは医療に係る経費は、損金の額に算入しない。」と定めてあ
ることを根拠にして、原告の右両事業年度の所得金額の算定につき原告の事業によ
つて生じた総益金及び総損金を社会保険診療等から生じた益金及び損金とそれ以外
の医療保健業としての診療(以下自由診療という。)等から生じた益金及び損金と
に区分して計算すべきものと解し、原告の総欠損金額から社会保険分の欠損金額を
控除して自由診療等から生じた欠損金額のみを当該事業年度の欠損金額として算出
した。すなわち、被告は、原告の第六期分につき総欠損金額二、九四七、四一九円
から社会保険分欠損金額二、三五九、一三九円を控除し、残額五八八、二八〇円の
みを同期分の欠損金とし、また、第七期分につき総欠損金額五、四七一、八五九円
から社会保険分の欠損金四、六五四、四二二円を控除し、残額八一七、四三七円の
みを同期分の欠損金とした。
4 しかしながら、被告の本件更正処分は地方税法七二条の一四第一項但し書の解
釈適用を誤つたものであつて違法である。
(一) 地方税法七二条の一四第一項本文は、法人の事業税の課税標準につき「当
該各事業年度の法人税の課税標準である所得の計算の例によつて算定する。」と定
め、これが法人事業税の課税標準算定の原則となつている。これに対し、同条項但
し書の立法趣旨は、社会保険診療報酬の低単価を税制面からカバーして、社会保険
診療を保護育成しようとする政策的配慮から、医療にたずさわる法人で社会保険診
療により所得(利益)のあつた場合に、その所得を事業税の課税標準から除外する
ことにより、社会保険診療にたずさわる法人の税負担の軽減をはかろうとするもの
と解される。したがつて、それは具体的な納税者である医療法人に対し右優遇措置
を講じようとするものであつて、単に抽象的な社会保険診療等の保護育成をはかろ
うとするものではないのである。けだし、そのように解するのであれば端的に社会
保険診療等の非課税規定を設ければ十分なはずである。例えば、事業税法七二条の
四第二項は「道府県は、左の各号に掲げる事業に対しては、事業税を課することが
できない」と規定している。
(二) 前記法条項の本文と但し書の関係は、本文により医療法人等の全事業の益
金と損失とを法の定めるところにしたがつて算出し、その損益を通算して所得を算
出するという原則を生かしたうえで、但し書の修正を加えることになるのである。
したがつて、医療法人に対しては、その総所得のうち社会保険診療等による所得以
外の自由診療による所得に対してのみ事業税が課せられるのであつて、右法条項の
但し書の規定は社会保険診療等により所得をあげた医療法人に対してのみその優遇
措置として適用され、欠損となつた医療法人に対しては同項本文が適用され、「各
事業年度の所得は、各事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額による」も
のと解すべきである。
右但し書を被告のように解すると、次のような極めて不合理な事態を招来すること
になる。すなわち、医療法人等の当該事業年度の総所得金額が赤字の場合は、法人
税は課税されないのであるが、総所得金額が赤字であつてもそのなかに社会保険診
療等による赤字額が含まれている場合は、その赤字額が総所得金額の赤字額から除
外されて総所得金額の赤字額は減少し、場合によつては総所得金額が黒字に転じ、
法人税は課せられないのに法人事業税のみが課せられるということになる。それで
は、医療法人等につき右但し書の立法趣旨が前記のように事業税に関しては法人税
の場合よりさらに税負担軽減の優遇措置を講じようとするにあることとも矛盾し
て、まことに不合理というべきである。
5 ところで、本件更正処分はいずれも税額を零とするものであつて、その点では
原告になんらの損失もないが、地方税法施行令二一条により繰越欠損金の算入が認
められているので、本件更正処分により欠損金の減額がなされると、将来原告が負
担すべき税額に影響を及ぼすことが明らかである。
6 以上の次第で、原告の前記各年度分の課税標準となる所得は原告の確定申告書
記載の欠損金額が正当であつて、被告の本件更正処分は違法であるからその取消し
を求める。(ただし、地方税法七二条の一四第一項の解釈につき被告主張の見解が
