弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人江村高行、同豊田悌助、同工藤舜達の上告理由について。
 「弁護士法第五条第三号に規定する大学を定める法律」(以下大学指定法と称す
る。)は、弁護士資格者の特例として弁護士法五条三号に掲げる大学の学部等にお
ける法律学の教授または助教授として在職五年以上の者につき、その在職した大学
を旧大学令による大学(以下旧制大学と称する。)のほか、学校教育法による大学
(以下新制大学と称する。)については、「法律学を研究する大学院」を設けてい
るものに限つている。新制大学について特にこのような条件を付したのは、新制大
学でも「法律学を研究する大学院」を附置しているほどのものは、法律学研究施設
も充実し、旧制大学で法律専攻の学部等をもつものに比して遜色のないものとみた
ものと解される。すなわち、いわゆる「法律学を研究する大学院」は新制大学につ
いて、それが法律学の研究施設として十分充実していることを認める基準なのであ
る。
 ところで、学校教育法によれば、大学院は、数個または一個の研究科をもつて構
成され(同法六六条参照)、その研究科の課程の修了者には博士または修士の学位
が授与されるものであるから(同法六八条および学位規則参照)、「法律学を研究
する大学院」とは、実際においては、その名称はともかく、実体が法律学またはそ
の特定部門(例えば公法学、私法学、民事法、刑事法)の研究を目的とする研究科
が設けられ、その所定の課程の修了者には、法学博士または法学修士の学位が授与
できるような大学院がこれにあたるわけである。これを、法学研究科を設けた大学
院といわずして、きわめて抽象的に「法律学を研究する大学院」と称したのは、そ
のような実質をもつ研究科でも、大学によりその構成、名称等が区々となることを
予想したためと推測される。されば、原判決が、これを解して、その実体が法律学
の研究を目的としているというに値する大学院、または主として法律学を研究して
いるといえるような大学院とし、本件D大学の大学院商学研究科は、若干の法律学
関係の科目を設けているにしても、主として法律学の研究をしているものではなく、
商学の研究を目的とするものと認め、同大学の大学院は、大学指定法の定めたもの
にあたらないと判断したのは、相当といわなければならない。
  論旨は、弁護士法が大学の教授、助教授の在職者に弁護士資格の特例を認めた
理由は、その個人的能力にあることを強調し、その資格について在職した大学に「
法律を研究する大学院」の設置を要件とするようなことは、第二次的な意味しかな
いものといい、また大学の教授等がその専門とする法律学の分野では一般弁護士よ
り高度の知識をもつものとし、これを弁護士にしてその知識を活用させる必要を説
き、前叙のような大学指定法の解釈を、この特例を設けた立法趣旨に副わないもの
と論ずる。しかし、個人別に試験ないし考試を行なうことなくして一定の能力ある
ことを認めようとする場合に、その者の在職した施設、在職年数等を基準に採用す
ることは、決して不合理ということはできない。また弁護士資格に特例を認めた法
の趣旨は、単にその者に特殊な法律専門知識があることだけに着眼したものではな
く、少くとも弁護士法四条所定の司法修習生の修習を終えた者と同じ程度の一般的
な法律的素養にも欠けるところがないことを予定しているものと解せざるをえない。
所論をもつては、前叙大学指定法の解釈を動かすに足りない。
 論旨は、なお法が大学の法律学の教授、助教授としての在職者につき、最高裁判
所裁判官、高等裁判所長官、判事または二級検察官に任用される資格を定めるにあ
たつて、いずれも学校教育法による大学で単に大学院の附置されている大学におけ
る在職を要件とするに止まり特に「法律学を研究する大学院」の設けられた大学で
あることを要求していないこと(裁判所法四一条一項六号、四二条一項六号、同法
施行法五条、検察庁法一八条一項三号、同法施行令一条参照)をあげ、弁護士資格
がこれより厳重であるべきはずはないと論じ、また大学指定法を前叙のように狭く
解するならば、同法の適用により、新制大学の教授、助教授の職にある者は、旧制
大学のそれに比し、不合理な不利益を被ることになるものといい、さらに右解釈は
憲法二二条、一四条に違背するものと非難する。
 しかし、裁判官、検察官等の任用資格のある者でも当然に裁判官、検察官になる
ことができるものではないのに反し、弁護士資格者は、登録をうけ弁護士会に入会
することにより弁護士業務を行ないうるものであつて、法定の事由のないかぎり、
その登録も入会も拒否されることはない。してみれば、これらの資格要件の定めに
相違があるとしても、不当といえないことは原判示のとおりである。また原判決が、
挙示の証拠および弁論の全趣旨に基づき、大学指定法の立法者は「法律学を研究す
る大学院」をもつ新制大学の学部等における教授、助教授としての在職者を、旧制
大学の学部等におけるそれらの者と同等視することができるとする建前で同法を制
定したものと認定し、その扱いを理由のないことではないと判断したのは、それら
大学には、法律学の高度の専門的研究を目的とした施設が備わる点に着眼したもの
であつて、首肯できないものではない。されば、大学指定法につき前叙のような解
釈をとることが、旧制大学の学部等における法律学の教授、助教授であつた者に不
合理に利益を与えることにも、また「法律学を研究する大学院」の設けのない新制
大学の学部等におけるそれらの者に不合理に不利益を与えることになるものともい
うことはできない。
 のみならず、弁護士法が弁護士資格を、原則として司法修習生の修習を終えた者
に限つたのは、弁護士の職務内容が国の裁判制度と不可分の関係にあり、その公職
的性格が顕著であることによるものであることはいうまでもないが、同法によれば、
一定の欠格事由ないし登録進達拒絶事由のないかぎり、何人でも右の課程を終える
ことにより均しく弁護士となることができるのである。このような弁護士資格につ
いての一般的な規制を正当なものと認めうるかぎり、それ以外に弁護士資格の特例
を設くべきかどうか、また設けるとすればいかなる基準をもつてすべきかは、立法
者の裁量に属する国の弁護士制度についての政策上の問題である。前叙のように一
般的に弁護士となるみちが開かれている以上、所論のような基本的人的の侵害を生
ずる余地のないことは明白であり、論旨は、ひつきよう違憲に名を藉りて大学指定
法の解釈を争うものにほかならない。
 論旨は、すべて採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外
            裁判官    色   川   幸 太 郎

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