弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 被告Aは、徳島県に対し、金三万七二七九円及びこれに対する平成一〇年五月
二八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告B及び被告Cは、徳島県に対し、連帯して一八三万二七六一円及びこれに
対する平成一〇年五月二八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支
払え。
三 被告Dは、徳島県に対し、金六万四四〇八円及びこれに対する平成一〇年五月
二八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告の被告A及び被告Dに対するその余の請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は、これを八分し、その一を原告、その二を被告A及び被告D、その
五を被告B及び被告Cの、それぞれの負担とする。
       事実及び理由
第一 請求
 被告らは、徳島県に対し、各自金一八三万二七六一円及びこれに対する平成一〇
年五月二八日(訴状送達の日の翌日)から支払済みに至るまで年五分の割合による
金員を支払え。
第二 事案の概要
 本件は、全国の都道府県議会の議員が集って行われる野球大会に、徳島県議会議
員が参加し、県議会事務局職員が随行したことに対して、公費をもって旅費を支出
したことは違法であるとして、徳島県の住民である原告が、徳島県に代位して、参
加した県議会議員や県議会事務局長である被告らに対し、右支出額の損害賠償を求
めるとともに、これを不当利得したとして、その返還を求めた事案である。
(争いのない事実等―末尾に証拠の記載があるのは証拠によって認定した事実)
一 原告は、徳島県内に居住する者である。
 被告Aは徳島県議会議員で、県議会の任意組織である野球部の部長を務める者で
ある。
 被告Bは徳島県議会事務局長の職にある者である。
 被告Cは徳島県議会事務局次長の職にある者である。
 被告Dは徳島県議会事務局総務課長補佐の職にある者である。
二 全国都道府県議会議長会(以下、「議長会」という。)及び大阪府議会が主催
する、第五二回国民体育大会協賛第四九回全国都道府県議会議員軟式野球大会(以
下、「本件野球大会」という。)が、平成九年八月二三日から三日間、大阪市内に
ある舞洲ベースボールスタジアム等で開催された。
 本件野球大会には、全国四七都道府県議会から、議員一四〇〇名余りが参加し
(なお、随行職員は約五〇〇名。)、徳島県議会からも県議会議員二六名が参加
し、県議会事務局職員九名がこれ
に随行した。【甲二、二〇】
三 本件野球大会にかかる旅費の支給について
 平成九年八月一八日、本件野球大会に参加する県議会議員二六名に対して、E県
議会議長から、これに随行する県議会事務局職員九名に対しては、本来の旅行命令
権者である被告Bが病気療養中であったため、被告Cから、それぞれ旅行命令が発
せられた。そして、被告Cは、徳島県議会議員の報酬、費用弁償及び期末手当に関
する条例、職員の旅費に関する条例に基づいて、旅費の支出負担行為及び支出命令
を行い、参加した議員及び随行した県議会事務局職員に対し、次のように旅費(合
計一八三万二七六一円。そのうち、議員に対するものは一三六万八六四三円、職員
に対するものは四六万四一一八円。)が支給された。【甲二】
1 平成九年八月二二日から同月二三日を旅行月日とするもの
 被告Aを含む議員七名に対して、旅費額二六万〇九五七円(一人あたり約三万七
二七九円《円未満切り捨て。以下、同様。》)を支出。
2 平成九年八月二二日から同月二四日を旅行月日とするもの
 議員一一名に対して旅費額五八万三七九四円(一人あたり約五万三〇七二円)、
随行職員六名に対して旅費額二七万〇八九四円(一人あたり四万五一四九円)を支
出。
3 平成九年八月二二日から同月二五日を旅行月日とするもの
 議員六名に対して旅費額四二万三〇九〇円(一人あたり七万〇五一五円)、被告
C、同Dを含む随行職員三名に対して旅費額一九万三二二四円(一人あたり六万四
四〇八円)を支出。
4 平成九年八月二三日から同月二五日を旅行月日とするもの
