弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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この判決においては、人物、日時、場所等の特定について、その厳密な言い方が原
判決により自ずから明らかな場合には、初めから簡略な形で、例えば「長谷川小太
郎」のことを単に「小太郎」というように、表示をすることとする。
         主    文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中八〇〇日を原判決の刑に算入する。
         理    由
本件控訴の趣意は、弁護人石田恒久及び同石岡隆司が連名で提出した控訴趣意書
に、これに対する答弁は検察官郡司哲吾が提出した答弁書に、それぞれ記載のとお
りであるから、これらを引用する。
(A殺害関係の控訴理由に対する判断)
一 理由不備の主張について
【要旨第一】論旨は要するに、原判決は、殺害の日時については「昭和六三年七月
二四日午後八時ころから翌二五日未明までの間に」と、殺害の場所については「青
森市内又はその周辺に停車中の自動車内において」と、殺害の実行行為者について
は「B又は被告人あるいはその両名において」と、殺害の方法については「扼殺、
絞殺又はこれに類する方法で」と、死体遺棄の日時については「右の犯行後、同月
二五日未明までの間に」と、死体遺棄の実行行為者については「B又は被告人ある
いはその両名において」というように、択一的な、あるいは厳密な特定をしない認
定をしているが、そのような認定は「罪となるべき事実」の記載として具体性を欠
くものであるから、原判決には理由不備の違法がある、というものである。
しかし、本件においては、原判示のとおり、昭和六三年八月二日にAの死体が発見
されたが、その死後経過時間は解剖時点まで一ないし二週間、最後の食事摂取後死
亡までの時間は、胃の内容物の消化程度からの推定で最大で三時間程度、その死因
は腐敗性変化により隠蔽される程度の外力作用(強力な外力作用による脳その他の
諸臓器の直接的損壊、溺水による窒息、薬物服用による中毒の可能性はいずれも低
い。)としか特定することができない。また、後に判断を示すように、Aは、七月
二四日夕方から「C」で被告人及びBとともに飲食をした後、その夜のうちに殺害
され、死体を遺棄されたが、それが被告人及びBの両名の共謀による仕業であるこ
とには間違いがない。そして、それ以外の者が介在したとは認められないが、関係
証拠を詳しく検討してみても、実行行為者が誰なのかを確定することが困難であ
り、また、犯行の日時、場所、方法についても、原判示第三の程度のことしか言え
ないのである。
このような場合には、原判示のような形で事実認定をするほかはないわけである
が、Aが殺害され、その死体が遺棄されたことについて、被告人の刑事責任の有無
を示し、かつその範囲を画するには、その程度のものでも足りるし、なお、量刑の
判断に当たっては、その中で被告人に最も有利なところを前提とすることになるの
は言うまでもないから、原判示のような「罪となるべき事実」の認定の仕方も、や
むを得ないこととして是認されるのであり、判決の理由不備に当たるものではな
い。論旨は理由がない。
二 理由齟齬の主張について
論旨は要するに、原判決は、その「罪となるべき事実」の中で、犯行の動機につい
て、「Bや被告人が関与した保険金目的による放火等の件をAに吹聴された」とい
うことを認定しているが、「補足説明」においては、そのAが吹聴した放火として
B宅に対する放火だけを挙げていて、しかも被告人がそれに関与したとは認定して
いないのであるから、原判決には理由齟齬がある、というものである。
しかし、原判決の補足説明の関係箇所を見てみると、原判決は、Bが火災保険金騙
取の目的で昭和六二年一一月三〇日に自ら又はその共犯者において自宅に放火をし
たことについて、被告人がその放火行為自体に関与したとは認定していないが、被
告人が昭和六三年四月ころ、Bから相談を受けて、成功した場合には報酬をもらう
約束のもとに、DがBに債権を有する旨の公正証書を作成するのに必要な手続を
し、その公正証書を債務名義としてBのEに対する火災保険金請求権を差し押さえ
るなどして、Bの火災保険金獲得に協力するという形では関与したとの事実を認定
している。従って、原判決が「罪となるべき事実」において、「保険金目的による
放火等の件」をAに吹聴されたとしているのは、B宅の火災について、放火のこと
に限らず、その火災を原因とする保険金の取得のことまで含めてAに吹聴されたと
いう趣旨に解される。
また、原判決は、Aが、B宅の火災はBが火をつけたものだなどと吹聴するように
なったと認定し、その上で更に、Aの吹聴をそのまま放置しておけば噂が広がっ
て、Aが捜査機関から追及される事態が生じ、Aの口から、B宅の放火及び保険金
詐欺のことだけでなく、被告人がF宅放火やG宅放火にも関係していたことまで発
覚する可能性が十分考えられたので、被告人としても、Aの口を封じる必要性があ
ったということを認定している。このような原判決の認定を前提として「罪となる
べき事実」の記載を見てみると、「被告人が関与した保険金目的による放火等の
件」というのは、一連の放火及び保険金取得を一体的にとらえてのものであると解
することができる。そして、原判決は、Aがそのすべてを吹聴したと認定している
わけではない。Aが直接吹聴したのはB宅の件だけであるが、その吹聴により、被
告人が、B宅の件に限らず、他の放火及び保険金取得の件を含めて、自分の関与し
た一連の悪事が発覚しかねないと危惧したというのが、原判決の趣旨であると解さ
れる。
従って、原判決には、表現にやや不正確なところがあるとしても、全体としてみれ
ば、理由の齟齬があるとは言えない。論旨は理由がない。
三 訴因に関する訴訟手続の法令違反の主張について
【要旨第二】論旨は要するに、本件の訴因は、被告人がBと共謀の上、Aを殺害し
てその死体を遺棄しようと企て、被告人が、殺意をもってAの頸部を絞め付けるな
どして、同人を窒息死させて殺害し、続いて被告人が、Aの死体を普通乗用自動車
