弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     上告人の上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
     補助参加人の上告を却下する。
     右上告費用は補助参加人の負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士坂千秋の上告理由第一点について、
 一、原判決は、a村選挙管理委員会は、昭和二四年一月八日一回だけ開催せられ、
投票管理者及び開票管理者の選任をした以外は、なんら市町村の選挙管理委員会と
して為すべき職務を遂行せず、投票立会人の選任をはじめ、その職務の一切を挙げ
て村長、助役、役場書記等の所謂村役場事務当局に一任する旨の決議をして散解し
たこと、従つて右選挙について、投票立会人として投票事務に干与したD、E、F
の三名はいずれも右選挙管理委員会によつて選任せられたものでなく、これらはす
べて、村長、助役、又は役場書記の委嘱によるものである事実を確定し、右のごと
きは法定の手続によつて選任せられたものと認められないと判断しているのである。
論旨は、或は右と異る事実関係を主張し、或は右村長以下の村当局を以て右委員会
の延長に過ぎないものと独断して、如上の委嘱を以て右委員会の選任と同視せんと
するものであるが、その理由のないことは多言を要しないところである。
 二、さらに、原判決は本件投票管理者Gが投票事務を執行するに当つて、前記三
名が投票立会人としてその職務を執行するのに対し異議を述べた形跡は認められな
いけれども、単に異議を述べなかつたということと選任行為とはその性質を全然異
にするものてあるから、Gが異議を述べた形跡がないという一事によつて、なんら
権限のない者によつて、選任せられた前記三名が投票立会人としての資格を具有す
るに至るものと解することはできないと判示しているのであって、この判断はまこ
とに正当であつて、論旨は、投票管理者Gが異議を述べないということは結局三名
が投票立会人であることを承認しているのであつて、実質的に投票管理者が投票立
会人を選任したものであると主張し、或は原判決の認定と相容れない事実又は原判
決の認定しない事実に立脚して右三名の投票立会人たる資格を肯定せんとするもの
であるが、かかる見解は到底是認することはできない。その他所論の各事情を参酌
しても原判決の如上の判断をもつて違法なりとする理由はみとめられない。論旨は
理由がない。
 同第二点について。
 原判決は、市町村の選挙管理委員会は都道府県の選挙管理委員会の指揮監督の下
に衆議院議員の選挙に関する事務を処理するものであり、選挙の民衆化を図りその
自由、公正を保持するために、従来普通の地方行政庁たる市町村長の管理するとこ
ろであつた選挙に関する事務を執行する為めに特に設けられた機関であつて、その
職務権限も単に投票管理者、開票管理者及び投票立会人の選任ばかりでなく、他に
も重要な職務権限を有することは衆議院議員選挙法又は同施行令を通覧すれば容易
に了解せられるところであり、市町村の選挙管理委員会がその職務権限を尽すか否
かが、選挙が自由且つ公正に行われるか否かに重要な関係を有するものであること
は言うまでもない。従つてa村選挙管理委員会が投票管理者及び開票管理者の選任
以外の職務権限の一切を挙げて村役場事務当局(たとえそれが管理委員会事務当局
であつても同様である)に一任して顧みなかつたことはそれ自体選挙の規定に違反
するものと言わなければならない。また投票立会人及び開票立会人は選挙が自由且
つ公正に行われるかどうかを監視するための必置且つ重要な機関であり、さればこ
そ法はその選任方法等についても詳細な規定を設けているのであるから、本件選挙
において、前記認定の通り、なんら権限のない者によつて選任せられた者が投票立
会人及び開票立会人として投票及開票事務に関与したことは、これまた明かに選挙
の規定に違反するものと言わなければならない。と判示した上、さらに、原判決は
これらの事実に、判示第二、第三、第四、第六に説示した違法乃至不始末の事実を
合せ考えればa村における本件選挙は選挙の自由、公正、嚴粛を旨とする法の精神
を無視して行われたものであり、殆んど選挙の体を具えないものであることを窺う
ことができ、かような綜合的観点からしても、本件選挙は同法第八二条で言う選挙
の規定に違反するものということができる、としているのであつて、かかる選挙規
定の違反は選挙の公正の保障を全面的に阻害するものであることは論議の余地のな
いところであつて、選挙の結果に異動を及ぼす虞のあることまた、勿論であるとい
わなければならない。
 論旨は原判決の認定と異る観点に立つて、本件選挙規定の違反を軽微なりとする
ものであつて、採用の限りでない。
 同第三点について。
 原判決は、本件における選挙規定の違反は、殆んど選挙の体を具えないものとい
うべきであると判示していることは前点説示のとおりであつて、原判決の意とする
ところも、かかる選挙規定の違反は当然にa村における選挙の結果に異動を生ずべ
き虞れあるものとするにあることは明らかである。たゞ若しa村における本件選挙
の全部を無効とし、新に選挙をやり直すとしても、新潟県第二区における各候補者
の当落に何等影響を及ぼさないこと明瞭であるならば、ことさら、a村における本
件選挙の無効を宣言する実益はないのであるから、原判決はこの点を考慮し、同県
