弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一、原判決中主文第一項の解雇の意思表示の効力を仮に停止する部分及び第四項の
訴訟費用の負担部分を取消す。
二、被控訴人の右主文第一項の部分に関する仮処分申請を却下する。
三、原判決中主文第二項の従業員として取扱うべきことを命ずる部分及び第三項の
賃金の仮払いを命ずる部分に対する本件控訴はいずれもこれを却下する。
四、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
五、この判決は第一項に限り(但し訴訟費用の負担部分を取消した部分を除く)仮
に執行することができる。
       事   実
 控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の申請を却下する。訴訟費用は第一、
二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判
決を求めた。
 当事者双方の事実上の陳述並びに疎明関係は、左に記載するほかは、原判決事実
摘示のとおりであるから、これを引用する。
一、原判決の訂正(省略)
二、控訴代理人の陳述
(一) 本件配転命令が労働協約に違反しないことは、控訴人が原審ですでに述べ
たとおりであるが、仮に何らかの理由によつて、本件配転命令が若干労働協約に違
反するものとしても、これがためその効力を否定さるべきものではない。すなわち
被控訴人の指摘する労働協約の各条項は、会社が人事権を行使する上の心構えを定
めたものであつて、労働条件その他の労働者の待遇に関する具体的基準を定めたも
のではないのである。従つてこれらの条項は、労働協約の規範的部分に属さず、債
務的部分に属するものであるから、これらの条項に違反した配転命令は当然無効と
なるわけのものではなく、一種の契約違反として労働組合が使用者の契約上の責任
を追求し得るに止まり、配転を命ぜられた労働者自身はこれに従う義務がある。そ
れ故本件配転命令は、労働協約に違反するものとして当然無効であるとなし、被控
訴人においてこれに従う義務がないとしている被控訴人の主張はこの点においても
失当である。
(二) 本件仮処分申請は保全の必要性を欠いている。すなわち
(イ) 被控訴人は昭和四三年二月一七日施行された祖父江町町会議員選挙に立候
補して当選し、同年三月一日からこれに就任して今日に至つているが、祖父江町町
会議員が祖父江町から支給される報酬等は議員報酬として月額金一八、〇〇〇円、
期末手当(賞与)として年額、報酬月額の三、三ケ月分である。ところで控訴会社
の現行就業規則においては、従業員が公職についたときは、その間公職休務者と
し、また控訴会社の現行給与規定によれば、公職休務中の者には給与が支給されな
いことになつている。従つて被控訴人が仮に控訴会社から解雇処分を受けなかつた
としても、祖父江町町会議員に就任することによつて、控訴会社から公職休務者と
して取扱われ、就任期間中は給与不支給の取扱を受けることになるのであつて、控
訴会社はこの見地から本件仮処分により仮に従業員たる地位にある被控訴人に対
し、別件(控訴会社を申立人、被控訴人を被申立人とする名古屋地方裁判所昭和四
三年(モ)甲第一七九号事情変更による仮処分取消申立事件)の昭和四三年六月二
四日の第二回口頭弁論期日において被控訴人を就業規則に基づく公職休務者とする
旨の意思表示をした。してみると被控訴人は控訴会社から給与を受け得る地位を失
つたことになるのであるから、控訴会社が被控訴人に対してなした解雇の効力を停
止し、被控訴人に対して従前の賃金と同額の金員を会社に支払うべきことを命ずる
必要性は全く存しないのである。さらに被控訴人が本件仮処分によつて支払を受け
得る金員は年間金三一七、一〇〇円であり、一方祖父江町町会議員としての収入
は、前述議員報酬と期末手当のみにても年間金二九五、四〇〇円であつて、両者は
ほぼ一致している。そしてこのように被解雇者が解雇処分を受けた前後を問わず、
他に職を有しほぼ従前の賃金に匹敵する程度の収入を得ているときは、保全の必要