で貝殻等捨場まで搬送してそこの穴に投棄し、更にBが、二度にわたりタイヤショ
ベルを操作してその穴にほたて貝殻を落とし込んで死体の上に被せ、そのまま放置
してAの死体を遺棄した、ということを骨子とするものであり、これに対し原判決
は、訴因変更手続を経ないで、その実行行為者について、「B又は被告人あるいは
その両名」という形で択一的な認定をしているが、この場合には訴因の変更手続を
要するのであるから、原審の訴訟手続には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令
違反がある、というものである。
しかし、原審における訴訟の経過をみると、検察官側では、被告人の行為として、
Bとの間で、Aを殺害してその死体を遺棄することを共謀したとの事実、及び、右
の共謀に基づき、被告人が単独で、殺害行為を実行するとともに、その死体を貝殻
等捨場まで搬送して穴に投棄するまでの行為をしたとの事実を訴因の中に掲げて、
これを立証しようとし、他方、被告人及び弁護人側では、そのいずれの事実をも全
面的に否定して争ってきたことが明らかである。そして、審理の結果、原判決にお
いては、検察官が立証しようとした事実のうち、右の共謀の事実までは認められる
が、もう一つの被告人が実行行為を担当したとの事実については、証拠上疑問が残
るため、これを認めることができないとされて、結局、原判示のとおりの択一的な
認定がなされるに止まったのである。
このような認定がなされた場合には、被告人として、殺人及び死体遺棄について、
共謀者としての刑事責任を免れないが、同時にその限度で責任を負うにすぎない。
要するに、自分が実行行為を担当したか否かについては、防禦が功を奏したのであ
る。そして、その結果として原判示のような択一的な認定がなされたとしても、そ
のことにより被告人が格別の不利益つまり不意打ちを受けたことにはならないはず
である。従って、本件の場合には、訴因変更を要しないと解するのが相当であるか
ら、原審の訴訟手続には所論のような法令違反はないと言わなければならない。論
旨は理由がない。
四 自白の任意性に関する訴訟手続の法令違反の主張について
論旨は要するに、被告人の警察官に対する自白は、取調べを担当したH警部から、
被告人の子供達が写っている五枚の写真を示された上で、自白をしなければ、子供
達の通う学校等に聞き込みに行った際に、先生や友達に、その子供の父親が人殺し
であることを話すなどと言って脅迫をされたため、やむなくなされたものであり、
検察官に対する自白も、この脅迫の影響下になされたものであるから、その結果作
成された各自白調書にはいずれも任意性がなく、従って、これらの自白調書を証拠
として採用して事実認定に供したという点で、原審の訴訟手続には判決に影響を及
ぼすことが明らかな法令違反がある、というものである。
しかし、原審記録によると、これらの自白調書については、供述の任意性が十分に
肯定される。即ち、被告人の前妻であるIの原審第六四回公判における証言による
と、同女は、昭和六三年八月のお盆を過ぎてから一週間か二週間後に、たまたま家
にいるときに突然警察官の訪問を受けて、被告人の性格等を聞かれるとともに、被
告人が事実を否認しているが、子供の写真を見せれば気持が落ち着くのではないか
という趣旨で、子供の写真の提供方を求められたので、これに応じて、その二、三
日後に、同じ警察官が来たときに、子供達の写真五枚を渡したことが認められる。
一方、H警部の原審第六三回公判における証言によると、被告人は、八月二五日の
夕方に、その五日後の八月三〇日に私選弁護人として選任された弁護士と接見を
し、その際に同弁護士から本当のことを言った方がよいと言われたとして、その後
の取調べで、自分とBがAを殺害することを共謀し、Bがこれを実行したという趣
旨の供述を始めたが、自分が殺害の実行を担当したと述べるには至っていなかった
こと、Iから写真を預かったのは九月一日であるが、被告人は、その写真を見て喜
んでいたものの、写真を見たことにより警察官に対する供述内容を変えたわけでは
ないことが認められる。その後、被告人は、九月二日に松浦検事から取調べを受け
たが、その立会をした検察事務官Jがその経過を克明に記録して、九月三日付けで
取調結果報告書を作成している。そして、それによると、被告人は、かなり長い時
間逡巡した後にようやく自ら口を開いて、自分もBとともに、Aの殺害とその死体
遺棄の実行行為に関与した旨の自白をし、その自白どおりに同日付けの供述調書が
作成されるに至ったことが認められるのである。
他方、被告人は、原審公判において、H警部から右のような脅迫をされたと弁明す
る。しかし、脅迫を受けたとされる時期が、弁護士と接見し、やがてその弁護士を
私選弁護人として選任した時期と相前後しているのであるから、本当にそのような
脅迫を受けたとすれば、当然にそのことを弁護人に訴え出て、そのような不当な取
調べをやめさせるようにしてもらえたはずであるのに、それをした形跡がない。従
って、右の弁明自体が信用できないものである。
以上によると、被告人が子供の写真を見せられたことにより心を動かされて、自白
をするのが早まったという可能性はあると思われるが、H警部が所論が言うような
脅迫をしたとは到底考えられないところであり、原判決がこれらの自白調書につい
てその任意性を肯定したことに誤りはない。論旨は理由がない。
五 事実誤認の主張について
1 論旨は要するに、Aを殺害してその死体を遺棄することについて、被告人がB
と共謀したという事実はなく、また、被告人がそれを実行したという事実もないの
であるから、原判決の認定は、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認であ
る、というものである。
2 原審記録によると、まず、原判決が「前提事実」(七六丁)として認定した一
連の事実関係については、客観的に明白な事柄が多いし、また、所論に鑑み更に検
討を加えてみても、所論が言う程の誤りがあるとは認められないのであって、基本
的には原判決の認定を肯認することができる。
ただ、右の「前提事実」中、「クラウンの車底部の四か所から貝類外套膜の一部と
考えられる組織片様物が採取された」というところは、「クラウンの車底部の四か
