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平成21年8月28日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成20年(ワ)第4692号出版差止等請求事件
口頭弁論終結日平成21年7月14日
判決
東京都練馬区〈以下略〉
原告株式会社永岡書店
訴訟代理人弁護士茶谷豪
東京都千代田区〈以下略〉
被告株式会社宝島社
訴訟代理人弁護士芳賀淳
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1主位的請求
(1)被告は,別紙書籍目録記載の書籍及びこれに付属するDVDを印刷,出
版,製造,販売又は頒布してはならない。
(2)被告は,原告に対し,198万円及びこれに対する平成20年2月29
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2予備的請求
被告は,原告に対し,198万円及びこれに対する平成20年2月29日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,原告が,別紙書籍目録記載の書籍(DVD付きのもの。以下「被
告書籍」という。)を発行した被告に対し,主位的に,被告書籍は,原告発
行の「手あそびうたブック」と題するDVD付DVDとイラストでよくわかる!
き書籍(以下「原告書籍」という。)に係る編集著作物並びに原告書籍に掲
載・収録された歌(曲)の歌詞及び振付けの著作物を複製したものであり,
被告が被告書籍の印刷,出版等をする行為は原告の上記編集著作物及び著作
物の各著作権(複製権)を侵害する旨主張して,著作権法112条1項に基
づき上記行為の差止めと民法709条に基づき著作権侵害の不法行為を理由
とする損害賠償を求め,予備的に,仮に被告の上記行為が著作権侵害に当た
らないとしても,原告の有する法的保護に値する利益を侵害する旨主張し
て,同条に基づき上記利益の侵害の不法行為を理由とする損害賠償を求めた
事案である。
2前提事実(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全趣旨に
より認められる事実である。)
(1)当事者
ア原告は,図書出版及び販売等を目的とする株式会社である。
イ被告は,雑誌,書籍,新聞の編集・発行等を目的とする株式会社であ
る。
(2)原告書籍の構成・内容
ア原告は,平成18年1月10日,原告書籍を発行した(甲13)。
原告書籍は,書籍本体(以下「原告書籍本体」という。)及びこれに
付属するDVD(以下「原告DVD」という。)から構成されており,
原告書籍本体には,歌(歌詞及び楽譜)と歌に合わせた手,指等の身体
の振付けを説明した文章及びイラストが掲載され,原告DVDには,歌
及び振付けの実演の録音・録画が収録されている。
原告書籍に掲載・収録されている歌(曲)は,いわゆる「手あそび
歌」である。「手あそび」は,手,指等の身体を動かす歌のあそびをい
い,歌詞やリズムを表現する動きを歌を歌いながら行うものであり,手
あそびの対象となる歌は「手あそび歌」と呼ばれている。
イ原告書籍本体には,別紙曲名一覧の「原告書籍本体」欄のとおり,合
計63曲が掲載され,そのうちの29曲(「DVD」欄に「D」の表示
があるもの)が原告DVDに収録されている(甲12)。
また,原告書籍本体の本文は,「PART1指あそびと手あそ
び」(別紙曲名一覧の原告書籍の番号1ないし30の曲を掲載),「PA
RT2身体あそび」(番号31ないし54の曲を掲載),「PART3
みんなであそぼう」(番号55ないし61の曲を掲載)及び「できるかな!
えいごの手あそびうた」(番号62・63の曲を掲載)の順に構成されてい
る(甲12)。
(3)被告書籍の構成・内容
ア被告は,平成19年9月26日,被告書籍を発行した。
被告書籍は,書籍本体(以下「被告書籍本体」という。)及びこれに
付属するDVD(以下「被告DVD」という。)から構成されており,
被告書籍本体には,手あそび歌(歌詞及び楽譜)と歌に合わせた手,指
等の身体の振付けを説明した文章及びイラストが掲載され,被告DVD
には,歌及び振付けの実演の録音・録画が収録されている。
イ被告書籍本体には,別紙曲名一覧の「被告書籍本体」欄のとおり,合
計63曲が掲載され,そのうちの44曲(「DVD」欄に「D」の表示
があるもの)が被告DVDに収録されている(乙1)。
また,被告書籍本体の本文は,「ワクワクへん保育・幼稚園でも人
気の定番曲」(別紙曲名一覧の被告書籍の番号1ないし9の曲を掲
載),「ニコニコへん低年齢向き中心」(番号10ないし24の曲を掲
載),「リズムへん体を動かす体操系」(番号25ないし46の曲を掲
載)及び「なつかしへんわらべうた集」(番号47ないし63の曲を掲
載)の順に構成されている(乙1)。
ウ別紙曲名一覧のとおり,原告書籍本体に掲載された63曲中,35曲
の曲名が,原告DVDに収録された29曲中,21曲の曲名がそれぞれ
被告書籍本体の掲載曲及び被告DVDの収録曲と同一である(甲12,
乙1)。
3争点
本件の主位的請求の争点は,原告書籍本体及び原告DVDは,素材の選択
において創作性を有する編集著作物か(争点1−1),また,原告はその著
作権者か(争点1−2),被告書籍の発行は,編集著作物の複製権侵害に当
たるか(争点2),被告書籍に掲載又は収録された,原告主張の個々の歌(
曲)の歌詞及び振付けは著作物か(争点3−1),また,原告はその著作権
者か(争点3−2),被告書籍の発行は,個々の著作物の複製権侵害に当た
るか(争点4),著作権侵害による原告の損害額(争点5)であり,本件の
予備的請求の争点は,被告書籍の発行は,原告の法的保護に値する利益の侵
害を理由とする不法行為を構成するか(争点6−1),上記利益の侵害によ
る原告の損害額(争点6−2)である。
第3争点に関する当事者の主張
1原告書籍本体及び原告DVDの編集著作物性及び著作権の帰属(争点1−
1,2)について
(1)原告の主張
ア原告書籍本体及び原告DVDの編集著作物性(争点1−1)
原告書籍本体及びこれに付属する原告DVDは,以下のとおり,素材
である手あそび歌の曲名及び振付けの選択において創作性を有する編集
著作物である。
(ア)原告は,平成17年春ころ,手あそび歌を集めた書籍にDVDを
付けるという新しいコンセプトの下に,手あそび歌を集めたDVD付
き書籍を発行することを企画し,同年6月ころから,「むかいはら幼
稚園」,「武蔵野音楽大学附属幼稚園」及び「寿福寺幼稚園」に協力
を要請し,教諭に対し,普段の園生活においてどのような曲の手あそ
びや身体あそびの人気が高いかについて聴き取り調査及びアンケート
を実施した。
アンケートは,原告の従業員(編集部員)が選出した200曲余り
の候補曲について質問回答を求め,回収されたアンケート約60の集
計結果から,候補曲を「よく遊ばれているもの」,「まあまあ遊ばれ
ているもの」,「たまに遊ばれているもの」及び「遊ばれていないも
の」に分類した。
その上で,原告の従業員が,定番の曲は外さないようにして,アン
ケートで人気が高かった曲を中心に,ジャンルの多様性(指あそび・
手あそび・複数で行うあそび・英語のうたなど)にも配慮し,同じ曲
でも複数のバージョンがあるものは幼稚園での人気や振付けの善し悪
しを検討して,原告書籍本体の掲載曲を選択した。
原告DVDについては,DVDの収録時間が限られているため,原
告書籍本体よりも曲数を絞り込むこととし,アンケートでも特に人気
の高かった曲,動きが大きく映像映えのする曲,曲が長めで振付けの
豊富な曲,振付けに変化のある曲,テンポの速い曲などの観点から,
収録曲を選択した。
また,定番の曲でもできるだけ他社書籍とは異なるバージョンの歌
詞及び振付けを選択して差別化を図った。
(イ)編集著作物は,「編集物でその素材の選択又は配列によって創作
性を有するもの」(著作権法12条1項)であるところ,編集著作物
における「創作性」とは,素材の選択又は配列に何らかの形で人間の
精神活動の成果が顕れていることをもって足りるというべきである。
そして,前記(ア)によれば,原告書籍本体及び原告DVDに掲載又
は収録された手あそび歌の曲名及び振付けは,原告の従業員の知的精
神活動の成果として選択されたものである。また,手あそび歌を集め
た書籍を作成する場合,誰が選曲しても同じような選曲になるもので
はない。
したがって,原告書籍本体及び原告DVDが,素材である手あそび
歌の曲名及び振付けの選択において創作性を有する編集著作物である
ことは明らかである。
イ著作権の帰属(争点1−2)
(ア)編集著作物である原告書籍本体及び原告DVDは,原告の発意に
基づき,原告の従業員(編集部員)が職務上作成したものであり,か
つ,原告書籍本体の奥付に「編者永岡書店編集部」との表示があ
り,原告書籍本体及び原告DVDは,原告の著作の名義の下に公表さ
れたものといえるから,法人著作(職務著作)(著作権法15条1
項)として,その著作権(編集著作権)は原告に帰属する。
(イ)なお,原告書籍本体の奥付に「本書スタッフ」と記載された者は
美術面を担当した業者,「DVDスタッフ」と記載された者は出演者
及び撮影スタッフであり,原告の従業員ではないが,これらの者は,
原告書籍本体の本文に係る創作活動を行っておらず,また,原告DV
Dの全体的な形成に創作的に寄与したものでもない。したがって,原
告がこれらの者に原告書籍本体及び原告DVDの作成工程の一部を外
注したからといって,職務著作の要件を欠くことにならない。
ウ小括
以上によれば,原告は,編集著作物である原告書籍本体及び原告DV
Dの著作権者である。
(2)被告の反論
ア原告書籍本体及び原告DVDの編集著作物性に対し(争点1−1)
原告書籍は,既に存在し,あるいは巷間に流布している手あそび歌を
紹介する書籍である。手あそび歌を紹介する書籍を作成するに当たって
は,どの手あそび歌を当該書籍に収録するかを決める作業が必要となる
が,人気があり,楽しめる曲を選ぶという普通の判断をするならば,類
書間で曲名の重なり合いが生じるのは当然であり,原告書籍本体及び原
告DVDにおける手あそび歌(曲名)及び振付けの選択が,類書と比較
して,特に創作性があるという事実はない。
例えば,原告書籍本体に掲載された曲のうち,44曲が,原告書籍よ
り前に発行された「うたって楽しい手あそび指あそび120」(株式会
社ポプラ社,2004年3月発行。以下「ポプラ社書籍」という。甲2
3)に掲載された曲と重複している。この重複数は,被告書籍本体に掲
載された曲と原告書籍本体に掲載された曲との重複数(35曲)を上回
るものである。また,原告DVDに収録された曲の選択は,平凡なもの
である。
したがって,原告書籍本体及び原告DVDは,曲名及び振付けの素材
の選択において創作性を有するものではないから,いずれも著作権法上
の編集著作物に当たらない。
イ著作権の帰属に対し(争点1−2)
原告書籍本体の奥付には,原告書籍本体及び原告DVDの作成に関与
