弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
第一審債権者らの控訴、第一審債務者の控訴を、いずれも棄却する。
控訴費用はこれを二分し、その一を第一審債権者らの負担とし、その余を第一審債
務者の負担とする。
       事   実
 第一審債権者(以下単に「債権者」という)ら代理人は「原判決中債権者ら敗訴
の部分を取り消す。第一審債務者(以下単に「債務者」という)は債権者らに対
し、それぞれ別紙目録(一)、同(二)各記載の金額を仮に支払え。訴訟費用は第
一、第二審とも債務者の負担とする。」との判決、ならびに「債務者の控訴を棄却
する。」との判決を求め、債務者代理人は「原判決中債務者敗訴の部分を取り消
す。債権者らの仮処分申請を却下する。訴訟費用は第一、二審とも債権者らの負担
とする。」との判決、ならびに「債権者らの控訴を棄却する。」との判決を求め
た。
 当事者双方の事実上、法律上の主張、ならびに疏明資料の提出、援用、認否は、
次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示(添付の一覧表を含む)と同一である
から、これを引用する。
一 当審において債務者代理人は次のとおり主張した。
1 債権者らの協議義務違反の主張は時機に遅れた攻撃防御方法であつて却下せら
るべきである。すなわち、わが民事訴訟法は、訴訟遅延の幣害を除去するために、
時機に遅れた攻撃防御方法を制限し、訴訟の初期において争点と証拠の整理を完了
することを要請し、準備手続を経た場合にはその手続中に主張しなかつた攻撃防御
方法を口頭弁論において提出することができないとしている。ところで攻撃防御方
法の提出が時機に遅れたとは、当該訴訟の経過に照らし、早期に提出することが客
観的にみて当然と思われるのに、それをしなかつたことを意味する。本件の場合、
債権者らが仮処分申請をしたのが昭和三九年二月二四日で、その後同年三月一七日
の原審第一回口頭弁論期日から同年六月二三日の第五回口頭弁論期日まで五回にわ
たり、双方の主張整理のための準備的口頭弁論が開かれ、同年八月二日の第六回口
頭弁論期日から本質的口頭弁論に入つたのであるが、債権者らは同年七月二九日に
協議義務の存否に関する重要な資料である協定書を疏甲第一号証として持ち出し、
かつ、その証拠説明書を持ち出しながら協議義務違反の点につきなんら触れること
がなく、昭和四〇年一〇月一二日の第一三回口頭弁論期日に至つて初めてこれを主
張するに至つたのは、明らかに時機に遅れたものであることはもちろん、時機に遅
れたことにつき故意または重大なる過失があつたというべきである。しかも第一五
回口頭弁論期日以降の証拠調は主として協議義務違反の点に関して行なわれている
から、右主張の提出が訴訟の遅延を生ぜしめていることは明らかである。
2 仮に協約の人事約款が懲戒解雇を含むものとしても、昭和三七年三月六日の団
体交渉において当事者間の合意により懲戒解雇を含まない趣旨に変更されたもので
あること、先きに主張したとおりであるが(原判決二六枚目表一三行目以降参
照)、仮に右主張が認められないとしても、右団体交渉以後は、債務者は懲戒解雇
については協議義務がないものとして取り扱い、これに対し組合は、その後本件協
議義務違反の主張をするに至つた昭和四〇年一〇月一二日までの三年六カ月の間、
なんらの異議を申し立てることなく経過しているが、このことは、債務者の右取扱
いにつき組合が同意ないし承認を与えたものか、または、組合および組合員自体が
協議権を破棄したものというべきであるから、懲戒解雇に関する協議約款はその効
力を失つた。たしかに、昭和三七年五月上旬以降に債務者がなした懲戒解雇等の処
分につき、組合側から抗議や処分撤回の申入れを受けた事実はあるが、これらはい
ずれも処分の実体上の不当を理由としているものであつて、協議義務違反を理由と
するものではないから、右の抗議態容から見ても、債務者に協議義務がないことが
明らかである。
3 仮に右主張も容認されず、債務者に協議義務があつたとしても、債務者会社取
締役会長P1が債権者らを代表する全道労協議長らと約三カ月にわたり前後三回の協
議を行なつているから、債務者に協議義務違反の責はない。
4 債権者P2の解雇理由について。
 債権者P2の解雇理由(1)の昭和三七年一月二九日から二月一日まで四日間の無
断欠勤は、全く家事都合によるものであつて、組合用務のためのものではない。し
かも同人は従来から遅刻・欠勤が多いうえ、債務者は従来から従業員に対し欠勤に
ついて厳格な届出を遵守させてきていたので、債務者会社薄野支店長らの管理者が
P2に再三注意したのであるが、なおかつ改めることなく本件無断欠勤におよんだの
である。それでも債務者は同人が組合の委員長であることを考慮し、同人が反省し
今後改めるということで始末書を提出するならば、今回に限り軽いけん責処分です
ますこととして、その旨伝えたのであるが、同人は反省することなく却て反抗的態
度を示し、再三のしようようにもかかわらず始末書を提出しなかつたのであるか
ら、右無断欠勤をとらえて懲戒解雇理由の一とすることは、なんら妥当性を欠くも
のではない。なお、債務者が右無断欠勤の点で同債権者をいまだけん責処分に付し
ていないことは、右の経緯からも明らかである。
 次に解雇理由(2)の業務妨害の点について次のとおり主張する。なるほどスト
ライキは、労働者が、使用者の労働者に対して有する労務指揮権を排除し、その持
つ労働力を利用させないことを目的としているから、ストライキ中に労働者の労働
