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平成28年6月22日判決言渡
平成27年(行ケ)第10208号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成28年5月18日
判決
原告株式会社シマノ
訴訟代理人弁理士八島耕司
大坂知美
木村満
杉本和之
渡邉幸男
宮脇良平
被告グローブライド株式会社
訴訟代理人弁護士高橋元弘
末吉亙
三浦亮太
弁理士水野浩司
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
特許庁が無効2014-800129号事件について平成27年8月25日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,進歩
性の有無である。
1特許庁における手続の経緯
被告は,平成21年2月16日,発明の名称を「魚釣用リール」とする発明につ
き,特許を出願し(特願2009-33227号),平成25年4月19日,設定登
録(特許第5249076号)を受けた(請求項の数4。甲21,乙1。以下「本
件特許」という。)。
原告は,平成26年7月31日,本件特許の請求項1ないし4に係る発明につい
て特許無効審判を請求し(無効2014-800129号。甲23。),被告は,同
年10月23日,本件特許の上記各発明について訂正請求をした(甲22,25。
以下「本件訂正」という。)。
特許庁は,平成27年8月25日,「訂正請求書に添付された訂正明細書および特
許請求の範囲のとおり訂正することを認める。請求項4についての本件審判の請求
を却下する。請求項1ないし3に記載された発明についての本件審判の請求は,成
り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年9月3日,原告に送達された。
2本件訂正発明の要旨
本件訂正後の本件特許の請求項1ないし3の発明に係る特許請求の範囲の記載は,
次のとおりである(甲22,25。以下,これらの発明をそれぞれ「本件訂正発明
1ないし3」といい,本件訂正発明1ないし3を併せて「本件訂正発明」という。
本件訂正後の明細書及び本件特許の特許公報(甲21)記載の図面を併せて「本件
訂正明細書」という。)。
【請求項1】
「リール本体に内蔵された巻き取り駆動機構に連結されるハンドルの回転操作に
より,リール本体に支持されたスプールに釣糸を巻回する魚釣用リールにおいて,
リール本体に凹状に形成され,前記ハンドルの操作で連動回転するピニオンを部
分的に収容支持するとともに,内部に一方向クラッチが設けられる収容凹部と,
前記収容凹部の開口部と前記ピニオンとの間に磁気回路を形成し,この間に磁性
流体を保持することにより前記開口部をシールする磁気シール機構と,を備え,
前記一方向クラッチは,前記ピニオンを挿通させる磁石と,前記ピニオンに嵌合
されて前記磁石との間で磁気回路を形成して前記磁性流体が保持される筒状の磁性
体と,によってシールされることを特徴とする魚釣用リール。」
【請求項2】
「リール本体に内蔵された巻き取り駆動機構に連結されるハンドルの回転操作に
より,リール本体に支持されたスプールに釣糸を巻回する魚釣用リールにおいて,
リール本体に凹状に形成され,前記ハンドルの操作で連動回転するピニオンを部
分的に収容支持するとともに,内部に一方向クラッチが設けられる収容凹部と,
前記収容凹部の開口部と前記ピニオンとの間に磁気回路を形成し,この間に磁性
流体を保持することにより,前記開口部をシールする磁気シール機構と,を備え,
前記磁気シール機構は,磁石と,該磁石を保持する保持部材と,該保持部材との
間に隙間を生じさせ,前記ピニオンに嵌合されて前記磁石との間で磁気回路を形成
する筒状の磁性体と,前記磁石と前記磁性体との間および前記保持部材と前記磁性
体との間に保持される磁性流体とによって構成され,
前記保持部材は,前記収容凹部の前記開口部をカバーするカバー部材によって支
持され,前記カバー部材と前記保持部材との間にシール部材が介挿されることを特
徴とする魚釣用リール。」
【請求項3】
「筒状の前記磁性体は,非磁性の前記ピニオンに回り止め嵌合されることを特徴
とする請求項2に記載の魚釣用リール。」
3審判における請求人(原告)の主張
本件訂正発明は,甲1(特開2001-25338号公報)に記載された発明(甲
1発明),甲2(特開平11-276042号公報)に記載された発明,甲4(実願
昭63-18054号(実開平1-121769号)のマイクロフィルム)に記載
された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたもの
であるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない(なお,
本件の取消事由と関連しないものは記載を省略した。)。
4審決の理由の要点
(1)甲1発明の認定
甲1発明は,次のとおりである。
「ハンドル1と,ハンドル1を回転自在に支持するリール本体2と,ロータ3
と,リール本体2に支持されたスプール4とを備えたスピニングリールであって,
リール本体2がリールボティ2aを有し,リールホディ2aが内部に機構装着用の
空間を有しており,その空間内には,ロータ3をハンドル1の回転に連動して回転
させるロータ駆動機構5と,スプール4を前後に移動させて釣り糸を均一に巻き取
るためのオシレーティング機構6とが設けられたスピニングリールにおいて,
リールボディ2aの前端にはワンウェイクラッチ51を収納するための凹状の筒
状部14が前方に突出して形成されており,凹状の筒状部14には,ロータ駆動機
構5が有するピニオンギア12が部分的に収容され,
ワンウェイクラッチ51は,第2筒部14bに相対回転不能に装着された外輪5
5と,ピニオンギア12の外周に回転不能に装着された内輪56と,複数のローラ
57と,外輪55の前部に接触して外輪55とロータ57の軸方向前方への移動を
規制するとともに,筒状部14の内部を水密にシールするために設けられたリング
状の部材であり,カバー部材65のシール部65bは合成樹脂弾性体製であり,シ
ール部65bの内周側の先端に形成されたリップ部65cは,内輪56の外周面に
当接し断面が先細りの形状である,
スピニングリール。」
(2)一致点の認定
本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると,次の点で一致する。
「リール本体に内蔵された巻き取り駆動機構に連結されるハンドルの回転操作に
より,リール本体に支持されたスプールに釣糸を巻回する魚釣用リールにおいて,
リール本体に凹状に形成され,前記ハンドルの操作で連動回転するピニオンを部
分的に収容支持するとともに,内部に一方向クラッチが設けられる収容凹部と,
前記収容凹部の開口部をシールするシール機構と,を備え,
前記一方向クラッチは,シールされる魚釣用リール。」
(3)相違点の認定
本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると,次の点が相違する。
シール機構に関して,本件訂正発明1は,「収容凹部の開口部と前記ピニオンとの
間に磁気回路を形成し,この間に磁性流体を保持する」「磁気シール機構」であって,
「ピニオンを挿通させる磁石と,前記ピニオンに嵌合されて前記磁石との間で磁気
回路を形成して前記磁性流体が保持される筒状の磁性体と,によってシール」する
のに対し,甲1発明は,リング状の部材である点。
(4)相違点の判断
ア本件訂正発明1について
(ア)甲1発明への甲2に記載された事項の適用について
特開平11-276042号公報(甲2)には,弾性体製のシールを相対回転す
る回転体に接触させると,シールと回転体との摩擦力が大きいために起こるおそれ
のある回転性能の低下を抑えることを目的として(【0005】),釣り用リールの相
対回転する第1部品と第2部品との間に配置され,前記両部品の隙間をシールする
釣り用リールのシール機構であって,前記両部品のいずれか一方に設けられ他方の
部品との間に間隔をあけて配置された磁気保持手段と,前記磁気保持手段により保
持され前記磁気保持手段と前記他方の部品との隙間を塞ぐための磁性流体と,を備
えた釣り用リールのシール機構を採用すること(【請求項1】),磁気シールが,ボス
部に固定された磁性を有する第1磁気保持部材と,スプール軸に固定された磁性を
有する第2磁気保持部材と,両磁気保持部材に保持される磁性流体とを備えること
(【0076】)が記載されている。
他方,甲1発明は,カバー部材65が,ワンウェイクラッチ51を構成する外輪
55及びローラ57の軸方向前方への移動を規制するとともに,筒状部14の内部
を水密にシールすることが前提となっている。
かかる構成を前提とする甲1発明において,カバー部材65に代えて,外輪55
及びローラ57の軸方向前方への移動を規制する機能を持たないシール機構を採用
することはできない。
そして,たとえ甲2に,弾性体製のシールを相対回転する回転体に接触させると,
シールと回転体との摩擦力が大きいために起こるおそれのある回転性能の低下を抑
えることを目的として,磁気シール機構を採用することが記載されているとしても,
この磁気シール機構にはワンウェイクラッチを構成する外輪及びローラの軸方向前
方への移動を規制する機能がないから,相違点に係る本件訂正発明1の構成とする
ことが,当業者によって容易に想到し得たとはいえない。
仮に,甲1発明のカバー部材65に代えて,甲2に記載された,ボス部に固定さ
れた磁性を有する第1磁気保持部材と,スプール軸に固定された磁性を有する第2
磁気保持部材と,両磁気保持部材に保持される磁性流体とを備えるシール機構を適
用する場合,第2磁気保持部材を,ピニオンギアではなく,内輪56に固定せざる
を得なくなり,そのような構成は,本件訂正発明1の「前記ピニオンに嵌合されて
前記磁石との間で磁気回路を形成して前記磁性流体が保持される筒状の磁性体」と
いう構成とは異なるものであるから,相違点に係る本件訂正発明1の構成とするこ
とが,当業者によって容易に想到し得たとはいえない。
また,甲1の「前記実施形態では,カバー部材65をシール兼用にしたが,カバ
ー部材65と別にシール部材を設けてもよい。」(【0047】)との記載から,甲1
には,カバー部材65以外にシール部材を設けることが示唆されているとしても,
「カバー部材65は,外輪55及びローラ57の軸方向前方への移動を規制すると
ともに,筒状部14の内部を水密にシールするために設けられたリング状の部材で
ある。」(【0035】)との記載を考慮すると,筒状部14の内部をシールできる位
置であって,カバー部材65より外側にシール部材を設けることが示唆されている
といえるところ,このような位置に甲2に記載された前記のシール機構を設ける場
合,第2磁気保持部材を,ピニオンギアではなく,内輪56又は内輪56に隣接す
る部材に固定せざるを得なくなり,そのような構成は,本件訂正発明1の「前記ピ
ニオンに嵌合されて前記磁石との間で磁気回路を形成して前記磁性流体が保持され
る筒状の磁性体」という構成とは異なるものであるから,相違点に係る本件訂正発
明1の構成とすることが,当業者にとって容易に想到し得たとはいえない。
(イ)甲1発明への甲4に記載された事項の適用について
実願昭63-18054号(実開平1-121769号)のマイクロフィルム
(甲4)には,磁性流体利用の密封装置において(1頁18~19行),シャフト2
が非磁性体又は磁化されにくい磁性体である場合には,シャフト2の外周面でポー
ルピース6,7に対向する位置に,強磁性体よりなる磁性リング8を取り付けるこ
と(2頁17行~3頁13行)が記載されている。
他方,甲1発明は,カバー部材65が,ワンウェイクラッチ51を構成する外輪
55及びローラ57の軸方向前方への移動を規制するとともに,筒状部14の内部
