弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1 被告は,
(1)ア 原告Aに対し,金30万円
イ 原告Bに対し,金30万円
(2)ア 原告Cに対し,金20万円
イ 原告Dに対し,金40万円
(3) 原告Eに対し,金60万円
(4)ア 原告Fに対し,金10万円
イ 原告Gに対し,金50万円
(5) 原告Hに対し,金60万円
(6)ア 原告Iに対し,金30万円
イ 原告Jに対し,金30万円
(7) 原告Kに対し,金60万円
(8) 原告Lに対し,金60万円
(9) 原告Mに対し,金60万円
(10) 原告Nに対し,金60万円
(11) 原告Oに対し,金60万円
(12) 原告Pに対し,金60万円
及びこれら各金員に対する平成14年1月19日から各支払済みまで年5分の
割合による金員を支払え。
2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用はこれを3分し,その2を原告らの負担とし,その余は被告の負担
とする。
事実及び理由
第1 原告の請求
被告は,
1 原告A及び原告B各自に対し,金180万3654円
2 原告C及び原告D各自に対し,金169万0616円
3 原告Eに対し,金169万0616円
4 原告F及び原告G各自に対し,金169万0616円
5 原告Hに対し,金169万0616円
6 原告I及び原告J各自に対し,金169万0616円
7 原告Kに対し,金169万0616円
8 原告Lに対し,金199万1721円
9 原告Mに対し,金205万1214円
10 原告Nに対し,金205万1214円
11 原告Oに対し,金205万1214円
12 原告Pに対し,金219万2678円
及びこれら各金員に対する平成14年1月19日から各支払済みまで年5分の
割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 争いのない事実
(1) 当事者
ア 原告らは,区分所有建物である(ア)記載のマンション(以下「本件マン
ション」という。)に,(イ)記載の各専有部分を所有する区分所有者である。
(ア) 所   在  神戸市a区b通c丁目d番地,e番地
構   造  鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根14階建
建物の番号  甲
床 面 積  1階        852.61平方メートル
2階        692.25平方メートル
3階        629.49平方メートル
4階ないし12階 各570.33平方メートル
13階        547.40平方メートル
14階        524.33平方メートル
(イ) 専有部分
① 原告A及び原告B
1309号  51.93平方メートル(ただし,持分各2分の
1)
② 原告C及び原告D
1303号  47.72平方メートル(ただし,持分は原告C
3分の1,原告D3分の2)
③ 原告E
1403号  47.72平方メートル
④ 原告F及び原告G
1404号  48.84平方メートル(ただし,持分は原告F
6分の1,原告G6分の5)
⑤ 原告H
1204号  48.84平方メートル
⑥ 原告I及び原告J
1402号  48.70平方メートル(ただし,持分各2分の
1)
⑦ 原告K
1104号  48.84平方メートル
⑧ 原告L
407号  57.31平方メートル
⑨ 原告M
1308号  59.31平方メートル
⑩ 原告N
1207号  59.31平方メートル
⑪ 原告O
408号  59.31平方メートル
⑫ 原告P
1209号  63.54平方メートル
イ 被告は,マンション等の住宅の開発・販売・仲介等を主たる業務とする
株式会社であり,本件マンションの分譲主である。
(2) 原告らと被告間の本件マンション売買契約の締結
ア 原告らは,平成8年6月から平成9年6月にかけて,各々被告との間で
本件マンションの前記(1)ア記載の各専有部分並びに共有部分及び敷地共有持分権の
売買契約を締結し,これを購入した。なお,上記売買契約締結当時には未だ本件マ
ンションは完成していなかった。
イ 原告ら各々の売買契約締結日及び売買金額は次のとおりである。
① 原告A及び原告B
売買契約締結日  平成8年6月3日
売 買 代 金  3380万円
② 原告C及び原告D
売買契約締結日  平成8年6月4日
売 買 代 金  3020万円
③ 原告E
