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平成26年1月24日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成25年(ワ)第1062号損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日平成25年10月23日
判決
東京都港区<以下略>
原告株式会社ジェフグルメカード
同訴訟代理人弁護士岩渕正紀
同野下えみ
同岩渕正樹
東京都千代田区<以下略>
被告株式会社ぐるなび
同訴訟代理人弁護士藤原総一郎
同岡田淳
同増田雅史
同久保利英明
同上山浩
同中村直人
同倉橋雄作
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,原告に対し,金1000万円及びこれに対する平成25年2月1日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告は,その営業につき,「全国共通お食事券」なる標章又は同表示を含む
標章を使用し,使用した商品を譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのため
に展示し,若しくは電気通信回線を通じて提供してはならない。
第2事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,原告発行の「ジェフグルメカード全国共通
お食事券」(以下「原告商品」という。)について,その商品等表示は「ジェ
フグルメカード全国共通お食事券」,「全国共通お食事券」又は「全国共通
お食事券ジェフグルメカード」(以下,併せて「本件各商品等表示」という
場合がある。)であるが,「ジェフグルメカード」のみならず,「全国共通お
食事券」もそれ自体で識別力を有する商品等表示であると主張した上で,被告
発行の「ぐるなびギフトカード全国共通お食事券」(以下「被告商品」とい
う。)との間に混同が生じているなどとして,被告が不正競争防止法2条1項
1号,2号又は13号所定の不正競争行為を行っているなどと主張し,①不正
競争防止法4条又は不法行為に基づく損害賠償請求として,1000万円(附
帯請求として訴状送達の日の翌日である平成25年2月1日から支払済みまで
民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払,②不正競争防止法3条1
項又は企業の人格権としての営業権に基づく差止請求として,被告の営業につ
いて「全国共通お食事券」なる標章又は同表示を含む標章の使用等の禁止を求
めた事案である。
1前提事実(後掲の証拠等により認められる。)
(1)当事者
ア原告
原告は,平成4年8月に設立された株式会社であり,原告商品の発行に
関する事業を主要な業務としている。原告は,外食産業の業界団体である
社団法人日本フードサービス協会(現在は一般社団法人である。以下「日
本フードサービス協会という。)とその加盟社及び金融機関の出資により
設立された。
(甲1~3,70)
イ被告
被告は,平成元年10月に設立された株式会社であり,飲食店情報検索
サイト「ぐるなび」(以下「被告サイト」という場合がある。)の運営を
主要な業務としている。
(甲7,乙6,7)
(2)原告商品
原告商品(「ジェフグルメカード全国共通お食事券」)は,券面額50
0円の商品券である。原告商品は,平成4年12月1日から発売が開始され,
平成24年3月現在の総発行枚数は約1億4413万枚であり,全国の3万
を超える店舗で利用できる。
原告商品の外観,記載内容は別紙原告商品記載のとおりであり,原告加盟
店ステッカーは別紙原告加盟店ステッカー記載のとおりである。
原告は,標準文字商標として「ジェフグルメカード全国共通お食事券」
を商標登録している(登録番号5489803号)。
(以上につき甲6,8,14,20,21,乙15の1及び2)
(3)被告商品
被告商品(「ぐるなびギフトカード全国共通お食事券」)は,券面額5
00円,1000円,5000円及び1万円の4種類の商品券である。被告
商品は,平成23年9月15日から販売が開始され,全国の1万3900を
超える店舗で利用できる。
被告商品の外観,記載内容は別紙被告商品記載のとおりであり,被告加盟
店ステッカーは別紙被告加盟店ステッカー記載のとおりである。
被告は,標準文字商標として「ぐるなびギフトカード全国共通お食事
券」を商標登録している(登録番号5459425号)。
(以上につき甲30,31,乙5,8,9の1~4,
乙10の1及び2,乙17)
2争点
(1)不正競争防止法2条1項1号又は2号該当性(争点1)
ア「全国共通お食事券」の識別力の有無(争点1-1)
イ周知性(著名性)の有無(争点1-2)
ウ混同の有無(争点1-3)
(2)不正競争防止法2条1項13号該当性(争点2)
(3)不正競争防止法19条1項1号の適用除外の有無(争点3)
(4)被告商品の販売に係る違法性の有無(争点4)
(5)原告の損害額(争点5)
(6)差止めの成否(争点6)
3争点に関する当事者の主張
(1)不正競争防止法2条1項1号又は2号該当性(争点1)
ア「全国共通お食事券」の識別力の有無(争点1-1)
(原告の主張)
(ア)原告商品についての商品等表示(本件各商品等表示)は,①「ジェ
フグルメカード全国共通お食事券」(甲3の1枚目,甲6,甲17の
2の2枚目),②「全国共通お食事券」(甲3の4枚目,甲14,甲1
5の2,甲17の1の2枚目,甲25,甲26の1,2),③「全国共
通お食事券ジェフグルメカード」(甲3の1~3枚目,甲8,甲12,
甲16,甲17の3の2枚目,甲17の4の2枚目,甲18の1の2枚
目,甲18の2の1枚目,甲18の3の1枚目,甲18の4の1枚目,
甲18の5の1枚目,甲18の6の2枚目,甲27)である。
「ジェフグルメカード」が識別力をもつことはもちろんであるが,
「全国共通お食事券」も,字義及び使用実績などから,それ自体で識別
力を有すると解する。
なお,本件訴訟で問題になっているのは,商標法上の商標ではなく,
不正競争防止法上の商品等表示なので,本件各商品等表示が原告商品に
ついての表示であるといえるのであれば,これ以上,字体,図形,記号,
色彩等をもって原告が主張する商品等表示を限定する必要はないと解す
る。
(イ)「ジェフグルメカード」の表示が原告商品についての商品等表示と
して識別力をもつことはいうまでもない。「全国共通お食事券」の表示
も,原告商品についての商品等表示として識別力を有しているというこ
とができる。その理由は,次のとおりである。
a「全国共通お食事券」は,「全国」,「共通」,「お食事券」の三
つの言葉が結合することによって,単語の集合を超えて全体でそれ特
有の印象を与えるに至っている。
すなわち,そのキーとなる言葉は「共通」であるが,「共通」とは,
「どれにもあてはまること」とある(小学館・大辞泉)。そのため,
「共通」が食事券に用いられることによって,それが汎用性に富むと
いう印象を与える。時期によって使えなくなるとか,同一ブランドで
使えない店があるとか,使えない種類の食事があるとかいうことは少
ないという印象を与える。
また,「お食事券」は,単に「食事券」に「お」を付けただけの丁
寧語ではない。そこには,「食事券」の事務的な響きとは異なって,
家庭的な食事サービスが受けられそうな響きがある。
以上により,「全国共通お食事券」は,その言葉自体から,「全国
的に通用する,使える時期・店舗・種類等において汎用性があり,家
庭的な食事サービスが受けられる食事券」という印象を与えるもので
ある。
b加えて,原告は,「全国共通お食事券」に,一定の品質を保証する
意味をもたせて,その周知に努めてきた。すなわち,この表示によっ
て,消費者の利便性を最大限に尊重するという観点から,「いつでも,
どこでも,何にでも」をスローガンとして,①有効期限を設けない,
②同一ブランドであればどこの店でも使える,③食事の種類による使
用制限がないことを保証しているのである。
c原告は,平成4年以降合計1億5000万枚以上の原告商品を発
行・販売し,現在それが使用可能なブランドは1000以上,加盟店
舗数は全国で約3万5000店にのぼっているが(甲9の4頁,同7
頁,甲39),その間一貫して,原告商品の発行・販売について「全
国共通お食事券」の表示又はそれを含む表示(本件各商品等表示)を
使用してきた。そして,原告商品は,平成4年以来平成23年9月こ