所から組織片様物が採取され、そのうち二か所から採取されたものが貝類外套膜の
一部であることが判明した」とするのが正しく(なお、この点に関する各証拠につ
いては、原審において、証拠排除の申立がなされた際の異議棄却決定に示されたと
おり、その証拠能力が肯定される。)、また、その他の細部の事項についても、認
定が不正確なところが幾つかあるが、これらはいずれも、事実認定の帰趨に影響を
及ぼすような性質のものではない。
3 本件においては、Aが、七月二四日の晩Cを出た後に、何者かによって殺害さ
れ、その死体がaの貝殻等捨場に投棄されたことは、右の「前提事実」のとおり明
らかであり、また、右の犯行について、Bが、自らその実行行為を担当したか否か
は別として、犯人として罪責を負うべき立場にあったことも、B自身の供述を含む
関係証拠から十分に認められる。
そこで、被告人がその犯行につきBとの間で事前に共謀をしたと認定することがで
きるか否かということに焦点を当てて、原審記録のほか当審における事実取調べの
結果をも加えて更に検討してみると、右についての判断をするに当たって、特に注
目される事項として指摘しなければならないのは、次のようなことである。
(一) Bは、AがB宅の火災はBの放火によるものだと他に吹聴していることを
聞き知ったため、このまま放置しておけば、B宅放火だけでなく、Bが関与した保
険金目的による他の放火事件にも捜査の手が伸びてそれが発覚するのではないかと
強く危惧し、また、これまで度々Aから理不尽に金を要求されてきた上に、AがB
の妻の退職金まで取ってやるなどと豪語している話も伝わってきたため、Aに対し
て少なからず悪感情を抱き、更に、以前にKから聞いた話を思い起こして、死体を
貝殻等捨場に投棄すれば発覚することもないと考えた。そして、これらのことを動
機として、Aを殺害してその死体を遺棄することを企てるに至り、被告人にその話
を持ちかけて、仲間に加えようとしたことが明らかである。
一方、被告人の側にもAを殺害する動機があったと言える。即ち、被告人は、自分
としても、B宅の火災について、Bに頼まれて保険金請求手続に関与しており、し
かもそれまでの経緯からみて、その火災が放火によるものであることに気付いてい
たと疑われてもやむを得ない立場にあったのであるから、Aにそのような吹聴をさ
れれば、その放火について捜査の手が自分にも及んでくるのではないかと心配した
はずである。特に被告人の場合、後に述べるとおり、そのほかにF宅放火やG宅放
火にも関与しているのであるから、なおさらのことである。実際に被告人は、Bか
ら、Aを殺そうという話を持ちかけられてこれに賛同し、Bの案内により、A殺害
後に死体を投棄すべき場所と考えられていたaの最終処分場に赴き、貝殻等捨場の
穴を確かめているのである。
(二) Aが七月二四日の晩にCを出た後、帰宅することなくその夜のうちに殺害
され、その死体が貝殻等捨場に投棄されたことは明らかであるが、Cを出るときま
でAと一緒にいたのがBと被告人である。即ち、被告人は、当日Bから電話連絡を
受けて、午後四時ころまでに「L」に赴いたが、やがてBもAを自分の軽自動車に
乗せてLに来たので、同店において、それぞれ飲物を注文して、三名で一時間ほど
話をした。Bは、一足先にLから出て行ったが、しばらくしてからLに電話をよこ
して、被告人に対し、Aを連れてBの馴染みの店であるCに来るように求めてき
た。被告人は、少し間をおいてからCに赴いたが、BとAが先に来ていたので、C
において、午後六時ないし七時ころから二時間程度、ビール、イカ刺し、盛り刺し
を注文して飲食をしながら、再び三人で種々話をしているのである。
(三) Cでの飲食が済んでからの状況について、まずBとAが会館用出入口から
出て行き、被告人がその数分後に、一旦は会館用出入口とは反対側の出入口に向か
いながら、すぐに戻ってきて会館用出入口から出て行ったこと、そして、Bは、い
つもと違って、酔って足がもつれたりしてはおらず、被告人にも酔っている様子が
ほとんど見られなかったが、Aだけは、かなり酔っていたようで、誰かが支えなけ
れば歩けず、Bから抱きかかえられるようにして出て行ったことまでは、Cの従業
員らの供述により認められるが、その後の経過については、Bが、そのころから家
にたどり着いたころまでの記憶がどうしてもよみがえらないと述べ、また、被告人
も、後にクラウンの中での尿失禁に関連して指摘するとおり、全く信用しがたい話
をしているため、真相が不明である。この時間帯は、Aが殺害されるのにつながっ
ていく重要な時期であることからすると、被告人とBの両名がそれぞれ、自らの立
場を守るため何か重要な事実を隠しているものとみざるを得ない。Aの胃の内容物
からCでの料理にはなかったものが検出されたということも、その間の事情を物語
っているように思われる。
(四) 被告人とBの両名は、それぞれ一旦帰宅した後、その夜のうちに再び顔を
合わせてしばらくの間行動を共にしている。即ち、Bは、b荘の当時の被告人宅に
電話をかけたところ、被告人の内妻Mが応対に出て、被告人がまだ帰宅していない
ことが分かったので、同女に対し、被告人からB宅に電話をするように伝えて欲し
いと、被告人への連絡方を依頼した。一方、被告人は、Mからポケットベルで呼ば
れて、すぐにMに電話をしたが、Bからの連絡の趣旨を伝えられると、即座に「分
かった」と言って電話を切った。被告人は、その後しばらくして帰宅し、Mに頼ん
で軽自動車を運転させて、その車でB宅に向かったが、その間、自宅を出る前に一
回ようやくBへの電話が通じて、Bと電話で話をし、また、B宅近くの公衆電話が
ある商店の前まで来たときにも、Bに電話をかけると言って車から降りている。そ
して、その際、一旦はMに「もう帰っていい」と告げたが、Mが車の方向転換をす
るときにその後部をコンクリート壁にぶつけるなどして手間取っているうちに、も
う一度Mの車に乗せてもらう気になり、その車でB宅まで行った。するとBが、近
くの空き地に尾灯を付けたまま停まっていた白っぽい自動車から降りてきて、Mの
車の後部を見たりしていたが、やがて被告人は、Mの問いに対し、「待っていなく
てもいい、帰れ、帰れ」と言って帰宅を促した上、Bの運転する白っぽい車の助手
席に乗り込んでどこかへ出かけて行き、しばらくしてから帰宅しているのである。