 議員二名に対して旅費額一〇万〇八〇二円(一人あたり五万〇四〇一円)を支
出。
四 原告は、平成一〇年二月二六日、徳島県監査委員に対し、監査請求を行った
が、同監査委員は、同年四月二三日、これを棄却した。
(争点)
一 被告らの被告適格について
二 旅費支出の違法性
(当事者の主張)
一 争点一について
1 被告らの主張
(一) 本件野球大会への議員の派遣決定は、徳島県議会を代表する徳島県議会議
長が発したものであって、本件野球大会についての旅行命令権者は徳島県議会議長
である。被告Aは徳島県議会スポーツ振興議員連盟の野球部会長であったことか
ら、参加団長として徳島県議会議長の発した旅行命令に基づいて本件野球大会に参
加したにすぎず、本件野球大会について財務会計上の権限を有していたわけではな
い。
(二) 徳島県議
会議長が発した旅行命令に基づく参加議員に対する旅費の支出負担行為及び支出命
令は、被告Cが行った。
 また、本件野球大会に随行した徳島県議会事務局職員に対する旅行命令権者は被
告Bであったが、同被告は当時病気療養中であったため、被告Cが代決し、そし
て、同被告が随行職員の旅費についての支出負担行為及び支出命令を行った。
2 原告の主張
(一) 被告Aは、任意組織の県議会野球部部長の地位にあって、本件野球大会へ
の参加を積極的に推進加担しており、また、同被告本人も自ら野球大会に参加し、
旅費・日当を不当利得した。
(二) 被告Cは被告Bと相談の上決裁したものであるから、被告Bも決裁につい
て責任があり、不法な公金支出の加担者である。
二 争点二について
- 原告の主張
(一) 本件野球大会への参加、随行の公務性について
(1) 本件野球大会は、「第五二回国民体育大会協賛第四九回全国都道府県議員
軟式野球大会」と称されているが、そもそも全国都道府県議会議員軟式野球大会
(以下、「全国野球大会」という。)は一部都道府県議会の議員の有志により始ま
った親睦野球大会である。近年、国体開催県に会場を併せるなどして大会協賛の名
を冠せ、公的装いを持たせているが、本質は議員らが軟式野球という特定のスポー
ツを楽しむ慰楽と親睦・レクレーションである。
(2) 本件野球大会の開催要綱は「第五二回国民体育大会(なみはや国体)に協
賛し、あわせて議員相互の親睦とスポーツ精神の高揚を図り、地方自治の発展に寄
与する」としているが、国体への協賛は国体の趣旨に賛同することにすぎず、国体
の趣旨に賛同することは議員のみならず私人、市民団体でもできるのであって、そ
のこと自体で公務性が生まれ、公費で野球大会が開催でき、または参加できるわけ
ではない。そもそも、本件野球大会は、当の国体実行委員会が公式の協賛行事とし
て認定しておらず、国体実行委員会とも無関係に行われているのである。
 さらに、国体を発展させた昭和二〇年代、三〇年代と異なり、現在では国体は確
立しており、全国野球大会の有無にかかわらず、国体は開催県はもとより他の都道
府県も含めて国民的行事となっているのであるから、本件野球大会が国体の実施に
どのように寄与するのかは全く不明である。
 要するに、徳島県や議員らが協賛していることに特別の意味はないのであって、
軟式野球という一部の男性議員を中心とする親
睦スポーツ大会を公費で継続、拡大するための「こじつけ」として「国体協賛」が
いわれているにすぎないのである。
(3) 被告らは、全国野球大会に参加することにより、「議員相互の親睦」や
「スポーツ精神の高揚」を図ることができるともいうが、これも個人的レベルであ
ればともかく、「公務」として、これが地方自治の具体的な発展にどのように寄与
するのか明らかではない。各都道府県議会の有志議員の参加により、年に一回、一
堂に集まり、議会対抗式で野球競技を行ったとしても、単に野球大会の勝敗を争う
ものであって、それ以外に議員として地方自治を発展させる活動はないのである。
 議員の見識はそもそも野球大会で涵養されるものではないし、日頃の自己研鑚で
なされるべきである。他の議員との交流は、同じ県内の議員であれば、議会内外で
会って交流すれば足り、また、他の都道府県議会議員との交流については、なぜ野
球チームとして試合をすれば交流を高めることになるのか、説明がつかない。
