弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中有罪部分を破棄する。
     本件公訴中右有罪部分に関する公訴を棄却する。
         理    由
 弁護人沖田誠の控訴趣意は本判決末尾添附の控訴趣意書に記載のとおりであるか
ら、これについて判断する。
 第一点 所論に基き本件記録及び当審において証拠調をした各書証によれば、被
告人Aに対しては、さきに昭和二五年一月二五日原審に対し被告人は(一)昭和二
四年一〇月一五日頃山梨県北巨摩郡a村b地内のB耕作の蒟蒻畑において同人所有
の蒟蒻玉約二三貫匁時価約一万二千五百円相当を窃取し、(三)同年一二月三一日
頃右同字地内のC耕作の蒟蒻畑において同人所有にかかる蒟蒻玉約六〇〇匁時価約
三百円相当を窃取したとの事実につき起訴せられ(以下同事件を第一事件と称す
る)、昭和二五年三月二八日その第二回公判期日において裁判官の被告人に対する
人定尋問に続いて検察官の起訴状の朗読が行われ、次いで弁護人沖田誠から同事件
については同年一月二七日原審より被告人に対して起訴状の謄本送達の意図に出た
と思料される書類が送達されたが同書類には謄本としての認証がないから右は起訴
状の謄本とは謂い得ず而して其他法定期間内に適式な起訴状謄本の送達がなく起訴
はその当初にさかのぼつて失効したから公訴棄却の裁判ありたい旨申立て、同年四
月一一日第三回公判期日に同弁護人から右不送達の事実立証のため右送達にかかる
実際の書類として起訴状と題する書面の提出あり公判期日は次回に続行されたが、
原審は同年五月二日第四回公判期日は法律関係取調のため変更する旨宣し、その後
同月二四日頃原審から同事件起訴の検察官に対し同事件については起訴後二箇月以
内に起訴状の謄本が送達されなかつたから、起訴はさかのぼつて効力を失つたもの
と認める旨通知したのみで、爾後全く訴訟手続上の処置をなさざること並びにその
後同年五月三一日右と全く同一犯罪事実につき更に原審に公訴が提起せられ(本
件)、同年六月二七日その第一回公判期日に弁護人沖田誠から本件はさきに被告人
に対して為された第一事件が未だ原審に係属中なるに拘らず更に提起されたもので
あるから公訴棄却ありたい旨申立てたが原審はそのまま審理を進め、その公訴事実
中前記(二)に相当する蒟蒻玉約六〇〇匁窃取の事実を有罪と認め、その他(一)
を無罪とする判決をなし、右有罪部分につき被告人から本件控訴に及んだこと並び
に第一事件につき被告人に送達された起訴状謄本と称する書面には起訴状謄本とし
ての認証を全然欠き謄本たるの形式を具備しない書面であることいずれも明白であ
る。かくの如き書面はこれを起訴状謄本というを得ないこと勿論である。従つてか
かる文書が被告人に送達されたからといつて被告人においてこの点につき責問権を
拠棄しない限り公訴提起を有効ならしむるものでないから、起訴後二箇月以内に適
式な起訴状謄本が被告人に送達されなかつたことにより第一事件はその起訴にさか
のぼつて失効したと認むべきであ<要旨>る。然るに原審は第一事件につき被告人に
送達せられた起訴状謄本なる書面が不適式なるものであつたことに気づかず
して公判を開廷し前記の如く検察官の起訴状の朗読を経て訴訟を進行せしめたので
あるから、訴訟は形式上原審に係属し訴訟関係を生じたと解すべきである。既にか
くの如く形式的訴訟係属を生じた後は刑事訴訟規則第一七六条第二項後段の検察官
に対する通知だけでは訴訟関係を終結せしむることはできない。これを終了せしむ
るには終局裁判の手続を履まなければならない。即ち刑事訴訟法第三三八条第四号
該当の場合に準じ判決を以て第一事件につき公訴棄却の判決をなすべきである。而
してその裁判の確定を待つて初めて同事件の係属は終了する。然るに、この措置に
出でず、検察官に対する右失効通知のみによつて既に係属終了と速断し、本件公訴
が第一事件係属中同一犯罪事実につき同一裁判所に重ねて提起されたものなること
に思い至らず、本件公訴を棄却せず公訴事実の実体につき審判したのは不法に公訴
を受理したもので破棄を免れない。論旨は理由がある。
 そこで、爾余の論旨に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三九七条第三七八条第
二号により原判決中本件控訴にかかる有罪部分を破棄し、而して本件は直ちに判決
することができるものと認めるから、同法第四〇〇条但書により更に判決すること
にし同法第四〇四条第三三八条第三号により本件公訴中右有罪部分に関する部分を
棄却することにして、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 佐伯顕二 判事 武田軍治 判事 真野英一)

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