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令和3年1月19日判決言渡
令和2年(行ケ)第10101号審決取消請求事件
口頭弁論終結日令和2年12月9日
判決
原告有限会社翼石材
訴訟代理人弁理士中井博
同岡本茂樹
同洲崎竜弥10
被告特許庁長官
指定代理人庄司美和
同冨澤美加
同石塚利恵15
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求20
特許庁が不服2019-6143号事件について令和2年7月13日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯等
⑴原告は,平成29年11月17日,「庵治石工衆」の文字を標準文字で表25
してなる商標(以下「本願商標」という。)について,指定役務を第40類
「石材の加工,墓石・石塔・石碑・石製彫刻の加工,石材の加工及びこれに
関する情報の提供,石材に関する情報の提供,墓石・石塔・石碑・石製彫刻
に関する情報の提供」とする商標登録出願(商願2017-151531号。
以下「本件出願」という。)をした(甲1)。
⑵原告は,平成31年2月8日付けの拒絶査定を受けたため(甲3),令和5
元年5月13日,拒絶査定不服審判を請求した(甲4)。
特許庁は,上記請求を不服2019-6143号事件として審理を行い,
令和2年7月13日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以
下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月30日,原告に送達され
た。10
⑶原告は,令和2年8月27日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起
した。
2本件審決の理由の要旨
本件審決の理由の要旨は,①讃岐石材加工協同組合,庵治石開発協同組合及
び協同組合庵治石振興会(以下,併せて「引用商標権者」という。)は,別紙15
記載のとおり,その業務に係る表示として「庵治石」の文字を標準文字で表し
てなる地域団体商標(商標登録第5030818号,甲2,乙1。以下「引用
商標」という。)を有しているところ,「庵治石」の文字は,「アジイシ」と
称呼され,「香川県高松市庵治町・牟礼町産の花崗岩」の観念を生じるもので
あるとともに,引用商標権者に係る香川県高松市庵治町・牟礼町において産出20
された墓用・石碑用石材・自然石を使用してなる庭石,並びに香川県高松市庵
治町・牟礼町において産出された石材を使用し,同町で加工された灯ろう・墓
石・墓標及び墓碑用銘板・石製彫刻に関する地域ブランドの観念をも生じるも
のとして,本願商標の登録出願日の時点において,本願商標の指定役務の取引
者,需要者の間に広く認識されて,一定の周知性を有していたものであって,25
その周知性は,現在においても継続している,②本願商標と引用商標とは,外
観について本願商標が引用商標と同一の「庵治石」の文字部分を語頭に含み,
称呼について本願商標が引用商標の「アジイシ」との称呼を語頭に含み,観念
について,本願商標が「庵治石」を用いた役務その他の「庵治石」と何らかの
関連性をもつ役務との意味合いを生じるから,外観,称呼及び観念のいずれの
点においても相紛らわしい点を含むなど両者の類似度は相当程度高いこと,引5
用商標が本願商標の指定役務の取引者,需要者間において広く認識されている
一定の周知性を有する商標であること,本願商標の指定役務と引用商標の指定
商品とは,密接な関連性を有するとともに,取引者,需要者を相当程度で共通
にするものであること,本願商標の指定役務の需要者において普通に払われる
注意力が殊更に高いものであるとまではいえないこと等を総合的に考慮すれば,10
本願商標をその指定役務に使用した場合は,これに接した取引者,需要者に対
し,引用商標権者の業務に係る「庵治石」の表示を連想させて,当該役務が引