 要するに、議員相互の親睦やスポーツ精神の高揚が、「地方自治の発展に寄与す
る」というのも、「こじつけ」以外に考えられない。
(4) 被告らは、議長会が主催していることを公務性の理由のひとつにあげてい
るが、そもそも、議長会は都道府県が国と対等に政治財政の課題を交渉できるよう
に、都道府県の意見を組織的にまとめ集約して国政に反映するためにつくられた任
意団体であり、野球大会の開催はその設立目的とも存在意義とも関係がない。
(5) 全国野球大会は、野球というゲームを全国大会としてトーナメント方式で
やり、多年参加したチームや参加者を表彰するという、野球大会そのものが自己目
的化した行事である。そして、野球大会でプレーする者、応援する者も登録はされ
るが、実際にその全てが参加するわけでなく、結局、自由参加であって、参加して
も途中で帰ろうと誰も問題にされることはなく、勝ったチームは次の試合に残る
が、負けたチームや参加者はそのまま帰県するのが実態である。
 「球場施設の視察」なども付加されているが、視察が本来視されたものではな
く、試合に勝ち進めば、視察はなくなるという予定そのものが、その本質を示して
いる。
(6) 以上に照らすと、本件野球大会への参加、随行は、地方自治法二条に定め
る地方公共団体の事務・事業とはいえない。
(二) 本件野球大会は議会議員、職員が動員されるが故に
公務に関連する野球大会としての色彩が出てくるとしても、その限りであって、公
費により主催し、参加できるものではなく、これらのための公費支出は、議会議員
の機能を果たすために必要な限度で合理的な裁量によりなされたものとはいえな
い。開催や参加について議会に裁量権があるとしても、本件は著しく裁量権を逸脱
しているというべきである。よって、本件野球大会への参加、随行のための旅費を
公金で支出するのは違法であり、支出に加担、推進し、これを受領した被告らは、
支出額を賠償し、もしくは返還すべきである。
(三) なお、三重県監査委員は、本件野球大会への参加は公務ではなく、公費で
参加するのは不適当との監査結果を出している。
 また、平成一〇年八月二八日に神奈川県内で開催された第五〇回大会において、
議員、職員とも私費で参加したのは福島県を含め一一都府県、議員のみが私費で参
加したのは千葉県を含め一〇県、参加そのものをとりやめたのは和歌山県を含め四
県であった。そして、徳島県も、議員・職員とも私費で参加している。
2 被告らの主張
(一) 本件野球大会への参加、随行の公務性について
(1) 全国野球大会は、国民体育大会の開催地の都道府県が国体の主催団体に加
わった昭和二四年の第四回国体を契機として、全国の地方議会議員が相提携して、
国家再建のため体育の振興に協力する目的をもって計画された、国体の協賛行事で
あり、その後も公式行事として行われてきた(なお、国体協賛の実態は、参加議員
の送迎、輸送体制の確認、開会式を始めとする一連の運営を国体を想定した手順に
沿って行うなど、主要会場における競技を通しての実地での確認の場となっている
というものである。)。
 そして、全国野球大会は、昭和二四年から毎年一回、国体開催地の都道府県にお
いて開催され、本件野球大会をもって実に四九回を数えるに至っている。
(2) 全国野球大会は、昭和五二年から、それまでの主催者である国体開催地の
都道府県議会に、新たに議長会が主催団体として加わって、開催されてきている。
議長会は、「議長相互間の連絡を緊密にし、並びに共通の問題を協議し、及び処理
する。」ことを目的として全国都道府県議会の議長により構成され、地方自治法二
六三条の三第一項に基づき自治大臣に届出が義務づけられ、かつ同条の三第二項に
基づき地方自治の諸問題について自治大臣を経由して内閣又は国会に対して意
見を申し出たり意見書を提出することができる全国的な連合組織であり、毎年度総
会において、全国野球大会を含む予算及び行事計画を決定し、その予算から負担金
を支出している。
(3) 全国野球大会は、それまでの約半世紀にわたる歴史と実績からして、単に
議員らが野球を行うということに止まらず、全国の都道府県議会議員が一堂に会す
る唯一貴重な機会であり、参加議員は相互に交流し、意見交換をするなどし、スポ
ーツを通じて情報収集ができるのである。そして、毎年開催される国体は、開催地