した者として多数の者が挙げられており,これらの者全てが原告の従業
員ではないから,原告書籍本体及び原告DVDは原告の従業員が職務上
作成したものとはいえない。
また,原告書籍本体の奥付には「編者永岡書店編集部」との記載が
あるが,「永岡書店編集部」は原告(株式会社永岡書店)とは別個の人
格を示すものであり,上記記載から原告書籍本体及び原告DVDが原告
の著作の名義の下に公表されているとはいえない。
したがって,原告書籍本体及び原告DVDは,職務著作の要件を満た
さないから,原告書籍本体及び原告DVDの著作権(編集著作権)が原
告に帰属する旨の原告の主張は,その前提を欠き,理由がない。
ウ小括
以上のとおり,原告書籍本体及び原告DVDは,原告主張の編集著作
物に該当せず,その著作権が原告に帰属するものでもない。
2編集著作物の複製権侵害の有無(争点2)について
(1)原告の主張
被告による被告書籍の発行は,以下のとおり,編集著作物である原告書
籍本体及び原告DVDの複製権の侵害に当たる。
ア別紙曲名一覧のとおり,被告書籍本体には,原告書籍本体の掲載曲6
3曲中35曲と同一曲名の曲が掲載され,被告DVDには原告DVDの
収録曲29曲中22曲(前記前提事実(3)ウの21曲に別紙曲名一覧の原
告書籍の番号6の1曲を加えたもの)と同一曲名の曲が収録され,ま
た,上記掲載又は収録された曲に係る振付けもそっくりそのままのもの
である。
したがって,被告書籍本体及び被告DVDには,手あそび歌の曲名及
び振付けを素材とする編集著作物である原告書籍本体及び原告DVDに
おける素材の選択の創作的表現がそれぞれ有形的に再製されている。
イ被告書籍本体及び被告DVDが原告書籍本体及び原告DVDに依拠し
て作成されたことは,次の諸点から明らかである。
(ア)被告は,被告書籍を作成する前に,原告書籍に接していた。
(イ)「キラキラぼし」(別紙曲名一覧の原告書籍の番号39,被告書籍
の番号11)は,原曲はフランス民謡であり,これに対応する日本語の
歌詞は,複数存在する。
原告書籍本体及び原告DVDでは,原告の従業員A(以下「A」と
いう。)が,堀野真一が作詞した「キラキラひかるおおきなほしは
たのしいうたをうたっているよピカピカひかるちいさなほし
と」との歌詞(以下「堀野の歌詞」という。)を用いた「キラキラぼ
し」を選択したところ,被告書籍本体及び被告DVDでも,堀野の歌
詞が選択されている。
(ウ)「おおきなはたけ」(別紙曲名一覧の原告書籍の番号8,被告書
籍の番号34)の中の「ずんずんずんずんめがのびてはながさきまし
た」との歌詞に対応する振付けが,原告書籍本体及び原告DVDで
は,両手の人差し指を立てて指の前でくっつけてから「ポッ」と放す
振付けになっている。
しかし,原告書籍及び被告書籍における「おおきなはたけ」の振付
けは,いずれも二階堂邦子編「あがりめさがりめ手あそびうた5
0第1集」(学事出版株式会社,1979年10月15日初版。以
下「学事出版書籍」という。甲18)に掲載された振付けをオリジナ
ルとするものであるところ,学事出版書籍の「おおきなはたけ」で
は,「ずんずんずんずんめがのびてはながさきました」との歌詞に対
応する振付けは,人差し指ではなく小指を合わせ,合わせた小指を開
く振付けとなっており,原告書籍本体及び原告DVDの振付けは誤り
である。
しかるに,被告書籍本体及び被告DVDでも,原告書籍本体及び原
告DVDの誤った振付けがそのまま掲載・収録されている。
(エ)原告書籍では,「とんとんとんとんひげじいさん」のバリエーシ
ョンのうち,「ポロッ」,「ズルッ」という動作の入るものを「ポロ
ズル・バージョン」(別紙曲名一覧の原告書籍の番号6)という原告
独自の曲名を付けているが,被告書籍(別紙曲名一覧の被告書籍の番
号5)においても,原告独自の曲名をそのまま用いている。
(オ)別紙歌詞・振付け目録記載の「原告書籍本体・原告DVDの歌
詞」欄,「原告書籍本体・原告DVDの振付け」欄,「原告書籍本体
の歌詞」欄及び「原告書籍本体の振付け」欄記載の各歌詞及び振付け
は,原告の従業員が独自に創作したものであるが,被告書籍本体及び
被告DVDにおいても,上記各歌詞及び振付けがそのまま掲載・収録
されている。
ウ以上によれば,被告は,原告書籍本体及び原告DVDに依拠して,被
告書籍本体及び被告DVDに掲載・収録する手あそび歌の曲名及び振付
けを選択して被告書籍を発行し,原告書籍本体及び原告DVDにおける
素材の選択の創作的表現を有形的に再製したから,被告による被告書籍
の発行は,編集著作物である原告書籍本体及び原告DVDの原告の複製
権の侵害に当たる。
(2)被告の反論
ア被告書籍本体及び被告DVDに掲載・収録された手あそび歌の曲名の
一部が,原告書籍本体及び原告DVDに掲載・収録され曲名と重複する
からといって,被告書籍本体及び被告DVDにおいて,原告が主張する
原告書籍本体及び原告DVDにおける素材の選択の創作的表現が有形的
に再製されているとはいえない。前記1(2)アのとおり,手あそび歌を紹
介する類書間で曲名の重なり合いが生じるのは当然であり,原告書籍本
体においても,選択曲の66パーセント以上(63曲中44曲)がポプ
ラ社書籍と重複している。
また,原告書籍と被告書籍では,別表B及び別表Cのとおり,書籍本
体における振付けの説明及びDVDの振付けのいずれにおいても異なる
部分が存在し(別表B及び別表C中,「宝島社」は「被告書籍」を,「
永岡書店」は「原告書籍」を指す。),素材である振付けが類似してい
るとはいえない。
イ被告は,独自の創作・作成活動により被告書籍を作成したものであ
り,被告書籍本体及び被告DVDに掲載・収録する手あそび歌の曲名及
び振付けを選択するに当たり,原告書籍本体及び原告DVDに依拠して
いないことは,次の諸点から明らかである。
(ア)原告書籍と被告書籍では,別表Aのとおり,掲載又は収録されて
いる手あそび歌の曲名及び歌詞に異なる部分が存在し(別表A中,「
宝島社」は「被告書籍」を,「永岡書店」は「原告書籍」を指
す。),また,別表B及び別表Cのとおり,楽譜及び振付けにおいて
も異なる部分が存在する。
このように原告書籍と被告書籍とで異なる部分が存在することは,
被告書籍本体及び被告DVDに掲載・収録する手あそび歌の曲名及び
振付けを選択するに当たり,原告書籍本体及び原告DVDに依拠して
いないことの証左である。
(イ)原告が,被告書籍本体及び被告DVDが原告書籍本体及び原告D
VDに依拠して作成されたことの根拠として挙げている点は,いずれ
も理由がない。
a「キラキラぼし」について
被告は,被告書籍の作成過程における参考資料の検討及び日本音
楽著作権協会(JASRAC)に対する掲載曲・収録曲の利用許諾
の申請時に,「キラキラぼし」の歌詞が複数あることを認識し,保
育園の子供たちをヒアリングをした際に,子供たちが堀野の歌詞で
歌っていたことから,堀野の歌詞を採用した。
b「おおきなはたけ」について
原告は,原告書籍本体及び原告DVDの振付けには,本来小指を
くっつけるべきところを,人差し指をくっつけている誤りがあり,
この誤りが被告書籍本体及び被告DVDでそのまま掲載・収録され
ている旨主張するが,振付けに正解・不正解があるわけではなく,
歌詞と振付けがいかに関連して楽しめるかが重要であり,また,類
書でも多様な振付けが存在するから(乙17の1ないし4),小指
をくっつけるのが本来であるという原告主張の前提自体が成り立た
ない。
c「ポロズル・バージョン」について
被告書籍本体及び被告DVDにおける振付けにおいても,「ポロ
ッ」,「ズルッ」という動作が入っている以上,その動作の入った
バージョンという意味で,このような曲名を用いることは,原告書
籍に依拠しなくても普通に出てくるアイデアや表現にすぎない。
d原告主張の別紙歌詞・振付け目録記載の各歌詞及び振付けは,原
告の従業員が独自に創作したという事実はない。
ウ以上によれば,被告による被告書籍の発行は,編集著作物である原告
書籍本体及び原告DVDの原告の複製権の侵害に当たるとの原告の主張
は,失当である。
3個々の歌詞及び振付けの著作物性及び著作権の帰属(争点3−1,2)に
ついて
(1)原告の主張
ア個々の歌詞及び振付けの著作物性(争点3−1)
(ア)別紙歌詞・振付け目録記載の「原告書籍本体・原告DVDの歌
詞」欄,「原告書籍本体・原告DVDの振付け」欄,「原告書籍本体
の歌詞」欄及び「原告書籍本体の振付け」欄記載の各歌詞及び振付け
は,以下のとおり,原告の従業員が独自に創作したものであり,上記
各歌詞及び振付けにおける表現は創作性を有するから,いずれも著作
物に当たる。
aいっぽんといっぽんで
これは,定番の手あそび歌であり,他社の書籍でも多く収録され
ているため,差別化のために,定番の歌詞のうち「にほんとにほ
ん」以外の部分を原告従業員のB(以下「B」という。)が考案し
た「いっぽんといっぽんでにんじゃになって」,「さんぼんとさん
ぼんでねこさんになって」,「よんほんとよんほんでたこさんにな
って」,「ごほんとごほんでとりさんになっておそらにとんでっ
た」の歌詞に変更し,この歌詞及びこれに合わせた振付けもBが考
案したものを原告書籍本体及び原告DVDに掲載・収録した(別紙
歌詞・振付け目録記載の1.参照)。
したがって,上記歌詞及び振付けは,Bの考えたオリジナルのも
のであり,創作性を有する著作物である。
bピクニック
これは,「いっぽんといっぽんで」のバリエーションで,やはり
他社書籍との差別化のために,原告従業員のA(以下「A」とい
う。)とBで相談して定番の歌詞及び振付けのうち「2と5」を「
2と5でおすしをにぎって」,「4と5」を「4と5でアイスをた
べて」というオリジナルのものと置き換えた(別紙歌詞・振付け目
録記載の2.参照)。
したがって,上記歌詞及び振付けは,A及びBの考えたオリジナ
ルの歌詞と振付けであり,創作性を有する著作物である。
cグーチョキパーでなにつくろう
これは,定番の手あそび歌であり,「かに」,「ちょうち
ょ」,「かたつむり」の三つが知られており,他社書籍にも収録さ
れているが,これだけでは面白くないので,オリジナルの歌詞と振
付けを付け加えることにし,Aが考案した「目玉焼き」,「お相撲
さん」,「ゴリラ」の三つを加えて原告書籍本体及び原告DVDに
掲載・収録した(別紙歌詞・振付け目録記載の3.参照)。
したがって,上記歌詞及び振付けは,Aの考えたオリジナルのも
のであり,創作性を有する著作物である。
dキラキラぼし
この曲は,原曲はフランス民謡で,日本語の歌詞が複数あり,当
初は一番メジャーで他社書籍にも収録されている,武鹿悦子作詞
の「きらきらひかるお空の星よまばたきしてはみんなを見て
るきらきらひかるお空の星よ」という歌詞のものを原告書籍及
び原告DVDに掲載・収録する予定であったが,他社と同じものを
掲載・収録しても面白くないので,Aの判断で堀野真一作詞の「キ
ラキラひかるおおきなほしはたのしいうたをうたっているよ
ピカピカひかるちいさなほしと」という歌詞のものを掲載・収
録することにした。
しかし,その歌詞に合わせた振付けを用意しておらず,DVDの
撮影当日になって,撮影スタッフから「歌詞と振付けが合っていな