用商標権者又はその構成員との間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による
商品役務化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る役務で
あると誤信され,役務の出所につき誤認を生じさせるおそれがあるから,本願15
商標は,商標法4条1項15号に該当するというものである。
第3当事者の主張
取消事由(商標法4条1項15号該当性判断の誤りの存否)に係る当事者の主
張は,次のとおりである
1原告の主張20
⑴引用商標の周知性に係る認定の誤り
ア本件審決は,「庵治石」の文字は,引用商標権者に係る「香川県高松市
庵治町・牟礼町において産出された墓用・石碑用石材・自然石を使用して
なる庭石,並びに香川県高松市庵治町・牟礼町において産出された石材を
使用し同町で加工された灯ろう・墓石・墓標及び墓碑用銘板・石製彫刻に25
関する地域ブランド」として,取引者,需要者の間に広く認識されていた
旨を認定する。
しかしながら,下記イのとおり,「庵治石」の文字は,引用商標権者が
それを商標として使用をするよりも前から,「香川県庵治町産の石」及び
「香川県庵治町産の石を加工して製作された石塔・墓石等」を表示するも
のとして我が国において広く知られていたものであり,地域の名称である5
「庵治」と,引用商標権者の業務に係る商品の普通名称又は慣用名称であ
る「石」とが結合されたものではなく,例えば商品の普通名称である「薩
摩芋(さつまいも)」と同様に,「庵治石」全体として石材の一種を示す
普通名称であって,石材関連の商品及び役務との関係において自他商品役
務識別機能及び出所表示機能を有しない語を示す。10
したがって,引用商標が引用商標権者の業務を想起させるものとして周
知性を有することはない。
イ広辞苑第三版(昭和58年,甲26),広辞苑第六版(2008,甲8),
広辞苑第七版(2018,甲9),大辞林第三版(2006,甲10,乙
2),大辞泉第二版(2012,甲11,乙3)などの「庵治石」の項の15
記載に加えて,「岡山縣金石史」(1930年,甲33)における「苫田
郡院荘村大字院庄構城阯出土の永正六年(1509年)三月十四日月窓
常心禪定門石塔」の石質が「庵治石」であるとの記載,「日本石材工業新
聞」(1958年9月15日,甲27)の「…庵治石は銘石として天下に
知られている。」との記載,「庵治町史」(1974,甲34)における20
「庵治石」の記述,1987年8月11日付け中日新聞朝刊(甲35)の
「庵治石の産地,香川県木田郡庵治町に生まれ,子供のころから彫刻家を
夢見ていた。」との記載,1987年12月1日付け読売新聞東京朝刊(甲
36)の「大阪府高槻市に本社のある丸大食品…では,創業者の前社長の
三周忌と創立二十五周年とを兼ねて,五十八年六月,ここに供養塔を建て25
た。…墓石としては最高品質の庵治石(あじいし)製の五輪塔を中央に建
て…」との記載,1989年9月2日付け朝日新聞大阪朝刊(甲37)の
「花博に彩り,お国自慢…」との見出しの記事における「…大谷石(栃木),
那智黒石(和歌山),庵治石(香川)など特産の石を配した庭園やチュー
リップ(新潟)…」との記載,1997年5月18日付け中国新聞中国朝
刊(甲38)の「庵治(あじ)石とは,香川県庵治,牟礼の両町で産出す5
る石をいう。」との記載,2016年4月15日付け読売新聞東京朝刊(甲
15)の「墓石は,名石として知られる香川県特産の庵治石(あじいし)
を使用した。」との記載,2016年2月23日付け朝日新聞香川朝刊(甲
16)の「庵治(あじ)石は日本が誇る銘石です。その歴史は古く,はる
か平安時代にまでさかのぼるとされます。」との記載によると,「庵治石」10
の文字は,我が国において古くから「香川県庵治町産の石」及び「香川県
庵治町産の石を加工して製作された石塔・墓石等」を表示するものとされ
ていたものである。
また,「石塔工芸」(1980,甲28)の京都府内に事業所を有する
石材店に係る「庵治石の高級石塔を大量に売る店として,ここ一〇年急速15
に成長し,注目を集めている。」との記載,「石塔工芸」(1981,甲