の都道府県が何年も前から全力をあげて整備された最新の競技施設で行われ、その
運営にもその時その時のノウハウが結集されており、スポーツ振興法や社会教育法
に定めるところの諸施策を地方自治の場で政策に反映させる際の、真の意味で生き
た、最も新しい情報源である。また、そこでの実体験を通じて、スポーツ振興法が
定める青少年スポーツの振興(同法八条)、職場スポーツの奨励(同法九条)、野
外活動の普及奨励(同法一〇条)、施設の整備(同法一二条)などが検討できる、
またとない機会である。
(4) 本件野球大会については、主催者である議長会及び大阪府議会はその目的
を「第五二回国民体育大会(なみはや国体)に協賛し、あわせて議員相互の親睦と
スポーツ精神の高揚を図り、地方自治の発展に寄与する。」と定め、国体開催地の
大阪府、大阪市、堺市、八尾市が協賛自治体となり、大会顧問には国体開催地の大
阪府知事、大阪市長、堺市長、八尾市長が、名誉会長には議長会会長が、会長には
大阪府議会議長が、副会長には大阪府議会副議長がそれぞれ就任し、大会参与には
全国都道府県議会議長らがそれぞれ委嘱され、大会事務局には大阪府議会事務局の
事務局長他管理職がそれぞれ指名されている。
(5) 都道府県議会の議員は、体育やスポーツの振興に等しく関心を持って、社
会教育法やスポーツ振興法に定められている諸施策の推進のために常日頃努力しな
ければならないことは当然のことであるが、特に、毎年開催されている国体は国民
が体育やスポーツに関心を持つ絶好の機会であり、その開催地において、国体の競
技種目であり、かつ国民にとって最も身近なスポーツの一つである野球を議員がチ
ームを編成して競うことによって、国体を盛り上げ、国民にスポーツを自ら行うこ
とを奨励することは、住民福祉の向上を目的とする地方自治の発展に寄与する
ことになる。
(6) このような事由からして、徳島県議会がなした本件野球大会への議員の派
遣は、議会活動の一環としての公務であるから、原告が主張するような単なる議員
相互間の私的な慰楽や親睦・レクレーションといったものではない。
(7) なお、被告Cと同Dは、本件野球大会実行委員会本部との連絡調整、用具
の運搬管理、本件野球大会の記録その他補助業務に従事させるため、県議会事務局
職員を随行させたものである。
(二) 地方議会は、「地方自治の本旨」の担い手として、憲法上高く位置付けら
れているのであって、地方議会のひとつである都道府県議会は、各都道府県のあら
ゆる場面において議決機関としての権能を適切に果たすために必要な限度で、広範
な権能を有しているのであり、右のような沿革と目的を有する本件野球大会に議員
を派遣することも、その裁量の範囲内に属するものであって、適法である。
第三 当裁判所の判断
一 争点一について
1 被告らに対する損害賠償請求について
(一) 地方自治法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」とは、財務会計上
の行為を行う権限を法令上本来的に有するものとされている者及びこれらの者から
権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った者をいうと解されるところ、
徳島県事務決裁規程一二条及び徳島県議会事務局規程八条によれば、本件野球大会
への議員の参加旅費、県議会事務局職員の随行旅費の支出について、被告B及び同
Cは右「当該職員」に該当するものと認められる。それ故、右被告らには被告適格
が認められる。
(二) 他方、被告A及び同Dは、本件野球大会への議員の参加旅費、県議会事務
局職員の随行旅費の支出について、財務会計上の行為を行う権限をなんら有するも
のではないので、右「当該職員」に該当しないものの、原告の主張を前提とするか
ぎり、同号「怠る事実に係る相手方」に該当するので、その限りで被告適格が認め
られる。
2 被告らに対する不当利得返還請求について
 右請求に関し、被告らが地方自治法二四二条の二第一項四号に規定する「当該行
為に係る相手方」に該当することは明らかであるから、被告らには被告適格が認め
られる。
二 争点二について
1 証拠(甲二、一六、二〇ないし二二、二六、乙一、七)及び弁論の全趣旨によ