被告人が一体どのような緊急な目的があって、その日長時間にわたり話をしたはず
のBとの間で、夜かなり遅くなってから頻繁に電話で話をしたり、待ち合わせをし
て再び一緒に行動したりしたのか、また、どこへ何をするために白っぽい車で出か
けて行ったのかについて、被告人からは納得のいくような説明がなされていない。
(五) 被告人は、七月二四日当時、茶色のトヨタクラウンを使用していたが、そ
の助手席シートには、Aの血液型(O型)と一致する人尿が付着していたこと、そ
して、その人尿から催眠・鎮静剤トリアゾラムのヒト尿中主代謝物である1ーヒド
ロキシメチルトリアゾラムが検出されたが、トリアゾラムは、睡眠導入剤ハルシオ
ンの有効成分として含有されているものであることが関係証拠により明らかであ
る。従って、Aは、殺害される前に知らないうちにハルシオンを服用させられ(A
が自らの意思で服用したとみる余地はない。)、かつクラウンの助手席に乗車中に
尿を失禁したものと推認される。失禁をした時期について、被告人は、AがBの事
務所で飲み直すため市役所付近でクラウンからBの車に乗り換えたあとを見ると、
助手席のあたりが濡れていたと説明しているが、尿を失禁するような状態でいなが
ら更に飲み直すということ自体が甚だ不可解であって、右の経緯に関する説明には
看過することのできない虚偽が含まれているものと判断せざるを得ない。そして、
Aが自動車の中で尿を失禁したのは、そこで殺害行為が行われたからではないかと
推認するのが最も合理的である。
(六) 被告人は、不眠症のため、昭和六一年六月ころから青森市cd丁目のN内
科医院に通院して、ハルシオンの錠剤の投薬を受けたことがあり、それが昭和六二
年五月までの間に、合計六一日分に達していた。そして、昭和六三年六月ころ、こ
のような錠剤を粉にしたものが弁当等に付いてくる醤油入れのような容器に入れら
れて、eにあった被告人の事務所の机の引出しに何個か置かれていることがMにも
分かっていたが、同年九月にMが警察官と共に事務所の机の引出しの中を確認した
ときには、それが一つもなかった。このことから、Aにハルシオンを服用させるに
ついて、被告人の意思が何らかの形で働いていたのではないかと、うかがわれなく
もない。
(七) 八月二日にAの死体が発見されたことが端緒となって警察の捜査が始ま
り、八月七日にまずBが容疑者として逮捕されたが、被告人は、その日青森から東
京方面に逃走し、八月一九日に川崎市で逮捕されるまで身を隠している。被告人が
本当に無実であるならば、そのような行動に出る必要はなかったはずである。こと
に被告人の場合、形式的にせよ養父に当たるAが突然死亡しているわけであるか
ら、その行動が、そのような非常時におけるものとしては極めて不自然である。
(八) 被告人は、八月一九日に死体遺棄の疑いで逮捕され、当初犯行を否認して
いたが、八月二五日、後に私選弁護人に選任された弁護士と接見した後、警察官に
よる取調べに対し、Aを殺害し、その死体を遺棄したことについて、共謀をしたと
いう限度ながら、犯行に関与したことを概略認めるに至っている。被告人は、八月
二八日、Bと共謀してAを殺害したとの被疑事実により改めて逮捕されたが、その
被疑事実について、八月二八日の司法警察員による弁解録取に際しては「殺人はし
ていません」と述べた(殺人の実行行為をやっていないという趣旨であろう)ほか
は、八月三〇日(この日私選弁護人が選任されている。)の検察官による弁解録取
に際しても、また、八月三一日の勾留質問においても、「事実はそのとおり間違い
ない」旨答えている。そして、九月二日の検察官の取調べにおいて、Cを出てから
の行動を問われたのに対し、自白の任意性についての判断の中で説示したとおりの
経過により、Aは自分とBの二人で殺した旨、つまり自らも実行行為に加担した旨
の供述をするに至り、続いて九月一七日及び九月一八日には、検察官に対し更に詳
細な自白をしているのである。
被告人の捜査段階における自白の内容については、原判決も指摘するとおり、その
信用性に疑問を抱かせるような箇所が幾つかあることは事実であり、そのため実行
行為の具体的内容を認定することが困難であるが、右のような自白の経緯を考える
と、本件においては、被告人が捜査段階で、自分も共犯者として関与したとして、
自らの刑事責任を認める趣旨の供述をしたこと自体に、少なからず重要な意味があ
ると思われるのであって、右の点を含めて全面的に信用性がないとしてこれを度外
視するのは相当でない。
(九) Bは、Aに対する殺人及び死体遺棄の事実のほか、G宅の放火、O宅の放
火及び保険金詐欺、F宅の放火及び保険金詐欺の各事実についても起訴されて、平
成三年九月一八日には懲役一三年の有罪判決を言い渡され、控訴することなく服役
しているが、その判決においては、Bと被告人との共謀に基づいて、被告人がその
実行を担当してAを殺害するとともに、両名が共同してその死体を遺棄したと認定
されている。Bは、当審の証人として、服役中の黒羽刑務所において改めて尋問を
受けた際に、A殺害及び死体遺棄の事件について、被告人に対する一審判決の結
果、つまりBの証言が信用されず、被告人の言い分が認められて、主犯はBの方で
あると認定されたことを聞かされて、非常に驚き、かつ憤慨もした旨証言してい
る。そしてBは、自分の役目はAを誘い出すことであったにすぎず、被告人が嘘を
ついているという趣旨のことを述べているのであるが、被告人は、その後の公判に
おいて、このB証言についての弁明の機会を与えられたのに、言葉を濁して反論を
しようとしない。
4 原判決が認定した「前提事実」を踏まえた上で、右の3の(一)ないし(九)
において指摘したところを総合すると、Aの殺害及びその死体遺棄は、Bと被告人
の共謀による犯行であること、そして、その共謀は、遅くとも両名及びAが相前後
してCから出て行くころまでの間に成立していたことが推認されるのである。な
お、「前提事実」によると、七月一四日ころには、被告人が、BにおいてA殺害を
Pなる者に依頼していたことを知って腹を立てて、A殺害計画から離脱する旨表明
したというのであるから、それまで一旦成立していた共謀がそこで崩れたようにも
見えるが、その後においても二人が相変わらず頻繁に出会って、緊密な連絡を保ち