第二区における最下位当選者及び次点者の得票数の差数と、a村における有権者総
数とを比較考量した上、本件選挙を無効とし、改めて適法な手続によつて、選挙を
しなおすにおいては、同県同区における候補者の当落に異動を生ずるの虞あり、即
ち法第八二条第一一項にいわゆる「選挙ノ結果ニ異動ヲ及ボス虞アル」ものと判断
したのである。その論旨とするところは当裁判所の従前の判例と何ら相反するとこ
ろはないのである。論旨は原判決の趣旨とするところを正解せずしてこれを論難す
るものであつて、採用することを得ない。
 上告代理人弁護士阿保浅次郎の上告理由第一点について。
 裁判所は衆議院議員選挙に関する訴訟の審判をするにあたつて、検察官に口頭弁
論の期日を通知し、これに立会の機会を与えた以上は、検察官が口頭弁論に立ち会
わなくても、それがために裁判の違法を来すものでないことは、当裁判所の判例の
示すところによつて明らかである。(昭和二三年(オ)第二一号同年九月二五日第
二小法廷判決参照)しかして、本件においても、各口頭弁論の期日を検察官に通知
したことは記録添付の通知票によつて明瞭であるから、論旨は理由がない。
 同第二点について。
 一、原判決はその挙示の証拠にもとづいて、本件選挙管理委員会は投票立会人の
選任を所謂村役場事務当局に一任し、本件投票立会人は何ら権限のない村長助役又
は村役場書記の委嘱によるもので、法定の手続によつて選任せられたものでないと
認定したのであり、右認定は正当であつて、その間所論のような実験則に反して証
拠の解釈をした違法はなく、この点に関し、原判決の証拠の取捨判断事実の認定を
攻撃するに過ぎない論旨はこれを採用することを得ない。
 二、所論開票立会人三名についても、原判決は、その挙示の証拠によつてすべて
何ら権限のない村長、助役又は役場書記の委嘱によるもので開票管理者Gが正当に
選任したものでない事実を認定したのであつて、この点に関する論旨も亦右原判決
の証拠の取捨判断事実の認定を非難するに過ぎないから採用に値しない。
 同第三点第四点第五点について。
 原判決は本件の証拠資料によつては、投票管理者であり開票管理者であるGが投
票事務又は開票事務を執行するに当つて、前記三名が投票立会人又は開票立会人と
してその職務を執行するに対し異議を述べた形跡は認められないから、右三名は法
二四条二項又は法四七条一〇項によつて適法に選任せられにことに帰するのではな
いかということも考えられるが、単に異議を述べなかつたということと選任行為と
はその性質を全然異にするものであるから、Gが異議を述べた形跡がないという一
事によつて、なんら権限のない者によつて、選任せられた前記三名が投票立会人又
は開票立会人としての資格を具有するに至るものと解することはできない。と説示
しているのであつて、この説示はまさに正鵠を得たものというべきであり、所論の
ように、Gが右三名をして特に投票立会事務又は開票立会事務に当らしめたとか、
右三名をその適任者として承認したというがごとき事実は原判決の認定しないとこ
ろである、論旨は原判決の認定しない事実関係にもとずき独自の見解に立つて原判
決の右の判断を攻撃するものであつて採用することはできない。又原判決が「本件
選挙管理委員会は、村役場事務当局に対し、投票立会人の選任を一任した」と認定
した点に関する論旨(第五点)は要するに、原判決の証拠の取捨判断を攻撃し、原
判決の認定と相容れない事実を主張するに帰するのであつて、上告の理由として採
用の限りでない。
 同第六点について。
 原判決は「一、被告が援用した各証人の証言中及び乙第三乃至第五証、第八乃至
第十一号証の記載中以上の認定に反する部分はいずれも信用しない」と判示して所
論乙第九号証に対する判断をも明らかにしているのであるから論旨は理由がない。
 よつて、上告人の上告は民訴三九六条三八四条に従つて棄却すべきものとみとめ、
訴訟費用の負担について。同法第八九条、九五条を適用して主文のとおり判決する。
 上告人補助参加人Cの上告について。
 原審における被告の補助参加人たるCは被告敗訴の原判決に対して、独立して上
告の申立をすることのできることは、民訴六九条の規定するところであるけれども、
補助参加人は、その補助参加の性質上、被参加人(被告、上告人)のために定めら
れた上告申立期間内にかぎつて、上告の申立をなし得るものといわなければならな
い。しかるに本件補助参加人の上告申立は本件上告人のために定められた上告期間
経過後になされたものであることは記録上明らかであるから右補助参加人の上告申
立は不適法であある。
 よつて補助参加人の上告については民訴三九六条三八三条八九条九五条を適用し
主文のとおり判決する。
 又、原審における補助参加人はその被参加人が上告申立をした場合に、被参加人
のために上告理由書を提出することはできるけれども、これまた、被参加人のため
に定められた上告理由書提出期間内に限つて上告理由書を提出し得るものである。
しかるに本件補助参加人の提出した上告理由書は被参加人たる上告人のために定め
られた上告理由書提出期間経過後に提出せられたものであることは、記録上明らか
であるから右は上告理由書たる効力を有しないものである。よつて、右理由書に対
しては説明をしない。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎

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