性はないものと解すべきである。
(ロ) さらに又、原判決は(1)第一項において、解雇の意思表示の効力の停
止、(2)第二項において、従業員としての取り扱い、(3)第三項において、賃
金の仮払いを命じているところ、右(2)(3)の部分については、前記別件名古
屋地方裁判所昭和四三年(モ)甲第一七九号事情変更による仮処分取消申立事件に
おいて取消され(昭和四三年九月二日判決言渡、乙第二八号証)、同判決は確定し
た。従つて現在(1)の部分のみが残つているのであるが、右(1)の部分も次の
理由によつて取消されるべきである。すなわち本件の如き民事訴訟法第七六〇条の
「仮の地位を定める仮処分」は「著しき損害を避け若しくは急迫なる強暴を防ぐた
め又は其の他の理由によりこれを必要とするときに限られる」のであつて、従業員
の解雇の有効、無効が問題となつているケースでは、賃金の支払を受けられないこ
とにより「著しき損害を避ける」ため、はじめて仮処分が認容されるのである。然
るに前述のとおり賃金の仮払いの(3)、従業員としての取り扱いの(2)の部分
が取消された本件について、解雇の意思表示の効力の停止の(1)の部分のみを認
める仮処分の必要性はないというべきである。
(三) なお原判決のうち前述(2)、(3)の部分は別件事情変更による仮処分
取消申立事件判決で取消され、該判決は確定しているが、控訴人としては本件の原
判決は右事情変更を理由にしなくとも、解雇は正当であり、従つて原判決は(1)
ないし(3)のすべてが取消さるべきと思料する。しかして控訴人は右事情変更に
よる仮処分取消判決のあつた後は、いわゆる賃金の仮払いを実行していないが、原
判決の言渡後右取消判決言渡しまでの間に被控訴人に支払つた原判決主文第三項に
基づく金員の返還を求める必要があり、そしてこれを実現するためには、原判決主
文(2)と(3)が、その言渡しの当初から不当であつたことを明らかにし、且つ
このような理由によつて取消されることを必要とするのである。そして控訴人はこ
の点において、(2)、(3)にかかる控訴の利益を有するものと思料する。
三、被控訴代理人の陳述
 控訴人主張の別件の昭和四三年六月二四日の口頭弁論期日に控訴人から被控訴人
を公職休務者とする旨の意思表示のあつたこと、控訴人主張の別件において控訴人
主張のような判決があり、該判決が確定したことはいずれも認める。
四、疎明関係(省略)
       理   由
一、控訴会社は大阪市内に本社を有する各種紙の製造販売を業とする株式会社で、
愛知県中島郡<以下略>地内に祖父江工場を設置操業し、右工場において現在約六
〇〇名の従業員を使用していること、被控訴人は昭和二七年三月新制中学を卒業し
昭和三一年八月控訴会社に雇われ、祖父江工場の工員として一〇年近く抄紙作業に
従事し、昭和四一年二月まで右工場第二抄紙課調成係として勤務していたものであ
ること、控訴会社は昭和四一年二月三日被控訴人に対し同年二月一日付で被控訴人
を本社営業部板紙第一課受渡係に配置換えする旨の本件配転命令をしたこと、控訴
会社は同年三月一日被控訴人に対し、被控訴人が本件配転命令に従わず、長期無届
欠勤をしたのは本社就業規則第五七条(祖父江工場就業規則第六三条)第四号、第
二号に該当し情状とくに重いとして懲戒解雇に付する旨の意思表示をなしたこと、
以上の事実は当事者間に争がない。
二、ところで、被控訴人はまず本件配転命令は労働組合法第七条第一号本文前段に
該当する不当労働行為であるから無効であると主張するので、この点につき判断す
る。
(一) 被控訴人が控訴会社祖父江工場の従業員約六〇〇名中四八四名をもつて組
織される労働組合の組合員で、組合内において、昭和三四年青年婦人部幹事、昭和
三五年青年婦人部役員、昭和三六年青年婦人部副部長、昭和三七年ないし昭和三九
年執行委員と役職を歴任し、昭和四〇年以降は組合の大会に次ぐ決議機関である職
場委員会の委員の地位にあつたこと及び控訴会社の事業所で労働組合が結成されて
いるのは祖父江工場だけであつて、被控訴人が大阪本社に転勤すれば組合員資格を
失うに至ることはいずれも当事者間に争がなく、原判決挙示の各疏明資料に当審に
