弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を禁錮1年に処する。
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は,平成12年9月25日午前11時50分ころ,業務として大型貨物自
動車を運転し,滋賀県A郡B町C先高速自動車国道中央自動車道西宮線下り線aキロポ
スト付近道路を北方から南方に向かいD運転の普通乗用自動車に追従して進行するに
当たり,同車の動静を注視し,その安全を確認しつつ進行すべき業務上の注意義務
があるのに,これを怠り,自車コンソールボックス上の煙草を取ることに気を取ら
れ,上記D運転車両の動静を注視せず,その安全確認不十分のまま,約90キロメー
トル毎時の速度で進行した過失により,折から減速中の同車を約13.8メートル
前方の地点に認めて,急制動の措置を講じたが及ばず,同車後部に自車前部を衝突
させ,よって,上記D運転車両の同乗者E(当時35歳)に急性硬膜下血腫等の傷害
を負わせ,同年10
月4日午後10時51分ころ,同県草津市笠山7丁目6番53号所在の滋賀医科大
学医学部附属病院において,同人を前記傷害により死亡させたほか,上記D運転車両
の同乗者F(当時39歳)に加療約3か月間を要する外傷性大動脈損傷等の傷害を,
同じくG(当時32歳)に入院加療約104日間を要する骨盤骨折等の傷害を,同じ
くH(当時36歳)に加療約2か月間を要する脳挫傷の傷害をそれぞれ負わせたもの
である。
(証拠の標目)‐かっこ内は検察官請求証拠甲乙の番号
 省略
(補足説明)
 被告人は,当公判廷においては,脇見を開始した際の被告人車と前車との車間距
離は約100メートルであり,前車に接近しているのに気付いたときの車間距離が
約22.3メートルであった,その間,7,8秒も脇見をしていたことはない旨供
述しているところ,弁護人は,被告人車と前車との車間距離が約100メートルで
あったとは正確にはいえないとしても,その車間距離が約22.3メートルという
ことはなく,相当の車間距離をとっていたものであるし,被告人の脇見の時間はせ
いぜい3秒程度であり,ほとんど停止した状態の前車に急接近して追突したものと
考えられる旨主張する。
 しかしながら,前車は被告人車と同程度の約90キロメートル毎時の速度で進行
していたのであるから,急制動をして被告人車に追突されたときにほとんど停止し
た状態になっていたとすると,路面には40メートル以上のスリップ痕が印象され
ていたはずである(摩擦係数0.65ないし0.75の場合)が,前車の左右前輪
のスリップ痕は被告人車に追突された地点から手前に約16.7ないし16.8メ
ートルしか印象されていなかったことや,被告人が前車に接近しているのに気付
き,被告人車を約22.3メートル進行させる間に時速を約90キロメートルから
約70キロメートル(衝突時の速度)にまで減速することは不可能であることから
すると,弁護人の主張するように,被告人車が前車に追突したときに前車がほとん
ど停止した状態になっ
ていたとは(前々車との追突を考慮にしたとしても)考えられない。また,被告人
が脇見を開始した際の被告人車と前車との車間距離が約100メートル近くであ
り,被告人が前車に接近しているのに気付いたときの車間距離が約22.3メート
ルであったとすると,前車がその間全く進行していなかったとしても,それだけで
3秒余りが経過していたことになること,被告人も,脇見を開始した時点で前車が
急制動したり停止したりしていたとは述べておらず,むしろ前車は被告人車と同程
度の速度で進行していたと述べているところ,前車が急制動したり停止したりして
いれば被告人も当然それと気付いていたはずであるし,前車のスリップ痕も前記の
ものとは異なっていたはずであるから,被告人が脇見を開始した時点では,前車は
被告人車と同程度の速
度で進行していたと考えるのが相当であること,被告人車と前車との車間距離が約
100メートル近くから約22.3メートルになるまでには,前車のその間の平均
速度を約70キロメートル毎時とすると約14秒を要し,約50キロメートル毎時
としても約7秒を要することなどを考え併せると,被告人が脇見を開始した際の被
告人車と前車との車間距離が約100メートル近くであり,前車に接近しているの
に気付いたときの車間距離が約22.3メートルであったとすると,被告人の脇見
の時間がせいぜい3秒程度であるということはあり得ず,被告人が脇見をしていた
時間は少なくみても約7秒,多くみれば約14秒にもなることが明らかである。
 結局,被告人の当公判廷における供述のいうような被告人車と前車との車間距離
や脇見の時間では,本件事故の状況を合理的に説明することができないから,その
信用性は乏しく,これを前提とする弁護人の前記主張も採用することができない。
 これに対し,被告人は,本件事故当日の実況見分において,脇見を開始した際の
被告人車と前車との車間距離は約22.3メートルであり,前車に接近しているの
に気付いたときの車間距離は約13.8メートルであって,その間に進行した距離
は約125.2メートルであった旨指示説明していたが,本件事故当日の実況見分
における指示説明は,被告人車,前車,前々車の各最終停止位置,被告人車や前車