義務に対応する業務命令を発しても無効として排除されることは当然であるが、使
用者が施設管理権に基づいて発する業務命令は、労働義務に対応するものでないか
ら、右命令が権利の乱用にわたらない限り、労働者はこれに服従する義務を負うも
のといわねばならない。本件の場合において債務者の発した業務命令が施設管理権
に基づくものであることは明らかであるから、債権者P2らはこれに従う義務があ
る。のみならず、本件乗客待合室兼勤務乗務員控室は広さ約一〇平方メートルで、
既に分裂していたいわゆる第二組合所属の従業員が債務者の指揮監督のもとに平常
どおりの業務に従事していて、債務者が営業の場所として現に使用中のものであつ
た。加えて右待合室の隣りはわずかの壁をへだてて配車室があつた。こうした待合
室に債権者P2ら約一〇名が立入りこれを占拠し、かつ、騒ぎ立てるので、その間二
時間にわたり、債務者の業務執行が阻害された。しかも札幌の場合はどの業者もい
わゆるハイヤー営業と、いわゆるタクシー営業との二本立営業であるから、営業所
における電話および乗客待合室兼乗務員控室は、営業上重要な存在となつているの
であつて、電話で註文を受けること、客に待合室を利用させることは、債務者の本
来の業務そのものというべきである。
 次に解雇理由(3)の車両の無断持出しの点について補足する。債務者の就業規
則にいうところの「無断持出し」という概念は、原判決が認定している「不正使
用」という場合をも含む広い意味のものである。けだし、会社の指示に反して自動
車を車庫に格納せず、これを自己の用途に供することは、会社の業務から自動車と
ともに離脱する点において「無断持出し」の場合となんら異なるところはないから
である。なお、債務者は、従来から組合員が組合集会に参加するため自己の担当車
を利用することを禁止していたし、いわゆる第二組合に対してこれを許容していた
事実はない。
 さらに解雇理由(4)のビラはりによる業務妨害の点について補足する。使用者
が、組合活動に利用させるため企業施設内に掲示板を設置し、それ以外の場所に掲
示することを禁じている場合に、組合が掲示板以外の場所にビラをはることが職場
秩序を乱すものであることは論をまたないところ、本件において債務者は右同様の
措置をとり、かつ、債権者P2その他の組合員にしばしばその旨警告していた。しか
るに同人らは、その警告を無視し、しかも麦粉で作つた糊を洗車ブラシを用いてビ
ラの裏側に塗付し、木造建物を汚損、損傷することなしにはこれをはぎとりえない
状態でビラをはりつけた。のみならず、かかるビラはりは、五月七、八日の両日に
のみ行なわれたものでなく、同月五、六日には勤務中の組合員を動員し、かつ、事
業用自動車約一〇両を使用し、札幌市<以下略>所在の債務者会社社長宅、および
同市<以下略>所在の同会社総務部長宅付近の電柱、街路樹、建物等に約一〇〇枚
をはり、本件の同月七日のビラはりは、債務者会社の本社事務所入口一帯になさ
れ、債務者が債権者P2に対し厳重に注意するとともに、ホースを用いて水をかけ、
ビラをはがし、糊を洗い落としたのに、翌八日再び同様のビラはりを行なつたもの
であつて、同人らの行為は、全く職場規律を無視した悪質きわまりないものであ
り、債務者が同人を就業規則に従つて処分することは、企業防衛上やむをえない処
置というべきである。
5 債権者P2は、本件解雇を承認した。すなわち同人は、昭和三八年九月六日組合
と債務者間に取りかわされ、「P2は解雇により就労できない」旨記載してある確認
書(疏乙第七号証)に、組合執行委員長として記名、押印しているが、執行委員長
であるP2と、個人であるP2とは不可分な存在であるから、右記名押印は、個人と
しても解雇を承認したものというべきである。
6 保全の必要性について。
 原判決は、債務者に対し別表三(原判決添付目録引用)記載の金員の仮払いを命
じているところ、債権者らは生活保護法による給付を受領しているほか、他で稼働
して若干の収入をえていて、これらの金員の合計額は一カ月約三万円程度となつて
いるから、右の債務者が仮払いを命じられた金員を合わせると、債権者らの収入は
一カ月約七万円となる。ところで、仮に本件解雇が無効であるとされた場合、債務
者がいわゆるバツク・ペイとして債権者らに支払うこととなる金員は、ひとり当り
一カ月四万一、〇〇〇円前後であるから、原判決のように債務者が別表三記載の金
員を仮払いすることは、債権者らに対し、同人らが勝訴の本案判決をえた場合以上
の利益を与えることになり、必要性の限度を越えているといわねばならない。
二 債務者の右主張に答え、債権者ら代理人は次のとおり主張した。
1 協議約款違反の主張が時機に遅れた攻撃防御方法であるとの債務者の主張は、
これを争う。たしかに、債権者らが右の主張をしたのは原審第一三回口頭弁論期日
においてであるが、右時点においては右主張に関する債権者らの立証は、一応終つ
ていて新たな立証を要しない状態にあつたうえ、不当労働行為、権利乱用の主張に
関する立証として証人、本人計五名の尋問が行なわれることに予定されていたので
あるから、このような場合には、右主張の提出が訴訟の完結を遅延せしめる場合に
あたらないし、その後右主張をめぐる証拠調が行なわれてはいるが、それは債務者
がいわれなき反論をしたためのものであり、債権者らとしては、かかる反論を予期
だにしなかつたのであるから、債権者らに故意はもちろん過失もなかつた。
2 組合が協議権を放棄したとの債務者の主張も争う。組合は、債務者が次々とし
た懲戒処分が、不法、不当で、しかも一方的に行なわれたものであることに、その