29)の東京都内に事業所を有する石材店に係る「同店の受注は本小松石
が多く,次いで庵治石。」との記載,「石塔工芸」(1981,甲30)
の広島県内に事業所をおく石材店に係る「その土台には尾道石を使い,上
部は,大島石(八〇%)と庵治石(二〇%)を用いている。」との記載,20
「月刊石材」(2000年7月,甲31)の栃木県内に事業所をおく石材
店に係る「…『国産石』の紹介,例えば『庵治石』や『本小松』など。」,
「同社が『庵治石』や『本小松』をPRし始めてから,他社でもそれらの
国産石が売れ始めた…」との記載,「月刊石材」(2000年10月,甲
32)における京都府内に事業所を有する石材店が庵治石を用いた水子観25
音の受注・デザイン制作を担当した旨の記載によると,「庵治石」は,高
品質の石として注目され香川県外の事業者によって加工,販売されてきた
ものである。
⑵出所の混同のおそれに係る判断の誤り
ア前記⑴のとおり,「庵治石」の文字は,自他商品役務識別機能及び出所
表示機能を有しないから,本願商標の構成中に「庵」「治」「石」との連5
続した3文字があるとしても,取引者,需要者がこれを「庵治石」として
着目するとは直ちにいえない。取引者,需要者は,本願商標を「庵治石」
の産地である庵治地域を表す「庵治(アジ)」と,「石を切り出したり,
それを細工したりする職人。」(甲39)を表する「石工(イシク/セッ
コウ)」と,「ある集団を形づくる特定の人々。」(甲40)を表する「衆」10
からなるものであると認識し,取引者,需要者に対して「香川県庵治地域
において,石を切り出したり,それを細工したりする職人の集団」ほどの
観念を想起させ,「アジイシクシュウ」又は「アジセッコウシュウ」の称
呼を生じさせる。
そうすると,本願商標をその指定役務に使用しても,引用商標権者の業15
務に係る「庵治石」を連想させることはなく,当該役務が引用商標権者と
の間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品役務化事業を営む
グループに属する関係にある営業主の業務に係る役務であると誤信され,
役務の出所につき誤認を生じさせるおそれはない。
イ仮に,取引者,需要者が本願商標を「庵治石」と「工衆」とからなる商20
標であると認識するとしても,前記⑴のとおり,「庵治石」の文字には自
他商品役務識別機能及び出所表示機能がないから,本願商標の要部は「工
衆」となり,引用商標の「庵治石」とは何ら共通性がないから,本願商標
をその指定役務に使用しても,引用商標権者の業務と何らかの関係性があ
ると誤認させるものではない。25
⑶小括
以上のとおり,本願商標がその指定役務に使用された場合,需要者におい
て,引用商標権者の業務に係る役務又は引用商標権者と経済的若しくは組織
的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように,その役務
の出所について混同を生ずるおそれはないといえるから,本願商標は,商標
法4条1項15号には該当しない。5
したがって,本願商標が同号に該当するとした本件審決の判断は誤りであ
る。
2被告の主張
⑴引用商標の周知性に係る認定の誤りの主張について
「庵治石」の文字が,「香川県高松市庵治町・牟礼町産の花崗岩」(甲9)10
を意味する語として,辞書等に載録されていることは認められるものの,引
用商標権者は,昭和20年代又は昭和40年代の発足以降,庵治石の知名度
の更なる向上や庵治石製品の販路拡大等を目的とした様々な展示会やイベン
ト及び事業を開催し,普及活動のための各種事業を長年継続して実施してお
り,その模様は,新聞,雑誌等を通じて周知されているほか,展示会や小売15
店,オンラインストア等を通じて,全国において庵治石製品を販売している。
そして,引用商標権者は,平成19年に「庵治石」の文字からなる引用商標
が地域団体商標として設定登録されて以降,「庵治石®登録証」を発行する
などして,引用商標を適切に管理し,引用商標の違法使用の防止に尽力して
きたものである。20