ろ被告商品が発行されるまでの19年間,我が国唯一の「全国共通お
食事券」を名乗る食事券であった。
dこの19年間に,「全国共通お食事券」の表示のもつ上記のような
品質保証の意味は取引者,消費者の間に完全に定着してきた。
被告は,一般名詞や普通名詞の組合せであるがゆえに「普通名称」
であると主張するが,主張の前提自体が誤っている。
19年間に,「全国共通お食事券」の名称は,それが有する品質保
証の意味と合わせて,原告商品の名称として取引者,消費者の間に完
全に定着してきたものであり,「全国共通お食事券」の名称が一般名
詞や普通名詞の組合せであるからといって,普通名称と判断されるべ
きものではない。
e原告の「全国共通お食事券」の事業は,いわば外食業界の総意とし
て実施されてきたものであり,その事業展開振りは,事業開始の時点,
その後の時点時点においてマスコミで大きく報道され,テレビ番組,
雑誌記事等でも紹介され,エコポイントの対象に選ばれるなどし,こ
れらの出来事に加えて店舗での表示,広告などもあって社会に広く知
られてきた。
f被告は,「全国共通お食事券」の名称を普通名称にすぎないと強弁
して原告の営業上の信用が化体している事実をあえて無視し,被告の
名称「ぐるなびギフトカード全国共通お食事券」に付したほか,あた
かも原告商品が存在しないかのように,被告のハウスマークにあたる
「ぐるなび」の表示すら含まない独立した「全国共通お食事券」の表
示を自社のホームページなどで被告商品あるいはポイントの利用券と
してほしいままに使用しており,「全国共通お食事券」の識別力から
生じる原告の信用にただ乗りしてこれを利用し,その反面原告の信用
を減殺させる意図の下に営業活動を行っていることは明らかである。
(被告の主張)
(ア)一般に,ある商品等表示が不正競争防止法2条1項1号及び2号に
いう他人の商品等表示と同一又は類似のものに当たるか否かは,取引の
実情の下において,取引者又は需要者が両表示の外観,称呼又は観念に
基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取
るおそれがあるか否かを基準として判断される(類似性判断について,
最判昭和58年10月7日民集37巻8号1082頁,最判昭和59年
5月29日民集38巻7号920頁)。すなわち,同一又は類似といえ
るかどうかの判断にあたっては,両者の商品等表示の構成要素を個別に
分断して分析的に判断するのではなく,表示全体を対象とし,かつ,両
者の商品に触れる一般の取引者又は需要者の注意力・観察力等を基準と
して判断する必要がある。
しかし,原告の主張においては,そもそも原告商品についてのいずれ
の表示と,被告商品についてのいずれの表示を具体的に比較するものか
が明らかにされていない。のみならず,両者の商品に触れる一般の取引
者又は需要者がどのような者であり,これらの者によるどのような取引
の状況を想定しているのかも明らかにされていない。そのため,原告の
主張は,いかなる「取引の実情の下」での類似性を主張するものかが何
ら述べていないものであって,この点においても,その主張は著しく不
明確である。
以上の諸点から,原告の主張はそもそも主張自体失当である。
(イ)「全国共通お食事券」という表示は,その字義どおり,「全国の取
扱店で共通に利用できる,食事をするための券」という程度の意味合い
を需要者に認識させるにすぎず,単に普通名詞のありふれた組み合わせ
によって,サービスの抽象的な質等を普通に用いられる方法で表示する
ものにすぎない。
そして,外食業界においては,「お食事券」という表現が無数に用い
られており(乙4),「共通お食事券」という表現も,以下に例示する
とおり,ごく一般的に通用している。
名称名称名称名称利用業態利用業態利用業態利用業態発行発行発行発行のののの主体主体主体主体
ワタミグループ共通お食事券外食提供ワタミフードサービス株式会社
壱番屋グループ共通お食事券外食提供株式会社壱番屋
三ッ星共通お食事券外食提供株式会社三ッ星レストランシス
テム
ルートイングループ共通お食事

外食提供ルートインジャパン株式会社
アークホテル共通お食事券外食提供株式会社アークホテル
また,その他の業界も含めると,以下のとおり,「全国共通●●券」,
「全国共通●●カード」等という同種の用法は,ごく一般的に通用して
いる。
名称名称名称名称利用業態利用業態利用業態利用業態発行発行発行発行のののの主体主体主体主体
全国共通すし券共通食事券外食提供全国すし商生活衛生同業組合連
合会
全国共通おこめ券米穀販売全国米穀販売事業共済協同組合
全国百貨店共通商品券百貨店日本百貨店協会
全国共通フラワーギフトカー

生花販売株式会社日比谷花壇
株式会社イーフローラ
全国共通ゆうえんち券レジャー提供株式会社文化放送開発センター
全国共通たまごギフト券卵販売全国たまご商業協同組合
全国共通文具券文具販売日本文具振興株式会社
全国共通スポーツ券スポーツ施設提供日本スポーツ券株式会社
このように,「お食事券」,「共通お食事券」,「全国共通●●券」,
「全国共通●●カード」という用法は,ごく一般的に通用していること
は明らかである。
よって,「全国共通お食事券」という表示には,サービスの抽象的な
質等を普通に用いられる方法で表示することを超えて,自他識別機能又
は出所表示機能が備わることはない。
(ウ)原告は,平成23年10月13日付で「全国共通お食事券」という
表示につき商標登録出願(商願2011-073101)を行ったが
(乙3),特許庁は,平成24年6月11日付けで,拒絶査定をした
(商標法3条1項3号。乙4)。
特許庁は,同査定において,まず,「全国共通」の文字は「全国に共
通して用いられる(利用できる)」の意味を有するものであり,「お食
事券」の文字は,「指定された飲食店で,券面に記載されている金額分
を利用できる金券」の意味を有する語として,それぞれ普通に使用され
ているという飲食業界の実態に言及している。そして,「全国共通お食
事券」の標章は「全国共通の取扱店で利用できるお食事券」ほどの意味
合いを容易に理解,認識させるにすぎず,これに接する取引者,需要者
は,単に役務の質を表示したものと理解するにとどまり,自他役務の識
別標識としては認識し得ない,と指摘している。また,同査定は,約2
0年の継続使用により全国的に周知著名となったという原告からの反論
を排斥し,「全国共通お食事券」の文字部分のみが単独で,取引者,需
要者の間において原告の役務を表示するものとして広く認識されている
とまで認めることはできないとし,「全国共通お食事券」の原告役務を
表す表示としての周知・著名性をも否定している。
(エ)原告による「全国共通お食事券」の表示態様をみると,これを単独
で使用するのではなく,むしろ「ジェフグルメカード」等の文字と併せ
て表記してきたことが窺われる。
例えば,原告商品の券面(甲20)をみると,以下のとおり,表面で
は「ジェフグルメカード」の文字が3箇所に現れる一方で,「全国共通
お食事券」は「ジェフグルメカード」の下に,それよりも小さな文字
(しかも,字体等の外観には何の特徴もない。)でわずか1箇所のみに
記載されているに留まっている。また,裏面に至っては「ジェフグルメ
カード」が4箇所に現れる一方,「全国共通お食事券」の表示は一切存
在しない。
そうすると,原告商品に接した需要者は,上記のような「全国共通お
食事券」の使用態様からしても,「全国共通お食事券」という表示のみ
によって,その出所が原告であると認識することはなく,むしろ「ジェ
フグルメカード」という表示に着目して,その出所が原告であることを
認識することになるのである。
このように,原告商品の外観は,①「全国共通お食事券」の部分がそ
れ単独では自他識別機能又は出所表示機能を備えていないこと,②仮に
「ジェフグルメカード全国共通お食事券」の全体が商品等表示に該当
するとしても,そのうちの「全国共通お食事券」の部分のみが単独で要
部とはなり得ないこと(自他識別機能又は出所表示機能を発揮する部分
でないこと)を,それぞれ端的に示している。
(オ)以上のとおり,「全国共通お食事券」は自他識別機能又は出所表示
機能を備えておらず,不正競争防止法2条1項1号及び2号の「商品等
表示」に該当しないことは明らかである。また,「全国共通お食事券」
の部分のみが単独で要部とはなり得ないこと(自他識別機能又は出所表
示機能を発揮する部分でないこと)は明らかである。
イ周知性(著名性)の有無(争点1-2)
(原告の主張)
上記ア(原告の主張)のとおり,本件各商品等表示の使用状況,取引者,
