弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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平成13年(行ケ)第363号 商標登録取消決定取消請求事件 (平成14年1
月22日口頭弁論終結)       
  判    決
    原      告   株式会社 稲 栄
    訴訟代理人弁理士   武 石  靖 彦
    同村 田  紀 子
    訴訟代理人弁護士   井 原  友 己
    被      告   特許庁長官 及 川 耕 造
    指定代理人      茂 木 静 代
    同          山 下  孝 子
    同          林    栄 二
  主    文
 特許庁が平成11年異議第90033号事件について平成13年6月26
日にした決定を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
   主文と同旨
 2 被告
   原告の請求を棄却する。
   訴訟費用は原告の負担とする。
第2 前提となる事実
 1 特許庁における手続の経緯
 (1)原告は、第24類の商品を指定商品として、平成8年12月27日、「鳳
凰」の文字を横書きしてなり、その構成を別紙2のとおりとする商標(以下、「本
件商標」という。)の商標登録出願をした。この出願は、平成8年商標登録願第1
48011号として審査され、同10年4月24日に拒絶理由通知(商標法4条1
項11号該当)を受けたが、指定商品を第24類「織物(畳べり地を除く。)」と
補正した結果、同年7月3日に登録査定を受け、同年9月18日に商標登録第41
88268号として登録され、同年11月12日商標公報に公示された。
 (2)本件商標の商標登録について、平成11年1月5日、異議の申立てがなさ
れ、平成11年異議第90033号として審理されたところ、特許庁は、平成13
年6月26日、「本件登録商標の登録を取り消す。」との異議の決定(以下「本件
決定」という。)をし、その謄本は、同年7月16日原告に送達された。
 (3)なお、本件決定において引用された登録第573653号商標(「引用商
標」、別紙3参照)は、「宝桜」の文字を書してなり、昭和35年3月2日に商標
登録出願され、旧商標法施行規則第15条の規定による商品類別(旧々)第30類
「織物」を指定商品として同36年6月1日に設定登録されたものであり、その後
2回にわたり商標権存続期間の更新登録がなされたが、第三者から商標法50条に
基づく商標権取消審判が請求され(平成11年審判第31094号、審判請求平成
11年8月16日、予告登録同年9月16日)、平成12年4月27日に「登録第
573653号商標の登録は取り消す。」旨の審決があったので(同年6月28日
審決確定)、引用商標に係る商標権は、商標権取消審判の予告登録の日である平成
11年9月16日に遡って消滅したものとみなされた(平成12年8月9日抹消登
録)。
 引用商標の商標権者である柴田鉱株式会社は、平成7年1月13日名古屋地方裁
判所の破産宣告を受け、平成8年6月1日に平成2年法律第64号附則第6条第1
項の規定により解散したものとみなされ、同月3日にその旨の解散登記がされてい
る。
 2 本件決定の理由の要旨
 別紙1異議の決定の理由写しのとおり、本件決定は、要約次のとおり判断し、本
件商標は商標法4条1項11号に違反して登録されたものであるから、その登録を
取り消すべきであるとした。
 (1)本件商標は、「鳳凰」の文字を横書きしてなるから、これより「ホウオ
ウ」の称呼及び「鳳凰」の観念を生ずるものである。
 (2)一方、引用商標は、「宝桜」の文字を縦書きしてなるところ、該文字は特
定の称呼、観念を有する成語ではないから、これに接する取引者、需要者は、適宜
読みやすい称呼をもって取引に当たるものと判断するのが相当である。
 しかして、引用商標は、商標権者が主張するように「タカラサクラ」或いは「タ
カラザクラ」と呼ばれる場合があるとしても、「宝」の文字は「宝石」(ほうせ
き)、「宝冠」(ホウカン)の如く「ホウ」と読まれ、また「桜」の文字も「桜
花」(オウカ)「観桜」(カンオウ)「残桜」(ザンオウ)の如く「桜」の文字が
「オウ」と読まれることも少なくないところから、全体として「ホウオウ」の称呼
をも生ずるものと判断するのが相当である。
 そうとすれば、引用商標よりは、その構成文字に相応して、「タカラサクラ」、
「タカラザクラ」の称呼を生ずる他、「ホウオウ」の称呼をも生ずるものとみるの
が相当である。