そうすると,「庵治石」の文字が,「香川県高松市庵治町・牟礼町産の花
崗岩」の意味を有するとしても,引用商標権者の使用によって,取引者,需
要者において,引用商標「庵治石」が引用商標権者の業務を示すものとして
広く認識され,相当程度高い周知性を有するに至ったものであり,かつ,そ
の状態は,本願商標の登録出願日(平成29年11月17日)はもとより,25
現在においても継続しているというべきである。
⑵出所の混同のおそれに係る判断の誤りの主張について
ア「庵治石」の文字は,引用商標権者による長年の使用の結果,「香川県
高松市庵治町・牟礼町産の花崗岩」という観念だけでなく,「香川県高松
市庵治町・牟礼町で採掘され加工された製品に係る引用商標権者の伝統的
工芸品ないし地域ブランド」という観念をも生じさせる語である。このよ5
うな「庵治石」の周知著名性を考慮すれば,本願商標の「庵治石工衆」の
構成中,最も注目される語頭に位置し,自他商品役務識別機能を有する「庵
治石」の文字部分が,これに接する取引者,需要者の注意を強くひくとい
うべきである。そうすると,本願商標がその指定役務に使用されたときに,
本願商標に接した取引者,需要者が,強い識別力を有する「庵治石」の文10
字部分に一切注意をひかれることなく,「庵治」,「石工」及び「衆」と
いう各文字に分解して着目し,それぞれの語の意味を連結してその意味を
認識,把握する可能性は低い。
引用商標は,「庵治石」の文字を標準文字で表してなるところ,「アジ
イシ」の称呼を生じ,「香川県高松市庵治町・牟礼町産の花崗岩」の観念15
を生じるとともに,「香川県高松市庵治町・牟礼町で採掘され加工された
製品に係る引用商標権者の伝統的工芸品ないし地域ブランド」という観念
をも生じる。
本願商標の要部である「庵治石」の文字部分と引用商標とを対比すると,
いずれも標準文字で「庵治石」の文字を書してなる点で外観が同一であり,20
「アジイシ」の称呼が生じる点で称呼が同一である。そして,本願商標を
その指定役務に使用した場合は,本願商標の要部から「香川県高松市庵治
町・牟礼町産の花崗岩」という観念だけでなく,「香川県高松市庵治町・
牟礼町で採掘され加工された製品に係る引用商標権者の伝統的工芸品な
いし地域ブランド」という観念も生じるものであり,本願商標の観念は引25
用商標から生じる観念と同一である。
そうすると,本願商標と引用商標の類似性は極めて高いというべきであ
る。
イ本願商標の指定役務と引用商標の指定商品とは,商品・役務の用途や目
的,原材料,販売(提供)場所等において共通し,密接な関連性を有する
ものであって,取引者,需要者も相当程度で共通にするものといえる。そ5
して,本願商標の指定役務の需要者に含まれる一般需要者には,必ずしも
石材等について専門的な知識や経験を有するものではない者も多数含ま
れており,高度の注意力をもって役務の提供を受けるとは限らないといえ
る。
ウこのように,本願商標と引用商標との類似性が極めて高いこと,引用商10
標が引用商標権者の業務を示すものとして相当程度高い周知性を有して
いること,本願商標の指定役務は引用商標の指定商品と密接な関連性を有
し取引者,需要者が共通すること,需要者の注意力はさほど高いものとは
いえないこと等を総合的に考慮すれば,本願商標をその指定役務に使用し
た場合には,これに接する取引者,需要者は,出所識別標識としての機能15
を果たしうる要部である「庵治石」の文字部分に着目して,地域ブランド
名として周知である引用商標を連想,想起し,当該役務が引用商標権者と
の間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品役務化事業を営む
グループに属する関係にある営業主の業務に係る役務であると誤信する
から,役務の出所につき誤認を生じさせるおそれがある。20
⑶小活
以上のとおり,本願商標は,他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ず
るおそれがある商標であるから,商標法4条1項15号に該当する。