つど抗議し、あわせて団体交渉の開催を要求してきた。このことは組合が協議権を
放棄していないことを如実に示すものである。
3 債務者が協議義務を果たしているとの債務者の主張も争う。組合は全道労協議
長らに協議の委任をした事実はない。
4 債権者P2の解雇理由に関する債務者の主張も争う。
5 債権者P2が解雇を承認したとの債務者の主張を否認する。P2が組合の委員長
として債務者指摘の確認書(疏乙第七号証)に記名、押印したのは、当時の労、使
間の状勢から、まず組合員が就労することを第一義的課題とし、そのため処分撤回
問題を一時保留し、その解決は将来にまつほかなかつたからである。なお、組合の
意思がP2個人の意思にならないこと、もちろんである。
6 保全の必要性がないとする債務者の主張は、これを争う。債務者は、みずから
の違法行為に目をつぶり、債権者らが最後の手段として生活保護を受け、その足ら
ざる部分を不安定な臨時的方法で補い、かろうじて生活を続けているのに、それが
ゆえに仮処分の必要性がないと主張するのは、本末を転倒しているばかりか、仮処
分という制度を無にするものである。
三 (証拠省略)
       理   由
一 当事者間の雇傭関係等
 債務者が札幌市内においてタクシー業を営む株式会社であること、債権者らは、
いずれも期限の定めなく右会社に雇用されタクシー運転の業務に従事しており、債
権者P2が同会社の従業員で組織する第一ハイヤー労働組合(以下単に「組合」とい
う)の執行委員長、債権者P3がその副執行委員長、債権者P4がその書記長、その
余の債権者らがいずれもその執行委員であること、債務者が昭和三七年五月八日債
権者P2に対し、昭和三八年一一月二八日その余の債権者らに対し、それぞれ懲戒解
雇に付する旨通告したことは、いずれも当事者間に争いがない。
二 本件各懲戒解雇通告に至る経緯
 成立に争いのない疏甲第七ないし第一二号証、同第一四ないし第二四号証、同第
三一号証、同第三三ないし第四九号証(ただし、同第三九号証は表面の部分の
み)、同第五九、第六〇号証、同第六二、第六三号証、同第六四号証の一ないし
五、同じく疏乙第六ないし第八号証、同第二四号証の五ないし一三、同第二五号証
の二、同第二五号証の四、五、同第二六号証の一、二(同第二六号証の二について
は原本の存在も争いがない)、同第二八号証の八、一一、同第三二ないし第三四号
証、同第三七号証の一、二、同第三九号証、同第四五号証、同第四六号証の三、同
第四九号証の一、二、同第五一号証、原審証人P5の証言により成立を認めうる疏甲
第五号証、その体裁および内容から日刊新聞であると認めうる同第五二号証の一な
いし八、原審証人P6の証言により成立を認めうる疏乙第四号証の一、二、同第三〇
号証、原審証人P7(第一、二回)同P8(第一、二回)の各証言により債務者主張
のような写真であることが認められる疏乙第九号証の一ないし五、同第一一号証の
一、二、同第一二号証の一ないし六、同第一三号証、同第一四号証の二ないし一二
および一四、同第一五号証の一ないし五、および八ないし二九、同第一六号証の一
ないし一九、同第一七号証の一および四ないし一二、同第一八号証の一ないし三、
同第一九号証の一ないし一四、同第二〇号証の一ないし九、原審(第一ないし第四
回)および当審証人P6、原審証人P9、同P10、同P11、同P12、同P7(第一、二
回)、同P13、同P8(第一、二回)、同P5、同P14、当審証人P16、同P17、同
P18の各証言、原審および当審における債権者P2(原審第一、二回)、同P4、同
P19各本人尋問の結果、原審における債権者P3(第一、二回)本人尋問の結果を総
合すると、次のような事実が疏明される。
1 組合は昭和三一年一一月に結成され、それと同時に全国自動車交通労働組合
(以下「全自交」という)の下部組織で、全自交北海道地方連合会(以下「地連」
という)の札幌地区の組織である全自交北海道地方札幌連合会(以下「札幌連合
会」という)に加盟した。
2 債権者P2は、組合結成と同時に組合に加入し、代議員に選出され、翌三二年一
一月から三五年九月まで執行委員をつとめ、三五年九月執行委員長に選出され、以
後継続してその地位にある。また三五年から三七年にかけて地連の執行委員となり
組織部長をつとめ、三七年には札幌連合会の執行委員となり教宣部長をつとめ、組
織拡張のため活動した。
3 組合は、昭和三七年二月六日全自交の行なう春季闘争(以下「春闘」という)
の一環として、五、〇〇〇円の賃上げ、最低賃金一万五、〇〇〇円、運転手の基本
給二万五、〇〇〇円の月給化などの要求九項目(全自交傘下労組の統一要求七項
目、単組要求二項目)を会社に提出するとともに、統一要求七項目については中央
業者団体へ交渉権を委譲し、右団体と全自交との統一交渉とすることを要求した
(この事実は、当事者間に争いがない)。
4 そして、三月六日、一六日に会社、組合間で団体交渉(以下「団交」という)
がもたれたが、会社は交渉権委譲を拒否し、組合は、同月二〇日以降全自交の指令
にもとづく三回の時限ストをもつてこれに応じた。四月七日に至り、組合は、統一
団交によらないことを了承し、組合要求項目について会社との間に団交が開かれた
が、要求項目に趣旨の不明確な点があつたので、同月九日要求書の一部訂正を行な
つた(三月六日と四月七日に団交が開かれた事実は、当事者間に争いがない。)
5 ところで、組合の前副執行委員長で当時札幌連合会の委員長であつたP5、組合
の副執行委員長のP20、執行委員のP21、P8、P22らは、かねてから債権者P2ら
