弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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             主       文
   被告人を懲役2年6月に処する。
   未決勾留日数中180日をその刑に算入する。
              理       由
(罪となるべき事実)
 被告人は,指定暴力団A組組員であるが
第1 B省C局D工事事務所が発注するEダム建設工事のF地区整備工事を株式会
社Gが落札し請け負ったことを聞知するや,同工事に関し,いわゆるあいさつ料徴
収名下の不正権益をA組に得させる目的で,暴力団組織を背景にして,Gから金員
を脅し取ろうと企て,平成13年11月11日午前11時ころ,広島県双三郡〇〇
町大字〇〇△△番地△所在のH店西側に設置されたGF地区整備工事作業所に押し
かけ,同所内において,同作業所現場代理人Iに対し「わしらはJ会なんですよ。
知っていますか。」,「この辺はわしらの管轄じゃけえ,あいさつしてもらわにゃ
あいけん。あいさつは,建築が0.5パーセント,土木は1パーセントお願いして
いる。社長とよく相談してもらえませんか。」,「社長とよく相談してみてくださ
い。今度は,若い者に来させます。」などと暗に金員の要求をした上,同月21日
午後1時35分ころ,同県三次市〇〇△丁目△△番△△号〇〇△△号室のA組の北
部支部事務所から上記F地区整備工事作業所に電話し,上記Iが上記要求を拒む
や,同人に対し,「それじゃあ,うちと背中合わせでやるいうことじゃのお。」,
「よう気を付けて仕事をせえや。1000万円じゃろうが,酒1本じゃろうが,あ
いさつはあいさつじゃけえ。そのあいさつがないいうことは,よう気を付けて仕事
をやりんさいよ。何かあったら工事をストップかけるけえのお。よう管理しておか
にゃあ。」などと語気荒々しく申し向け,被告人やA組関係者が,上記F地区整備
工事やGの業務を妨害したり,上記IやGの従業員にいかなる危害を加えるかもし
れない気勢を示して上記Iを畏怖させ,もって団体に不正権益を得させる目的で,
人を恐喝して財物を交付させようとしたが,同人らが被害を警察に届け出たため,
その目的を遂げなかった
第2 前記Eダム建設工事のK地区法面その3工事をM株式会社が落札し請け負っ
たことを聞知するや,同工事に関し,いわゆるあいさつ料徴収名下の不正権益をA
組に得させる目的で,暴力団組織を背景にして,Mから金員を脅し取ろうと企て,
同日午後1時16分ころ,前記A組の北部支部事務所から同県佐伯郡〇〇村の建設
工事現場で稼働中のMN営業所工事課長Oの携帯電話に電話し,同人に対し「P市
政研究会はJ会の関係で,私は主宰のQと申します。事務所をRに構えており,私
どもも何かと入り用なので,私どもの協力業者を紹介して仕事を頂いておりま
す。」,「お手伝いさせていただきたい。」などと申し向け,上記Oがそれを拒む
や,「うちもあいさつはなし,仕事もやらんというばかにされたようなことでは,
ただでは済みませんよ。
」,「何か問題や違反があれば行動を起こし,現場をストップさせますので,御注
意願います。」などと語気鋭く申し向けて暗に金員の交付を要求し,もしこの要求
に応じなければ,上記法面工事やMの業務を妨害したり,上記OやMの社員らにい
かなる危害を加えるかもしれない気勢を示して上記Oを畏怖させ,もって団体に不
正権益を得させる目的で,人を恐喝して財物を交付させようとしたが,同人らが被
害を警察に届け出たため,その目的を遂げなかった
第3 前記Eダム建設工事のS地区橋梁下部工事をT株式会社が落札し請け負った
ことを聞知するや,同工事に関し,A組に不正権益を得させる目的で,暴力団組織
を背景にし,Tの担当者を脅迫して,上記橋梁下部工事の下請工事に,A組直属の
建設業者を参入させようと企て,同月29日午前9時25分ころ,前記A組の北部
支部事務所から同県御調郡〇〇町大字〇〇△△番地所在のTに電話をかけ,同社営
業部長Uに対し,被告人が上記暴力団組員であることを熟知している上記Uに対し
「この工事の下請に私どもの息のかかった業者を入れてほしい。見積りをさせてく
れないか。Eの工事に入るなら私のことを聞いているでしょう。よく考えてみてく
ださい。」などと申し向けて被告人直属の建設業者の下請参入を要求し,上記Uが
これを拒絶するや,「当社も右翼を持っており,街宣車もあるんで気をつけてやっ
てください。」などと語気鋭く申し向け,もしこの要求に応じなければ,上記橋梁
下部工事やTの業務を妨害したり,同社の従業員や上記Uの身体,自由,名誉など
にいかなる危害を加えるかもしれない気勢を示して同人を畏怖させ,もって団体に
不正権益を得させる目的で,人をして義務のないことを行わせようとしたが,同人
らがこれに応じなかったため,その目的を遂げなかった
ものである。
(証拠の標目)
 (省略)
(事実認定の補足説明)
 弁護人は,本件各犯行はいずれも,被告人個人の生活を維持する目的によるもの
