弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○事実
第一当事者の求めた裁判
一請求の趣旨
被告が原告に対してなした昭和五八年四月一五日付昭和五八年度固定資産税賦課決定を取
消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
二請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二当事者の主張
一請求の原因
1被告は、原告所有にかかる別紙物件目録(一)記載の土地及び同(二)記載の家屋に
対して賦課する昭和五八年度の固定資産税額を一二万八七五〇円と決定し、昭和五八年四
月二〇日頃原告に到達した昭和五八年四月一五日付昭和五八年度固定資産税納税通知書に
より右賦課決定(以下、本件賦課決定という)を原告に通知した。
2しかし、本件賦課決定には以下に述べる違法があるから取消されるべきである。
(一)固定資産課税台帳の縦覧制限の違法
原告は、昭和五八年三月、固定資産課税台帳の縦覧期間内に所定の場所に赴き、被告に対
し固定資産課税台帳の縦覧を求めたところ、被告の命を受けた阿山町職員は備付の固定資
産課税台帳中の原告所有物件に関する部分のみを抜取り原告に示したので、原告はこれで
は閲覧であり地方税法(以下、地方税法を単に「法」という)四一五条にいう縦覧とはい
えないから他人所有物件に関する部分をも縦覧させるよう求めたが、右職員は他人所有物
件についての固定資産課税台帳を縦覧させた場合は法二二条の秘密漏えいに関する罪に該
当するので出来ない旨主張してゆずらず、その部分の縦覧を拒否し、結局原告は縦覧を制
限された。
しかし、法四一五条の縦覧の制度は、固定資産課税台帳登録の価格(評価額)が公平妥当
なものであるか否かを検討する判断資料を納税者に提供し、評価額が適正でない場合には
固定資産評価審査委員会に審査の申出をして救済を受ける機会を納税者に与えるためのも
のであつて、納税者たる原告は、他人所有物件についての固定資産課税台帳の縦覧を拒否
されると、自己所有物件の固定資産課税台帳登録価格(評価額)が公平・妥当か否かを他
人所有物件のそれと比較検討する途を塞がれることになり、その結果、固定資産課税台帳
登録事項に関する不服申立を処理するために設置された固定資産評価審査委員会に対し不
服申立(審査の申出)をすることを実質上不可能とさせられ、固定資産評価審査委員会の
制度は有名無実のものとなつてしまうから不当である。
したがつて、被告が法四一五条に従い固定資産課税台帳を関係者の縦覧に供したといい得
るためには、原告所有物件についての固定資産課税台帳のほか、少なくとも原告所有物件
の固定資産評価額の妥当性を検討するに必要な範囲内において、他人所有物件についての
固定資産課税台帳を原告に縦覧させなければならないというべきであるから、結局被告は
原告の要求した法四一五条所定の縦覧を違法に制限したものである。そして、右違法は重
大である。
なお、被告は法二二条及び地方公務員法三四条所定の秘密保持義務を根拠に他人所有物件
の固定資産課税台帳を縦覧させることはできない旨主張するが、被告が法四一五条によつ
て縦覧の義務を課せられている以上、同条に基づき原告にそれらを縦覧させた所為が右守
秘義務違反を構成するとは考えられない。また、法三四一条九号は、固定資産課税台帳と
は、土地課税台帳、土地補充課税台帳、家屋課税台帳、家屋補充課税台帳及び償却資産課
税台帳を総称する旨明記し、この固定資産課税台帳が法四一五条により縦覧に供されるの
であるから、同条により関係者の縦覧に供されるべき固定資産課税台帳は当該納税者所有
物件にかかる分のみに限定されないことは明らかである。
(二)法四〇八条所定の実地調査不実施の違法
法四〇八条は「市町村長は、固定資産評価員又は固定資産評価補助員に当該市町村所在、