消費者の認識状況等に照らすと,本件各商品等表示が原告商品についての
表示であることは需要者の間に広く知られていると認められる。
このことは,原告商品が,既に平成10年7月の時点で「NICOSGIFT
CARD」や「UCギフトカード」と拮抗する程度に達しており,プレゼント
希望でも「NICOSGIFTCARD」を上回る希望者を得ており,高い認知度を
得て人気を博していることからも明らかである(甲22)。
また,原告商品における「全国共通お食事券」の名称については,原告
が莫大な経費を投じた広告宣伝活動(例えば,甲17,18,23,24,
106,107。原告発足から5年間の広告宣伝費名目での支出を合計し
たのみでも4億3500万円を超える。)を実施し,原告商品の名称とし
て長期にわたり使用を継続してきたという実態に照らし,原告の信用もよ
り強く化体されるに至っている。
原告商品の発行・販売事業は,当初から全国を視野に入れて全国規模で
実施されてきたこと等に照らすと,上記の周知状況からみて,実際には,
本件各商品等表示は周知を超えて著名な状態になっているということも可
能である。
(被告の主張)
原告は,原告商品の加盟店数は約3万5000店舗にのぼることを主張
する。しかし,仮にこの数字が正しいとしても,それが全国の飲食店の合
計数(総務省統計局の平成21年経済センサスによれば,約67万店舗で
ある〔乙14〕。このうち被告サイトで検索可能な店舗数が約50万店舗
に達する。)のうちに占める割合は,わずか約5%という微々たるものに
すぎない。
また,最大手チェーンが加盟していないケースがあるなど,相当の欠落
があることが一見して明白である。幾つか代表的な例を挙げるだけでも,
①ファーストフード店については,モスバーガー及びKFCは含まれてい
るが,店舗数で他を圧倒するマクドナルドが含まれておらず,②すし店に
ついては,国内店舗数トップスリーであるかっぱ寿司,スシロー,無添く
ら寿司はいずれも挙げられておらず,③オリジン弁当のような持ち帰り弁
当についても,国内店舗数トップスリーであるほっともっと,ほっかほっ
か亭,本家かまどやはいずれも挙げられていない。
このように,本件各商品等表示が周知著名であることは基礎付けられな
い。
ウ混同の有無(争点1-3)
(原告の主張)
原告は,「全国共通お食事券」の名称を掲げる後発の被告商品が,先行
する周知著名な原告商品と取り違えて利用される事態を防止すべく,加盟
者に文書をもって注意を呼びかけるなどの防止措置を講じ(甲48),原
告商品の加盟者においても,本社から各店舗に原告商品と被告商品の類似
性から混同事例の発生が危惧されるとして,それぞれ各店舗に注意を呼び
かける社内文書の発出などの独自の対応策を講じた(甲74~78)。
それにもかかわらず,現実に原告商品と被告商品とを取り違えた需要者
が出現し(甲21の5頁),実際に原告の加盟店舗において,被告商品を
原告商品と取り違えて受領したという事例が発生した(甲49の1及び2,
甲63,65,66,79,80)。これらの事例における原告の加盟店
舗は,被告商品の取扱店舗ではなかったのであり,このことからすれば,
当該利用者が「全国共通お食事券」部分の表示をもって被告商品と原告商
品とを完全に混同したまま,原告商品として被告商品を利用したことが容
易に推測されるのである。今後,東証一部上場企業であり,自ら極めて高
い知名度を有するという「ぐるなび」をハウスマークとする被告が「全国
共通お食事券」を標ぼうする被告商品の販売を継続し,その流通量が増大
するならば,かかる混同・混乱事例が多発することは明らかなのである。
また,両商品のインターネット上の掲示状況をみると,両者の「全国共
通お食事券」のサービス内容の相違が全く分からず(例えば甲37),今
後購入等の際にも混同・混乱がさらに増えることは容易に想像できる。
(被告の主張)
(ア)被告商品において識別性を有している部分はあくまで「ぐるなびギ
フトカード」であって,「全国共通お食事券」は単にサービスの質等を
普通に用いられる方法で記述的に説明する部分にすぎないから,当該部
分は,被告の商品等表示にも該当しない。そのため,被告が被告商品中
に「全国共通お食事券」と表示していたとしても,原告商品の「商品等
表示」と同一又は類似の「商品等表示」を使用していることにはならな
い。
原告主張に係る表示のうち,「ジェフグルメカード全国共通お食事
券」については,仮にその全体が商品等表示に該当するとしても,その
うちの「全国共通お食事券」という部分が単独で要部とならないから,
「ジェフグルメカード全国共通お食事券」の全体が一連の識別表示と
して認識されるか,あるいは「ジェフグルメカード」の部分が要部とし
て認識されるかのいずれかである。いずれの場合であっても,被告商品
の「ぐるなびギフトカード全国共通お食事券」という表示とは外観,
称呼,観念のいずれにおいても非類似であることが明らかである。
(イ)原告商品と被告商品のコンセプトが大きく異なり,その結果として
重複する加盟店舗が著しく少ない。被告商品は,原告商品とは異なり,
プレミアムな高級店から個性的な個人経営店に至るまでバラエティ豊か
な飲食店を加盟対象とするものであるし,券面の種類やデザインにも独
自の工夫が施されている。需要者が,原告商品と被告商品とを取り違え
たり関連付けたりする可能性は皆無である。
被告商品の加盟店において,原告商品を被告商品と取り違えて受領さ
れたような事例はこれまで一切報告されていないし,そのような混同に
ついて苦情がなされたこともない。一方,原告従業員の陳述書(甲2
1)が「混同・混乱事例が多発することが強く危惧され」ることの根拠
として挙げるのは,原告自身が調査のために直接電話をした「乃の木
新宿店」とのやり取りのみである。そして,現実に混同事例が発生した
ことについては,何ら証拠が提出されていないのである。
(2)不正競争防止法2条1項13号該当性(争点2)
(原告の主張)
本件各商品等表示における「全国共通お食事券」の表示は,①有効期限を
設けない,②同一ブランドであればどこの店でも使える,③食事の種類によ
る使用制限がないことを表示してこれを保証しているのである。そして,
「全国共通お食事券」の表示のもつこのような品質保証の意味は,取引者,
消費者の間に完全に定着してきた。
ところが,被告商品は,全く同じ「全国共通お食事券」と表示しながら,
①有効期限は3年しかなく,②同一ブランドでも,店舗ごとに取扱いが異な
っており,使えない店舗が少なくなく,また,③「ランチでの利用不可」な
ど食事の種類などによって使えないものあるなど,利用に大きな制限がある。
このような利用制限は,原告の「全国共通お食事券」事業の根本コンセプト
及び需要家の認識に反するものであり,食事券の品質としては,原告商品に
明らかに劣るものである。
そうすると,需要家としては,被告商品の「全国共通お食事券」という表
示によって,原告商品と同じ品質があるものと誤認してこれを購入し使用す
るおそれが多分にあるといわなければならない。
不正競争防止法2条1項13号にいう「誤認させるような表示」は「誤認
させた」事実の存在を要せず,当該表示そのものから客観的に誤認を生じさ
せるに足りるものであればよいとされているが,被告の表示は,このおそれ
の強いものである。
(被告の主張)
そもそも「全国共通」の表現には,せいぜい「全国の取扱店で共通に利用
できる」といった程度の意味合いしかないし,「全国」や「共通」の文言は,
何らかの具体的な数値等を示す表現とは異なり,様々な幅のある解釈があり
うる極めて抽象的な表現である。また,様々な業種において,様々なギフト
カード類(当然のことながら,加盟店数の多寡・範囲や使用条件等はそれぞ
れ全く異なっている〔乙11〕。)の名称に「全国共通」の文言が使用され
ているという実態も,「全国共通」が,抽象的かつ広範な解釈を許す表現で
あることを裏付けている。
これに対し,原告は,あたかも原告商品の特定のコンセプトに基づく原告
の主観的な「全国共通」の価値観こそが全てであるかのように,「全国共
通」の具体的な意味内容を主張する。しかし,不正競争防止法2条1項13
号の該当性を論じるにあたっては,あくまで需要者が商品の品質等を誤認す
るかどうかが問われるべきである。そして,原告の主観的な価値観からはみ
出したものが,すべて需要者からみて「全国共通」に値しないなどといった
解釈が許されるはずもない。
(3)不正競争防止法19条1項1号の適用除外の有無(争点3)
(被告の主張)