 (3)したがって、本件商標と、引用商標とは、共通の「ホウオウ」の称呼を生
ずるものである。
 してみれば、本件商標と引用商標とは、その外観及び観念において異なるところ
があるとしても、「ホウオウ」の称呼を同じくする類似の商標といわざるを得ず、
かつ、両者の指定商品は同一又は類似のものであるから、本件商標は、商標法4条
1項11号に違反して登録されたものであって、商標法43条の3の2項の規定に
より、その登録を取り消すべきものである。 
 (4)商標権者(原告)は、引用商標の商標権は実体を欠くものである旨主張す
るが、本件商標の商標権が設定登録された時点において、引用商標の商標権は存続
していたものであるから、商標権者の上記主張は採用することができない。
第3 原告主張の取消事由の要点
 1 取消事由1(商標の類否判断の誤り)
 商標の類否は、称呼・観念・外観を商品の取引の実情を勘案して総合的に判断さ
れるべきものであるのに、称呼のみの類似の可能性をもって本件商標が引用商標と
類似すると判断した本件決定には、重大な誤りがある。
 (1)本件商標と引用商標との類否
   ア 外観・観念・称呼の非類似  
 本件商標「鳳凰」と引用商標「宝桜」とは、外観、観念が大きく相違する。のみ
ならず、本件商標の称呼が「ホウオウ」であるのに対し、引用商標は「タカラザク
ラ」と一般に発音されるものであるから、両商標は称呼においても非類似であり、
出所の混同を生じさせない。   
 すなわち、「鳳凰」は、「高貴な想像上の鳥」を連想させる幻想的で躍動感のあ
る強いイメージを与え、また、外観も「几」が並んだ中国的な味わいのある特徴あ
る漢字によって構成されている。これに対し、「宝桜」は、日本の代表的な花であ
り「桜」をイメージさせる語であって、淡い桜の花を想起させる、静的な趣のある
語であり、また、これに冠記されている「宝」は、金銀宝石類をイメージさせるも
のであるが、これは「しだれ桜」、「彼岸さくら」あるいは「ボタン桜」などに見
られるように、桜の一種を示すものとして受け取られるものであり、「宝桜」と表
記される場合には、あくまでも「さくら」に力点があることになる。したがって、
「宝桜」は、通常一般に「タカラザクラ」とは発音されても、「ホウオウ」と読ま
れることはない。
 このように鳥のイメージを持つ「鳳凰」が、花のイメージをもつ「宝桜」と見誤
られることは全く起こり得ないものである。
 後述のとおり(後記(2))、実際にも長年にわたる原告の「鳳凰」ブランドの
展開においても、誤認混同は起こっていない。このことは、「鳳凰」と「宝桜」と
は、その語のもつ意味や我が国における定着度などからして、全体として需要者に
与える印象が大きく異なるので、両商標は、外観、称呼において顕著に相違し、取
引の場において出所の誤認混同が生じ得ないことの証左である。
 (2)本件商標の使用と取引の実情(誤認混同のおそれがないこと)
 取引の実情を勘案すれば、本件商標「鳳凰」と引用商標「宝桜」との間で出所の
誤認混同は生じ得ない。
 原告の「鳳凰」ブランドは、原告によって喪服地に使用され、10年以上にわた
り、全国農業共同組合連合会(「全農」)を主な取引先として、実際に取引されて
きたものである。
 対するに、引用商標は、実際に市場に流通していたのかどうかすら、定かでな
く、これまで、出所混同が生じるような事態は生じたことがない。
 引用商標の商標権者であった訴外柴田鉱株式会社は、平成7年1月13日に破産
宣告を受け、平成8年6月3日に解散登記がなされているから、引用商標を本件商
標登録出願時に使用していたとは考えられず、第三者に対する使用許諾の事実も登
録原簿上窺われないから、将来においても使用される可能性が全くないものであ
る。このような使用の実体が全くなく、使用の可能性もない引用商標と本件商標と
の間には出所の誤認混同を生じる余地がない。
 なお、原告は、平成元年に商標「鳳凰」の商標登録出願をしたが、引用商標との
類似を指摘され、拒絶審決を受けた。その後、引用商標の商標権者が解散し、「宝
桜」商標が実体のない状態にあることを知り、再度「鳳凰」(本件商標)の商標登
録出願をしたものである。
 (3)原告の販売する喪服地「鳳凰」の売上高からみた「鳳凰」の周知性
 原告の「鳳凰」ブランドの喪服地は、平成元年度から平成11年6月までに、約
23億円の販売実績があり、取引先である全農はもとより、その傘下にある組合
員、家族等を含めた約4000万人の需要者に広く知られている。このような原告
の本件商標「鳳凰」の周知性からすれば、引用商標「宝桜」との間に混同が生じる
余地はなく、両者は互いに非類似の商標というべきである。