の行動を過激であるとしてP2を中心とする執行部に批判的な立場をとつていたが、
同年二月下旬折から病気入院中であつた右P5は、「(1)春闘について全自交は、
札幌地連および各単位組合に対するオルグ活動を強化するであろうこと、(2)業
者の組織であるハイヤー協会としては、それに対処し、春闘の足並みを乱すため加
盟組合の地連脱退を策し、できうれば脱退に踏み切らせること、(3)それが成功
すれば地連の共産党員は動けなくなること、(4)第一小型ハイヤーにおいては、
まず会社がP2の賃金カツトを行なうこと、そうすると組合はP2に補償せざるをえ
なくなり問題が起こることになるから、そうした事態を招くためP2を泳がせておく
こと、(5)管理職と組合穏健派との人間関係を強化し、会社側のP・Rを行な
い、P2とP20との間のあつれきを利用すること、(6)三役交渉を避け、執行委員
全員交渉にして真実を正しく伝えるようにすること」等の方策を記載したいわゆる
P5メモを作成して右P21らに交付して検討を求め、かつ、右P21らに右メモの要旨
を会社側に伝えるよう依頼した。そして三月三〇日夜札幌市内の夕鶴旅館に、右P
5、P20、P8その他約三〇名の組合員が集まり、P2委員長の行動を過激であると批
判しあつたのであるが、途中P2らは右集会を察知し、約一〇数名で右集会の場に押
しかけ、右P20らの分派活動を非難して双方激しく応酬しあつた。P5は右集会後会
社の営業車で会社社長P16宅を訪れ、同社長に右集会の状況を報告し、また、右の
車代は社用扱いとされた。
6 組合は、四月五日右事態に対処し、春闘に組合員の力を結集させるため全員集
会を開いた。席上P20副委員長は、P2の行動等を非難し、春闘問題より先きに組合
運営について討議すべきであることを主張し、これがいれられなくなると、同人を
含む批判派組合員約二〇名が退場した。
7 同月一〇日の会社との団交の席上、P21、P8、P22らの執行委員は、P2委員
長が、組合において訂正のうえ提出した要求書を独断で撤回した等の理由で、P2委
員長を追及した。
8 翌一一日前記P5、P20、右P21、P8、P22ら約三五名の者は、P5を執行委員
長、P20を副委員長、P21を書記とする第一小型ハイヤー労働組合(以下「第二組
合」という)を結成し、翌一二日それぞれ組合に脱退届を提出するとともに、会社
に第二組合結成の届出をした。会社は直ちに右届出を受理し、その旨社報をもつて
公示した。組合は会社に対し、第二組合を認めたことに抗議した(一部の組合員が
脱退して第二組合を結成した事実は、当事者間に争いがない)。
9 同月一四日会社は組合に対し同日付文書をもつて春闘要求には全面的に応じら
れない旨回答した。
10 同月二七日開催された第二組合の臨時大会に、会社側は社長以下幹部が出席
して会社側の新賃金体系案等を説明し、大会はこれを承認し、一両日後に会社と第
二組合間に新賃金協定が締結された。なお、この日は組合と会社との間に団交が開
かれる予定で、組合側は定刻からその会場に待機していたが、会社側は右の第二組
合の大会の方に出席していて姿を見せなかつた。(会社と第二組合との間に協定が
成立した事実は、当事者間に争いがない)。
11 四月二八日組合は、全自交の統一行動として午前八時から正午まで時限スト
を行ない、その間に会社菊水支店で決起大会を開いた。大会終了後約三〇名の組合
員は、待合室兼運転手控室(以下「控室」という)で時限スト終了時まで待機して
いた。ところで同日は第二組合員が就労していたが、右の状況なので右控室に隣接
した配車室の窓から配車の指示を受け、また右控室の中の組合員がさわがしいた
め、配車室では電話を十分聞きとれない状態であつた。そこで会社の総務部長P6が
電話でP2委員長に組合員を控室外に出すよう指示したが、組合員は結局時限スト終
了時刻まで退去しなかつた(同日組合が時限ストを行ない、控室に組合員が入つた
事実は、当事者間に争いがない)。
12 五月一日会社は第二組合の組合員に新賃金協定に基づく勤務割を実施した。
このため組合の組合員の一部には担当車両を変更される等の影響が出た。
13 同日組合の組合員P23とP24が第二組合の組合員P25とけんかし、P24、P
25がそれぞれ全治三週間の負傷をしたが、この件につき会社は同月四日にP23を、
同月七日にP24をそれぞれ懲戒解雇し、P25にはなんらの処分もしなかつた。な
お、P23、P24はその後間もなく組合を脱退し第二組合に加入し、それと同時に会
社は右両名の懲戒解雇をいずれも取り消した。
14 組合は同月四日豊川稲荷で臨時大会を開いたが、このとき勤務中の組合員の
中に担当車で会場に乗りつけた者がおり、それらの営業車一二台は大会終了まで約
七時間同所に駐車していた。また組合は、同月八日に時限ストを行ない、その際組
合員は営業車四台に分乗して札幌市役所豊水出張所で行なわれていた札幌連合会の
集会に参加し、右営業車四台はその間約二時間同所に駐車していた(同月四日豊川
稲荷で大会が、同月八日豊水出張所で集会が開かれた事実は、当事者間に争いがな
い)。
15 同月六日組合の執行委員のP26、P27、P28、P29の四名、ならびに組合員
のP30ら六名は、勤務中営業車一〇台を使用してP16社長、P6総務部長の各自宅付
近の電柱に、解雇の撤回や団交の開催を訴えるビラをはり、また、組合は翌七日お
よび八日会社の本社内の組合事務所前の階段のまわりや事務室外側の廊下の壁に、
処分の撤回、要求の早期解決、団交の開催とそれへの社長の出席などを訴えるビラ
約二〇枚を貼付した。右六日のビラはりにつき、会社は七日P26らの執行委員四名