い」という指摘を受け,用意していた振付けが使えなくなった。そ
こで,原告の編集部員がそれぞれアイデアを出し合った結果,編集
部のC(以下「C」という。)の提案した振付けがわかりやすく,
とてもかわいいということで,Bが修正を加えて採用された(別紙
歌詞・振付け目録記載の4.参照)。
したがって,原告書籍本体及び原告DVDに掲載・収録された上
記振付けは,Cが考案したオリジナルのものであり,創作性を有す
る著作物である。
eさかながはねて
この曲は,Bが知っていた曲であったが,当時発行されていた他
社書籍には収録されておらず,他の資料も見当たらなかった。幼稚
園教諭に実演してもらった中に含まれていたのが,「あたまにくっ
ついたぼうし」,「おめめにくっついためがね」,「おへそにくっ
ついたでべそ」の三つであった。
これだけでは数が足りずに寂しいということで,Bが考案した「
あたまにくっついたうさぎ」,「おしりにくっついたパンツ」の二
つを併せて原告書籍本体及び原告DVDに掲載・収録した(別紙歌
詞・振付け目録記載の5.参照)。
したがって,上記歌詞及び振付けは,Bが考案したオリジナルの
ものであり,創作性を有する著作物である。
(イ)被告は,前記(ア)aないしeの各歌詞及び振付けは,「ごく短い
フレーズ」か,「一瞬の所作」でしかないから,創作性がない旨主張
する。しかし,歌詞自体は短くとも,「1番,2番」というように独
立したひとまとまりであれば独立した著作権の対象たり得るし,俳句
なども著作権の保護を受けることから明らかなとおり,短いというこ
とは表現の幅を狭めることはあっても,それ自体から創作性が否定さ
れることはない。
振付けについても同様であり,また,手あそび歌という表現の性質
上,「所作」だけを取り出して創作性があるか否かを判断するのでは
なく,「手あそび」と「歌」が複合した表現形態であることにも留意
する必要がある。
イ著作権の帰属(争点3−2)
(ア)原告書籍本体及び原告DVDに掲載・収録されている前記ア(ア)
aないしeの各歌詞及び振付けは,原告の発意に基づき,原告の従業
員であるB,A及びCが前記ア(ア)のとおり職務上作成したものであ
る。
そして,編集著作物が法人名義で公表されている場合,当該編集著
作物に含まれる各著作物に逐一当該法人名義を記載しないからといっ
て,従業員である創作者が著作権を留保する意味と理解されるもので
はないから,原告書籍本体の奥付における「編者永岡書店編集部」
との表示によって,原告書籍本体及び原告DVDに掲載・収録されて
いる上記各歌詞及び振付けは,原告の著作の名義の下に公表されたも
のといえる。
したがって,上記各歌詞及び振付けは法人著作(職務著作)(著作
権法15条1項)として,上記各歌詞及び振付けの著作権は原告に帰
属する。
(イ)仮に前記ア(ア)aないしeの各歌詞及び振付けが職務著作の要件
を満たさないとしても,上記各歌詞及び振付けの著作者であるB,A
及びCは,遅くとも原告書籍の発行された平成18年1月の時点にお
いて,原告との雇用契約の趣旨に従い,原告に対し,上記各歌詞及び
振付けの著作権を譲渡した。
したがって,上記各歌詞及び振付けの著作権は原告に帰属する。
ウ小括
以上によれば,原告は,前記ア(ア)aないしeの各歌詞及び振付けの
著作権者である。
(2)被告の反論
ア個々の歌詞及び振付けの著作物性に対し(争点3−1)
(ア)原告主張の前記(1)ア(ア)aないしeの各歌詞及び振付けは,句点
で区切られる一文ですらないごく短いフレーズか,あるいは一瞬の所
作でしかないものであり,そのアイデアを決めれば,その表現は誰で
も思いつくようなものであるから,表現における創作性はない。
また,そのような短いフレーズや所作について,著作権法に基づい
て,独占的な権利を認めることは文化の発展を阻害し,不当である。
さらに,上記各歌詞及び振付けが,原告の従業員が考案したオリジ
ナルのものとはいえない。
したがって,上記各歌詞及び振付けは,著作物に当たらない。
(イ)原告主張の前記(1)ア(ア)aないしeの各歌詞及び振付けが創作性
を有しないことの個別的な理由は,次のとおりである。
a「いっぽんといっぽんで」(前記(1)ア(ア)a)について
「いっぽんといっぽんで」は,1本と1本,2本と2本,3本と
3本,4本と4本,5本と5本というように左右の手の指の本数を
組み合わせて,動物等を表現するなどして,手あそびをするという
趣旨の曲である。
原告が著作物であると主張する歌詞は,その曲の趣旨に沿った「
歌詞の一部」にすぎず,それ自体としてもごく短い単純な一節であ
り,創作性はない。原告が原告の従業員が考案したオリジナルのも
のであると主張する「忍者」,「ねこ」,「たこ」,「とり」の歌
詞は,子供に身近な物であって,この種の指あそびでは普通に使用
される対象である。実際,他の手あそび歌の書籍(乙11)で
も,「1と1で忍者」,「3と3でねこ」,「4と4でたこ」など
と歌われている。
また,原告が著作物であると主張する振付けも,その「歌詞の一
部」に合わせて,両手の指で一瞬で表現するというアイデアに基づ
けば,誰もが思いつく表現であり,創作性はない。
b「ピクニック」(前記(1)ア(ア)b)について
「ピクニック」は,1本と5本,2本と5本などというように左
右の手の指の本数を組み合わせて,ピクニックへ行く準備をする手
あそびをするという趣旨の曲である。
原告が著作物であると主張する歌詞は,その曲の趣旨に沿った「
歌詞の一部」にすぎず,それ自体としてもごく短い単純な一節であ
り,創作性はない。原告が原告の従業員が考案したオリジナルのも
のであると主張する「すし」,「アイス」は,子供に身近な物であ
って,この種の指あそびでは普通に使用される対象である。
また,原告が著作物であると主張する振付けも,その「歌詞の一
部」に合わせて,両手の指で一瞬で表現するというアイデアに基づ
けば,誰もが思いつく表現であり,創作性はない。
c「グーチョキパーでなにつくろう」(前記(1)ア(ア)c)について
「グーチョキパーでなにつくろう」は,グーチョキパーという左
右の手の形を組み合わせて,動物等を表現するなどして手あそびを
するという趣旨の曲である。
原告が著作物であると主張する歌詞は,その曲の趣旨に沿った「
歌詞の一部」にすぎず,それ自体としてもごく短い単純な一節であ
り,創作性はない。原告が原告の従業員が考案したオリジナルのも
のであると主張する「目玉焼き」,「お相撲さん」,「ゴリラ」の
歌詞は,他の手あそび歌の書籍等(乙15の1ないし3)に存在し
ている。
また,原告が著作物であると主張する振付けも,その「歌詞の一
部」に合わせて,両手で一瞬で表現するというアイデアに基づけ
ば,誰もが思いつく表現であり,創作性はない。歌詞に沿ってグー
・チョキ・パーを使ってみんなが知っているわかりやすい方法で表
現しようとすると,同じような振付けになることは避けられない。
例えば,左右の手を握って,交互に胸をたたくという「ゴリラ」の
振付けは,他の手あそび歌の書籍(乙16の1ないし3)にも存在
している。
d「キラキラぼし」(前記(1)ア(ア)d)について
原告が著作物であると主張する振付けは,その「歌詞の一部」に
合わせて,両手の指で一瞬で表現するというアイデアに基づけば,
誰もが思いつく表現であり,創作性はない。原告が原告の従業員が
考案したオリジナルのものであると主張する「たのしいうたを」
の「たのしい」を両手を胸の前で交差させて体を左右に揺らして表
現するのは,よくある方法である(乙13の1,2)。
e「さかながはねて」(前記(1)ア(ア)e)について
「さかながはねて」は,魚がはねて体の一部にくっつくという状
況を,左右の手を組み合わせて表現して手あそびをするという趣旨
の曲である。
原告が著作物であると主張する歌詞は,その曲の趣旨に沿った「
歌詞の一部」にすぎず,それ自体としてもごく短い単純な一節であ
り,創作性はない。原告が原告の従業員が考案したオリジナルのも
のであると主張する「うさぎ」,「パンツ」は,幼児向けの手あそ
び歌においてよく使われる対象であり,「あたまにくっついたうさ
ぎ」,「おしりにくっついたパンツ」の歌詞は,他の手あそび歌の
書籍(乙14の1ないし5)にも存在している。
また,原告が著作物であると主張する振付けも,その「歌詞の一
部」に合わせて,両手で一瞬で表現するというアイデアに基づけ
ば,誰もが思いつく表現であり,創作性はない。
イ著作権の帰属に対し(争点3−2)
(ア)原告主張の前記(1)ア(ア)aないしeの各歌詞及び振付けは,上記
ア(ア)のとおり,原告の従業員が考案したオリジナルのものとはいえ
ない。
また,原告書籍本体における上記各歌詞及び振付けが掲載されてい
る頁には,原告の著作の名義を示す表示は一切なく,上記各歌詞及び
振付けが原告の著作の名義の下に公表されているとはいえない。かえ
って,当該頁には,「作詞/不詳」,「作詞・作曲/中川たかひろ」
といった原告への著作権の帰属を否定する表示がある。なお,「編
者」は編集著作物を構成する個々の著作物の著作者を示すものではな
いから,原告書籍本体の奥付における「編者永岡書店編集部」の記
載は,上記各歌詞及び振付けの著作の名義の表示には当たらない。
したがって,上記各歌詞及び振付けは,職務著作の要件を満たさな
いから,上記各歌詞及び振付けの著作権が原告に帰属する旨の原告の
主張は,理由がない。
(イ)原告が原告の従業員から前記(1)ア(ア)aないしeの各歌詞及び振
付けの著作権を譲り受けたとの原告の主張は,争う。
ウ小括
以上のとおり,原告主張の前記(1)ア(ア)aないしeの各歌詞及び振付
けは著作物に当たらず,その著作権が原告に帰属するものでもない。
4個々の著作物の複製権侵害の有無(争点4)について
(1)原告の主張
ア被告は,別紙歌詞・振付け目録記載のとおり,原告書籍本体及び原告
DVDに掲載・収録されている前記3(1)ア(ア)aないしeの各歌詞及び
振付けと同一の歌詞及び振付けを被告書籍本体及び被告DVDにそのま
ま掲載・収録し,上記各歌詞及び振付けの著作物を有形的に再製してい
る。
イそして,被告書籍本体及び被告DVDが原告書籍本体及び原告DVD
に依拠して作成されたことは,前記2(1)イのとおりである。
なお,被告が主張する前記3(1)ア(ア)aないしeの各歌詞及び振付け
についての原告書籍と被告書籍との異なる部分は,微細な違いにすぎ
ず,被告書籍本体及び被告DVDに掲載・収録されている上記各歌詞及
び振付けと原告書籍本体及び原告DVDに掲載・収録されている上記各
歌詞及び振付けと酷似していることは明らかである。
ウ以上によれば,被告による被告書籍の発行は,前記3(1)ア(ア)aない
しeの各歌詞及び振付けの著作物の原告の複製権の侵害に当たる。
(2)被告の反論
ア原告書籍と被告書籍とでは,既に存在する手あそび歌を紹介するとい
う書籍の性質が似ている以上,内容に似ている部分が生じることは当然
であって,似ている部分があるからといって依拠したことの根拠となる
ものではない。
そして,原告書籍と被告書籍とでは,「いっぽんといっぽんで」,「
