弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を仙台高等裁判所秋田支部に差し戻す。
         理    由
 上告代理人後藤助蔵、同後藤俊夫、同立野輝二の上告理由第二点について。
 論旨は、訴外Dが上告人らの代理人として被上告人との間で本件連帯保証契約を
締結する際に、上告人AがDに交付した印章、上告人らと被上告人との関係、本件
連帯保証契約の内容および主債務者であるDの資産状況に関し上告人らが原審で主
張したような事情があるときは、金融機関である被上告人は、Dが上告人らの印章
を使用して本件連帯保証契約を締結する権限を有するかどうかについて、単に印鑑
証明書を提出させて右印章と対照するだけでなく、上告人らに直接問い合わせる等
の方法により調査する義務を負うにかかわらず、被上告人はこれらの義務を尽して
いないのであるから、被上告人がDに本件連帯保証契約を締結する権限があると信
じたことには重大な過失があるというべきであるところ、原判決が上告人ら主張の
前記事情の有無について判断することなく、被上告人が右のように信じたことに「
正当ノ理由」があるとしたのは、民法一一〇条の解釈適用を誤つたか、判断遺脱の
違法があり、破棄を免れないというにある。
 本人が他人に対し自己の印章を交付し、これを使用してある行為をなすべき権限
を与え、その他人がこれを使用し、代理人として、第三者との間で権限外の行為を
した場合でも、当該行為をする際に、通常人であれば、代理人の権限について疑念
をもつような特別の事情があるときは、第三者が、代理人の権限についてなんら調
査することなく、印章を託された代理人にその取引をする代理権があると信じても、
そのように信じたことに過失がないとはいえないと解すべきである。ところで、原
審の確定したところによれば、上告人らは、Dに対し、同人が訴外E農業協同組合
から金一五万円を借り受けるときは、その債務について連帯保険人となることを承
諾したうえ、自己の印章を交付し、右Dは、上告人らの代理人として、右印章を使
用して被上告人との間で本件連帯保証契約を締結したというのであるが、このよう
な場合でも、右連帯保証契約を締結する際に、上告人らが原審で主張したような事
情があるときは、通常人であれば、Dの右契約締結の権限について疑念をもたざる
をえないような特別の事情があるというべきであるから、被上告人が、Dの権限に
ついてなんら調査することなく、上告人らの印章を交付された同人に本件連帯保証
契約を締結する権限があると信じても、このように信じたことには過失があり、民
法一一〇条にいう「正当ノ理由」がなかつたものといわざるをえない。
 しかるに、原判決は、上告人らがDに印章を交付して前記権限を与えた事実、右
Dが右印章を使用して右権限外の本件連帯保証契約を締結した事実を確定しただけ
で、上告人ら主張の特別の事情の存否についてなんら審理することなく、右のよう
な事情があるとしても、被上告人はDの権限について調査する義務を負わず、被上
告人が右Dにおいて本件連帯保証契約を締結する権限を有すると信じたことには「
正当ノ理由」がある旨判示しているのであつて、このことは民法二〇条の解釈適用
を誤り、ひいては審理不尽の違法を犯したものというべきである。したがつて、こ
の点に関する論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
 よつて、その余の論旨に対する判断を省略し、民訴四〇七条一項に従い、裁判官
全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    柏   原   語   六

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