を水密にシールすることが前提となっている。
かかる構成を前提とする甲1発明において,カバー部材65に代えて,外輪55
及びローラ57の軸方向前方への移動を規制する機能を持たないシール機構を採用
することはできない。
そして,甲4に記載された密封装置には,ワンウェイクラッチを構成する外輪及
びローラの軸方向前方への移動を規制する機能がないから,相違点に係る本件訂正
発明1の構成とすることが,当業者によって容易に想到し得たとはいえない。
また,ピニオンギア12の材料が明らかでない甲1発明において,シャフトが非
磁性体又は磁化されにくい磁性体であることが前提である甲4に記載された事項を
採用することはできないから,相違点に係る本件訂正発明1の構成とすることが,
当業者によって容易に想到し得たとはいえない。
仮に,甲1発明のカバー部材65に代えて,甲4に記載された,磁性リング8を
シャフト2の定位置に位置決めした磁性流体利用の密封装置を適用する場合,磁性
リング8を,ピニオンギアではなく,内輪56に固定せざるを得なくなり,そのよ
うな構成は,本件訂正発明1の「前記ピニオンに嵌合されて前記磁石との間で磁気
回路を形成して前記磁性流体が保持される筒状の磁性体」という構成とは異なるも
のであるから,相違点に係る本件訂正発明1の構成とすることが,当業者によって
容易に想到し得たとはいえない。
また,甲1の「前記実施形態では,カバー部材65をシール兼用にしたが,カバ
ー部材65と別にシール部材を設けてもよい。」(【0047】)との記載から,甲1
には,カバー部材65とは別にシール部材を設けることが示唆されているとしても,
「カバー部材65は,外輪55及びローラ57の軸方向前方への移動を規制すると
ともに,筒状部14の内部を水密にシールするために設けられたリング状の部材で
ある。」(【0035】)との記載を考慮すると,筒状部14の内部をシールできる位
置であって,カバー部材65より外側にシール部材を設けることが示唆されている
といえるところ,このような位置に甲4に記載された前記の密封装置を設ける場合,
磁性リング8を,ピニオンギアではなく,内輪56又は内輪56に隣接する部材に
固定せざるを得なくなり,そのような構成は,本件訂正発明1の「前記ピニオンに
嵌合されて前記磁石との間で磁気回路を形成して前記磁性流体が保持される筒状の
磁性体」という構成とは異なるものであるから,相違点に係る本件訂正発明1の構
成とすることが,当業者にとって容易に想到し得たとはいえない。
イ本件訂正発明2について
本件訂正発明2は,本件訂正発明1から「一方向クラッチ」が「シールされる」
構成を削除し,本件訂正発明1の「磁気シール機構」が「該磁石を保持する保持部
材」を有する点,「筒状の磁性体」が「保持部材との間に隙間を生じさせる」点,「磁
性流体」が「前記保持部材と前記磁性体との間に保持される」点,「前記保持部材は,
前記収容凹部の前記開口部をカバーするカバー部材によって支持され,前記カバー
部材と前記保持部材との間にシール部材が介挿される」点を限定したものである。
本件訂正発明2は,本件訂正発明1から「一方向クラッチ」が「シールされる」
構成が削除されているが,「収容凹部」の「内部に一方向クラッチが設け」られ,か
つ,「収容凹部の開口部」が「シール」されるのであるから,「一方向クラッチ」が
「シール」される構成を有するに等しい。
そうすると,本件訂正発明2は,本件訂正発明1の発明特定事項を実質的にすべ
て含むものであるから,本件訂正発明1についてと同様の理由により,当業者が容
易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ本件訂正発明3について
本件訂正発明3は,本件訂正発明2に従属し,本件訂正発明2の発明特定事項を
すべて含むものであるから,本件訂正発明2と同様の理由により,当業者が容易に
発明をすることができたものとはいえない。
第3原告主張の審決取消事由
1取消事由1(本件訂正発明1の進歩性の不存在)
(1)甲1発明への甲2に記載された事項の適用について
ア甲1発明に甲2に記載された事項を適用することを妨げる要因はない。
(ア)a審決は,「甲1発明は,カバー部材65が,ワンウェイクラッチ51
を構成する外輪55及びローラ57の軸方向前方への移動を規制するとともに,
筒状部14の内部を水密にシールすることが前提になっている。」として,「かか
る構成を前提とする甲1発明において,カバー部材65に代えて,外輪55及び
ローラ57の軸方向前方への移動を規制する機能を持たないシール機能を採用す
ることはできない。」と認定するが,前提が誤っている。
すなわち,甲1発明では,カバー部材がシール機能を兼ねることは前提ではな
く,カバー部材と別にシール部材を設けることが開示されており,カバー部材6
5に代えて,甲2に記載された磁気シールを適用することができる。
b甲1発明において,内輪56が外輪55より軸方向前方に突出し
ているのは,カバー部材65でシールし,かつ,ユニット化するための組立て補
助部材68を装着することが目的であって,カバー部材65にシール機能を持た
せず,ワンウェイクラッチの構成部品をユニット化しなければ,内輪56を外輪
55より軸方向前方に突出させる必要がないことは自明である。
cそして,甲1発明に,甲2
に記載された磁気シール124
又は125を適用すると,参考
図4,甲2に記載された磁気シ
ール33cを適用すると,参考
図5のとおりの構成となるとこ
ろ,これらの磁気シールは,相違点と認定された磁気シール機構にほかならない。
dしたがって,甲1発明のカバー部材65に代えて,甲2に記載
された,ボス部に固定された磁性を有する第1磁気保持部材と,スプール軸に固
101
12
参考図5
267
265
266
14d
101
12
213
参考図4
210
211
212
14d
定された磁性を有する第2磁気保持部材と,両磁気保持部材に保持される磁気流
体とを備えるシール機構を適用する場合,第2磁気保持部材を,ピニオンギアで
はなく,内輪56に固定せざるを得なくなり,そのような構成は,本件訂正発明
1の「前記ピニオンに嵌合されて前記磁石との間で磁気回路を形成して前記磁性
流体が保持される筒状の磁性体」という構成とは異なるものであるとの審決の認
定は,誤りである。
(イ)a前記(ア)aのとおりであって,甲1発明において,カバー部材65以
外に,甲2に記載された磁気シールを適用することができる。
この場合,例えば,カバー部材65の内周をワンウェイクラッチ51の内輪5
6に接しない内径にして,外輪55及びローラ57の前方への移動を規制する幅
にし,その軸方向前方に磁気シール機構を配置して,筒状部14の開口をシール
すればよいことは,容易に想定できる。
b前記(ア)bのとおり,甲1発明において,内輪56を外輪55より
軸方向前方に突出させる必要がないことは自明である。
cそして,甲1発明に,甲2に記
載された磁気シール124又は12
5を適用すると,参考図6A,甲2
に記載された磁気シール33cを適
用すると,参考図6Bのとおりの構
成となるところ,これらの磁気シールは,相違点と認定された磁気シール機構に
ほかならない。
dまた,本件訂正発明は,ピニオンに非磁性のカラー
部材等を装着して,その上に筒状の磁性体を嵌合させる
場合を含むと解釈される。
参考図7のとおり,第2磁気保持部材366を内輪5
6に固定し,第1磁気保持リング365が磁石で第2磁
101
12
110
111
112
113
参考図6A
101
12
165
166
167
参考図6B
365
366
367
101
参考図7
気保持リング366が磁性体の場合,内輪は,ピニオンギア12に装着されるカ
ラー部材等に相当する。
この磁気シールは,相違点と認定された磁気シール機構にほかならず,第2保
持部材を内輪56に固定しても,本件訂正発明1の構成になる。
eしたがって,甲1発明のカバー部材65以外に,甲2に記載され
た前記のシール機構を設ける場合,第2磁気保持部材を,ピニオンギアではなく,
内輪56又は内輪56に隣接する部材に固定せざるを得なくなり,そのような構
成は,本件訂正発明1の「前記ピニオンに嵌合されて前記磁石との間で磁気回路
を形成して前記磁性流体が保持される筒状の磁性体」という構成とは異なるもの
であるとの審決の認定は,誤りである。
イ被告の主張に対する反論
(ア)「刊行物に記載された発明」については,動機付け
の有無を論じる余地はない。
「刊行物に記載された発明」とは,「刊行物に記載され
ている事項及び記載されているに等しい事項から把握さ
れる発明」である。「記載されているに等しい事項」とは,
記載されている事項から特許出願時における技術常識を
参酌することにより導き出せるものである。
参考図3は,甲1に記載されている事項から導かれるのであるから,甲1に記載
された発明である。
参考図3のままでは,ピニオンギア12の外周面が円筒面ではないので,シール
を構成することができないが,外周面が円筒面の筒状の部材を嵌合させるか,ロー
タ3のボス部を逆転防止機構側に延長すればよいことは自明である。このような参
考図3から派生する構成で,シール部材102に代えて甲1の磁気シールを採用す
ると,後記参考図9の構成になるところ,磁気シールを採用する場合にピニオンギ
ア12に嵌合する筒状の部材を磁性体で形成すればよいことは,甲4に記載されて
12
102
101
参考図3
いる事項であるから,後記参考図9は,甲1及び甲2に記載された発明並びに甲4
に記載されている事項から導かれる構成である。
また,甲2の磁気シールを採用する場合に,ピニオンギア12に嵌合する筒状の
部材を第2磁気保持部材に代えればよいことは,容易に想到できる事項であって,
前記参考図5は,甲1及び甲2に記載された発明から導かれる構成である。
前記参考図4においても,前記参考図3と同様に,そのままではピニオンギアに
つきシールを構成することができないが,外周面が円筒面の筒状の部材を嵌合させ
るか,ロータ3のボス部を逆転防止機構側に延長すればよい。ピニオンギア12に
筒状の部材を嵌合させる場合,シールの観点では,筒状の部材をピニオンギア12
の一部とみなすことができるから,カバー部材65に代えて甲2の磁気シールを採
用すると,後記参考図8の構成になる。この場合,筒状の部材を磁性体にすればよ
いことは,甲4に記載されている事項であるから,後記参考図8は,甲1及び甲2
に記載された発明並びに甲4に記載されている事項から導かれる構成である。
さらに,甲2の磁気シールを採用する場合に,ピニオンギア12に嵌合する筒状
の部材を第2磁気保持部材に代えればよいことは,容易に相当できる事項であって,
前記参考図7は,甲1及び甲2に記載された発明から導かれる構成である。
これらの参考図の構成は,いずれも,甲1,甲2及び甲4に記載された事項から
導かれる当然の帰結であるか,又は,周知の技術であって,動機付けの有無を論ず
る余地はない。
(イ)甲1発明に甲2に記載された事項を適用することに動機付けはある。
甲1及び甲2は,次のとおり,動機付け要素の4項目をすべて満たす。
a本件訂正発明1と甲1及び甲2は,いずれも魚釣用のスビニングリ
ールを対象としていて,技術分野が共通する。
b本件訂正発明1と甲2は,回転軸が挿通される開口をシールするこ
とによる回転性能の低下を抑えるという課題が共通する。本件訂正発明1と甲1発
明は,収容凹部の開口をシールするという課題が共通する。
c本件訂正発明1と甲2は,磁気シールによって海水,砂,異物など
の侵入を防止し,改訂性能の低下を抑えるという作用,機能が共通する。本件訂正
発明1と甲1は,収容凹部の開口をシールして,海水,砂,異物などの侵入を防止
するという作用,機能が共通する。
d甲2には,収容凹部の開口に磁気シールを適用する示唆がある(【0
078】)。甲1には,リップ部65cは「断面が先細りの形状である」(【請求項7】,
【0035】)との記載があり,これはリップ部65cを軸に嵌合させたときの摩擦