売買契約締結日  平成8年6月3日
売 買 代 金  3180万円
④ 原告F及び原告G
売買契約締結日  平成8年9月25日
売 買 代 金  3020万円
⑤ 原告H
売買契約締結日  平成8年6月4日
売 買 代 金  2980万円
⑥ 原告I及び原告J
売買契約締結日  平成8年6月4日
売 買 代 金  3180万円
⑦ 原告K
売買契約締結日  平成8年6月14日
売 買 代 金  2960万円
⑧ 原告L
売買契約締結日  平成8年6月13日
売 買 代 金  3170万円
⑨ 原告M
売買契約締結日  平成8年6月4日
売 買 代 金  3700万円
⑩ 原告N
売買契約締結日  平成9年6月17日
売 買 代 金  3580万円
⑪ 原告O
売買契約締結日  平成8年6月28日
売 買 代 金  3310万円
⑫ 原告P
売買契約締結日  平成8年6月3日
売 買 代 金  4030万円
本件マンション建設・分譲についての特殊事情
ア 本件マンションは,平成7年1月17日未明に発生した阪神淡路大震災
によって全部滅失したマンション敷地上に「被災区分所有建物の再建等に関する特
別措置法」(以下「再建特別措置法」という。)に基づき再建されたものである。
イ 被災マンションの再建事業は,一般的に,元敷地上にマンションを再建
することを目的として組織された敷地共有持分権者の団体(一般に「再建組合」と
呼ばれる。)が事業主体となり,実際の事業は事業代行者(通常いわゆるディベロ
ッパー)が遂行し,事業代行者と設計・監理者,施工業者によって構成される事業
体制のもとで実施されるものであるが,本件マンション建設にあたっても,再建組
合が組織され,被告が事業代行者として再建事業を遂行していた。すなわち,本件
において,被告は,マンション分譲事業者(売主)の地位にあっただけではなく,
本件マンションの再建事業の事業代行者でもあった。
ウ 被災マンション再建事業の際に用いられる事業手法については,「全部
譲渡方式」と呼ばれる方式が採用されるのが一般的である。本件でいえば,事業代
行者である被告が再建組合員の所有する敷地共有持分権をいったん全部買い取り,
マンションを建設した後,敷地共有持分権を再建マンションの専有部分と一体化
(いわゆる権利床)して再建組合員に再度分譲するという方式である。本件マンシ
ョンにおいてもこの全部譲渡方式によって再建が果たされた。ただし,本件マンシ
ョンの再建においては,もとの敷地共有持分権者であった神戸市が事業に参画しな
かったために神戸市所有の敷地持分共有権分19戸については,再建組合員に再度
分譲するのではなく,後述のいわゆる保留床と同様一般に販売された。
エ 加えて,再建前のマンションと比較して再建後のマンションの延床面積
が増加し,増床部分が生み出される建築計画の場合には,事業代行者が増床部分と
しての専有部分等を原始取得し,再建組合員以外の新規購入者に分譲することが行
われるが,本件においても3戸がこのような保留床として一般に販売された。
オ 以上のような経緯で,本件マンションにおいては,再建組合員であった
区分所有者と神戸市分ないし本来的な保留床を購入した新規の区分所有者とが併存
しているところ,原告らは,全員本件マンションの再建事業にはまったく関与して
いない新規購入区分所有者である。
(4) 再建事業費の借入と被告への支払
ア 再建事業においては,平成7年当時の計画当初より,再建組合員の負担
を少なくするため,再建事業費(建設費)の一部を,本件マンション建設に伴い設
立される管理組合(以下「本件マンション管理組合」という。)が金融機関から借
り入れてこれを支払い,同借入金は,本件マンション管理組合に入る駐車場収入を
もってその返済に充てることが計画されていた。
イ しかし,条件面での折合いがつかず,金融機関からの借り入れができな
かったため,再建組合は,平成9年11月,同再建組合員のQから1億8000万
円を借り入れることを決定した。
ウ 平成10年2月14日開催の本件マンション管理組合設立総会におい
て,上記1億8000万円の借り入れをすることが承認され,本件マンション管理
組合は,上記承認決議に基づき,同年3月2日,Qから1億8000万円を,利息
は保証料も合わせて年7.12パーセント,平成14年4月10日を第1回として
毎月10日限り180回の元利均等分割弁済(1回の弁済額163万円)との約定
で借り入れた(以下「本件借入」という。)。そして,本件マンション管理組合
