弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各控訴はいずれもこれを棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は弁護人芳井俊輔提出の控訴趣意書記載のとおりであるから茲に
之を引用する。これに対する当裁判所の判断は左のりとおりである。
 論旨第三点について。
 記録によれば、本件起訴状記載の訴因は、第一、被告人Aは昭和二十三年十月頃
業務上保管にかかる政府所有の小麦粉二十五袋(一袋二十二瓩入)を被告人B方に
おいて同被告人を通じてCに売却し以て之を横領し、第二、被告人Bは賍物たるの
情を知りながら昭和二十三年十月頃右Aより小麦粉二十五袋の売渡斡旋方の依頼を
受けて之をその頃肩書自宅においてCに売却し、以て賍物の牙保をなしたというの
であり、これに対し原審第六回公判において検察官が予備的に訴因を追加したとこ
ろは、第一、被告人Aは法定の除外事由がないのに営利の目的で被告人Bに対し、
昭和二十三年十月初旬頃及び同月下旬頃の三回に亘り小麦粉合計二十五袋(一袋二
十二瓩入)を法定の販売価格より合計金一万九千六百円を超過する代金三万三千円
で売り渡し、第二、被告人Bは営利の目的で被告人Aより第一記載のように小麦粉
二十五袋(一袋二十二瓩入)を法定の販売価格より合計金一万九千六百円を超過す
る代金三万三千円で買い受けたものであるとし、いずれもその罪名を物価統制令違
反となしていることは所<要旨>論のとおりである。しかしながら本件起訴状記載の
公訴事実の基本たる事実関係は、被告人Aについては、同被告人が本件小麦
粉二十五袋(一袋二十二瓩入)を第三者に売り渡したというにあるのであつて、こ
れを起訴状記載の訴因は同被告人が自己の業務上占有する他人の物をほしいままに
売却したものとし、業務上横領罪を構成するものとしているのであり、予備的に追
加された訴因はこれを指定価格を超過して販売したというのであるから、右起訴状
記載の訴因と予備的追加の訴因との間には、その基本たる公訴事実の同一性は失わ
れないものというべきである。しかして被告人Bについては、本件起訴状記載の基
本たる事実関係は同被告人が本件小麦粉二十五袋の売買に関与した事実であり、こ
れを起訴状記載の訴因は、同被告人がその賍物たるの情を知りながら本件小麦粉の
売買の斡旋をしたものとし、賍物牙保罪を構成するものとしているのであり、予備
的に追加された訴因は、これを右被告人自身において指定価格を超えて買い受けた
ものとしているのであつてその間に自ら買受けたこととこれを他人に斡旋したこと
とは事実関係において相違するかのごとくであるが、記録によれば本件小麦粉は被
告人Aから被告人Bの手に渡り、次いで同人からこれを前記Cに売り渡したことは
疑なきところであり、この点につき被告人Aの司法警察員並びに検察官に対する各
供述調書の記載によれば同被告人は本件小麦粉は被告人Aにおいてこれを被告人B
に売り渡したものであると供述しており、被告人Bの司法警察員に対する第一、二
回自首調書及び検察官に対する供述調書の各記載によれば被告人Bは被告人Aから
本件小麦粉の売却方依頼を受けてこれを前記Cに売り渡した旨供述しているのであ
つて、検察官は当初この被告人Bの供述に従つて起訴状において同被告人が被告人
Aの依頼を受けて本件小麦粉をCに売却したものとし、予備的に追加した訴因にお
いてはこれを被告人Aの供述するところに従つて被告人Bが本件小麦粉を買い受け
たものとしたのであるが、そのいずれにしても、その基本たる事実関係が同一であ
ることについては疑なきところである。したがつて被告人Bについても本件起訴状
記載の訴因と予備的追加の訴因との間には、その基本たる公訴事実の同一性は失わ
れないものといわなければならない。されば本件予備的訴因の追加を以て公訴事実
の同一性を害するものとして却下すべきものとする所論は到底採用し難い。論旨は
理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 花輪三次郎 判事 川本彦四郎 判事 山本長次)

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