ピクニック」,「グーチョキパーでなにつくろう」,「キラキラぼし」
及び「さかながはねて」について,以下のとおり,異なる部分が多数あ
り,被告書籍本体及び被告DVDが原告書籍本体及び原告DVDに依拠
して作成された事実はない。
(ア)「いっぽんといっぽんで」について
原告書籍の歌詞で「とんでった」となっているところが,被告書籍
の歌詞では「とんでーった」となっている(別表Aの21)。
また,別表Bの27のとおり,編曲,小節区切り,ピクニックバージ
ョンと別譜か否か,イラスト,誌面での振付け説明について違いがあ
る。
(イ)「ピクニック」について
原告書籍の歌詞で「1と5で」等と数字で表現されているところ
が,被告書籍の歌詞では「いちとごでー」等とひらかなで表現されて
いる(別表Aの22)。
また,別表Bの27のとおり,イラスト,誌面での振付け説明につい
て違いがある。
(ウ)「グーチョキパーでなにつくろう」について
別表Bの1のとおり,原告書籍と被告書籍では,編曲,小節区切
り,イラスト,誌面での振付け説明について違いがある。
(エ)「キラキラぼし」について
原告書籍の歌詞で「うたって」となっているところが,被告書籍の
歌詞では「うたーって」となっている(別表A7)。
また,別表Bの6のとおり,編曲,小節区切り,ニ長調とハ長調の
違い,イラスト,誌面での振付け説明について違いがある。
(オ)「さかながはねて」について
原告書籍の歌詞で「ピョンッ」となっているところが,被告書籍の
歌詞では「ピョン」となっている(別表Aの10)。
また,別表Bの13のとおり,編曲,イラスト,誌面での振付け説明
について違いがある。
イ以上によれば,被告による被告書籍の発行が,前記3(1)ア(ア)aない
しeの各歌詞及び振付けの原告の複製権の侵害に当たるとの原告の主張
は,失当である。
5著作権侵害による原告の損害額(争点5)について
(1)原告の主張
ア複製権侵害による損害額
被告は,平成19年7月から平成20年2月までの間,被告書籍(定
価1400円)を2万部発行した。
被告のような大手の出版社の場合,取次ぎに卸すときの卸掛け率は7
0パーセント程度,原価率は50パーセント程度である。
そうすると,被告が被告書籍の上記発行により得た利益は,980万
円(計算式・1400円×2万部×0.7×0.5)と推定される。
そして,被告書籍のうち,編集著作物である原告書籍本体及び原告D
VD並びに各歌詞及び振付けの著作物についての原告の複製権を侵害し
ている部分(前記2(1)及び4(1))は少なく見積もっても10パーセン
トを下らないから,被告が得た上記利益のうち少なくとも98万円が原
告の被った損害となる。
イ弁護士費用
被告による前記2(1)及び4(1)の複製権侵害行為と相当因果関係のあ
る弁護士費用相当額の損害は,100万円を下らない。
ウ小括
したがって,原告は,被告に対し,著作権侵害の不法行為による損害
賠償として198万円(前記ア及びイの合計額)及びこれに対する不法
行為の後であり,かつ,訴状送達の日の翌日である平成20年2月29
日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を
求めることができる。
(2)被告の反論
原告主張の損害額は争う。
6法的保護に値する利益の侵害を理由とする不法行為の成否等(争点6−
1,2)について(予備的請求関係)
(1)原告の主張
ア法的保護に値する利益の侵害を理由とする不法行為(争点6−1)
(ア)不法行為が成立するためには,必ずしも著作権など法律に定めら
れた厳密な意味での権利が侵害された場合に限らず,法的保護に値す
る利益が違法に侵害された場合であれば不法行為が成立する。
原告は,それまでになかった,手あそび歌を集めた書籍にDVDを
付けるという新しいコンセプトを考案した上,原告書籍の制作に当た
っては,聴き取り調査,アンケート,歌詞及び振付けのオリジナル部
分の考案,実演DVDの付属など,類書との差別化のために多大な苦
労,創意工夫を行って,原告書籍を作成した。
そして,原告書籍は需用者に類書にない価値を認められ,良好な売
上げを上げていたのであるから,原告は,原告書籍のコンセプト,掲
載曲・収録曲の選択及び配列,個々の歌詞及び振付けのオリジナル部
分に,法的保護に値する利益(経済的利益)を有している。
(イ)被告は,DVD付き手あそび歌の書籍という原告書籍のコンセプ
トをまねただけではなく,原告書籍の半分以上を引き写し,素材の選
択,バージョンの選択,歌詞及び振付けのオリジナル部分までもその
まま流用し,被告書籍を発行した。
被告書籍は,コンセプト,タイトル,価格,判型,選曲,対象年齢
等多くの点で原告書籍と共通し,原告書籍と需用者を同じくし,直接
競合する商品であることは明らかである。
そうすると,被告による被告書籍の発行は,社会的に許容される限
度を超えたものであって,前記(ア)の原告の法的保護に値する利益を
違法に侵害したものとして,不法行為を構成するというべきである。
イ原告の損害額(争点6−2)
被告による前記アの不法行為により原告が被った損害額は,被告の著
作権侵害の不法行為による前記5(1)の損害額と同額(198万円)であ
る。
ウ小括
したがって,原告は,被告に対し,法的保護に値する利益の侵害の不
法行為による損害賠償として198万円及びこれに対する不法行為の後
であり,かつ,訴状送達の日の翌日である平成20年2月29日から支
払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるこ
とができる。
(2)被告の反論
ア法的保護に値する利益の侵害を理由とする不法行為に対し(争点6−
1)
(ア)原告が主張する原告書籍のコンセプト,掲載曲・収録曲の選択及
び配列,個々の歌詞及び振付け等は著作権が認められないような薄弱
なものであり,法的保護に値する利益に当たらない。このような薄弱
なものを根拠として不法行為に基づく損害賠償請求が認められるとな
れば,表現の自由は著しく侵害されることになり,不当である。
また,手あそび歌について紹介する書籍は,この数年に限っても3
0種類以上販売されており,これらは対象とするテーマが同一である
以上,採用曲などは多かれ少なかれ似ているところがある。しかし,
読者が,原告が主張するような,歌詞のごく一部のすげ替え等の違い
に気づいたり,それによって当該書籍を購入するか否かを変更するな
どということはあり得ないから,原告が指摘するような事情によって
原告の利益に影響が生じるはずはない。
そして,被告は,被告書籍を作成するに当たり独自の努力,創作活
動を行ったものであり,別表AないしCのとおり原告書籍と被告書籍
では異なる部分が存在し,選曲の対象そのものが異なるのであるか
ら,原告書籍をそのまま引き写して被告書籍を作成したという事実は
ない。
(イ)被告は,被告書籍を作成するに当たり,作詞作曲の権利関係につ
いては,多数の参考書籍の作詞者欄の記載等を手がかりに,日本音楽
著作権協会(JASRAC)への登録などの手続を確実に進め,権利
関係が不明なもの等は選曲から外すなどの慎重な行動を取っている。
仮に原告が自らが一部を作詞したと主張している曲の当該頁に「作
詞/永岡書店」とでも記載していれば,被告は当然に原告に対して照
会等を行ったが,原告書籍にはそのような記載はない。
このように被告は,被告書籍の制作活動においては,十分な注意を
尽くしており,過失を問われるいわれはない。
イ原告の損害額に対し(争点6−2)
原告主張の損害額は争う。
第4当裁判所の判断
1原告書籍本体及び原告DVDの編集著作物性及び著作権の帰属(争点1−
1,2)について
(1)原告書籍本体及び原告DVDの編集著作物性(争点1−1)について
原告は,原告書籍本体及びこれに付属する原告DVDは,手あそび歌の
曲名及び振付けを素材とする編集著作物である旨主張する。
ア前記前提事実と証拠(甲11ないし15,19ないし24,乙1)及
び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
(ア)「手あそび」は,手,指等の身体を動かす歌のあそびをいい,歌
詞やリズムを表現する動きを歌を歌いながら行うものであり,幼稚
園,保育園等の保育の現場で広く取り入れられている。手あそびの対
象となる歌は「手あそび歌」と呼ばれ,手あそび歌には,昔から伝わ
る童歌,童謡から最近の曲まで多種のものがある。
手あそびには,歌詞の一部を替えるあそび方があり,歌詞に合わせ
た動きにも決められたものがあるわけではないことから,同じ曲名の
手あそび歌でも,歌詞の一部が異なるものや,歌詞を表現する動きが
異なるものが存在し,また,編曲等により旋律(メロディー)の異な
るものも存在する。
(イ)原告の編集部で児童書の編集担当のAは,平成17年初めころ,
手あそび歌の書籍の売上げが良いことに気づき,類書を調査した結
果,イラストを工夫してより分かりやすいものとし,実演のDVDを
付ければ,類書とは異なる新しい手あそび歌の書籍を作れるのではな
いかと考え,同じ編集部のBに相談した。Bは,むかいはら幼稚園で
教諭をしていた友人に意見を聞いたところ,その友人から,他の教諭
にも聞いてみたが,皆DVD付き手あそび歌の書籍ができたら是非欲
しいと言っているとのことであった。そこで,AとBは,同年春こ
ろ,企画をまとめて編集長(D)に提出したところ,編集長からDV
Dを付けた手あそび歌の書籍を制作するよう指示を受けたので,その
制作を開始した。
(ウ)AとBは,平成17年6月ころから,むかいはら幼稚園,武蔵野
音楽大学付属幼稚園,寿福寺幼稚園を訪問して,教諭から,園児が普
段どのような手あそびを行っているかを聞き取り調査するとともに,
類書やインターネットなどにも当たって,200曲余りの候補曲を選
んだ上,上記3幼稚園の教諭に対しアンケートを実施し,候補曲のう
ち,人気が高く,よく遊ばれているものについて調査した。
AとBは,60人の教諭から回答を得たアンケートを集計して,候
補曲ごとに,各幼稚園における人気の有無,程度について「よく遊ば
れているもの」(◎),「まあまあ遊ばれているもの」(○),「た
まに遊ばれているもの」(△)及び「遊ばれていないもの」(×)に
分類した集計表(甲11)を作成した。
AとBは,集計結果を踏まえて具体的な選曲をするに当たり,①人
気の高い有名な曲ばかりになると,選曲が他社書籍と重なって特長の
ない本となり,既に他社書籍を持っている人に選んでもらえない反
面,人気の高い有名な曲が少ないと,初めて手あそび歌の書籍を買う
人に選んでもらえないため,定番の曲,アンケートで人気が高い曲を
外さないようにしつつ,それほど人気が高くなくても手あそび歌のジ
ャンル(「指あそび」,「手あそび」,「身体あそび」,英語の歌な
ど)の多様性にも配慮する,②定番の曲でもできるだけ他社書籍とは
異なるバージョンの歌詞や振付けを選択して差別化を図り,また,D
VDにも収録するので動きが大きく見栄えがするかなども考慮する,
③DVDの収録曲については,制作費とDVDの容量の都合から,書
籍の掲載曲のうち,幼稚園の教諭の意見を取り入れて子供たちがより