は,同月3日,上記借り入れた1億8000万円を再建事業費(建設費)分担金の
残額として被告に支払った。
2 原告の主張
(1) 被告の債務不履行(説明義務違反)責任
本件マンション管理組合が,設立当初から本件借入をなし,その返済をし
なければならないとすると,本件マンション管理組合の構成員である区分所有者ら
がその専有面積割合によって将来的に一般の管理費・修繕費積立金以外に多額の債
務返済分担金を負担しなければならないこととなる。しかも,本件借入は,前記の
とおり再建組合員が負担すべき再建事業費(建築費)の支払に充てるためのもので
あり,本来,本件マンションの再建事業にはまったく関与していない新規購入区分
所有者である原告らが負担すべき債務ではないことを考え合わせると,本件マンシ
ョン管理組合が本件借入をなすこと及びそれに伴いその返済についての負担が生ず
ることは,原告ら本件マンション新規購入者にとって,購入するか否かを決定する
上で極めて重要な事項というべきである。
したがって,本件マンションの分譲業者であり,かつ,事業代行者として
本件マンションの特殊な再建過程をつぶさに承知していた被告には,本件マンショ
ンの売買契約締結に際し,売主の付随義務として,本件マンション管理組合が,本
件マンションの再建事業費(建築費)の支払のために借入をなすこと,これに伴い
本件マンション購入者個々人に負担が生ずることを説明し,買主である原告らの理
解を求めなければならない義務があった。
ところが,被告は,上記義務を怠り,本件マンション売買契約の契約書に
も重要事項説明書にも何ら記載しなかったばかりか,口頭での説明も一切せずに,
実質的な分譲代金の上乗せを図ったものであり,付随義務の債務不履行として,原
告らが被った後記損害を賠償すべき責任がある。
(2) 原告らの損害
原告らは,本件マンション管理組合がその決議に基づき1億8000万円
もの本件借入をしたことにより,その専有面積の割合に応じ,現実に本件借入金に
つき次のとおりの負担を余儀なくされているところ,再建組合員であった区分所有
者数に対し,圧倒的に少数である原告ら新規購入区分所有者らが,その負担の是正
を求めることは実際問題として不可能であり,下記負担額の全額が,被告の前記債
務不履行による原告らの各損害というべきである。
① 原告A及び原告B    金180万3654円
② 原告C及び原告D    金169万0616円
③ 原告E         金169万0616円
④ 原告F及び原告G    金169万0616円
⑤ 原告H         金169万0616円
⑥ 原告I及び原告J    金169万0616円
⑦ 原告K         金169万0616円
⑧ 原告L         金199万1721円
⑨ 原告M         金205万1214円
⑩ 原告N         金205万1214円
⑪ 原告O         金205万1214円
⑫ 原告P         金219万2678円
(3) よって,原告らは,被告に対し,本件マンションの各売買契約の説明義務
違反の債務不履行に基づく損害賠償として,前記第1の請求欄に記載の各金員及び
これに対する本件訴状送達の日の翌日である平成14年1月19日から支払済みま
で民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
3 被告の主張
(1) 被告の債務不履行(説明義務違反)責任について
被告は,原告らとの間の本件各マンション売買契約締結時に,本件マンシ
ョン管理組合が1億8000万円をさくら銀行から借入をする旨を説明するととも
に,重要事項説明書の添付書類として,本件マンション管理組合の管理規約集
(案)を原告らに間違いなく交付している。管理規約集(案)の別表4-1には,
駐車場使用料の使途が記載されており,そこには駐車場使用料の使途として借入金
返済があがっており,また,「上記金額は完成時の金利等返済条件により変動しま
す。」との記載があることからも,借入金の存在は明らかである。そして,管理費
等の金額は,マンション購入希望者が購入を決定する重要な要素なので,原告らに
これら書類を交付して説明したことは間違いない。
被告は,その後,1億8000万円の借入先がQに変更となったことか
ら,平成9年暮れころから平成10年1月にかけて,原告らを含む購入者全員に借
入先が変更になったこと等を説明し,原告らのほとんどから確認書(乙5の1ない
し10)を得ている。また,本件借入は,平成10年2月14日の本件マンション
