弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 被告人本人及び弁護人山下卯吉の上告趣意は後記のとおりである。
 弁護人の上告趣意について。
 憲法三七条三項前段所定の弁護人を依頼する権利は、被告人が自ら行使すべきも
ので、裁判所は被告人にこの権利を行使する機会を与え、その行使を妨げなければ
足るものであり、また同条項後段の規定は、被告人が貧困その他の事由で弁護人を
依頼できないときは、国に対し弁護人の選任を請求することができるのであり、国
はこれに対し弁護人を附すれば足るものであることは、当裁判所大法廷の判示する
ところである(昭和二四年(れ)第二三八号同年一一月三〇日大法廷判決、集三巻
一一号一八五七頁参照)。また、裁判所が被告人に対し弁護人を選任する機会を与
えたのにかかわらず、被告人がその責に帰すべき事由により控訴趣意書提出の期間
内に控訴趣意書を提出できるような時期に弁護人選任の請求をしなかつたような場
合は、裁判所が右の期間経過後に弁護人を選任しても、被告人の憲法上の権利の行
使を妨げたものではないということも、当裁判所大法廷の判示するところである(
昭和二五年(あ)第二一五三号同二八年四月一日判決、集七巻四号七一三頁)。本
件について調べてみると、所論摘示のように、原審は、昭和二八年一二月二八日被
告人に対し弁護人選任の通知書と控訴趣意書提出の最終日(昭和二九年一月二〇日)
の指定通知書を送達したところ、被告人は、本人作成の控訴趣意書を右最終期日ま
でに提出したに止まり、弁護人選任については、全くなんらの請求をも行わなかつ
たので、原審は事案が刑訴二八九条に当る事件であるため国選弁護人を選任したこ
とが認められる。かかる経過からみれば、裁判所は被告人に対し弁護人選任の機会
を十分に与えたのであつて、かかる場合裁判所は、被告人の請求もないのに、前も
つて特に所論のように控訴趣意書提出ができる余裕を置いて弁護人を選任しなけれ
ばならない義務を負うものではなく、このことは強制弁護事件であると否とによつ
て異なるところはない。されば原審の手続になんら憲法違反はなく、論旨は理由が
ない。
 被告人の上告趣意について。
 所論は、量刑不当の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。
 よつて同四〇八条、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決す
る。
  昭和二九年九月七日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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