をそれぞれ一〇日間の出勤停止処分に、P30らの組合員六名をそれぞれ訓戒処分に
した(同月七、八日に組合員がビラはりをした事実、会社が同月七日四名を出勤停
止処分に、六名を訓戒処分にした事実は、当事者間に争いがない)。
16 また会社は同月八日組合の執行委員である債権者P19を、入院中でありなが
ら前記四月二八日の時限ストに参加したという理由で配車係から運転手に降職させ
た。同人は四月一六日国立病院に入院し、同月三〇日退院しているが、財政担当の
執行委員であつた関係から、組合員に組合活動による賃金カツト分を支払うため、
右時限ストの際菊水支店に行つていたもので、僅か三、四〇分で右支払いの事務を
すませ直ちに病院に戻つたものであるが、退院の翌日の五月一日から出勤してい
た。
17 さらに会社は右五月八日組合の執行委員長である債権者P2を原判決の事実摘
示第二の二の1の「(債権者P2について)」と題する部分の(一)、(二)(原判
決の一七枚目表五行目から一八枚目表九行目まで記載の理由で懲戒解雇にした(こ
の事実は、当事者間に争いがない)。
18 このように組合員に対する出勤停止、訓戒、懲戒解雇などの処分があいつい
だため、組合は春闘要求に処分撤回の要求を加えて会社に団交を求めた。ところが
五月一〇日組合が支援労組の所属員を含めて七、八〇名もの多数で団交に臨んだこ
とから、会社が交渉人員の制限を主張し、その後同月二二日に北海道地方労働委員
会(以下「地労委」という)が示した「(イ)交渉委員は双方八名以内とする。
(ロ)傍聴は相手方の同意を必要とする」などのあつ旋案を会社、組合双方が受諾
し、これにより同月二四、二六、二八、三〇日と団交が開かれたが、実質的討議は
なされず、右三〇日会社は「四月一四日付の回答書をもつて、組合の春闘要求に対
する最後回答とする」として団交の打切りを宣言した(五月一〇日、二四日、二六
日、二八日、三〇日に団交が開かれた事実、五月一〇日の団交後二四日の団交まで
の間に、地労委からあつ旋案が示された事実は、当事者間に争いがない)。
19 さて組合は、第二組合に移る者が逐次ふえ、効果的なストができない状態に
陥入つたので、前述のとおり処分撤回、団交再開などを要求するビラはりやビラま
きを行なうようになり、六月七日以降は連日会社本社入口、車庫、配車室、二階事
務室一帯に対するビラはりをくり返し、ビラはりは次第に激しさを加えた。殊に同
月九日には組合員、支援労組員数一〇名が本社におしかけ、洗車ブラシにのりをつ
け、新聞紙を四つ切りにした紙片に首切り反対、要求貫徹、団交要求、賃上げ要求
などの文字を朱色あるいは黒色スミなどで記載した約四三〇枚にのぼるビラを、社
長室、事務室の壁、天井、窓ガラスなど一面にはりつめたばかりでなく、職員が執
務中の机、いす、壁の油絵等にもところかまわずはりつけ、清掃後もそのあとが残
るなど会社建物施設、備品などの効果、体裁を著しく毀損し、会社の業務遂行を妨
げた。
20 会社は、はじめ管理職や事務職員の手でビラの清掃にあたつていたが、六月
中旬には事務処理に支障をきたすようになつたので、暴力団に関係のあるP31にビ
ラ清掃を請け負わせるに至り、同人ないしその輩下の者と組合員との間にトラブル
が生じ、傷害事件にまで発展した。
21 六月一九日、組合員二〇数名、支援労組員約八〇名が午前九時ごろから会社
菊水支店車庫内に集結して、会社に無届けで、夏期一時金要求、春闘未解決組合支
援のための決起集会を開き、かたわら右建物の壁や窓ガラスにアジ文句を朱書きし
たり、ビラをはり、殊に同支店配車室周囲外側窓ガラスにはすき間なくビラをはり
つけて配車指示を不能ならしめ、その間、労働歌の放送や示威演説をくり返すなど
して同支店の業務を妨害し、同支店長の指示でビラはぎにかかつたP31輩下の者と
の間に紛争を起し、双方に軽い怪我人が出た。これに興奮した組合員、支援労組員
二〇数名は社長以下P6総務部長ら会社幹部の責任を追及するとして同日午後一時半
ころ会社本社に押しかけ、そのまま居すわり、二〇日夜半から翌二一日朝にかけて
事務室内の机、窓ガラスなど各所におびただしい数のビラをはりつけ、会社の執務
を不能にし、二一日午後三時ころ会社管理職総出による立退き要請にも応ぜず、以
来本社事務室を占拠するに至つた(六月一九日組合員が本社に入つた事実は、当事
者間に争いがない)。
22 また、六月一九日午前、組合は菊水支店において出勤停止中の組合員P32を
乗務せしめるなど会社側の配車指示に従わず、同日午後からは、組合員の乗務する
営業車一〇数両の客席両ドアやトランクにビラをはりつけたまま運行するなど会社
の指揮管理を無視排除し、さらに同日以後組合員による売上げは、実質一〇〇〇円
前後ないしはそれよりはるかに下まわり、極端に減少してきた。
23 そこで、会社はこれに対抗して、六月二二日組合に対し同日午前九時以降全
事業所において無期限にロツクアウトする旨通告し、会社施設への立入禁止および
車両の返還を求めた(会社が同日ロツクアウトの宣言をした事実は、当事者間に争
いがない)。
24 しかし、組合は同日午後一一時三〇分ころ菊水支店仮眠室から寝具一〇数点
を持ち出したうえ、引き続き本社事務室を占拠し、さらに営業車六両(その後、六
月二六日第二組合員P15、P33の二名が担当車をもつたまま組合に復帰したので、
その数は八両となつた。会社はこれを理由として同月中に右両名を解雇した。)を
ほしいままにビラはりなどに使用し、しばしばメーター不倒のまま運行し、また会
社の指揮管理を排して旅客運送をし、かたわら、菊水支店、薄野支店に連日組合員