管理組合設立総会で何らの異議なく承認されている。これらは,いずれも,被告
が,原告らとの売買契約締結の段階で借入金及び借入先の説明をしていたからこ
そ,借入先の変更についても重要なものとして説明したものであり,設立総会で何
らの異議なく承認を受けるに至ったのも,上記のとおり事前に説明がなされていた
からにほかならない。この点からも,被告に説明義務違反のないことは明らかであ
る。
(2) 原告らの損害について
争う。
上記のとおり,被告に説明義務違反の債務不履行はないから,原告らに損
害は発生していない。
(3) 過失相殺
仮に,被告の説明に不十分な点があり,説明義務違反の債務不履行がある
と認められるとしても,原告らは,いずれも相応の職歴を有しているうえ,前記(1)
で主張したところにも照らせば,原告の過失割合は,極めて大きく,10割に近い
過失相殺がなされるべきである。
第3 当裁判所の判断
1 被告の債務不履行(説明義務違反)の有無について
(1) 本件マンションの建築は,阪神淡路大震災によって滅失したマンションの
再建事業としてなされ,計画当初より,再建組合員の負担を少なくするため,再建
事業費(建設費)の一部を,本件マンション建設に伴い設立される管理組合(本件
マンション管理組合)が金融機関から借り入れてこれを支払い,同借入金は,本件
マンション管理組合に入る駐車場収入をもってその返済に充てることが計画されて
いたこと,しかし,金融機関からの借り入れができなかったため,再建組合員のQ
から1億8000万円を借り入れることとなったこと,平成10年2月14日開催
の本件マンション管理組合設立総会において上記借入の承認を受けた本件マンショ
ン管理組合は,同年3月2日,Qから1億8000万円を借り入れ(本件借入),
同月3日,上記借り入れた1億8000万円を再建事業費(建設費)分担金の残額
として被告に支払ったことは,前記のとおり当事者間に争いがない。
(2) ところで,本件借入金については,本件マンション管理組合が借り入れる
ものであるが,上記のとおり,その返済については,駐車場収入からこれを返済す
ることが予定されており,その返済につき,原告ら本件マンション管理組合員に現
実の出費による負担を強いることのないよう計画されてはいる。
しかし,本件借入がなければ,駐車場収入は,本件マンションの管理や修
繕費用等にこれを充てることができたはずのものである。また,駐車場収入による
返済計画が破綻した場合には,原告ら本件マンション管理組合員個々人がその返済
の負担を負わなければならなくなる事態にもなることからすれば,本件借入が,直
接的であるか間接的であるかは別として,原告ら本件マンション管理組合員に負担
を負わせるものであることには何ら変わりがない。しかも,本件借入は,これを本
件マンション建設費である再建事業費の支払に充てることにより,再建組合員の負
担を軽減することを目的とするものであるから,その返済は本来的には再建組合員
らがこれをなすべきものであるのに,同組合員ではない新規購入者である原告らに
おいても,その購入代金とは別途に本件借入による負担を負わされることになるわ
けで,実質的には,それら負担は,原告ら新規購入者からすれば,本件マンション
購入代金の上乗せに他ならないともいえる。
結局,本件マンションにおいては,本件マンション管理組合が本件マンシ
ョン建設費の支払を一部負担するために多額の借入を行い,その負債を抱えてスタ
ートすることから,これによる負担を新規購入者においても甘受しなければならな
い仕組みになっているわけで,それら負担のあることは,一般の購入希望者が本件
マンションを購入するかどうかを決めるにあたって,極めて重要な事項であると認
められる。そして,それら負担は,本件マンションの建設が阪神淡路大震災による
滅失マンションの再建事業としてなされた特殊性によるものであって,通常のマン
ション分譲ではまず考えられない負担であることにも照らせば,本件マンションの
分譲業者である被告には,売主の付随義務として,新規購入希望者に本件マンショ
ンを分譲するにあたっては,それら負担のあることにつき,事前に十分に説明し,
その理解を得たうえで,売買契約を締結する義務があったものと認められる。
(3) そこで,被告が,原告らとの本件マンションについての各売買契約を締結
するに際し,前記説明義務を尽くしたか否かを検討する。
証拠(甲3の1ないし12,10の1ないし12,19,乙3の3)によ