正当であるときは本件更正処分の数額の点は争わない。)
二 被告の認否と主張
1 請求原因1ないし3の事実は認める。ただし、被告が本件更正処分をしたのは
昭和四七年八月一〇日付であり、審査請求棄却の裁決がなされたのは昭和四八年六
月二二日付である。同4、5は争う。
2 被告の主張
(二) 法人事業税の課税標準である各事業年度の所得金額(以下これを所得金額
という。)は、原則としてその事業年度の法人税の所得金額の計算の例により算定
することとされているが(地方税法七二条の一四第一項本文)、医療法人の法人事
業税の所得金額の算定においては、社会保険診療等にかかる給付、助産または医療
について支払いを受けた金額は総益金に算入せず、また、その給付、助産または医
療にかかる経費は総損金に算入しないと定められている(同法七二条の一四第一項
但し書)。
(二) この同法七二条の一四第一項但し書の立法趣旨は、社会保険診療等の保護
育成を図り、また、社会保険診療等にかかる医療報酬の単価が低く決定されていた
ことの見返りを図ることであると考えられるが、この規定により医療法人の社会保
険診療等にかかる所得は、法人事業税の課税対象から除外されることになる。
よつて、医療法人が社会保険診療等と自由診療との両方を行なつている場合の当該
医療法人の所得金額を算定するには、まず同法七二条の一四第一項但し書により、
社会保険診療等にかかる所得を除外しなければならない。しかるのちに、同法七二
条の一四第一項本文前段により、各事業年度の益金の額から損金の額を減じること
によつて所得金額を算定することとなる。したがつて、当該医療法人に医療保健業
以外の所得が存しないかぎり、ここでいう益金及び損金は自由診療に基づく益金及
び自由診療に基づく損金をさすことになる。
(二) なお、原告は財団法人であり、その行なうところの医療保健業は、地方税
法施行令一五条および法人税法施行令五条により、地方税法七二条の五第一項の収
益事業に該当する。
よつて、その法人事業税の所得金額を算定するには、地方税法七二条の一四第一項
本文のみが適用され、同条同項但し書は適用されないことになる。
しかしながら、民法上の公益法人が医療保健業を行なう場合の法人事業税の取扱い
については、「地方税法七二条の一四の規定は公益法人等について直接適用されな
いが、この制度の趣旨にかんがみ、医療法人と同様の取扱をすることが適当であ
る。」とする行政実例(自治庁税務局府県税課長回答、昭和三二年一二月二日、自
丁府発第二〇八号)に従い、実務上は原告のような公益法人の場合にも医療法人と
同様に司法七二条の一四第一項但し書を適用して課税している。
四 ところで、原告は、訴状請求の原因第4項によれば、医療法人に法人事業税を
課するにあたり、当該医療法人の社会保険診療等に基づく益金が、これにともなう
損金よりも多い場合にのみ同法七二条の一四第一項但し書が適用されるものであ
り、もし、社会保険診療等に基づく益金がこれにともなう損金よりも少ないような
場合、すなわち、欠損金の生じるような場合には、同法七二条の一四第一項本文が
適用されるべきであると主張しているもののようである。このような考え方に従え
ば、社会保険診療等につき欠損金の生じるような医療法人の法人事業税の所得金額
は、自由診療等に基づく益金からこれにともなう損金を減じ、さらに、社会保険診
療等についての欠損金額を減じた残りの金額ということになる。しかしながら、こ
のような原告の主張は、同法七二条の一四第一項但し書の文言に明らかに反するも
のである。
よつて、原告の同法七二条の一四第一項についての主張は理由がない。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因1ないし3の事実は次の点を除き当事者間に争いがなく、弁論の全趣
旨によれば、本件更正処分がなされたのは昭和四七年八月一〇日付であり、審査請
求棄却の裁決がなされたのは昭和四八年六月二二日付であることが認められる。
二 本件の争点は、要するに、地方税法七二条の一四第一項の本文と但し書の解釈
をめぐる問題であるが、原告は、医療法人に対する法人事業税の課税にあたり、同
