弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 被告人本人の上告趣意一及び二について。
 論旨は、要するに、本件被告人の所為は憲法の保障する労働者の団体交渉権の行
使に外ならないと前提して、原判決の事実誤認並びに違憲を主張するものである。
しかし、原判決の認定した事実は、これを要約すると、被告人はA労働組合(元E
労働組合)員であるが、他二十数名と共に、昭和二八年五月一三日午後二時頃B外
四名を代表者として、佐世保市役所二階市長応接室において、同市長C等と生活保
護法に基く生活扶助料支給のことで交渉したが、らちがあかず、同日午後三時過ぎ
頃、右市長は所用のため外出し、その後退庁時刻も過ぎたので、同日午後八時二〇
分頃同市助役Dは右市長の命を受けて被告人等に対し即時右庁舎外に退去するよう
要求したが、被告人等は「満足な解決が得られるまでは帰らん、市長を出せ、誠意
ある回答をせよ」と迫り、ついで同助役の要請を受けた佐世保警察署員からも重ね
て退去方の通告を受けたのに、被告人等は前記二十数名の労働者と共に、前記応接
室の入口をふさぎ、スクラムを組み、同心一体となつて右要求に応ぜず、同所より
退去しなかつたものであるというにあつて、記録に徴し右認定には誤が存しない。
されば、被告人等の本件交渉事項は、生活保護法に基く生活扶助料の支給を要求す
るものであつて、かかる交渉の如きは、使用者対被使用者の関係を前提とする団体
交渉権の行使とはいい得ないこと原判示のとおりである(なお、昭和二九年(あ)
第一〇四二号、同年九月三〇日第一小法廷決定参照)。従つて所論の前提自体これ
を認めることができないから、所論違憲の主張はその前提を欠くものであつて、所
論はいずれも適法な上告理由に当らない。
 同三について。
 所論は違憲を主張する。しかし、憲法二五条一項の法意は、国家は、国民一般に
対して概括的に、健康で文化的な最低限度の生活を営ましめる責務を負担し、これ
を国政上の任務とすべきであるとの趣旨であつて、この規定により、直接に個々の
国民は、国家に対して具体的、現実的にかかる権利を有するものではないこと、既
に当裁判所の判例とするところである(昭和二三年(れ)第二〇五号、同年九月二
九日大法廷判決、集二巻一〇号一二三五頁参照)から、所論は理由がない。
 また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三五年二月一六日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    高   橋       潔
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    石   坂   修   一

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