続け、その上で、七月二四日に右3(二)ないし(四)で指摘したような行動に及
んでいることからすると、二人の共謀は復活したと認めるのが相当である。
5 所論は、被告人が殺人等の共謀をしたと考えた場合、A殺害の前後における被
告人やBの行動が、A殺害などという重大な犯罪の共謀をした者の行動にしてはお
かしいと主張する。所論がそのような行動として指摘するのは、被告人がAに対
し、BがA殺害を計画していることを教えて忠告したということ、被告人とBは、
七月二四日の夜に二人が別行動をとるようになった後の連絡方法をあらかじめ決め
ておかず、お互いにポケベルの番号すら知らなかったこと、Bが被告人と連絡をと
るのに、直前までAと一緒におり、しかも顔も良く知られているはずのCに二度も
電話をしていること、その夜二人が再び会うことになった際、被告人がわざわざM
の運転する車で出かけて、事情を知らない同女にその場面を目撃させていること、
被告人が、七月二四日の朝には、折込広告を見て商品の仕入れに出かけたり、夜に
帰宅した後も、ビールを飲みながら平然と鋤焼を食べ、間もなく寝てしまうという
ように、日常的に平穏な過ごし方をしていること、などである。
しかし、関係証拠によると、被告人がAに忠告をしたというのは、Aに対し「Bが
Q組の若い衆(Pを指す。)とこそこそしている。ヤバイな。やめた方がいい。」
という趣旨の言葉を述べて、AがBから更に金を脅し取ろうとしていたのを少し抑
えようとしたということであって、その際にA殺害計画のあることまでを打ち明け
てはいないことが認められる。また、重大な犯罪を企て、これを実行したという場
合に、その者が常に用意周到に事を運ぶとは限らず、一見不合理と思われる行動に
出ることが幾らでもあり得るし、他方、ことさら平静さを装うということも少なく
ない。従って、所論が挙げている被告人やBの行動は、必ずしも共謀があったこと
と矛盾するとは言えないのであり、前記の判断を左右するに足りない。
その他詳細な所論に鑑み、種々の観点から検討してみても、A殺害及び死体遺棄に
ついて、被告人が事前に共謀者として加担したことはないとする所論を採用するこ
とはできない。
6 以上のとおり、被告人がBとの間で、Aを殺害し、その死体を遺棄することを
事前に共謀したとの事実については、推論の過程や判断に当たっての重点の置きど
ころが原判決と必ずしも同一ではないが、その結論において、原判決の認定を相当
として是認することができる。そして、直接の実行行為の具体的な内容など詳細な
状況については、原判決が説示するとおり、被告人及びBの供述にそれぞれ信用し
がたいところがあって、真相が分からないことに変わりがないが、A殺害とその死
体遺棄の各犯行が右の共謀に基づくものであることは疑いなく、また被告人及びB
以外にその犯行に関与した者がいるとは認められない。従って、原判決が認定した
限度では、原判決に判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認はないと言うこ
とができる。論旨は理由がない。
(F宅放火関係の控訴理由に対する判断)
一 理由不備の主張について
論旨は要するに、原判決は、F宅に対する放火の実行行為者について、「被告人又
はBあるいはAのいずれかにおいて」というように、実行犯が誰かを特定せずに択
一的な認定をしているが、そのような認定は、「罪となるべき事実」の記載として
具体性を欠くものであるから、原判決には理由不備の違法がある、というものであ
る。
しかし、右の点については、前記「A殺害関係の控訴理由に対する判断」のうち一
の「理由不備の主張について」の箇所で説示したところと同様の理由により、F宅
の放火については、原判示のような「罪となるべき事実」の認定の仕方も、やむを
得ないこととして是認されるのであり、判決の理由不備に当たるものではない。論
旨は理由がない。
二 訴訟手続の法令違反の主張について
論旨は要するに、本件の訴因は、被告人がB、F及びAと共謀の上、F宅に放火を
してその火災保険金を騙取しようと企て、放火については自ら単独でその実行をし
た、ということを骨子とするものであり、これに対し原判決は、訴因変更手続を経
ないで、その実行行為者について、「被告人又はBあるいはAのいずれかにおい
て」という形で択一的な認定をしているが、この場合には訴因変更手続を要するの
であるから、原審の訴訟手続には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があ
る、というものである。
しかし、この点についても、前記「A殺害関係の控訴理由に対する判断」のうち三
の「訴因に関する訴訟手続の法令違反の主張について」の箇所で説示したところと
同様の理由により、本件の場合には、訴因変更を要しないと解するのが相当である
から、原判決に所論のような訴訟手続の法令違反はないと言わなければならない。
論旨は理由がない。
三 事実誤認の主張について
1 論旨は要するに、F宅に放火をして火災保険金を騙取することについて、被告
人がB、F及びAと共謀をしたという事実はなく、また、被告人がそれを実行した
という事実もないのであるから、原判決の認定は、判決に影響を及ぼすことが明ら
かな事実の誤認である、というものである。
2 原審記録によると、原判決が「前提事実」(三四丁)として認定したとおりの
事実が認められるが、それによると、F宅に関する右の各犯行にB、F及びAの三
名が共謀者として関与していたこと、そして、被告人も、その火災保険金が支払わ
れるに当たり、BがFから火災共済金請求権を譲り受けたとする債権譲渡契約書等
の起案をしたり、自らもFに対する架空の債権に基づき、右の請求権を差し押さえ
て配当を受けたりするなど、この共謀に参画していたと疑われてもやむを得ないよ
うな行為をしたことが明らかである。
3 原判決は、右の「前提事実」のほか、Fの供述を主要な証拠として、被告人が
右の三名と共謀の上、F宅に放火をして火災保険金を騙取しようと企てた旨の認定
をしている。そこで、Fの供述状況を検討してみると、まず、Fの平成元年三月二
日付け及び同月三日付け各検察官調書に、この事件と被告人とのかかわりをうかが
わせる事項として、概ね次のような趣旨の供述記載がある。