れば、次の事実が認められる。
(一) 全国野球大会は、それまで国民体育大会を財団法人日本体育協会が単独で
開催して
いたところ、昭和二四年に開催された第四回国民体育大会が、開催地である東京都
との共催となったことをきっかけに、東京都議会が中心となって、この機会に全国
の地方議会議員が相提携して国家再建のため体育の振興に協力するとの趣旨から、
開催が計画され、同年、一九都県の参加を得て第一回大会が開催された。
 以後、全国野球大会は、国民体育大会に協賛して、国民体育大会の開催都道府県
において開催され、参加都道府県も漸増し、昭和六二年の第三九回大会にはすべて
の都道府県議会が参加するようになった。
 徳島県議会も、右のような全国野球大会の趣旨に賛同して、昭和二七年の第四回
大会より参加し、昭和五二年の第二九回大会を除き、すべての大会に参加してい
る。
(二) 全国野球大会の第四九回大会である本件野球大会は、議長会と大阪府議会
が主催し、大阪府、大阪市、堺市、八尾市がこれに協賛して、開催要綱の目的に
「第五二回国民体育大会(なみはや大会)に協賛し、あわせて議員相互の親睦とス
ポーツ精神の高揚を図り、地方自治の発展に寄与する」ことを掲げ、平成九年八月
二三日から二五日までの三日間、大阪市内などで開催されることとなった。そし
て、平成九年五月一四日、同大会の実行委員会会長である大阪府議会議長より、徳
島県議会議長宛に開催の通知が発せられたのを受けて、E議長は本件野球大会に徳
島県議会も参加することを決定し、徳島県議会スポーツ振興議員連盟の野球部会関
係者と参加議員などについて協議した上で、同年六月五日、大阪府議会議長に参加
する旨の回答をした。なお、同大会の役員には、大阪府知事、大阪府議会議長らの
ほか、E議長を含む全都道府県議会議長も参与として名を連ねた。
 本件野球大会への参加が決定したことを受けて、被告Cは、実行委員会本部との
連絡調整、用具の運搬管理、本件野球大会の記録その他補助業務に県議会事務局職
員を従事させる必要があると判断して、例年の随行職員数を勘案して、職員九名の
派遣を決定した。
(三) なお、本件野球大会の開催要綱によれば、本件野球大会は、平成九年八月
二二日午後一時より、大阪市内のホテルにおいて、組み合わせ抽せんなどを行う主
将会議を開き、同月二三日午前九時より、大阪市内の舞洲アリーナにおいて、入場
式、表彰式を行い、午前一一時ころから、舞洲べースボールスタジアムなど八会場
にわかれて、トーナメント方式による第一回戦が行
われ、同月二四日には第二回戦と準決勝戦が、同月二五日には決勝戦と閉会式が行
われる日程となっていた。
(四) 同月二三日午前九時から、日程どおり開会式が行われ、大会開会通告のフ
ァンファーレの後、各都道府県の選手団の入場が、もず鳥をモチーフにした国体マ
スコット「モッピー」を先頭に、場内放送による各都道府県の紹介を受けながら、
北海道から沖縄県、最後に開催地の大阪府の順序で、それぞれプラカードを先頭に
入場する形式で行われ、その後、大会開会宣言、国旗等掲揚、優勝旗返還、大会会
長のあいさつ、永年出場選手やチームの表彰などが行われた。
 徳島県議会チームは、同日午前一一時三〇分ころから、住之江公園野球場におい
て、議員二六名が参加して、山梨県議会チームと第一回戦を行い、これに勝利し
て、第二回戦に進出し、同月二四日、午前九時三〇分ころから、同野球場におい
て、議員一九名が参加して、福島県議会チームと第二回戦を行ったが、敗退した。
 同月二五日、議員八名及び随行職員三人が、午前一〇時ころより、大阪府等が出
資する第三セクターである(株)大阪シティドームが管理運営し、秋季国体の公開
競技である高等学校硬式野球の会場として使用される大阪ドームを視察し、その
後、帰県した。
(五) 本件野球大会の次回大会である第五〇回全国都道府県議会議員軟式野球大
会は、平成一〇年八月二八日、横浜市内で開催されたが、同大会では試合に先だっ
て記念講演会や交流パーティーが催された。同大会に、徳島県議会も参加したが、
議員は私費で参加し、随行職員は県議会野球部の部費で随行することとした。
 なお、議長会は、平成一〇年一一月二六日までに、平成一一年度の全国野球大会
の開催を中止することにした。