喜ぶ人気曲を選択し,その中でジャンルが偏らないようにバランスを
重視するなどの方針とした。
上記方針で選曲された原告書籍は,基本的には既存の手あそび歌が
選曲され,編集されたものであるが,編集の過程で,既存の歌詞や振
付けの一部を置き換えたり,付け加えたりしたものもあった。
このようにして原告書籍本体の掲載曲63曲が選択され,そのうち
の29曲が原告DVDの収録曲として選択された(この掲載曲・収録
曲の曲名は,別紙曲名一覧の「原告書籍本体」欄のとおりであ
る。)。そして,原告書籍本体は,「PART1指あそびと手あそ
び」,「PART2身体あそび」,「PART3みんなであそぼ
う」及び「できるかな!えいごの手あそびうた」の順に構成され,P
ART1に30曲(別紙曲名一覧の原告書籍の番号1ないし30),P
ART2に24曲(番号31ないし54),PART3に7曲(番号55な
いし61),「できるかな!えいごの手あそびうた」に2曲(番号62・6
3)が掲載されている。
原告DVDには,PART1の掲載曲中16曲,PART2の掲載
曲中11曲,PART3の掲載曲中2曲が収録されている。
イ前記アの認定事実及び甲12によれば,原告書籍本体に掲載された手
あそび歌の曲名及び振付けは,原告の編集部所属の従業員が,童歌,童
謡から最近の曲まで多種のものがある手あそび歌の中から,幼稚園の教
諭に対するアンケートの集計結果を踏まえて,定番の曲を外さず,幼稚
園で人気が高く,よく遊ばれているものを選択することを基本としなが
らも,人気が高くなくても手あそび歌のジャンル(「指あそび」,「手
あそび」,「身体あそび」,英語の歌など)の多様性にも配慮したり,
定番の曲でもできるだけ他社書籍とは異なるバージョンの歌詞や振付け
を選択するなどして,他の書籍との差別化を図る方針とし,また,原告
DVDの収録曲については,制作費とDVDの容量の都合から,原告書
籍本体の掲載曲のうち,幼稚園の教諭の意見を取り入れて子供たちがよ
り喜ぶ人気曲を選択し,その中でジャンルが偏らないようにバランスを
重視するなどの方針とし,上記各方針に基づいて,原告書籍本体の掲載
曲(63曲)及び原告DVDの収録曲(29曲)の曲名及び振付けが選
択されたことが認められるから,上記曲名及び振付けの選択には,原告
の編集部所属の従業員の思想又は感情が創作的に表現されていることは
明らかである。
したがって,原告書籍本体及び原告DVDは,素材である手あそび歌
の曲名及び振付けの選択において創作性を有する編集著作物に当たるも
のと認められる。
ウこれに対し被告は,手あそび歌の中から,人気があり,楽しめる曲を
選ぶという普通の判断をするならば,類書間で曲名の重なり合いが生じ
るのは当然である上,原告書籍は,原告書籍本体の掲載曲(63曲)の
うち,44曲が,原告書籍より前に発行されたポプラ社書籍に掲載され
た曲と重複していることからみても,原告書籍本体及び原告DVDにお
ける手あそび歌の曲名及び振付けの選択は,創作性を有するものではな
い旨主張する。
しかし,前記ア(ア)認定のとおり,手あそび歌には,昔から伝わる童
歌,童謡から最近の曲まで多種のものがあり,同じ曲名の曲の手あそび
歌であっても,歌詞の一部やメロディーの異なるもの,歌詞を表現する
動き(振付け)の異なるものが存在し,このように手あそび歌には多種
多様なものがあるところ,前記イ認定のとおり,原告書籍においては,
人気が高い曲のみを選択するというのではなく,定番の曲を外さず,幼
稚園で人気が高く,よく遊ばれているものを選択することを基本としな
がらも,人気が高くなくても手あそび歌のジャンルの多様性にも配慮し
たり,定番の曲でもできるだけ他社書籍とは異なるバージョンの歌詞や
振付けを選択するなどして,他の書籍との差別化を図る方針に基づいて
曲名及び振付けの選択がされているのであるから,原告書籍本体(掲載
曲63曲)及び原告DVD(収録曲29曲)の曲名及び振付けの選択は
創作性を有することは明らかであり,原告書籍本体の掲載曲の一部であ
る44曲の曲名がポプラ社書籍と重複するとの一事をもって上記創作性
を否定することはできない。
したがって,被告の上記主張は理由がない。
(2)著作権の帰属(争点1−2)
ア前記(1)アの認定事実を総合すれば,原告書籍の制作は,原告の編集部
所属の従業員が企画し,上司である編集長の了承を得て開始され,原告
書籍本体の掲載曲・振付け及び原告DVDの収録曲・振付けの選択等の
編集作業は,原告の編集部所属の従業員が行ったことが認められるか
ら,編集著作物である原告書籍本体及び原告DVDは,原告の発意に基
づき,原告の編集部所属の従業員が職務上作成したものと認められる。
そして,原告書籍本体の奥付には「編者永岡書店編集部」との表示
があり(甲12,13),この表示は,「永岡書店」(原告)の一部署
である「編集部」が原告書籍本体及び原告DVDを編集したことを意味
するものと理解されるから,原告書籍本体及び原告DVDは,原告の著
作の名義の下に公表されたものと認められる。
そうすると,編集著作物である原告書籍本体及び原告DVDは,職務
著作(著作権法15条1項)であって,その著作者及び著作権者は原告
であると認めるのが相当である。
イこれに対し被告は,原告書籍本体の奥付には,原告書籍本体及び原告
DVDの作成に関与した者として多数の者が挙げられており,これらの
者全てが原告の従業員ではないから,原告書籍本体及び原告DVDは原
告の従業員が職務上作成したものとはいえないし,また,原告書籍本体
の奥付の「編者永岡書店編集部」との記載における「永岡書店編集
部」は原告(株式会社永岡書店)とは別個の人格を示すものであるか
ら,原告書籍本体及び原告DVDは,原告の著作の名義の下に公表され
たものとはいえない旨主張する。
しかし,前記ア認定のとおり,原告書籍本体の掲載曲・振付け及び原
告DVDの収録曲・振付けの選択等の編集作業は,原告の編集部所属の
従業員が行っている以上,原告書籍本体及び原告DVDの作成に関与し
た者全てが原告の従業員でないからといって,編集著作物である原告書
籍本体及び原告DVDは原告の従業員が職務上作成したとの認定を妨げ
るものではない。また,株式会社を表示する際に,商号中の「株式会
社」との部分を省略する場合があることは公知の事実であること,原告
書籍本体の奥付には「発行所株式会社永岡書店」との記載もあること
に照らすならば,「永岡書店編集部」は「株式会社永岡書店」とは別個
の人格を示すものと解するのは困難である。
したがって,被告の上記主張は理由がない。
(3)小括
以上のとおり,原告書籍本体及び原告DVDは,素材である手あそび歌
の曲名及び振付けの選択において創作性を有する編集著作物であり,その
著作権(編集著作権)は,原告に帰属するものと認められる。
2編集著作物の複製権侵害の有無(争点2)について
(1)原告は,被告書籍本体には原告書籍本体の手あそび歌の掲載曲63曲中
35曲と同一曲名の曲が掲載され,被告DVDには原告DVDの収録曲2
9曲中22曲(前記前提事実(3)ウの21曲に別紙曲名一覧の原告書籍の番
号6の1曲を加えたもの)と同一曲名の曲が収録され,また,上記掲載又
は収録された曲に係る振付けもそっくりそのままのものであるから,被告
書籍本体及び被告DVDには,編集著作物である原告書籍本体及び原告D
VDにおける素材(手あそび歌の曲名及び振付け)の選択の創作的表現が
それぞれ有形的に再製され,かつ,被告書籍本体及び被告DVDは原告書
籍本体及び原告DVDに依拠して作成されたものであるから,被告による
被告書籍の発行は,編集著作物である原告書籍本体及び原告DVDの原告
の複製権の侵害に当たる旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
ア前記前提事実(3)ウのとおり,原告書籍本体の掲載曲(全63曲)と被
告書籍本体の掲載曲(全63曲)との重複曲(曲名が同一のもの)は3
5曲,原告DVDの収録曲(全29曲)及び被告DVDの収録曲(全4
4曲)との重複曲(曲名が同一のもの)は21曲である(別紙曲名一覧
の着色部分参照)。
この点に関し,原告は,原告DVD及び被告DVDの収録曲の重複曲
は,21曲ではなく,22曲(前記前提事実(3)ウの21曲に別紙曲名一
覧の原告書籍の番号6の1曲を加えたもの)である旨主張する。
しかし,乙1によれば,被告DVDには,別紙曲名一覧の原告書籍の
番号6の「ポロズル・バージョン(とんとんとんとんひげじいさん/バ
リエーション)」が収録されていないことは明らかであるから,原告の
上記主張は理由がない。
イ原告書籍本体及び原告DVDは,それぞれ掲載曲(全63曲)及び収
録曲(全29曲)の曲名及び振付けの選択において創作性を有する編集
著作物に当たることは,前記1(1)イ認定のとおりである。
このことは,上記曲名及び振付けの選択の創作的表現は,前記1(1)イ
認定の編集方針に基づいて選択された結果としての原告書籍本体におけ
る掲載曲全曲の曲名及び振付けの選択,原告DVDにおける収録曲全曲
の曲名及び振付けの選択において顕れていることを意味するものであ
る。
そうすると,原告書籍本体の掲載曲(全63曲)の一部である35曲
と同一の曲名の曲が被告書籍本体に掲載され,原告DVDの収録曲(全
29曲)の一部である21曲と同一の曲名の曲が被告DVDに収録され
ているからといって,原告書籍本体及び原告DVDにおける上記曲名の
選択の創作的表現が被告書籍本体及び被告DVDに再製されていると直
ちに認めることはできない。
また,手あそび歌の書籍に掲載する曲として定番の曲や人気の高い曲
を選択することは普通に思い着く着想であり,そのような着想に基づい
て曲を選択すれば,手あそび歌の類書間の掲載曲に定番の曲や人気の高
い曲の重複が生じることは避けられない事態であるというべきところ,
前記1(1)イ認定のとおり,原告書籍本体では,定番の曲を外さず,幼稚
園で人気が高く,よく遊ばれているものを選択することを基本とし,ま
た,原告DVDの収録曲については,原告書籍本体の掲載曲のうち,幼
稚園の教諭の意見を取り入れて子供たちがより喜ぶ人気曲を選択する方
針とされたことに照らすならば,原告書籍本体及び被告書籍本体の掲載
曲の重複曲,原告DVD及び被告DVDの収録曲との重複曲の中にも,
定番の曲や人気の高い曲が相当程度含まれているものとうかがわれる。
この点からも原告書籍本体の掲載曲の一部及び原告DVDの収録曲の一
部が重複するからといって原告書籍本体及び原告DVDにおける上記曲
名の選択の創作的表現が被告書籍本体及び被告DVDに再製されている
ものと直ちに認めることはできない。
しかるに,本件において,原告は,原告書籍本体及び被告書籍本体の
掲載曲の重複曲の選択,原告DVD及び被告DVDの収録曲との重複曲
の選択において創作性を有することの主張立証を行うことなく,単に一
部の重複の事実をもって原告書籍本体及び原告DVDにおける手あそび
歌の曲名の選択の創作的表現が有形的に再製されていると主張するにと
どまっている。
したがって,被告書籍本体及び被告DVDにおいて原告書籍本体及び