 2 取消事由2(商標法4条1項11号の解釈、適用の誤り)
 (1)引用商標には後願排除効を認めるべきでないこと(先登録商標としての実
体の欠如)
 商標法4条1項11号の法意は、権利範囲の重複する商標権の発生を阻止し、も
って先登録の商標権を保護し、併せて需要者における商品出所の誤認混同を防止す
ることにある。
 ところが、引用商標は、前記1(2)のとおり、商標権者の解散によって、使用
される可能性がなくなっていた商標であり、現に、平成12年4月27日にされた
不使用取消審判の審決(平成11年9月16日予告登録)によって登録を抹消され
ている。このような後願を排除すべき要保護性を完全に失っていた登録商標は、引
用商標としての適格を欠くというべきである。ましてや、本件決定のなされた平成
13年6月26日時点では、不使用取消審決の確定により、引用商標の商標登録は
形式上(登録上)も消滅していたのであるから、引用商標により本件商標の登録を
排除することは違法不当である。
 (2)取消理由の基準時
本件決定は、商標登録取消理由の基準時を設定登録時としているが、不当であ
る。商標法改正前の付与前異議制度の下では、異議の申立ての審理段階で先登録商
標が取消になれば、これを斟酌して登録の可否が判断されるので、商標法4条1項
11号の趣旨に沿った審査がなされ、特に問題はなかった。ところが、平成8年改
正商標法による付与後異議の制度の下でもそのままの基準時を採ると、実際上は異
議申立てによって登録前異議の場合と同様に再審査を行うにすぎないのに、異議の
申立て前の設定登録の時点で先願登録商標が存在していたという理由で引例として
認められ、権利者の防御方法を著しく制約することになってしまう。
 付与後異議の制度は、審査段階における審査官の負担を軽減して審査を促進しつ
つ、この審査判断の適否を上級審(審判合議体)で判断することにより、権利者と
一般公衆の公平性を担保することを趣旨とするものであり、その趣旨を考えるな
ら、異議手続における権利者側の防御方法を制約する必要性も合理性もないはずで
ある。異議申立ての審理においては、あくまで異議決定の時点において、引用商標
の実体や商品取引における混同の可能性を審理判断すべきである。
 とりわけ、本件においては、審査の過程で「宝桜」が引用商標とされることな
く、これとの類否を不問に付して商標登録が認められ、その後の異議審でその登録
が結果的に過誤として取り消されることになった。もし、審査の段階で引用商標と
の類似を理由に拒絶査定がなされていれば、引用商標の不使用取消審決があったこ
とにより、拒絶査定に対する不服審判において本件商標の登録が認められることに
なった可能性があり、(過誤審査の結果として)登録査定をした場合と拒絶査定を
した場合とで結論が正反対になるという看過し難い不均衡が生じたことになる。言
い換えれば、原告は、登録査定があったことにより、かえって、引用商標を排除す
る機会を奪われることになったのであり、このような結果をもたらす解釈が不当な
ことは明らかである。
第4 被告の反論の要点
 1 引用商標と本件商標の類否
 (1)引用商標より生ずる称呼及び観念について 
   ア 引用商標から「ホウオウ」の称呼が生ずるとした審決の認定に誤りはな
い。「宝」及び「桜」の各語は、訓読み(タカラ、サクラ)以外に、音読み(ホ
ウ、オウ)も日常的に使用されており、それぞれの音読みが一般世人にとって極め
て難しい読み方というものではない。引用商標のように特定の読み方を有しない造
語よりなる商標に接する取引者・需要者は、訓読み(タカラザ(サ)クラ)の他に
音読み(ホウオウ)の称呼をもって商品の取引に当たる場合もあるというべきとこ
ろ、「タカラザ(サ)クラ」はやや冗長であるから、簡易迅速を旨とする取引にあ
っては、簡潔に「ホウオウ」と称呼する場合がむしろ多いというべきである。引用
商標からは「ホウオウ」の称呼が自然に生じるというべきである。
   イ 原告は、引用商標は本件商標と外観及び観念が大きく相違するという
が、引用商標は特定の観念を有しない造語よりなるものであるから、観念を比較す
ることはできず、両商標が観念において大きく異なるということはできない。
(2)取引の実情
 両商標が使用される指定商品「織物」の取引分野における取引の形態には、消費
者が店頭において商品を購入するほか、製造業者と卸問屋、卸問屋と仕立業者との
取引等種々の取引が存在し、専門業者間の遠隔地における取引にあっては、電話な
どの注文が主としてなされる場合も少なくないと考えられること、街頭放送、ラジ
オ等のコマーシャルのように専ら称呼による商品の宣伝広告などがなされる場合が