力を小さくするためにほかならないから,甲1発明には,回転抵抗を少なくし,回
転性能の低下を抑えることへの示唆がある。
(2)甲1発明への甲4に記載された事項の適用について
ア甲1発明に甲4に記載された事項を適用することを妨げる要因はない。
(ア)a前記(1)ア(ア)aのとおりであって,甲1発明において,カバー部材
65に代えて,甲4に記載された磁気シールを適用することができる。
甲1発明は,ピニオンギアが磁性体の場合を含むところ,甲4に記載された事
項は,シャフトが非磁性体又は磁化されにくい磁性体であることが前提であると
はいえないから,ピニオンギア12が磁性体であっても,甲4に記載された事項
を適用することを妨げるものではない。
ピニオンギア12の材料が明らかでない甲1発明において,シャフトが非磁性
体又は磁化されにくい磁性体であることが前提である甲4に記載された事項を採
用することはできないとの審決の認定は,誤りである。
b前記(1)ア(ア)bのとおり,甲1発明において,内輪56を外輪55
より軸方向前方に突出させる必要がないことは自明であ
る。
cそして,甲1発明に甲4の図4に記載された磁気シ
ールを適用すると,参考図8のとおりの構成となるとこ
ろ,この磁気シールは,相違点と認定された磁気シール
101
12
313
参考図8
310
311
312
14d
314
機構にほかならない。
dしたがって,甲1発明のカバー部材65に代えて,甲4に記載され
た,磁性リング8をシャフト2の定位置に位置決めした磁性体利用の密封装置を
適用する場合,磁性リング8を,ピニオンギアではなく,内輪56に固定せざる
を得なくなり,そのような構成は,本件訂正発明1の「前記ピニオンに嵌合され
て前記磁石との間で磁気回路を形成して前記磁性流体が保持される筒状の磁性体」
という構成とは異なるものであるとの審決の認定は,誤りである。
(イ)a前記(ア)aのとおりであって,甲1発明において,カバー部材65以
外に,甲4に記載された磁気シールを適用することができる。
b前記(ア)bのとおり,甲1発明において,内輪56と外輪55より軸
方向前方に突出させる必要がないことは自明である。
cそして,甲1発明に甲4に記載された磁気シールを
適用すると,参考図9のとおりの構成となるところ,こ
の磁気シールは,相違点と認定された磁気シール機構に
ほかならない。
dまた,前記(1)ア(イ)dのとおりであって,磁気リン
グを内輪56に嵌合させても,本件訂正発明1の構成に
なる。
eしたがって,甲1発明のカバー部材65以外に,甲4に記載された前
記の密封装置を設ける場合,磁性リングを,ピニオンギアではなく内輪56又は
内輪56に隣接する部材に固定せざるを得なくなり,そのような構成は,本件訂
正発明1の「前記ピニオンに嵌合されて前記磁石との間で磁気回路を形成して前
記磁性流体が保持される筒状の磁性体」という構成とは異なるものであるとの審
決の認定は,誤りである。
イ被告の主張に対する反論
(ア)前記(1)イ(ア)のとおりであって,動機付けの有無を論じる余地はな
101
12
120
121
122
123
124
参考図9
い。
(イ)甲1発明に甲4に記載された事項を適用することに動機付けはある。
本件訂正発明1と甲4に記載された事項は,磁性流体シールという技術分野で共
通し,非磁性の軸との間で磁気回路を構成するという課題が共通し,筒状の磁性体
を非磁性の軸に嵌合することによって,磁気回路を構成するという作用,機能が共
通し,甲4は,筒状の磁性体を嵌合する磁性流体シールが適用される分野を限定し
ていないから,示唆があるというべきであって,非磁性の軸に筒状の磁性体を嵌合
することについて,甲4に動機付けがある。
2取消事由2(本件訂正発明2の進歩性の不存在)
本件訂正発明1についての前記1記載の審決の判断は成り立たないから,「本件訂
正発明2は,本件訂正発明1の発明特定事項を実質的にすべて含むものであるから,
本件訂正発明1についてと同様の理由により,当業者が容易に発明をすることがで
きたものとはいえない」という判断は成り立たない。
3取消事由3(本件訂正発明3の進歩性の不存在)
本件訂正発明2についての前記2記載の審決の判断は成り立たないから,「本件訂
正発明3は,本件訂正発明2に従属し,本件訂正発明2の発明特定事項をすべて含
むものであるから,本件訂正発明2と同様の理由により,当業者が容易に発明をす
ることができたものとはいえない」という判断は成り立たない。
第4被告の反論
1取消事由1について
(1)甲1発明への甲2に記載された事項の適用について
ア動機付けの不存在
甲1発明に甲2に記載された事項を適用することに動機付けはない。
(ア)甲1発明は,「カバー部材のピニオンギアとともに回転する内側部材に
当接する部分に先細りのリップを設けたので,内側部材との接触抵抗が小さくなり,
シール構造を採用してもロータの回転抵抗の増加を可及的に抑えることができる。」
(甲1【0016】)ものであるから,甲1から,「弾性体によるシール」について
の課題を認識し得ず,甲1の弾性体によるシールを別のシール機構に変更する動機
付けはない。
また,当業者がスピニングリールにおいて一方向クラッチが収容される収容凹部
の開口部をシールするという課題を認識したとしても,その課題を解決するために
採用する構造は,簡素な弾性体のシール構造であって,あえて部品点数が多く,組
立時に磁性流体の注入作業が必要とされる磁気シールを採用する動機付けはない。
(イ)甲2は,釣り用リールの駆動シャフトを回転可能に支持する軸受を磁
気シール機構でシールすることを開示するものの,スピニングリールに組み込まれ
る一方向クラッチを磁気シール機構によってシールすることを示唆するものではな
い。軸受と一方向クラッチは,目的,機能及び構造が異なるから,甲2に,軸受の
保護を目的とする磁気シール機構が開示されているとしても,そのまま一方向クラ
ッチに転用できるものではない。
また,甲2は,ワンウェイクラッチを収容したスピニングリールを記載している
ものの,このワンウェイクラッチに水が浸入することを防止するためにシール機構
を配置することを開示しておらず,甲2から,一方向クラッチの防水に関する課題
を認識することはできず,磁気シール機構を用いて一方向クラッチをシールすると
いう発想は,生じ得ない。
そもそも,甲2に記載された磁気シール機構は,実施不可能であり,これをその
まま甲1発明に適用するという発想は,当業者に生じない。
イ原告の主張に対する反論
(ア)a(a)甲1発明は,カバー部材65が,ワンウェイクラッチ51を構
成する外輪55及びローラ57の軸方向前方への移動を規制するとともに,筒状部
14の内部を水密にシールすることが前提となっている。甲2に記載された磁気シ
ール機構は,軸受をシールするものであって,ワンウェイクラッチを構成する外輪
及びローラの軸方向前方への移動を規制する機能がないから,甲1発明において,
カバー部材65に代えて,甲2に記載された磁気シール機構を採用することはでき
ない。
(b)甲1発明のシール機構に代えて甲2に記載された磁気シール機構
を採用する場合,スラスト力を作用させないように,前記磁気シールの軸方向後方
の面を,外輪55及びローラ57に接触して軸方向規制するように配設しなければ
ならない。
この場合,ローラ部分で磁気回路が発生することは自明であり,磁気シールする
隙間に十分な磁気回路を形成することができない。また,摩擦抵抗及び磁力により,
ローラ57の円滑な回転,移動による楔作用が困難になり,逆転防止機能が発揮さ
れなくなる。さらに,一般に,一方向クラッチには,ローラの回転性能を維持する
ため,オイルを注油するところ,前記のように磁気シール機構を配設すれば,オイ
ルが磁性流体を混入し,磁性流体本来の性能が低下し,シール機能が発揮されなく
なる。
したがって,前記磁気シールの軸方向後方の面を外輪55及びローラ57に当接
するように変形することには,阻害要因がある。
(c)甲2に記載された磁気シール機構は,磁気シールをユニット化し
たものであるところ,このようなユニット化された磁気シール33cを採用する場
合,甲1発明の抜け止めばね66と外輪55及びローラ57との間で軸方向前方へ
の移動を規制する力を伝達するような構成を採用できず,結果として,外輪55及
びローラ57の軸方向前方への移動を規制する機能を持たないシール機構を採用す
ることになる。
bワンウェイクラッチの内輪を軸方向前端が外輪から突出する長さに
しないという構成は,甲1に開示も示唆もされておらず,この構成が甲1に開示さ
れていることを前提として,本件訂正発明1の進歩性の欠如を裏付けることはでき
ない。
また,甲1発明において,内輪58は,軸方向前端で他の部材に当接することで
位置決めされている。前記の構成を採用すると,内輪58の位置決めが困難となる
ことから,当業者がそのような構成を採用する動機はない。
cスピニングリールにおいては,一方向クラッチを保護するための防
水構の簡素化が指向されているから,当業者が,甲1発明にあえて部品点数の多い
甲2に記載の磁気シール33cを採用する動機はない。
(イ)a甲1には,カバー部材65とは別にシール部材を設ける具体的な構
成は記載されておらず,原告主張の位置にシール部材を設ける構成が開示されてい
るとはいえないから,このような発明が開示されていることを前提に,本件訂正発
明1の進歩性を否定することはできない。
b前記(ア)bのとおり,ワンウェイクラッチの内輪を軸方向前端が外輪
から突出する長さにしないという構成が甲1に開示されていることを前提として,
本件訂正発明1の進歩性の欠如を裏付けることはできない。
cスピニングリールにおいて一方向クラッチを保護するための防水構
造の簡素化が指向されているから,甲1発明にあえて部品点数の多い甲2に記載の
磁気シール33cを採用する動機はない。
d本件訂正明細書【0012】において,「磁気シール機構を構成する
筒状の磁性体は,魚釣用リールのピニオンに直接に嵌合されなくてもよい。例えば,
ピニオンに装着される非磁性の例えばカラー部材等に対して筒状の磁性体が嵌合さ
れる構成であってもよい。」と記載されているのは,本件特許の出願当初,筒状の磁
性体が駆動部材に嵌合されるという構成であったことから,ピニオンのみならず,
ピニオンに非磁性のカラー部材等を装着したものも駆動部材に含まれることを明確
化するために記載されたものであって,本件訂正発明1は,駆動部材ではなく,ピ
ニオンに嵌合されて磁石との間で磁気回路を形成して磁性流体が保持される筒状の
磁性体と特定しているのであるから,前記記載によって,本件訂正発明1は,ピニ
オンに非磁性のカラー部材等を装着してその上に筒状の磁性体を嵌合させる場合を
含むと解釈することはできない。
(2)甲1発明への甲4に記載された事項の適用について
ア動機付けの不存在
甲1発明に甲4に記載された事項を適用することに動機付けはない。
(ア)前記(1)ア(ア)のとおり,甲1の弾性体によるシールを磁気シール機構
に変更する動機付けはない。
(イ)甲4は,玉軸受を有する部分に磁気シール機構を配設し,玉軸受内部
から高清浄度雰囲気又は真空中の空間に対して潤滑剤又は空気などのガスが侵入す
ることを防止するという構成を開示するものの,釣り具と関係のない異なる技術分
野に関する文献であり,外部からの海水,砂,異物等の付着を防止すべく,一方向
クラッチを当該異物等から保護することを目的とする磁気シール機構を示唆するよ
うな記載はなく,その課題や効果も異なっているから,甲1発明のワンウェイクラ
ッチを保護するために,甲1発明のシール機構に代えて,甲4に開示された磁気シ
ール機構を採用する動機付けはない。
イ原告の主張に対する反論
(ア)a(a)甲1発明は,カバー部材65が,ワンウェイクラッチ51を構成
する外輪55及びローラ57の軸方向前方への移動を規制するとともに,筒状部1
4の内部を水密にシールすることが前提となっている。甲4に記載された磁気シー
ル機構は,ワンウェイクラッチを構成する外輪及びローラの軸方向前方への移動を