固定資産の状況を毎年少なくとも一回実地に調査させなければならない」と規定してい。

にもかかわらず、被告は同条に定められた実地調査を永年実施していない違法がある。
(三)適法な固定資産課税台帳を縦覧に供しなかつた違法
被告が法四一五条に従つて関係者の縦覧に供したと主張する固定資産課税台帳は、法が定
める重要な要件を具備していないから適法な固定資産課税台帳を縦覧に供したということ
。、()、、はできないすなわち法三八一条三四三条は固定資産課税台帳の登録事項として
所有名義人死亡の場合の現に所有している者(三四三条二項後段)及び所有者所在不明の
場合の所有者とみなされる者(同条四項)を登録すべきことを定めているが、被告は右規
定に従つた固定資産課税台帳を作成していない。そのため被告作成の固定資産課税台帳に
は、別紙昭和五八年度土地課税台帳の該当欄に赤字で注記したように、
故人が納税義務者として登録されるなど実際の納税義務者が登録されていないという状態
であり、とうてい適法な固定資産課税台帳とはいえないから、たとえこれを縦覧に供した
としても適法な縦覧ということはできない。
3原告は昭和五八年六月一三日本件賦課決定につき異議申立をしたが、被告は同月二〇
日右異議申立を棄却する旨の決定をし、同日付決定書をもつて原告に通知した。
4よつて、原告は違法な本件賦課決定の取消を求める。
二請求の原因に対する認否
1請求の原因1及び3の事実は認める。
、、2請求の原因2の事実のうち原告が昭和五八年度固定資産課税台帳の縦覧を求めた際
原告所有物件の固定資産課税台帳についてはこれに応じたが、原告及び原告の妻所有物件
以外の固定資産課税台帳については法二二条の秘密漏えいに関する罪に該当すること等を
理由としてこれを拒否して縦覧を制限したことは認める。その余は争う。
三被告の主張
1固定資産課税台帳の縦覧について
(一)被告は土地課税台帳及び家屋課税(補充)台帳を昭和五八年三月一日から同月二
二日まで阿山町役場税務課において縦覧に供したが、原告が右固定資産課税台帳の縦覧を
求めた際、原告及び原告の妻所有の固定資産に関する部分についてはこれに応じ、それ以
、。、外の部分についてはこれを拒否して縦覧を制限したがこの措置に違法はないすなわち
法四一五条は市町村長は毎年一定の期間固定資産課税台帳をその指定する場所において関
係者の縦覧に供しなければならないと規定しているが、他方、法二二条には地方税事務従
事者が事務に関して知り得た秘密を漏えいした場合には処罰される旨、また地方公務員法
三四条には地方公務員に守秘義務がある旨各規定されており、固定資産課税台帳に登録さ
れている固定資産の価格(評価額)などは他人に知られると本人の不利益となることが予
想されるものであり、法二二条及び地方公務員法三四条にいう秘密に該当すると認められ
るから、これら諸規定を総合して考えると、法四一五条にいう固定資産課税台帳を縦覧す
ることができる「関係者」とは、納税義務者本人、納税義務者の同意または委任を受けた
者、納税管理人等に限定される(これらに該当しない一般納税義務者は右関係者には含ま
)。、。れないと解すべきであるしたがつて被告の右措置は適法かつ妥当というべきである
なお、
法四一五条一項にいう固定資産課税台帳とは、本来、個々の土地・家屋ごとに作成された
、。それぞれの一葉ごとを指すものでありそれらを編てつした簿冊を意味するものではない
(二)仮に、原告主張のとおり法四一五条にいう関係者に一般の固定資産税納税義務者
が含まれるとしても、以下に述べるとおり、被告は実質上原告及び原告の妻以外の者の所
有物件についての固定資産課税台帳を原告に縦覧させたと同視すべき措置をとつているか
ら、本件賦課決定に違法はない。
すなわち、法三八八条は「自治大臣は、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及
び手続(以下「固定資産評価基準」という)を定め、これを告示しなければならない」、