であって,被告人は暴力団に不正権益を得させる目的を有していなかった旨主張
し,被告人もこれに沿う供述をするので検討する。
 まず,関係各証拠によると,以下の事実が認められる。
  A組は,他の暴力団組織が広島県北部へと勢力を伸ばしてきていたことから,
組織としていわゆる「シマ」を守るため,平成12年に庄原市に進出し,被告人を
北部支部長とした。その後,三次市を中心として活動していたJ会系暴力団の組長
が死亡したことから,被告人は,平成13年10月ころ,Vら組員3人を連れて三
次市内に移り,事務所を構えて北部支部の活動を続けた。
  被告人は土木建築業界の事情に詳しく,土木建築業者は多かれ少なかれ違法行
為を行っていると考えていたことから,これにつけ込んで,自分の息の掛かった業
者を下請に入れさせて礼金名目で金銭を得ることによって,いわゆる「シマ」での
「シノギ」とすることにしたが,いきなり暴力団の名前を出したのでは相手にして
もらえないので,「P市政研究会主宰Q」という右翼団体のような名称を用いて,
土木建築業者の事務所を回るなどしたが,そのうち,被告人がA組組員であること
が知れ渡るようになったため,被告人は殊更にJ会の名を出して,印象を強めるよ
うになった。「P市政研究会」は,A組北部支部と同じアパート居室に事務所を構
えており,本件各犯行のころには,A組組員であるVが,P市政研究会の会員を名
乗った上で,被告人と行動を共にしたり,単独で土木建築業者の事務所を回ってい
たが,Vは,自らの上記行動については,広島県北部一帯にA組の根を下ろして存
続発展させることを目的として行ったものであり,また,被告人も同様の目的を持
っているものと認識して被告人の行動に協力していた。
 以上の事実によれば,本件各犯行はいずれも,被告人が,A組の「シマ」と称す
る当該地域において,土木建築業者の工事に関して,自らが所属するA組の威力を
背景にして,いわゆるあいさつ料名目の金銭を支払わせたり,関係業者の下請参入
を無理強いするなどしてA組に不正な権益を得させることを目的としていたことが
明らかである。
(法令の適用)
 (省略)
(量刑の理由)
 本件は,その所属している暴力団の勢力拡大のために広島県北部地域に進出して
いた被告人が,同地域の土木建築業者をいわゆる暴力団の「シマ」に取り込んで,
継続的な収入源とするべく,その所属する暴力団の威勢を背景に,ダム建設工事の
関連工事を受注した業者に対し,あいさつ料と称して工事に関して金銭の支払を要
求し,あるいは暴力団関連業者を下請工事に参入させるよう要求した事案である。
 被告人は,その所属する暴力団組織のために,積極的にその勢力を拡大するとと
もに,暴力団の活動資金を得ようとして本件各犯行に及んだものであって,その暴
力団特有の反社会的な動機に酌量の余地は全くない。
 また,本件各犯行の態様は,暴力団組織が背後にあることを誇示し,飽くまで直
接的な表現を避けて社会的儀礼や商談などに名を借りつつ,相手方の畏怖に乗じて
不当な要求を突きつけるという,巧妙かつ反社会的なものであって,直接脅迫を受
けた被害者やその関係者がこうむった恐怖感や精神的苦痛は甚大である。
 しかも,被告人は,ダム関連工事に関与する業者に対して,短期間に同種犯行を
反復して行っているのであって,本件各犯行の職業性,営業性が強くうかがわれる
だけでなく,被告人の本件各犯行が,同地域で前記ダム関連工事に関与していた業
界全体をも間接的に威迫し,さらには付近の住民社会にも強い不安を与えたであろ
うことも想像に難くない。
 このように,本件各犯行は,まさに暴力団特有の論理や思考態度の現れであっ
て,極めて悪質と言うべきものであるところ,被告人は,恐喝未遂及び強要未遂の
外形的事実は認めるものの,暴力団組織の威勢を背景とした恐喝や脅迫を,忠告や
嫌がらせという程度にしか考えていなかったなどと強弁しているだけでなく,本件
各犯行が自身の生活費等を得るための個人的犯行であり,暴力団の資金源開拓を目
的としたものではないなどと不合理な弁解を弄して,自己の犯行の矮小化を図るな
ど,暴力団の組織防衛に腐心しているばかりでなく,現在もなお暴力団組織から離
脱する意思を有していないのであって,反省の情が認められず,再犯の可能性も高
い。
 これらの事情によれば,被告人の刑事責任は重大であって,本件各犯行はいずれ
も未遂に終わっていること,最近十数年間には前科がないことや,被告人の年齢,
健康状態等,被告人のために斟酌できる事情を十分に考慮しても,なお,被告人に
対しては主文程度の実刑をもって臨む必要がある。
 よって,主文のとおり判決する。
(求刑-懲役3年)
  平成14年9月13日
    広島地方裁判所刑事第一部
        裁判長裁判官  山  森  茂  生
           裁判官  髙  原     章
           裁判官  寺  元  義  人

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