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令和元年(受)第984号不当利得返還請求事件
令和3年1月26日第三小法廷判決
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人山本和也の上告受理申立て理由について
1本件は,破産者株式会社CFSの破産管財人である上告人が,CFSがその
発行した社債について社債権者である被上告人に利息制限法1条所定の制限を超え
て利息として支払った金額を元本に充当すると過払金が発生しているなどと主張し
て,被上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき,過払金の返還等を求める事案
である。
2原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)CFSは,投資に関するシステムの開発等を業とする株式会社である。
(2)CFSは,投資に関する新たなシステムの開発等に要する資金を調達する
ため,会社法676条各号に掲げる事項(以下「募集事項」という。)を定めて,
その発行する社債を引き受ける者の募集をした。
上記募集に応じて社債の引受けの申込みをした被上告人は,CFSからその割当
てを受け(以下,被上告人が割当てを受けた社債を「本件社債」という。),平成
24年,本件社債の募集事項に従って,2000万円を払い込み,平成27年まで
の間,CFSから,第1審判決別紙計算書のとおり,利息制限法1条所定の制限利
率を超える利率の利息の支払及び社債の償還を受けた。
(3)CFSは,平成24年3月から平成27年11月にかけて,本件社債を含
め,合計203回にわたり,社債権者をそれぞれ1名として社債を発行したが,そ
のほとんどは,利息制限法1条所定の制限利率を超える利率の利息を定めたもので
あった。
(4)CFSは,平成28年4月,破産手続開始の決定を受けた。
3原審は,事実関係のいかんにかかわらず,社債には利息制限法1条の規定は
適用されないから,本件社債にも同条の規定は適用されないと判断して,上告人の
請求を棄却すべきものとした。
4所論は,社債にも利息制限法1条の規定が適用されるから,本件社債に同条
の規定が適用されないとした原審の判断には,同条の解釈適用の誤りがある旨をい
うものである。
5利息制限法1条は,「金銭を目的とする消費貸借」における利息の制限につ
いて規定しているところ,社債は,会社法の規定により会社が行う割当てにより発
生する当該会社を債務者とする金銭債権であり(同法2条23号),社債権者が社
債の発行会社に一定の額の金銭を払い込むと償還日に当該会社から一定の額の金銭
の償還を受けることができ,利息について定めることもできるなどの点において
は,一般の金銭消費貸借における貸金債権と類似する。
しかし,社債は,会社が募集事項を定め,会社法679条所定の場合を除き,原
則として引受けの申込みをしようとする者に対してこれを通知し(同法677条1
項),申込みをした者の中から割当てを受ける者等を定めることにより成立するも
のである(同法677条2項,3項,678条,680条1号)。このように社債
の成立までの手続は法定されている上,会社が定める募集事項の「払込金額」と
「募集社債の金額」とが一致する必要はなく,償還されるべき社債の金額が払込金
額を下回る定めをすることも許されると解される(同法676条2号,9号参照)
などの点において,社債と一般の金銭消費貸借における貸金債権との間には相違が
ある。また,社債は,同法のみならず,金融商品取引法2条1項に規定する有価証
券として同法の規制に服することにより,その公正な発行等を図るための措置が講
じられている。
ところで,利息は本来当事者間の契約によって自由に定められるべきものである
が,利息制限法は,主として経済的弱者である債務者の窮迫に乗じて不当な高利の
貸付けが行われることを防止する趣旨から,利息の契約を制限したものと解され
る。社債については,発行会社が,事業資金を調達するため,必要とする資金の規
模やその信用力等を勘案し,自らの経営判断として,募集事項を定め,引受けの申
込みをしようとする者を募集することが想定されているのであるから,上記のよう
な同法の趣旨が直ちに当てはまるものではない。今日,様々な商品設計の下に多種
多様な社債が発行され,会社の資金調達に重要な役割を果たしていることに鑑みる
と,このような社債の利息を同法1条によって制限することは,かえって会社法が
会社の円滑な資金調達手段として社債制度を設けた趣旨に反することとなる。
もっとも,債権者が会社に金銭を貸し付けるに際し,社債の発行に仮託して,不
当に高利を得る目的で当該会社に働きかけて社債を発行させるなど,社債の発行の
目的,募集事項の内容,その決定の経緯等に照らし,当該社債の発行が利息制限法
の規制を潜脱することを企図して行われたものと認められるなどの特段の事情があ
る場合には,このような社債制度の利用の仕方は会社法が予定しているものではな
いというべきであり,むしろ,上記で述べたとおりの利息制限法の趣旨が妥当す
る。
そうすると,上記特段の事情がある場合を除き,社債には利息制限法1条の規定
は適用されないと解するのが相当である。
前記事実関係によれば,本件において上記特段の事情の存在はうかがわれないの
で,本件社債に利息制限法1条の規定は適用されないというべきである。したがっ
て,上告人の請求は理由がない。
6以上によれば,上告人の請求を棄却すべきものとした原審の判断は,結論に
おいて是認することができる。論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官宇賀克也裁判官戸倉三郎裁判官林景一裁判官
宮崎裕子裁判官林道晴)

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