おける証人A同Bの各証言及び被控訴人本人尋問の結果を総合すると、従来からの
組合活動の状況、組合活動において果した被控訴人の役割、組合活動及び被控訴人
に対する控訴会社の言動については、原判決理由欄二の(二)の(6)のうち「か
つ、申請人の後任の青年婦人部長に予定されていた組合員のCを祖父江工場労務課
に配置換えし(これによりCは組合員資格を喪失することとなる)よつて申請人の
後任の人選難から副委員長立候補を取り止めさせるようなこともあつた」(原判決
二二枚目裏七行目から一一行目まで)とある部分を除くほかは、原判決理由欄中二
の(二)に記載のとおりであったことが疏明される。(ここに右理由記載を引用す
る。)
(二) 然しまた一方、成立に争のない疏乙第四号証、原審証人Dの証言により成
立を認め得る疏乙第五号証の一、二、原審証人D、当審証人E同F、原審及び当審
証人G同H(当審は第二回)の各証言によれば、控訴会社はかねてから経済不況に
伴う業績不振の中にあつたところ、昭和四一年春頃からこれが好転するきざしがみ
えはじめ営業部門の製品の荷動きが活発化し、それに加えて合成樹脂加工部門であ
る加工品課の業務の拡充強化をはかる必要が生じ、これに対処するための機構改
革、人事異動が必要となり、その一環として、従来本社営業部受渡係(右機構改革
により受渡課は廃止され、その事務は板紙第一、第二課、洋紙課に移管された)に
おいて製品受渡を担当としていたIを加工品課に転出せしめ、板紙第一課受渡係の
欠員補充を祖父江工場からすることになつた。ところで、同課受渡係の業務は、同
課において顧客(代理店を経由)から注文を受けた取扱製品の出荷納入にあたり祖
父江工場製品課と連絡し、右製品の輸送を依頼する等納入事務の手配を行う一方、
これに関する請求書を顧客代理店に発送し又出荷数量の記帳整理等の事務処理を行
い、あわせて顧客代理店との間で苦情処理を含む対外的折衝を行うという内容のも
のであつて、その業務を処理するについては同課の取扱製品(商品)であるセミシ
ン紙について若干の商品知識を必要とするほか、顧客代理店と日々接触するので商
取引的感覚ないし対人的交渉能力を若干必要とするが、さほど難しい仕事ではな
く、特別の能力を必要とするものではなかつた。そして前任者である前記Iはもと
祖父江工場において現場の作業員として勤務していた者で、本社受渡係担当者とな
つてからは現場の経験を生かし好成績をあげていたところから、本社総務部長は同
年一月一四日板紙第一課受渡係の選考基準を(1)学歴は中学又は高校普通科卒業
の者でよく(2)職歴は第一、第二抄紙課勤務の者で勤務歴は七、八年(3)年令
は三〇才位までの者と定めて、祖父江工場長に適格者の推せんを依頼したこと、そ
こで同工場長は同月二〇日同工場人事担当者と協議の上右基準該当者一三名のうち
から事務的才能と対人的交渉能力においてすぐれていると認められた被控訴人(被
控訴人がすぐれた対人的交渉能力の持主であることは原審証人J同Kの各証言によ
つても窺える)とLの二名を適格者として人選し、なお右二名のうち被控訴人の方
がより事務的才能を兼備する旨の意見を付して推せんしたので、控訴会社は被控訴
人を適任者であると認め本件配転命令をなしたものであることが疏明され、右の事
実に後記三で認定の各事実を併せ考えると、本件配転命令は控訴会社の業務上の必
要に基づいてなされたものであり、被控訴人を本社営業部板紙第一課受渡係に人選
したことについても一応の合理的理由があつたものと認められる。
(三) そうすれば以上(一)、(二)で認定した各事実を総合して考察すると、
本件配転命令については被控訴人の活発な組合活動を快よしとしない控訴会社が被
控訴人を組合組織のない大阪本社勤務に配置換してその組合活動を阻止しようとい
う意図があつたことは窺えるけれども、しかしこのことが本件配転命令の決定的動
機ないし理由をなしていたとまでは認めることができず、むしろ本件配転命令の主
要な理由は控訴会社の正当な業務上の必要からなされたものと認めるのを相当とす
る。してみると本件配転命令は、被控訴人に対して「不利益な取扱」に当るかどう
かにつき判断するまでもなく、労働組合法第七条第一号本文前段の不当労働行為に