(一) F宅の火災は、保険金を騙し取るために火をつけたことによるものであ
り、その放火は、F、B、A、被告人が相談してやったことに間違いない。
(二) 昭和六一年一月ころ、AやBに勧められて、自分の家に放火して保険金を
取ることに同意していた。多分四月末ころ、Bと一緒にT会館のロビーに行くと、
間もなく被告人、A、そしてAの運転手をしているRが来て、五人でそこのレスト
ランに入り、Rを除く四名が同じテーブルで食事をしながら話をしたが、その際、
Aが私に「人間は七転び八起きだ。立ち直るためにはどうせ一回素っ裸にならなけ
ればならない。家が燃えてしまっても土地が残るし、更地にもなる。借金を返した
後に金が残れば当座の金になる。一番いいではないか。」という趣旨のことを言っ
た。
(三) 被告人は、その後私に、私の妻(S)が居るところでは火をつけられない
からとして、妻の仕事や勤務日程を問い質してきた。そして、私が、既に妻とは別
居していて、妻の勤務日程は分からない旨答えると、被告人は、妻の休みも知らな
いことをなじる言葉を吐いた上で、「よし分かった。それでは俺がかかあの様子調
べる。」という趣旨のことを言った。
(四) 四月末か五月初めころ、T会館のロビーでB、A、被告人の三名と会った
際に、被告人から「お前のかかあは家に戻っていないみたいだな。夜に行ってみて
も家に電気がついていない。」という趣旨のことを言われた。なお、この時かある
いはその前にT会館で会った時かに、被告人から、F宅の家の鍵を持ってくること
を求められたので、F宅から鍵を持ち出して、五月一二日ころ、その鍵をBに手渡
した。
(五) Bとの間で二回目の公正証書を作ってから一週間位後のことと思うが、被
告人とfの喫茶店「U」で会う約束をして、そこへ行ってみたところ、被告人とB
が来ていた。都合により「U」ではなく、被告人が乗ってきた自動車にBとともに
乗り込んで、三人で話をしたが、その際、被告人が私に「このままでは銀行に全部
保険金を持って行かれてしまうから、Bとの間でやったように、お前が俺に一〇〇
〇万円位借金があることにして公正証書を作ろう。」という趣旨のことを言い、更
に、公正証書を作るのに必要であるとして、被告人に対する私の領収証を準備して
おくように求めてきたので、これを承諾した。なお、私には被告人からの借金はな
い。
(六) それから一日か二日位して、BのVセンターでBと被告人に会ったが、そ
こで、被告人から改めて、公正証書を作らなければならないとして署名等を求めら
れ、委任状と六枚位の領収証に、被告人に言われるまま、住所や氏名を書き、実印
を押した。もっとも、領収証には、Bの事務所にあった認印を押したような気もす
る。
4 Fは、自らもF宅に放火をして保険金を騙取したとの事実で起訴されたが、自
らの事件の公判においても、被告人の事件の公判に証人として呼ばれて尋問を受け
た際にも、自分がこれら犯行に加担したことを否認した。
しかし、Fは、平成三年九月一八日に、右の事実について懲役五年の有罪判決を言
い渡されて、控訴することなく刑に服し、平成六年五月一八日に仮出獄を許され
た。そして、本件の原審第九三回及び第九四回各公判で再度証人として尋問されて
いるが、その際には、自分の裁判では起訴事実を否認したけれども、捜査段階で述
べたことに間違いはなく、裁判で否認をしたのは、A、B、被告人の三人が私の弱
味につけ込んで、いわば私を騙してみんなで保険金を取ろうという計画を立てたこ
とに、私も便乗させられてしまって悔しいという気持があったことと、また、家族
のことやgでの名士たる立場を考えて、自分の名誉を傷つけたくもなかったためで
ある旨の供述をしている。
ただ、この再度の証人尋問の際の供述中には、被告人の方からSの様子を見て来る
という話はなかったと思うとか、B、A、被告人とT会館に集まったのは一回だと
思うとか、T会館のロビーでBとAに会ったときには被告人がいなかったと思うと
か、鍵を持って来いということはBから言われたとか、被告人から渡された委任状
と領収証は、Bの事務所で別の機会に作成しており、そのときには被告人がいなか
ったとかというように、捜査段階での供述内容とは一部相違している箇所がある。
5 このようなFの一連の供述の信用性について考察を加えてみると、結論とし
て、同人の捜査段階における供述は、基本的に信用することのできるものであると
認められる。そして、その根拠として言えるのは、同人が、既に自らの刑が確定
し、仮出獄後の段階において再度証人として尋問を受けた際にも、大筋では捜査段
階でした供述を維持していること、同人が自らの公判等で捜査段階の供述調書の内
容と異なる供述をしたことについては、それなりの納得し得る理由が述べられてい
ること、再度の証言の際に、捜査段階の供述と一部相違する供述をしたのは、その
証言までに、事件当時からみて既に八年という長年月が経過し、しかもその間に服
役期間も介在しているために、記憶が不鮮明になったことによるものと考えられる
こと、更に、その証言の中で、捜査段階での供述内容について、本当はそうでない
と主張したのに捜査官と妥協せざるを得なかったことも一部あるとして、その点を
指摘するなど、そこには真実を述べようとする態度が見受けられることなどであ
る。
6 一方、原判決は、Bの供述について、同人が虚偽の供述をしているのではない
かとの疑念があるとして、全体としてその信用性が低いと判断している。
Bは、F宅の放火と保険金詐欺を共謀したのはB、A、F及び被告人の四人であ
り、それを実行したのは被告人である旨一貫して供述し、平成元年三月一日付け及
び同月二日付け(二通)各検察官調書その他において、その経過を詳細に説明して
いるが、その中には、この事件に深くかかわった者として、被告人の名前が随所に
登場する。例えば、三月下旬ころ、Aが住むhハイツに行き、そこに居た被告人に
誘い出されて、被告人、B、Aの三人と青森港i岸壁に行った際に、車の中でF宅
の放火や全労済への保険加入についての話が交わされたということ、四月中旬こ
ろ、T会館のレストランで、B、A、被告人、Fが会って話をした際に、被告人が
F宅に火をつける話をした上で、Fからその妻Sの様子を聞き出そうとし、また、