規制する機能がないから,甲1発明において,カバー部材65に代えて,甲4に記
載された磁気シール機構を採用することはできない。
(b)甲4の第4図の磁気シールは,第3図の磁気シールの変形例であ
るところ,第3図の磁気シール(磁性流体保持部材3)は,ハウジング1に外径側
が固着されたものであって,このような磁性流体保持部材3を採用する場合,外輪
55及びロータ57の軸方向前方への移動を規制する機能を持たないシール機構を
採用することになるのであって,当業者は容易に想到できない。
(c)ピニオンギア12の材料が明らかでない甲1発明において,シャ
フトが非磁性体又は磁化されにくい磁性体であることが前提である甲4に記載され
た事項を適用することはできない。甲4に記載された磁気シール機構は,シャフト
2が非磁性体又は磁化されにくい磁性体である場合には,シャフト2の外周面でポ
ールピース6,7に対向する位置に,強磁性体よりなる磁性リング8を取り付ける
ものであるところ,甲1発明のピニオンギア12が非磁性体であるか明らかでなけ
れば,このような甲4に記載された磁気シールを採用する動機付けはない。ピニオ
ンギア12が磁性体であればなおさらである。
b前記(1)イ(ア)bのとおり,当業者が,ワンウェイクラッチの内輪を軸
方向前端が外輪から突出する長さにしないという構成を採用する動機はない。
c前記(1)イ(ア)cのとおり,当業者が,甲1発明にあえて部品点数の多
い甲2に記載の磁気シール33cを採用する動機はない。
(イ)a前記(1)イ(イ)aのとおり,甲1には,原告主張の位置にシール部材を
設ける構成が開示されているとはいえず,このような発明が開示されていること
を前提に,本件訂正発明1の進歩性を否定することはできない。
b前記(1)イ(イ)bのとおり,ワンウェイクラッチの内輪を軸方向前端が
外輪から突出する長さにしないという構成が甲1に開示されていることを前提と
して,本件訂正発明1の進歩性の欠如を裏付けることはできない。
c前記(1)イ(イ)cのとおり,甲1発明にあえて部品点数の多い甲2に記
載の磁気シール33cを採用する動機はない。
d前記(1)イ(イ)dのとおり,本件訂正発明1は,ピニオンに非磁性のカ
ラー部材等を装着してその上に筒状の磁性体を嵌合させる場合を含むと解釈する
ことはできない。
2取消事由2(本件訂正発明2の進歩性の不存在)
争う。
3取消事由3(本件訂正発明3の進歩性の不存在)
争う。
第5当裁判所の判断
1認定事実
(1)本件訂正発明について
本件訂正発明は,前記第2の2記載のとおりであるところ,本件訂正明細書(甲
22)には,本件訂正発明について,概略,次のとおりの記載がある。
本件訂正発明は,ハンドルの回転操作で駆動する巻き取り駆動機構や逆転防止機
構等の駆動部を収容するリール本体を備えた魚釣用リールに関する(【0001】)。
魚釣用リールは,通常,ハンドルを回転操作することで,動力伝達機構を介して
釣糸をスプールに巻き回しするように構成されており,実釣時にスプールに巻き回
されている釣糸の繰り出しでロータが逆転しないように,逆転防止装置が装備され
ている(【0002】)。
魚釣用リールは,海水,砂,異物等が付着・侵入しやすい厳しい環境下で使用さ
れるため,リールの各部に防水対策が施される。例えば,リール本体の前部に形成
される収容部としての筒状部の開口をカバー部材によってカバーするとともに,該
カバー部材の外周に被覆される弾性部材の内周縁部のリップ部を,前記筒状部内に
配設される駆動軸の外周に摩擦接触させることにより,前記筒状部内の駆動軸との
間に設けられる逆転防止機構に防水構造を施し,内部へ水が浸入しないようにして
いる(【0003】,【0005】)。
しかしながら,前記の防水構造では,前記筒状部内に設けられるカバー部材の前
記リップ部先端と駆動軸との間の同芯度を高精度に得ることが難しく,そのため,
前記リップ部と前記駆動軸との摩擦接触圧が一定せず,防水性能が安定しない。ま
た,使用経過に伴って前記リップ部の先端が摩耗しやすく,防水性能が低下してし
まう。さらに,摩擦接触圧のバラツキ等の影響により,回転部品の回転性能が低下
する(回転が重くなる)等の課題がある。(【0006】,【0007】)
そこで,本件訂正発明は,リール本体に形成される収容部内に設けられる駆動部
への浸水を確実に防止でき,水等が浸入しやすい過酷な環境下においても常に安定
した駆動性能を得ることができる魚釣用リールを提供することを目的とする。本件
訂正発明は,リール本体に内蔵された巻き取り駆動機構に連結されるハンドルの回
転操作により,リール本体に支持されたスプールに釣糸を巻き回しする魚釣用リー
ルにおいて,リール本体に凹状に形成され,前記ハンドルの操作で連動回転するピ
ニオンを部分的に収容支持するとともに,内部に逆転防止機構が設けられる収容凹
部と,前記収容凹部の開口部と前記ピニオンとの間に磁気回路を形成し,この間に
磁性流体を保持することにより前記開口部をシールする磁気シール機構とを備える
ことを特徴とする。この構成によれば,磁気回路によって磁性流体を保持する磁気
シール機構により収容凹部の開口部が効果的かつ確実にシールされるため,収容凹
部内への浸水を確実に防止でき,収容凹部内に収容される,リール本体に内蔵され
た巻き取り駆動機構に連結されるハンドルの回転操作で連動回転するピニオン及び
逆転防止装置である一方向クラッチを含む様々な駆動要素を,海水,砂,異物等か
ら保護することができ,水等が浸入しやすい過酷な環境下においても常に安定した
駆動性能(例えば,逆転防止機能,巻き取り駆動性能など)を得ることができる。
(【0008】~【0010】,【0014】)。
また,前記構成において,前記磁気シール機構は,磁石と,前記ピニオンに嵌合
されて前記磁石との間で磁気回路を形成する筒状の磁性体と,前記磁石と前記磁性
体との間に保持される磁性流体とによって構成されてもよい。これによれば,ピニ
オンに対して筒状の磁性体を嵌合することにより磁気シールが構成されるため,例
えばピニオンを腐食しやすい磁性材料で形成する必要もなく,それにより,ピニオ
ンの腐食等を防止でき(したがって,ピニオンに腐食処理等を施す必要がなく),ま
た,ピニオンを形成する材料が制約されることもないため,最適な材料を選択する
ことが可能になる。また,嵌合される筒状の磁性体により,シール領域における同
芯度(ピニオンと磁気シールとの同芯度)を高精度で得ることができ,したがって,
常に確実なシール状態を実現でき,防水性能の安定性に優れる。なお,磁気シール
機構を構成する筒状の磁性体は,魚釣用リールのピニオンに直接に嵌合されなくて
もよい。例えば,ピニオンに装着される非磁性のカラー部材等に対して筒状の磁性
体が嵌合される構成であってもよい。また,筒状の磁性体は,非磁性のカラー部材
の外周面に例えばメッキ,蒸着(物理的蒸着,化学的蒸着など)によって被着され
る磁性材料から成っていてもよい。(【0012】)
本件訂正発明の実施形態は,次の図1ないし3のとおりである(【0015】)。
図1図2図3
すなわち,実施形態に係る魚釣用リールとしてのスピニングリールのリール本体
1内には,ハンドル軸5が回転可能に支持されており,ハンドル軸5には,巻き取
り駆動機構が係合しており,この巻き取り駆動機構は,ハンドル軸5に一体回転可
ともにハンドル軸5と
直交する方向に延出し,内部に軸方向に延出する空洞部が形成されたピニオン8と
を備えている。ピニオン8は,軸受9を介してリール本体1内に回転可能に支持さ
れるとともに,スプール4側に向けて延出しており,その先端部において,ロータ
3が取り付けられている。なお,軸受9は,リール本体1に螺合される軸受止めネ
ジ30によって保持される。その中間部分にころがり式一方向クラッチ10が取り
付けられている。ピニオン8の内部に形成された空洞部には,ハンドル軸5と直交
する方向に延出し,先端側にスプール4を装着したスプール軸12が軸方向に移動
可能に挿通されている。前記ころがり式一方向クラッチ10は,ピニオン8に対し
て回り止め嵌合された内輪21と,内輪21の外側に配された保持器27と,保持
器27の外側に配された外輪25とを有している。外輪25の内周面には,保持器
27によって保持された複数の転動部材28がフリーに回転できるフリー回転領域
と,複数の転動部材の回転を阻止する楔領域とが形成されており,各転動部材は,
保持器27に設けられたバネ部材によって楔領域に付勢されている。なお,外輪2
5は,保持器27の径方向外側に同心的に配置される回り止めプレート37によっ
てリール本体1に対する回転が阻止されている。このような構成の一方向クラッチ
10において,ピニオン8と共に内輪21が正回転(ロータ3が釣糸巻取り方向に
回転)すると,保持器27の転動部材28が外輪25のフリー回転領域に位置され,
そのため,内輪21の回転力が外輪25に伝達されず(外輪25によって阻止され
ず),したがって,ピニオン8と共にロータ3が支障なく回転する。これに対して,
ピニオンギヤ13と共に内輪21が逆回転(ロータ8が釣糸繰出し方向に回転)し
ようとすると,保持器27の転動部材が外輪25の楔領域に位置するため,内輪2
1の回転力が外輪25に伝達され,これがストッパとなって,ピニオン8及びロー
タ3の回転(逆回転)が阻止される。(【0017】,【0019】~【0022】,【0
024】~【0026】)。
リール本体1には,ハンドル6の操作で連動回転する駆動部材としてのピニオン
8(及び/又は,これと一体に回転する内輪21)を部分的に収容して軸受9によ
り支持する収容凹部40が凹状に形成されている。また,収容凹部40は,前述し
た逆転防止機構の一方向クラッチ10を内部に位置決め状態で収容保持する(収容
凹部40内に逆転防止機構が設けられる)とともに,スプール4側に面する前方側
に開口40aを有している。この開口40aには図中に矢印で示されるルートを経
て水分や異物等が侵入する虞があるため,開口40aがカバー部材42によって部
分的に閉じられるとともに,カバー部材42によって部分的に残された開口部42
aには,この開口部42aと非磁性材料(例えば,銅合金,アルミ合金等)から成
るピニオン8の外周面との間に磁気回路を形成し,かつ,この間に磁性流体を保持
することにより開口部42aをシールする磁気シール機構50が設けられる。なお,
カバー部材42は,その外周端部が止めネジ60によってリール本体1に取り付け
られるとともに,カバー部材42の外周端部の内面とリール本体1の取り付け端面
との間にはシール部材62が介挿されている。一方向クラッチ10やピニオン8等
の駆動要素を収容する収容凹部40内をシールする磁気シール機構50は,ピニオ
ン8を所定の隙間を存して囲繞するように配される磁石51と,これを保持する保
持部材(磁気リング)52と,ピニオン8に嵌合されて磁石51との間に磁気回路
を形成する筒状の磁性体53と,磁石51と筒状の磁性体53との間に保持される
磁性流体55とにより1つのユニットとして構成される。磁石51は,ピニオン8
を挿通させるように,所定の厚さを具備してリング状に形成されており,保持部材
52は,磁石51を両側から挟持して保持するように構成されている。保持部材5
2は,リング状の磁石51を挟持して保持し,かつ,その内側に周方向に沿って凹
所51Aが生じるように形成されており,磁石51と共にカバー部材42によって
支持される。筒状の磁性体53は,鉄系の材料によって形成されており,磁石51
によって,これを保持する保持部材52及び筒状の磁性体53との間に磁気回路が
形成されるようになっている。なお,筒状の磁性体53の長さについては,前記磁
気回路が生じる程度の長さ(磁性流体55を安定して保持できる程度の長さ)を有
していればよく,保持部材51がカバーされるように,保持部材52の軸方向長さ
よりも多少長く形成される。また,磁性体53は,一端が一方向クラッチ10の内
輪21の端面に当て付けられ,かつ,他端がロータ3の端面に当て付けられること