は当らないものというべきである。それ故本件配転命令は右法条の不当労働行為で
あるから無効であるとの被控訴人の主張は理由なく採用することができない。
三、次に被控訴人は本件配転命令は労働協約に違反するから無効であると主張する
ので、以下この点につき考察する。
(一) 被控訴人の所属していた祖父江工場労働組合と控訴会社との間に昭和三九
年五月二一日締結された労働協約第一四条には「人事はこの協約の定めるところに
基づいて会社が慎重且つ公正に之を行う。」旨の規定があり、同第一七条には「会
社は業務の都合により転勤、出向、派遣又は職場並びに職種の変更を命ずることが
できる。この場合、会社は本人の意向、生活条件及び技能を考慮して公平に行
う。」旨の規定があることは当事者間に争がない。
(二) 被控訴人はまず、控訴会社は本件配転命令の発令をするにつきあらかじめ
被控訴人の意向を徴することなく本件配転命令を二月一日決定発令し被控訴人に対
し抜打的に通告したのは本人の意向を無視したもので、前記各条項に違反する旨主
張する。そして本件配転命令の発令につき控訴会社があらかじめ被控訴人の意向を
聞かなかつたことは原審における証人Gの証言及び被控訴人本人尋問の結果により
疏明される。然しながら原審証人G同D同Mの各証言によれば、控訴会社は前記労
働協約第一七条に「本人の意向を考慮して」とあるのは、発令前にあらかじめ本人
の意向を聞きこれを確めるという趣旨ではなく、人事管理の任に当る者が従業員の
平素の勤務などを通じて知り得た範囲での本人の意向を念頭に置き会社の業務の都
合によつて公平に人事異動を行うという趣旨であるとの解釈のもとに従来から人事
の異動を発令するに当りあらかじめ発令前に本人の意向を聞くという取扱いをせ
ず、前述の趣旨で慎重に検討して人事の発令をなし、発令に対して異議ある場合は
その理由を聞き、考慮すべき正当の事由あるときは再考するが、これに該当しない
ときは発令どおりの人事を行うという方針に基づき人事異動を行つて来た(控訴会
社のこの取扱いについては従来組合から格別の異議の申出でもなかつた)ものであ
つて、本件配転についても従来の取扱いと同様右の方針に基づきこれを行つたもの
で、被控訴人の場合だけ本人の意向を全く無視して例外的な取扱いをしたものでは
ないことが疏明される。そして前記労働協約第一七条に「本人の意向を考慮して」
とある条項についての控訴会社の前述解釈は妥当なものとしてこれを是認できる。
従つて控訴会社が本件配転命令の発令をするにつきあらかじめ被控訴人の意向を聞
かずに行つたことを以て労働協約第一七条にいう本人の意向を無視した違法のもの
ということはできず、この点に関する被控訴人の主張は採用できない。
(三) 次に被控訴人は、本件配転命令は、昭和四一年三月被控訴人が結婚する予
定であること、被控訴人が単身大阪に赴任するときは住宅確保の点で著しい不利益
をこうむる結果となること等被控訴人の生活上の条件を考慮することなく行われた
ものである旨主張する。そして被控訴人が昭和四一年三月結婚する予定であつたこ
とは当事者間に争がない。然し原審証人H、原審及び当審証人Gの各証言によれ
ば、被控訴人が単身大阪に赴任しても結婚するまでは大阪本社にある独身寮に居住
することが可能であり、また、被控訴人が結婚した場合には大阪本社の社宅が少い
ため適当な住宅を探さなければならないが、この場合でも大阪本社総務課において
借家の物色自体を応援し、さらに借家契約に伴う敷金ないし保証金等は控訴会社が
これを立替え支弁する等住宅確保の点についても種々援助を与えることになつてい
ることが疏明されるから、被控訴人が住宅確保の点で著しい不利益をこうむる結果
となるとはいえず、また前記各証人の証言によれば、被控訴人が大阪本社勤務者と
して結婚した場合には住宅手当として三、〇〇〇円のほか都市手当として基本給の
一五パーセント(三、一〇五円)及び食事手当として一、八〇〇円が加給される結
果結局総額五、四〇五円の増収となることが疏明されるから、経済的にも不利益を
こうむる結果となるとは必ずしもいい難い。それ故本件配転命令は被控訴人の生活