不正競争法防止法19条1項1号は,事業者の行為が同法2条1項1号,
2号及び13号に掲げる不正競争に該当する場合であっても,当該行為が商
品等の普通名称,又は同一・類似の商品等について慣用されている商品等表
示を,普通に用いられる方法で使用し又は表示するものである場合に,差止
請求権を定める同法3条や損害賠償請求権を定める同法4条等の規定を排除
する。
この点,「全国共通お食事券」という表示は,その字義からして,「全国
の取扱店で共通に利用できる,食事をするための券」という程度の意味合い
を需要者に認識させるにすぎず,単に普通名詞のありふれた組み合わせによ
って,サービスの質等を普通に用いられる方法で表示するものにすぎない。
そして,被告は,「全国共通お食事券」という表示が付された被告商品を,
まさに「食事をするための券」として販売しているのである。
そのため,被告商品における「全国共通お食事券」の表示が,商品の普通
名称,又は慣用されている表示を,普通に用いられる方法で使用し又は表示
するものであることは明らかである。
よって,不正競争防止法19条1項1号の観点からも,原告の請求権は否
定される。
(原告の主張)
慣用表示とは,商標法上の商標のとらえ方を参照すれば,例えば,清酒に
ついての「正宗」,餅菓子についての「羽二重餅」のように,同種類の商品
又は役務について取引者間において普通に使用されるに至った結果,自己の
商品又は役務と他人の商品又は役務とを識別することができなくなった表示
を指すものである(甲43参照)。19年間にわたり原告商品が「全国共通
お食事券」の表示を独占的に使用して合計1億5000万枚以上が発行・販
売されたことから,「全国共通お食事券」という表示について,取引者間に
おいて慣用表示と認めるべき状況は認められない。
したがって,「全国共通お食事券」という表示が「慣用表示」に当たると
の主張は失当である。
(4)被告商品の販売に係る違法性の有無(争点4)
(原告の主張)
ア被告商品の発行・販売は,その態様が,原告商品のデッドコピーとして
いわゆる隷属的模倣ともいうべきものであり,また,その意図は,原告の
「全国共通お食事券」について希釈化等させてそこに化体した原告の信用,
それに基づく営業上の利益を低下させ,それによって自己が競争上有利な
立場に立つことにあると考えるほかないものであることに照らし,その違
法性は強いものである。仮に不正競争防止法に掲げている不正競争に当た
らない場合には,当然民法上の不法行為と認められるべきものである。
イ被告商品は,原告商品と同様,資金決済に関する法律(以下「資金決済
法」という。)にいう「前払式支払手段」として登録し(同法7条),所
定の表示(同法13条),発行保証金の供託(同法14条),報告書の提
出(同法23条)など,各種の行政規制を受けている。
前払式支払手段とは,「記録される金額に応ずる対価を得て発行される
証票等」(同法3条1項1号)と定義され,対価の支払による発行を要件
としているから,商店で販促等のために対価なしで付与されるいわゆるポ
イントは前払式支払手段ではない(甲67)。ところで,被告商品のビジ
ネスモデルにおいては,来店や予約等の都度「ぐるなびタッチ」(来店時
にスマートフォン等を読み取り機にかざすなどして「チェックイン」する
こと〔甲68〕。)を通じてスマートフォン等に貯まるポイントの使い途
として,「ぐるなび全国共通お食事券サービス」という上位概念のサー
ビス名の下に,2本の柱のように「ポイント利用券」と「被告商品」とい
う二つのサービスを,あたかも両者とも前払式支払手段であるかのごとく
並立させているのである(甲69)。この表れとして,被告サイトでは
「ポイント利用券を使える店」即「全国共通お食事券取扱店」として記載
されている(甲33)。しかし,このポイント利用券がいわゆるポイント
を表象したもので,前払式支払手段に当たらないことは明らかであるし,
ポイントと交換される被告商品も,対価を得て発行されたものでないから,
前払式支払手段とはいえない。
ということは,被告商品は,表向きは一般的なギフトカードのような体
裁をとっているが(乙8,乙9の1~4),上記の生い立ちからみて,そ
の主たる実質は,前払式支払手段の形を借りた,店舗の集客に主眼を置い
た販促手段とみざるを得ないのである。このことは,被告のお食事券サー
ビス事業の開始に当たっての営業関係者等に対する説明資料(甲69)に
「『ポイントご利用券』を利用するぐるなび会員に加え,ぐるなび会員以
外の方も利用できる『ぐるなびギフトカード』のサービス開始により,貴
店へのさらなる集客をサポートします。」と明記され,また,加盟店向け
の「ぐるなび全国共通お食事券サービスサービスガイド」(甲30)の
表紙に「ぐるなびギフトカード・ポイントご利用券を持ってお客様があな
たのお店にやってくる」と大書されていることから明らかである。さらに,
被告商品は,実際には,それをもった営業関係者が自ら来店することによ
って集客増に寄与するという態様の営業用として使われていることが多い
ともいわれていること(甲70の7頁)に,被告商品の実質が如実に表れ
ている。
以上のように,前払式支払手段とはいえない証票等を前払式支払手段と
して通用させることは,資金決済法に抵触することになり,その結果,前
払式支払手段に対する規制に粗漏が生じ,資金決済システムを乱し,ひい
ては同法の目的である「利用者等の保護」(同法1条)に欠ける事態が生
じるおそれがある。
ウ原告は,被告商品について,原告商品と比べると,①短い有効期間が設
けられていること,②使用可を標榜している全国的展開の同一ブランドで
も使用できない店舗が多いこと,③使用可能店舗でも各種の使用制限があ
ることの3点において品質が著しく劣っており,それにもかかわらず原告
と同じ「全国共通お食事券」の表示を使用することは,品質等誤認惹起行
為である旨主張しているが,この中で特に,使用可を標榜する同一ブラン
ドの半数を超える店舗で使用できないブランドについて「全国共通お食事
券」を標榜すること(甲21の3頁及び別紙1参照)は,一般消費者に全
店舗あるいは大部分の店舗で使用できるものと誤認させるものであって,
不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」という。)4条1項1号
の不当表示に当たるというべきである。
エ被告は,被告商品の販売に関して,次のような社会的に是認できない不
適切行為を行っている。
(ア)被告は,「全国共通お食事券」には識別力がないといいながら,自
らは「全国共通お食事券」を単独で使用しており,仮に当該頁のどこか
に「ぐるなび」の文字があっても(甲32,甲44,甲45等),「全
国共通お食事券」から遠く離れたところにわざわざ小さい文字で目立た
ないように記載している。被告が本当に「全国共通お食事券」に識別力
がないと考えているのであれば,通常の企業人であれば,「ぐるなび」
の「全国共通お食事券」であるという自社との結び付きを強調する記載
にするはずであるが,自己の情報発信力を過信する被告は,今後上記の
ような「全国共通お食事券」の記載を続けていけば,いずれ自らのそれ
であるという識別力を獲得するに至ると考えていることは間違いない。
つまり,被告は,意図的に消費者,利用者間に「全国共通お食事券」の
識別について混同・混乱を生じさせて,その状況に乗じて事を自己に有
利に運ぼうとしていると考えられるのである。これは,消費者,利用者
の利益を犠牲にして被告という一企業の利益を図るもので,社会的実在
の企業として到底許されることではない。
(イ)ぐるなびの無料サイトに掲載されている店舗数は約50万店という
が,サイトへの掲載は当該店舗の案内になるので,その掲載自体には異
存はほとんどないと考えられる。そこからどうやって有料の販促等サー
ビスに係る契約にもっていけるかが,総勢約1000名といわれている
被告の営業関係者が日々努力しているところであろう。本件に即してい
えば,まず,いわば敷居の低いポイント利用券取扱店になることを勧め
る。この取扱いは,「ぐるなびスーパー『ぐ』ポイント」として,平成
23年4月1日から始まった。ところが,その半年後の同年9月15日
から被告商品の取扱いを開始し,しかも,「ポイントご利用券」と「被
告商品」との抱き合わせ取扱いでなければ認めないとして(甲30の中
の平成23年8月末日付け「重要なお知らせ」と題する文書),ポイン
ト利用券取扱店をいわば強圧的に被告商品の取扱店に取り込んでしまっ
たと推測される。そしてその1年2,3か月後,今度は,極めて唐突に