定め、自治大臣は同条に基づき自治省告示第一五八号をもつて詳細に固定資産評価基準を
定めており、被告は右自治省告示に定められた固定資産評価基準に従つて適法に固定資産
、、の評価を実施しているが土地については固定資産評価基準に従い状況類似地区を区分し
状況類似地区ごとに標準地を選定し、標準地の評価額を基準にして各個別の課税対象土地
の評価額を決定しており、右基準とされた標準地を地図上に表示した標準地図面を作成す
るとともに、各標準地の評価額を一覧表にした標準地一覧表を作成している。昭和五八年
三月一一日、原告が昭和五八年度固定資産課税台帳の縦覧を求めた際、応対した阿山町職
員は、原告関係分の固定資産課税台帳を示し、縦覧は本人及び関係者所有のものに限られ
る旨説明したところ、原告がそれならば名寄帳を見せて欲しいと申し出たので、原告関係
分の土地家屋名寄帳を示すとともに、原告所有土地の評価額決定の基準とされた標準地を
地図上に表示した標準地図面及び標準地の評価額を記載した標準地一覧表を示し「評価、
額の公正妥当の判断はこの標準地図面と標準地一覧表によつて行つてもらいたい。家屋に
ついてどうしても他人の物件と比較したいのであれば同時期建築の同程度のものを指定さ
れればそのものに限り見せるのでそれを指摘されたい旨説明したところが原告は法」。、「
四一五条に定められた縦覧はそのようなものではなく自由に誰のものでも見られるという
ことだ。これでは縦覧とはいえない」などと言つて、右原告関係分の固定資産課税台帳、
土地家屋名寄帳は見たものの、右標準地図面及び標準地一覧表を見ようともせず、
また同時期建築の同程度の家屋の指定もしなかつた。以上のとおり、被告は原告に対し原
告所有の固定資産の評価額(固定資産課税台帳登録価格)が公正妥当な額であるか否かを
検討するに必要にして十分な資料を提供したのであるから、右資料の提供をもつて原告及
び原告の妻以外の者の所有する物件についての固定資産課税台帳を原告に縦覧させたと同
視すべきである。
2実地調査について
法四〇八条は訓示規定と解すべきであり、実地調査が実施されていないからといつて、そ
のことが本件賦課決定の取消事由になることはない。ちなみに、被告は昭和五八年度にお
いて阿山町固定資産評価員に本件賦課決定の対象とされた土地及び家屋につき実地調査を
させた。
3固定資産課税台帳の記載について
本件賦課決定は、賦課期日である昭和五八年一月一日現在において原告の所有に属した別
紙物件目録(一)記載の土地及び同(二)記載の家屋に対し賦課したものであり、これら
の土地及び家屋はすべて右賦課期日において原告名義で登記または登録されており、法三
四三条二項後段、四項の問題が生ずる余地はない。原告の指摘する事例は、本件賦課決定
とは関係のない物件に関するもので、仮にそこは何らかの問題があるとしても、本件賦課
決定の取消事由となるものではない。なお、原告指摘のA名義の<地名略>畑一九平方メ
ートルは、第三者の所有であり、原告とは関係がないので、固定資産課税台帳上原告所有
のものとして登録されていないのであり、当然本件賦課決定とは無関係である。
4本件賦課決定
昭和五八年度固定資産課税台帳には、原告所有の別紙物件目録(一)記載の土地について
は乙第九号証のとおり登録され、同(二)記載の家屋については乙第一〇号証のとおり登
録されていたところ、原告は右固定資産課税台帳に登録された事項につき昭和五八年三月
一日から同年四月一日までの審査申出期間内に固定資産評価審査委員会に審査の申出をし
なかつたから、本件賦課決定取消訴訟においては課税標準たる当該固定資産の価格の当不
当を争うことは許されない(法四三四条二項。そして、右のとおり確定された原告所有)