法七二条の一四第一項但し書が適用されるのは、当該医療法人の社会保険診療等に
基づく益金が損金をこえる場合に限られ、当該法人に社会保険診療等の欠損金が生
じた場合には同項本文か適用されるべきであると主張し、被告は、右但し書の趣旨
は、社会保険診療等にかかる給付、助産または医療について支払を受けた金額は総
益金に算入せず、他方、その経費も総損金に算入されないとの意味であつて、社会
保険診療等に欠損金が生じた場合でも同様に解すべきであると主張するので、この
点について検討する。
社会保険診療等の保護育成を図るために、医療法人に対しては租税特別措置法六七
条一項により、法人税法上の特例として、各事業年度において社会保険診療等にか
かる給付または医療もしくは助産につき支払を受けるべき金額がある場合には、当
該事業年度の所得金額の計算上、当該給付または医療もしくは助産にかかる経費と
して損金の額に算入する金額は、当該支払を受けるべき金額の百分の七二に相当す
る金額とすることが定められている。
他方、法人事業税の課税標準である各事業年度の所得金額は、原則としてその事業
年度の法人税の所得金額の計算の例により算定することと規定されているが(地方
税法七二条の一四第一項本文)、さらに、同項但し書により、医療法人の法人事業
税の所得金額の算定においては、社会保険診療等にかかる給付、助産または医療に
ついて支払を受けた金額は総益金に算入せず、また、その給付、助産または医療に
かかる経費は総損金に算入しないものと定められている。
そこで、成立に争いのない乙第一号証の一ないし三、第二号証の一ないし四、第三
ないし第五号証の各一ないし三に証人Aの証言を総合して認めることのできる立法
当時参議院における政府委員の立法趣旨説明並びに行政実務を参酌しながら右但し
書の法意を考えてみるに、これは次のように解するのが相当である。すなわち、地
方税法七二条の一四第一項但し書の趣旨とするところは、社会保険診療等について
は医療報酬の単価が社会的要請から低くおさえられていることの見返りとして考慮
されたものであり、ひいてはこれにより社会保険診療等の保護育成に資することを
目的とするものと解される。したがつて、医療法人が社会保険診療等とそれ以外の
自由診療との両方を行なつている場合、当該医療法人の所得金額を算定するには、
前記但し書の規定を適用して社会保険診療等の経費は損金にみないし、また、支払
を受けた金額は利益金とみないことになるので、結局、総所得金額または総欠損金
額から社会保険診療等の所得(社会保険診療等の収入金額から社会保険診療等の経
費を控除してえた金額)を差し引き、しかるのちに同法七二条の一四第一項本文前
段の規定により当該事業手段の益金の額から損金の額を控除してその所得金額を算
定すべきこととなる。
もつとも、右但し書の規定をこのように解すると、原告主張のように、医療法人等
の当該事業年度の総所得金額が赤字のため法人税は課税されないのに、総所得金額
中に社会保険診療等による赤字額が含まれている場合は、その赤字額は総所得金額
の赤字額から控除される結果、総所得金額の赤字額が減少し、そのために総所得金
額が黒字に転じ、法人事業税が課せられるという事態が生じることも考えられない
わけではないが、そのようなことは現行法の解釈上やむをえないことであり、これ
がために法令上の明文もないのに原告主張のように解釈することは困難であり、証
人Bの証言中原告の右主張に添う部分は採用できないし、他に右結論を動かすに足
りる資料もない。
三 被告の本件更正処分は当裁判所の右見解と同旨の立場から地方税法七二条の一
四第一項但し書を適用したものであつて、この解釈を前提とする具体的な計算関係
は原告も争わないから、本件更正処分は適法であつて、これにつき原告主張の違法
はない。
四 よつて、本件更正処分の取消しを求める原告の本件請求は理由がないこと明ら
かであるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主
文のとおり判決する。
(裁判官 高津 環 牧山市治 慶田康男)

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