一方的にポイントと被告商品との交換を打ち切ると宣言した。
被告が,ポイントの取扱いについて,店舗に対してこのように一方的
で強圧的な対応をすることを可能にしているのは,被告が飲食店に関す
る圧倒的な情報発信力を過信しているからにほかならない。このような
一方的で強圧的な対応は,優越的地位の濫用や抱き合わせ販売等にも相
当するような権限濫用行為であり,社会的に到底是認できるものではな
い。
(ウ)以上を総合すると,被告商品の販売における被告の狙いは,次のよ
うなものであるとみられる。
識別力がないと主張しながら,あえて「全国共通お食事券」を単独で
あるいはそれに近い形で被告サイトや営業の場面等で使用し続けること
によって,「全国共通お食事券」の識別について原告商品との混同・混
乱を生じさせる。次いで,被告の強大な情報発信力の下で,徐々に「全
国共通お食事券」といえば被告商品であるという識別力が生じる。そう
すると,「全国共通お食事券」に表象されていると考えられる品質が劣
化する。こうして,原告の「全国共通お食事券」も被告商品同様に劣化
した品質のものとしてみられるようになる。結果,原告商品の社会的信
用が低下して通用力を失い,外食業者でない被告が食事券市場ひいては
外食業界を席巻することを狙うことができる。
このような被告の行為は,企業間の自由競争の範囲を超えた社会的に
是認できない行為であり,原告に対する不法行為を構成する。
(被告の主張)
ア不正競争防止法は,不正競争の類型を詳細に規定することにより,不正
競争行為に該当するものの範囲,限界を明らかにしている。そのため,同
法所定の不正競争に該当しない行為は,同法が規律の対象とする不正競争
の防止による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段
の事情がない限り,不法行為を構成するものではない(最判平成23年1
2月8日民集65巻9号3275頁参照)。そして,本件においては,当
該特段の事情は存在しない。
イ原告は,前払式支払手段とはいえない証票等(「ポイントご利用券」,
又はポイントにより購入された被告商品)を前払式支払手段として通用さ
せることが資金決済法に違反していると主張するようである。
しかし,被告は,ポイントご利用券を前払式支払手段として通用させた
ことなど全くないし,そのような証拠も原告から一切提出されていない
(そもそも,被告のように第三者型前払式支払手段発行者となるためには
登録が必要であるところ,被告はその登録申請の際,ポイントご利用券を
被告の発行に係る前払式支払手段に含めていない。)。また,被告は,ポ
イントにより購入された被告商品を,金銭を対価として購入される被告商
品と区別せず一律に取り扱っているが,この場合,被告商品全部が前払式
支払手段に該当するものとして取り扱われるのが,実務上定着した取り扱
いである(甲88参照)。
ウ原告は,同一ブランドの中でも使用できない店舗の数が多いブランドに
ついて「全国共通お食事券」を標榜することが,景表法4条1項1号の優
良誤認表示に該当すると主張する。
しかし,同一ブランドのうち「全店舗あるいは大部分の店舗で使用でき
る」という点が原告の主観的な価値観にすぎず,「全国共通」の表示がこ
のようなコンセプトを表象しているものではない。原告の主張は,不正競
争防止法2条1項13号(品質等誤認)に関する主張の実質的な繰り返し
にすぎない。
エ原告は,被告サービスへの掲載店舗に対する被告の行為が,優越的地位
の濫用又は抱き合わせ販売等に該当すると主張するようである。しかし,
原告の主張によっても,被告の行為が,如何なる点において優越的地位の
濫用の要件及び抱き合わせ販売等に該当するかは全く明らかでない。
原告は,被告に「不当な狙い」があるなどと主張するが,これも何ら根
拠のない邪推にすぎない。
(5)原告の損害額(争点5)
(原告の主張)
原告は,外食産業界初の取り組みとして全国どこでも使える共通食事券の
発行を目的として平成4年に設立され,以来,原告商品の普及促進に努めて
きたものである。原告の広告宣伝活動を含めた営業活動の結果,原告商品の
発行枚数及び加盟店は順次拡大し,消費者における知名度も上昇し,全国の
多数の飲食店で「いつでも,どこでも,何にでも」使える文字通りの「全国
共通お食事券」として消費者から高い信頼を得るに至っていたのである。こ
のため,原告が「全国共通お食事券」の名称を使用開始した平成4年から被
告商品の発売までの19年間「全国共通お食事券」の名称を唯一無二のものと
して使用して,毎年発行枚数を伸ばして累積総発行枚数は約1億4413万
枚(平成24年3月現在)にも上っている。
ところが,被告は,このような原告によって築かれた「全国共通お食事
券」に対する信用にただ乗りしてこれを減殺する意図の下に,原告商品と同
様に「全国共通お食事券」たる実質を備えないのを認識しながら,あえて被
告商品に,紛らわしい「ぐるなびギフトカード全国共通お食事券」の名称
を付して,完全に原告を模倣した形態で販売を開始したのである。
その結果,被告商品の発行・販売等により,これまで原告が多大の費用と
労力をかけて長年にわたって築いてきた「全国共通お食事券」に化体した原
告の信用,さらには当該信用を前提とする原告の営業上の利益が侵害され,
ひいては消費者の利益を害する事態となっているのである。
以上のような被告の被告商品の発行・販売等による侵害行為は,不正競争
防止法2条1項1号あるいは2号の著名表示冒用行為あるいは混同惹起行為,
同項13号の品質誤認惹起行為に該当するか,これらに明確に該当するとい
えないとしてもそれらの不正競争行為に類する行為(不法行為)であること
は明らかである。
原告商品と被告商品の発行・販売実績,原告が原告商品を周知化するため
に投下した費用,両者における消費者の利便の相違,「全国共通お食事券」
という名称の社会的意義,原告商品加盟店における混同・混乱の状況等を総
合勘案すると,原告の信用毀損ないし営業上の利益の侵害によって原告に生
じた損害は,それを金銭的に評価すれば,少なくとも1000万円を下らな
いというべきである。
(被告の主張)
原告の主張は否認ないし争う。
(6)差止めの成否(争点6)
(原告の主張)
被告商品における「全国共通お食事券」の名称使用が続けられる限り,原告
の信用毀損ないし営業上の利益の侵害が日々継続し,継続することにより原
告に生じる信用毀損ないし営業上の利益の侵害は拡大することになる。この
ため,事後的な損害賠償の手段のみでは,原告に回復の困難な重大な損害が
発生することは明らかである。
また,原告の信用ないし営業上の利益は,日本フードサービス協会が外食
産業界と連携して実現化した原告商品という原告にとって唯一無二の商品の
中核的利益に関わるものであり,その理念が「全国共通お食事券」との名称に
化体したものとして明確に認識できるものである。他方,被告は一部上場企
業でありながら,あえて原告商品と全く同一の「全国共通お食事券」の名称を
選択し,品質の低い被告商品及びポイントご利用券からなる商品を原告商品
と同一の名称を用いて,「全国共通お食事券サービス」などとして大々的に
宣伝するなどの挙に出ており,長年にわたって築かれた原告の信用にただ乗
りしてこれを利用し,その反面原告の信用を減殺させるという不当な意図の
下にあえて侵害行為を行っているものとみざるを得ず,その違法性の程度は
高いものである。
被告の侵害行為は,不正競争防止法2条1項1号あるいは2号の著名表示
冒用行為あるいは混同惹起行為,同項13号の品質誤認惹起行為に該当する
か,明確に該当するといえないとしてそれらの不正競争行為に類する行為で
あるところ,後者の「不正競争行為に類する行為」である場合にも,被告の
上記侵害行為による原告の信用毀損ないし営業上の利益の侵害は,通常の企
業間の自由競争での営業活動における受忍の限度を超えて違法とみるべきも
のであるから,その差止め請求は是認されるべきである。
(被告の主張)
原告の主張は否認ないし争う。
第3当裁判所の判断
1不正競争防止法2条1項1号又は2号該当性(争点1)について
原告は,本件各商品等表示を文字標章として特定するので,それに沿って検
討する。
(1)「全国共通お食事券」の識別力の有無(争点1-1)について
アまず,原告の商品等表示として,単独で「全国共通お食事券」の表示が
使用されているかについて検討する。
(ア)原告商品の外観,記載内容は別紙原告商品記載のとおりである(前
提事実(2))。
原告商品には,表面上部に「ジェフグルメカード」との記載とその下