地の課税標準額の合計額は三五四万一五三〇円、家屋のそれの合計額は五六五万六一五一
円、それらの合計額は九一九万七六八一円となり、
法二〇条の四の二第一項により一〇〇〇円未満を切り捨てた九一九万七〇〇〇円に対し一
〇〇分の一・四の税率(法三五〇条、阿山町税条例(昭和四〇年一〇月二〇日条例第二〇
号)六二条)を乗じると一二万八七五八円になるところ、法二〇条の四の二第三項により
一〇円未満を切り捨てた一二万八七五〇円が年税額となるから、被告はこれを四期に分け
て甲第一号証(納税通知書)により原告に納税通知したのである(同条例六七条一項、法
)。二〇条の四の二第六項により一〇〇円未満の端数は最初の納期限に係る分割金額に合算
以上のとおり、本件賦課決定は地方税法及び阿山町税条例に則つてなされた適法にして妥
当なものであり、何らの取消事由も存しないものである。
第三証拠(省略)
○理由
一請求の原因1(本件賦課決定)及び同3(原告の異議の申立てとこれに対する被告の
棄却決定)の事実は、当事者間に争いがない。
二そこで、本件賦課決定に原告主張の違法が存するか否かについて判断する。
1固定資産課税台帳縦覧制限の違法主張について
(一)原告が、固定資産課税台帳の縦覧期間内に所定の場所に赴き、被告に対し昭和五
八年度固定資産課税台帳の縦覧を求めた際、被告は原告所有物件の固定資産課税台帳につ
いてはこれに応じたが、原告及び原告の妻所有物件以外の固定資産課税台帳については法
二二条所定の秘密漏えいに関する罪に該当すること等を理由としてこれを拒否し縦覧を制
限したことは、当事者間に争いがない。
そして、原本の存在・成立に争いのない甲第六号証、第七号証、成立に争いのない乙第六
号証、第七号証の一、二、第八号証の一ないし三、第九号証、第一〇号証、証人B及び同
Cの各証言並びに弁論の全趣旨を総合すると、被告は、法三八八条に基づき自治大臣が定
め、告示した自治省告示第一五八号固定資産評価基準に従つて固定資産の評価を実施して
いるが、右評価に際し状況類似地区ごとに選定された標準地を地図上に表示した標準地図
面及び各標準地の評価額を一覧表にした標準地一覧表を作成していること、原告が右のと
おり昭和五八年度固定資産課税台帳の縦覧を求めた際、阿山町総務部税務課税政係長B及
び同課課長Cは、原告及び原告の妻所有物件以外の固定資産課税台帳を原告の縦覧に供す
ることを拒否したけれども、右縦覧に代わる措置として、標準地図面及び標準地一覧表を
示し、
「原告所有土地の評価額についての適否の判断は標準地図面と標準地一覧表によつて行つ
てもらいたい。また原告所有家屋の評価額についての適否の判断のため他人所有家屋の固
定資産課税台帳を見る必要があるのであれば、ほぼ同時期建築の同程度のものを指定され
ればそのものに限り見せるのでそれを指摘されたい」旨申出たが、原告は法四一五条所定
の縦覧は固定資産課税台帳全部を自由に見ることができることである旨主張して右申出に
とり合わず、標準地図面及び標準地一覧表を見ようともせず、また同時期建築同程度の家
屋も指定しなかつたこと、原告は基準年度である昭和五七年にその所有にかかる固定資産
税課税対象物件全部の固定資産課税台帳登録価格(評価額)に不服があるとして阿山町固
定資産評価審査委員会に対し所定の期間内に審査の申出をしたところ、同委員会は審査対
象物件のうち土地一筆の価格について五七一円の減額を認めたのみで、その余の土地二七
筆と家屋全部については右審査申出を棄却したことを認めることができる。
()()二固定資産税は当該固定資産について固定資産課税台帳に登録された価格評価額
を課税標準とし、同台帳に登録された所有者を納税義務者として賦課するものであり、そ
れに伴い、市町村は、固定資産の状況及び固定資産の課税標準である固定資産の価格を明
らかにするため、固定資産課税台帳を備えなければならず(法三八〇条、市町村長は、)

、、定資産評価員の作成した評価調査に基づき自治大臣の定める固定資産評価基準によつて
(、、)、固定資産の価格等を毎年二月末日までに決定し法四〇九条四〇三条一項四一〇条
直ちに当該固定資産の価格等を固定資産課税台帳に登録しなければならないとされている
(。、、()法四一一条一項なお土地及び家屋についてはいわゆるみなし登録価格の据置き
制度がとられており、第二年度及び第三年度においては原則として改めて価格の登録の手
続をすることなく、基準年度の価格をもつて登録された価格とみなされる。そして、市)

村長は、毎年三月一日から同月二〇日までの間、固定資産課税台帳をその指定する場所に
おいて関係者の縦覧に供しなければならず(法四一五条、固定資産税の納税者は固定資)