ある等の実情がある。このような場合に称呼が商品識別の重要な手掛かりとなるこ
とは否定できない。
 「織物」の分野の取引の実情にあっては、称呼が同一又は類似の場合は、商品の
取引において互いに相紛らわしく、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれが十
分にあるというべきである。
 (3)本件商標の使用及びその周知性について
 原告の提出した証拠に示された「鳳凰」商標の使用態様及び売上高(織物以外の
着物関連の商品を含む)によっては、「鳳凰」商標が喪服地の商標として、全農の
組合員等に広く知られていたと認めることはできない。したがって、本件商標の周
知性を理由として、両商標に出所の誤認混同のおそれがないということはできな
い。
 また、商標法4条1項11号は、現実の使用を前提とした具体的な出所の混同を
防止するものではなく、一般的な出所の混同を防止することを立法趣旨とするもの
であるから、本件商標の登録査定時にこれと類似する先願・先登録商標が存在して
いれば、当然、登録を受けることはできないものである。
 2 取消事由2(商標法4条1項11号の解釈・適用の誤り)について 
 本件決定が、商標法4条1項11号の適用の判断時を査定時であるとし、この前
提に立って、本件商標登録を取り消す決定をしたことに誤りはない。
 誤ってなされた商標登録が、異議の決定により取り消されることは、異議制度自
体が予定していることであり、本件商標登録が取り消されることによる結果の不当
をいう原告の主張は当たらない。
第5 当裁判所の判断
 1 本件商標及び引用商標について
 (1) 本件商標が、「鳳凰」の文字を横書きしてなり、その構成を別紙2のと
おりとするものであること、平成8年12月27日に商標登録出願され、平成10
年7月3日に第24類「織物(畳べり地を除く。)」を指定商品として登録査定を
受け、同年9月18日に商標登録第4188268号として登録されたことは争い
がない。
 (2)また、証拠(甲第7号証の2、3、甲第9号証の4及び甲第10、第11
号証)及び弁論の全趣旨によれば、引用商標は、「宝桜」の文字を縦書きしてなる
別紙3に示す構成のものであり、旧々第30類「織物」を指定商品として同36年
6月1日に設定登録され、その後2回にわたり商標権存続期間の更新登録がなされ
たが、不使用による商標登録取消審判の審決(審決日平成12年4月27日)の確
定により、予告登録日である平成11年9月16日に遡って商標権が消滅したもの
とみなされ、平成12年8月9日に商標権の抹消登録がなされたものであること、
引用商標の商標権者である柴田鉱株式会社は、平成7年1月13日名古屋地方裁判
所の破産宣告を受け、平成8年6月1日に平成2年法律第64号附則第6条第1項
の規定により解散したものとみなされ、同月3日にその旨の登記がなされているこ
と、以上の事実が認められる。
 2 本件商標と引用商標の類否
 (1)両商標の外観、観念及び称呼について  
   ア 本件商標「鳳凰」と引用商標「宝桜」とは、外観が明らかに相違する
(争いがない。)。
   イ 両商標から生ずる観念についてみると、本件商標の「鳳凰」は、古来中
国で尊ばれた想像上の瑞鳥の名称であることが広く知られている「鳳凰」の観念を
生じさせ、その字体とあいまって古典的な印象が強い。一方、引用商標の「宝桜」
からは、宝物、金銀宝石等をイメージさせる「宝」の文字と日本の代表的な花であ
る「桜」の文字との組み合わせから、全体として華やかで美しい「桜」のイメージ
ないし連想が生じるものと認められる。したがって、両商標から生じる観念を比較
すると、両者は観念において相違するというべきである。
 被告は、造語である「宝桜」から特定の観念が生じることはなく、両商標を観念
において比較することはできないと主張するが、成語として熟していない造語であ
っても、「宝」と「桜」はそれぞれ前記認定のとおりの観念ないしイメージを直ち
に想起させる文字であるということができる。そして、両文字を組み合わせること
によって各文字から想起される観念が互いにうち消し合い、特定の観念を生じさせ
ないことになるとみるべき事情も認められないから、「宝桜」からは上記認定のと
おり華やかで美しい「桜」のイメージないし「桜」に関連づけられた観念が生じる
というべきである。
 ウ 本件商標の称呼が「ホウオウ」であることは明らかであるのに対し、引用商
標の「宝桜」は、辞書等に熟語としてその用例が見当たらず、一般に用いられるこ
とのない造語であると認められるところ、一般的になじみの深い「宝」と「桜」の
文字からなる造語の読み方としては、訓読みで「タカラザ(サ)クラ」と読むこと