によって位置決めされている。この場合,磁性体53は,非磁性のピニオン8に対
して回り止め嵌合されることが好ましい。すなわち,筒状の磁性体53がピニオン
8と一体回転するように回り止め嵌合(円形嵌合支持)されることにより,磁性体
53の内周とピニオン8の外周との間に水分等が侵入することを効果的に抑制でき
る。磁性流体55は,磁石51,これを保持する保持部材52及び筒状の磁性体5
3によって形成される磁気回路によって,前記凹所51A内及び隙間G内に安定し
て保持され,開口部42aをシールする。(【0028】~【0033】)。
上記構成において,磁気シール機構50は,磁石51とピニオン8に嵌合されて
磁石51との間で磁気回路を形成する筒状の磁性体53と,磁石51と磁性体53
との間に保持される磁性流体55とによって構成されている。このようにピニオン
に対して筒状の磁性体53を嵌合することにより磁気シールが構成されれば,例え
ば,ピニオン8を腐食しやすい磁性材料で形成する必要もなく,それにより,ピニ
オン8の腐食等を防止でき,また,ピニオン8を形成する材料が制約されることも
ないため,最適な材料を選択することが可能になる。さらに,嵌合される筒状の磁
性体53により,シール領域における同芯度(ピニオン8と磁気シールとの同芯度)
を高精度で得ることができ,したがって,常に確実なシール状態を実現でき,防水
性能の安定性に優れる。(【0035】)。
(2)甲1発明について
甲1発明は,前記第2の4(1)記載のとおりであり(当事者間に争いはない。),概
略,次のとおりのものと認められる。
甲1発明は,スピニングリールのロータ駆動装置,特に,リール本体に回転自在
に支持されたハンドルの回転に応じてロータを糸巻き取り方向に駆動するとともに,
前記ロータの糸繰り出し方向逆転を防止するスピニングリールのロータ駆動装置に
関する(【発明の名称】,【0001】。)
一般に,スピニングリールは,ハンドルを有するリール本体と,リール本体に回
転自在に支持されたロータと,外周に釣糸が巻かれるスプールと,ハンドルの回転
をロータに伝達するロータ駆動装置とを有している。ロータ駆動装置は,ハンドル
に連動して回転するフェースギアと,フェースギアと食い違う前後方向に沿って配
置され,フェースギアに噛み合うピニオンギアとを有している。このようなスピニ
ングリールでは,キャスティング時や糸巻き取り時にロータが糸繰り出し方向に逆
転しないように,ロータ駆動装置に逆転防止装置が設けられている。(【0002】)
従来の逆転防止装置は,リール本体の前部とピニオンギアとの間に装着されてお
り,リール本体の前部に装着された,ピニオンギアをリール本体に回転自在に支持
するための転がり軸受の前方に,転がり軸受に接触して配置されている(【000
3】)。
前記逆転防止装置は,逆転を禁止する作動位置と逆転を許可する非作動位置とを
取り得るローラ型のワンウェイクラッチと,ワンウェイクラッチを作動位置と非作
動位置とに切り換える切換機構を備えている。ワンウェイクラッチは,リール本体
の前部に回転不能に装着されるとともにリール本体にねじ込まれたネジにより軸方
向移動不能に装着された外輪と,外輪に対して相対回転可能な内輪と,外輪と内輪
との間に配置され両輪の間にくい込む作動位置と両輪間で遊転する非作動位置とを
とり得る複数の転がり部材と,転がり部材を周方向に間隔を隔てて保持するととも
に前後端を保持する環状保持体とを有している(【0004】)。
前記従来の構成では,釣り糸に大きな張力が作用すると,ロータが軸方向前方に
引っ張られ,ロータに前方へのスラスト力(軸方向の力)が作用し,その力が,ピ
ニオンギアを介し,転がり軸受にも伝達される。転がり軸受にスラスト力が作用す
ると,転がり軸受に接触して配置されたワンウェイクラッチにもスラスト力が作用
し,ワンウェイクラッチの転がり部材にも前方へのスラスト力が作用する。そうす
ると,転がり部材をスラスト力を考慮した寸法にする必要があるとともに,転がり
部材に作用する荷重が不均一になる等の問題が生じるおそれがある。また,ワンウ
ェイクラッチの軸方向への移動を規制するために,スラスト力に耐え得るように重
荷重に対応可能なネジ等を利用する必要がある(【0006】,【0007】)。
そこで,甲1発明は,スピニングリールのロータ駆動装置において,ピニオンギ
アをリール本体に回転自在に支持するためにリール本体の筒状部に装着された軸受
の前方への移動を規制するために,リール本体に固定された規制部材を設けること
により,軸受より前方に設けられたワンウェイクラッチにスラスト力が作用しない
ようにしたものである(【解決手段】,【0009】~【0020】,【0050】)。
甲1発明の実施形態は,次の図1ないし5のとおりである。
図1図2
図3
図4図5
図2の拡大図
すなわち,実施形態に係るスピニングリールは,ハンドル1と,ハンドル1を回
転自在に支持するリール本体2と,ロータ3と,リール本体2に支持されたスプー
ル4とを備えている。リール本体2は,側部に開口を有するリールボティ2aを有
している。リールホディ2aは,内部に機構装着用の空間を有しており,その空間
内には,ロータ3をハンドル1の回転に連動して回転させるロータ駆動機構5と,
スプール4を前後に移動させて釣り糸を均一に巻き取るためのオシレーティング機
構6とが設けられている。リールボディ2の前端には,逆転防止機構13を収容す
るための筒状部14が前方に突出して形成されている。筒状部14は,奥側の小径
の第1筒部14aと第1筒部の前方に第1筒部14aより大径に形成され先端が開
口する第2筒部14bとを有する2段構造の円筒形の部分である。第2筒部14b
の開口側には,環状の係止溝14dが形成されている。(【0021】,【0023】)
ロータ駆動機構5は,ハンドル1が回転不能に装着され左右方向に沿って配置さ
れたハンドル軸10と,ハンドル軸10と一体回転するフェースギア11と,フェ
ースギア11に噛み合うピニオンギア12と,ロータ3の糸繰り出し方向の回転を
防止する逆転防止機構13とを有している。ピニオンギア12は,フェースギア1
1と食い違う前後方向に沿って配置された筒状の部材であり,ピニオンギア12の
前部12aはロータ3の中心部を貫通している。ピニオンギア12の内周側には,
スプール軸15が貫通している。ピニオンギア12の前部12aの外周面には,雄
ネジ部12bが形成されており,この雄ネジ部12bに螺合するナット33により
ロータ3と回転不能に固定されている。ナット33の内周部には,スプール軸15
との間に軸受35が装着されている。この軸受35によりスプール軸15とピニオ
ンギア12の内周面との間には所定の隙間が確保される。また,ピニオンギア12
の前部12aの外周面には,ロータ3及び逆転防止機構13を回転不能に装着する
ための互いに平行な面取り部12cが形成されている。ピニオンギア12は,その
軸方向の中間部と後端部とが,それぞれ軸受16,19を介してリールボディ2a
に回転自在に支持されている。軸受16は,筒状部14の第1筒部14aに軸方向
後方(図2右側)への移動が規制された状態で装着されている。軸受16は,ピニ
オンギア12に装着された内輪16aと,第1筒部14aに装着された外輪16b
と,両輪16a,16bに接触して転動する鋼球16cとを有するボールベアリン
グである。軸受16の内輪16aは,ピニオンギア12の歯部12dの前端部に接
触して配置されている。外輪16bは,第1筒部14aに軸方向後方への移動が規
制された状態で装着されており,かつ,規制手段としての規制部材17により軸方
向前方への移動が規制されている。(【0024】~【0026】)
規制部材17は,ワッシャ状の円板部材であり,第1筒部14aと第2筒部14
bとの段差部14cに,例えば4本の皿ネジ18により固定されている。この規制
部材17の前面に接触して,逆転防止機構13が第2筒部14bに装着されている。
この規制部材17により,ピニオンギア12を介して軸受16にスラスト力が作用
しても軸受16から逆転防止機構13にスラスト力が伝達されない。(【0027】)
逆転防止機構13は,第2筒部14bに収納されたローラ型のワンウェイクラッ
チ51と,ワンウェイクラッチ51を作動状態及び非作動状態に切り換える操作機
構52とを有している。ワンウェイクラッチ51は,第2筒部14bに相対回転不
能に装着された外輪55と,ピニオンギア12の外周に回転不能に装着された内輪
56と,複数のローラ57と,外輪55の前部に接触して外輪55とローラ57と
を覆うカバー部材65とを有している。外輪55は,外周部に複数の突出部55a
を有しており,これらの突出部55aは第2筒部14b側に設けられた凹部14e
に係合している。ここで,突出部55aの先端と第2筒部14bの凹部14eとの
間には径方向の隙間が比較的広く確保され,一方,回転方向へは隙間が狭くなって
いる。このため,外輪55は,内輪56及びローラ57によって自動調芯されるよ
うになっている。また,外輪55の内周面には,くい込み部と遊転部とを有するカ
ム面が形成されている。外輪55の軸方向の長さは,ローラ57の軸方向の長さよ
り短くなっている。外輪55の後方において,第2筒部14bの内部には,保持部
材58が収納されている。保持部材58は,ほぼ円板状の本体部58aと,本体部
58aから軸方向前方に突出する複数の突出部58bとを有している。複数の突出
部58bは,周方向に等角度間隔で形成されており,隣接する突出部58bの間に
複数のローラ57が配置されている。このような状態では,複数のローラ57は,
外輪55と内輪56との間に配置され,保持部材58により円周方向に移動させら
れて両輪の間にくい込む作動位置と両輪の間で遊転する非作動位置とをとり得る。
(【0031】~【0033】)
カバー部材65は,外輪55及びローラ57の軸方向前方への移動を規制すると
ともに,筒状部14の内部を水密にシールするために設けられたリング状の部材で
ある。カバー部材65は,外輪55及びローラ57の前方に筒状部14の第2筒部
14bの内周面と内輪56の外周面とに接触して配置されている。カバー部材65
は,ステンレス合金などワッシャ状の金属製の補強リング65aと,補強リング6
5aを包み込むように形成された合成樹脂弾性体製のシール部65bとを有してい
る。シール部65bの内周側の先端には,リップ部65cが形成されている。リッ
プ部65cは,内輪56の外周面に当接し断面が先細りの形状である。カバー部材
65は,係止溝14dにはめ込まれた抜け止めばね66により,第2筒部14bに
おいて前方への移動を規制されている。抜け止めばね66は,例えば,弾性を有す
る金属製の線材を5角形に折り曲げて形成されている。この抜け止めばね66によ
って軸方向前方にカバー部材65が移動するのを規制することにより,ワンウェイ
クラッチ51全体の軸方向の移動を規制している。(【0016】,【0035】)
内輪56の前部の係止溝56cには,組立補助部材68を着脱自在に装着可能で
ある。組立補助部材68は,ワンウェイクラッチ51を組み付けるときに,内輪5
6に装着して,ワンウェイクラッチ51と切換操作板61とをユニット化して一度
に組み付けできるようにするために装着される。組立補助部材は,C型止め輪形状
の本体部68aと,本体部68aの外周部に放射状に配置された複数の押圧片68
bとを有している。本体部68aは,係止溝56cに着脱自在に係止される。押圧
片68bは,カバー部材65の前側端面を押圧して,カバー部材65の前方への移
動を規制する。このように組立補助部材68を用いると,カバー部材65を内輪5
6側に係止することができる。このため,止め輪67により後方への移動を規制さ
れて内輪56に装着された切換操作板61とカバー部材65との間にワンウェイク
ラッチ51の全ての構成部品を挟持可能になり,ワンウェイクラッチ51と切換操
作板61とをユニット化して組み付け作業や分解作業を行うことができる。(【00
37】,【0038】)