したがって,本願商標が同号に該当するとした本件審決の判断に誤りはな
い。25
第4当裁判所の判断
1認定事実
証拠(甲8ないし12,25ないし27,39,40,乙2ないし6,9な
いし12,15ないし40,42,46の1~10,47,54,55)及び
弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
⑴庵治石について5
ア庵治石(あじいし)とは,香川県高松市庵治町,牟礼町及びその周辺地
域(以下,総称して「庵治地方」という。)で採掘される良質な花崗岩で
あって,細粒均質で青灰色を呈するものであるが,水晶と同じ7度という
硬度をもちながら組成が緻密でねばりがあるため細かい加工時に破損し
にくく,かつ,吸水率が低いことから風化や変質にも強いという特性を有10
しており,最高級の墓石材と評価されている。
イ庵治地方は,古くから石材業が盛んであり,採石の歴史は,平安時代に
までさかのぼるが,本格的に採石が行われ始めたのは,天正時代(157
3年~)の大坂城・高松城築城の頃からとされており,江戸時代に高松藩
の御用丁場となったことから,石材業が急速に発展した。以降,庵治地方15
には石材加工業が集積され,現在では,岡崎(愛知県),真壁(茨城県)
と並ぶ日本三大石材産地とされている。
ウ香川県は,昭和60年に「香川県伝統的工芸品」の指定制度を設け,同
年10月,「庵治産地石製品」について,香川県伝統的工芸品の「第1次
指定品目(昭和60年度)」として指定している。20
⑵引用商標の登録に至る経緯について
ア引用商標権者のうち讃岐石材加工協同組合(乙15,乙16)は,昭和
23年4月頃に「牟礼石材加工企業組合」として発足し,昭和45年1月
に法人設立された高松市牟礼町内の協同組合であり,石材の共同購入,販
売等を事業目的とする組合員数80名の団体である。25
引用商標権者のうち庵治石開発協同組合(乙17)は,昭和22年に「庵
治石材採掘事業共同組合」として発足し,昭和39年2月に法人設立され
た高松市庵治町内の協同組合であり,組合員資格を高松市内に事業所を有
する庵治石の採掘,加工,運搬等を営む事業者とし,組合員の取り扱う石
材の共同受注等を事業目的とする組合員数36名の団体である。
引用商標権者のうち協同組合庵治石振興会(乙12,18)は,昭和45
4年2月に「庵治町珪灰対策協議会」として発足し,昭和63年5月に法
人設立された高松市庵治町内の協同組合であり,組合員資格を石材加工業
又は石材採掘業を行う組合地区内に事業所を有する者とし,組合員の取り
扱う石製品等の共同受注等を事業目的とする組合員数57名の団体であ
る。10
イ庵治地方の石材業者12社は,平成13年10月30日から11月2日
までの間に東京ビッグサイトで開催された石の総合展示会「ジャパンスト
ーンフェア・インターナショナル2001」(乙39)に製品を出展した。
上記フェアの4日間の入場者は3万8287人であり,また,讃岐石材加
工協同組合が香川県デザイン協会と共同開発した新製品(ユニット式の墓15
石)が注目された旨が2001年12月24日付け日本経済新聞(乙40)
において報道された。
ウ平成18年4月1日に地域団体商標制度が導入され,引用商標権者は,
同年5月12日に引用商標を出願し,平成19年3月9日,地域団体商標
として設定登録(甲2,乙1)を受けた。20
⑶引用商標の管理について
引用商標権者は,引用商標の設定登録後,庵治町・牟礼町内にある採掘場
から採られた庵治石を使い,鍛冶町・牟礼町内で加工された庵治石製品に対
し「庵治石®登録証」及び「庵治石®プレート」(乙22)を発行し,これ
をシリアル番号により管理しているほか,製品に「庵治石®」(乙24)の25
シールを付すこともある。
⑷引用商標の普及活動等について
ア引用商標権者は,共同で,昭和45年に庵治石を用いた製品の展示会を
庵治町内で開催し,その後,引用商標権者のうち讃岐石材加工協同組合及
び協同組合庵治石振興会が交互に主催する形で,庵治石を用いた製品の展
示会を毎年開催していたが,昭和62年からは,香川県,牟礼町,鍛冶町5