の価格(評価額)等固定資産課税台帳に登録された事項(但し、土地・建物登記簿に登記
された事項等を除く)について不服がある場合には、
縦覧期間の初日からその末日一〇日までの間に、固定資産評価審査委員会に審査の申出を
することができ(法四三二条、同委員会の決定に不服があるときは、その取消しの訴え)

裁判所に提起することができるが(法四三四条一項、固定資産の価格(評価額)等固定)

産課税台帳に登録された事項で固定資産評価審査委員会に不服申立てができるものについ
ては、納税者は右審査申出及び訴提起の手続によつてのみ争うことができ(法四三四条二
項、本訴の如き固定資産税の賦課についての不服申立てにおいては、右事項を不服の理)

とすることができないものとされている(法四三二条三項。)
以上の如き固定資産税課税標準額の確定に関する法制度、及び法四一五条一項の規定にお
いて、一般に「思うままに自由に見ること」を意味する「縦覧」という文言が使用されて
いる(法四三三条五項の「閲覧」とは明確に用語上区別されて使用されている)事実に照
らして考えると、法四一五条が毎年一定期間に固定資産課税台帳を納税者の縦覧に供しな
ければならない旨規定した趣旨は、固定資産税の納税者となるべき者に市町村長が決定し
た固定資産の評価額(固定資産課税台帳に登録された価格)等を税賦課決定前に知らせ、
その評価額等が他の納税者の場合等と比較して公平妥当な額であるか否かを検討し、その
評価額等に不服のある場合には固定資産評価審査委員会に対し審査の申出をすることがで
きる機会を与えることにあると解されるから、納税者が右規定によつて縦覧することので
きる課税台帳の範囲は、自己の所有する固定資産に関する部分のみならず、自己の所有す
る固定資産の評価が適正妥当に行なわれているか否かを検討するために合理的に必要と認
められる限度において他人所有の固定資産に関する部分をも含むと解するのが相当であ
る。
法四一五条所定の縦覧が右のとおりと解される以上、被告のなした前記縦覧制限は同条に
違反するといわざるをえない。しかし、結局のところ同条所定の縦覧制度の最終目的が固
定資産課税台帳登録事項について固定資産評価審査委員会に対し審査の申出をする機会を
納税者に与えることであると考えられること、及び同委員会に審査申出ができる同台帳登
録事項の違法ないし瑕疵を理由として、その後になされる固定資産税の賦課決定処分の取
消を求めることができない制度になつていることに鑑みると、
自己所有物件の固定資産課税台帳の縦覧を拒否された場合等、違法な縦覧手続によつて納
税者が同委員会に対する審査申立権を侵害された場合を除いては、縦覧手続の瑕疵を理由
に固定資産税の賦課決定処分の取消を求めることはできないと解さざるをえない。これを
本件についてみるに、原告は自己所有物件に関する固定資産課税台帳を縦覧してその登録
価格(評価額)等を知ることができたのであるから、それだけでも自己所有物件の登録価
格等について一応の検討を行い、固定資産評価審査委員会に対し審査の申出をすべきかど
うかを決定することができたこと、さらに原告は、被告側が縦覧に代る措置として提供し
、、た土地については標準地図面と標準地の価格を記載した標準地一覧表を見ることにより
家屋については同時期建築同程度の家屋を指定してその固定資産課税台帳を見ることによ
り、自己所有物件の登録価格等の適否について比較検討を行い、固定資産評価審査委員会
に対し審査の申出をすべきかどうかを決定することができたこと、同委員会に対し審査申
出をすれば、同委員会において必要な調査、口頭審理その他事実調査が行われ、その手続
中において合理的に必要な範囲で当該固定資産の評価等の根拠、方法等が明示されること
になつており(法四三〇条、四三三条、原告は前年に審査手続を経験したことによりそ)