キャスティングが終了すると,ハンドル1を糸巻取方向に回転させるなどしてベ
ールアーム34を糸巻き取り姿勢に戻す。すると,釣り糸がベール41を介してラ
インローラ44に案内され,そこから湾曲してスプール4に案内される。この状態
で仕掛けに魚がかかったり仕掛けが根がかりしたときに,釣り糸に張力が作用する
と,ロータ3の逆転が禁止されているので,ラインローラ44が前方に引っ張られ,
ロータ3に軸方向前方へのスラスト力が作用する。ロータ3に前方へのスラスト力
が作用すると,そのスラスト力がピニオンギア12に伝達され,さらに,ピニオン
ギア12を介して軸受16に伝達される。しかし,軸受16は規制部材17により
外輪16bの前方への移動が規制されているので,軸受16からワンウェイクラッ
チ51にスラスト力が伝達されない。(【0041】)。
このように,本発明では,ワンウェイクラッチ51に前方へのスラスト力が作用
しないので,ローラ57をスラスト力を考慮した寸法にする必要がないとともに,
ローラ57に作用する荷重が不均一になる等の問題が生じるおそれがない。また,
ワンウェイクラッチ51全体の軸方向の移動を,カバー部材65に軽荷重用の抜け
止めばね66を設けることにより規制でき,ネジなどの取付スペースが不要になり,
装置全体の小型化を図ることができる。(【0042】)
前記実施形態では,カバー部材65をシール兼用にしたが,カバー部材65と別
にシール部材を設けてもよい(【0047】)。
(3)甲2について
特開平11-276042号公報(甲2)には,概略,次のとおりの記載がある。
甲2に係る発明は,シール機構,特に,スピニングリールや両軸受リール等の釣
り用リールの相対回転する第1部品と第2部品との間に配置され,両部品の隙間を
シールする釣り用リールのシール機構に関する(【0001】)。
そのスピニングリールにおける実施形態は,次の図9及び10のとおりである。
図9図10
ロータ駆動機構105は,ハンドル101が回転不能に装着されたハンドル軸1
10と,ハンドル軸110とともに回転するフェースギア111と,このフェース
ギア111に噛み合うピニオンギア112とを有している。ハンドル軸110の両
端は,軸受116a,116bを介してリールボディ102aに回転自在に支持さ
れている。この軸受116a,116bの軸方向外方には,外部からの海水や異物
の侵入を防止するための磁気シール124,124がそれぞれ配置されている。こ
の磁気シール124は,両軸受リールについての実施形態1の螺軸26に装着され
たものと同様な構成であり,1対の磁気保持リングと磁性流体とを備えている。(【0
047】,【0048】,【0052】)
ロータ103は,円筒部130と,円筒部130の側方に互いに対向して設けら
れた第1及び第2ロータアーム131,132とを有している。円筒部130と両
ロータアーム131,132とは,例えばアルミニウム合金製であり,一体成形さ
れている。円筒部130の前部には前壁133が形成されており,前壁133の中
央部にはボス部133aが形成されている。ボス部133aの中心部には貫通孔が
形成されており,この貫通孔をピニオンギアの前部112a及びスプール軸115
が貫通している。前壁133の前部にナット113が配置されており,ナット11
3の内部にスプール軸115を回転自在に支持する軸受135が配置されている。
この軸受135の前方にも,磁気シール124と同様な構成の磁気シール125が
配置されている。(【0055】)。
両軸受リールについての実施形態1の螺軸26に装着された磁気シールは,他の
部材に固定された1対の磁気保持リングと,1対の磁気保持リングの間で回転する
螺軸26に接触する磁性流体とを備えている。1対の磁気保持リングは,先端が異
なる極を有する磁性リング部材であり,両磁気保持リング間で磁性流体を保持する
という構成である。(【0032】)
磁気シールの構成は,①他の部材に固定された1対の磁気保持リングと,両磁気
保持リングに挟持されたリング磁石と,磁気保持リングと回転する部材との間に配
置された磁性流体を備え,リング磁石と磁気保持リングと回転する部材とで構成さ
れた磁気回路中で磁性流体を保持することで,回転する部材と他の部材との隙間を
シールする構成のもの(【0027】,【0029】),②他の部材に固定された磁性を
有する磁気保持リングと,回転する部材に固定された磁性を有する第2磁気保持リ
ングと,両磁気保持リングに保持される磁性流体を備え,第1磁気保持リングの凹
溝と第2磁気保持リングの突起部を係合し,その隙間に磁性流体を充填することに
よりシールする構成のもの(【0074】)も可能であり,軸受そのものを磁気シー
ル構造にしたり,軸受と磁気シールをユニット化した変形も可能である。(【007
3】~【0078】)。
磁気シールの装着箇所は,前記の両軸受リール,スピニングリール,トローリン
グリール,電動リールにおける実施形態に限定されるものではなく,片軸受ロール
のスプールを支持する軸受の外気に接触する側やドラグ機構等の内装部品の外気に
接触する側であればどのような位置でもよい(【0078】)。
磁気シール構造の実施形態については,次の記載がある。
「【0027】磁気シール33aは,軸受24aの外側で軸方向に間隔を隔ててボス部6cに固
定された1対の磁気保持リング34,34と,両磁気保持リング34に挟持されたリング磁石
35と,磁気保持リング34とスプール軸16との間に配置された磁性流体36とを備えてい
る。磁気シール33aは,リング磁石35と磁気保持リング34とスプール軸16とで構成さ
れた磁気回路中で磁性流体36を保持することでスプール軸とボス部6cとの隙間をシールす
る。
【0029】磁気シール33bは,磁気シール33aと同様な構成であり,1対の磁気保持リ
ング34,34と,両磁気保持リング34に挟持されたリング磁石35と,磁気保持リング3
4とスプール軸16との間に配置された磁性流体36とを備えている。外側(左側)の磁気保
持リング34と軸受24bとの間には軸受24bの外輪を位置決めする止め輪37が装着され
ている。また,内側の磁気保持リング34の内方には,磁気保持リング34とブレーキケース
65との間をシールするOリング38が装着されている。
【0032】磁気シール53は,側板5a,5bに設けられたボス部54a,54bに軸方向
に間隔を隔てて固定された磁気保持リング55,55と,磁気保持リング55の間で螺軸26
に接触する磁性流体56とを備えている。1対の磁気保持リング55は,先端が異なる極を有
する磁性リング部材であり,両磁気保持リング55間で磁性流体56を保持する。内側の磁気
保持リング55の外周側にはOリング(図示せず)が装着されており,外周側をシールしてい
る。
【0035】軸受57の左側には,図6に示すように磁気シール58が配置されている。磁気
シール58は,螺軸26に装着されたものと同様な構成であり,磁気保持リング59と,磁性
流体60とを備えている。
【0045】このとき,スプール軸16が磁気シール33a,33bによりシールされている
ので,回転性能が低下しにくくなり,スプール12が勢いよく回転する。
【0052】この軸受116a,116bの軸方向外方には,外部からの海水や異物の侵入を
防止するための磁気シール124,124がそれぞれ配置されている。この磁気シール124
は,実施形態1の螺軸26に装着されたものと同様な構成であり,1対の磁気保持リングと磁
性流体とを備えている。
【0055】この軸受135の前方にも磁気シール124と同様な構成の磁気シール125が
配置されている。
【0066】音出しギア235とスプール軸202との間には磁気シール239が装着されて
いる。この磁気シール239の構成は,実施形態1の螺軸26に装着されたものと同様な構成
であり,1対の磁気保持リングと磁性流体とを備えている。なお,磁気保持リングは,固定側
のスプール軸202に設けられている。この磁気シール239によりスプールの回転性能の低
下を抑えてスプール202内に液体が侵入しにくくなる。
【0069】ドラグカバー224の内周部と伝動部材228との間には外側からの液体の侵入
を防止するための磁気シール222が配置されている。磁気シール222も実施形態1の螺軸
26に装着されたものと同様な構成であり,1対の磁気保持リングと磁性流体とを備えている。
なお,磁気保持リングは,ドラグカバー224側に設けられている。伝動部材228は,軸受
221によりスプール軸202に回転自在に支持されている。
【0070】この磁気シール222及びパッキン223によりドラグカバー224の外側から
の液体を侵入も防ぐことができ,ドラグ機構207の性能低下を防止できるとともに,磁気シ
ール239も設けられているので,内部の軸受類の腐食も防止できる。
【0072】ここでは,スプール軸205の周囲に磁気シール222及び磁気シール239を
配置したので,スプールの回転性能を低下させることなくその間への液体の侵入を防止できる。
このため,内部の軸受類の腐食やドラグ機構207の性能低下を防止できる。」「軸受251の
外気と接触する側(図12左側)には磁気シール252が装着されている。この磁気シール2
52も実施形態1の螺軸26に装着されたものと同様な構成であり,1対の磁気保持リングと
磁性流体とを備えている。なお,磁気保持リングは,固定側のモータケース250に設けられ
ている。
【0074】図13は,磁気シールをユニット化した変形例を示している。図13において,
磁気シール33cは,ボス部6cに固定された磁性を有する第1磁気保持リング165と,ス
プール軸16に固定された磁性を有する第2磁気保持リング166と,両磁気保持リング16
5,166に保持される磁性流体167とを備えている。第1磁気保持リング165は,内周
面に磁性流体167を保持するための凹溝165aを有している。第2磁気保持リング166
は,第1磁気保持リング165の内周側に配置されており,外周面に凹溝165aに隙間をあ
けて係合する突起部166aを有している。この凹溝165aと突起部166aとの隙間に磁
性流体167が充填され,両磁気保持リング165,166の隙間がシールされる。なお,第
1磁気保持リング165の外周側と第2磁気保持リング166の内周側とは,それぞれOリン
グ180,181によりシールされている。
【0075】このような構成では,磁気シール33cがユニットかされるので,磁気シール3
3cの装着が容易になる。図14は,軸受そのものを磁気シール構造にした変形例を示してい
る。図14において,磁気シール33dは,軸受24aの外輪を兼ねる第1磁気保持リング1
68と,軸受24aの内輪を兼ねる第2磁気保持リング169と,両磁気保持リング168,
169に保持された磁性流体170とを備えている。第1磁気保持リング168の外周側と第
2磁気保持リング169の内周側とは,それぞれOリング182,183によりシールされて
いる。
【0076】このような構成では,軸受自体を磁気シール構造にしたので,シール機能付きの
軸受をコンパクトな構成で実現できる。図15は,軸受と磁気シールとをユニット化した変形
例を示している。図15において,磁気シール33eは,ボス部6cに固定された磁性を有す
る第1磁気保持部材171と,スプール軸16に固定された磁性を有する第2磁気保持部材1
72と,両磁気保持部材171,172に保持される磁性流体173とを備えている。」
甲2に係る発明により,2つの部品が相対回転すると,一方の部品に設けられた
磁気保持手段に保持された磁性流体が他方の部品との間を塞いでシールするところ,
この磁性流体は流体シールであるため,他方の部品に接触しても両者の間の損失ト
ルクが小さく回転性能の低下を抑えることができる(【0079】)。
(4)甲4について
実願昭63-18054号(実開平1-121769号)のマイクロフィルム(甲
4)には,概略,次のとおりの記載がある。
甲4に係る考案は,高清浄度雰囲気又は真空中で使用される機器,装置の軸受な