等の後援を受けるなどして,墓石や灯篭等の庵治石を用いた製品を展示,
即売する「あじストーンフェア」を高松市内のサンメッセ香川で毎年開催
しており(令和2年に予定していた50回目の開催は,新型コロナウィル
ス感染症拡大の影響を受けて中止),そのパンフレット(乙30)には,
主催者又は協賛者として引用商標権者の名称が付されており,展示即売す10
る製品は「庵治石製品」,「庵治石産地の製品」と称されていた。「あじ
ストーンフェア」は,少なくとも,1999年5月16日付け毎日新聞地
方版(乙26),2001年6月3日付け読売新聞大阪朝刊(乙27),
2007年6月10日付け毎日新聞地方版(乙28),2013年6月9
日付け毎日新聞地方版(乙29),2019年6月9日付け朝日新聞朝刊15
(乙31)に記事として取り上げられた。
イ引用商標権者のうち讃岐石材加工協同組合を含んで構成される実行委員
会は,平成17年から,毎年,牟礼町内の旧庵治街道を庵治石で作られた
石灯籠で照らして,源平合戦の史跡や町並みをライトアップする「むれ源
平石あかりロード」を実施しており,約7~8万人の見物客が訪れている。20
イベントの参加の申し込みや展示作品の購入の問い合わせ先は,引用商標
権者である讃岐石材加工協同組合となっている。「むれ源平石あかりロー
ド」は,少なくとも,2005年8月11日付け朝日新聞朝刊(乙32),
2007年8月21日付け朝日新聞朝刊(乙33),2010年8月1日
付け読売新聞大阪朝刊(乙34),2013年8月26日付け読売新聞大25
阪朝刊(乙35)に記事として取り上げられている。
ウ経済産業省特許庁は,平成20年度から同30年度までのおおよそ毎年,
地域活性化に資するべく,「地域団体商標ガイドブック」(乙46の1~
10)を発行しているところ,引用商標は,当該冊子に毎回掲載され,引
用商標の構成,権利者,指定商品が紹介され,庵治石で製作された墓石の
写真等が掲載されている。また,経済産業省特許庁は,ウェブサイト上に5
おいて,「地域団体商標登録案件」を掲載しているところ,引用商標のペ
ージ(乙9,47)では,引用商標の構成,権利者,指定商品が紹介され,
庵治石で製作された墓石の写真が掲載されている。
エ引用商標権者を実行団体とする「香川の庵治石」実行委員会は,平成2
8年2月8日及び9日,東京・丸の内の東京シティアイ・イベントスペー10
スで企画展「香川の庵治石日本の銘石と職人の手」(乙24,39)を
開催した。この企画展では石あかりやペット用墓石等,各種の庵治地方産
石製品が展示され,来場者は6500人であったが,「庵治石®」のシー
ルが貼られたサイコロが来場者にプレゼントされた。
オ平成30年11月,引用商標権者に対して新国立競技場で使用する庵治15
石50トンが発注され,引用商標権者の組合員らが庵治石を出荷した。2
020年1月7日付け読売新聞大阪朝刊香川地域面(甲12,乙42)に
は,令和元年12月21日に開催された同競技場のお披露目イベントの様
子に関して,「競技場にいた高松市の庵治石開発協同組合代表理事のAさ
ん(71)ら庵治石の業界関係者12人…は…そこに庵治石がびっしりと20
敷き詰められているのを見ると,安堵した。」,「…Aさんは3団体の組
合員に石の選別作業のボランティアを呼びかけた。」,「競技場に4か所
ある『風の庭』に,長方形状に庵治石が計約430平方メートルにわたっ
て敷き詰められていた。」との記事が掲載された。
2引用商標の周知性に係る認定の誤りの存否について25
⑴検討
前記1に認定した事実によると,「庵治石」との文字は,「香川県高松市
庵治町・牟礼町産の花崗岩」を意味するものであり,これを用いた石材又は
この石材を加工した石製品は,「庵治石(あじいし)」と呼ばれ,古くから
我が国において品質の高い石製品として広く知られており,香川県の伝統工
芸品となっていることが認められる。5
一方,引用商標権者及びその構成員を含む高松市庵治町及び牟礼町内の採
掘業者や石材業者らは,昭和20年から40年代にかけて組合を結成し,昭
和45年(1970)からは毎年,庵治石を用いた石製品の展示即売会を行