多分この日に、F宅の鍵の話が出て、Fが鍵を持ってきてBに渡すことになったと
いうこと、喫茶店で被告人からF宅の間取りを聞かれたので、備付けのナプキンに
図面を書きながら説明してやったことがあるということ、五月中旬ころ、火をつけ
てくれるやつに払う金として、自分が立て替えて現金五〇万円を被告人に渡し、保
険金が下りた後に被告人からその返還を受けたということ、F宅が火事になる一週
間位前にFから鍵を受け取ってAに渡し、同じころ、喫茶店で被告人からアリバイ
を作っておけという話をされたということ、F宅が火事になる二、三日前、B、被
告人、Fの三人で会ったときに、被告人がFの本妻の様子を見るため家の近くで張
り込みをしたときの状況を話していたということ、火事から一週間位して、被告人
から「事務所から玄関へ入る戸が渋くてなかなか開かず、火をつけるために家の中
に入るのが大変だったらしいよ。」などと言われたということ、火事の数日後、F
から電話で警察での取調べの様子を知らせてきたので、その話をその都度Aや被告
人に伝えていたということ、火事から一、二週間経ったころ、被告人に言われて、
Fに対し、全労済へ火事の報告をすることを促したということ、家財道具分の保険
金は出ないとか、W銀行に保険金を差し押さえる動きがあるとかという話を、その
都度被告人に連絡したということ、被告人、B、Fの三人が相談して、W銀行に保
険金を全部持って行かれないようにするために、BがFから保険金請求権を譲り受
けて、保険金を差し押さえることにしたということ、そのころ、被告人が自分に対
し、保険金請求のことについては今後Aは関係がなくなった旨述べていたというこ
と、などがこれに該当する。
Bのこのような供述には、原判決が指摘するような理由により、全面的には信用し
がたい点があることは否定できないが、他方、Fの前記供述と実質的に符合する事
項が多々存することも事実である。従って、Bの供述も、少なくともFの供述と一
致する範囲では、信用することができるように思われる。
7 以上を総合すると、被告人が、A、B及びFとの間で、F宅に放火をして火災
保険金を騙し取ることをあらかじめ共謀したこと、そして、被告人、A、Bのいず
れかにおいて(Fについては、F宅の火災当時、jのX方にいて、放火の実行行為
をしていないことが証拠上明らかである。)、原判示第一の一のとおりF宅に対す
る放火行為を実行したこと、更にその上で、原判示第一の二のとおりの経過によ
り、保険金が騙取されていることを認定するのに十分である。
被告人は、捜査段階以降終始、F宅の放火及び保険金詐欺に関与したことはなく、
公正証書を作って保険金請求権を差し押さえるなどの手続をしたのは、Aから依頼
されて、AがFに対して有する債権の取立てをしようとしたものにすぎないなどと
弁明するが、前記のFの供述その他の関係証拠に照らすと、その弁明はとうてい信
用できないものである。その他所論が指摘する種々の問題点について、逐一検討を
加えてみても、右の認定を覆すに足りるような事由を見出すことはできないから、
原判決に所論のような事実誤認はないと言わなければならない。論旨は理由がな
い。
(G宅放火関係の控訴理由に対する判断)
一 論旨は要するに、G宅に放火をすることについて、被告人がBと共謀をしたと
いう事実はなく、また、被告人がそれを実行したという事実もないのであるから、
原判決の認定は、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認である、というも
のである。
二 原審記録によると、原判決が「前提事実」(六三丁)として認定したとおりの
事実が認められる。なお、右の「前提事実」のうち、被告人がYから、火災保険の
掛金を使ってしまったためその保険が失効したと聞かされたときに、Yを叱り付け
たこと、同じく、Yが警察から事情聴取を受けるに際して、Yに対し被告人の名前
を出さないようにとの指示をしたことについては、被告人が原審公判で否定をして
いるが、捜査段階では、そのようなことがあったことを明白に認めていたのであ
る。
三 右の「前提事実」のとおり、被告人が、すでに競売開始決定がなされているG
宅の土地と建物を、六〇万ないし八〇万円(金額につき関係者の話が一致しな
い。)という安い値段でわざわざ買い受けることにし、しかも、Gに対しては格別
明渡しを急がせるようなことをしていないこと、右の買受けについては、Yの名義
を借り同人が所有権移転登記を経由するという形式を履んだが、被告人は、そのY
に対し、火災保険に加入するように執拗に指示をして、全労済の保険(保険金八〇
〇万円)に加入させたり、G宅の火災についてYが警察から事情聴取を受けるに際
し、被告人の名前を出さないようにと指示したり、Yの不手際でその保険が失効し
てしまっていることが分かったときにYを叱り付けたりしていること、そして、そ
の保険加入後三か月足らずのうちにG宅が放火の被害に遭っていることなどを併せ
考えると、被告人がG宅の放火に深く関与していたのではないかと強く疑われるの
は当然である。
なお、所論は、被告人としては、火災の少し前ころ、Y宛の手紙をG宅に出して、
Gに早く明け渡させるように圧力をかけていたし、また、被告人がYの名義でG宅
を取得するにはそれなりの理由があったのであるから、放火をするつもりでG宅を
取得したわけではないなどと主張するが、いずれの点も、右の疑いを晴らすに足り
るものではない。
四 次に、放火の被害に遭ったGの供述をみると、書証として取り調べられたBの
公判調書謄本中に、Gが昭和六二年二月初めころにT会館で被告人と初めて会った
際に、被告人から火災保険加入の有無を尋ねられたことがある旨の明確な証言記載
があるが、Gが右の点について殊更に虚偽の供述をする理由が見当たらない。ま
た、右の点については、Bも、捜査段階においても原審公判で証言をした際にも、
同様な供述をしている。これらの供述は、被告人とG宅放火との結び付きの有無を
判断する上で軽視できない証拠である。
五 ところで、関係証拠によると、Bは、Gとは家族ぐるみで親しくしていたが、
Gの窮状を見かねて被告人に相談を持ちかけ、その結果、G宅を被告人に買い取ら
せることにしたものであること、G宅の火災のあった夜には、Gやその家族らがB
の主催した花見の宴に誘われて青森に来ていて、そのままB宅に泊まったため、G