どに用いられる磁性流体利用の密封装置に関する(甲4,1頁)。
甲4に係る密封装置は,同軸状に配された内外二つの部材のうちの固定側部材に
磁性流体保持部材が取り付けられ,この磁性流体保持部材に対して径方向で微小隙
間を設けた状態で対向されて磁気回路の一部を構成する磁性リングが回転側の部材
に緩衝材を介して嵌着され,前記微小隙間に磁性流体が保持されていることに特徴
を有する(甲4,4頁,5頁)。
甲4に係る考案によれば,磁性流体保持部材に対向させて磁性流体保持隙間を形
成する磁性リングを緩衝材を介して回転側部材に取り付けるようにしているから,
磁性リングを前記回転側部材に嵌合するだけで,緩衝材が変形することに伴い,嵌
め合い面における締めしろが小さくなって密着度が増す。そのために,磁性リング
と相手部材とに歪みを生じさせることなく軸方向の位置決めを行うことができ,嵌
め合い面における密封効果が高まって内部潤滑剤又は空気などのガスの漏れをなく
せる。したがって,緩衝材で,従来例における位置決めのための部材と潤滑剤又は
空気などのガスの漏れ防止のための部材とを兼ねさせているので,部品点数及び組
立て工数が少なくて済み,また,磁性リングの外径精度を高精度に保ったままの状
態で相手部材に取り付けることができるので,磁性流体保持隙間の精度管理が容易
に行え,低コストでかつ密封性に優れた密封装置を提供することができる(甲4,
10頁,11頁)。
甲4には,従来の技術につき,次の記載がある。
「従来からの磁性流体利用の密封装置を第3図に
示して説明する。
図において,1は中空孔を有するハウジング,2は
ハウジング1に同軸状に挿通支持されたシャフト,3
はハウジング1に外径側が固着されかつシャフト2
に微小隙間を介して対向された環状の磁性流体保持部材,4は磁性流体保持部材3の内径側と
シャフト2との間の微小隙間に保持された磁性流体である。
詳しくは,磁性流体保持部材3は,環状磁石5と,その軸方向の両側に固着された磁性材製
環状板(以下ではボールピースと称する)6,7とで構成されている。磁性流体保持部材3と
シャフト2との間には図中破線で示すような磁気回路Gが形成されている。ボールピース6,
7の内径は環状磁石5の内径よりも小さく設定されているので,ボールピース6,7の内周面
とシャフト2の外周面との間の2箇所が強磁場になっており,この2箇所に磁性流体4が保持
されている。
ところで,例えばシャフト2が非磁性体または磁化されにくい磁性体である場合には,ボー
ルピース6,7とシャフト2との間の隙間に磁性流体4を保持させることができない。
そこで,このような場合には,第4図に示すように,シャフト2の外周面でボールピース6,
7に対向する位置に,強磁性体よりなる磁性リング8を取り付けている。
この磁性リング8をシャフト2の定位置に位置決めするには,例えば接着剤を用いたり,位
置決め部材を用いたりあるいは圧入嵌合したりすることが行われる。さらに,磁性リング8と
シャフト2とが互いに硬質な部材同志の嵌め合いなので,この嵌め合い面より内部潤滑剤また
は空気などのガスが洩れ出るのを阻止するために,前記嵌め合い面におけるシャフト2にOリ
ング9を取り付けている。」
2取消事由に対する判断
(1)取消事由1(本件訂正発明1の進歩性の不存在)について
ア甲1発明への甲2に記載された事項の適用について
(ア)甲1発明に甲2に記載された事項を適用することには,次のとおり,
動機付けがあるとは認められない。
確かに,前記1(2)及び(3)によれば,甲1発明と甲2に記載された事項は,いず
れも魚釣り用リールに関するものであり,甲2には,磁気シールの装着箇所につき,
「内装部品の外気に接触する側であればどのような位置でもよい」(【0078】)と
の記載があることが認められる。
しかしながら,甲2には,実施形態として,軸受の近辺や,軸受そのものを磁気
シール構造にしたり,軸受と磁気シールをユニット化した変形が記載されており
(【0027】,【0029】,【0032】,【0035】,【0045】,【0052】,
【0055】,【0066】,【0069】,【0070】,【0072】,【0074】~
【0076】),ワンウェイクラッチ151が記載されたスピニングリールにおける
実施形態2において,ワンウェイクラッチ151が設けられる収容凹部の開口部に
磁気シール構造を設けることについての記載はなく,一方向クラッチを含む収容凹
部内に収容される駆動要素の防水(甲22【請求項1】~【請求項3】,【0011】)
という本件訂正発明の課題を認識するに足りる記載はない。
したがって,甲2から,磁気シール機構を一方向クラッチを含む収容凹部内に収
容される駆動要素の防水に適用する動機付けは認められない。
また,甲1には,「カバー部材は,内周側に内輪の外周面に当接し断面が先細りの
リップ部を有する少なくとも一部が弾性体製の部材である。この場合には,カバー
部材のピニオンギアとともに回転する内側部材に当接する部分に先細りのリップ部
を設けたので,内側部材との接触抵抗が小さくなり,シール構造を採用しても,ロ
ータの回転抵抗の増加を可及的に抑えることができる。」(【0016】)との記載が
あり,かかる弾性体の部材によるシールについて,防水性能が安定しない,低下す
る(甲22【0006】),回転部品の回転性が低下する(甲22【0007】)とい
う本件訂正発明の課題を認識するに足りる記載はない。
したがって,甲1から,カバー部材65によるシール機構を他のシール機構に変
更する動機付けは認められない。
以上によれば,甲1発明に甲2に記載された事項を適用することに動機付けがあ
るとは認められない。
(イ)しかも,次のとおり,甲1発明に,カバー部材65に代えて,外輪5
5及びローラ57の軸方向前方への移動を規制する機能を持たない甲2に記載され
たシール機構を適用することはできない。また,甲1発明において,カバー部材6
5と別にシール部材を設け,当該シール部材に代えて,甲2に記載されたシール機
構を適用しても,本件訂正発明1の構成にはならない。
a前記1(2)によれば,甲1においては,カバー部材につき,①リール
本体に対して軸方向に移動不能に配置され,ワンウェイクラッチの外側部材(外輪)
の前部に接触して外側部材(外輪)と転がり部材(ローラ)とを覆い,外側部材(外
輪)及び転がり部材(ローラ)の軸方向前方への移動を規制する機能を有するとと
もに,②外側部材(外輪)より開口側で軸方向移動不能に装着され,内側部材(内
輪)の外周面と第2筒部の内周面との隙間をシールする機能を有するものとされ,
その構造は,内周側に内輪の外周面に当接し断面が先細りのリップ部を有する少な
くとも一部が弾性体製のリング状の部材であり,このリップ部がシール機能を有す
るものとされている。
したがって,甲1発明におけるシール機能を有するカバー部材としてのカバー部
材65は,ワンウェイクラッチの外輪及びローラの軸方向前方への移動を規制する
機能を有するものであると認められ,甲1発明は,カバー部材65が,ワンウェイ
クラッチ51を構成する外輪55及び57の軸方向前方への移動を規制することが
前提となっているといえる。
そして,甲2に記載された事項は,釣り用リールのシール機構であって,甲2に
おいて,当該シール機構が,ワンウェイクラッチ全体又はその構成要件の軸方向前
方への移動を規制する機能を有するという記載はない。
以上によれば,前記の構成を前提とする甲1発明に,カバー部材65に代えて,
外輪55及びローラ57の軸方向前方への移動を規制する機能を持たない甲2に記
載されたシール機構を適用することはできない。
bまた,前記1(2)のとおり,甲1には,甲1発明の実施形態につき,「前
記実施形態では,カバー部材65をシール兼用にしたが,カバー部材65と別にシ
ール部材を設けてもよい。」(【0047】)との記載があるところ,前記aのとおり,
甲1においては,カバー部材がシール機能を有する場合,内側部材(内輪)の外周
面と第2筒部の内周面との間の隙間をシールするとされているのであって,ピニオ
ンの外周面との間のシールについては記載がない。そうすると,甲1発明において,
カバー部材65と別にシール部材を設ける場合,当該シール部材は,ワンウェイク
ラッチの構成要件である内輪の外周面と,筒状部である第2筒部の内周面をシール
する位置に設けることになり,ピニオンギアと第2筒部の内周面をシールする位置
に設けることにはならない。
前記1(1)のとおり,本件訂正発明1は,筒状部である収容凹部の開口部を,開口
部と「前記ピニオンに嵌合されて前記磁石との間で磁気回路を形成して前記磁性流
体が保持される筒状の磁性体」との間でシールをするシール機構を有するものであ
り,甲1発明において,カバー部材65と別にシール部材を設け,当該シール部材
に代えて,甲2に記載されたシール機構を適用しても,本件訂正発明1の構成には
ならない。
(ウ)まとめ
したがって,本件訂正発明1は,本件出願時,当業者が,甲1発明及び甲2に記
載された事項から容易に発明をすることができたとはいえない。
イ甲1発明への甲4に記載された事項の適用について
(ア)甲1発明に甲4に記載された事項を適用することには,次のとおり,
動機付けがあるとは認められない。
まず,前記ア(ア)のとおり,甲1から,カバー部材65によるシール機構を他のシ
ール機構に変更する動機付けは認められない。
また,甲4には,前記1(4)のとおり,魚釣用リールのワンウェイクラッチが設け
られる収容凹部の開口部に磁気シール構造を設けることについての記載はなく,一
方向クラッチを含む収容凹部内に収容される駆動要素の防水(甲22【請求項1】
~【請求項3】,【0011】)という本件訂正発明の課題を認識するに足りる記載は
ない。
したがって,甲4から,磁気シール機構を一方向クラッチを含む収容凹部内に収
容される駆動要素の防水に適用する動機付けは認められない。
以上によれば,甲1発明に甲4に記載された事項を適用することに動機付けがあ
るとの原告の前記主張は,採用できない。
(イ)しかも,次のとおり,甲1発明に,カバー部材65に代えて,外輪5
5及びローラ57の軸方向前方への移動を規制する機能を持たない甲4に記載され
たシール機構を適用することはできない。また,甲1発明において,カバー部材6
5と別にシール部材を設け,当該シール部材に代えて,甲4に記載されたシール機
構を適用しても,本件訂正発明1の構成にはならない。
a前記ア(イ)aのとおり,甲1発明におけるカバー部材65は,ワンウ
ェイクラッチの外輪及びローラの軸方向前方への移動を規制する機能を有するもの
であると認められるから,甲1発明は,カバー部材65が,ワンウェイクラッチ5
1を構成する外輪55及び57の軸方向前方への移動を規制することが前提となっ
ているといえる。
そして,甲4に記載された事項は,磁性流体を構成要件とする密封装置における
シール機構であって,甲4において,当該シール機構が,ワンウェイクラッチ全体
又はその構成要件の軸方向前方への移動を規制する機能を有するという記載はない。
以上によれば,前記の構成を前提とする甲1発明に,カバー部材65に代えて,
外輪55及びローラ57の軸方向前方への移動を規制する機能を持たない甲4に記
載されたシール機構を適用することはできない。
bまた,前記ア(イ)bのとおり,甲1発明において,カバー部材65と
別にシール部材を設ける場合,当該シール部材は,ワンウェイクラッチの構成要件
である内輪の外周面と,筒状部である第2筒部の内周面をシールする位置に設ける
ことになり,ピニオンギアと第2筒部の内周面をシールする位置に設けることには
ならない。
前記ア(イ)bのとおり,本件訂正発明1は,筒状部である収容凹部の開口部を,開
口部と「前記ピニオンに嵌合されて前記磁石との間で磁気回路を形成して前記磁性
流体が保持される筒状の磁性体」との間でシールをするシール機構を有するもので
あり,甲1発明において,カバー部材65と別にシール部材を設け,当該シール部
材に代えて,甲4に記載されたシール機構を適用しても,本件訂正発明1の構成に