原告DVDにおける手あそび歌の曲名の選択の創作的表現が有形的に再
製されているものと認めることができないから,当該曲名に対応する各
曲の振付けが同一であるかどうかを検討するまでもなく,被告書籍本体
及び被告DVDにおいて原告書籍本体及び原告DVDにおける素材(手
あそび歌の曲名及び振付け)の選択の創作的表現が有形的に再製されて
いるものと認めることはできない。
(2)以上によれば,被告書籍本体及び被告DVDが原告書籍本体及び原告D
VDに依拠して作成されたかどうかを検討するまでもなく,被告による被
告書籍の発行は,編集著作物である原告書籍本体及び原告DVDの複製権
の侵害に当たるとの原告の主張は理由がない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の上記複製
権侵害を理由とする差止請求及び損害賠償請求は理由がない。
3個々の歌詞及び振付けの著作物性(争点3−1)について
(1)原告は,別紙歌詞・振付け目録記載のとおり,原告書籍に掲載・収録さ
れた「いっぽんといっぽんで」,「ピクニック」,「グーチョキパーでな
につくろう」及び「さかながはねて」の各歌詞及び振付け,「キラキラぼ
し」の振付けは,原告の従業員が独自に創作したものであり,上記各歌詞
及び振付けにおける表現は創作性を有するから,いずれも著作物に当たる
旨主張するので,順次検討する。
ア「いっぽんといっぽんで」の歌詞及び振付け
(ア)まず,原告主張の「いっぽんといっぽんで」の歌詞の著作物性に
ついて判断する。
a証拠(甲12,22ないし24,乙1)及び弁論の全趣旨によれ
ば,「いっぽんといっぽんで」は,作詞不詳の外国曲であり,「1
本と1本でおやまになって」,「2本と2本でかにさんになっ
て」,「5本と5本でおばけになっておそらにとんでった」などの
ように,1本と1本,2本と2本,3本と3本,4本と4本,5本
と5本と,左右の手の指の本数を組み合わせて動物等の動作を表現
し,手あそびをする曲であることが認められる。
また,原告書籍本体(甲12)には,「いっぽんといっぽんで」
について,「指でいろいろなかたちを作って,いきものを表現する
手あそびうたです。また,同じ曲で歌詞を変えた『ピクニック』(
→P12)では,おいしそうなたべものを指で表現します。どちら
も指の数を変えることでバリエーションが生まれるので,ほかにも
いろいろ考えてみましょう。」(10頁)との記載がある。
原告が独自に創作したと主張する歌詞は,「いっぽんといっぽん
でにんじゃになって」,「さんぼんとさんぼんでねこさんになっ
て」,「よんほんとよんほんでたこさんになって」,「ごほんとご
ほんでとりさんになっておそらにとんでった」というものであり(
別紙歌詞・振付け目録記載の1.),既存の歌詞から1本と1本
で「にんじゃ」,3本と3本で「ねこさん」,4本と4本で「たこ
さん」,5本と5本で「とりさん」と置き換えた部分に創作性があ
るというものである。
そこで検討するに,原告主張の上記歌詞は,左右の手の指の本数
を組み合わせて動物等の動作を一節で表現する手あそび歌である「
いっぽんといっぽんで」の趣旨に沿った歌詞の一部であり,1本と
1本の指を組み合わせて「忍者」,3本と3本の指を組み合わせ
て「猫」,4本と4本の指を組み合わせて「たこ」,5本と5本の
指を組み合わせて「鳥」というアイデアが決まれば,忍者を「にん
じゃ」,「猫」を「ねこさん」,「たこ」を「たこさん」,「鳥」
を「とりさん」とそれぞれ表現することは,ありふれたものである
と認められる。
また,手あそびは,元の歌詞の一部の言葉等を替えるのもあそび
方の一つであり,「いっぽんといっぽんで」においても,原告書籍
本体の上記記載部分に「指の数を変えることでいろいろなバリエー
ションが生まれるので,ほかにもいろいろ考えてみましょう。」と
の記載があるように,原告が創作性があると主張する上記部分は,
表現する対象を自由に替えて遊ぶことが想定されている箇所である
といえるから,このような歌詞の一部の表現を著作物として保護す
るのは相当ではないものと解される。
bしたがって,原告主張の上記歌詞は,創作性を有する著作物であ
るものと認めることはできない。
(イ)次に,原告主張の前記(ア)の歌詞に対応する振付けの著作物性に
ついて判断する。
aそこで検討するに,原告が独自に創作したと主張する振付けは,
別紙歌詞・振付け目録記載の1.(画像部分を含む。)のとおりで
あるが,以下のとおり,上記振付けは,いずれも誰もが思いつく,
ありふれたものであると認められる。
①原告主張の上記振付けのうち「いっぽんといっぽんでにんじゃ
になって」の部分は,「いっぽんといっぽんで」の歌詞に合わせ
て右手と左手の人差し指を一本ずつ立て,「にんじゃになって」
の歌詞に合わせて人差し指を立てたまま,右手で左手の人差し指
を握る動作をするというものであり,上記歌詞に合わせて左右の
指1本ずつで,忍術を使う忍者を表現しようとする場合に,上記
のような動作で表現することは,ありふれたものであると認めら
れる。
②原告主張の上記振付けのうち「さんぼんとさんぼんでねこさん
になって」の部分は,「さんぼんとさんぼんで」の歌詞に合わせ
て猫のひげのように左右の人差し指,中指及び薬指を立て,「ね
こさんになって」の歌詞に合わせて猫のひげのように左手の3本
の指を左頬に,右手の3本の指を右頬に付ける動作をするという
ものであり,上記歌詞に合わせて左右の指3本ずつで,ひげのあ
る猫を表現しようとする場合に,上記のような動作で表現するこ
とは,ありふれたものであると認められる。
③原告主張の上記振付けのうち「よんほんとよんほんでたこさん
になって」の部分は,「よんほんとよんほんで」の歌詞に合わせ
て両手の親指を折り,親指以外の4本の指を立て,「たこさんに
なって」の歌詞に合わせて両手を下に向け,親指以外の4本の指
を動かす動作をするというものであり,上記歌詞に合わせて左右
の指4本ずつで,8本の足のあるたこを表現しようとする場合
に,上記のような動作で表現することは,ありふれたものである
と認められる。
④原告主張の上記振付けのうち「ごほんとごほんでとりさんにな
っておそらにとんでった」の部分は,「ごほんとごほんで」の歌
詞に合わせて両手を広げ,「とりさんになって」の歌詞に合わせ
て両手を身体の両側でひらひらと上下に動かし,「おそらにとん
でった」の歌詞に合わせて両手をはばたくように大きく動かす動
作をするというものであり,上記歌詞に合わせて左右の5本ずつ
で,空に飛び立つ鳥を表現しようとする場合に,上記のような動
作で表現することは,ありふれたものであると認められる。
bしたがって,原告主張の上記振付けは,創作性を有する著作物で
あるものと認めることはできない。
(ウ)以上によれば,原告主張の「いっぽんといっぽんで」の歌詞及び
振付けは,著作物には当たらない。
イ「ピクニック」の歌詞及び振付け
(ア)まず,原告主張の「ピクニック」の歌詞の著作物性について判断
する。
a証拠(甲12,21,22,24,乙1)及び弁論の全趣旨によ
れば,「ピクニック」は,「いっぽんといっぽんで」と同じメロデ
ィーで歌詞を異にするバージョンの曲であり,「1と5でたこやき
たべて」,「2と5でやきそばたべて」,「4と5でケーキをたべ
て」,「5と5でおにぎりをつくって」などのように,1本と5
本,2本と5本,3本と5本,4本と5本,5本と5本と,左右の
手の指の本数を組み合わせてピクニックで食べる食物を作ったり,
食べたりする動作を表現し,手あそびをする曲であることが認めら
れる。
原告が独自に創作したと主張する歌詞は,「2と5でおすしをに
ぎって」,「4と5でアイスをたべて」というものであり(別紙歌
詞・振付け目録記載の2.),既存の歌詞から2と5で「おすしを
にぎって」,4と5で「アイスをたべて」と置き換えた部分に創作
性があるというものである。
そこで検討するに,原告主張の上記歌詞は,左右の手の指の本数
を組み合わせてピクニックで食べる食物を作ったり,食べたりする
動作を一節で表現する手あそび歌である「ピクニック」の趣旨に沿
った歌詞の一部であり,2本と5本の指を組み合わせて「寿司を握
る」,4本と5本の指を組み合わせて「アイスクリームを食べる」
というアイデアが決まれば,上記の歌詞のようにそれぞれ表現する
ことは,ありふれたものであると認められる。
また,手あそびは,元の歌詞の一部の言葉等を替えるのもあそび
方の一つであり,「ピクニック」においても,原告書籍本体の前記
ア(ア)aの記載部分に「また,同じ曲で歌詞を変えた『ピクニック
』(→P12)では,おいしそうなたべものを指で表現します。ど
ちらも指の数を変えることでバリエーションが生まれるので,ほか
にもいろいろ考えてみましょう。」との記載があるように,原告が
創作性があると主張する上記部分は,表現する対象を自由に替えて
遊ぶことが想定されている箇所であるといえるから,このような歌
詞の一部の表現を著作物として保護するのは相当ではないものと解
される。
bしたがって,原告主張の上記歌詞は,創作性を有する著作物であ
るものと認めることはできない。
(イ)次に,原告主張の前記(ア)の歌詞に対応する振付けの著作物性に
ついて判断する。
aそこで検討するに,原告が独自に創作したと主張する振付けは,
別紙歌詞・振付け目録記載の2.(画像部分を含む。)のとおりで
あるが,以下のとおり,上記振付けは,いずれも誰もが思いつく,
ありふれたものであると認められる。
①原告主張の上記振付けのうち「2と5でおすしをにぎって」の
部分は,「2と5で」の歌詞に合わせて右手は人差し指と中指,
左手は5本の指を出し,「おすしをにぎって」の歌詞に合わせて
右手の人差し指及び中指をそろえて軽く丸めた左手に当てて,寿
司を握るまねをするというものであり,上記歌詞に合わせて2本
と5本の指で,寿司を握る様子を表現しようとする場合に,上記
のような動作で表現することは,ありふれたものであると認めら
れる。
②原告主張の上記振付けのうち「4と5でアイスをたべて」の部
分は,「4と5で」の歌詞に合わせて右手は親指以外の4本,左
手は5本の指を出し,「アイスをたべて」の歌詞に合わせて右手
の親指以外の4本の指で左手の手のひらからアイスクリームをす
くうまねをするというものであり,上記歌詞に合わせて4本と5
本の指で,アイスクリームを食べる様子を表現しようとする場合
に,上記のような動作で表現することは,ありふれたものである
と認められる。
bしたがって,原告主張の上記振付けは,創作性を有する著作物で
あるものと認めることはできない。
(ウ)以上によれば,原告主張の「ピクニック」の歌詞及び振付けは,
著作物には当たらない。
ウ「グーチョキパーでなにつくろう」の歌詞及び振付け
(ア)まず,原告主張の「グーチョキパーでなにつくろう」の歌詞の著
作物性について判断する。
a証拠(甲12,20ないし24,乙1)及び弁論の全趣旨によれ
ば,「グーチョキパーでなにつくろう」は,作詞不詳の外国曲であ
り,「グーチョキパーでグーチョキパーでなにつくろうなにつくろ
う」との歌詞に続いて,「みぎてがチョキでひだりてもチョキでか