2 本件野球大会への議員の参加について
(一) ところで、普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の議決機関
として、その権能を適切に果たすために合理的な必要性がある場合、その議員を国
内又は海外に派遣することができ、派遣目的や派遣先、派遣内容等の決定について
は、原則的に議会の合理的な裁量に委ねられていると解すべきであるから、議員派
遣の必要性や、派遣内容の相当性等についての議会の判断は、議員派遣の目的、動
機、態様等に照らし、これが著しく妥当性を欠いていると認められる場合にかぎ
り、裁量権を逸脱又は濫用したものとして、違法になると解するのが相当である。

二) そこで、前記1の認定事実を前提に、本件野球大会への議員の派遣が著しく
妥当性を欠き、違法であるといえるのかについて判断する。この点について、被告
らは、前記当事者の主張二2(一)記載のように主張して、本件野球大会に参加す
る目的の正当性、その意義が肯定されるから、議員派遣は合理性を有しており、違
法とはいえないと主張するので、以下、検討する。
(1)① まず、被告らは、全国野球大会は全国の都道府県議会議員が一堂に会す
る唯一の機会であって、参加議員は相互に交流し意見交換ができ、スポーツを通じ
て情報収集ができる旨主張している。
② しかしながら、仮に、全国の都道府県議会議員が一堂に会する唯一の機会であ
るとしても、このことによって当然に議員派遣の必要性や相当性が肯定されるもの
ではない。議員の派遣が議会活動の一環もしくはその権能を適切に果たすためにな
されるもの、すなわち公務として行われることからすると、少なくとも、その日程
や行事計画等からみて、これに参加する議員が、他の都道府県議会議員と、個人的
な親睦、交流を持つにとどまらず、県政の重要課題にかかわり県政の発展に資する
ような事項について、積極的に意見、情報交換等を図ることが期待できることが必
要であると解せられ、そのような内容となっているかぎりにおいて、他の都道府県
議会議員との意見交換等の目的、意義が認められ、派遣の必要性及び相当性が肯定
されるというべきである。
③ そこで、これを本件野球大会の日程や行事計画等について検討するに、そこに
は野球の試合を行うこととは別個に、参加議員が他の都道府県議会の議員と意見交
換等を図ることを目的としたと理解しうるような行事は計画、設定されていない。
 すなわち、前記1の認定事実のように、開催要綱には主将会議、開会式、試合及
び閉会式についての記載は見られるが、このような機会を通じて、他の都道府県議
会の議員と交流を図ることができるとしても、それは通常、個人的な親睦にとどま
るものであって、県政の発展にかかわるような重要事項について積極的に意見交換
等がなされることは期待できない。また、同日程に予定が記されていない時間帯、
たとえば試合終了後などにおいて、他の都道府県議会の議員と交流を図ることもで
きなくはないが、そもそも、本件野球大会に参加すること自体、及び、どのような
日程で参加するのかについては各議員の意思に委ね
られており、現に旅行日程も各議員ごとに異なっているのであって、他に試合終了
後に意見交換等の場が持たれたとの具体的な主張立証もないことからすると、試合
終了後は各議員の自由行動であったと推測される。そうすると、日程に行事等の記
載がない時間帯においても、他の都道府県議会議員と交流を図り、県政の重要事項
について積極的に意見交換することは期待できないというべきである。
④ このように、本件野球大会の日程を検討しても、同大会は、参加議員が他の都
道府県議会の議員と、県政の発展にかかわるような重要事項について意見交換など
を図ることが期待できるような内容ではないのであるから、本件野球大会への議員
派遣に、他の都道府県議会の議員との意見交換や情報収集を図る目的、意義がある
と認めることはできない(なお、徳島県議会議員同士の親睦、交流等は、日常の議
員活動によって図ることができるものであるから、この点は、本件野球大会への参
加の理由とはなりえない。)。
(2)① また、被告らは、国体開催地の最新施設を利用してスポーツを行うこと
はスポーツに関する施策を地方自治に反映させる最も新しい情報源になり、そこで