上の条件を考慮することなく行われたものであるとの被控訴人の主張は採用できな
い。
(四) また、被控訴人は、本件配転命令は被控訴人の学歴、経歴等からして本社
営業部板紙第一課受渡係の業務を処理する技能、能力を欠くことが明らかであるの
にこれを考慮せず行われたものである旨主張するが、原審証人Hの証言によれば、
被控訴人の祖父江工場第二抄紙課調成係としての業務はパルプの濃度の測定、原料
の溶解具合の確認、薬品の添加等を主とし、あわせて原料、薬品等の使用数量を記
帳したり、歩どまりの計算をしたりしていたのであつて、全然事務的な仕事をしな
かつたというわけではないことが疏明され、しかも本件配転先である本社営業部板
紙第一課受渡係の業務の内容は前認定のとおりであつて、これが業務を処理するに
ついては取扱商品であるセミシン紙についての若干の知識と商取引的感覚ないし対
人的交渉能力を若干必要とするが、さほど難しい仕事ではなく、被控訴人が右の業
務を処理する技能、能力を有していたことは前に認定したとおりであるから、本件
配転命令は被控訴人の技能、能力に対する考慮を欠いて行つたものであるとの被控
訴人の主張も採用できない。
(五) なお、被控訴人は本件配転命令は不当労働行為を構成する事由により行わ
れたものでそれ自体不正であり、被控訴人を他の従業員に比し不公正に扱わんとす
るものである旨主張するが、本件配転命令が不当労働行為にあたらないことは前に
説示したとおりであり、その他本件配転命令が他の従業員に比し被控訴人を不公正
に扱つたと認め得べき疏明がないから被控訴人の右主張も採用できない。
 右の次第で、本件配転命令には被控訴人主張の如き労働協約違反の点が認められ
ないので、これが協約に違反するから無効であるとの被控訴人の主張もまた理由な
く採用できない。
四、而して成立に争のない疏乙第八、第二〇、第二一号証、原審証人Gの証言によ
りいずれも成立を認め得る疏乙第一〇、第一二、第一三号証に原審証人D、同G、
同H、当審証人Eの各証言を総合すれば、控訴会社は本件配転発令後被控訴人が配
転命令に従わずこれを拒否し大阪本社へ赴任しようとしないので、被控訴人の赴任
期限を昭和四一年二月一七日まで猶予し、その間祖父江工場職制を通じ数回にわた
り被控訴人に対し大阪本社へ赴任するよう説得したのであるが、被控訴人は配転拒
否の態度を変えず二月一七日に至るも赴任しなかつたこと、そこで控訴会社は本社
就業規則第五七条(祖父江工場就業規則第六三条)に従い同月二二日諮問委員会を
開催し、かつその席上で被控訴人及び組合執行委員長の意見を聞いたが、被控訴人
は大阪本社へ赴任する意思の全くないことを明言したので、同月二六日第二回諮問
委員会を開催し、同委員会の意見を徴した上、同年三月一日付で、被控訴人に対
し、被控訴人が本件配転命令に従わず長期無届欠勤をしたのは本社就業規則第五七
条(工場就業規則第六三条)第四号の「職務上の指示命令に従わず職場の秩序を紊
し又は紊そうとする者」及び第二号の「正当な理由なくして無届欠勤をなす者」に
該当し情状が特に重いとして本件懲戒解雇の通告をなすに至つたものであることが
疏明されるところ、被控訴人は、本件懲戒解雇は本件配転命令が不当労働行為に当
り、かつ労働協約に違反する無効のものであるから、被控訴人が本件配転命令を拒
否しこれに応じないからといつて控訴会社の業務命令に違反するものではなく、ま
た無届欠勤ともいえない旨主張するが、本件配転命令が被控訴人の右に主張するよ
うな理由では無効といい難いこと前に説示したとおりであるから、他に正当な理由
の在することにつき疏明のない本件では、被控訴人は本社就業規則第五条(工場就
業規則第六条)により本件配転命令に従うべき義務があるものといわなければなら
ない。然るに被控訴人は前認定のとおり本件配転命令を拒否しこれに従わず所定期
限までに大阪本社に赴任しないばかりか、その後も配転先の職場に出勤しなかつた
のであるから、控訴会社が被控訴人に対し本社就業規則第五七条(工場就業規則第
六三条)第四号及び第二号に基づき懲戒解雇にしたのは相当であるとしなければな
らない。なお被控訴人は、被控訴人が本件配転命令を拒否し本社営業部への出勤に