ことは熟知していたこと等の諸事情に照らして考えると、原告は被告の右縦覧制限により
同委員会に対する不服申立権を侵害されたと認めることはできないから、原告は右縦覧制
限の違法を理由に本件賦課決定の取消を求めることはできないといわざるをえない(な。
お、法四一七条は、縦覧に供した後に登録漏れ等が発見された場合には、直ちに固定資産
課税台帳に登録された類似の固定資産価格と均衡を失しないように価格等を決定して固定
資産課税台帳に登録し、その旨を当該納税義務者に通知しなければならない旨規定し、そ
の通知を受けた納税義務者がそれに不服があるときは三〇日以内に固定資産評価審査委員
会に審査の申出をすることができるが(法四三二条、この場合には納税者は右決定価格)

が他の納税者の場合と比較して公平妥当な額であるか否かを検討するために他人所有物件
に関する固定資産課税台帳を縦覧することはできないけれども、三〇日以内に審査の申出
をしないで右決定が確定すると、右決定の違法を理由として、
その後になされる固定資産税の賦課決定処分の取消を求めることができなくなることに照
して考えても、前記縦覧制限の違法を理由に本件賦課決定の取消を求めることができない
旨の右結論が不合理でないことは明らかである)。
2法四〇八条所定の実地調査不実施の違法主張について
法四〇八条は「市町村長は、固定資産評価貝又は固定資産評価補助員に当該市町村の固、

資産の状況を毎年少なくとも一回実地に調査させなければならない」と規定しているこ。

は原告指摘のとおりであるが、右規定は固定資産課税台帳に適正な価格等を登録するため
に実地調査を命じているものであるから、実地調査不実施の瑕疵は固定資産課税台帳登録
事項に関する不服申立手続において主張することができる場合があるにしても、同台帳登
録事項に関する瑕疵を固定資産税賦課についての不服申立てにおいて不服の理由とするこ
とができない以上、右瑕疵を理由に本件賦課決定の取消を求めることはできないというべ
きである。
3適法な固定資産課税台帳を縦覧に供しなかつた違法主張について
原告は、被告作成の固定資産課税台帳は法が定める重要な要件を具備していないから適法
、()な固定資産課税台帳を縦覧に供したとはいえない旨主張するが原告が請求の原因2三
において不適法な固定資産課税台帳として指摘するものはすべて本件賦課決定の対象とさ
れた固定資産とは無関係のものであるし、前記1(一)後段冒頭掲記の各証拠及び弁論の
全趣旨を総合すると、本件賦課決定の対象とされた原告所有物件の固定資産課税台帳は適
法に記載されており、何ら違法はないと認められるから、仮に固定資産課税台帳の原告指
摘部分に原告主張の如き瑕疵があるとしても、原告はそれを理由に本件賦課決定の取消を
求めることはできないというべきである。
三本件賦課決定
前記二1(一)後段冒頭掲記の各証拠、成立に争いのない乙第一一号証の一ないし三及び
弁論の全趣旨によると、昭和五八年度固定資産課税台帳には、原告所有の別紙物件目録
(一)
記載の土地については乙第九号証のとおり登録され、同(二)記載の家屋については乙第
一〇号証のとおり登録されていたこと、原告は右固定資産課税台帳に登録された事項につ
き昭和五八年三月一日から同年四月一日までの審査申出期間内に固定資産評価審査委員会
に審査の申出をしなかつたから、
課税標準たる当該固定資産価格は右登録のとおり確定したこと、右確定された原告所有土
地の課税標準額の合計額は三五四万一五三〇円、家屋のそれの合計額は五六五万六一五一
円、それらの合計額は九一九万七六八一円となり、法二〇条の四〇二第一項により一〇〇
〇円未満を切り捨てた九一九万七〇〇〇円に対し一〇〇分の一・四の税率(法三五〇条、
阿山町税条例(昭和四〇年一〇月二〇日条例第二〇号)六二条)を乗じると一二万八七五
八円になるところ、法二〇条の四の二第三項により一〇円未満を切り捨てた一二万八七五
〇円が年税額となるから、被告はこれを四期に分けて甲第一号証(納税通知書)により原
告に納税通知(同条例六七条一項、法二〇条の四の二第六項により一〇〇円未満の端数は
最初の納期限に係る分割金額に合算)したことを認めることができ、本件賦課決定に違法
の点はないと認められる。
四よつて、原告の本件請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用について行政事件
訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官庵前重和下澤悦夫鬼頭清貴)
物件目録(一(二(省略))、)

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