の実体験を通じて施設の整備などが検討できるとも主張している。
② しかしながら、確かに、一般論として、議員の議会活動を充実させるために
は、議員の見識を涵養する必要があるとしても、本件野球大会に参加した議員ら
は、野球の試合を行うにあたり被告らが主張するような特定の目的等を明確に意識
して競技していたとはいえず、施設等に関する具体的な説明やこれに対する質疑応
答がなされた形跡もないのであるから、参加議員がスポーツに関する施策を地方自
治に反映させる最も新しい情報を得、これを県政上の重要課題等に反映させるとと
もに、自己研鑽にも資し、議員としての見識を涵養することになるとも考え難い。
それ故、被告らの右主張を前提にして、本件野球大会への議員の派遣が合理性を有
していると認めることはできない(なお、大会三日目には最新設備を整えるとされ
る大阪ドームの視察が行われているが、右視察に参加した議員はわずか八名である
上、そもそも徳島県議会チームが勝ち進んでいけば、右視察は行われなかったので
あるから、この点をもって、本件野球大会への参加の目的、意義を肯定することは
相当でない。)。
(3)① 被告らは、本件野球大会を実施することによって、国民
体育大会を盛り上げ、国民にスポーツを奨励することは、住民福祉の向上を目的と
する地方自治の発展に寄与するとも主張している。
② しかしながら、なるほど、前記1の認定事実のように、全国野球大会は、昭和
二四年から、国家再建のため体育の振興に協力するという趣旨のもとに開始された
ものであって、当時の時代背景、社会状況にかんがみれば、そのような趣旨、目的
も理解できないではないが、今日においては、国民体育大会は、「国体」という名
称で国民の間に広く国民的行事として浸透しており、また、スポーツの意義やこれ
を行うことの利点等も広く国民に認識され、国民が行うスポーツ競技も多様化して
いる現状にかんがみると、「国体協賛」という目的を掲げ、国民体育大会の開催地
において、これに先立ち、全国の都道府県議会の議員が一堂に会し、国民に最も身
近なスポーツのひとつである野球を行ったとしても、それが国民体育大会を盛り上
げることや、国民にスポーツを奨励することにつながるとは思われず、両者の間に
合理的な関連性は存しない。よって、被告らの右主張を前提にして、本件野球大会
への議員派遣が合理性を有していると認めることはできない。
(4) このほか、被告らは、本件野球大会は、昭和二四年に第一回大会が開か
れ、地方自治法二六三条の三第一項に規定する「全国的連合組織」に該当する議長
会が主催し、大阪府知事他多数の首長、議員らが大会役員に名を連ね、全国の議会
議員が参加する公式行事であるとも主張するが、公式行事であるからといって、そ
こに議員を派遣することの必要性、相当性が当然に肯定されるわけではない。問題
とされるべきなのは参加の目的、意義なのであって、この点に関する被告らの主張
が理由のないことは、既に検討したとおりである。
(三) 以上のように、被告らが主張する、本件野球大会への議員の参加の目的、
意義等は、いずれも理由がなく、他に、本件野球大会への議員派遣の必要性や相当
性を基礎づける事情も見受けられない。
 そうすると、本件野球大会へ公費をもって議員を派遣することは、なんら合理性
がないといえ、著しく妥当性を欠いており、旅行命令権者の裁量権を逸脱又は濫用
したものとして、違法であるといわざるをえない。それ故、これを原因とする議員
への派遣旅費(合計一三六万八六四三円)の支出も違法となるというべきである。
3 本件野球大会への県議会事務局職員の随行
について
(一) 本件野球大会に県議会議員を派遣するのに伴い、県議会事務局職員が随行
することは、出張の一態様と解されるが、出張の当否は、その必要性と内容の相当
性よって判断されるところ、右判断は、原則として旅行命令権者の裁量に委ねら
れ、その目的や態様等に照らし、著しく妥当性を欠くものと認められるときには、
裁量権を逸脱し又は濫用したものとして、当該出張は違法となるというべきであ
る。
(二) そこで、検討するに、被告らは、本件野球大会の実行委員会本部との連絡
調整や、用具の運搬管理等の補助業務に従事させる目的で随行が命じられた旨主張
しているが、このような目的自体には一応の正当性を認めることができる。