ってきており,平成19年3月9日には,地域団体商標として引用商標の設
定登録を受け,庵治石を用いた石製品に「庵治石®登録証」や「庵治石®プ10
レート」を発行したり,「庵治石®」のシールを付したりして,ブランドの
維持に努め,さらに,庵治石の知名度向上や庵治石を用いた石製品の販路拡
大等を目的とした様々な展示会やイベントを開催し,引用商標の普及活動の
ための各種事業を長年継続して現在まで実施しているところ,その模様が相
当数の来場者や新聞,雑誌等への記事掲載を通じて,相応の程度に広告され15
ている。加えて,引用商標は,地域団体商標の登録を受けていることから,
経済産業省特許庁が年1回発行する冊子及び同庁のホームページに毎回掲載
され,地域団体商標の普及事業において紹介されている。
これらの事情を考慮すると,引用商標は,本願商標の登録出願時及び本件
審判時において,「香川県高松市庵治町・牟礼町で採掘され加工された製品20
に係る引用商標権者の伝統的工芸品ないし地域ブランド」との引用商標権者
又はその構成員の業務を示すものとして,需要者の間に広く認識されており,
相当程度高い周知性を有していたものと認めるのが相当である。
⑵原告の主張について
原告は,「庵治石」の文字は「香川県庵治町産の石」及び「香川県庵治町25
産の石を加工して製作された石塔・墓石等」を表示するものとして我が国に
おいて広く知られていたものであり,全体として石材の一種を示す普通名称
であって石材関連の商品及び役務との関係において自他商品役務識別機能及
び出所表示機能を有しない語であり,そうであれば,「庵治石」を標準文字
で表してなる引用商標が引用商標権者の業務を想起させるものとして周知性
を有することはない旨を主張する。5
しかしながら,「庵治石」の文字が「香川県高松市庵治町・牟礼町産の花
崗岩」を意味すると認められることは,前記のとおりであり,原告も自認し
ているところ,「庵治石」がその本来の産地以外の産地から産出される同種
同等の石材の呼称にも用いられるなど,石材の種類を示す普通名称になった
ことを示す証拠はなく,また,庵治地方以外の業者が「庵治石」を産地を示10
すためではなく自己の商標として使用していたことを認めるに足りる証拠も
ない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
3出所の混同のおそれに係る判断の誤りの存否について
⑴検討15
前記2⑴のとおり,「庵治石」の文字は,「香川県高松市庵治町・牟礼町
産の花崗岩」を意味するが,同時に,広く知られた「香川県高松市庵治町・
牟礼町で採掘され加工された製品に係る引用商標権者の伝統的工芸品ないし
地域ブランド」をも意味し,その文字部分のみで特定の意味合いを有するよ
く知られた語であるから,本願商標の「庵治石工衆」は,「庵治石」の文字20
部分と「工衆」の文字部分とを分離して観察することが取引上不自然である
と思われるほど両者が不可分的に結合しているものとはいい難いといえる。
そして,本願商標の構成から「庵治石」の文字を除いた「工衆」の文字部分
は,辞書等に載録された成語ではなく,「ものを作ることを職とする人々」
程の意味合いを連想させるにとどまるから,本願商標の指定役務との関係で25
は出所識別標識としての機能は必ずしも強くなく,本願商標の構成中の「庵
治石」の文字部分が出所識別標識を果たし得る要部として看取されるという
べきである。
本願商標の要部である「庵治石」の文字部分と引用商標とを対比すると,
いずれも標準文字で「庵治石」の文字を書してなる点で外観が同一であり,
また,「アジイシ」の称呼が生じる点で,称呼が同一である。そして,本願5
商標をその指定役務に使用した場合は,本願商標の要部から「香川県高松市
庵治町・牟礼町産の花崗岩」という観念だけでなく,「香川県高松市庵治町・
牟礼町で採掘され加工された製品に係る引用商標権者の伝統的工芸品ないし
地域ブランド」という観念も生じるものであり,本願商標の観念は,引用商
標から生じる観念と同一である。そうすると,本願商標と引用商標の類似性10