れば,原告らと被告との間の各売買契約書及び原告らに交付された重要事項説明書
には,本件借入に関しては何ら記載がなく,唯一,重要事項説明書の添付資料とし
て原告らに交付された管理規約の別表4-1の賃貸駐車場使用料についての表の欄
外に「駐車場使用料(年間27,420,000.-)の使途については,借入金返済等充当金
として年間18,000,000.-保守経費として年間7,000,000.-積立金として年間
2,420,000.-それぞれ充当の予定で検討中です。尚上記金額は完成時の金利等の借入
金返済条件により変動します。」との借入金返済に関する記載があるだけであるこ
と,しかも,上記の記載からは,その借入目的,金額,借入先,借入条件等,本件
借入の内容はまったく分からないことが認められる。
もっとも,本件マンション再建事業を担当した被告の従業員であるRは,
その陳述書(乙11)及び証言中で,被告は,売主代理人として原告らとの各売買
契約の締結を担当した株式会社タケツーエステート(以下「タケツーエステート」
という。)に対し,原告らとの各売買契約の締結にあたっては,本件マンション管
理組合がさくら銀行から1億8000万円借り入れすることを説明するように指示
したこと,タケツーエステートの担当従業員は,この指示に基づき,原告らに上記
説明を口頭でするとともに,本件マンションの管理規約集を原告らに交付している
こと,マンションの駐車場や管理に関する事項はマンション購入希望者が購入をす
るかどうかを決定する上で重要な事項であるので,タケツーエステートの担当従業
員は,管理規約の別表4-1について説明しているはずであり,したがって,本件
借入金に関しても説明しているはずであること等を陳述ないし証言する。
しかし,他方で,Rは,当時,駐車場使用の申し込みが少ないために駐車
場が余るといった危惧はしておらず,したがって,駐車場収入が不足した場合に借
入金の返済がどうなるのかといった説明はしていないと思う旨の証言をしているこ
とからすると,当時,被告ないしタケツーエステートの従業員らは,本件マンショ
ン管理組合が本件借入をなすことが新規購入者にとって負担となるものとは考えて
いなかったのではないかと思われること,これに加え,原告O,同F,同Mは,そ
の各陳述書(甲13ないし15)及び各本人供述中において,被告との売買契約の
締結に際し,被告ないしタケツーエステートの担当従業員らから本件借入のことは
一切説明を受けていない旨を陳述ないし供述していることにも照らすと,被告ない
しタケツーエステートの担当従業員らが,原告らに対し,本件借入負担のあること
について十分な説明をしていたものとはにわかには認めがたく,とりわけ,本件借
入負担が,原告らにどのようなリスクを負わせることになるのかについて明確な説
明がなかったことは明らかである。また,前記管理規約の別表4-1の記載も,そ
れだけでは,借入の内容等が不明なものであることは前記のとおりで
あって,その記載により被告において説明義務を尽くしたものとは認めがたい。
(4) したがって,被告には,原告らが,本件マンションにつき被告との間で各
売買契約を締結するに際し,本件借入負担があること及びそれによるリスクにつき
十分な説明を受けられずに契約を締結したことによって,原告らに生じた損害を賠
償する責任があるものと認められる。
なお,被告は,原告らとの各売買契約締結後,1億8000万円の借入先
がQに変更となったことから,平成9年暮ころから平成10年1月にかけて,原告
らを含む購入者全員に借入先が変更になったこと等を説明し,改めて原告らのほと
んどから確認書を得ているが,これは,原告らとの各売買契約締結時に本件借入に
つき説明していたからこそ,借入先の変更についても説明等したものであり,ま
た,本件借入が,平成10年2月14日の本件マンション管理組合設立総会で原告
らからも何らの異議なく承認されたのも,被告が原告らに対して,売買契約締結の
時点から本件借入について説明を行ってきていたからにほかならないとして,この
点からも被告に説明義務違反はないと主張するところ,確かに,証拠(甲6,乙5
の1ないし10)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,原告A,B及び同Mを除く
他の原告らからは,本件借入の借入先をQに変更することが決定されて以降,本件
マンション管理組合の設立総会までの間に,本件マンション管理組合が本件借入を
なすことに賛成する旨の確認書を取り付けており,また,本件マンション管理組合