 しかしながら、職員の随行はあくまで議会の議員派遣決定を前提とするものであ
って、右決定に理由がないことは前述のとおりである。そして、本件野球大会は、
議長会や大阪府議会が主催して、全国の都道府県議会の議員らが参加する公的なも
ので、また、その参加人数などからして、大会の円滑な運営、進行のためには多く
の関係者の支援、協力を要するとしても、徳島県議会は直接の主催者でないことか
らすると、この点は、随行の必要性を肯定する理由とはなりえない。他に、職員の
随行の必要性を基礎づける事情も見受けられないことからすると、被告Cの判断に
は合理性がなく、著しく妥当性を欠くといわざるをえない。
 よって、本件野球大会への職員の随行は、旅行命令権者の裁量権を逸脱又は濫用
したものといえ、違法となるので、これを原因とする旅費の支出(合計四六万四一
一八円)も違法となる。
第四 結論
一 被告Cの責任
 被告Cは、議員及び職員に対する旅費の支出負担行為書及び支出命令書の決裁を
代決したものであるが、その際、それまでの慣行にとらわれることなく、決裁者と
して通常要求される程度の注意をもって、その必要性を検討すれば、右支出が違法
なものであることを認識し得たにもかかわらず、これを怠って代決したのであり、
過失があったことは明らかである。
 よって、被告Cは、徳島県に対し、一八三万二七六一円を賠償する責任がある。
二 被告Bの責任
 被告Bは、議員及び職員に対する旅費の支出負担行為書及び支出命令書につき、
決裁を行った者ではないが、本来の決裁権者であって、代決者に対する指揮監督責
任を負うところ、長年にわたって全国野球大会が行われ、これに公費が支出され
ていたことからすると、代決権者である被告Cが違法な支出を行わないように指導
監督すべきであったにもかかわらず、これを怠った過失があることは明らかであ
る。
 よって、被告Bも、徳島県に対し、一八三万二七六一円を賠償する責任がある。
三 被告Dの責任
 被告Dは、議員の旅費支出につき、代決権者である被告Cと意を通じて、右支出
に積極的に加担したのであれば、共同不法行為者として、被告Cとともに責任を負
うべきところ、被告Dが右支出に積極的に加担したことを認めるに足りる証拠はな
い。それ故、被告Dは、議員の旅費支出につき、徳島県に対して損害賠償責任を負
わない。
 しかしながら、被告Dは、本件野球大会に随行して、旅費を受領しており、これ
は前述のように違法な支出に基づくものであるから、右受領は法律上の原因を欠く
ものといわざるをえない。なお、原告は、支出された全額について不当利得返還を
求めているが、支出内容が旅費であることからすると、支出した全体の金額に対
し、受領人数で按分した金額について、各人が利得したと推認するのが相当であ
る。よって、被告Dは、徳島県に対し、六万四四〇八円を返還する責任がある。
四 被告Aの責任
 被告Aは、議員の旅費支出につき、代決権者である被告Cと意を通じて、右支出
を積極的に推進、加担したのであれば、共同不法行為者として、被告Cとともに責
任を負うべきところ、被告Aが右支出を積極的に推進、加担したことを認めるに足
りる証拠はない。それ故、被告Aは、議員の旅費支出につき、徳島県に対して損害
賠償責任を負わない。
 しかしながら、被告Aは、本件野球大会に参加して、旅費を受領しており、これ
は前述のように違法な支出に基づくものであるから、右受領は法律上の原因を欠く
ものといわざるをえない。なお、原告は、支出された全額について不当利得返還を
求めているが、支出内容が旅費であることからすると、支出した全体の金額に対
し、受領人数で按分した金額について、各人が利得したと推認するのが相当であ
る。よって、被告Aは、三万七二七九円を徳島県に対し返還する責任がある。
五 以上の次第で、原告の被告B及び被告Cに対する請求は理由があり、そして、
被告Aに対する請求は主文第一項の限度で、被告Dに対する請求は主文第三項の限
度で、それぞれ理由があるので、主文のとおり判決する。
徳島地方裁判所第二民事部
裁判長裁判官 松本久
裁判官
 大西嘉彦
裁判官 齊藤顕

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