にさんかにさん」,「みぎてがチョキでひだりてがグーでかたつむ
りかたつむり」などのように,左右の手でそれぞれじゃんけんのグ
ー・チョキ・パーの形を作り,これを組み合わせて動物等の動作を
表現し,手あそびをする曲であることが認められる。
また,原告書籍本体(甲12)には,「グーチョキパーでなにつ
くろう」について,「じゃんけんの“グーチョキパー”を使って,
さまざまなものをあらわすことができます。あそびながらどうぶつ
のすがたや動きなども学べる楽しい手あそびです。子どもたちの好
きなどうぶつやたべものでうたったり,ずかんや写真を見せて自由
に考えさせたりしてもよいでしょう。」(13頁)との記載があ
る。
原告が独自に創作したと主張する歌詞は,「みぎてがグーでひだ
りてがパーでめだまやきめだまやき」,「みぎてがパーでひだりて
もパーでおすもうさんおすもうさん」,「みぎてがグーでひだりて
もグーでゴリラゴリラ」というものであり(別紙歌詞・振付け目録
記載の3.),右手のグーと左手のパーを組み合わせて「めだまや
きめだまやき」とした部分,既存の歌詞から左右のパーを組み合わ
せて表現するものを「おすもうさんおすもうさん」に置き換えた部
分,左右のグーを組み合わせて「ゴリラゴリラ」とした部分に創作
性があるというものである。
そこで検討するに,原告主張の上記歌詞は,左右の手でグー・チ
ョキ・パーの形を作り,これを組み合わせて動物等の動作を一節で
表現する手あそび歌である「グーチョキパーでなにつくろう」の趣
旨に沿った歌詞の一部であり,グーとパーを組み合わせて「目玉焼
き」,左右のパーを組み合わせて「相撲取り」,左右のグーを組み
合わせて「ゴリラ」というアイデアが決まれば,上記の歌詞のよう
にそれぞれ表現することは,ありふれたものであると認められる。
また,手あそびは,元の歌詞の一部の言葉等を替えるのもあそび
方の一つであり,「グーチョキパーでなにつくろう」においても,
原告書籍本体の上記記載部分に「子どもたちの好きなどうぶつやた
べものでうたったり,ずかんや写真を見せて自由に考えさせたりし
てもよいでしょう。」との記載があるように,原告が創作性がある
と主張する上記部分は,表現する対象を自由に替えて遊ぶことが想
定されている箇所であるといえるから,このような歌詞の一部の表
現を著作物として保護するのは相当ではないものと解される。
bしたがって,原告主張の上記歌詞は,創作性を有する著作物であ
るものと認めることはできない。
(イ)次に,原告主張の前記(ア)の歌詞に対応する振付けの著作物性に
ついて判断する。
aそこで検討するに,原告が独自に創作したと主張する振付けは,
別紙歌詞・振付け目録記載の3.(画像部分を含む。)のとおりで
あるが,以下のとおり,上記振付けは,いずれも誰もが思いつく,
ありふれたものであると認められる。
①原告主張の上記振付けのうち「みぎてがグーでひだりてがパー
でめだまやきめだまやき」の部分は,「みぎてがグーで」の歌詞
に合わせて右手でグーを出し,「ひだりてがパーで」の歌詞に合
わせて左手でパーを出し,「めだまやきめだまやき」の歌詞に合
わせて左手の甲(パー)の上に右手の拳(グー)を載せるという
ものであり,上記歌詞に合わせて右手のグーと左手のパーを組み
合わせて「目玉焼き」を表現しようとする場合に,上記のような
動作で表現することは,ありふれたものであると認められる。
②原告主張の上記振付けのうち「みぎてがパーでひだりてもパー
でおすもうさんおすもうさん」の部分は,「みぎてがパーで」の
歌詞に合わせて右手でパーを出し,「ひだりてもパーで」の歌詞
に合わせて左手でパーを出し,「おすもうさんおすもうさん」の
歌詞に合わせて左右の手のひら(パー)を交互に突き出すという
ものであり,上記歌詞に合わせて左右のパーを組み合わせて「相
撲取り」を表現しようとする場合に,上記のように相撲取りが突
っ張りをする動作で表現することは,ありふれたものであると認
められる。
③原告主張の上記振付けのうち「みぎてがグーでひだりてもグー
でゴリラゴリラ」の部分は,「みぎてがグーで」の歌詞に合わせ
て右手でグーを出し,「ひだりてもグーで」の歌詞に合わせて左
手でグーを出し,「ゴリラゴリラ」の歌詞に合わせて左右の拳(
グー)で交互に胸をたたくというものであり,上記歌詞に合わせ
て左右のグーを組み合わせて「ゴリラ」を表現しようとする場合
に,上記のようにゴリラが胸をたたく動作で表現することは,あ
りふれたものであると認められる。
bしたがって,原告主張の上記振付けは,創作性を有する著作物で
あるものと認めることはできない。
(ウ)以上によれば,原告主張の「グーチョキパーでなにつくろう」の
歌詞及び振付けは,著作物には当たらない。
エ「キラキラぼし」の振付け
(ア)原告主張の「キラキラぼし」の振付けの著作物性について判断す
る。
証拠(甲12,22,23,乙1,13の1)及び弁論の全趣旨に
よれば,「キラキラぼし」は,作詞不詳のフランス民謡であり,手の
平を星に見立て,夜空に浮かんだ星がきらきら光る様子を,手をひら
ひら動かすことで表現する手あそび歌であることが認められる。
また,原告書籍本体(甲12)には,「キラキラぼし」につい
て,「夜空にうかんだおほしさまがきらきらひかるようすを,ひらひ
ら手を動かすことで表現します。“おおきなほし”ではうでを大きく
ふり,“ちいさなほし”では手をかわいらしくふって,それぞれのイ
メージに合った動きでうたってみましょう。」(108頁)との記載
がある。
原告が独自に創作したと主張する振付けは,別紙歌詞・振付け目録
記載の4.のとおり,堀野真一が作詞した「キラキラひかるおおき
なほしはたのしいうたをうたっているよピカピカひかるちい
さなほしと」の歌詞(堀野の歌詞)に合わせた振付けであり,「キラ
キラひかる」との歌詞に合わせて両手を頭上に挙げて両手首を回
す,「おおきなほしは」の歌詞に合わせて両手を挙げたまま左右に振
る,「たのしいうたを」の歌詞に合わせて手を順番に胸の前で交差さ
せ首を左右に揺らす,「うたっているよ」の歌詞に合わせて手を順番
に口の横に当て,首を左右に揺らす,「ピカピカひかる」の歌詞に合
わせて両手を胸の高さに挙げて両手首を回す,「ちいさなほしと」の
歌詞に合わせて両手を挙げたまま左右に振るというものである。
そこで検討するに,堀野の歌詞は,キラキラ光る大きな星が,ピカ
ピカ光る小さな星と一緒に,楽しい歌を歌っているという内容のもの
であり,この歌詞に合わせた振付けを考えた場合,星がキラキラある
いはピカピカと光る様子,キラキラ光る大きい星とピカピカ光る小さ
い星との対比,楽しい歌を歌う様子を表現する振付けになるものと解
される。そして,「キラキラひかる」や「ピカピカひかる」の上記歌
詞に合わせて両手首を回すことは,星が瞬く様子を表すものとして,
誰もが思いつくようなありふれた表現であり,また,「キラキラひか
るおおきなほし」と「ピカピカひかるちいさなほし」の対比として,
前者では両手を高く上げて腕を大きく振り,後者では,胸の高さに挙
げた両手を小さく振ることも,大小の対比として自然に思いつく,あ
りふれた表現であると認められる。さらに,「うたっているよ」の上
記歌詞に合わせて手を順番に口の横に当て,首を左右に揺らすこと
も,歌っていることを示す動作として,ありふれた表現であると認め
られる。
そして,「たのしいうたを」の上記歌詞に合わせて,両手を胸の前
で交差させて首を左右に揺らすことについては,原告書籍より前に発
行されたポプラ社書籍(甲23)に掲載された「キラキラぼし」にお
いて,「おそらのほしよ」との歌詞に合わせて右手と左手を順に交差
させて胸に当て,体を左右に揺らす動作が記載されていること(61
頁)からすれば,両手を胸の前で交差させ,体を左右に揺らす動作は
格別な表現ではなく,上記振付けは,ポプラ社書籍記載の上記動作と
左右に揺らす部位が首であること及び対応する歌詞に違いがあるもの
の,特段創作性があるものとは認められない。
したがって,原告主張の上記振付けは,創作性を有する著作物であ
るものと認めることはできない。
(イ)以上によれば,原告主張の「キラキラぼし」の振付けは,著作物
には当たらない。
オ「さかながはねて」の歌詞及び振付け
(ア)まず,原告主張の「さかながはねて」の歌詞の著作物性について
判断する。
a証拠(甲12,22,24,乙1,14の1,2)及び弁論の全
趣旨によれば,「さかながはねて」は,「作詞・作曲中川ひろた
か」の曲であり,「さかながはねてピョン」との歌詞に続いて,「
あたまにくっついたぼうし」,「おへそにくっついたでべそ」など
のように,魚が泳ぐような動きからジャンプして人の体の一部にく
っつく様子を両手で表現し,手あそびをする曲であることが認めら
れる。
また,原告書籍本体(甲12)には,「さかながはねて」につい
て,「手で魚の泳ぐようすを表現しながらうたいます。はねるとこ
ろは,元気いっぱいにおもいきり手を動かしましょう。はねたあと
は“おくちにくっついた,マスク”など,ほかにも好きなところに
手をくっつけて,自由にあそぶことができます。」(42頁)との
記載がある。
原告が独自に創作したと主張する歌詞は,「あたまにくっついた
うさぎ」,「おしりにくっついたパンツ」というものであり(別紙
歌詞・振付け目録記載の5.),「さかながはねてピョン」との歌
詞に続く,上記部分に創作性があるというものである。
そこで検討するに,原告主張の上記歌詞は,魚が泳ぐような動き
からジャンプして人の体の一部にくっつく様子を両手で表現する手
あそび歌である「さかながはねて」の趣旨に沿った歌詞の一部であ
り,両手を頭につけて「うさぎ」を,両手を尻につけて「パンツ」
を表現するというアイデアが決まれば,上記の歌詞のようにそれぞ
れ表現することは,ありふれたものであると認められる。
また,手あそびは,元の歌詞の一部の言葉等を替えるのもあそび
方の一つであり,「さかながはねて」においても,原告書籍本体の
上記記載部分に「はねたあとは“おくちにくっついた,マスク”な
ど,ほかにも好きなところに手をくっつけて,自由にあそぶことが
できます。」との記載があるように,原告が創作性があると主張す
る上記部分は,表現する対象を自由に替えて遊ぶことが想定されて
いる箇所であるといえるから,このような歌詞の一部の表現を著作
物として保護するのは相当ではないものと解される。
bしたがって,原告主張の上記歌詞は,創作性を有する著作物であ
るものと認めることはできない。
(イ)次に,原告主張の前記(ア)の歌詞に対応する振付けの著作物性に
ついて判断する。
aそこで検討するに,原告が独自に創作したと主張する振付けは,
別紙歌詞・振付け目録記載の5.のとおりであるが,以下のとお
り,上記振付けは,いずれも誰もが思いつく,ありふれたものであ
ると認められる。
①原告主張の上記振付けのうち「あたまにくっついたうさぎ」の
部分は,「あたまにくっついたうさぎ」の歌詞に合わせて両手を
うさぎの耳のように頭の上に立てるというものであり,上記歌詞
に合わせて両手を頭につけて「うさぎ」を表現しようとする場合
に,上記のような動作で表現することは,ありふれたものである