は極めて高いというべきである。
また,本願商標の指定役務は,その加工又は情報提供の対象物を,引用商
標の指定商品を含む墓用石材や墓石等とするものであるから,本願商標の指
定役務と引用商標の指定商品とは,密接な関連性を有するとともに,取引
者,需要者も相当程度で共通にするものといえる。そして,本願商標の指定15
役務の需要者に含まれる一般需要者は,必ずしも石材等について専門的な知
識や経験を有するものではない者も含まれており,高度の注意力をもって役
務の提供を受けるとは限らない。
以上を考慮すると,本願商標をその指定役務に使用した場合には,これに
接する取引者,需要者は,出所識別標識としての機能を果たし得る要部であ20
る「庵治石」の文字部分に着目して,地域ブランド名として周知である引用
商標を連想,想起し,当該役務が引用商標権者又はその構成員との間に緊密
な営業上の関係又は同一の表示による商品役務化事業を営むグループに属す
る関係にある営業主の業務に係る役務であると誤信し,役務の出所につき誤
認を生じさせるおそれがあるものというべきである。25
そうすると,本願商標は,他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずる
おそれがある商標であるから,商標法4条1項15号に該当する。
⑵原告の主張について
原告は,①取引者,需要者は,本願商標を「庵治石」の産地である庵治地
域を表す「庵治」と「石工」及び「衆」からなるものであると認識し,取引
者,需要者に対して「香川県庵治地域において,石を切り出したり,それを5
細工したりする職人の集団」ほどの観念を想起させ「アジイシクシュウ」又
は「アジセッコウシュウ」の称呼を生じさせるから,引用商標と混同のおそ
れはない,②仮に,取引者,需要者が本願商標を「庵治石」と「工衆」とか
らなる商標であると認識するとしても,「庵治石」の文字には自他商品役務
識別機能及び出所表示機能がないから,本願商標は,引用商標と識別力のな10
い部分で共通するにすぎず,引用商標権者の業務と何らかの関係性があると
認識させるものでない旨主張する。
しかしながら,上記①の主張については,本願商標を「庵治」と「石工」
及び「衆」からなるものであると認識するのが通常であるとはいい難く,ま
た,仮に,そのような認識が生じるとしても,それと並んで,庵治石を要部15
とした前記(1)記載の観念が生じることは明らかであるし,上記②の主張の
前提が成り立たないことは,前記(1)に認定判断したとおりであるから,原
告の上記主張は,採用することができない。
⑶小括
以上のとおり,本願商標は,他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ず20
るおそれがある商標であるから,商標法4条1項15号に該当するとした本
件審決の判断に誤りはない。
4結論
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本件審決にこれ
を取り消すべき違法は認められない。25
したがって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
菅野雅之
裁判官
本吉弘行
裁判官
中村恭
(別紙)
登録第5030818号商標
庵治石5
(標準文字)
登録出願日平成18年5月12日(地域団体商標)
登録査定日平成19年2月5日
設定登録日平成19年3月9日10
更新登録日平成28年11月22日
指定商品第19類「香川県高松市庵治町・牟礼町において産出された
墓用・石碑用石材・自然石を使用してなる庭石,香川県高松
市庵治町・牟礼町において産出された石材を使用し同町で加
工された灯ろう・墓石・墓標及び墓碑用銘板・石製彫刻」15
商標権者讃岐石材加工協同組合
(高松市牟礼町牟礼2625番地18)
庵治石開発協同組合
(高松市庵治町6391番地176)
協同組合庵治石振興会20
(高松市庵治町230番地1)

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