はならない。
(ウ)まとめ
したがって,本件訂正発明1は,本件出願時,当業者が,甲1発明及び甲4に記
載された事項から容易に発明をすることができたとはいえない。
ウ原告の主張について
(ア)原告は,前記第3の1(1)イ(ア)及び(2)イ(ア)のとおり,参考図3は,
甲1に記載された事項であり,参考図9は,甲1,甲2,甲4に記載された事項で
あり,参考図5は,甲1及び甲2に記載された事項であり,参考図8は,甲1,甲
2,甲4に記載された事項であり,参考図7は,甲1及び甲2に記載された事項で
あると評価できるから,動機付けの有無を論じる余地はない旨を主張する。
しかしながら,参考図3は,内輪との間にシール機構が設けられていない点で,
甲1に記載された事項と構成が異なるから,「甲1に記載された事項」と評価するこ
とはできない。また,参考図9,5,8及び7は,いずれも弾性体によるシール機
構が設けられていない点で,甲1に記載された事項と構成が異なるから,「甲1に記
載された事項」と評価することはできない。
したがって,原告の前記主張は,採用できない。
(イ)a(a)原告は,前記第3の1(1)イ(イ)aのとおり,甲2に記載された
事項につき,甲1発明と,技術分野が共通すると主張する。
確かに,甲1発明と甲2に記載された事項は,いずれも魚釣り用リールに関する
ものであることは,前記ア(ア)のとおりである。しかしながら,前記ア(ア)のとおり,
甲2には,一方向クラッチを含む収容凹部内に収容される駆動要素の防水という本
件訂正発明の課題を認識するに足りる記載はなく,甲2から,磁気シール機構を一
方向クラッチを含む収容凹部内に収容される駆動要素の防水に適用する動機付けは
認められない。
したがって,原告の前記主張は,採用できない。
(b)原告は,前記第3の1(1)イ(イ)b及びcのとおり,本件訂正発
明1と甲2に記載された事項,本件訂正発明1と甲1発明は,課題が共通する,本
件訂正発明1と甲2に記載された事項は,作用・機能が共通するとも主張する。
しかしながら,原告の前記主張内容は,本件訂正発明1と甲1発明又は甲2に記
載された事項との共通性を主張するものであり,これらのことによって,甲1発明
に甲2に記載された事項を適用することの動機付けは導き出せないから,失当であ
る。
b(a)原告は,前記第3の1(2)イ(イ)のとおり,甲4に記載された事
項につき,本件訂正発明1との技術分野,課題,作用・機能の共通性について主張
する。
しかしながら,原告の前記主張内容は,本件訂正発明1と甲4に記載された事項
との共通性を主張するものであり,これらのことによって,甲1発明に甲4に記載
された事項を適用することの動機付けは導き出せないから,失当である。
(b)原告は,前記第3の1(2)イ(イ)のとおり,甲4は,筒状の磁性
体を嵌合する磁性流体シールが適用される分野を限定していないから,示唆がある
というべきであって,非磁性の軸に筒状の磁性体を嵌合することについて,甲4に
動機付けがあると主張する。
しかしながら,前記1(4)のとおり,甲4に係る考案は,高清浄度雰囲気又は真
空中で使用される機器,装置の軸受などに用いられる磁性流体利用の密封装置に関
するものであり,甲4には,前記密封装置が,前記機器,装置の内部潤滑剤又は空
気などのガスの洩れを防止するものであること(甲4,11頁)が記載されている。
前記イ(ア)のとおり,甲4には,魚釣用リールの一方向クラッチを含む収容凹部内に
収容される駆動要素の防水という本件訂正発明の課題を認識するに足りる記載はな
く,甲4から,磁気シール機構を魚釣用リールの一方向クラッチを含む収容凹部内
に収容される駆動要素の防水に適用する動機付けは認められない。
したがって,原告の前記主張は,採用できない。
(ウ)原告は,前記第3の1(1)ア(ア)b及びc,(イ)b及びc,(2)ア(ア)b
及びc並びに(イ)b及びcのとおり,甲1発明において,内輪56を外輪55より軸
方向前方に突出させる必要性がないことは自明であり,内輪56を外輪55より軸
方向前方に突出させない構成を前提として,甲1発明への甲2又は甲4に記載され
た事項の適用により,本件訂正発明1の構成になると主張する。
しかしながら,甲1における内側部材(内輪56)の位置は,前記1(2)のとおり
であって,軸方向前端で,ピニオンギアの前部12aに当接する部材(甲1,図2
及び図2の拡大図の内輪の左端に当接する位置に記載された,断面が階段状の左上
から右下への斜線が記載された部材)に当接することで位置決めされていると認め
られるところ,軸方向前端が外側部材(外輪57)から突出する長さにしない構成
とすると,内側部材(内輪56)の軸方向前端と前記の断面が階段状の部材との間
に間隔が空く。この間隔の存在により,内側部材(内輪56)が軸方向前方に移動
する余地が生じることになる。前記1(2)のとおり,ワンウェイクラッチに軸方向前
方へのスラスト力が作用しないようにすることを課題とする甲1発明において,ワ
ンウェイクラッチの内輪の位置決めを困難にし,軸方向前方への移動の余地を生じ
させるような構成をとることは想定し難い。以上によれば,甲1発明において,内
輪56を外輪55より軸方向前方に突出させる必要性がないことは自明であるとは
いえない。
また,前記1(2)のとおり,甲1には,「この場合には,内側部材が外側部材より
突出しているので,シール機能を持たせたカバー部材によって第2筒部の内周面と
内側部材の外周面との隙間をシールするためで,ワンウェイクラッチや軸受を含む
ロータ駆動装置全体を簡単な防水構造でシールすることができる。しかも,内側部
材が突出しているので,組み立て時や交換時にのみ内側部材側にカバー部材を軸方
向に抜け止めすれば,ワンウェイクラッチの構成部品が1つにユニット化される。
このため,第2筒部へのワンウェイクラッチの装着が容易になる。」(【0014】)
と記載されているところ,このような内側部材(内輪)と外側部材(外輪)の構成
につき,課題の記載はなく,他の構成についての記載もなく,ピニオンとのシール
構造についての記載もないのであって,甲1から,当業者が,内側部材(内輪56)
の軸方向前端が外側部材(外輪57)から突出する長さにしない構成を想到すると
は考え難い。
したがって,原告の前記主張は,採用できない。
(エ)原告は,前記第3の1(1)ア(ア)d及び(イ)dのとおり,本件訂正発明は,
ピニオンに非磁性のカラー部材等を装着して,その上に筒状の磁性体を嵌合する場
合を含むと解釈されるとして,内輪がピニオンギアに装着されるカラー部材等に相
当する場合があり,その場合,内輪に,甲2に記載されたシール機構の第2保持部
材を固定したり,甲4に記載されたシール機構の磁気リングを嵌合させても,本件
訂正発明1の構成になると主張する。
確かに,本件訂正明細書(甲22)には,「なお,磁気シール機構を構成する筒状
の磁性体は,魚釣用リールのピニオンに直接に嵌合されなくてもよい。例えば,ピ
ニオンに装着される非磁性の例えばカラー部材等に対して筒状の磁性体が嵌合され
る構成であってもよい。」(【0012】)との記載があるが,一方向クラッチの構成
要件である内輪が,一方向クラッチの構成要件ではない「ピニオン」に装着される
「非磁性の例えばカラー部材等」を兼ねる構成についての記載はない。
したがって,本件訂正発明に,内輪が「ピニオンに装着される非磁性の例えばカ
ラー部材等」を兼ねるという構成は含まれていないのであって,原告の前記主張は,
採用できない。
(オ)原告は,前記第3の1(2)ア(ア)aのとおり,甲4に記載された事項は,
シャフトが非磁性体又は磁化されにくい磁性体であることが前提であるとはいえな
いとして,甲1発明において,ピニオンギア12が磁性体であっても,甲1発明に
甲4に記載された事項を適用することを妨げるものではないとも主張する。
しかしながら,甲4には,「ところで,例えばシャフト2が非磁性体または磁化さ
れにくい磁性体である場合には,ボールピース6,7とシャフト2との間の隙間に
磁性流体4を保持させることができない。そこで,このような場合には,第4図に
示すように,シャフト2の外周面でボールピース6,7に対応する位置に,強磁性
体よりなる磁性リング8を取り付けている。」(2頁下から4行目から,3頁上から
4行目まで)との記載があり,この磁性リング8に相当する部材がないことを前提
に甲4に記載されたシール機構を甲1発明に適用すると,本件訂正発明1における
「ピニオンに嵌合されて前記磁石との間で磁気回路を形成して前記磁性流体が保持
される筒状の磁性体」という構成を欠くことになる。ピニオンが磁性体であって,
ピニオンに磁性リングを嵌合させなくても磁性流体を保持できる場合には,磁性リ
ング8は必要ないから,磁性リング8が必要になるとすれば,ピニオンが非磁性体
又は磁化されにくい磁性体であることが前提である。そして,甲1には,ピニオン
の材料が,非磁性体又は磁化されにくい磁性体であることについての記載はない。
したがって,原告の前記主張も採用できない。
エまとめ
以上のとおりであるから,当業者は,相違点に係る本件訂正発明1の構成を容易
に想到できるとは認められない。
したがって,審決の本件訂正発明1に係る進歩性の判断には,誤りはなく,取消
事由1は,理由がない。
(2)取消事由2(本件訂正発明2の進歩性の不存在)について
本件訂正明細書(甲22)によれば,本件訂正発明2が,本件訂正発明1と異な
る点は,本件訂正発明1において,「前記一方向クラッチは,前記ピニオンを挿通さ
せる磁石と,前記ピニオンに嵌合されて前記磁石との間で磁気回路を形成して前記
磁性流体が保持される筒状の磁性体と,によってシールされる」ことを特徴とする
点が,本件訂正発明2において,「前記磁気シール機構は,磁石と,該磁石を保持す
る保持部材と,該保持部材との間に隙間を生じさせ,前記ピニオンに嵌合されて前
記磁石との間で磁気回路を形成する筒状の磁性体と,前記磁石と前記磁性体との間
および前記保持部材と前記磁性体との間に保持される磁性流体とによって構成され,
前記保持部材は,前記収容凹部の前記開口部をカバーするカバー部材によって支持
され,前記カバー部材と前記保持部材との間にシール部材が介挿される」ことを特
徴とするとされている点のみであり,前記認定の本件訂正発明の内容からして,本
件訂正発明2は,前記収容凹部の内部に一方向クラッチが設けられることをその内
容としていることが認められる。そうすると,本件訂正発明2は,本件訂正発明1
の発明特定事項を実質的にすべて含むものであると認められ,前記(1)の同様の理由
により,当業者は,相違点に係る本件訂正発明2の構成を容易に想到できるとは認
められない。
したがって,審決の本件訂正発明2に係る進歩性の判断には,誤りはなく,取消
事由2は,理由がない。
(3)取消事由3(本件訂正発明3の進歩性の不存在)について
本件訂正明細書(甲22)によれば,本件訂正発明3は,「筒状の前記磁性体は,
非磁性のピニオンに回り止め嵌合されることを特徴とする請求項2に記載の魚釣用
リール」であって,本件訂正発明3は,本件訂正発明2を技術的に限定するもので
あり,本件訂正発明2は,前記(2)のとおり,本件訂正発明1の発明特定事項を実質
的にすべて含むものであると認められる。そうすると,本件訂正発明3も,本件訂
正発明1の発明特定事項を実質的にすべて含むものであると認められ,前記(1)の同
様の理由により,当業者は,相違点に係る本件訂正発明3の構成を容易に想到でき
るとは認められない。
したがって,審決の本件訂正発明2に係る進歩性の判断には,誤りはなく,取
消事由3は,理由がない。
第6結論
以上によれば,原告の取消事由はいずれも理由がないから,原告の請求を棄却す
ることとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
清水節
裁判官
中村恭
裁判官
森岡礼子

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