多数で押しかけ、執ようにビラはりをくり返し、さらに入院留守中の社長私宅はじ
め会社幹部私宅に多数のビラをはりつけ、衣類に糊をかけたりし、このため七月二
日にはP2委員長ほか数名の組合員がP31輩下の者から暴行を加えられ、傷害を受け
るなどのことがあつた(組合が六月二二日菊水支店仮眠室から寝具を持ち出した事
実、そのころ車両八両を保管した事実は、当事者間に争いがない)。
25 会社は、六月二七日札幌地方裁判所に組合の本社建物および営業車八両とそ
の車検証、エンジンキーの占有排除ならびに会社事業場に対する立入禁止などの仮
処分を申請し、その審尋手続中の七月二〇日、「(イ)会社と組合は相互にその争
議行為をやめ、組合員は会社の管理の下に正常な業務に従事すること、(ロ)会社
と組合は今後二カ月間は一切の争議行為を行なわないこと、(ハ)会社と組合はお
互いに誠意をもつて団交すること」との旨の和解の成立をみた(会社が札幌地方裁
判所に立入禁止等の仮処分を申請し、その手続中の七月二〇日に和解が成立した事
実は、当事者間に争いがない)。
26 ところが、その後、和解条項の履行についての会社、組合間の折衝におい
て、前示P15、P33両名の解雇撤回と就労を求める組合の主張をめぐり、右和解条
項の解釈履践につき意見の一致をみず、組合の会社本社事務室の占拠および会社の
指揮命令に従わない車両の運行状態が続いたので、会社は、七月二八日再び組合に
対し、同日午後一時以降全事業所につき無期限のロツクアウトを通告するととも
に、同月三〇日札幌地方裁判所に前同旨の仮処分を再度申請し、翌三一日申請に添
う仮処分決定を得て、八月四日執行した(和解条項の履行をめぐり意見が一致せ
ず、会社が七月二八日再びロツクアウトを宣言した事実は、当事者間に争いがな
い)。
27 右仮処分執行により、本社事務室および車両八両に対する組合の占有は解か
れたが、組合は車検証およびエンジンキーについては見当らないと称して執行吏に
対する引渡しを拒否した。また、組合は八月六日本社建物に接着して入口前歩道上
に天幕小屋を構築し、以後一カ月余りの間これを存置して会社の本社使用を妨げ
た。
28 争議解決をはかるための交渉は八月三一日から続けられ、組合側はやがて春
闘要求を取り下げ、立ち上り資金、処分問題に限定して交渉を進めたが、会社は車
検証、エンジンキー、仮眠室備付の寝具の返還、本社屋上の赤旗の撤去が先きであ
るとして、一二月七日まで一〇数回にわたる団交が開かれたのに歩み寄りがみられ
なかつた。その後昭和三八年三月末にも二回の団交がもたれたが、結論がでなかつ
た。同三八年八月一二日地労委の勧告により同月二二日から会社と組合側との間に
団交が再開され、九月六日、「(イ)組合は会社の指揮管理の下に正常な業務に服
する。(ロ)労使双方は就労の日より二カ月間一切の争議行為をしない。(ハ)会
社は同日午後一時ロツクアウトを解除する」などの事項を内容とする確認書が取り
交わされ、会社は、同日午後一時ロツクアウトを解除し、その後組合員の就労に先
き立つて身体検査を行ない、かつ、個別に就労意思を確かめるなどしたうえで、就
労させ、組合員は同月一七日以降二六日までに全員就労して、ここに約一年半にわ
たる争議状態はようやく終結した。当時組合員は三〇名余りに減少し、逆に第二組
合員は一〇〇名を越えていた(九月六日ロツクアウトが解除され、同月一七日から
就労が始まつた事実は、当事者間に争いがない)。
29 以上の争議の過程においては、組合執行委員長債権者P2以下組合役員である
債権者ら全員が一団となつてこれが企画、指導、実行にあたつてきた。
30 就労後の組合員の稼働状況は、なんらの不都合も起さず良好であつて、以後
の団交においては、有給休暇、石炭手当、昇給問題などについて交渉を重ね、一一
月四日の団交においては、組合は、その前回において申入れをしていた職能給の判
定取扱い、債権者P4ら就労の遅れた者に対する補償、石炭手当などの件については
会社回答で了承するとし、なお未解決の問題について次回団交を同月二三日から二
五日ころに行なうと定められた。
31 ところが同月一五日債務者会社の社長P16がその地位を退き、P34がこれに
代り、ついで同月二八日債務者は、債権者P2を除くその余の債権者らを原判決の事
実摘示第二の二の1の「(P2以外の債権者らについて)」と題する部分の(一)、
(二)(原判決の一八枚目表一〇行目から一九枚目裏九行目まで)記載の理由で懲
戒解雇した(社長の交代を除くその余の事実は、当事者間に争いがない)。
三 債権者P2に対する懲戒解雇の当否
 債務者が昭和三七年五月八日債権者P2を債務者主張の理由(すなわち、無断欠勤
のほか前記二項の11、14、15等の事実に関する責任追及)で懲戒解雇したこ
と、前述(二項の17)のとおりであるが、当裁判所は、右解雇はこれを正当とす
べき実質的理由を欠き就業規則の適用を誤つたもので無効であり、また、債権者ら
が就業規則の適用の誤りを主張することは、時機に遅れた攻撃防御方法の提出に該
当しないと判断する。その理由は、原判決の理由説示第二の二の3(原判決の五八
枚目表二行目から七三枚目裏三行目まで)と同一であるから、これを引用する。
 のみならず、右認定のとおり本件懲戒解雇がこれを正当とすべき実質的理由を欠
いている事実に、前記一項記載の事実および前記二項の1ないし31記載の諸事実
を合わせ考察し、殊に、P2が長年執行委員長として組合の組合活動を企画、指導し
ていたこと、P2らに批判的なP5らが第二組合を結成するに当つては、P5らと債務