の設立総会では,原告らから特段の異議もなく本件借入をなすことが承
認されたことが認められる。しかし,それら事実があることから,原告らとの各売
買契約時点において,本件借入及びそのリスクにつき十分な説明がなされていたも
のとはにわかには認められないし,また,上記事実は,いずれも,原告らとの各売
買契約締結後の出来事であるから,それら事実によって,売買契約時に被告が説明
義務を尽くしたか否かの前記判断を左右するものとも認められない。
2 原告らの損害について
被告の説明義務違反によって原告らが被った損害につき,原告は,前記原告
の主張(2)のとおり主張するところ,確かに証拠(甲11の1・2,12,乙8)及
び弁論の全趣旨によれば,駐車場収入で返済を予定していた本件借入につき,駐車
場収入が不足し,本件マンション管理組合においてその返済が約定どおりできず,
原告ら本件マンション管理組合員ら個々人がその返済につき直接的な負担を強いら
れる事態もあり得る状況に至っていることが認められる。しかし,事態はなお流動
的であり,今後,現実に原告らがそれら返済金につき直接的な負担を強いられるこ
とになるのか,また,その場合どれだけの負担をせざるを得ないのかは,現時点で
はこれを明確には認定しがたく,原告ら主張の額をもって,直ちにこれを原告らの
損害として認定することは困難といわざるを得ない。したがって,被告の説明義務
違反によって原告らが被った損害としては,本件借入負担のあることにつき十分な
説明を受けられなかったために,そのリスクを十分に検討できないままに,本件各
マンションにつき売買契約を締結させられ,その結果,そのリスク負担が現実のも
のとなり兼ねない状況に直面させられるに至ったことによる精神的苦
痛に対する慰謝料を認めるのが相当である。
そこで,その慰謝料額を検討するに,本件借入金返済の遅滞による本件マン
ション管理組合の財政状況の悪化自体,原告らにとって深刻な問題であるうえ,今
後,本件借入の返済につき直接的な負担を強いられるかもしれない状況に直面して
いること,各売買契約締結時に,本件借入負担のあること及びそのリスクにつき十
分な説明があれば,原告らによっては本件マンションの購入を控えた可能性もない
ではなく,そうしてさえいれば,原告らにおいて現在のような状況に直面すること
はなかったこと,もっとも,原告らとしても,本件マンション管理組合が1億80
00万円もの多額の本件借入をすることになれば,本件マンション管理組合の財政
状況が悪化し,深刻な事態になりかねないことは,一般的抽象的には十分に予測し
得たはずであるところ,いずれも売買契約後とはいえ,既に認定のとおり,原告ら
のほとんどが,本件マンション管理組合が本件借入をなすことに賛成する旨の確認
書を被告に交付し,また,本件マンション管理組合の設立総会では,原告らから特
段の異議もなく本件借入をなすことが承認されていること等本件に現れた一切の事
情を総合すると,原告らに対する慰謝料は本件マンション各1戸ごと
に60万円を認めるのが相当である。
なお,被告は,仮に被告に説明義務違反が認められるとしても,原告らの過
失も大きいとして,過失相殺を主張するが,前記認定のとおり,本件借入負担につ
いては駐車場収入で返済ができるものとして,さしたるリスクとは考えていなかっ
たと思われる被告が,原告らとの各売買契約締結に際し,本件借入の内容につきど
れだけ具体的な説明を行ったかははなはだ疑わしく,それら具体的内容及びそのリ
スクにつき十分な説明を受けなければ,原告らとしては,本件借入負担により生じ
る不利益等を具体的に予測することが困難であることに照らせば,上記認定額をさ
らに減額すべき過失が原告らにあったとは認められない。
3 結論
以上の次第で,原告らの各請求は,主文1項の金額及びこれに対する本件訴
状送達の日の翌日である平成14年1月19日から支払済みまで民法所定年5分の
割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度でこれを認
容し,その余はこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
神戸地方裁判所第4民事部
裁 判 官  上  田  昭  典

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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