弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人佐藤安俊の上告理由第一点について。
 上告人が本件土地を買い受けるに至つた経緯、本件土地に対する従来の賃貸借関
係、上告人とDとの親族関係等原審の確定した事実関係のもとにおいては、上告人
がDに対して、本件土地の前主と上告人との間の賃貸借契約上の賃貸人たる地位を
承継する旨を約したとする原審の判断は相当である。所論乙一号証の記載は、右の
事実関係と対比してなんら原審の右認定判断を妨げるものとはいえない。したがつ
て、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例は、すべて本件に適切でなく、所
論は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の評価ないし事実の認定を非難するに
帰し、採用できない。
 同第二点について。
 原判決が、所論指摘の認定事実に基づき上告人の被上告人Bに対する本件土地明
渡請求を権利の濫用にあたるとした判断は正当であつて、原判決に所論の違法はな
い。所論引用の判例は、すべて本件に適切でなく、論旨は採用できない。
 同第三点について。
 上告人の本件土地買い取り方の申し入れに対し、被上告人Bがこれに応じなかつ
た時期および事由に関する所論の如き事情は、本件における権利濫用の成否に直接
関係のない事柄であるから、所論は、原判決の結論に影響のない事情について原判
決を非難するにすぎず、論旨は採用に値しない。
 同第四点について。
 原審の所論の事実認定は、原判決挙示の証拠に照らして肯認するに足りるのみな
らず、所論の如き買い取りの動機は直ちに本件における権利濫用の判断の当否に影
響を及ぼすものとはいえない。したがつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採
用できない。
 同第五点について。
 所論原審の認定判断は、原判決挙示の証拠およびこれによつて原審の確定した事
実関係に照らして肯認するに足り、原判決に所論の違法はない。所論は、ひつきよ
う、原審の専権に属する事実の認定を非難するに帰し、採用できない。
 同第六点について。
 上告人の本件土地買い受けの理由について、原審が判断を加えていることは、原
判文上明らかであり、原判決に所論の違法はない。所論は、ひつきよう、原審の専
権に属する事実認定を非難するか、あるいは原審の認定にそわない事実を前提とし
て原審の判断を非難するに帰し、採用できない。
 同第七点について。
 所論甲号証が所論の鑑定の結果に比して特に信頼すべき事情がないかぎり、原審
が右鑑定の結果を採用するにあたり、その正確であることの理由を説示する必要は
なく、その説示を欠く原判決にはなんら所論の違法はない。所論は、ひつきよう、
原審の専権に属する証拠の取捨判断を非難するに帰し、採用できない。
 同第八点について。
 原審が、被上告人Bの賃借権について対抗力を認めたものでないことは、原判示
に照らして明らかであるから、論旨は採用の限りでない。
 同第九点について。
 上告人の被上告人Bに対する本件土地明渡の請求が権利の濫用として許されない
とする原審の判断の正当なることは前記説示のとおりであるから、所論違憲の主張
はすべて前提を欠くに帰し、論旨は採用できない。
 同第一〇点について。
 対抗力を具備しない土地賃借権者に対し建物収去土地明渡を求めることが権利濫
用となる場合においても、土地所有権の取得者が右賃借権者に対し、違法に土地を
占有するものであることを理由に損害の賠償を請求することは許されるのであるか
ら(最高裁判所昭和三九年(オ)第八六八号、同四三年九月三日第三小法廷判決、
民集二二巻九号一七六七頁参照。)、上告人が本件建物収去・土地明渡とともに賃
料相当の損害金の支払を求めている以上、原審がその後者の請求のみを認容したか
らといつて、その手続になんら所論の違法はなく、自己の請求を認容された上告人
としては、この部分について不服を申立てる利益はないから、所論はすべて採用す
ることができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    色   川   幸 太 郎
            裁判官    村   上   朝   一

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