と認められる。
②原告主張の上記振付けのうち「おしりにくっついたパンツ」の
部分は,「おしりにくっついたパンツ」の歌詞に合わせて突き出
した尻に両手を当てるというものであり,上記歌詞に合わせて両
手を尻につけて「パンツ」を表現しようとする場合に,上記のよ
うな動作で表現することは,ありふれたものであると認められ
る。
bしたがって,原告主張の上記振付けは,創作性を有する著作物で
あるものと認めることはできない。
(ウ)以上によれば,原告主張の「さかながはねて」の歌詞及び振付け
は,著作物には当たらない。
(2)以上のとおり,原告主張の個々の歌詞及び振付けは,いずれも著作物に
当たらないから,上記歌詞及び振付けについて著作権侵害が成立する余地
はない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の上記歌詞
及び振付けの複製権侵害を理由とする差止請求及び損害賠償請求は理由が
ない。
4法的保護に値する利益の侵害を理由とする不法行為の成否(争点6−1)
について
(1)原告は,①手あそび歌を集めた書籍にDVDを付けるという新しいコン
セプトを考案したこと,原告書籍の制作に当たって,聴き取り調査,アン
ケート,歌詞及び振付けのオリジナル部分の考案,実演DVDの付属な
ど,類書との差別化のために多大な苦労,創意工夫を行ったこと,原告書
籍は需用者に類書にない価値を認められ,良好な売上げを上げていたこと
からすれば,原告書籍の上記コンセプト,掲載曲・収録曲の選択及び配
列,歌詞及び振付けのオリジナル部分は,法的保護に値する利益(経済的
利益)であること,②被告は,上記コンセプトをまねただけではなく,原
告書籍の半分以上を引き写し,掲載曲・収録曲の選択,歌詞及び振付けの
オリジナル部分までもそのまま流用し,被告書籍を発行したこと,③被告
書籍は,コンセプト,タイトル,価格,判型,選曲,対象年齢等多くの点
で原告書籍と共通すること,上記①ないし③によれば,被告による被告書
籍の発行は,社会的に許容される限度を超えたものであって,原告の法的
保護に値する利益を違法に侵害したものとして,不法行為を構成する旨主
張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
ア原告は,手あそび歌を集めた書籍にDVDを付けるというコンセプト
は,原告が考案した新しいコンセプトであり,法的保護に値する利益で
ある旨主張する。
しかし,原告書籍の初版は,平成18年1月10日に発行されたもの
であるところ(甲13),手あそび歌を掲載・収録したDVD付き書籍
である「DVDつきみんなのてあそびうた」(株式会社主婦の友社)
が,原告書籍の初版の発行日に近接する同月31日に発行されているこ
と(甲20),ゴルフ,テニスなどの動きのある動作の説明を書籍本体
の文章・イラスト等と付属のDVDの実演映像で説明するDVD付き書
籍が,原告書籍の初版の発行当時既に存在していたことは,公知の事実
であることに照らすならば,手あそび歌を集めた書籍にDVDを付ける
というコンセプトは,それ自体がアイデアにすぎないのみならず,格別
目新しい着想であったものとはいえないから,上記コンセプトが法的保
護に値する利益であるとの原告の主張は,採用することができない。
イ次に,原告は,原告書籍の掲載曲・収録曲の選択及び配列,歌詞及び
振付けのオリジナル部分は,法的保護に値する利益である旨主張する。
そこで検討するに,原告書籍の掲載曲・収録曲の選択及び配列,歌詞
及び振付けのオリジナル部分が,法的保護に値するというためには,そ
れが創作性を有するものとして著作物として保護されるものであるか,
取引の対象とされるなどの独立の価値を有するものであることが必要で
あるものと解される。
(ア)まず,原告がオリジナル部分であるとする歌詞及び振付けが具体
的に何を指すのか,必ずしも明らかとはいえないが,それが別紙歌詞
・振付け目録記載の「いっぽんといっぽんで」,「ピクニック」,「
グーチョキパーでなにつくろう」及び「さかながはねて」の各歌詞及
び振付け,「キラキラぼし」の振付けをいうのであるとすれば,前記
3で説示したとおり,上記各歌詞及び振付けは創作性を有するもので
はないし,また,取引の対象とされるなどの独立の価値を有するもの
と認めることはできない。
したがって,原告書籍の歌詞及び振付けのオリジナル部分が法的保
護に値する利益であるとの原告の主張は,採用することができない。
(イ)次に,原告の原告書籍の掲載曲・収録曲の選択及び配列に係る主
張について検討するに,前記前提事実と証拠(甲12,乙1)を総合
すれば,①被告書籍は,手あそび歌を選択して掲載・収録したDVD
付き書籍であって,書籍本体には,歌に合わせた手,指等の身体の振
付けを説明した文章及びイラストが掲載され,書籍本体に付属するD
VDには,歌及び振付けの実演の録音・録画が収録されている点,書
籍本体の掲載曲数が全63曲である点において,原告書籍と共通する
が,②他方で,原告書籍本体の掲載曲と被告書籍本体の掲載曲は異な
る基準で配列されている点,原告DVDの収録曲は全29曲であるの
に対し,被告DVDの収録曲は全44曲であり,収録曲は異なる基準
で配列されている点などで,原告書籍と被告書籍は相違することが認
められる。
上記②の原告書籍と被告書籍の相違点に照らすならば,原告が主張
するように原告書籍の掲載曲・収録曲の選択及び配列が法的保護に値
する利益になり得るとしても,被告による被告書籍の発行は,かかる
法的保護に値する利益を侵害したものと認めることはできない。
ウさらに,原告は,被告書籍が,コンセプト,タイトル,価格,判型,
選曲,対象年齢等の点で原告書籍と共通することを,被告による被告書
籍の発行が原告の有する法的保護に値する利益の侵害を基礎づける事情
として主張する。
確かに,前記前提事実と前掲イ(イ)の証拠によれば,被告書籍は,原
告書籍と同じく,手あそび歌を選択して掲載・収録したDVD付き書籍
であり,書籍本体の掲載曲数が全63曲であるほかに,書籍本体の本文
の頁数が175頁ある点,A5判である点,価格が1400円(消費税
相当分を除く。)である点において,原告書籍と共通することが認めら
れる。
しかし,上記の諸点で被告書籍が原告書籍と共通するからといって被
告による被告書籍の発行が社会的に許容される限度を超えた違法なもの
であるということはできず,原告の上記主張は採用することはできな
い。
(2)以上のとおり,被告による被告書籍の発行は,社会的に許容される限度
を超えたものであって,原告の法的保護に値する利益を違法に侵害したも
のとして,不法行為を構成するとの原告の主張は理由がない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の上記利益
の侵害の不法行為を理由とする損害賠償請求(予備的請求)は理由がな
い。
5結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求(予
備的請求を含む。)はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のと
おり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官大鷹一郎
裁判官大西勝滋
裁判官関根澄子
(別紙)書籍目録
題号:たのしい手あそびうたDVDブック
発行人:E
発行所:株式会社宝島社
(2007年9月26日第1刷発行)
(別紙)歌詞・振付け目録
1.いっぽんといっぽんで
(別紙曲名一覧の原告書籍の番号1・被告書籍の番号45)
原告書籍本体・原被告書籍本体・被原告書籍本体・原告DV被告書籍本体・被告DV
告DVDの歌詞告DVDの歌詞Dの振付けDの振付け
いっぽんといっぽ同左両手の人差し指を立て同左
んでる
にんじゃになって同左人差し指を立てたまま片同左
方の手で他方の手の人差
し指を握る
さんぼんとさんぼ同左両手の人差し指,中指,同左
んで薬指を立てる
ねこさんになって同左猫のひげのように両頬に同左
つける
よんほんとよんほ同左両手の親指を折り4本の同左
んで指を立てる
たこさんになって同左手を下に向け,残りの4同左
本の指を動かす
ごほんとごほんで同左両手を広げる同左
とりさんになって同左手を体の両側でひらひら同左
と上下に動かす
おそらにとんで同左両手を羽ばたくように同左
った動かす
2.ピクニック(別紙曲名一覧の原告書籍の番号2)・ピクニックバージョン(
被告書籍の番号46)
原告書籍本体・原被告書籍本体・被原告書籍本体・原告DV被告書籍本体・被告DV
告DVDの歌詞告DVDの歌詞Dの振付けDの振付け
2と5で同左片手の人差し指と中指,同左
他方の手は5本の指を出

おすしをにぎって同左片手の二本の指を揃えて同左
丸めた他方の手に当て,
すしを握るまねをする
4と5で同左片手は親指を折り4本の同左
指を出し,他方の手は5
本の指を出す
アイスをたべて同左4本の指で他方の手のヒ同左
ラからアイスをすくうま
ねをする
3.グーチョキパーでなにつくろう
(別紙曲名一覧の原告書籍の番号3,被告書籍の番号3)
原告書籍本体・原被告書籍本体・被原告書籍本体・原告DV被告書籍本体・被告DV
告DVDの歌詞告DVDの歌詞Dの振付けDの振付け
みぎてがグーで同左右手をグーにして出す同左
ひだりてがパーで同左左手をパーにして出す同左
めだまやき同左左手の甲の上に右手の拳同左
めだまやきをのせる
みぎてがパーで同左右手をパーにして出す同左
ひだりてもパーで同左左手をパーにして出す同左
おすもうさん同左両掌を左右交互に突き出同左
おすもうさんす
みぎてがグーで同左右手をグーにして出す同左
ひだりてもグーで同左左手をグーにして出す同左
ゴリラ同左両手の拳で左右交互に胸同左
ゴリラを叩く
4.キラキラぼし
(別紙曲名一覧の原告書籍の番号39,被告書籍の番号11)
歌詞原告書籍本体・原告DVDの振付け被告書籍本体・被告DVDの
振付け
キラキラひかる両手を頭上に挙げて両手首を回す同左
おおきなほしは両手を挙げたまま左右に振る同左
たのしいうたを手を順番に胸の前で交差させ首を左同左
右に揺らす
うたっているよ手を順番に口の横に当て,首を左右同左
に揺らす
ピカピカひかる両手を胸の高さに挙げて両手首を回同左

ちいさなほしと両手を挙げたまま左右に振る同左
5.さかながはねて
(別紙曲名一覧の原告書籍の番号15,被告書籍の番号24)
原告書籍本体の歌被告書籍本体の歌原告書籍本体の振付け被告書籍本体の振付け
詞詞
さかながはねて同左両手のひらを合わせ魚が同左
泳ぐように動かす
ピョンッ同左さかながはねるように両同左
手を勢いよく上方に広げ

あたまにくっつい同左両手をウサギの耳のよう同左
たうさぎに頭の上に立てる
さかながはねて同左両手のひらを合わせ魚が同左
泳ぐように動かす
ピョンッ同左さかながはねるように両同左
手を勢いよく上方に広げ

おしりにくっつい同左尻を突き出し両手を当て同左
たパンツる

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