は極めて自然であるが、音読みで「ホウオウ」と読むこともまた自然な読み方とし
てあり得るから、引用商標「宝桜」からは、「タカラザ(サ)クラ」、「ホウオ
ウ」のいずれの称呼も生じると考えられる。原告が主張するように、「宝桜」が
「タカラザ(サ)クラ」とのみ称呼されるものと認めるべき事情は認められない。
 してみると、両商標は、称呼において共通するものを含むものと認められる。
 (2)誤認混同のおそれの有無
 一般的に、商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された
場合に、商品の出所につき誤認混同を生じるおそれがあるか否かによって決するべ
きであり、誤認混同のおそれの有無を判断するに当たっては、「そのような商品に
使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連
想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしう
る限り、その具体的取引状況に基づいて判断することを相当とする。」(最判昭和
43年2月27日・民集22巻2号399頁参照)。
 本件商標「鳳凰」と引用商標「宝桜」とを外観、観念、称呼から考察すると、上
記(1)において認定したとおり、引用商標は本件商標の称呼「ホウオウ」と同一
に称呼される場合があり得るといえるが、一方、両商標は外観において明らかに異
なっており、観念においてもそれぞれ取引者・需要者に与えるイメージないし連想
は相違しているものであり、全体的にみると、称呼において共通することがあり得
ることのみをもって、直ちに両商標が類似するものと断定することはできない。
 そこで、商品の出所の誤認混同の可能性を取引の具体的状況に基づいて判断する
という観点から本件について検討するに、甲第12号証、第14ないし第74号証
(枝番省略)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成元年ころからその商品であ
る喪服地のブランドとして本件商標と同一の「鳳凰」の標章を使用し、以来今日ま
でこれを表示した喪服地を継続して販売してきたものである(平成元年から平成1
1年6月までに約23億円以上の販売実績がある。)ことが認められる。他方、前
記1(2)認定の事実によれば、引用商標は、本件商標登録出願時(平成8年12
月27日)において、使用の実体がないことが認められる(このことは、平成11
年8月16日に請求された不使用による商標登録取消審判の審決において取消審判
請求の登録前3年以内に引用商標が使用された事実が認められないとして引用商標
の商標登録が取り消された事実によっても裏付けられる。)。また、引用商標の商
標権者である柴田鉱株式会社は平成7年1月13日名古屋地方裁判所の破産宣告を
受け、平成8年6月3日付けで解散登記がなされているものであって、その当時同
社が引用商標を使用する可能性があったとは認められず、同社から引
用商標の使用を許諾された第三者が引用商標を過去に使用し又は将来使用する可能
性があるという事情を認めるに足りる証拠もない。
 してみると、引用商標は、本件商標の登録査定時(平成10年7月3日)におい
て、既に、引用商標の正当な権利者による使用の上に形成されるべき信用を保護す
べき実体を欠く商標であったということができる。そして、引用商標がその正当な
権利者(商標権者又はこれから使用許諾を受けた者)によって使用される可能性が
ないと認められる以上、本件商標と引用商標との間には、商品の出所についての一
般的混同が生ずる可能性もまた存在しないといわざるを得ない。
 (3)類否判断の結論
 以上のとおり、前記(2)において認定、判断した諸点を総合して勘案すると、
本件商標と引用商標とは、実際の取引において互いに相紛れて商品の出所について
誤認混同を生じさせることのない非類似の商標と認めるのが相当であり、結局、本
件商標は、商標法4条1項11号に該当するものではないというべきである。
 3 結論
 以上のとおりであるから、原告主張の取消事由1は理由があり、その余の取消事
由について判断するまでもなく、本件決定は取消を免れない。
 よって、本件決定を取り消すこととし、主文のとおり判断する。
 東京高等裁判所第18民事部
       裁判長裁判官  永   井   紀   昭
      裁判官  古   城   春   実
裁判官  橋   本   英   史
(別紙)
本件商標引用商標

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