弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し本件を東京高等裁判所に差戻す。
         理    由
 弁護人河上丈太郎、同美村貞夫上告趣意第一点について。
 記録によれば、原判決が所論A作成名義の被害届書及びB作成名義の提出始末書
を事実認定の資料としたこと、及び原審第二回公判期日において河上及び美村両弁
護人から右A(調書には「C」とあるが誤記と認める)及びB両名の証人喚問申請
がなされたこと、そして原審が一時その採否の決定を留保し、第四回公判期日にお
いて遂にその申請を却下するに至つたことは論旨の指摘する通りである。しかると
ころ、右証人申請が如何なる立証事項を目的としてなされたかは調書上必ずしも明
らかにはされていないのであるが、右証拠書類は刑訴応急措置法一二条一項にいわ
ゆる供述に代わるべき書類であり且つ、右申請証人はいずれも右証拠書類の作成者
に該当しているのであるから、特に反対の事情の見られない本件においては、該証
人申請は前記法条にもとずき、右証拠書類の作成者の訊問を請求したものと解する
を相当とする。けだし前記規定は、憲法三七条二項が刑事被告人のため、すべての
証人に対し審問する機会を充分に与えらるべきことを保障している趣旨に基き証人
その他の者の供述を録取した書類又はこれに代わるべき書類につきその供述者又は
作成者を公判期日において訊問する機会を被告人に与えんとしたものであるから苟
くも同規定に該当する証人の訊問申請のなされた場合においては、特に明示的意思
の表現を俟つまでもなく、立証事項の陳述その他から反対の事情の窺い得るものな
き限り、一応同条所定の請求がなされたものと認めざるを得ないからである。(昭
和二三年(れ)第一四一〇号事件同二四年三月一〇日当裁判所判決判例集第三巻第
三号二八一頁以下参照)されば原審が前示証人両名につき、その訊問の機会を与え
ることができず又はこれを著しく困難ならしめる事情の存することに関し何等説示
することなく、漫然、所論証人申請を却下しながら、前掲証拠書類を事実認定の資
料に供したことは、違法であつて論旨は理由がある。原判決はこの点において既に
全部破棄を免れない。
 よつてその他の論旨に対する説明を省略し、旧刑訴四四七条四四八条の二に従い
主文の通り判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 長谷川瀏関与
  昭和二五年四月六日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔

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