応じなかつたのは、組合の配転命令反対闘争の過程において、組合の命令に基づ
き、正当な組合活動の一環としてなしたものであるから、これを理由に懲戒解雇の
処分を行うのはそれ自体不当労働行為を構成する旨主張するけれども、被控訴人が
本件配転命令を拒否しこれに従わなかつたのは、組合が本件配転に反対しているか
ら組合の命令に基づき本件配転に応じなかつたというのではなく、組合の意思如何
に拘らず被控訴人自身の意思に基づくものであること原審における証人Aの証言及
び被控訴人本人尋問の結果により窺えるから、このような事情の下においてなされ
た本件懲戒解雇を目して正当な組合活動の故になされた不当労働行為であるという
ことはできない。
五、そうすると、被控訴人に対する本件懲戒解雇の意思表示の効力を妨げるべき何
等の事由もないことになるから、被控訴人に対する控訴会社の本件懲戒解雇の意思
表示によつて、被控訴人は昭和四一年三月一日限り控訴会社の従業員たる地位を失
つたものというべく、従つてこれが仮の地位を保全する必要上、(1)右解雇の意
思表示の効力の停止とともに(2)被控訴人を祖父江工場第二抄紙課調成係勤務の
従業員として取扱う(3)昭和四一年二月二七日以降の賃金を仮に支払う旨の命令
を求める被控訴人の本件仮処分申請は、結局被保全権利の存在につき疏明がないこ
とに帰するから、仮処分の必要性の有無につき判断するまでもなく、理由がないも
のとして却下さるべきである。
 よつて以上と異なる見解の下に被控訴人の右申請を容れこれと同旨の仮処分を命
じた原判決は相当でないとしなければならない。ところで、原判決言渡後控訴会社
を申立人、被控訴人を被申立人とする名古屋地方裁判所昭和四三年(モ)甲第一七
九号事情変更による仮処分取消申立事件について、昭和四三年九月二日、原判決の
うち前記(2)の被控訴人を祖父江工場第二抄紙課調成係勤務の従業員として取扱
うことを命ずる部分及び(3)の賃金の仮払いを命ずる部分をいずれも無担保(無
担保の点は成立に争のない疏乙第二八号証によつて明らかである)で、取消す旨の
判決言渡があり、この判決が確定したことは当事者間に争がない。そうすると、原
判決中右(2)及び(3)の部分は右取消の確定判決により既に失効したものとい
うべく、従つて控訴人は当審で重ねて右(2)及び(3)の部分の取消を求める利
益ないし必要性を欠くに至つたものといわなければならない。それ故右(2)及び
(3)の部分に対する控訴人の本件控訴はその利益ないし必要性を欠くものとして
却下すべきものとする。控訴人はこの点につき、控訴会社は原判決言渡後右取消判
決言渡しまでの間に被控訴人に支払つた原判決主文第三項に基づく金員の返還を求
める必要があり、そしてこれを実現するためには原判決主文中(2)と(3)の部
分がその言渡しの当初から不当であることを明らかにし、かつこのような理由によ
つて取消されることを必要とするので、右(2)、(3)にかかる控訴の利益を有
する旨主張するが控訴人主張の右金員の返還を実現するためにはその旨の債務名義
(不当利得返還請求権又は損害賠償請求権を本案とする確定判決等)が必要であ
り、本件の如き控訴による仮処分の取消判決だけで直ちに実現できる筋合のもので
はないから、右(2)、(3)の部分についても控訴の利益ないし必要性を有する
旨の控訴人の主張は採用できない。
六、以上の次第であるから、原判決中主文第一項の解雇の意思表示の効力を仮に停
止する部分に関する本件控訴は理由があるからこれを取消し、なお同主文第二項の
従業員として取扱うべきことを命ずる部分及び第三項の賃金の仮払いを命ずる部分
に対する本件控訴はいずれもこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事
訴訟法第九六条、第八九条、第九二条但書、仮執行の宣言につき同法第一九六条、
第七五六条の二を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 福島逸雄 広瀬友信 大和勇美)

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