宅が無人の状態になっていたが、放火はそのようなときを選んで行われているこ
と、従って、この放火行為については、Bが自らは実行をしていないものの、共犯
者として関与していることが明らかに認められる。そして、Bは、捜査段階におい
てもまた原審公判で証言をした際にも、自らが放火のお膳立てをしたことを率直に
認めているほか、この事件と被告人とのかかわりについても、次のように供述して
いる。即ち、Bは、被告人からG宅の鍵の入手方を依頼されてこれを承諾し、Gが
Vセンターに来た際に、Gが乗ってきた自動車を一時借り出し、その機会にその車
のエンジンキーと一緒にあったG宅の鍵を利用して合い鍵を作成し、それを被告人
に交付したり、また、被告人からGの家族を誘い出すことを依頼されて、五月九日
に花見をすることにし、その予定を被告人にも伝えたりもした、と言うのである。
Bの供述については、その信用性を慎重に吟味しなければならないが、右の鍵の件
と花見の件に関するところなどは、その内容が具体的で、かつ格別不自然なところ
もなくて、大筋においてこれを信用することができる。所論は、Bの供述につい
て、内容のあいまいさ、Bの記憶と客観的事実との食い違い、供述の変遷状況など
を挙げて、その信用性が疑わしいと強調するが、右の諸点について、所論に鑑み更
に検討を加えてみても、いずれもBの供述の信用性に疑いを生じさせるまでには至
らない。
六 一方、被告人は、捜査、公判を通じて犯行を全面的に否認し通しているが、捜
査段階では、G宅の火災はBの放火によるものと思うと述べながら、Bに責任を追
及したことがあるかと問われて「答えたくない」と述べたり、前記のとおり、Yを
叱ったり同人に指示をしたりしたかどうかという重要な事項について、捜査段階と
原審公判段階との間で供述を不自然に変遷させたりしていることからすると、その
供述の信用性には極めて疑わしいものがある。
ところで、被告人は、昭和六二年五月当時は盛岡市k町の「lビルm号室」に居住
しており、Bにはそこの電話番号を教えていないとか、五月九日には盛岡市内でZ
という人物を探していたし、翌五月一〇日には、M、B1と一緒に債権の取立ての
ため水沢まで出かけているから、G宅の火災の時刻(一〇日未明)にG宅のある弘
前に行けるはずがないとかという趣旨の弁明をしている。
しかし、右B1は、原審第九二回公判において、当時右の被告人宅に出入りして電
話当番のようなことをしていたこともあり、Mのビデオレンタル店の会員証を使わ
せてもらった上で、ビデオを借りてきて被告人宅で見たりしていたが、その被告人
宅にBから二回ほど電話がかかってきたことがある旨、そして、五月一〇日には、
被告人に言われて、Mと一緒に水沢市のZのところへ債権取立ての関係で行った
が、そのとき被告人は行っていない旨証言している。また、Mは、原審第七八回公
判において、幾つかあいまいな供述をしているものの、B1が出入りしていたこと
自体は肯定する証言をしているし、平成元年一月三〇日付けの検察官調書では、ビ
デオの件につきB1の証言を裏付ける供述をしている。そして、この調書で更に、
五月九日には、被告人と一緒に、盛岡地方裁判所で強制執行の申立書を提出してか
ら青森に行き、n荘に居住するMの妹のM1のところに立ち寄ったが、翌一〇日の
朝早く盛岡に帰ってきた上、被告人に言われて、B1と二人で水沢市に債権の取立
てに行ったとか、昭和六二年五月当時、土曜日から日曜日にかけて、被告人ととも
に青森市に行くことがよくあったが、そのような折に、被告人が、妹の部屋に来て
から途中で出かけて夜中に帰り、朝方まだ妹が眠っているうちにMとともに盛岡に
帰るということもあった(M1も原審においてそのことを裏付ける証言をしてい
る。)とかという具体的で特徴的な内容を含む供述をしているのである。B1につ
いては、記憶に不正確な部分があることや同人が被告人との関係が必ずしも良好に
経過していたわけではないこと、また、Mについても、当時別の男性と交際中で被
告人のことに関わりたくない気持でいたことなど、所論が指摘するような事情があ
るとしても、同人らが殊更に虚偽の供述をしたとは考えられないのであって、これ
らの証拠によると、五月九日及び一〇日ころにおける被告人の行動について、同人
らが供述するとおりの事実を認めることができる。
なお、被告人は、原審第九九回公判において、M作成にかかる金銭出納帳(押収物
符号九)の五月九日欄にビールを三〇〇〇円で購入した旨の記載があることなどか
ら記憶が喚起されたとして、その日には強制執行申立ての相手方であるB2方でビ
ールを飲んでいたから、盛岡市内にいたはずであるということをも弁明の事情とし
て付け加えているが、被告人が検察官から平成元年二月七日に取調べを受けたとき
には、五月九日の行動について、その日に盛岡地方裁判所に行き、B3の代理人と
してB2の動産に対する強制執行の申立書を提出したという特徴的な事実を突き付
けられながら、その後の行動についてはそれまで何度も尋ねられたがどうしても思
い出せない旨供述していたのに、何年も経てから金銭出納帳を見せられて記憶を喚
起したというのは不自然である。従って、被告人の弁明を採用することはとうてい
できないことになる。
七 以上を総合すると、被告人がG宅を取得した上、そのG宅に放火をして火災保
険金を騙し取ることを企てたこと、そして、そのことについてBとの間で共謀が成
立していて、Bを通じてG宅の合い鍵を入手したり、Gが留守になるようにするた
めに、BにGとその家族を花見に誘わせたりするなど、Bの協力を得た上で、被告
人が自ら原判示第二のとおりの放火行為に及んだことが容易に推認されるのであ
る。そして、その他詳細な所論に鑑み更に検討を加えてみても、原判決に所論のよ
うな事実の誤認があるとは考えられない。論旨は理由がない。
(まとめ)
以上のとおりであって、論旨はいずれも理由がないことになるから、刑訴法三九六
条、刑法二一条により、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 本郷 元 裁判官 小野貞夫 裁判官 吉田 徹)

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