弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人石黒武雄の上告趣意第一点、第二点の理由がないことは、冒頭掲記の大法
廷判決により領解すべきである。
 同第三点について。
 論旨は、道路交通取締法施行令六七条一項の被害者救護の措置を講ぜずして逃走
した場合には、同条二項の報告義務があるものとは解せられないのであり、そのこ
とは、昭和三四年七月一五日東京高等裁判所の判決するところであるから、この場
合、同条二項の報告義務にも違反するとした第一審判決及びこれを認容した原判決
は、右判例に違背する旨主張するにある。
 なるほど、道路交通取締法二四条一項は、車馬又は軌道車の交通に因り、人の殺
傷等、事故の発生した場合、右交通機関の操縦者又は乗務員その他の従業者におい
て、命令の定めるところにより被害者の救護その他必要な措置を講ずべき義務ある
ことを規定して居り、同項の委任に基づき、同法施行令六七条は、これ等操縦者、
乗務員その他の従業者が、その一項により、被害者の救護その他必要な措置を講ず
べき義務を負担することを規定し、その二項により、前項の措置を終つた際警察官
が現場に居らないときは、同項所定の報告をなすべき義務を負担することを規定し
て居り、同法二八条一号は、同法二四条一項の規定に違反した者を等しく処罰する
旨規定して居ること、所論の通りである。
 しかしながら、第一審判決は、被告人が所論事故後被害者の救護をなさずして、
同法二四条一項に基づく同令六七条一項の救護義務と同条二項の報告義務とに違反
した事実を確定し、これを一括して同法二四条一項の規定に違反したものであると
し、同法二八条一号に該当する一罪として被告人を処罰すべきものであると判示し
た趣旨であり、原判決も亦同一見解に立ち、第一審判決を認容して居るものと解せ
られる。而して、右確定の事実関係の下においては、被告人は、同令六七条一項の
救護義務に違反したことに因り、既に同法二四条一項の規定に違反したものとせら
れ、これに基づき同法二八条一号の処罰を受けることを免れ得ないのであつて、こ
の場合、同条二項の報告義務違反の有無は、同法二八条一号の罪責に消長をきたさ
ない。したがつて、仮に、所論の事由により、第一審判決及びこれを認容した原判
決が所論高等裁判所判例に違背するとしても、これ等の判決が、被告人の原判示救
護及び報告の義務を一括して同法二四条一項に違反し、同法二八条一号所定の一個
の罪に該当するものと判断して居る以上、所論判例違反は、判決の結果に何等影響
を及ぼすものではない。
 論旨は、これを採用し得ない。
 同第四点について。
 論旨は、第一審判決が公平な裁判所の裁判でないにも拘らず、これを公平な裁判
所の判決であるとして認容した原判決は、憲法三七条一項に違反すると主張するに
ある。
 しかしながら、憲法三七条一項所定の公平な裁判所の裁判とは、組織構成その他
において偏頗の虞のない裁判所の裁判の意であつて、具体的事件において、裁判が
被告人の立場よりすれば公平をかくとみられても、これを以つて、公平でない裁判
所の裁判であるといえないことは、当裁判所の累次の判例の趣旨とするところであ
る。されば、第一審判決及びこれを認容する第二審判決は、所論の如き違憲のもの
であるとはなしえない。
 論旨は、理由がない。
 また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三七年五月二日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    横   田   正   俊

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