にポイントを小さくして「全国共通お食事券」との記載,表面中央部の
図形標章(「gourmetcard」の文字を図形化して色彩を付
したもの〔甲5に色彩を付したものと解される。〕)の下に「ジェフグ
ルメカード」との記載,裏面に「ジェフグルメカードの使用について」
として使用における注意書きの記載がある。
以上に照らすと,原告商品には,文字標章として「ジェフグルメカー
ド全国共通お食事券」の表示あるいは「ジェフグルメカード」の表示
が使用されていると認められるが,単独で「全国共通お食事券」の表示
が使用されているとは認められない。
(イ)また,原告加盟店ステッカーは,別紙原告加盟店ステッカー記載の
とおりである(前提事実(2))。
原告加盟店ステッカーは,楕円形のもので赤線の外枠で囲まれ,その
上部に図形標章(「gourmetcard」の文字を図形化して色
彩を付したもの〔甲5に色彩を付したものと解される。〕),その中央
部に赤の背景に白抜きの文字で「全国共通お食事券」の記載,その下部
に白の背景に赤色の文字で「ジェフグルメカード」「加盟店」(二段組
みで「全国共通お食事券」よりもポイントの小さい文字)の記載がある。
以上のとおり,原告加盟店ステッカーには,その中央部に「全国共通
お食事券」の記載があるが,赤線の外枠で囲まれた中に,図形標章,
「全国共通お食事券」の記載,「ジェフグルメカード」「加盟店」の記
載があることに照らすと,これらを一体として1つの表示とみるのが相
当である。
そうすると,原告加盟店ステッカーには,単独で「全国共通お食事
券」の表示が使用されているとは認められない。
(ウ)その他の証拠の記載も検討するに,多くは「ジェフグルメカード」
の記載とともに「全国共通お食事券」の記載がされているものである
(原告以外の第三者による記載も含む。甲3の1枚目,甲8の124頁,
甲16,17の2~4,甲18の1~6,甲23,24,27,28,
35の1,甲47,107,乙11,12の1,19)。
このなかには,「全国共通お食事券」の部分が「ジェフグルメカー
ド」よりも大きく記載されているもの(甲18の1,3及び6〔原告商
品の広告〕)もあるが,「全国共通お食事券」の部分よりも「ジェフグ
ルメカード」が大きく記載されているもの(甲3の1枚目〔原告作成の
リーフレット〕,甲18の2及び4,乙11〔原告商品の広告〕,乙1
9〔原告作成の加盟店リスト〕)もあり,単独で「全国共通お食事券」
の表示が使用されているとは認められない。
(エ)他方で,①単独で「全国共通お食事券」の記載がされているもの
(甲17の1,甲25,甲91),②単独で「ゼンコクキヨウツウオシ
ヨクジケン」(甲26の1及び2),③文章中に「全国共通お食事券」
の記載が強調されているもの(甲106)がある。
しかしながら,①のうち,甲17号証の1は,テレビ放映の画面であ
り,原告商品を映像の下部に「全国お食事券をプレゼント」と記載され
ているから,説明的な記載にすぎない。また,甲25号証は,原告の営
業報告書であり,「外食企業のブランド名を全面に押出した『全国共通
お食事券』のイメージ定着を狙いとする新聞,雑誌広告を実施しまし
た。」と記載されているから,内部的な資料である上に,説明的な記載
にすぎない。さらに,甲91号証は,年賀キャンペーンのご案内(作成
者は日本郵政公社)であり,そこで原告商品が賞品とされ,原告商品の
画像の左側に「A賞全国共通お食事券20,000円分1,00
0名さま」と記載されているから,説明的な記載にすぎない。
②は,原告商品の納品書であり,品名として「ゼンコクキヨウツウオ
シヨクジケン」と記載されているが,「全国共通お食事券」と記載され
ているものではない。③は,原告商品の広告であり,広告枠の中央部に
原告商品を,下部に原告加盟店ステッカーを記載した上で,原告加盟店
ステッカーの下部に「ウインターギフトには,北海道から沖縄まで,上
のマークの加盟店でご利用いただける全国共通お食事券『ジェフグルメ
カード』がおすすめです。」と記載したものであり,「全国共通お食事
券」の部分は前後の文章より大きいポイントを使用して強調した記載と
なっているが,そのすぐ下には「ジェフグルメカード」との記載がある
から,「全国共通お食事券」が単独で使用されているものとはいえない。
(オ)以上に照らすと,原告の商品等表示として単独で「全国共通お食事
券」の表示の使用があったとは認められないし,その他これを認めるに
足りる証拠はない。
イ続いて,原告の商品等表示として,「ジェフグルメカード全国共通お
食事券」,「全国共通お食事券ジェフグルメカード」の表示が使用され
ているかについて検討する。
証拠(甲3の1枚目〔原告商品券面の記載〕,甲17の2〔テレビ広
告〕,甲20〔原告商品券面〕,甲23〔エコポイント交換商品カタロ
グ〕)によれば,原告の商品等表示として「ジェフグルメカード全国共
通お食事券」の使用が認められる。
また,証拠(甲3の1枚目〔原告作成のリーフレット〕,甲8の124
頁〔日本フードサービス協会作成の書籍に記載の原告作成のステッカー〕,
甲16〔原告作成のスタンド〕,甲17の3,4〔テレビ広告〕,甲18
の1~6〔原告商品の広告〕,甲24〔NTTドコモのキャンペーン賞品
広告〕,甲27〔ちけっとぽーとホームページ〕,甲28〔小田急百貨店
ギフトカタログ〕,甲35の1〔ベネフィット・ステーションホームペー
ジ〕,甲47〔原告作成の加盟店リスト〕,甲107〔原告作成のマニュ
アル〕,乙11〔原告商品の広告〕,乙12の1〔原告のウェブサイト〕,
乙19〔原告作成の加盟店リスト〕)によれば,原告の商品等表示として
「全国共通お食事券ジェフグルメカード」の使用を認めるのが相当であ
る。
ウそこで,原告の商品等表示が「ジェフグルメカード全国共通お食事
券」,「全国共通お食事券ジェフグルメカード」であるとして,「全国
共通お食事券」の識別力の有無について検討する。
原告は,「ジェフグルメカード」の表示のみならず,「全国共通お食事
券」の表示も,原告の商品等表示として識別力を有している旨主張する。
しかしながら,「全国共通お食事券」のうち,「全国共通」は「全国に共
通して利用できる」程度の意味と解されるし,「お食事券」も「食事に利
用できる金券」程度の意味と解されるから,「全国共通お食事券」は,
「全国に共通して食事に利用できる金券」程度の意味であり,単に商品役
務の内容や質を表示したものにすぎない。
この点について,原告は,「全国」,「共通」,「お食事券」の三つの
言葉が結合することによって,単語の集合を超えて「全国的に通用する,
使える時期・店舗・種類等において汎用性があり,家庭的な食事サービス
が受けられる食事券」という印象を与え,また,原告が原告商品について
した品質保証の内容である,①有効期限を設けない,②同一のブランドで
あればどこの店でも使える,③食事の種類による使用制限がないこと,が
消費者の間に定着しており,これらにより,「全国共通お食事券」が識別
力を有すると主張する。
確かに,原告は日本フードサービス協会(JF)の加盟社及び金融機関
の出資により設立されたものであり,その設立前に日本フードサービス協
会内に設けられたグルメカード特別委員会においては,「グルメカード発
券の3大テーマとして,「①顧客にとって使い勝手がよく,汎用性がある
こと,②JF会員社はフランチャイズ(FC)店が相当数を占めるので,
FC店の取り組みに強い動機づけを与えること,③参加企業およびその店
舗にとって事務処理が簡単なこと」が挙げられており,原告が主張するよ
うな品質を備える食事券であることを目標として原告商品が販売されてい
ったことがうかがわれる。そして,そのようなカード事業を永続的なもの
とするために,カード事業発足前にはフィージビリティ・スタディ(実現
可能性に関する事前調査)行うなど相当に慎重な検討がされたことが認め
られる(以上につき,甲9,70,71,83)。
しかし,「全国共通お食事券」という名称が,本来,「全国に共通して
食事に利用できる金券」程度の意味しか有しないことに照らせば,原告が
カードに込めた意味(そこから生じる印象)及びその品質保証の内容が,
原告商品の需要者として想定される取引者,一般消費者に,広く特定の発
行主体のカードが持つ意味及び品質であると認識されている必要があり,
そのためには,原告商品のカードの意味及び品質が取引者及び一般消費者
に周知のものとなっていることが必要であると解される。
そこで,「全国共通お食事券」が原告主張の意味及び品質を持つものと
して取引者及び一般消費者に周知であったかを検討する。