者との間になんらかの連絡があつたものと推認せざるをえないこと、債務者が第二
組合の育成に協力し、その組合員をP2らの組合の組合員より利益に取り扱つている
こと等をしんしやくすると、債務者は、組合の中心的存在であるP2を嫌悪し、か
つ、組合の弱体化をねらい、前記の解雇理由を口実としてP2を企業外に排除しよう
と意図したものと推認せざるをえず、したがつて本件懲戒解雇は、労働組合法第七
条第一号に該当する不当労働行為であつて、無効であるというべきである。
 それゆえ、債権者P2に対する本件懲戒解雇は、解雇の効力をめぐるその余の争点
につき判断するまでもなく、無効である。
 ところで債務者は、債権者P2は昭和三八年九月六日の確認書に記名押印すること
によつて本件解雇を承認したと主張する。たしかに、成立に争いのない疏乙第七号
証(疏甲第四〇号証と同じ)によると、右同日債務者と組合との間に取りかわされ
た確認書には、P2は解雇により就労できない旨の条項があり、右確認書にはP2が
委員長として組合を代表し記名押印していることが認められる。しかし成立に争い
のない疏乙第五一号証、原審証人P9、当審証人P18の各証言、原審における債権者
P4本人尋問の結果、当審における債権者P2本人尋問の結果を総合すると、本件争
議解決への努力は、昭和三七年一一月ごろから活発となり、翌三八年春ごろには全
北海道労働組合協議会(全道労協)、札幌地区労働組合協議会(地区労)も積極的
に解決に乗り出し、これに全自交中央本部、全自交北海道地連および組合を加えた
五者で解決のための共闘会議を組織し、同年八月には地労委から解決への努力方の
勧告も受け、債務者としばしば交渉を重ねていた。その過程において、組合はP2委
員長の解雇撤回を求め、債務者はこれを拒否して両者譲らぬため、共闘会議側にお
いても債務者側においても、右解雇問題を取り上げていては解決困難であるとし、
債務者がロツクアウトを解き、組合側は就労して一応正常の労使関係を回復するの
が先決であると考え、やがてその線にしたがつた交渉が進められてきた。したがつ
て前記確認書の調印にあたつて、組合側は、P2委員長の解雇撤回、就労問題は、同
様の立場におかれていたP33のそれとともに、その後二カ月間の平和期間のうちに
債務者と交渉を重ねていきながら解決しようと考えていたものであり、したがつて
調印の時点において確定的にP2の解雇、不就労を承認する趣旨のものではなかつた
こと、債務者においても組合の右の意図を推察していたことが窺われる。そうして
みると、前記確認書の調印は、組合においてP2の解雇を承認したものでないことは
もちろん、P2個人において自己の解雇を承認したものでもないというべきであつ
て、債務者の前記抗弁は採用できない。
四 P2を除くその余の債権者らに対する各懲戒解雇の効力
 債務者が昭和三八年一一月二八日P2を除くその余の債権者ら(以下本項において
は単に「債権者ら」という)を債務者主張の理由(すなわち前記二項の19、2
2、24等の事実に関する責任追及)でそれぞれ懲戒解雇したことは、前述(二項
の31)のとおりであり、前記二項認定の事実中債権者らに対する解雇事由となつ
た事実によれば、組合のしたビラはり、本社事務室の占拠、菊水支店運転手仮眠室
備付寝具の持出し、車両の占有運行等の行為は、社会通念上許容さるべき範囲を逸
脱し、使用者の業務遂行行為を積極的に妨害し、かつ、その財産支配を阻止するも
のといわざるをえないから、これら行為が、前示のような春闘要求をめぐる債務者
との間の深刻な対立、抗争の中で行なわれたものであり、殊に右抗争の過程におい
て第二組合が結成され、それと債務者との間に新賃金協定が妥結し、新勤務割りが
実施されたり、P2委員長はじめ多数の組合員が懲戒解雇等の処分を受け、また、債
務者が暴力団に関係のあるP31にビラはがしを請け負わせ、組合員が右P31および
その輩下の者から暴行を受けたりするなど、組合を刺激させる要因が多々あり、組
合としても勢い必要以上に実力を誇示する方向に赴いたであろう等の事情をしんし
やくしても、正当な争議行為の範囲を越えたものと評価されねばならない。したが
つて、かかる行為を企画、指導、実行した執行委員である債権者らが、その責任を
追及されたとしても、それが適切な時期、方法において行なわれた場合には、直ち
にこれを不当な措置と断ずることはできない。
 しかしながら、本件各解雇は、債務者が昭和三八年九月六日組合との間に確認書
を取りかわして、ロツクアウトを解除し、債権者らを含む組合員全員が就労して稼
働状況も良好であり、約一年半の長きにわたつた争議が終わつて労使の間がようや
く正常化しようとしたやさきに突如として行なわれたものであること、債務者は、
従前しばしば債権者らの争議責任を追及する態度をみせてはいたが、右確認書作成
の際には強く争議責任を留保する態度には出ず、結局確認書には債権者らに対する
争議責任留保に関するなんらの取りきめもなされなかつたこと、本件の違法行為は
昭和三七年六、七月ごろになされているのであつて、当時これを理由とする責任追
及ができなかつたわけでもないのに(現にP2委員長らの懲戒解雇が時期を失せず行
なわれていたことに対比する)、一年以上経過してのちに行なわれていること、当
時組合員は僅か約二五名にすぎないのに、そのうち執行部全員を解雇したものであ
ること、先きにP2委員長の解雇の効力について判断した際述べたとおり、P5らが
第二組合を結成するに当つては、P5らと債務者との間になんらかの連携があつたも
のと推認せざるをえず、しかも債務者が第二組合の育成に協力し、その組合員を債