のスリップ痕,前車や前々車のタイヤ痕等の客観的な事実を前提にして,そこから
前車と前々車,被告人車と前車及び被告人車と前々車の各追突地点,被告人が前車
に接近しているのに気付いたときに被告人車のいた地点とその際に前車のいた地
点,脇見を開始したときに被告人車のいた地点とその際に前車のいた地点等を順次
特定していってなされ
たものと考えられ,路上の痕跡等の客観的な事実とも符合している上,被告人が前
車に約13.8メートルにまで接近しているのに気付いてから,被告人車が約3
3.3メートル,前車が約19.5メートル進行したときに追突したことになっ
て,その間,被告人車が時速を約90キロメートルから約70キロメートル(衝突
時の速度)にまで減速していたことなどの,本件事故の状況を合理的に説明するも
のであり,また,被告人が脇見をしていた時間も時速約90キロメートル(秒速約
25メートル)で約125.2メートルを進行する間の約5秒となって不自然なも
のではないから,十分これを信用することができるというべきである。
 そうだとすると,被告人が,本件事故当日の実況見分において,脇見を開始した
際の被告人車と前車との車間距離や前車に接近しているのに気付いたときの車間距
離,その間に進行した距離についていうところは,事柄の性質上いくらかの誤差の
あることは否めないにしても,ほぼ間違いのないところと認めるのが相当である。
(法令の適用)
罰条        被害者ごとに平成13年法律第138号附則2条により同法
による改正前の刑法211条前段
科刑上一罪の処理  刑法54条1項前段,10条(1罪として犯情の最も重いEに
ついての業務上過失致死罪の刑で処断)
刑種の選択     禁錮刑
宣告刑       禁錮1年
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,高速自動車国道において,大型貨物自動車を運転中,脇見を
して前方進行車両の動静を十分注視せず,その安全確認不十分のまま,約90キロ
メートル毎時の速度で進行した過失により,自車を前車に衝突させて,その同乗者
のうち1名を死亡させ,うち3名に重傷を負わせたという,業務上過失致死傷の事
案である。
 被告人は,前方進行車両の動静注視とその安全確認という,高速自動車国道にお
いて大型貨物自動車を高速運転する職業運転者にとり最も基本的な注意義務に違反
したものであって,その運転態様の危険性は大きく,過失の程度は高いこと,被告
人は,前述のように,約90キロメートル毎時の高速度で進行していながら,脇見
を開始する際に約22.3メートルしか前車との車間距離をとっていなかったもの
であって,その程度の車間距離ではわずか数秒の脇見でも重大な事故を招きかねな
いのであるから,その運転方法も危険なものというほかないこと,被告人は,その
ため自車を前車に追突させて,その同乗者のうち1名を死亡させ,うち3名に重傷
を負わせたものであって,生じた結果は誠に重大であるが,死亡した被害者はいま
だ35歳の命を本件
事故により失うことになったものであって,妻や幼い子供あるいは両親を残して逝
かなければならなかった被害者自身の無念さはもとより,残された遺族らの悲嘆は
深く大きく,被告人の厳重処罰を望んでおり,また,負傷した被害者らはいずれも
長期間の入院や加療を余儀なくされ,特に被害者Fや同Hについては後遺症が残って
いて,今後の生活への悪影響が懸念されること,被告人が死亡した被害者の遺族や
負傷した被害者らへの謝罪や慰謝にこれまで誠意を十分に示してきたとはいい難い
ことなどを考え併せると,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。
 してみると,前車もまた前々車に追突しているのであって,その運転方法には問
題がなかったとはいえないこと,死亡した被害者は,前車の助手席にシートベルト
をしないで乗車していたものであるが,もしシートベルトをしていれば死亡という
最悪の結果を避けられた可能性も否定できないこと,被告人が本件事故が自己の過
失に基づくものであることを認めて反省していること,死亡した被害者の遺族や負
傷した被害者らとの間の示談はいずれも未成立であるが,被告人車には対人賠償無
制限の自動車保険契約が付されていて,これまで治療費や休業損害等の支払いはな
されており,最終的には相当額の損害賠償がなされるであろうこと,被告人は,運
転職として勤務し,本件事故まで約9年8か月間無事故で過ごしていて,この間悪
質な交通違反歴もな
かったものであるが,本件事故により運転免許取消の行政処分を受けていること,
被告人は,32歳とまだ年も若く,これまで前科がないし,また妻子を扶養すべき
立場にあることなどの,被告人のために酌むべき事情を考慮しても,本件は,被告
人に対し,その刑執行猶予の言渡しをなすべき情状の事案とは認められず,主文の
実刑はやむを得ないところである。
(検察官の科刑意見・禁錮2年)
よって,主文のとおり判決する。
  平成15年6月19日
 神戸地方裁判所第12刑事係甲
  裁判官   森   岡   安   廣

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