前提事実(2),(3)によれば,被告商品である「ぐるなびギフトカード
全国共通お食事券」の販売が開始された平成23年9月15日の時点で,
原告商品である「ジェフグルメカード全国共通お食事券」の販売が開始
(平成4年12月1日)されてから19年近くを経過しており,その間,
他に「全国共通お食事券」の名称を使用した他の種類の券が発行されてい
たことは証拠上認められない。
そして,原告商品のみが販売されていた約19年の間に,原告商品は約
1億4000万枚発行されたものと認められる。したがって,1年間の平
均でみると年間約740万枚が販売されたことになる。
上記の販売により原告商品は相当程度の知名度を獲得していたとみられ
るが,そのことと,「全国共通お食事券」が単独で原告主張の意味及び品
質を有するものとして,原告商品が周知であったこととは異なる。
上記アのとおり,原告の商品等表示として単独で「全国共通お食事券」
の表示の使用があったとは認められず,原告の商品等表示としては,「ジ
ェフグルメカード全国共通お食事券」,「全国共通お食事券ジェフグ
ルメカード」が使用されていたと認められるから,原告商品を購入,取得
した取引者及び一般消費者は,原告商品の識別力を有する標章としては,
「ジェフグルメカード」をまず認識するのが通常であると解される。
したがって,「全国共通お食事券」の名称が,「ジェフグルメカード」
の名称とは別に,原告主張の意味及び品質を有するものとして識別力を有
するというためには,取引者及び一般消費者に対してその認識を促すよう
な特別の宣伝広告等がされ,取引者及び一般消費者が広くそのことを認識
する必要があるというべきである。
そこで,この点について検討するに,原告商品の券面(表面)には,取
引者及び一般消費者が,「全国共通お食事券」を原告主張の意味及び品質
を有するものと認識できるような内容の宣伝広告の記載はない。券面(裏
面)には,「全国のジェフグルメカード取扱加盟店にて額面金額と等額で
取扱商品とお引換え(販売)いたします。加盟店は加盟店マークの表示の
あるお店及び弊社ホームページをご覧ください。」との記載がある(甲2
0)。以上の記載からは,原告が主張するような意味及び品質を認識する
ことはできない。原告商品が販売される際には,原告商品の取扱店舗を知
らせるための加盟店リスト(甲47)が配布される。その表紙には「有効
期限はございませんので,お好きな時にご利用いただけるとっても便利な
ギフトです。」との記載があり,加盟店の一覧が付されている。そして,
加盟店一覧の加盟店名には,例えば,「ガスト」,「神戸屋レストラン」
等のフランチャイズ店全体を記載したとみられる表記があるものの,その
上部には,「一部利用いただけない店舗がございますのでご了承くださ
い。」との記載がある。これらの記載からは,原告が原告商品の品質保証
の内容である,有効期限がないということを認識することが可能であるが,
それが加盟店一覧表の表紙に小さな文字で記載されているのみであるため,
実際にどれだけの一般消費者がそれによって原告の主張する内容を認識す
るものかは必ずしも明らかではなく,また,それ以外の原告の品質保証の
点については,必ずしも加盟店リストから認識できるものではない。原告
の平成4年11月頃作成の会社案内(甲2)には,「『食』を通じ,感動
と出会いを。こころの時代の,幸福な物語を紡ぐために。」,「『こころ
の時代』と呼ばれる21世紀への大きな流れは,いま,『食』に楽しく暖
かなコミュニケーションのライフステージとしての役割を求めはじめてい
ます。…『食』が人々のこころを結び,幸福な物語を紡ぎつづけていく,
そのために。」等の記載があり,原告商品の特徴として,「●市場規模,
選択性,広範囲の店舗網●モチベーションの多彩さ●日常的,手軽さ,
利便性」が挙げられ,「『ジェフグルメカードにしかできないこと』とし
て,利便性の高さ,信頼感,気軽さが挙げられている(甲2)。しかし,
この会社案内の内容がどの程度,取引者及び一般需要者に認識されている
かは不明である。
また,原告が平成6年頃作成したリーフレット(甲3)には,その表紙
にカード表面の写真が掲載され「全国共通お食事券」「ジェフグルメカー
ド」と横に二段書きされた下に,「使い方は自由自在のスーパーギフトで
す。」との記載があるが,抽象的な記載内容にとどまっている。
このほか,平成4年8月15日発行の「ジェフマンスリー記事」(甲1
2)には,消費者の声として,「ある店でしか使えないと遠くまででかけ
て行く気にならなくて不便だったが,いろいろな店で使えるならもらって
嬉しいし,気楽。(主婦)」との記載がある反面,「どの店で使えるのか
はっきりわかった方がいい。(OL)」との記載もある。
平成10年7月に日本経済新聞社が実施した「ギフト券アンケート」
(甲22)では,ギフト券ブランド認知度について,JTBギフト券,V
ISAギフトカード,花とみどりのギフト券等に次いで,「ジェフグルメ
カード」が5番目に挙げられている。
原告とフランチャイザーとの契約書(甲61)においては,3条(イ)に
「グルメカードの受入れは,フランチャイズ契約店舗を含む甲(フランチ
ャイザー)の全店舗にて行う。」との記載があるから,少なくとも原告と
契約するフランチャイザーにおいては,「同一のブランドであればどこで
も使える」ということを認識していたと認められるが,それ以上に原告主
張の「全国共通お食事券」の意味及び品質保証について認識していたかは
必ずしも明らかではなく,また,原告と個々のフランチャイジーが個別に
契約をしていないとすれば(個々に契約しているような証拠はない。),
全国の個々のフランチャイジーにおいて,原告主張の意味及び品質保証を
認識していたといえるかについては証拠上明らかでないといわざるを得な
い。
以上のほかに,「全国共通お食事券」を原告主張の意味及び品質を有す
るものとして,取引者及び一般消費者に宣伝広告していることを認めるに
足りる証拠は見当たらない。
以上の証拠関係に照らしてみると,原告商品における「全国共通お食事
券」が,原告主張の意味及び品質を有するものとして広く取引者及び一般
消費者に認識されているものと認めるには足りず,かえって,「全国共通
お食事券」ではなく,「ジェフグルメカード」に識別力があるものとして
の認識が相当程度あるものと認められる。
このように,「全国共通お食事券」が原告主張の意味及び品質を有する
ものとして周知であることを認めるに足りる証拠はないから,「全国共通
お食事券」の部分が識別力や出所表示機能を有するとはいえない。
エ以上のとおり,原告の商品等表示として単独で「全国共通お食事券」の
表示が使用されていたとは認められない。また,原告の商品等表示(「ジ
ェフグルメカード全国共通お食事券」,「全国共通お食事券ジェフグ
ルメカード」)のうち,「全国共通お食事券」の部分のみで識別力や出所
表示機能を有するとは認められないから,「全国共通お食事券」の部分が
原告の商品等表示であるとは認められない。
(2)原告の商品等表示と被告の商品等表示の類似性
ア対比の基準と対象
ある商品等表示が不正競争防止法1条1項1号又は2号にいう他人の商
品等表示と類似のものに当たるか否かについては,取引の実情のもとにお
いて,取引者又は需要者が両表示の外観,称呼又は観念に基づく印象,記
憶,連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか
否かを基準として判断するのが相当である(最高裁昭和56年(オ)第11
66号同59年5月29日第三小法廷判決・民集38巻7号920頁参
照)。
そして,上記(1)のとおり,原告の商品等表示は,「ジェフグルメカー
ド全国共通お食事券」,「全国共通お食事券ジェフグルメカード」で
あると認められるから,これを被告の商品等表示である「ぐるなびギフト
カード全国共通お食事券」を対比する(原告は「ぐるなびギフトカード
全国共通お食事券」を文字標章として主張するものと解されるから,ここ
では文字標章として対比する。)。
また,上記(1)に照らすと,原告の商品等表示のうち「全国共通お食事
券」の部分が要部であるとも認められないから,それぞれの商品等表示全
体を対比する。
原告は,原告商品及び被告商品の商品等表示について具体的な特定をし
ないが,以下では,具体例として,原告商品(甲20)と被告商品(乙9
の1~4)の券面及び原告加盟店ステッカー(甲14)と被告加盟店ステ
ッカー(乙17の角型ステッカー)における表記で対比する。ただし,他