権者らの組合の組合員より利益に取り扱つていたこと等の事情を合わせ考察する
と、本件各懲戒解雇は、組合の決定的壊滅をねらい債権者らが組合員であることを
実質的理由としてなしたものであると評価せざるをえない。それゆえ、本件各懲戒
解雇も、労働組合法第七条第一項に該当する不当労働行為であつて、無効であると
いうべきである。
 してみれば、債権者らに対する本件各懲戒解雇は、解雇の効力をめぐるその余の
争点について判断するまでもなく、無効である。
五 賃金請求権の存否
 以上説明のとおり、本件各懲戒解雇はいずれも無効であるから、債権者らは、い
ずれも債務者の従業員としての地位を失なわず、債務者から各解雇当時の労働条件
に従つて処遇されなければならないことは当然である。したがつて、特段の事情の
ない限り、賃金についても解雇当時にさかのぼつてこれを請求する権利がある。
 ところで債務者は、債権者P2について、組合およびP2本人が昭和三八年九月六
日に同人の解雇、不就労を承認したから、同人は賃金請求権を有しないと主張す
る。しかし、組合およびP2が確定的に右の承認をしたと認め難いこと、先きにP
2の解雇の効力について判断した際に判示したとおりであるから、右主張は採用でき
ない。
 しかして、債権者P2の昭和三八年九月二四日から昭和四一年五月分(四月一六日
から五月一五日まで)までの賃金合計額が別表一(原判決添付目録引用)のとおり
で、その後の一カ月分の賃料額が別表二(前同)のとおりであり、その余の債権者
らの各昭和三八年一一月二八日から昭和四一年五月分(四月一六日から五月一五日
まで)までの賃金合計額が別表一のとおりで、その後の一カ月分の賃料額が別表二
のとおりであることは、当事者間に争いがない。したがつて債権者P2はその請求に
かかる昭和三八年九月二四日以降、その余の各債権者は、その請求にかかる同年一
一月二八日以降それぞれ右の金額の賃金請求権を有することになる。なお、賃金の
支払期が毎月一六日から翌月一五日までの分を翌月二五日に支払うことになつてい
ることは、弁論の全趣旨によつてこれを認めることができる。
 ところで、債務者は、債権者らの各賃金債権中昭和四一年六月一三日までに二年
を経過している分は時効により消滅したと主張し、また、債権者らは昭和三九年一
月から同年一〇月一九日まで札幌市内のハイヤー会社で稼働し収入をえているか
ら、その収入額を民法第五三六条第二項ただし書にしたがい賃金から控除すべきで
あると主張するが、後述のとおり当裁判所は、昭和四一年七月五日以前の賃金分に
ついては仮払いの必要性がないと判断するので、右主張に対する判断をするまでも
なくこれを採用しない。
六 保全の必要性
 原審における債権者P4本人尋問の結果(第二回)に弁論の全趣旨を総合すると、
債権者らは、いずれも他に特別の資産を有せず、債務者から受ける賃金を唯一の収
入として生活していたものであることが認められるから、債権者らが債務者の従業
員としての地位を仮に認められることの必要性、ならびに特別の事情のない限り前
記賃金相当額の金員の仮払いを受ける必要性があるといいうるところ、右金員の仮
払いについては、当裁判所も原判決が必要性を認めた限度において必要性があり、
その余は必要性がないものと判断する。その理由は、次のとおり付加するほか、原
判決七五枚目裏四行目から七七枚目裏一〇行目までと同一であるから、これを引用
する。
1 そもそも生活保護法は、各個人が自己の財産、権利、能力等を最大限に活用し
て自己の生活を維持すべしとする資本主義体制の上に座を占めていることと、いわ
ゆる濫救の弊を避ける目的のもとに、いわゆる「保護の補足性」という原則を打ち
立て、その第四条において、現実に生活に困窮している者についても、その者がそ
の利用しうる資産、能力その他あらゆるものを、最低生活維持のために活用するこ
とを、要保護者たることの資格要件としている。右にいわゆる資産の中には金銭債
権をも含むことは当然であるから、金銭債権を有する者は、まずその回復をはか
り、その実現されない場合にはじめて同法による保護を受くべきもので、生活保護
を受けているから権利の回復をはかる必要がないとするのは、事の先後をあやまる
ものということができる。のみならず、債権者が生活保護を受けていることを理由
に、債務者が債務の弁済を一時的にもせよ免れるということは、債務者を不当に利
得せしめる結果ともなる。それゆえ、金員仮払いの仮処分を命ずる緊急の必要性が
あるか否かの判断にあたつては、債権者が生活保護を受けているか否かを顧慮すべ
きものではない。
2 債務者は、債権者らが賃金の仮払いを受けた場合には、その受けた生活保護費
を返還せねばならないから、賃金仮払いを求める緊急の必要性はないと主張する
が、その理由のないこと、右に述べたところからおのずから明らかである。しかし
て当裁判所も、右必要性を認めた部分については、本件の事案にかんがみ保証を立
てさせないで仮処分を命ずるのを相当と判断する。
七 結び
 それゆえ、右と結論を同じくする原判決は結局において相当であり、債権者らの
本件控訴、債務者の本件控訴は、いずれも理由がない。よつて民事訴訟法第三八四
条にしたがいこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき同法第九五条、第八
九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 原田一隆 神田鉱三 岨野悌介)

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