の具体的使用態様や抽象的な文字表記のみの対比をしてみても結論は同じ
である。
イ原告商品(甲20)と被告商品(乙9の1~4)の表記における対比
原告商品の表面に付された「ジェフグルメカード全国共通お食事券」
(甲20)の文字外観は「ジェフグルメカード」を上段にやや大きめの文
字で横書きに表記し,下段にそれより小さめの文字で「全国共通お食事
券」と同じく横書きに表記したものである。そして,その称呼は「じぇふ
ぐるめかーどぜんこくきょうつうおしょくじけん」であり,その観念は
「ジェフ(日本フードサービス協会)の発行するグルメカードで全国に共
通して食事に利用できる金券」である。原告商品の裏面には,「全国共通
お食事券」の表記はない。
これに対し,被告商品の表面に付された「ぐるなびギフトカード全国
共通お食事券」(乙9の1~4)の文字外観は「ぐるなび」「ギフトカー
ド」をほぼ同じ大きさの文字で横書きに表記し,その周囲を楕円形の曲線
で囲んでいる。その楕円形のすぐ下に「全国共通お食事券」と表記されて
いる。その称呼は「ぐるなびぎふとかーどぜんこくきょうつうおしょく
じけん」であり,その観念は「ぐるなびの発行するギフトカードで全国に
共通して食事に利用できる金券」である。
そうすると,「ジェフグルメカード全国共通お食事券」と「ぐるなび
ギフトカード全国共通お食事券」は,外観,称呼,観念において全て相
違するから,類似するとは認められない。
ウ原告加盟店ステッカー(甲14)と被告加盟店ステッカー(乙17の角
型ステッカー)の表記における対比
原告加盟店ステッカーに付された「全国共通お食事券ジェフグルメカ
ード」(甲14)の外観は,楕円形の外枠の中央部に赤の背景に白抜きの
文字で「全国共通お食事券」と記載され,その下部に白の背景に赤色の文
字(「全国共通お食事券」よりもポイントの小さい文字)で「ジェフグル
メカード」と記載されている。その称呼は「ぜんこくきょうつうおしょく
じけんじぇふぐるめかーど」であり,その観念は「全国に共通して食事
に利用できる金券であるジェフ(日本フードサービス協会)の発行するグ
ルメカード」である。
これに対し,被告加盟店ステッカーに付された「ぐるなびギフトカード
全国共通お食事券」(乙17の角型ステッカー)の外観は「ぐるなび」
「ギフトカード」をほぼ同じ大きさの文字で横書きに表記し,その周囲を
楕円形の曲線で囲んでいる。その楕円形のすぐ下に「全国共通お食事券」
との記載がある。その称呼は「ぐるなびぎふとかーどぜんこくきょうつ
うおしょくじけん」であり,その観念は「ぐるなびの発行するギフトカー
ドで全国に共通して食事に利用できる金券」である。
そうすると,「全国共通お食事券ジェフグルメカード」と「ぐるなび
ギフトカード全国共通お食事券」は,外観,称呼,観念において全て相
違するから,類似するとは認められない。
(3)以上のとおりであるから,原告商品等表示の文字標章としての周知性
(著名性)の有無(争点1-2)及び混同の有無(争点1-3)について検
討するまでもなく,被告が不正競争防止法2条1項1号又は2号に該当する
とは認められない。
2不正競争防止法2条1項13号該当性(争点2)について
原告は,本件各商品等表示における「全国共通お食事券」の表示は,①有効
期限を設けない,②同一ブランドであればどこの店でも使える,③食事の種類
による使用制限がないことを表示してこれを保証し,このような品質保証の意
味は,取引者,消費者の間に完全に定着してきたから,被告商品の「全国共通
お食事券」という表示によって,原告商品と同じ品質があるものと誤認してこ
れを購入し使用するおそれが多分にあるなどと主張する。
しかしながら,前記1(1)のとおり,「全国共通お食事券」は,「全国に共
通して食事に利用できる金券」程度の意味であり,それを超えて原告の主張す
るような品質保証の意味が取引者及び一般消費者に認識されていることを認め
るに足りる証拠はない。
したがって,取引者及び一般消費者において,被告商品が原告の主張するよ
うな品質を備えるものと誤認するだけの基礎は存しないものというべきである。
また,前提事実(3)のとおり,被告商品は,全国の1万3900を超える店
舗で利用できるものであるから,「全国に共通して食事に利用できる金券」で
あることは否定できず,被告商品がその品質を誤認させているものということ
はできない。
そうすると,被告の商品等表示である「ぐるなびギフトカード全国共通お
食事券」が誤認を惹起させる表示であるとは認められないから,被告が不正競
争防止法2条1項13号に該当するとは認められない。
3被告商品の販売に係る違法性の有無(争点4)について
(1)原告は,被告商品の発行・販売の態様が,原告商品のデッドコピーとし
ていわゆる隷属的模倣ともいうべきものなどとして,仮に不正競争防止法に
掲げている不正競争に当たらない場合には,当然民法上の不法行為と認めら
れるべきものである旨主張する。
原告商品と被告商品とは,いずれも商品券であって,「全国に共通して食
事に利用できる金券」という意味では共通するから,アイデアの領域及び商
品の性質においては共通するとはいえる。しかしながら,原告の商品等表示
と被告の商品等表示の相違等に照らすと,被告商品が原告商品のデッドコピ
ーであると評価することはできないし,その他デッドコピーと評価できる事
情はない。
したがって,原告の主張は,その前提に欠けるというべきである。
(2)また,原告は,被告商品の主たる実質は,前払式支払手段の形を借りた,
店舗の集客に主眼を置いた販促手段とみざるを得ないなどとして,資金決済
法に抵触する旨主張する。
この点,原告は,被告のポイント利用券やポイントと交換された被告商品
は対価を得て発行されたものではないから前払支払手段ではないと主張する。
しかしながら,被告は,ポイント利用券を前払支払手段として発行している
ものではないし,そのようなポイント利用券を前払支払手段のように取り扱
っていることを認めるに足りる証拠はない。また,既に有償で発行されてい
る前払支払手段が無償で発行された場合には,原則として無償で発行された
前払支払手段も資金決済法の規制を受けるから(甲67,88),ポイント
と交換された被告商品が前払支払手段ではないということはできない。
そうすると,被告が資金決済法に抵触するとはいえないし,被告商品の主
たる実質が販促手段であることを認めるに足りる証拠もない。
(3)さらに,原告は,使用可を標榜する同一ブランドの半数を超える店舗で
使用できないブランドについて「全国共通お食事券」を標榜することは,一
般消費者に全店舗あるいは大部分の店舗で使用できるものと誤認させるもの
であって,景表法4条1項1号の不当表示に当たると主張する。
しかしながら,前記1(1)のとおり,「全国共通お食事券」は,「全国に
共通して食事に利用できる金券」程度の意味であるから,被告商品が使用可
能とされたチェーン店において,実際に使用できない店舗が一定程度あった
としても,景表法4条1項1号の不当表示に該当するとはいえない。
(4)加えて,原告は,被告商品の販売が優越的な地位の濫用や抱き合わせ販
売等にも相当するなどと主張するが,具体的に優越的な地位の濫用や抱き合
わせ販売等を主張するものでもないし,その他被告商品の販売が社会的相当
性を欠くことを肯定できる事情は見当たらない。
(5)以上に照らすと,被告商品の販売が違法であるとは認められないし,そ
の他これを認めるに足りる証拠もない。
4損害賠償請求についてのまとめ
前記1及び2のとおり,被告が不正競争防止法2条1項1号,2号又は13
号に該当するとは認められないから,その余について判断するまでもなく,同
法4条に基づく損害賠償請求は理由がない。
また,前記3のとおり,被告商品の販売が違法であるとは認められないから,
その余について判断するまでもなく,不法行為に基づく損害賠償請求は理由が
ない。
5差止めの成否(争点6)について
前記1及び2のとおり,被告が不正競争防止法2条1項1号,2号又は13
号に該当するとは認められないから,その余について判断するまでもなく,同
法3条1項に基づく差止請求は理由がない。
また,前記3のとおり,被告商品の販売が違法であるとは認められないから,
その余について判断するまでもなく,営業権に基づく差止請求は理由がない。
6結論
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官大須賀滋
裁判官小川雅敏
裁判官森川さつき

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